福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

月報記事

2024年12月 1日

手錠腰縄シンポジウムのご報告

手錠腰縄PT 鶴崎 陽三(69期)

1 はじめに

去る令和6年10月3日、愛知県(名古屋市)での第66回人権擁護大会の第2分科会として手錠腰縄問題に関するシンポジウムが開催されました。

聞きなれない会員もいるかもしれませんが、手錠腰縄問題は、身柄事件の被告人が公判廷で裁判官からの解錠の指示があるまで手錠腰縄を装着された姿を晒されることが被告人の尊厳を損なうものであり人権侵害にあたるとして、手錠腰縄姿を訴訟関係者や傍聴人に晒さないための措置を求めるものです。

以下、シンポジウムの内容をご紹介します。

2 報告等及び講演
(1) 報告等及び講演の内容

本シンポジウムでは、最初に手錠腰縄問題に関するドラマが上映され、愛知県弁護士会の櫻井博太弁護士からの基調報告、福岡県弁護士会の稲森幸一弁護士から国際人権法についてのガイダンス、法廷での手錠腰縄経験者であるミュージシャンのSUN-DYU氏による歌唱と同氏に対するインタビュー、海外の調査報告などがありました。

また、基調講演として、慶應義塾大学大学院法務研究科の山本一氏教授、近畿大学法学部法律学科の辻本典央教授、中央大学の北村泰三名誉教授からご講演いただきました。
最後に、北村教授及び辻本教授に元裁判官で現愛知県弁護士会の伊藤納弁護士、大阪弁護士会の川﨑真陽弁護士を加えた4名をパネリストとしてパネルディスカッションが行われました。

以下、紙面の関係上すべてをご紹介することはできませんので、櫻井弁護士の基調報告とSUN-DYU氏へのインタビュー及び各基調講演について、内容をご報告いたします。

(2) 櫻井博太弁護士の基調報告

櫻井弁護士からの報告によると、最高裁判所と矯正局の協議によって、平成5年に、「特に戒具を施された被告人の姿を傍聴人の目に触れさせることは避けるべきであるという事情が認められる場合には」(傍聴人を被告人より後に入廷させ、傍聴人を被告人より先に退廷させることにより)傍聴人のいない所で解錠・施錠することを原則とし、それができない特段の事情がある場合には、入廷直前又は退廷直後に法廷の出入口の所で解錠・施錠する取り扱いとすることが法務省から通知されたそうです(平成5年通知)。

その後、どのような経緯なのか平成5年通知に従った運用は全くなされなくなった中で、2014年、大阪地裁において被告人が手錠・腰縄姿での出廷を拒否し、それにならった弁護人に対して出頭在廷命令及び命令違反による過料決定、大阪弁護士会に対する処置請求がなされました。

これに対して、2015年、大阪弁護士会は「処置しない」決定をするという毅然とした対応をしましたが、この頃から大阪弁護士会で手錠腰縄問題が議論され始めたそうです。
その後、一時的に裁判官がなんらかの対応をしてくれる割合が増加したそうですが、最近は対応割合がかなり低下しているとのことです。

その他、手錠腰縄に関する海外の状況や、日本における裁判例として、手錠腰縄問題を人格的利益の観点から判示した裁判例や無罪推定の原則との関係について判示した裁判例などが紹介されました。

(3) SUN-DYU氏のインタビュー

SUN-DYU氏は、約300日間にも及ぶ勾留期間を経て、最終的には無罪となりました。
長期間にわたって勾留されること自体が極めて重大な人権侵害であり、日本における人質司法の問題点が垣間見えるところではありますが、それはさておき、本シンポでは、手錠腰縄について実際に手錠腰縄を経験したことがある人ならではのお話を伺うことができました。

たとえば、手錠腰縄をしていると、腰縄に引っ張られるような形になり、手錠で両手が体の前にあることも相俟って体勢が前屈みになるため、いかにも悪いことをした人間に見えるというようなお話がありました。
手錠腰縄がまさに人間の尊厳や無罪推定の原則を傷つけるものであることを痛感しました。

(4) 山本一氏教授の基調講演

山本教授からは、「人権の普遍性をどのように実現するか?-国際人権規範と国内における人権保障の実現-」と題したご講演をいただきました。
世界で人権保障がどのように発展してきたかや、日本における人権保障の課題、日本国憲法の問題点などをご説明いただき、今後の国際的な人権保障に向けた展望が示されました。

たとえば、日本国憲法から抜け落ちている視点として、先住民の権利、外国人の権利、戦後補償問題、住国籍問題をご指摘されました。
そして、国境を超える人権保障に向けて、憲法判断における国際人権の重要性を説明されたほか、従来の思考枠組を批判的に検討する必要があることなどが示され、国際人権規範の介入を警戒する従来の思考枠組として「国憲的思惟」(まず国があってこその憲法という見方)の問題性を指摘されました。

また、人権法源について、「拘束的権威」(法的拘束力を持つ規範)と「説得的権威」(参考にする規範ではあるが、従う義務はない規範)の2つに分類する従来の考え方(二分論)を修正し、両者の間に「影響的権威」(法的拘束力を持つ規範ではないがひとまずそれに従うべき義務が生じ、裁判官がそれに反する決定を行おうとする場合には、なぜそれに従わないかについて論証する責任を負う規範)を位置づける三分論を提唱されました。

(5) 辻本典央教授の基調講演

辻本教授からは、「人権問題としての法廷入退廷時における手錠腰縄措置」と題したご講演をいただきました。
手錠腰縄措置によって侵害される利益には(1)行動の自由・人身の自由の制約、(2)防御権の侵害、(3)人格権侵害があり(大阪地裁平成7年判決:人格権=「人間としての誇り、人間らしく生きる権利」)、手錠腰縄措置による権利侵害の違法性は、(1)(2)の直接的侵害については刑事施設収容法78条や刑訴法287条の解釈論によって判断されること、(3)の附随的侵害については本質的に避けるべき権利侵害であることを指摘されました。

また、比例性原則による規律が及び、当該措置をとることの適格性+必要性+相当性が問われることや、手錠腰縄措置の目的は逃亡防止にあり暴行防止は目的外であることなどが示されました。

裁判例としては大阪地裁令和元年5月27日判決を紹介されましたが、同判決の意義として、手錠腰縄姿を公衆の面前でみだりに晒されないことの正当利益は法廷内外で違いはないこと、法定警察権を根拠とする裁判所是正義務の存在、裁量性が否定され比例制原則が適用されることを示したことにあるとご説明されました。
また、刑訴法287条の身体不拘束原則を入退廷時に拡充する立法措置の必要性などを説かれました。

(6) 北村泰三名誉教授の基調講演

北村教授からは、「法廷内での拘束具使用の禁止に向けて 国際人権法からの問題提起」と題したご講演をいただきました。

「鎖、枷、その他の本質的に品位を傷つけ又は苦痛を伴う拘束具の使用禁止」や、「司法または他の行政当局の前に被拘禁者が出頭するときは(拘束具を)外される」ことなどを定めた国連被拘禁者処遇最低基準規則(マンデラ・ルール)についてご説明いただいたほか、「被告人は通常、審理の間に拘束具をつけられたり檻に入れられたりまたは他の方法により危険な犯罪者であることを示唆するようなかたちで出廷させてはならない。報道機関は、無罪の推定を損なう報道は避けるべきである。」とする自由権規約委員会一般的意見32をご紹介いただきました。

また、国外の状況として、ヨーロッパ人権裁判所の判例には日本の法廷内における手錠・腰縄問題に直結するものは見当たらないものの、比例性原則により過剰で必要性のない手錠の使用は人権条約違反とされることが示されていること、米国連邦最高裁判決(Deck v.Missouri事件)では、法廷内の拘束具の使用は公正な裁判の場である法廷の尊厳を侵すものであると指摘されていることなどが紹介されました。

3 おわりに

法廷の中で手錠腰縄姿を晒されることが人権侵害にあたる違憲違法なものであると考えたとき、刑事弁護に携わる弁護士の多くは、目の前で違憲違法な人権侵害行為が行われているにもかかわらず何もせずにそれをただ眺めていたことになります。まずは弁護士自身が手錠腰縄問題を認識することが必要です。

翌日4日の大会では、入退廷時に手錠腰縄を使用しないことを求める決議が成立しました。
会員専用ページに申入書の書式が用意されていますので、是非みなさんも決議に沿った働きかけを実践されてください。

2024年11月1日からフリーランス法が施行されました!

