弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

アメリカ

2007年6月12日

イラク占領

著者:パトリック・コバーン、出版社:緑風出版
 イギリスの勇気あるジャーナリストがイラクのバクダッドで取材を続けていて、アメリカによるイラク戦争後のイラクの実情をレポートした貴重な本です。思わず居ずまいをただして読みすすめました。本当に悲惨な現実がそこにあります。こんなひどいイラク占領に日本は加害者として加担しているのです。情けない話です。いったいテレビや大新聞のジャーナリストはどうして沈黙を守り続けるのでしょうか。イラクで日本の航空自衛隊が何をしているのか、ぜひとも報道してほしいと思います。
 1991年の湾岸戦争でパパ・ブッシュが国連の支持を背景に多国籍軍を率いて完勝できたのは、中東をイラクのクウェート侵攻以前に戻すという、いわば保守的な戦争だったことが大きい。それは世界が慣れ親しんでいた原状回復のための戦いだった。だから、支持は世界中から、中東の内部からも集まった。しかし、20年後、息子ブッシュが始めた戦争は、とんでもなくラジカルな企てだった。世界の権力バランスを変えてしまうものだった。アメリカは単独で産油国を征服しようとした。アラブ世界でもっとも強大な国だったイラクを植民地として支配しようというものだった。
 ブッシュの終戦宣言(2003年5月1日)から3年たった。アメリカ軍はこれまで2万人もの死傷者を出しているが、その95%がバクダット陥落以降である。今でも毎月  100人以上のアメリカ兵が死んでいます。前途あるアメリカの青年たちが、イラクの民衆の憎しみを買って殺されているのです。しかし、イラク人の死者が桁違いに多いことも忘れるわけにはいきません。
 イラク戦争がベトナム戦争とよく似ているものの一つにゲリラ戦法がある。即席爆発装置(IED)は、重砲弾を数発、ワイヤでつないで、路肩に埋め、有線あるいは無線でリモートコントロールして爆発させるものである。アメリカ軍の死傷者の半数はこの犠牲だ。
 アメリカはイラク人の基本的な生活レベルの向上に失敗した。
 サダム政権下ではイラク人の50%が飲料水にありつけたが、2005年末には32%。電力供給も、石油生産も同じ。労働力の50%以上が失業している。仕事のない数百万の怒れる若者たちは、絶望のあまり、武装勢力に入るかギャングになるしかない。
 アメリカの統治者のいる安全なグリーンゾーンに入るためには8ヶ所もの検問所をくぐり抜ける必要がある。グリーンゾーンとそれ以外のイラクとの違いは、サファリパークと本物のジャングルの違いだ。
 イラク社会とは、中央政府への忠誠以上に地域的な忠誠心の網の目である。スンニ派、シーア派、クルドの三大社会がある。しかし、イラクの人々は部族とか氏族とか血縁の大家族とか、村や町や都市にも強い忠誠心を抱いている。
 イラクの人口2600万人。うちシーア派1600万人。スンニ派とクルド人がそれぞれ500万人ずつ。イラク人のほとんどが自動化された近代兵器で武装している。
 ジョージ・ブッシュはイラクで実際起きていることに対し、知識もなければ、関心も持っていない。同じく、イラク暫定統治機構(CPA)のブレマーも、イラクのことなど何も知らないと自分で認めた男だった。アメリカのイラク当局者は、イラク人が考えていた以上に無能で、官僚主義だった。アメリカは世俗的なイラク人指導者の影響力を誇大視し、宗教指導者の力を軽視した。サダム後のイラクで勝利をおさめたのは、伝統宗教ではなく、宗教民族主義である。
 イラクの自爆者とは一体、何者なのか? 自爆攻撃するには、ゲリラ戦と違って、軍事的な経験や訓練を必要としない。必要とするのは、ただひとつ、死を覚悟したボランティアがいればいい。そして、そのボランティアは常にありあまっている。
 当初は、イラク人よりサウジアラビア人、そしてヨルダン、シリア、エジプトから来ていた。しかし、今ではほとんどがイラク人であり、スンニ派アラブ人だ。
 イラクを破壊しているのは、次の三つだ。占領とテロと汚職。
 アメリカ軍の2004年の犠牲者は、戦死848人、戦傷7989人。2005年は戦死846人、戦傷5944人だった。
 自爆攻撃があるのは午前7時半から10時までのあいだ。自爆者はペアか三人でチームを組んで攻撃するようになった。最初の一人が少し離れたところで自爆して注意をそらしたすきに、二人目がホテルのコンクリート防壁に突っ込んで自爆、それによって出来た防壁の開口部に爆薬を満載したトラックの三人目が突進していく。
 スンニ派の88%がアメリカ軍への攻撃を容認(うち積極的が77%)。シーア派でも、攻撃容認が41%。 アメリカ軍は、イラク軍に供与した新鋭兵器が自分たちにつかわれるのではないか。武装抵抗勢力に売り飛ばされるのではないかと恐れている。
 イラク復興のため、過去3年近くに数十億ドルもの巨費が投じられたはずなのに、バクダットに工事用クレーンは一つも見かけない。月に20億ドルもの石油収入は一体どこに行ったのか。ブレマー指揮下に、88億ドルが使途不明となった。アラウィ首相の政府の下で、20億ドルものお金が消えてしまった。アメリカの再建事業経費のなかで警備費が占める割合は、全支出の4分の1を占めるまでになった。
 バクダットは平穏な日でも、1日に40体ほどの遺体が死体保管所に運びこまれる。バクダットは、殺戮が増えているのかどうかさえ見当のつかない、異常な暴力の街と化している。こんなイラクにしてしまったアメリカとイギリスの責任は重大です。そして、それを強力に支えている日本政府は、それを黙認している私たち日本人の責任もまた決して軽くないと思います。
 こんなイラクの殺伐としたなかで子どもたちが育っています。いったい彼らが大人になったとき、イラクに平和な社会は実現するのでしょうか・・・。

