弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
アメリカ
2022年8月23日
ジャカルタ・メソッド
(霧山昴)
著者 ヴィンセント・ベヴィンス 、 出版 河出書房新社
国際勝共連合・統一協会は日本の支配層にがっちり喰い込み、日本の政治を自分たちの思う方向に動かそうとしてきました。ただ、非武装の団体ですから、不幸中の幸いにも大量虐殺とは無縁(少なくともこれまでは)です。しかし、本家本元のアメリカ(CIA)は、それこそ世界中、いたるところで共産主義者の大量虐殺を敢行してきました。
この本は、1965年にインドネシアで起きた大量虐殺がアメリカ(CIA)の差し金によるものであること、その方法(方式)はじゃカルト公式(メソッド)として、世界各地であてはめ、実行がなされ、今なお「ジャカルタ」と言えば共産主義者を有無を言わさず大量虐殺し、その国の民主主義を圧殺するものとして「活用」されているという恐るべき事実を実証しています。
著者はまだ若い(38歳)アメリカのジャーナリスト。ロサンゼルス・タイムズの特派員やワシントン・ポストの記者として活躍中です。
1965年10月、インドネシア在のアメリカ大使館は、CIA分析官と協力して、数千人の共産主義者および共産主義者と疑われる人物の名前を記載したリストをインドネシア軍に手渡した。それは、リストにある人物を殺したら印をつけられるようになっていた。このリストにもとづき軍と反共団体が大量虐殺を実行していった。
バリ島では、住民の5%にあたる8万人が殺害された。人々が虐殺された現場の浜辺には、今、高級ホテルが建っていて、痕跡も見あたらない。
虐殺されたインドネシア国民は100万人。それ以外に100万人が強制収容所に入れられた。虐殺の間接的犠牲者は数百万人にのぼる。なぜ、こんなに多数を占めるのか。それは、当時、インドネシア国民の約4分の1がインドネシア共産党(PKI)と関わっていたから。連行された囚人の15%は女性だった。
PKIは、インドネシアで、もっとも有能かつ本格的な政党だった。PKIは、清廉(せいれん)潔白だと評判だった。農村部で農民のニーズにこたえる活動をしていた。PKIは武装闘争を否定していた。PKIは、しばしばモスクワの指示を無視し、スカルノ大統領に接近していた。
PKIは国内の資本家階級と手を結び、反封建的な「民族統一戦線」を目ざした。
スカルノ大統領は「ナサコム」と命名し、PKIも包含する政治をとろうとした。スカルノ、軍部そしてPKIという三つの政治勢力のバランスをうまくとっていた。
PKIは300万人の党員をかかえ、系列組織として、労働者機構、農民戦線、人民青年団のほか、婦人団体のゲルワニを擁していた。ゲルワニには、2000万人もの会員がいた。
PKIはあくまで平和的に活動していた。毛沢東は中国を訪問したPKIのアイディット議長に対して警告した。アイディットは、武装闘争を否定した。
インドネシア軍による民衆の大量虐殺の主導権を握っていたのはアメリカ政府だった。途方もない圧力をかけ、作戦を進行させ、規模を拡大させた。アメリカ大使館は一貫して軍を焚きつけ、より強硬な態度をとり、政権を乗っとるように仕向けた。
インドネシア軍の将校たちは、人を殺せば殺すほど、左翼は弱体化し、アメリカ政府は喜ぶと知っていた。
このとき、ソ連はスカルノの失脚とPKIの滅亡をほぼ黙認した。すでに中ソは対立状態にあり、ソ連政府は、歯に衣着せぬ中国の盟友(PKI)の成功を望んでいなかった。
アメリカ政府関係者は、ほぼ一様にインドネシアでの大量虐殺を称賛した。そして、アメリカの財界エリートは、インドネシアがアメリカの企業に門戸を開いたことを大歓迎し、さっそくインドネシアを次々と訪問した。
インドネシアとブラジルでは反対勢力の存在は許されなかった。買収と暴力が日常茶飯事で、国民は恐怖に口をつぐみ、汚職は劇的に増加した。
1960年代、インドネシアには、ソ連の最悪の時代に匹敵する規模の強制収容所が存在した。そして、アメリカが、そのシステムを支援していた。
チリのアジェンデは、社会主義者でありながら、洗練されたサンティアゴのエリートだった。
ニクソン大統領はCIA長官を呼び出し、アジェンデの大統領就任を阻止せよと命じた。
ブラジルで「ジャカルタ作戦」が始動した。それは、インドネシアと同じく、大量殺人だった。
1973年にチリのクーデターは成功し、アジェンデは失脚し、死んだ。ピノチェトとその部下は、独裁政権を誕生させて数日間のうちに3000人もの市民を殺害した。