弁護士業務委員会 副委員長 福山 聖(64期)

1. フリーランス法の対応は万全ですか?

2024年11月1日から、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)(以下「フリーランス法」といいます)が施行されました。

弁護士業務委員会の経済法研究会では、施行前の同年10月22日に、フリーランス法の施行について、会員の皆様へ周知するとともに、業務に役立てていただくため、研修会をハイブリッド方式で実施いたしましたので、ご報告いたします。

当日は、「フリーランスにかかる取引の適正化について」の講演を、公正取引委員会事務総局九州事務所取引課長の幸屋健太郎氏に、「フリーランスの就業環境の整備について」の講演を、福岡労働局雇用環境・均等部指導課フリーランス就業環境整備指導員の前田佐也香氏にお話いただきました。

2. 対象となる事業者や取引とは?

フリーランス法は、フリーランスの相談者や発注事業者となる顧問先の取引だけでなく、私たち弁護士自身の取引にもかかわってくることがあります。たとえば、私たちが発注事業者として、フリーランスの通訳人に依頼するとき等です。

知識としてだけでなく、弁護士自身の取引がフリーランス法に対応できているのかを確認するためにも、まずは「対象となる事業者」や「対象となる取引がどのようなものか」等、フリーランス法をご確認いただければと思います。

3. 守るべき義務と禁止行為とは?

フリーランス法は、さまざまな業界で活動するフリーランスとの業務委託取引について、「取引適正」と「環境整備」という2つのパートに分けて、発注事業者が守るべき義務と禁止行為を定めているため、今回の研修は、それぞれ実務的な視点でお話しいただくべく、公正取引委員会と労働局から講師をお招きしました。

公正取引委員会からは、「取引適正」のパートにかかる「取引条件の明示義務」、「期日における報酬支払い義務」、「発注事業者の禁止行為(7つ)」のほか、下請法との比較について、福岡労働局からは、「環境整備」のパートにかかる「募集情報の的確表示義務」、「育児介護等と業務の両立に対する配慮義務」、「ハラスメント対策に係る体制整備義務」等の項目について、ご説明いただきました。

4. パンフレット等のご紹介

各項目(義務や禁止行為)のポイント等については、研修時に配布されたパンフレット「ここからはじめるフリーランス・事業者間取引適正化等法 令和6年11月1日施行(内閣官房・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省)」が参考になります。同パンフレットは、公正取引委員会のHP中(https://www.jftc.go.jp/fllaw_limited.html)に掲載されていますので、ご利用ください。また、同HP中には、同法の特設サイトが開設されているほか、YouTube動画等の掲載もありますので、ご参考になれば幸いです。

福岡県弁護士会 2024年11月1日からフリーランス法が施行されました!

研修資料:パンフレット表紙

5. さいごに

ご自身の取引が、フリーランス法の対象となる取引に該当していないか、対象となっている場合には義務を守り、禁止行為に該当するようなことになっていないか等、ご確認等をお願いします。

経済法研究会では、今後も、皆様の業務に役立つ研修等を企画してまいりますので、ふるってご参加ください。

福岡県弁護士会 2024年11月1日からフリーランス法が施行されました!

研修の様子:弁護士会館にて

「アンドレア・パラさん講演会・シンポジウム」のご報告

精神保健委員会 委員 植竹 克典(66期)

令和6年10月26日、コロンビア共和国からアンドレア・パラさんをお招きし、精神保健に関するシンポジウムを開催しましたので、ご報告いたします。

1 アンドレア・パラさんって?

アンドレア・パラさんのことを御存じない方は多くおられるかもしれません。
アンドレアさんは、障がい者の支援活動などを精力的に行い、中南米諸国で成し遂げられた成年後見制度や強制入院制度改革に深く関与されたコロンビア共和国の弁護士です。今回は、日弁連の強制入院制度の廃止に向けた取組みの一環として来日されました。

2 アンドレアさんの基調講演...中南米での後見制度の廃止

アンドレアさんは、自国であるコロンビアや、その他中南米各国における後見制度の廃止に向けた取組みとその成果を中心にご講演されました。その概要は次のとおりです。
コロンビアは、人口4000万人、60年にわたって続いていた武力紛争が2016年に終結しましたが、その武力紛争に起因し、障がいを負った人も多数生活しています。
従来の制度では、家庭裁判所の判断により後見人が選任され、多くのケースでは、親族が後見人を務めていました。そして、後見人には、本人に関する全面的な権限を付与され、その一方的な判断(代行的意思決定)により、本人に不妊手術を受けさせてしまう、本人の財産を遣い込んでしまう、施設入所を強制してしまうといった人権侵害が横行していました。

コロンビアでは、2011年に障害者権利条約を批准し、この条約批准をふまえ、条約の趣旨、とくに第12条(障害者の法的能力の享有など)を忠実に実現する方向での制度改正が進められました。その結果、2019年までに、後見制度は全面的に廃止され、それに代替する「支援による意思決定」の枠組みが整備されました。

支援による意思決定は、(1)本人と支援者との支援合意、(2)特定の法律行為について、本人の支援者を家庭裁判所が選任する手続、(3)本人による事前指示の3つの枠組みがあり、いずれについても、代行的な意思決定が排除され、本人を中心に据え、本人の意思決定を支援する制度とされています。
このような後見制度の廃止など障害者権利条約の趣旨を実現する活動は、アンドレアさんらを中心とする中南米各国をまたがる権利擁護に関するネットワークの尽力により、中南米の各国で進められているとのことでした。

3 パネルディスカッション...強制入院の廃止に向けて・・・

パネルディスカッションでは、アンドレアさんのほか、精神障害がある人の地域生活を多職種チームで支援をしているQ‒ACTの須田竜太さん、精神科病院の強制入院の廃止に向けた日弁連の取り組みの中心メンバーである東京の池原毅和弁護士をお招きし、当会の田瀬憲夫会員のコーディネートのもと、強制入院の廃止に向け、それぞれの立場から熱い意見が交わされました。

本項の執筆者の力量の問題と紙幅の都合により、その全容をご報告することはできませんので、とくに印象に残った部分をご報告いたします。
アンドレアさんからは、かつては「奴隷から逃れたいという考え」が精神疾患と考えられていたなど、診断する側の主観的な判断で精神疾患との診断がされてしまう、本人の感情的な苦痛については、施設への収容による一般的な対応ではなく、個々人の問題として、軽減策を考えることが必要であり、その検討にあたっては、創造力を発揮した医療以外の対策(芸術を楽しむ、カラオケを楽しむなど)が重要と考えているとの発言がありました。

須田さんからは、Q‒ACTの取り組み事例として、強制入院を繰り返してきた男性の支援事例がご報告されました。危機的状況になった場合の対応策を、事前に本人と話し合っておき、調子が悪いとどうなるのか、どうすれば落ち着けるのか(状態が「黄色信号」であれば、「壺に向けて大声を出す」、状態が「赤信号」になれば「入院する」など)、周りの人にしてほしい支援・してほしくない支援を事前に話し合い、支援者間で共有する、この対応策については、何度も見直しをし改善していきながら支援を行っているとのことでした。

また、池原弁護士からは、強制入院中は大便を壁に塗ってしまうことを繰り返していた方が、退院後は、その行動もなくなり、一人で遠方に旅行に出かけたりするなど、社会内で順調に生活を送れるようになった、問題行動は本人なりの抵抗だったのではないかと考えているとの体験談のご報告がありました。

4 雑感

登壇された皆様のご発言を通じ、本人の話をしっかり聞く、そして、支援を一般化するのではなく、個々の当事者本人に適した方法で、寄り添った支援を行うことが重要であると感じました。こうした方向の先に、精神障害者の脱施設化の更なる展開もあるものと思います。

私自身も、今回も学んだことを活かし、今後の成年後見人としての業務や、精神保健当番弁護士などの支援活動により注力していきたいと強く感じました。

九州レインボープライド2024

LGBT委員会 委員 石井 謙一(59期)