2007年6月 4日

アメリカを揺り動かしたレディたち

著者:猿谷 要、出版社:NTT出版
 著者には大変失礼なのですが、どうせアメリカのファースト・レディたちを天まで高く持ちあげるばかりの本かなと思って全然期待しないまま読みはじめたのでした。ところが、意外や意外、大変に面白いアメリカのレディーたちの話が満載でした。
 帝国主義国家、世界の憲兵気取りのアメリカのなかでも、人種差別に反対し、民主主義と弱者のために全身全霊うちこんでたたかう女性たちの伝統が、昔も今も根強く生き続けているのですね。読んで、うれしくなりました。
 ポカホンタスというアメリカ先住民の女性の名前は聞いたことがあるだけでした。
 ときは1603年です。日本では関ヶ原の戦いが終わり(1600年)、徳川家康が江戸に幕府を開設した年です。イギリス人がアメリカにやって来て、餓死寸前の状態になったとき、先住民のインディアンが救いの手を差しのべました。そのときの首長の娘がポカホンタスです。やがて逆にイギリス側に捕らえられ、植民地のなかで英語を教えこまれ、キリスト教を信じるようになり、名前もレベッカと変えるのです。そして、ポカホンタス19歳のとき、イギリス人青年と結婚し、子どもを生みます。イギリスに渡り、国王とも会見します。ところが、天然痘にかかって、わずか22歳でなくなってしまいます。
 アメリカ大陸の先住民は、天然痘やチフス・インフルエンザなどへの免疫力をまったくもっていなかったため、次々に死亡し、人口が激減したのです。
 ストウ夫人の『アンクルトムの小屋』は、私は小学生のころ、ラジオの読み聞かせ番組で聞いていたように思います。この本にはストウ夫人も紹介されていますが、同じころ、奴隷救出に生命を賭けていたハリエット・タブマンという黒人女性をここでは紹介します。ハリエット自身も奴隷の生まれでした。そのころ、アメリカ南部から北部へ黒人奴隷を逃亡させるための地下鉄道が組織されていました。ハリエットも、その車掌に救われたのです。地下鉄道といっても、地下鉄ではなく、線路を走る鉄道でもありません。秘密裡に黒人を安全な北部へ脱出させる人々のことです。
 そして、ハリエットは、今度は救う側にまわります。10年間にメリーランドに潜入すること19回、あわせて300人もの奴隷の救出に成功したというのです。たいしたものです。当時、メリーランドの奴隷所有者はハリエットの首に4万ドルの賞金までかけていたそうです。
 フランクリン・ローズヴェルト大統領夫人のエレノア・ローズヴェルトも注目すべき女性だと思いました。エレノアは幼いころに両親に死別し、厳しいしつけを受けたので、内気でおどおどした、愛情に飢えた少女だったというのです。
 ローズヴェルトは、小児マヒにかかり、脚がマヒした。そのうえ、秘書との浮気もあった。しかし、エレノアは離婚せず、大統領である夫を支えた。たとえば退役軍人たちが政府に抗議行動を起こしたときには、エレノアはそのなかに乗りこみ、話し合い、一緒に歌をうたった。エレノアは国連のアメリカ代表の一人になり、国連の人権委員会の議長にもなって、広島の原爆被災地をはじめヨーロッパの戦禍の跡はほとんど見てまわった。
 すごいものですね。日本でいうと、三木元首相の奥さんが平和憲法擁護という革新的立場で活躍しておられるのを知っていますが、ほかに誰かいるのでしょうか?
 同じくフランクリン・ローズヴェルト大統領を支えたもう一人の女性が紹介されています。フランシス・パーキンズです。
 フランシス・パーキンズは大学を卒業したあと中学校の教員となった。しかし、それにあき足らずにシカゴへ向かった。貧しい人たちのセツルメントで働くようになったのです。私も大学生時代、セツルメント活動に没頭していましたので、とても共感を覚えました。そして、ここでの経験を生かして、労働長官に指名され、就任するのです。アメリカで初めての女性閣僚でした。フランシス・パーキンズは、1935年に社会保険法を成立させた。このときまで、アメリカには養老年金や失業保険の制度がなかった。彼女は、シカゴでのセツルメント運動をしていたときの夢を実現することができた。
 フランシス・パーキンズは、アメリカ史上に残る不況時代の労働長官として、12年間FDRの下でがんばった。すごいアメリカ女性がここにもいました。アメリカの民主主義はこういう人たちに支えられてきたのですね。
 1870年に憲法修正15条によって黒人に参政権が認められた。しかし、それは男性だけだった。黒人奴隷の解放をめざしてたたかった白人女性には、まだ選挙権が認められなかった。女性の選挙権は、第一次大戦が終わったあとの1920年のこと。
 レディー・ファーストは偽善的な性格をもつもの。強者である男性が弱者である女性へのいたわりと庇護なのである。アメリカは、今も昔も、完全に民主主義が貫いている国ということでは決してないのです。もちろんアメリカに学ぶべきところは多々あります。しかし、アメリカ一辺倒というわけにはいきません。