アメリカは世界各地で、インドネシアを重要なモデルケースとして、暴力すなわち「絶滅」プログラムを実行していった。一般市民に対する残忍きわまりない暴力を頂点とするアメリカ政府の反共十字軍の「成功」が現代国際社会を形成している。
このアメリカ化の構築に役立ったのが、インドネシアで敢行された大量殺人プログラム(ジャカルタ・メソッド)だった。
お手本であるアメリカの現状はどうか。アメリカは総体としてみると、並はずれて豊かで強力な国だ。しかし、その内実は、社会の最上層に他国から入って来る富がますます蓄積される一方で、底辺にいる多くのアメリカ市民は、旧第三世界の人々と変わらない貧しい暮らしをしている。
1965年で起きたインドネシア国民100万人もの大量虐殺事件が日本で話題となることはほとんどありません。でも、これを主導としたアメリカ政府(CIA)の冷酷そのものの政策(「ジャカルタ・メソッド」)は、決して日本人の私たちに無縁ではないことをしっかり認識しておく必要があると、つくづく思いました。お盆休みに、喫茶店をハシゴして360頁もの大著を、重い気分に浸りながらなんとか読み通しました。あなたも、ぜひ手にとってご一読ください。
なお、『インドネシア大虐殺』(中公新書、倉沢愛子)を前に、このコーナーで紹介しています。あわせてお読みください。
(2022年4月刊。税込4180円)
2022年8月12日
グーグル秘録
(霧山昴)
著者 ケン・オーレッタ 、 出版 文春文庫
世界はグーグル化された。私たちは情報を検索するのではなく、「ググる」。
アメリカで電話の普及率が50%をこえるのに71年かかった。電気は52年、テレビは30年かかった。ところが、インターネットはわずか10年で普及率が50%をこえた。DVDは7年、FBは5年で2億人のユーザーを擁した。
グーグルは絶対権力になった。アメリカのネット検索の3分の2、世界全体の70%を占める。グーグルは、230億ドルの規模をもつアメリカのネット広告市場と540億ドルの規模をもつ世界のネット広告市場で各40%のシェアを占める。
社員には食事またはスナックが無料で提供されている。5か月間の育児休暇中の給料は全額支給される。社員は、勤務時間の20%を好きなことにあててよいという「20%ルール」がある。
グーグルは、平等主義であると同時に、エリート主義を貫く。創業者2人とCEOのシュミットは、既に10億ドルの資産をもつビリオネア。ほかの役員は45万ドルのほか、その150%のボーナスを受けとった。
ラリー・ペイジとサーゲイ・ブリンの父親は、ともに大学教授で母親も科学関係の仕事をしていた。ともに1973年の生まれで何事にかけても、とことん議論を尽くすような家庭で育った。子どもの自発性を重んじ、画一的な授業をしないモンテッソーリ式の小学校に通い、好きなことを自由に学ぶことを許された。
ブリンは、友骨精神が強く、ユダヤ人としての教育を受けたものの、礼拝には顔を出さなかった。ブリンは、高校でも大学でも、ほとんど勉強せずに、すべての試験に合格した。
ペイジの父親はコンピュータサイエンスの教授で無宗教、母親はユダヤ教信者だった。
ブリンとペイジが出会う2年前の1993年の時点では世界50ヶ国でインターネットを使っていたのは1500万人でしかなかった。
スタートした時点のグーグルは徹底して検索にこだわった。2000年、グーグルの1日あたりの検索処理件数が平均700万件に達した。すぐに1日の検索処理件数は1億件になった。
グーグルは世界中に数十か所のデータセンターを置いている。物理的にデータセンターを世界中に分散すれば、データ処理の効率は大幅に高まる。
グーグルは広告がクリックされた回数しか広告料を受けとらない。ユーザーが広告のその他の情報をどれだけ眺めているか、何をクリックするか、何を検索するか、何が好きで何は嫌いかといった情報は、広告主にとって測りしれない価値がある。
グーグルはそうした情報を、直接、広告主に渡すことはしない。だが、それを使って、特定の顧客にターゲットを絞って広告を表示するのを手助けしているのは確かだ。グーグルの顧客は広告主なのか、それともユーザーなのか・・・。
今日のグーグルは難攻不落に思える。しかし、本当に盤石とみてよい根拠は何もない。かつてのトップ企業IBMもマイクロソフトも凋落してしまった。
いやぁ考えさせられる文庫本でした。私たちの個人情報がどこかで集積され、売られ。利用され、狙われているのですよね・・・。本当に怖い世の中です。
(2013年9月刊。税込1232円)
2022年8月10日
無人戦の世紀
(霧山昴)
著者 セス・J・フランツマン 、 出版 原書房