1 はじめに

2024年11月4日、博多区冷泉公園で開催された九州レインボープライドに弁護士会のブースを出展し、パレードにも参加しました。
当日の様子をレポートします。

2 九州レインボープライドとは

これまで何度か月報で九州レインボープライドのことを書いてきましたのでご存じの方もおられるかもしれませんが、九州レインボープライドとは、性の多様性について社会にアピールするイベントです。

川端商店街近くの冷泉公園が会場となり、沢山のブースとステージが設置されます。
ステージでは性の多様性をテーマとするトークショーや歌や踊りなどのショーが行われます。

企業、自治体、当事者団体、支援者団体がブースを出し、それぞれ性の多様性に関する情報やアクティビティの提供、物販などを行っています。
ヒューマンライブラリーといって、当事者の来歴を聞いたり対話したりできるブースもあります。

飲食店ブースも多く並び、キッズスペースもあるため、子ども連れの方もとても多いです。
参加者は、ステージの音楽を楽しんだり、ブースでアクティビティに参加したり、旧交を温めたり、芝生やベンチで食事をしたり、思い思いに過ごすことができます。
イベントの期間中、冷泉公園は誰もが安心して自分らしく過ごせる空間になります。多くの方がこのイベントを心待ちにしています。

冷泉公園が狭く思えるほど、たくさんの来場者でにぎわいます。来場者は毎年増え続けており、今年は1万6000人の来場があったとのことです。

3 弁護士会がブース?

そのような中、当会は無料法律相談を行うブースを出しました。
基本的には楽しいお祭りなので、正直、場違いであることは否めません。
ということで、雰囲気を壊してしまわないようあまり積極的に声掛けはしないのですが、安孫子健輔委員デザインのレインボーの垂れ幕や立て看板がアイキャッチになり、今年は12組のご相談がありました。

前から気になっていたことを相談できてよかった!と言っていただくこともあり、場違いかもしれないけどブースを出してよかったなといつも思います。
また、ブースを出していると、弁護士会に興味を持っている方や、弁護士と何かつながりを持ちたいと思っている方が訪ねてきてくれることがあります。他団体の接点としてもとても重要です。実際、立ち話をする中から新たな連携が生まれたことも沢山あります。

福岡県弁護士会 九州レインボープライド2024
4 活動歴が一目で分かる!

ブースに来た方から、弁護士会ってどういう取り組みをしてるんですか?と聞かれることも結構あります。

そこで、今年はこれまでの当会の活動をまとめたページを県弁のホームページに新たに作成し、そのページ(トップページの「LGBT」タブ→「福岡県弁護士会のLGBTQ+に関連する活動歴はこちら」ボタンで見ることができます。ぜひ、ご一読ください。)のQRコードも展示しました。

立て看板に貼り付けておくと、通りすがりにスマホをかざしてくれる方もいます。
弁護士会もアライであるということをアピールするためにも、今後もブースは出し続けたいと思います。

5 いざパレードへ

イベントのメインは、なんといってもパレードです。冷泉公園から天神に向かい、また冷泉公園に戻ってくるルートを歩きます。

今年のパレードには1200名が参加しました。
DJが音楽を流すトラックが先導し、レインボーの旗を振ったり、パネルを掲げたりしながら歩きます。

飽くまで、楽しみながら。
存在をアピールすることが目的です。
天神は連休だけあって観光客も含む多くの人でにぎわっています。その中を1200名でパレードするのですから、多くの人の目に留まります。社会に対するアピールとしてこれほど力強いものはないと思います。

通行人の中には、手を振り返してくれる人も沢山いました。とおりかかった車から窓を開けて手を振ってくれる方もいました。

福岡県弁護士会 九州レインボープライド2024
6 執行部と歩くレインボーパレード

今年のパレードにはなんと、特別ゲストとして德永会長、德永会長の奥様、中原副会長、山田副会長も参加してくださいました。

会長自らパレードに参加していただくのは初めてのことです。
みんなが色とりどりの衣装で歩くパレードの中、德永会長と中原副会長の濃紺のスーツ(withネクタイ+弁護士バッジ)の目立つこと!

あふれる弁護士オーラに、警備に立っている警察官もびっくりして「弁護士も参加してるんやね」とささやき合っていました。
弁護士会としては過去最高の存在感を放つことができました。執行部の皆様、お忙しい中本当にありがとうございました。

7 皆様もぜひ

先日、全会員にLGBTQ+ガイドラインを配布しました。
ご一読いただけましたでしょうか。

皆様の中には、「そうは言っても当事者と実際に会ったこともないし、自分が相談や事件を受けることはないのではないか」と思う方もおられるかもしれません。
そういう方は、ぜひ毎年11月に開催される九州レインボープライドにお立ち寄りください。

性のあり方が多様であり、ありふれた個性の一つにすぎないことを実感していただけると思います。

福岡県弁護士会 九州レインボープライド2024

来たれ!リーガル女子(10/20)

両性の平等に関する委員会 委員 西田 舞季(76期)

秋風心地よい10月20日(日)に、当会主催、男女共同参画推進本部担当で、「来たれ!リーガル女子」(以下「リーガル女子」とします。)が開催されました。

リーガル女子とは、職業としての法律家の魅力を、主に中高生及びその保護者・教員に伝え、法律家志望者拡大につなげるイベントです(「女子」となっていますが、性別に関わらずどなたでも大歓迎です。)。拙筆ながら、今回の活動の様子及び感想を報告いたします。

1、リーガル女子開催に向けての準備
(1) 分担と協力

リーガル女子は3部構成になっています。講師、全体司会、各部責任者、会場設営、グッズの準備、茶話会の用意、司会、資料準備、広報等、ここでは書ききれないくらいその準備は多岐にわたりました。毎月1~2回の会議で、役割を分担し、進捗状況の確認をしました。役割については、先生方が立候補したり、適任者を分担して探したり、とてもスムーズに決まりました。一人一人が責任をもって行動する姿を学ばせてもらいました。

リーガル女子は福岡を会場とするイベントですが、鹿児島大学にもご協力いただき、福岡以外の学生にも参加してもらえるようにご協力いただきました。配信の準備や広報等についても快く協力してくださり、一丸となって学生にとって有意義な時間になるように準備することができました。

(2) 反省と感謝

私は、第1部の対談におけるインタビュアーの役と、第3部のグループセッションにおける講師の役を任せていただきました。

第1部は、元裁判官のご経歴を持つ野島香苗先生(37期)、ずっと弁護士としてご活躍なさっている原志津子先生(51期)、元検察官のご経歴を持つ川本日子先生(53期)に、それぞれの法律家の仕事内容や魅力を話していただく対談になります。

対談のテーマ、時間配分、構成、台本について決めるために、本番までに3回事前打ち合わせをしました。事前打ち合わせにおける私の反省点は、挙げるときりがありません(司会進行役としての役割、能力のすべてが足りませんでした!)。

講師をつとめてくださった野島先生、原先生、川本先生、第1部責任者の山崎あづさ先生(54期)に、「こんなのはどう?」や「こうしたらいいよ!」と温かくフォローやアドバイスをいただき、励ましの言葉も何度もかけていただき、何とか構成や台本を決めることができました。先生方に育てていただいたと感じています。この場をお借りしてお礼を申し上げたいです。本当にありがとうございました!