2007年5月25日

陰謀論の罠

著者:奥菜秀次、出版社:光文社
 9.11テロはアメリカの自作自演だというビデオは私も見ました。全面的に信用したわけでは決してありませんでした(アポロが月世界には実はおりていないという説については、一時、まんまと信じこまされてしまったのですが・・・)が、どうもおかしいところがあるとは思っていました。でも、この本を読んで、なーんだ、そういうことだったのかと、納得できました。9.11がアメリカの自作自演でないこと、そして、この陰謀論は反ユダヤ団体がかきたてているものだということを知りました。実に説得力ある本です。
 著者は日本で最強のオタクを自称しています。いったい本業は何なのでしょうか。9.11に関する報告書全文を読んだというのですから、それだけでもすごいものです。
 WTC(世界貿易センター)の残骸はスクラップとして外国に輸出された。しかし、それは証拠隠滅工作ではない。大事な部分は保管されている。そして、瓦礫のなかから、ボーイング機の残骸、乗客の遺体や持ち物が見つかっている。
 陰謀論はWTCに衝突したのは軍用機だというけれど、ボーイング機だということです。この点は、私も信用していませんでした。
 WTCをつくった設計者はボーイング707を想定して、707が衝突したくらいでは大丈夫だと考えていた。しかし、767は707よりも、タテも横も1割長く、重さで2割も重い。だから、767の満タンのガソリンが燃え上がったこともあってWTCが崩壊したのは合理的な説明が可能なのだ。
 ペンタゴンに突っこんだボーイングの残骸がなく、開いた穴と機の形状があわないという指摘がある。実は、この点を私も疑ったのです。しかし、実は、ペンタゴンに開いた穴はボーイングの形どおりだったし、機の残骸はそこらじゅうに散らばっていた。機長を殺めたカッター、自分証明書、お金、宝石、遺体の一部も見つかっている。子どもの靴、小さなスーツケース、動物のぬいぐるみ、制服を着た搭乗員の遺体の一部も見つかった。そして、ボーイングの機体にみあう穴があいていたのです。
 ユナイテッド93便については、回収された遺体のうち、10数人は身元が判明した。これは遺体の指紋や歯科治療記録にもとづく。単に穴があいているだけではない。
 乗客は携帯電話ではなく、機内電話をつかって地上へ電話をかけて話した。
 テロリストたちが飛行機を操縦できた理由については、通常のハイジャックと違って、着陸とか離陸という高度のテクニックを必要としなかったことがあげられています。
 目を開かせる本でした。うかうか騙されないようにしないといけませんね。