今や、世の中、ドローン万歳の時代になっています。たしかに観光地を上空から、居ながらにして眺めることができるなんて、うれしい限りです。マチュピチュ遺跡のような遠いところだけでなく、身近な所員の新居まで上空から眺められるのですね...。
でも、上空にいるドローンが、私たちの毎日の私生活を観察・監視し、さらには上空から小型ミサイルを撃ち込まれてしまったら、もう逃げようがありません。それは、もう、本当に怖いことです。
2020年までに使用された軍用ドローンは2万機をこえた。
ドローンは、ビジネス規模も大きい。2019~2029年の10年間に軍用ドローンに投じられる金額は960億ドルにのぼるとみられている。いやあ、とてつもない金額です。想像を絶します。
2020年に、アメリカは前から暗殺しようと狙っていたイランのカセム・ソレイマン司令官をドローン攻撃で暗殺することに成功した。
アメリカ政府が気にくわないと思ったら、外国で、空港から出てきたばかりの人物をドローンからミサイル攻撃して暗殺できるって、ホント、恐ろしいことですよね。
ソレイマン司令官の命を奪ったミサイルを発射したのは、重さ2200キロ、翼幅20メートルのドローンだった。つまり、小型のドローンではなかったのです。
この本によると、ドローンのパイロット(操縦者)のなかには、任務と日常生活との不協和音に苦しんでPTSDを発症したものが少なくないとのこと。ドローン・パイロットは、夜になれば帰宅してフツーの市民生活を送る。そのギャップのせいで、神経に混乱をきたす。しかも、それを避けるすべはない。カメラの性能が向上していけば、攻撃のボタンを押したあとで見る悲惨な映像は、いっそう生々しいものとなる。そうなんですよね。彼らが見ている映像は、市民向けにもつながっていると言えますね...。
ドローンそれ自体が責任を問われることはない。ドローンは、世界中で、大規模な秘密作戦のもとで、ときに標的殺害を目的として使用されている。そこに戦略はなく、ただ殺すのみ。今や、ドローンはテロリスト集団も手にしていて、改良を続けている。まずは既製のドローンを購入するところから始める。超小型ドローンでも25分間は飛行可能だ。中国は、ドローンの発展とともに勢いを増した。いやあ、ドローンって、ほんと怖いですよね。改めて実感しました。ドローンが戦場で活用されている状況を知ることのできる本です。
(2022年3月刊。2800円+税)
2022年8月 8日
土を育てる
(霧山昴)
著者 ゲイブ・ブラウン 、 出版 NHK出版
日本にも『自然農法,わら一本の革命』(福岡正信、春秋社)がすでに実践されていますが、この本によるとアメリカでは不耕起農法は今やメジャーな手法として定着しているそうです。小麦・大豆の40%以上、トウモロコシの30%近くが不耕起で栽培されている。
著者はアメリカのノースダコタ州で広大な農場を営んでいる専業農家。リジェネラティブ 農業(環境再生型農業)を実践し、そのパイオニアとして世界に知られています。
この農法は、土の再生がメイン・テーマで、植物や土壌微生物の力を生かし、土の生態系を回復させて、大気中の窒素や炭素を地中に取り込む。それによって作物の育ちは良くなり、同時に気候変動の抑止につながる。
土が再生すると、ミミズが地中にうじゃうじゃいるようになる。
私の庭は、私がせっせと耕し、枯草や生ゴミをすき込んでいますので、ミミズがそれなりに生息してはいます。でも、「うじゃうじゃ」まではいきません。
土の健康に欠かせない5つの原則。
その1,土をかき乱さない。
その2,土は常に覆う。
その3,植物と動物の多様性を確保する。
その4,土の中に「生きた根」を保つ。
その5,動物を組み込む。
著者は、農地を耕すな、と強調しています。耕すと、土壌生物のすみかである土の構造が壊れ、水分の浸透も減ってしまう。 不耕起栽培では、土壌の団粒化がすすみ、有機物の量も増え、地表の作物残渣が水分の蒸発もおさえてくれるので、雨の浸透度が増え、多くの水分が作物にゆきわたる。
微生物の活動が活発になり、養分の循環が増し、化学肥料の必要性が減っていく。労力も燃料もメンテナンスのコストも減る。
農地を肥沃にするには、カバークロップで覆うのが一番良い。
小さな変化を生み出したいなら、やり方を変えればいい。大きな変化を生み出したいなら、見方を考えなければいけない。 なるほど、そんな違いがあるのですね・・・。
地中の菌根菌を増やす。菌根菌は、植物の植と共生関係をつくる菌種で、土の健康は欠かせない。 グロマリンという糊(のり)のような物質を分泌し、それが土の粒子の結合を助け、団粒化が進むことで、土壌に「隙間」ができる。この隙間は水分浸透の要となり、また、地中の微生物のすみかとなる。