2、いよいよ当日!
(1) 準備と開会

会場設営やマイク・カメラ等の最終調整をして、美味しいお弁当を食べて開会の瞬間を待ちました。

受付開始後にぞくぞくと学生が会場に入ってきました。学生は保護者と一緒にお越しになったり、おひとりでお越しになったりしていましたが、皆さんどこか緊張している面持ちでした。少しでもリラックスしてもらえるように、事前に会場後方に写真撮影コーナーを設置していました。法務省のホウリス、日弁連のジャフバといったマスコットキャラクターと一緒に、愛知県弁護士会が貸してくださった戦前の弁護士の法服のレプリカ(朝ドラ「虎に翼」で主人公が着用していたデザインです)を着用して写真を撮ったりしてリラックスしてくれたと思います。

開会するとまた緊張した雰囲気になりましたが、德永響会長の親しみのお気持ちのこもったあいさつで空気が和み、いよいよプログラムが始まりました。

(2) 第1部

講師の先生方に裁判官、検察官、弁護士の仕事内容、キャリアアップ、ワークライフバランスを話していただきました。どのお話も、進行の役割そっちのけで「もっと詳しく教えてください!!」という言葉を何度も我慢する程楽しかったです。女性法律家が今より少ない中でご自身の信念と誇りをもって活躍してきたこと、現在はどの法律家も性別問わず充実したキャリアアップやワークライフバランスを形成できることが、学生にも伝わったと思います。私たち若手弁護士が今の法律家の仕事を楽しく行えているのは、先輩たちのおかげなのだろうと感じました。

(3) 第2部

法律家を目指すための進路説明のために、九州大学、西南学院大学、福岡大学の教員の方々も来てくださいました。大学における法律家を目指すためのコースの選択、法科大学院への進学(もしくは予備試験合格)、その後の司法試験受験といった制度やスケジュールを説明し、その中での支援体制をわかりやすく説明していただきました。

社会にインターネットが普及してから、あらゆる情報は昔より得やすくなってきています。しかし、情報が身近にあることが進路の選択肢を必ず増やすわけではありません。その中で、実際に教育に携わる大学の方々が具体的に制度や方法を説明することは、その進路を選択肢に入れ、自分が将来つくる人生の一歩を踏み出す良い機会になると感じました。

(4) 第3部

第3部は、4つのグループに分かれて、女性の裁判官や検察官、弁護士が学生の質問に対して答えるというグループセッションを行いました。裁判官や検察官の方々も講師として参加してくださり、それぞれの進路に興味のある学生の質問や悩みに答えてくださいました。学生は、進路として既に法律家に興味がある方、法学部に進むかについて悩んでいる方、法律家になった後にやっていけるか不安がある方等様々でした。講師の弁護士や裁判官、検察官の方々がとてもわかりやすく答えてくださいました。1時間という時間はあっという間に過ぎましたが、司会役の先生の華麗な進行によって、学生の質問全てに答えることができました。無限の将来の選択肢や可能性を持つ学生が、「法律家っていいな、法律家を目指したいな」と思ってくれたらいいなと思いました。

第3部で学生がグループセッションに参加している間、保護者の方々を対象とした質問コーナーを設け、保護者の方々が感じている不安や疑問に対して、第2部参加者の各大学の教員の方々や弁護士の先生方が答えてくださいました。学生の進路は、学生を大切に思う保護者の方々にとっても重要なものです。学生を応援する側の保護者の方々へのフォローもするのはとても良いことだと思いました。

(5) 閉会

閉会の挨拶をしてくださった深堀寿美先生(45期)のお話の中で、「学生が「やってみたい!」と言ったら、保護者の方々はぜひ「やってみて!」と背中を押してほしい」というお言葉がありました。深堀先生の言葉は、その進路を目指したい学生にも、心配に思う保護者にとっても、心強い支えになったと思います。

終了後お見送りしている中、保護者の方から「とっても感動しました!」と言っていただきました。がんばってよかったと心の底から思った瞬間でした。

(6) 茶話会(振り返りの会)

今回は、全体で42名の学生が参加してくれました。イベント終了後は、参加者と振り返りの会を実施し、感想を言い合いました。皆様「やりきった!」という笑顔で輝いていました。とても実りある時間を過ごせたと思います。全てが終わった後のお茶は最高に美味しかったです。

3、達成感と今後の抱負

参加してくださった方々一人一人が、それぞれの役割を果たし、助け合ってイベントを成功させることができました。私自身も講師の先生方のご経験や思いを聞き弁護士として人として大変勉強になりましたし、イベントの準備を通して組織として行動すること役割の果たし方を学ばせていただきました。とても貴重な経験になりました。

弁護士になって先輩方に助けられたりお世話になる機会がたくさんありましたが、皆「先輩から受けた恩や親切は後輩に引き継いでいくんだよ、バトンだよ」と言ってくださいます。このリーガル女子を通して、私が学ばせてもらったことを、今後法律家となる学生にもそれ以外の道に進む学生にも伝えられていたらいいなと思いました。また、今後もそうあろうと思いました。
お読みくださりありがとうございました。

福岡県弁護士会 来たれ!リーガル女子(10/20)

2024年11月 1日

あさかぜ基金だより

弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 社員弁護士 藤田 大輝(74期)

赴任先が決まりました!

月報3月号(NO.626)で事務所の移転を報告してから、久しぶりです。今回は、いよいよ迫った私の赴任が決まったことを報告します。

「あさかぜ」ってなんだっけ?

その前に、改めて「あさかぜ」を紹介します。弁護士法人あさかぜ基金法律事務所は、司法過疎地域(人口あたりの弁護士の数が少ない地域)に赴任する弁護士を養成するため、九州弁護士会連合会が創設した"あさかぜ基金"から拠出された資金で設立されました。所員弁護士は、2年から3年程度の養成期間を経て、原則として九州の司法過疎地域に赴任します。あさかぜ事務所からは、既に30人近い弁護士が巣立って行き、九州を中心として日本各地で活躍しています。

私は、令和4年4月にあさかぜに入所し、このたび、長崎県対馬市にある対馬ひまわり基金法律事務所の後任所長に採用されました。令和7年3月頃を目安に、引継ぎのため対馬に移住する予定です。ようやく弁護士登録から3年弱、あさかぜを離れることになりました。

さらば福岡、よろしく対馬

あさかぜでは、司法過疎地で十分なリーガルサービスを提供できるよう、多種多様な事件対応を担当しました。司法過疎地で役立つ経験ばかりでしたが、とりわけ、山林の境界確認のため何時間も山中を歩き回ったことや、福祉職の方々から障がい者支援の悩み事をお聞きして回ったこと、薬害訴訟の弁護団に加入して全国的な活動に参加したことなどは、得難い経験でした。

また、あさかぜ事務所外の弁護士と事件を共同受任することも多く、累計で20を超える法律事務所の30人もの先輩弁護士(弁護団事件を除く)から指導を受けることができました。法律事務所によって、また弁護士によって取扱事件や、事件の進め方に違いがあり、特徴がありました。一方で、依頼者と向き合う真摯な姿勢や、依頼者の利益を最大化するという考え方は、どの弁護士も共通していました。これから先、私自身がどのような弁護士となって司法過疎地の1人ひとりを支援できるのか、その指標を得ることができました。この場を借りて、お礼を申し上げるのをお許しください。直接ご指導いただいていない弁護士の方々も、司法過疎問題をご理解いただいていると感じています。誠にありがとうございます。

対馬でも力いっぱい業務にはげみます

私が対馬でできることとは?

国境の離島である対馬は、南北に長く広い面積を有し、端から端まで車で2時間以上かかる大きな島です。また、山林が島全体の89%を占めています。年齢別人口が分かる最新調査(令和2年度国勢調査)によると、65歳以上の人口が全体人口の38%以上を占めます。障害者手帳保持者数は、令和6年3月末時点で合計2736人であり、同時点の総人口2万7416人の1割に迫ります。この情報を聞くだけでも、弁護士が積極的に事務所から出て、アウトリーチ活動をする必要性を感じています。過疎地で活躍したある弁護士は、特定地域の全戸訪問法律相談を実施したそうです。

また、対馬市は、雄大な自然や歴史的建築物を有する観光地です。そのため、多くの観光客が訪れます。対馬市が公表している統計データによると、「宿泊業・飲食サービス業」だけで243の事業所があります。地域の主要産業に対して、私がお手伝いできることはないでしょうか。

視点を変えてみると、対馬市には、15の公立小学校、11の公立中学校、3の公立高校があるようです。近くに弁護士がいない田舎で生まれ育った私としては、「弁護士は身近にいるんだよ」「いつでも相談していいんだよ」と子どもたちに伝えることは、とても大事なことだと考えています。個人的な希望としては、田舎生まれから弁護士になる道があることを伝えて、弁護士になって田舎に貢献したいと考える若者が1人でも増えて欲しいと思います。

こうして自分にできることを考え、準備を進めることは、とても楽しいものです。そして、実際に赴任して活動に取り組むことは、やりがいのある仕事だろうと思います。

福岡県弁護士会 あさかぜ基金だより

対馬の雄大な自然

福岡県弁護士会 あさかぜ基金だより

対馬藩主宗家菩提寺 万松院

単身赴任?私にはムリです

毎度ご紹介している私の娘は、あっという間に1歳半を過ぎました。最近は、福岡市が実施している「こども誰でも通園制度」を利用して、週に1回保育園に通っています。朝の登園は私が送ることにしたのですが、これが楽しみでなりません。保育園でサヨナラをするときの泣き顔に、なんとも胸を締め付けられます。そんな最愛の娘(もちろん妻もです)を置いて、1人で対馬に行くことは考えられません。

対馬には、子どもの成長によい自然が多いこと、本年33に大規模な無印良品店がオープンしたこと、光回線まで開通したこと、さらには韓国、釜山に気軽に遊びに行けることなど、各種証拠をそろえて妻に同行をお願いしているところです。皆様、応援よろしくお願いします。

福岡県弁護士会 あさかぜ基金だより

歩くようになった娘の後ろ姿

あなたもひまわり基金弁護士に!