2007年5月18日

借りまくる人々

著者:ジェイムズ・D・スカーロック、出版社:朝日新聞社
 アメリカのクレジット依存症社会の実情を紹介した本です。
 かつてのアメリカでは、黒人や移民といったマイノリティが質素に倹約をして生活しているコミュニティが存在し、倹約と勤勉によって強い絆で結ばれた中産階級の地域ネットワークを作りあげていた。ところが、この地域コミュニティやネットワークは、「お手軽な」クレジットが怒濤のように流れこんできたために、わずか数年で崩壊してしまった。それほど豊かでない地域では銀行に代わって、小切手換金所や質屋といった消費者金融と小口の高利貸しが軒を連ねている。
 借金の文化の基本は恐怖の文化である。秘密にせず堂々とさえしていれば恐怖を感じないですむなどとは、現実を知らない単純な考え方である。
 取り立て業は消費者の愚かさを利用する。回収代行業界には100万人もの業者がいる。その数は10年間で2倍に増えた。この業界の転職率は非常に高い。月末にノルマを達成できない場合は即座に解雇される。クレジット会社が年に何度も取り立て業者を代えるのもまれでない。
 最近のテクノロジーは革新的で、債務者が電話に出ると、回収代行業者の手元のスクリーンには、債務者のクレジットの明細が自動的に表示される。これによって業者が債務者の困窮状態を知ることができるし、また債務の完済に利用できる別のクレジットカードも画面に示される。回収業者がまず探すのは、限度額に達していないクレジットカードで、まだ残高があれば、それで借金を支払ってもらうことができる。大部分の人は急病や失業などの不測の事態にそなえて、この残高には手をつけないようにしている。それを回収業者から隠しおおせるものではなく、確実に取り立てられてしまう。回収業はどうやっても債務者を追いつめ、支払わせる。
 取り立て業で成功するには、相手をいかにたくみにだますかにかかっている。電話の相手に対して返済の義務があると思わせることである。経験のある回収代行業者なら、相手に返済の倫理的義務を追及しているものと思いこませることができる。回収代行業者は、自分が実際の債権者であるかのように振る舞う経験を積んでいる。取り立て屋の手取りは回収分の20〜50%だ。
 秘訣は、相手をどこまで追いつめられるかだ。甲板の端まで追いつめれば、彼らは恐怖からパニックに陥る。そこで引き戻してやれば、欲しいものは何でも手に入る。狙いは債務者がひた隠しにしておいた貯え、つまり緊急時に備えて貯えておいた資金である。
 アメリカの連邦破産法の改正は、債務から解放されたいとする人に、一律に資産調査を義務づけている。これによって申請者の半分以上が排除される。また、破産を検討している者は、申立前の6ヶ月間は自費でクレジットの相談を受けなければならなくなった。
 破産は基本的には中産階級のためのセーフティネットのはずだった。
 アメリカ人の2000万人から4000万人が銀行口座を持っていない。
 アメリカでは年間150万人もの中産階級が破産申立をしていました。それを止めようとするのが今回の連邦破産法の改正です。そんなに政府の狙いどおりうまくいくものか、しばらく様子を見守りたいと思います。

ナイトフォール

著者:ネルソン・デミル、出版社:講談社文庫
 ニューヨークのJFK空港を飛びたった民間飛行機がミサイルによって撃墜される。テロリストの仕業か。しかし、そうではないらしい。では、一体誰がした・・・。
 飛行機が墜落していく情景をたまたまビデオ撮影していたカップルがいた。しかし、それは不倫のカップルだったため、名乗り出ることができない。でも、そこをなんとか突きとめないと真相に迫ることができない。ところが、真相究明しようとする一線の捜査官に対してFBI上層部から、なぜか圧力がかかる。一体どうなってるんだ、この国(アメリカ)は・・・。
 上下2巻の文庫本ですが、上巻の出しを読んでしまったら、いったいこのジレンマを乗りこえて、どうやって解決にたどり着くのか。その謎ときはどうなるのか。ついつい最後まで引きずりこまれてしまいます。実は、1996年7月17日に実際に起きたTWA800便墜落事故で乗客、乗員230人が犠牲になった話が、ついにはあの2001年9月11日のWTC崩落事故に行き着いてしまうのです。著者の構想力のすごさに、思わず、うーんと唸ってしまいました。
 暗転する大国アメリカの闇を描く大傑作小説というオビの文句も、あながちウソではありません。
 5月の半ばとなり、雨が降ったあと、蛙の鳴き声を聞きました。下の田圃もそろそろ田植えの準備が始まります。田圃に水をはると、蛙たちが一斉の鳴きはじめます。求愛の歌だそうですので、やかましいけれど我慢するしかありません。わが家の門柱のくぼみに小さなミドリ蛙が棲みついています。インターフォンを押す横にいて、顔だけのぞかせています。まるでわが家の守り蛙みたいです。