ジャガイモだって、耕さずに植えるというのには驚きました。種イモを地面に置いて、その上にアルファルファ草の干し草を薄くかぶせるだけなのです。そして、収穫時には、その枯れ草をめくったらジャガイモがごろごろ・・・。ええっ、本当ですか。なんということでしょうか。今度、やってみましょう。
牛も、豚も、羊も、そしてニワトリ、またミツバチまで農場で飼っています。無農薬、ストレスのない広々とした草原で放し飼いされた牛、そして卵、またハチミツ。地元の市民愛好家を確保して、農業収支を維持しているようです。とても勉強になりました。
(2022年7月刊。税込2420円)
2022年6月22日
フェイスブックの失墜
(霧山昴)
著者 シーラ・フレンケル、セシリア・カン 、 出版 早川書房
私も毎日お世話になっているフェイスブック(FB)ですが、実は私たち利用者の個人情報をFBは好き勝手に運用して莫大な利益をあげているというのです。また、トランプ前大統領が明らかな嘘をFBで発信しても、それも言論の自由だとして抹消を拒否し、暴動(連邦議会への襲撃)を容認・助長したのでした。トランプがヒラリー・クリントンにまさかの勝利をしたのも、FBを活用したからだというのです。思わずぞくぞくとしてしまう恐ろしい現実です。
2020年12月、アメリカの連邦取引委員会(FTC)と全米ほぼすべての州がFBを提訴し、FBの分割を求めた。今、この裁判はどうなっているのでしょうか...。
FBは、長年にわたり、競合他社を容赦なく排除する、「買うか、葬るか」戦略を展開してきた。その結果、強力な独占企業が誕生し、さまざまな弊害を社会にもたらしている。
FBは、ユーザーのプライバシーを侵害し、30億人もの人々に有害なコンテンツをまき散らしてきた。
FBのマーク・ザッカーバーグは、ルールを無視し、脅しと欺瞞によって成功をおさめた創業者だ。ザッカーバーグを支えたシェリル・サンドバーグは、前にグーグルの幹部だったが、個人情報を得るためにユーザーを「監視」するという革新的で悪質な広告ビジネスを駆使し、ザッカーバーグの技術を大きな利益を生み出す巨大企業へと成長させた。
この二人はパートナーとなって、2020年には、FBの売上高は859億ドル、時価総額8000億ドルに達した。
トランプはFBのパワーユーザーであり、じゅうような広告主だった。メディア対策資金の大半をFBにつぎ込んだ。トランプ陣営がFBを重視したのは、選挙広告の効果を上げるための簡単で安価なターゲット設定機能があったからだ。
「いいね!」ボタンは、単に便利なだけではなかった。この機能は、それまでにないスケールでユーザーの好みに関する詳細な情報を収集する、まったく新しい可能性を提示した。
友人同士が集まって、身内で語りあう場であったはずのFBで、見知らぬ人から友達申請を受けるようになった。
実は、私にも全然きいたこともない人から友達申請が来て驚いています。もちろん、みんなお断りしています。
ザッカーバーグは、社内情報をもらした社員を突きとめるために特別の情報セキュリティチームを組織する。秘密情報に見せかけた「ネズミ捕り」を社内に仕掛けることもある。
FBは、人の感情をかき立てるコンテンツがあれば、たとえそれが悪意にみちたものであっても、その拡散に拍車をかけるように設計されている。アルゴリズムが、センセーショナルなものを好むのだ。ともかく広く読まれるものを好む。こうして、FBには人々の感情を操る力がある。
明らかな嘘だと分かってもFBが削除しようとしないのは、「言論の自由」の美名に隠れて、この本質があるからだ。
ユーザーの関心を引き、より長時間利用してもらえるのは、広告収入はそれだけ伸びていく。だから、ユーザーが何に関心をもつかをデータから分析し、より喜ばれそうなコンテンツを目立つように配置する。
こうやって、虚偽情報を抹消しようとしないFBへの批判が高まっている。
お金もうけのためなら、何をやっても許されるのか...。
FBの利用者の1人として、FBの怖さをほんの少し理解しました。やっぱり実効性のある規制強化は必要ですよね。
(2022年3月刊。税込2420円)
2022年6月 1日
ルース・ベイダー・ギンズバーグ、アメリカを変えた女性
(霧山昴)
著者 アマンダ・L・タイラー 、 出版 晶文社
「アメリカの宝」とまで呼ばれたアメリカ連邦最高裁判所の女性判事、ルース・ベイダー・ギンズバーグの仕事と人生をふり返った本です。