ひまわり基金法律事務所の所長弁護士になるためには、実務経験を積んだ後、日弁連に応募申込書等を提出し、希望事務所の支援委員会による面接を受けます。実は、あさかぜのような養成事務所以外からも、一定の要件を満たせば、ひまわり基金弁護士に応募することができます。また、各地のひまわり事務所を見学するための旅費補助制度もあります。

ぜひ一度、ひまわり基金法律事務所について調べてみてください。ともに司法過疎地で闘う同士が1人でも増えることを願っています。

かく言う私も、司法過疎地で、しかも1人で弁護士をやっていくとなると、まだまだ不安です。それでも、指導してくれた弁護士の方々、私を待っている対馬の方々のことを思うと、勇気が湧いてきます。赴任までの一日一日を大切に、一層研鑽に励みます。これからも引き続き、より一層のご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。

福岡県弁護士会 あさかぜ基金だより

(引用元:日弁連WEBサイト https://www.nichibenren.or.jp/activity/resolution/kaso_taisaku/himawarikikin_bosyu.html

「市民とともに考える憲法講座第13弾 検証 政治とカネ 上脇博之教授講演会」感想

司法修習生 亀家 貴志(77期)

裏金問題の本質とは?

2024年9月9日に、神戸学院大学の上脇博之教授をお招きして、政治とカネに関するオンライン講演会が開催されました。講演会は、福岡県弁護士会館2階大ホールと北九州弁護士会館5階大ホールの2会場のほか、Zoomウェビナーによるオンラインでも同時配信され、合わせて130人以上が上脇教授の講演会を最後まで熱心に聞き入りました。

上脇教授は、いわゆる自民党の裏金問題について刑事告発を積極的に行い、東京地検特捜部による捜査、そして自民党派閥の解散のきっかけを作った、いま大いに注目されている憲法学者です。テレビなどのメディアにも度々出演しており、バンダナをつけた上脇教授の姿は、ほとんどの人が見たことがあるのではないでしょうか。

上脇教授には、裏金問題発覚から改正政治資金規正法の問題点まで、質疑応答を含めて2時間あまり、詳細なレジュメとともに講演していただきました。

裏金事件の発覚と刑事告発

裏金事件は、しんぶん赤旗によるパーティー券2500万円分の不記載スクープ報道が発覚の端緒でした。上脇教授は、この報道記事へのコメントを求められたことをきっかけに裏金問題を調べはじめ、2022年11月9日に清和政策研究会(細田・安倍派)を裏金問題ではじめて告発しました。

その後、2023年12月に入ると、パーティー券の販売ノルマ超過分のキックバックや派閥による中抜きが次々と発覚していきました。

派閥による収支報告書の訂正がなされると、上脇教授はさらに深く追及し、裏金プール事件(パーティー総売上額等の過少記載)、キックバック・中抜き事件(授受した金銭の不記載)の告発も開始しました。このうち清和政策研究会の議員らに対する告発は、2024年3月11日から8月20日にかけて30回も行っており、なんと5~6日に1回の頻度で告発状を送付していたのです。

これらの結果、周知のように、多くの議員が不起訴処分となったものの、一部の議員や秘書が起訴され、失職することとなりました。

パーティー券以外にもあった「裏金」

パーティー券以外で上脇教授が問題として取りあげた「裏金」としては、オンラインによる勉強会・セミナーによる収益がありました。2021年~22年にかけて、敬人会という団体はオンライン勉強会等を開催し、1回につき約1000万円以上の収益を上げていながら、形式的に「政治資金パーティー」にあたらないとの理由で政治資金パーティーに関する諸規制を免れていると指摘されました。

また、法律の不備による「裏金」としては、政党による候補者への寄付や内閣官房報償費(機密費)があるとのことでした。前者については、自民党本部による政策活動費支出が10年にわたって紹介されており、数十人の議員に1年あたり計10億円ほども寄付されているという事実を知らされ、愕然としました。

改正政治資金規正法の問題点

自民党の裏金問題の発覚を受けて、自民・公明党による「政治改革」が実施され、本年6月に改正政治資金規正法が成立しました。

しかし、上脇教授によれば、この改正法は裏金づくりができないようにする政治改革とはおよそ言えないとのことでした。今回の裏金問題を引き起こした政治資金パーティーやパーティー券購入の禁止も定められず(政治資金パーティー券の購入者公開基準が20万円超から5万円超に引き下げられたという程度にとどまった。)、政策活動費の支出も許容される(領収書が10年後に公開されるというのでは犯罪の時効との関係でまったく意味がない。)という状況だからです。

上脇教授による「抵抗運動」の原点

憲法学者である上脇教授がなぜここまで積極的に裏金問題を追及するのかについては、講演会のはじめに触れられました。それは、日本国憲法は議会制民主主義を定めているが、その議会制民主主義が法律において具体化されていないという問題意識に基づくものです。つまり、議会制民主主義は民意が国会に反映されるべきであるところ、1人しか当選しない衆議院小選挙区選挙・参議院選挙区制度、政党助成金や裏金といった制度・事実により民意が歪曲されている。このような現実を前に上脇教授は研究室に閉じこもって見て見ぬふりをすることはできず、ほかに市民運動としてできることがないかと考えた末に刑事告発という行動、「抵抗運動」をするに至ったとのことです。

裏金問題の追及にかける情熱

上脇教授には、不記載の額など、次々に具体的な数字を示しながら裏金問題の実態と本質を明らかにしていただき、裏金づくりの一端をまざまざと見せつけられました。それとともに、実態解明に向けて上脇教授が精力的に情報収集したり告発状を作成したりしていることが伝わり、その情熱に驚かされました。上脇教授が年末年始を返上してまで告発状の作成をしたというエピソードもあり、これには講演会参加者全員が目を見張りました。このようないわば超人的な取り組みがなければ、裏金問題により派閥解散や議員らの起訴に至るということはなかったのではないかと思います。

自浄作用の限界――私たちは何をすべきか?