2007年5月16日

軍産複合体のアメリカ

著者:宮田 律、出版社:青灯社
 ブッシュ大統領の一族は、軍産複合体の出身である。ブッシュ大統領の曾祖父のサミュエル・ブッシュはオハイオ州の企業であるバッキー・スティール・キャスティングス社を経営していたが、この会社は兵器を製造していた。1917年にワシントンに移り、連邦軍事産業委員会の小型武器・弾薬・兵站部門のメンバーとなった。サミュエル・ブッシュは、アメリカの軍産複合体の創設に深く関わった人物だった。また、ブッシュ大統領の祖父にあたるプレスコット・ブッシュもアメリカの兵器製造を行う企業に関与していた。
 ロッキード・マーティン社がアメリカで最大の軍需産業である。従業員16万5000人という巨大企業だ。1998年の国防総省からの受注額は123億ドルでトップ。第二位はボーイング社の108億ドル。ロッキード・マーティン社は世界最大の軍需産業で、核兵器や弾道ミサイル防衛の分野が主要な企業活動の分野である。2000年には国防総省から150億ドルの契約を得た。さらにエネルギー省から核兵器の開発のために20億ドルの予算を獲得している。
 冷戦が終わっても、アメリカ政府が「ならず者国家」「イスラムの脅威」「悪の枢軸」など、「敵の脅威」を強調するのは、軍需産業の価値の低下を恐れるからである。アメリカは、経済構造自体が戦争によって支えられているといっても過言ではない。だから、アメリカは常に「次の敵」を探すことに躍起となっている。
 アメリカの軍需産業は、9.11のテロによって多大の恩恵を受けた。その株価が9.11以降、上昇したことにも示されている。巨大な軍需産業のほかに「テロとの戦い」で利益を上げたのは民間の警備会社である。警備会社は、国防総省と関わりをもち、また退役軍人たちが主導的役割を果たし、アメリカの同盟国の軍隊に対する訓練や警察官の養成を行っている。
 MPRIは、警備会社の代表的なものであるが、世界中の軍隊の訓練を行い、また、国防総省と契約している。MPRIは元陸軍参謀長のカール・ヴォノによって設立された会社で、20人の元軍幹部が取締役になっている。9.11のあと、このMPRIを所有する会社の株は2倍にはねあがった。
 ベクテル社は、イラク復興で最大の恩恵を受けた企業である。戦後18ヶ月間に、6億8000万ドルの契約を確保した。
 チェイニー副大統領がCEOをつとめたことがあるハリバートンは2004年に、その株価が3000%も上昇した。ハリバートンはブッシュ政権によるイラク占領と復興事業で数十億ドルの利益をあげた。
 アメリカの政府高官が軍産複合体の幹部になることは、アメリカ政府と軍産複合体の癒着ぶりを如実に示している。
 アメリカのテロ戦争開始後の軍事費の増加で潤ったのは、ロッキード・マーティン、グラマン、レイセオン、ボーイングといった巨大軍事産業である。
 増額された軍事費は、アフガニスタンでの戦争につかわれたというよりも、新鋭の
F/A−18E、F−22戦闘機、現在は消滅したソ連の潜水艦を追跡する目的で計画されたヴァージニア級の潜水艦、トライデントD5潜水艦発射型の弾道ミサイルの購入に用いられた。これらの兵器が対テロ戦争とは何の関係もないことは明らかである。
 アメリカの軍需産業は、農業に次いで多額の政府補助金を受けとっている産業である。そして、アメリカ製武器は世界各地に売却され、アメリカ製武器の購入国10位以内に中東の5ヶ国が入っている。エジプト、クウェート、サウジアラビア、オマーン、イスラエルである。
 1976年以来、イスラエルはアメリカの経済的・軍事的援助の最大の受領国となり、2003年までに受けた援助総額は1400億ドルにもなった。イスラエルは毎年30億ドルの援助をアメリカから得ているが、それはアメリカの対外援助総額の5分の1を占める。このイスラエルは、アメリカからの経済援助の25%をその国防産業に投資している。イスラエルの労働力の5分の1は軍事関連の産業に雇用されている。イスラエルからイランへの武器売却額は毎年5億ドルから8億ドルであった。
 中東は世界でもっとも武器を輸入している地域である。1950年から1999年までのあいだ、アメリカの武器売却先の38%が中東諸国であった。
 2005年のアメリカの軍事費支出額は世界全体の48%、1兆1180億ドルだった。
 アメリカが軍事力を行使しようとしたとき、私たちは戦争で巨利を得る軍産複合体の存在を想起し、戦争に対して疑義や反対の声を上げ、アメリカの戦争の不合理さを説いていかなければならない。
 著者は最後にこのように強調しています。まったく同感です。資料にもとづく説得力ある明快な論理に思わず拍手を送ってしまいました。日本がアメリカに引きずられると、とんでもないことになってしまいます。クワバラ、クワバラです。