主人公の女性判事は「RBG」とも呼ばれ、なんと映画が2本もつくられています。日本で実在の裁判官が主人公だなんて考えられもしません。考えられるとすれば、史上最低の卑劣な最高裁長官の田中耕太郎でしょう(私はいつも呼びすてにします)。だって、かの有名な砂川事件の審理のとき、実質的な一方当事者であるアメリカ政府の「代理人」のアメリカ大使に最高裁の評議の秘密をもらしていたばかりか、その指示を受けて裁判官として動いていたのですよ。まさしく恥知らずの典型的な売国奴というほかありません。最近、アメリカの外交文書の秘密が解禁されて判明したわけですが、このことを日本の最高裁は知っていながら、今なお、なんの措置もとっていません。最高裁はハンセン病患者を裁いた刑事の法廷が人権無視だったことを認めて謝罪したのですから、それと同じようにひどい田中耕太郎の行為も厳しく糾弾し、今からでも世間に対して心から謝罪すべきです。
RBGはアメリカ連邦最高裁の2人目の女性判事だった。1970年当時、連邦最高裁の判事はRBG以外は全員が男性だった。連邦最高裁判事になるには、大統領の指名と上院の承認が必要。なので、政治的な駆け引きがなされる。知識と経験のほか、人柄や慎重さ、運や度胸も必要になる。
RBGは、夫(同じハーバード・ロースクール卒の弁護士)の病気をケアし、家事そして育児をしながら弁護士として活躍した。RBGの両親はともにユダヤ人。RBGはロースクールを優秀な成績で卒業しながらも、女性ということで就職先が見つからず、大学教員となった。
RBGは、2020年9月に在職のまま死亡し、後任はトランプ大統領が保守派を指名した。
現在、アメリカ連邦最高裁は9人のうち3人が女性。日本は15人のうち女性は2人のみで、しかも、まったく目立たない。
RBGがハーバード・ロースクールにいたとき、500人のうち、なんと女性は9人のみ、
RBGは、連邦最高裁の裁判官として、憲法は誰ひとりとしてとりこぼしてはいけないと考え、実践した。RBGは、機会均等とアファーマティブ、アクションの確固たる支持者だった。
RBGは、がんと4度もたたかったとのこと。そのため、筋力トレーニングは欠かさなかった。
RBGが結婚するとき、義母から受けたアドバイスは...。ときどき、ちょっとだけ聞こえないふりをすること。不親切な言葉や軽率な言葉を受けても耳を貸さない、聞かないこと。
なーるほど、これは、いいですね...。
RBGは、がんから生還すると、それまで持っていなかった生きる気力が湧き、毎日を大切に過ごすことができる。
RBGは、連邦最高裁の法廷で、弁護士として次のように弁論した。
「私は自分の性(女性)を優遇するように頼んでいるのではありません。ただ、男性の皆さん、私たち(女性)の首を踏みつけている、その足をどけてください」
いやあ、すごいインパクトのある訴えですよね、これって...。
RBGは、弁護士として、アメリカ自由人権協会(ACLU)の女性の権利プロジェクトの主導者として8年間、活動した。
RBGは、公式行事に参加するとき、連邦最高裁で発言するとき、ネックレスよりも大きい首飾りをして登場した。自分の信念を貫くという姿勢がそこにあらわれている。
日本で、誰か最高裁判事の名前を知っていますか、と問われたとき、弁護士をふくめて、ほとんど全部の人が「誰も知らない」と答えると思います。弁護士の私も同じです。でも、決してそれがいいことだとは思っていません。個性の表明がないというのは、プラスではなく、マイナスばっかりだと私は思います。
(2022年3月刊。税込2750円)
2022年5月10日
「トランプ信者」潜入1年
(霧山昴)
著者 横田 増生 、 出版 小学館
4年間のトランプ現象。分断を煽(あお)り、混沌をつくり出した。これが2021年1月6日、ワシントンDCの連邦議会議事堂を「トランプ信者」たちが暴徒と化して占拠するという前代未聞の暴挙をもたらした。
トランプは、あらゆる場面で、自分の味方と敵に分け、味方を絶賛し、敵をこきおろした。
トランプに敵対する議論をはるメディアを「フェイクニュース」として罵倒し続けた。事実かどうかは関係なく、自分の盾突くメディアは、何であれ、フェイクニュースと呼んだ。支援者を集めた集会では、必ずメディア席を指さし、「あそこにフェイクニュースの奴らがいるぞ」とけしかけ、聴衆は一斉にメディア席にブーイングを浴びせた。
トランプは、トランプが語ることなら、何でも信じたいという鉄板支持層を開拓することに成功した。その中心は白人層。近い将来、人口比で少数派に転落するだろう、それを不安視する白人層だ。