上脇教授の熱意に感心する一方、権力者がその立場を維持しながら自浄作用をはたらかせるということは、「全国民を代表する」国会議員ですら(だからこそ?)難しいことだと痛感しました。改正された政治資金規正法は、十分な「政治改革」には至っておらず、そもそも、今回の裏金づくりが違法なことであると自民党内で誰かが声を上げていれば裏金事件として問題となることはなかったはずだからです。

そうすると、自浄作用に期待するだけではなく、国会議員の活動に対する市民の監視の目は常に光らせている必要があり、上脇教授の告発とともに、私たちの市民活動は強力な抑止力になっていると改めて思わされました。

福岡県弁護士会 「市民とともに考える憲法講座第13弾 検証 政治とカネ 上脇博之教授講演会」感想

高度専門分野研修『民事信託の法務』のご報告

研修委員会 副委員長 桑田 剛旗(68期)

1 はじめに

令和6年9月27日、福岡県弁護士会館にて、高度専門分野研修『民事信託の法務』が開催されましたので、その内容をご報告致します。

当会では、年1回以上の頻度で「高度専門分野研修」と題し、各種分野の最先端で活躍されている方による研修を企画しています。

今年度は、伊庭潔弁護士(東京弁護士会)をお招きし、民事信託の実務に関するご講義を頂きました。

伊庭先生は、中央大学研究開発機構教授であり、日弁連信託センター、日弁連高齢者・障害者権利支援センター、ひまわり信託研究会などに所属され、民事信託に関する数多くの事件に取り組まれてきました。

『信託法からみた民事信託の手引き』『信託法からみた民事信託の実務と信託契約書例』など、著書も多数執筆されており、ご講演も数多く実施されておられます。

2 研修内容について

研修内容について、全体のごく一部に留まりますが、概要をご紹介致します。

(1) 民事信託業務の外観
  • 金融機関の顧客側における弁護士業務は、信託契約書の作成、金融機関・公証人・司法書士・税理士とのコーディネーター業務、信託関係人(信託監督人、受益者代理人)への就任、信託紛争の解決といったものがある。
  • 金融機関側の弁護士業務としては、金融機関の内部体制の整備、信託契約書のチェック、民事信託関連業務に対するアドバイス(例:信託口座差押えへの対応)といったものがある。
福岡県弁護士会 高度専門分野研修『民事信託の法務』のご報告
(2) 信託契約書の作成業務

受講者が、実際に信託契約書を作成する際にベースとしつつ、具体的需要に合わせて削除・修正などを行えるよう、信託条項例がデータで配布された。

その上で、各条項について信託法上の根拠、条項作成のポイント、応用条項の具体例などについて、豊富なレジュメと講師の経験に基づく解説がなされた。民事信託業務への第一歩を後押しする内容であり、受講者の関心も特に強い様子であった。

(3) 民事信託に関する事件処理の際の留意点
  • 令和4年12月21日から公開されている「民事信託業務に関するガイドライン」について、金融機関側は、弁護士が同ガイドラインに従って業務を行うと考えているため注意すべきである。
  • 相談を受ける際には、相談者からのヒアリングは勿論、依頼者は委託者であることを念頭において意思確認を行うべきこと、民事信託以外の選択肢の検討も行うべきである。関係者への説明にはリーフレットなども活用すべきである。
  • 民事信託については、解釈が示されていない法律問題や難解な信託税制の問題があるため、共同受任をすることが望ましい。
福岡県弁護士会 高度専門分野研修『民事信託の法務』のご報告
3 終わりに

今回の研修は、豊富なレジュメと受講者が具体的に使用する際の利便性まで考えられた配布資料、そして講師のご経験に基づく解説により、我々弁護士が民事信託への第一歩を踏み出す勇気を頂けるものとなりました。

研修後のアンケートにおいても、大変な好評を頂いております。誠にありがとうございました。

2024年10月 1日

取調べ立会い実践研修と援助制度のご紹介 ~時代は今、取調べ立会いを必要としている~

福岡県弁護士会取調べ立会い実現PT 古賀 祥多(69期)

今般、取調べ立会い(=弁護人が取調べ等に現実に立ち会うこと(取調室内に滞在すること)を意味します。)の弁護活動が話題となっており、日弁連でも、取調べ立会い実践の必要性を強く叫ばれ、社会的にも注目が集まっています。

全国的にみると、取調べ立会い申入れがなされているものの、取調室内での立会いそれ自体は件数は限られていますが、弁護人の立会い申入れが拒否された場合で、取調べ等の開始時から終了時まで取調室外に滞在して、被疑者又は被告人に助言できるように待機する活動、いわゆる「準立会い」については、全国的に数多く実践されており、効果を上げています。

今般、福岡県弁護士会では、被疑者又は被告人の取調べに立ち会うことのできる法制度及び実務の確立の実現に向けた活動を援助するため、これらの活動を行った会員に対して、援助金を支給する規則を制定し、令和6年4月1日より施行することとなりました。

同制度につきましては、先般、制度開始後第1号のご報告をいただきました。同事件は、被疑者国選事件で、捜査機関に対して取調べの立会いを書面で求めた(結果は立会いを認めず)というものでしたが、とても貴重な一歩だと感じております。

こうした当会における取調べ立会い実践活動の高まりを受け、令和6年11月21日午後6時より、福岡県弁護士会館において、取調べ立会い実践弁護に関する研修を実施することとなりました。同研修では、佐賀県弁護士会に所属し、日弁連の取調べ立会い実現委員会にも所属されている半田望先生を講師としてお招きし、半田先生が視察されたイギリス・韓国の実情等についてご報告いただくとともに、当会の池田翔一会員による取調べ立会いに関する弁護実践活動について、半田先生をアドバイザーとしてご報告いただく予定で企画しております。同研修は、非常に魅力的な研修となると思いますので、皆様、ふるってご参加いただきますようお願い申し上げます。

本稿では、上記研修企画に先立って、取調べの立会いに関連する昨今の時事についてお話しし、改めて取調べ立会い実践の必要性等についてご紹介いたします。その上で、末尾において、改めて援助制度の紹介をしたいと思います。

第1 最近の時事
1 袴田巖さんの無罪判決と同事件が明らかにした刑事司法の問題

去る令和6年9月26日、いわゆる袴田事件の再審開始後の第1審判決があり、袴田巖さんに対して無罪判決が言い渡されました。当会も、同無罪判決に際し、「「袴田事件」再審無罪判決を一日も早く確定させることを求めるとともに、改めて速やかな再審法改正を求める会長声明」を発出しました。

上記事件は、当初、事件発生後1年2ヶ月後に味噌樽の中から発見された大量の血痕の付いた衣類5点を決定的な証拠とするなどして死刑判決を下しましたが、この度の無罪判決では、これら衣類5点が捜査機関によって血痕を付けるなどの加工がされねつ造されたものと認定したほか、袴田さんの自白についても、黙秘権を実質的に侵害し、虚偽の自白を誘発するおそれの極めて高い状況下で、捜査機関の連携により、肉体的・精神的苦痛を与えて供述を強要する非人道的な取調べによって獲得され、実質的にねつ造されたものと認められ、刑訴法319条1項の「任意にされたものでない疑のある自白」に当たる、等と判示しました。

この度の無罪判決は、袴田さんの無罪を宣言し、58年の長きに亘る戦いに終止符を打つものとして積極的に評価されるべきものであり、何よりも、袴田巖さんがこうして雪冤を果たされたことについて、御祝い申し上げるべきであると思います。ただ、袴田さんが半世紀以上にわたり冤罪に苦しめられ、死刑執行の恐怖にさらされ、もはや回復しがたい損害を被るに至ったことは事実であり、このような事態は悲劇としかいいようがなく、到底社会的に許されるものではありません。

そのため、袴田事件によって明らかとなった問題は、社会全体で問題意識を持ち、早急に解決しなければなりません。

袴田事件によって明らかとなった問題は、再審法の問題(再審法改正の必要性)をはじめとして、死刑制度の問題など、多岐にわたると思われます。本稿ではそのすべてを語ることはできませんが、先に述べたように、捜査機関による取調べの問題も、その一つとしてあげることができると考えられます。

袴田さんが逮捕された当時、刑事弁護の制度は十分ではなかったと思われますが、そうしたなかで、袴田さんに対し、捜査機関による長時間に亘る取調べがなされ、ときには捜査機関が暴力を振るい、精神的・肉体的拷問を繰り返し、袴田さんに自白を迫りました。こうして、先に述べた味噌樽から出たとされる衣類等もあって、袴田さんは無実でありながら、死刑判決を受けることとなったのです。

こうした当時の取調べの在り方は、厳しく糾弾される必要がありますし、取調べの在り方を改めていかなければなりません。

2 今、被疑者取調べの問題は解消されたのか?―プレサンス社・元社長事件に関する付審判請求高裁決定―

ただ、袴田事件は半世紀以上前の事件であり、その後、当番弁護士制度ができ、被疑者国選弁護制度が拡充し、取調べの録音・録画制度も一部ながら導入されました。そうした現在の刑事弁護の拡充を踏まえれば、袴田事件のような過酷な取調べはないのではないか、とおっしゃる人もいるかもしれません。