2007年5月10日

もう戦争はさせない

著者:メディア・ベンジャミン、出版社:文理閣
 ブッシュを追いつめるアメリカ女性たち、というサブタイトルのついた本です。アメリカの「平和を求める女性たち」の運動は、コードピンクとも呼ばれています。
 イラク戦争に送られて戦死した息子をもつシンディー・シーハンの次のような訴えが紹介されています。ブッシュ大統領がハード・ワーク(つらい仕事)と言ったことを受けて、シーハンは次のように言ったのです。
 あなたは、テレビで見ているし、毎日、戦死者と負傷者の報告を受けているから戦争のつらさはよく知っていると言ったわね。でも、本当のつらい仕事がどのようなものか、分かってなんかいないわ。つらい仕事というのはね、かけがえのない自慢の勇敢な息子が、現実には何の根拠を今も持っていない戦争に連れ去られてしまって、二度と戻ってはこないことを思い知らされることよ。・・・。
 でも、なかでも一番つらい仕事はなんだか分かるかしら。それは、家族が何世代にもわたって忠誠を誓い命がけで戦ってきた国家の指導者が、ウソをついて国民を騙していたという事実を受けとめなければならないことよ。
 次は、自爆テロによって一人娘を失ったイスラエルの平和活動家(女性)のロンドンでのスピーチの一部です。
 世界のすべての人々は、はっきりした二つのグループに分かれています。平和愛好グループと戦争屋グループとに。いま、地上では悪の王国が支配しています。指導者と名乗る人たちが、民主的手段をもって、神の名において、国家の利益の名であれ、あるいは名誉や勇気の名においてであれ、殺し破壊する権利と好むままに卑劣と不正をおこなう権利、そして若者を殺人屋にしたてる権利を得てきました。
 私の娘は自分を殺した若者とならんで眠っています。騙された二人が眠っています。少女は両親と国が自分を守ってくれているから、良い子には誰もひどいことをする人はいないから、安全だと信じて町を横切ってダンス教室に行こうとしたのです。
 パレスチナの若者は、自爆テロでは事態を何も変えることはできず、天国に行くこともできないのに、騙されて行けると信じていたのです。
 うーん、そうなんですよね。若者を騙し、その未来を奪う大人たちの責任は重いですよね。
 ブッシュ大統領は記者会見が嫌いだ。強いられなければ開かない。彼は、記者の座席表をあらかじめもらっていて、それを見ながら、お気に入りの記者を選んで質問させている。
 記者たちは、大統領選挙の遊説中に取りこまれ、ごほうびとしてホワイトハウス詰め記者となっていく。選挙中に点数を稼いで、人脈をつくり、親しくなっておく。だから、相手の言うことに挑戦するような質問を避け、初めから自己規制をしている。
 アメリカでは、黒人の子ども100万人が貧困生活をすごし、黒人の成人男女100万人が刑務所にいる。毎晩25万人をこえる退役軍人がホームレスとして路上に寝ている。
 いやあ、なんど読んでもすごく悲惨な現実です。こんなアメリカを日本が見本とすることのないようにしたいものです。
 アメリカでの女性運動の前進に大いに期待します。日本でも負けないように取り組まないと、アメリカみたいに可愛い息子たちを戦死させることになってしまいます。