トランプは、大統領の4年間、分断と混沌がつくり出した対立軸という細いロープの上を歩く曲芸師のように、絶妙なバランスをとりながら政権運営してきた、稀有(けう)な政治家だとも言える。連邦議会議事堂を暴力的に占拠した事件は、現職のアメリカ大統領が企てたクーデターだ。トランプは、アメリカ史上もっとも嫌われた大統領だ。
ロシアの侵略戦争が始まったころのゼレンスキー大統領の支持率は30%前後の低さだった。ところが、ロシアによる侵略戦争が始まると、8割以上の支持率にはねあがった。
トランプ大統領の支持率は平均41%、最低は34%。50%を超えたことがない。
ブッシュ(子)政権は90%、クリントン政権73%、オバマ政権69%。これに比べると、トランプがいかに人気がなかったか、明々白々。そして、トランプの不支持率のほうは、47%が最低で、60%に達したことが5回もある。
トランプの演説は、原稿を読まず、プロプターを見ることもない。数字や固有詞を間違えずに、よどみなく話す。その緩急をつけた話術は、聴衆の心をつかみ、飽きさせることがない。
トランプの演説は、大衆の感情を煽り立て、不安につけこみ、怒りに火をつける扇動者を連想させる。聴衆はトランプの手のひらの上で転がされ、歓喜し、叫び、怒りながら、大満足して帰っていく。
アメリカ社会では、一般に、社会主義というのは、マイナスの意味あいが含まれている。
社会主義体制では、人々の個々の能力や努力は評価されない。均等に富が分配されるので、競争原理が働かず、社会全体が停滞してしまう。アメリカ人の多くが、まだまだ「アメリカン・ドリーム」の幻想から脱け出せていないようです。残念です。
アメリカの二大政党のうちの共和党は白人中心の党だ。トランプと、その政治手法を考えるうえ、ウソと切り離して話をすすめるのは不可能だ。トランプとウソは、密接にからみあっている。トランプのウソは次元が違う。その回数と頻度、また自分の再選に有利だと考えたら、たとえウソだと指摘されても、何度でも同じウソを繰り返す。
アメリカでは、居住区分を三つに分ける。一つは、裕福な白人が多く住む郊外。その二は、黒人などが住む都市部の低所得者地域。その三は、白人を中心として、農業・酪農従事者などが住む、カントリー・サイド(田舎)。
トランプは、オバマに対しては激しい怒りと憎悪を示す。オバマケアをまっ先に廃止しようとした。しかし、オバマケアに代わる政策なんてないものだから、司会者から、代わる政策は何かと訊かれたとき、壇上で立ち往生した。
トランプが何より恐れたのは、新型コロナのせいで、自分の再選が危機に直面すること。つまり、アメリカ国民の生命と健康なんて、トランプにとっては、どうでもいいのです。自分に幻想を抱いて、とっとと死んでしまえというのです。
トランプは科学を軽視し、役職者を任命する基準は役職にふさわしい実績があるかどうかではなく、トランプへの忠誠心があるのかどうか...。
トランプ自身も郵便投票を2回も実行しているのに、郵便投票だからこそ多くのインチキ投票があるというのは根本的に間違っている。
トランプのツイッターには8800万人ものフォロワーがいた。
今の共和党は、トランプ党になったし、なっている。トランプが大統領を退いてから設立した。
著者はフリーランスの記者として、「トランプ信者」のように装ってトランプの選挙運動にボランティアとして加わって取材していたのでした。いやあ、日本でもそこまでやるのでしょうか...。フリーランス記者は、まったくあなどれませんね。
(2022年3月刊。税込2200円)
2022年3月30日
ネイビーシールズ
(霧山昴)
著者 ウィリアム・H・マクレイヴン 、 出版 早川書房
アメリカ海軍大将をつとめ、ネイビーシールズというエリート特殊部隊のトップとして指揮をとっていた軍人の回顧録です。なにより2011年のビン・ラディン殺害作戦をオバマ大統領じきじきの指示を受けて総括していた話は自慢話であっても、寒気を覚えます。
オサマ・ビン・ラディン(本書ではウサーマ・ビン・ラーディンとなっています)の所在を突きとめたのはCIA。伝書使の追跡、監視、テクノロジーによる情報収集でパキスタンのアボッタバンドにある高い塀に囲まれた屋敷を突きとめた。この作戦は映画になっていて、私も見ていますので、だいたい想像つきます。
裾の長い寛衣を着た長身(193センチもあります)の男が敷地内を歩きまわっていることまで分かったのです。しかも、この男は塀の外にはぜったいに出ない。
通常、屋敷強襲には50人から70人が必要。屋敷を孤立させ、重要な阻止地点に小部隊を配置し、強襲部隊が塀を破り、重要目標を仕留める。医療チーム、科学捜査、戦果拡張(確認?)チーム、DNA鑑定チームなども必要。これも、どうやってターゲットにたどり着くかによる。