しかしながら、現在もなお、取調べを取り巻く現状は、旧態依然としているといわざるを得ません。

たとえば、令和6年8月13日、プレサンスコーポレーション元社長に対する無罪事件(以下、「プレサンス事件」)に関し、元社長の部下に対して取調べを行った大阪地検特捜部の田渕大輔検事(当時)に対して「特別公務員暴行陵虐罪」につき、大阪高裁が付審判請求を認める決定が出されました(1)。同事件では、田渕検事が、机を強く叩いて大きな音を立てた上、「ふざけるな」「なんでこんな見え透いた嘘をつくんだ」「検察なめんなよ」などと大声で罵倒し、さらに「あなたはプレサンスの評判を貶めた大罪人ですよ」「あなたはその損害を賠償できますか。10億、20億じゃ済まないですよね」などと告げるなどの言動に及んだことにつき、取調べにおいて必要性、相当性を見出すことのできない威圧的、侮辱的、脅迫的な言動であると認定し、田渕検事の当該行為を「陵虐もしくは加虐の行為」の嫌疑があるとして、原決定の判断を改め、公訴提起を決定しました。

この決定では、異例の「補論」が出されました。その補論では、かつて、大阪地検特捜部における、いわゆる厚労省元局長無罪事件、同事件の主任検察官による証拠隠滅事件、さらには、その上司であった元大阪地検特捜部長及び元同部副部長による犯人隠避事件という一連の事態を受けて設けられた「検察の在り方検討会議」によって「検察の再生に向けて」と題する提言がなされたことを受けて取調べの録音・録画が導入され、検察官独自捜査事件について取調べの全課程が録音・録画の対象となったこと(刑訴法301条の2第1項3号、4項)等の経緯を指摘しつつ、そうしたなかで、「今回の事案が、上記のような経緯を経て導入された録音録画下で起きたものであることを考えると、本件は個人の資質や能力にのみ起因するものと捉えるべきではない。あらためて今、検察における捜査・取調べの運用の在り方について、組織として真剣に検討されるべきである。」と述べ、検察に対して、組織的な検討を行うよう、課題を突きつけました。

違法な取調べは、プレサンス事件だけではありません。すでに発刊された月報記事(2)でも紹介がありましたが、三重県鳥羽警察署で行われた窃盗事件の取調べにおいて、警察官は否認する女性被疑者を犯人と決め付けて「泥棒」呼ばわりし、約7時間にわたり、「バレバレや。嘘つき。泥棒に黙秘権なんかあるかい。刑務所行こ、俺が連れてったる。」などと罵声を浴びせ続けたことが録音によって露見しました。

これら事件は、氷山の一角に過ぎないのではないかと思います。プレサンス事件等に限らず、現在においてもなお、違法な取調べは各地で発生していると考えるべきです。

3 プレサンス事件などに見る取調べの可視化の限界点・取調べ立会いの必要性

プレサンス事件は、取調べの可視化の成果が遺憾なく発揮された事件でした。取調べの可視化によって取調室での取調べ過程がつまびらかとなり、非言語的な情報も含めて、一連一体の連続した情報を得ることができるようになり、その結果、録音・録画映像より、映像の視聴者において、取調室内における出来事を、緻密に、具体的に分析・把握することができるようになったことが、無罪判決やこの度の付審判請求認容決定につながったものといえます。

他方、このように、プレサンス事件では、取調べ可視化によって大きな成果が得られた一方で、検察組織の問題点も浮き彫りとなりました。その問題点は、「録音・録画が実施されている中でも違法・不当な取調べが実施される可能性がある」というものです(3)。

取調べの可視化導入時、可視化が実施された場合、他者により映像として記録されるという心理的抑制が働き、それにより、黙秘権侵害等の違法不当な捜査が予防されることが期待されていました。しかしながら、プレサンス事件をはじめとした取調べに関する問題事例を見るに、取調べが録音・録画されても取調官が違法不当な捜査をする場合があること、事後的な捜査状況の開示がなされたとしても、心理的抑制とはならないことが判明しました。

取調べの可視化の機能とされてきた違法捜査等抑止機能が全く機能しないことは、すなわち、取調室内において、捜査官の言動により被疑者の人格がゆがめられ、黙秘権が侵害されるような事態がいとも簡単に生じうる、ということを意味します。

これは、人権擁護の観点から看過できない事態であるというほかありません。特に、現在、被疑者段階の弁護活動については取調べの録音・録画が実施され、同録音映像が実質証拠として用いられる可能性を視野に入れた場合、黙秘を原則とする弁護活動が推奨されるとも言われており、そうした状況も踏まえて、今後、被疑者段階において黙秘権を行使する場面は多くなるものとも指摘されていることからも、より一層看過できないといわざるを得ないと思われます。

冒頭に述べた袴田事件で明らかになったとおり、古くから違法な取調べの問題が日本の刑事司法に根深く存在しています。我々は、これらを解決すべく刑事弁護の拡充のための戦いを展開し、一部の事件ではあるものの取調べの録音・録画まで至りました。それにもかかわらず、未だに違法な取調べが現に生じ、取調べの録音・録画では抜本的解決に至っていないのであれば、直ちにこれを制止する装置を用意する必要があります。

では、いかなる方法が考えられるでしょうか。

この点、捜査機関は、自らを律し、その職業倫理を高め、あるいは組織内部のチェック機能をさらに向上させることにより違法不当な取調べを抑止する、と述べるかもしれません。

しかしながら、厚労省元局長無罪事件等を経て、「検察の在り方検討会議」を設置して「検察の再生に向けて」を提言した後において、この度のプレサンス事件が発生したこと、取調べの可視化によりプレサンス事件だけでなく、いくつもの違法不当な捜査がつまびらかになった事態を踏まえれば、もはや、取調官の職業倫理あるいは組織内部のチェック機能では違法不当な捜査を抑止することは期待できないのではないか、といわざるを得ません。

そうなれば、もはや取調官以外の第三者によるリアルタイムでの監視と制止を制度上保障する、そのような制度を被疑者の権利として認める必要があるとの結論に至ることは、必然といえます。

それはまさしく、弁護人による取調べの立会いです。

弁護人による取調べの立会いが認められれば、捜査官による違法不当な取調べを制止し、権利侵害を直接的に予防することができるほか、黙秘権にかかる適切な助言等が期待でき、もって、被疑者の人権擁護と各種の防御権を実質的に機能させることもできます。

4 今、時代は取調べ立会いを求めている

諸外国では取調べの立会いを認める国が多く、先般の李東熹(イ・トンヒ)教授の研修会でもご紹介があったとおり(4)、お隣の韓国では、取調べの立会いが当然に認められています。すでに刊行された月報記事における川副会員の言葉のとおり、彼我の差を感じずにはいられないところです。

また、本稿で述べたように、取調べ可視化により違法不当な捜査が明らかにされた事例も数多く生じており、市民の間でも、現状のままでいいのかという問題意識は共有されているものと思われます。

先般、とある政党に所属する国会議員等をはじめとする議員の方々との政策要望懇談会が開催され、私は、同会において、取調べの全面可視化と取調べの立会いに関する政策要望について説明しました。その際、出席していた衆議院議員より、昨今の社会情勢からすれば、何かしらのアクションは取らなければならないという機運が生じているものの、法務省等の抵抗勢力の動向は注視しなければならず、そうした抵抗勢力の動向から何かしらの反対方向の議論等は発生するだろうといえ、上記議題について親和的な立場の議員だけでなく、多くの人も巻き込んで議論していかなければならないだろう、という趣旨の感想をいただきました。そういう意味では、今後の活動において、多くの国民を巻き込んだ議論を要するものと思います。

今後、取調べの立会いを実現するにあたっては、様々な課題があるかと思います。しかしながら、そうした課題を克服する方法のひとつには、いまある現状において実践を積み重ねていくことが考えられます。

冒頭のとおり取調べ立会い実現PTにおいて、研修等を企画いたしましたので、重ねてになりますが、是非とも研修にご参加いただくとともに、是非とも、取調べ立会い実践をよろしくお願い申し上げます。