2007年4月26日

人が人を裁くとき

著者:ニルス・クリスティ、出版社:有信堂
 裁判員のための修復的司法入門というサブ・タイトルがついています。ノルウェーの学者による本です。ノルウェー事情も少し知ることができました。
 日本とノルウェーは似ている。日本の人口10万人あたりの囚人は60人。ノルウェーは69人。いずれも極めて低い。ヨーロッパは通常、人口10万人あたり100人前後で、ロシアで569人という多さ。アメリカは、それよりもっと多くて、なんと763人。アメリカの刑務所人口を増やし続ける犯罪政策は、ナチスのホロコーストに類似していると厳しく批判しています。
 ノルウェーでは、民事事件は、市町村における調停を経なければ裁判所に訴えることができないという調停前置主義がとられている。これは江戸時代の日本と同じですね。
 ノルウェーでは、市町村ごとに刑事調停委員会がつくられており、主として少年犯罪を対象とし、一般市民から選ばれた調停員が斡旋することにより、加害者と被害者とが面談し、双方の合意が成立すれば起訴しないという刑事調停委員会が機能している。
 アメリカでは囚人は210万人いる。このほか、保護観察や仮釈放など監視下にある人々が470万人いる。それを加えると680万人となり、これは10万人のうち2267人にもなる。これは人口の2.4%を占める。青壮年の男性(18〜44歳)に限って比率をみると、なんとその12人に1人が刑罰法令の監視下で生活している。
 ロシアは囚人が減っている。2003年1月の囚人は86万人であった。
 なぜ、アメリカでこのように爆発的に囚人が増えているのか。その原因の一つに、アメリカ中産階級の功利主義的な世論がある。
 アメリカが犯罪が増加しはじめたのは1975年ころから。
 アメリカでは、ここ15年間ほど、毎年1000人規模の刑務所が1000ヶ所ほど増設されている。それにともない、刑務所関連の建設・給食・警備などの刑務所依存産業が急成長し、それが囚人数増加への加力団体となっている。
 刑務所が民営化すると、刑務所の公共的機能よりも、事業収入が刑務所産業に対する事業評価の基準となる。できるだけ少ない人員、経費、設備で、できるだけ多くの囚人を収容し、それを効率的に管理することが刑務所産業の目標となる。囚人数の減少は経営を悪化させる。犯罪があるから刑務所があるのではなく、刑務所があるから囚人が増加する。判断基準となるのは、犯罪人を放任した場合の犯罪取締の費用と、それを刑務所に収容した場合の費用との比較なのである。犯罪は、もはや矯正の対象ではなく、戦いの対象となり、隔離すること自体が目標となっている。
 犯罪処罰手続は効率化され、刑罰量定表がつくられている。そこでは刑罰を緩和する事情は一切考慮されず、逆に犯罪状況はすべて刑罰を加重する事情として考慮される。
 アメリカには選挙権をなくした成人が390万人いて、そのうち140万人は黒人である。これは黒人男性の13%にあたる。彼ら貧困層は選挙権を行使できないため、政治に対する影響も行使することができない。
 アメリカでもイギリスでも、自らを、あるいは自分の党を、犯罪と戦うリーダーであると誇示するための激しい競争がある。通常、政治家や政党は、お互いにより厳しい手段を主張しあうのが政策になっている。ほかに残っている見せ場がほとんどないからである。犯罪との戦いが政治家の正当性を主張するのに不可欠となっている。
 アメリカは世界でもっとも富める国である。にもかかわらず、福祉の代わりに刑務所を用いる国である。たえず自由について語る国でありながら、世界最大の刑務所を有している国である。
 アメリカみたいな国に日本をしてはいけないとつくづく思います。悪いことをした連中はどんどん刑務所に入れてしまえばいいんだ。こういう考えを持つ国民は多いと思いますが、それはすごく危険です。だって、みんないずれ出てくるんですよ。お隣さんが社会への復讐心に燃えていたらどうしますか。やっぱり、いろんな人がいるわけなんですから、それなりに折りあいをつけて生きていくしかありません。
 わが家の庭のチューリップは終わりかけ、今はアイリスがたくさん咲いています。青紫と白がほどよく調和した心優しいアイリスのほか、元気溌剌な真っ黄色のアイリスも咲き出しました。ジャーマンアイリスもようやく咲きはじめました。青紫の気品のある花です。アイリスより一段と豪華な雰囲気です。福岡県弁護士会館の通用口のそばに咲いているのは、わが家の庭から持ってきたものです。今が見頃ですから、ぜひ見てやってくださいね。朝、自宅を出るときにはフェンスに咲くクレマチスに向かって、行ってきますと挨拶しています。赤紫色の花です。春はいろとりどりの花が咲いて、いい気分です。

2007年4月 6日

不都合な真実

著者:アル・ゴア、出版社:ランダムハウス講談社
 地球環境は人間が悪化させていることを視覚的に訴えた写真集のような本です。アル・ゴアはクリントンが大統領のときの副大統領で、現ブッシュ大統領と接戦の末、当選できなかった人物です。アメリカの団塊世代の一人でもあります。
 映画も公開されましたが、私は見ていません。世界的に評判になったあと、アメリカでは、ゴアも自宅ではエネルギーの無駄づかいをしていると問題にしたグループがいました。事実かもしれませんが、アル・ゴアが告発している資源の乱費、そして地球環境の悪化は事実だと思います。みんながライフスタイルを見直すべきだというのは、まさにそのとおりです。
 ただ、アル・ゴアはアメリカ保守層のチャンピオンとしての限界があるせいなのか、マックなどのファースト・フードそして世界的大企業が環境悪化を加速させている促進要因であることを問題にしていないのが残念です。
 地球の温暖化の例証として、写真がいくつも紹介されています。キリマンジャロの山頂に山岳氷河がなくなってしまった。スイス・アルプス、アラスカなどの氷河がすっかり消えたり、大きく後退している写真には息を呑みます。
 巨大ハリケーンが次々に発生してアメリカを襲った。
 地球全体の降水量は20世紀に20%増加した。しかし、逆にアフリカのサハラ砂漠などでは降水量がひどく減っている。
 温暖化のため、北極も南極も氷が減っている。
 南極の皇帝ペンギンを描いたドキュメンタリー映画「皇帝ペンギン」は実に感動的でしたが、実はこの50年間に70%も減ったという。恐ろしい。
 地球を夜、衛星からとった写真が紹介されています。日本は夜でも明るい。もちろん、北アメリカも明るい。ところが、アフリカや南アメリカなどでは、火が燃えて赤くなっている。森林の破壊がすすんでいることを意味している。
 アメリカは京都議定書を今なお批准していない。先進国ではアメリカとオーストラリアのみ。アメリカの我がまま勝手は許せませんよね。
 庭に植えているタラの木の芽を初めて食べました。昨年は、芽がぐんぐん伸びているのを、あれよあれよと見守っていて食べ損ないました。タラの芽を天プラにして食べたのですが、柔らかくてとても美味でした。少しばかりえぐみも感じましたが、それがかえって春を感じさせてくれました。アスパラガスもついでに天プラで食べてみました。わが家の庭のチューリップは相変わらず毎朝、目を楽しませてくれます。2週間はたっぷり楽しめます。

2007年3月27日

日本は略奪国家アメリカを棄てよ

著者:ビル・トッテン、出版社:ビジネス社
 ついに母国アメリカの国籍を捨ててしまった元アメリカ人による警鐘の書です。うんうん、大きくうなずきながら最後まで一気に読んでしまいました。
 著者は1941年生まれのアメリカ白人です。私がまだ大学生のころの1961年に日本にやってきて以来、日本に住んでいて、日本で会社を経営しながら、京都に住み、ついに2006年に日本へ帰化しました。在日38年目のことです。
 著者は、その前、アメリカに帰国するとき、要注意人物としてブラックリストにのせられ、空港では徹底した身体検査を受けたといいます。テロ防止法の対象者とされたわけです。ひどい話ですね。アメリカ政府を単に批判したというだけなのに・・・。
 日本政府は在日米軍基地を維持するために、年間5000億円を負担している。在日アメリカ軍兵士1人あたり1400万円。日本政府が日本国民1人あたりにつかっている社会保障費はなんと、その100分の1の13万円でしかない。にもかかわらず、アメリカ軍が日本を守ってくれる保障は何もない。
 日米安保条約があるから、アメリカは日本を守ってくれるというのは、実は脳天気な幻想に過ぎない。
 つい最近、福岡県内の築城基地にアメリカ軍がやってきて演習をはじめました。ついに本土が沖縄なみになったわけです。
 アメリカ軍の公務中による民間人への損害賠償について、日米地位協定では、アメリカだけに責任があるときの賠償金は、アメリカが75%、日本が25%を負担することになっている。アメリカだけに責任があっても、日本は賠償金を分担させられる。いかにも不平等な協定である。これには、私もまったく同感です。
 アメリカでは、低所得層の家庭に生まれた子どもが、所得の上位5%の階層へと行ける確率はわずか1%。残る99%は、そのまま低所得層にいるか、せいぜい中所得層に上がるのが現状だ。それに対して、上位5%の階層に生まれた子どもが成人してもそのままの階層に属することができる確率は22%。まるで違う。
 アメリカでは、貧しい家に生を受けた人は、生涯貧しい。いつも解雇に怯え、公共料金の支払いを危惧し、医療保険にも入れない。努力すれば幸せになれるという夢や希望は、微塵もない。ところが、裕福な家に生を受けた人は生涯、裕福な人生を送ることができる。そして、生涯、快適に安全に人生を満喫するために、一度得た権利を決して手放そうとはしない。
 アメリカの二大政党というのは、実は表面だけで、その実体は一党支配に思える。共和党も民主党も、政策は似たり寄ったりである。表向きは違う顔をした政党だが、資産党ないし富裕党という、一つの大政党しか存在していない。
 資産党(富裕党)の中に、共和派と民主派という二つの派閥があって、政権交代は単なる派閥争いにすぎない。そして、いずれの派閥(党)も、戦争が好きだ。クリントンになって以降の民主党は、民主党という看板を掲げた共和党になったという実感をもっている。
 資本主義とは、資本家の所得や富を最大限にするためのシステムである。たしかに清算や消費は増大するが、地球環境に余計な負荷がかかってしまう。山や海、川は汚染され、ゴミは増え、石油などの地下資源は一層すくなくなっていく。資本主義はまったく不完全なシステムだ。
 私は昨年、突然、花粉症になってしまいました。今年も、目や鼻がやられてしまいました。鼻の詰まりがひどいのです。人間って、鼻で息をしていることを、しみじみ実感させられてしまいました。この花粉症にしても、単にスギ花粉の大量発生だけでなく、ディーゼル黒煙など、大気汚染がバックグラウンドに必ずあると私は考えています。そうでないと、昔から花粉はあったのに、なんで、現代人が大量に花粉症にかかって悩まされているのか、十分な説明がつかないと思います。いかがでしょうか?

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