CIAは実物大模型をつくりあげ、そこで予行演習した。そして、CIAの特殊活動部門ではやりきれないことからネイビーシールズが作戦を担当することになった。
オバマ大統領の直轄でヘリによる強襲作戦が選択されたのです。弁護士出身の大統領が、国際法を完全無視することに何のためらいもなかったことに鳥肌が立つほどの寒気を覚えます。9.11の報復として、他国の人間を裁判によらず殺害(暗殺)してよいという指示を世界一の民主主義国家を標榜している大統領が指示して暗殺が実行されたのです。
著者は、実行部隊のシールズのメンバーに、こんな言葉で督励した。
「諸君、9.11後、きみたちはビン・ラディンを仕留める任務につくのを夢見ていたはずだ。さあ、これがその任務、そしてきみたちがやる。ビン・ラディンを仕留めにいこう」
そして暗殺成功を確認したあと、オバマ大統領はテレビで次のように演説した。
「こんばんは。今夜、私はアメリカ国民と世界に、アルカイダの指導者で何万人も罪のない男女や子どもを殺したテロリストであるウサーマ・ビン・ラディンを殺害する作戦をアメリカ合衆国が実行したことをお知らせします」
裁判にかけることもなく、パキスタン政府の了解を得ることもなく、勝手に他国の領土に武装部隊を送って問答無用式に殺人犯を殺害したというのを、「正義が果たされた」と手放しで評価してよいものでしょうか...。
著者はイラクのサダム・フセイン元大統領の身柄を隠れていた場所で確保したときの責任者でもありました。
イラクでは、ビーコン・ボーイというターゲットへ導いてくれる可能性のある貴重な情報源が活用されていた。2003年12月14日、フセイン逮捕が全世界のニュースに流された。
それにしても、イラクには核兵器も大量破壊兵器も何もなかったのです。それなのに戦争を始めた責任を誰もとっていません。日本政府は今も、そのことについて反省の弁すら述べていません。これでも「正義は果たされた」と言えるものでしょうか。
ネイビーショールズになるのが、いかに大変なことか、この本を読むとよく分かります。でも、世の中は武力という暴力だけで動いているわけではありません。もちろんお金の力も大きいのですが、もう一つ大切なのは、人々の心ではないかと考えています。
一人ひとりの心のもちようは見えないし、小さくて無視できるようなものだけど、それが何千、何万、何十万とあつまると形になり、巨大な流れをつくりあげると思うのです。どうでしょうか...。
(2021年10月刊。税込3410円)
2022年1月21日
灼熱
(霧山昴)
著者 葉真中 顕 、 出版 新潮社
日本敗戦後のブラジルで、日本が敗北したことを認めない日本人のグループが敗北したことを認めた日本人グループのリーダーを何人も殺害した事件が起きました。その状況をリアルに再現した小説です。
この本を読んだ3日後、1月8日の西日本新聞の夕刊トップがこの記事でした。「負け組」のリーダーを殺害した「勝ち組」の実行犯で唯一の生存者(95歳)に取材したのです。
「負け組」のリーダーだった脇山元陸軍大佐宅に押しかけ、自決勧告書と短刀を渡して切腹を迫り、拒否されるとピストルで殺害したのでした。この生存者は10年間、監獄島に服役していたとのこと。
1年近くのあいだに23人が死亡し、86人が負傷したと書かれています。「勝ち組」のなかには戦勝デマをネタにした詐欺事件もあったようです。この事件は現場でいうフェイクニュースによる分断がブラジルにおける日本人(日系人)社会が起きていたことを示すものと解説されています。アメリカの大統領選挙でトランプ候補が敗北したことを今なお信用しようとしないアメリカ人が少なくないことと同じですね。
ブラジルに移民として渡った日本人は、日本で食いつめていて、ブラジルに渡れば腹いっぱいごはんが食べられ、裕福になったら日本に帰国できると信じていたようです。もちろん、現実は甘いものではありませんでした。それでも必死で働いて、なんとか生活できるようになったのです。
そして、日米開戦。日本軍は勝ち続けていきます。それは、ミッドウェー海戦でも、日本軍が大勝利をおさめたというニュースとして流されました。
日本軍は「引き込み作戦」をしている。あえて、日本軍の陣地まで敵をひき込んで一網打尽にする作戦をしている。こんな解説がまことしやかに流されていたのです。
そして、ハッカ生産している日本人に対して、ハッカはブラジルからアメリカに輸出されるものだから、それは敵性産業だ。祖国日本に仇なす行為だ。国賊だ。こんなビラが貼られ、ついにはハッカの生産工場が焼きうちにあい、他へ転出していくのです。
さらには、アメリカが高性能の新型爆弾で日本を焼き尽くそうとしているが、日本軍は、その新型爆弾をさらに上回る強力な高周波爆弾を開発した。だから日本が負けるはずはない。
あくまでも日本軍が勝つと言いはる組織が結成され、ほかの情報が耳に入らない純真な青年たちが、日本の敗北を前提として行動している人たちを目の敵にしはじめます。
ここで、デマで金もうけを企む人たちもいて、日本人社会は哀れなほど右往左往させられるのです。まことに真実を知るというのがいかに難しいか、当時の状況を少し想像すれば理解できます。
現地での取材もして、たくさんの資料にもとづいていますので、小説とは言いながら、かなり史実に基づいているのではないかと感じながら読みすすめました。
フェイクニュースは善良な市民を殺人者に仕立てあげるのですね。本当に怖い話です。現代日本でも起きそうで、心配になります。
(2021年9月刊。税込2860円)
2021年12月28日
コード・ガールズ
(霧山昴)
著者 ライザ・マンディ 、 出版 みすず書房
日本がアメリカに宣戦布告して始めた太平洋戦争で、日本が勝てたはずがないことは、この本を読めば一目瞭然です。だって、アメリカは、1万人以上の女性を暗号解読作業に従事させていて、日本が絶対解読されるはずがないと慢心・過信していた暗号を見事に解読していたのですから...。
だから、真珠湾攻撃には役に立たなかったけれど、ミッドウェー海戦のときには、日本海軍の手の内を全部知っていましたし、山本五十六長官の行動スケジュールの詳細をつかんでいたので容易に撃墜できたのです。そして、日本軍の船舶輸送についても全部つかんでいました。アメリカが苦労したのは、暗号を解読していることを日本軍に知られないようにすることだったのです。
そして、駐ドイツ大使の大島浩が親ナチスでヒットラーとも親密な関係にあって、ドイツ軍の配置状況を詳細に東京へ報告していたのまで、その全部をアメリカは把握していたのです。これが連合軍のノルマンディー上陸作戦のとき大いに生かされました。親ナチスの大島浩は、客観的には連合軍のスパイのような役割を果たしていたのでした。まさしく歴史の皮肉です。
暗号解読にはインスピレーションのひらめきがなければいけない。しかし、同時にファイルを几帳面に整理整頓していなければ解読できない。
暗号解説には優れた記憶力をもつ大勢の人間が必要だ。
アメリカ陸軍の1万500人の暗号解読集団の70%が女性だった。海軍では80%。アメリカ人の暗号解読者2万人のうち1万1000人が女性だった。しかも、大学卒の優秀な若い女性たちです。全米からワシントンに集められ、秘密の施設で解読作業にあたりました。
暗号解読には、読み書きの能力と計算能力、注意力、想像力、労を惜しまない細やかな気配り、優れた記憶力、くじけずに推量を重ねる力が求められた。単調な骨の折れる作業に耐える力と、尽きることのないエネルギーと楽観的な心構えが必要だった。
暗号解読の成功は、診断力があるかどうかで決まる場合が多い。診断力とは、部分だけでなく、全体を見る能力、通信を偽装するために敵が考案したシステムの根本を見抜く能力のこと。
暗号解読者にかかる重圧、ストレスは大変なものがあり、神経衰弱になって、立ち直れない人も少なくなかった。
日本の暗号製造機でもあるパープル機は、連合国にもっともすぐれた情報をもたらしてくれた。日本人は自国の暗号システムの安全性に無邪気なほどに自信をもち、ひんぱんに通信文をやりとりしていたため、連合国に多くの貴重な情報を与えた。3年間に1万通以上の情報が連合国に与えられた。そして、真珠湾攻撃を予測できなかったのは、日本の外交官が、それを知らされていなかったから。
ナチス・ドイツのエニグマ(暗号機)は、ポーランドの暗号解析チームが解読した。そして、イギリスでは2000人の女性職人が解読機「ボンブ」を操作した。
アメリカは、日本軍の暗号を解読したことによって、日本陸軍部隊の兵力、装備、種類、位置、配備をつかんだ。敵の日本軍がどこに宿営していて、どこに向かっているか、アメリカは正確に知っていた。
そして、暗号が解読されたせいで貨物船が撃沈されたと日本が察しないようにアメリカは計略をめぐらした。日本が送信してきたもので、アメリカ軍が読めないものはひとつもなかった。これでは日本軍がアメリカに負けるのは当然のことですよね。物量以前に、情報戦での日本軍はアメリカに負けていたのです。それにしても日本の過信は今も続いていますよね。今でも日本民族は世界に冠たる優秀な民族だなんて吹聴する人がいるのですから、恥ずかしい限りです。そんな人は、この本をぜひ読むべきだと思いました。
(2021年7月刊。税込3960円)