第2 取調べ立会い援助制度のご紹介

最後に、当会の援助制度について、改めてご紹介いたします。

(1) 対象となる事件

当会の取調べ立会い援助制度の対象となるのは、以下の事件です。

  1. 被疑者国選事件
  2. 刑事被疑者弁護援助事件
  3. 元々は(1)・(2)事件であったが、被疑者の釈放後も引き続き無償で弁護人として弁護活動を行う事件
  4. 被告人国選弁護事件

他方、純粋の私選弁護事件は対象となりませんので、ご留意ください。

(2) 対象となる活動と金額
(1) 書面による立会いの申入れ 3000円
(2) 取調べへの立会い 1日3万円(他部会での立会いは4万円)
(3) 取調べへの準立会い 1日2万円(他部会での準立会いは3万円)

なお、(1)の申入れですが、「書面」による申入れに限ります。したがいまして、口頭での申入れのみの場合は対象になりませんのでご注意ください。

また、(1)ないし(3)の援助の合計金額は、1事件について15万円(消費税別)とさせていただいています。

(3) 遠距離交通費援助

立会い又は準立会いのために遠隔地移動を要した場合には、規則で定められた基準による額が支払われます。

(4) 申請・審査手続

援助金・費用を請求する会員は、所定の書式を用いて、会長に対し申請を行います。

援助金・費用を請求できる期間は、終局処分等により弁護人としての活動が終了した日から6箇月以内です。ただし、弁護人としての活動が終了していない場合であっても、最初に立会いの申入れ、立会い、準立会いのいずれかの活動を行った日から6箇月を経過したときは、援助金・費用の請求をすることができます。

なお、本制度に関しては、福岡県弁護士会会員専用ホームページに本制度のマニュアルや申請書の書式等がアップロードされていますので、詳しくは、こちらをご参照ください。また、マニュアル等をご覧いただいても不明な点については、制度等に携わっている会員に問い合わせいただければお答えいただけると思います。

------

  1. 付審判請求の補論については、関西テレビNEWSのインターネット記事にて掲載されたほか(https://www.ktv.jp/news/articles/?id=14166)、全文については、個人名を匿名化したうえで、同事件の弁護団員の事務所ブログに掲載されています。
  2. 福岡県弁護士会月報2024年5月号「取調べへの弁護人の立会援助制度」(川副正敏会員執筆)。
  3. この点については、日本評論社「弁護人立会権 取調べの可視化から立会いへ」(川崎英明・小坂井久編集代表)内「序論 いま、なぜ弁護人立会権かー本書がめざすもの」や、現代人文社「取調べの可視化 その理論と実践」(小坂井久編集代表)内の「プレサンス元社長冤罪事件と取調べの可視化が突きつけた日本の刑事司法の課題」(秋田真志著)でも指摘されています。
  4. 福岡県弁護士会月報2024年9月号「韓国における取調べ可視化の道程―取調べの録音・立会い―」の研修を受けて(宮脇和伸会員執筆)

医師会とのパートナーシップ講演会

子どもの権利委員会福祉小委員会 委員 板楠 和佳(76期)

1 はじめに

令和6年7月31日19時から、福岡市医師会館8階講堂にて、福岡市医師会と福岡県弁護士会のパートナーシップ協議会が主催する「子どもの心の声に耳を傾ける~少年相談の現場から~」が開催されましたので、ご報告いたします。

本講演は、近年社会問題として取り沙汰されるヤングケアラーの支援について、元福岡県警察少年育成指導官であり、現在はスクールソーシャルワーカー及びスクールカウンセラーとして活躍しておられる堀井智帆さんを講師として迎えて行われました。

当日は、医師や弁護士のほか、県内外の行政機関の方々、小学校や保育園の先生方等、85名の方にご参加いただきました。

2 堀井さんが子どもと関わる活動を始めた経緯

講演の冒頭、堀井さんから、子どもと関わる仕事に就くことを目指したきっかけや、その後の活動の経緯についてお話しいただきました。

堀井さんは、約21年間、警察の少年指導育成官として、万引き、集団暴走行為、性加害、オーバードーズなど様々な問題行動を起こす子どもたちに出会い、子どもたち一人ひとりに寄り添う活動をされてきました。現在はフリーの立場で様々な場所で相談支援業務を行っておられますが、これまで関わった子どもは2000人以上です。

堀井さんによれば、大人は一般的に、子どもが問題行動を起こしたときにその行為はやってはいけないことだと諭し、二度と繰り返さないよう指導して終わってしまいがちだそうです。しかし、そのような指導をしただけではまた繰り返してしまいます。子どもが問題行動を起こしてしまうのには必ず理由があるので、その背景を探ることが、その子の更生を手助けする第一歩になるとのことでした。一人の子どもが更生できるか否かの分かれ目は、その子自身ではなく、周囲の大人がどれだけプラスに関われるかが大事であるというお話が印象的でした。

3 ヤングケアラーに対する支
(1) ヤングケアラーとは

ヤングケアラーとは、家庭内で本来大人が担うべき役割を担っている子どもを指します。

厚生労働省が実施したヤングケアラーに関する調査によると、ヤングケアラーは約15人に1人、1クラスに1、2人ほどいる計算であり、意外に身近なところに存在していることがわかります。ケアの相手は、きょうだい児である場合が約6割と最も多く、他には障がいをもっている親、高齢で介護が必要な祖父母などの事例があります。

(2) 実態把握

ヤングケアラーを支援するための第一歩として、その子の周りにいる大人たちが、ヤングケアラーであることに気付くことが必要です。

実態把握を困難にする要因として、子どもによるケアは、家庭内で起きていることであり、学校関係者等周囲の人々が気付きにくいということがあります。そのほか、その子自身がヤングケアラーであるという認識を持っていない、すなわち、進んでケアを行っている場合が相当あり、発見が遅れる大きな要因となっています。

そのような困難の中でも、とりわけ学校関係者がヤングケアラーに気付くきっかけとなるのが、その子の長期欠席や遅刻、離婚等による家族構成の変化です。これらの背景には、自分以外にケアを行う人がいないことで、学業よりケア相手を優先せざるを得ない状況が潜んでいることが多々あります。それ以外にも、東京都がヤングケアラー発見のためのチェックリストを作成しており、参考になります。

(3) 実態把握後の支援

では、その子がヤングケアラーであることを把握したとして、周囲の大人はどのような支援ができるでしょうか。

第一に考えられるのが、生活の再建を支援することです。例えば、公的な支援を利用してホームヘルパーに来てもらう方法が考えられます。他方、ホームヘルパーを利用できるのは昼間のみであることが多く、夜間の支援が難しいなど、支援が行き届かない場面もあります。

堀井さんが、生活の再建より重要と言われていたのが、ヤングケアラーの心の傷を癒やすことです。ヤングケアラーは、ケア自体よりも、周囲に自分と同じ環境の子がおらず、自分のことを話す相手、わかってもらえる相手がいないことに、つらさを抱えるそうです。そこで、同じ環境の子どもと話せる機会をつくるなどの工夫が考えられます。これを、「セルフケア」といいます。

さらに、ヤングケアラーと接する際に気をつけなければならない点が、「ケアをしている事実を非難しないこと」です。ケアをしている本人は、進んでやっていることも多いため、大人が「ヤングケアラーは社会問題だからやめなければならない」と言ってしまうと、その子の考えを否定することになってしまいます。他方、学校生活、友人との時間など、本人の利益を確保することも、その子の健全な育成にとって必要なことです。したがって、ヤングケアラーと接する際には、ケア相手だけでなく、自分の利益を両立できる方法について、一緒に考えることが大切です。

4 むすび

講演後、会場からの質疑応答も行われました。子どもに接する立場にある弁護士からの具体的な支援策に関する質問や地域住民ができる支援について質問があがっていました。

本講演を通して、ヤングケアラーの実態についてだけでなく、支援の方法について具体的に教えていただきました。弁護士は、子どもたちと直接関わる機会も多く、基本的な知見をふまえた慎重な対応が必要となります。私自身、今回堀井さんから伺った話を参考に、支援者として少しでも力になれればと思いました。

福岡県弁護士会 医師会とのパートナーシップ講演会

講演会(会場)

1  2  3  4  5  6  7  8  9  10  11

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー