弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

宇宙

2011年2月25日

ドラゴンフライ(上・下)

著者  ブライアン・バロウ、   筑摩書房 出版 
 
 ドラゴンフライとはトンボのこと。ロシアの宇宙ステーション、ミール。軌道上の巨大なトンボ、それがミールである。ミールとは平和ないし世界を意味するロシア語。
 ソ連がミールを打ち上げたのは1986年のこと。ロシアの宇宙飛行士が滞在した。そして、1992年からミールにアメリカの宇宙飛行士が滞在するようになった。アメリカ人とロシア人が狭い宇宙船で共同生活できたのは、不思議といえば不思議ですね。
 ロシアのミールにアメリカの宇宙飛行士が乗るようになったのは、アメリカの大統領選挙を前にしてクリントン優勢に焦ったブッシュ陣営がマスコミ向けの話題づくりを企図したことからだったようです。動機は不純だったわけですが、結果としては、いいことだったのではないでしょうか・・・・。
1997年に、老朽化した宇宙ステーション・ミールで深刻な事故が発生し、クルー(乗組員)は生命の危機にさらされた。この本は、その実情をつぶさに描き出しています。ぞっとする危機がありましたが、なんとか大事に至らず切り抜けました。この点ではロシア人の粘りとタフさには頭が下がります。
 1996年に重量130トンを超える巨大な宇宙構造物が誕生した。もともとミールの耐用年数は5年。1992年までには、ミール2号が打ち上げられる予定だった。しかし、ソ連の崩壊で、ミール2号の打ち上げは不可能となった。そこで、耐用年数の過ぎたミールを使い続けた。その結果、火災・ドッキングの失敗、酸素発生装置の故障、冷却材の漏出、プログレス輸送船の衝突、停電、メイン・コンピューターの故障などの深刻な事態が1997年にたて続けに起こった。その多くは、ミールの各装置の老朽化や部品の信頼性の低下に起因していた。
これらの難局を切り抜けたことはロシアの宇宙技術の確かさと、ロシア人宇宙飛行士の生存能力の高さを証明している。
以上、この本の末尾にある解説を紹介しました。
衝突事故に対するアメリカとロシアの反応には、両国の有人宇宙飛行計画の違いが顕著にあらわれている。
 ロシア人は真っ暗になったステーションのなかで、落ち着いて仕事に取りかかる。それまでにも異常な状況に陥ったことは何度もあった。そういう状況に置かれたとき、ロシアの宇宙飛行士はアメリカの飛行士よりずっとタフだ。シャトルで機械が故障すると、アメリカのミッションは中止され、修理は地上でなされる。ロシアの宇宙ステーションでは、このような贅沢は許されない。ミールで何か問題が発生したら、ロシア人宇宙飛行士は宇宙空間でその修理をさせられる。だからこそ、ロシア人は経験に頼る修理を20年にわたって積み重ねてこられたのであり、一方、アメリカはそれを書物で読んだことがあるだけということになった。NASAは物事をとことん研究し、ことごとくマニュアルに組み込む傾向があったのに対して、ロシア人は実地でものを修理する技術を発達させた。
今ではシャトルの飛行はしない横断バスに乗るときほどの緊張感しかない、日常のありふれた出来事にすぎない。安全第一に考えるNASAの官僚主義に息苦しいほどがんじがらめに縛られている。
 ケネディ宇宙センターに行くと、宇宙飛行士の仕事は、星を見て、小便をするだけという皮肉たっぷりの言葉が聞かれる。宇宙飛行がこんなにも魅力のないものになったのは、シャトルがシャトル本来の機能を果たしていないから。
ロシアとアメリカでは、ドッキング・システムに違いがあった。これには両国の政治体制の違いが反映していた。NASAでは船長の専門技術と意思決定能力を誇りとしていたので、ドッキングはすべて宇宙飛行士に任せ、手動で行っていた。ロシアでは、一党独裁体制にふさわしく、ドッキング・システムも中央集権的な方法をとり、宇宙船の制御を宇宙飛行士の手から奪いとって、地上管制官の手に握らせた。
ロシアの宇宙飛行士は、ミール内でタバコを吸い、ウォッカを飲んだ。ウォッカは「心理サポート」物資の名目で補給戦プログレスに積み込まれ、ミールに送られた。うひゃあ、ロシア人って宇宙でもウォッカを飲んでいたんですか・・・・。そのため、ロシア人男性の平均寿命は60歳だそうですよ。
ミールに載った宇宙飛行士の半分は宇宙酔いにやられた。激しい頭痛と周期的に襲ってくる吐き気に耐えなければならなかった。無重力状態では、意識を失った者は空中にじっと浮かんでいるだけなので、誰かが一緒にいなければ、その人間が人事不省に陥っていることに気づく者はいない。
ロシア人宇宙飛行士がシャトルを危険だと考えたのは脱出装置がないから。脱出装置のおかげで、長年のあいだに何人ものロシア人宇宙飛行士が命拾いしていた。
 シャトルに自爆装置があるのもロシア人にとっては仰天だった。シャトルがコースをはずれて人口密集地に墜落する怖れがあるという不測の事態が生じたとき、NASAの地上管制官がシャトルを爆破するためのものだ。しかし、ロシアの宇宙船には、そのようなものが組み込まれていたことはない。
宇宙船の実情と宇宙飛行士の大変な実情を知って、改めて驚かされました。すごいものですね。私には、とてもこんな勇気はありません・・・・。
(2000年5月刊。2300円+2400円+税)

2011年1月 7日

宇宙飛行士の育て方

 著者 林 公式、 出版 日本経済新聞出版社 
 
 実に面白い本です。私は宇宙飛行士になれるはずもなく、また、そのつもりもありませんが、宇宙飛行士になるには何が必要なのか、その訓練はどんなものなのか、よく分かりました。
国際宇宙ステーション(ISS)は、10年かけて、アメリカ、ロシア、ヨーロッパ、日本、カナダの15カ国が協力してつくりあげたもので、サッカー場の大きさがある巨大な有人施設だ。
ISSでは尿を飲料水にリサイクルする。以前は、尿や便は廃棄し、水の大部分を地上から宇宙船で運搬していた。NASAは水再生装置を開発した。
ISSは90分で地球を一周するから、45分ごとに昼と夜がやってきて、温度や明るさが目まぐるしく変わる。船外活動をしているときには、そのたびに宇宙服の中を流れる冷却水で体温調節し、暗いときには手元を照らす。
ISSは地球上の高度400キロメーターあたりを飛行しており、そこにはわずかの空気があるため、大気との摩擦で徐々にISSの高度が下がって地球に近づいてしまう。そこで、1ヶ月に1回は、ISSのエンジンを噴射して、高度を上げる。
2010年まで、日本人8人が宇宙に飛び立った。一人目の秋山豊寛氏はTBS社員だったが、TBSは宇宙旅行の費用として22億円をソ連に支払った。す、すごーい大金ですね。いま、個人旅行で10億円出せば行けるそうで、アラブの金持ちなどが申し込んでいるようです。
 今のISSには、日本実験棟「きぼう」があり、そのため、1年から1年半に1回、半年間は日本人がISSに滞在することが認められている。
 宇宙飛行士の選抜基準として、大学で文系を専攻したひとは除かれる。宇宙飛行士で一番に求められるのは状況認識。その場の「空気」を読むのも含まれている。また、条件のなかには「美しい」日本語も入っている。事故の経験を生き生きと伝える豊かな表現力ということだ。
宇宙飛行士(大卒35歳)の本給は36万円ほどである。英語力はTOEICで800点以上。雑談になっても、楽しく会話できるかも問われる。
 二次選抜まで合格すると、長期滞在適正テストがある。窓のない閉鎖施設内に10人の応募者が一週間も缶詰め状態となる。そして、24時間テレビモニターで室外から監視される。面接ではグループディスカッションをする。出しゃばって、よく分かっていないのにとにかく一生懸命な姿勢を見せようとして発言するのは評価が良くない。基本姿勢として、人の意見をよく聞くこと、そして発言が不明確になったときには、的確に質問して、いい意見をさらに論理的に整理する方向に導いていく姿勢が評価される。
 逃げ場のない宇宙では、一緒にいて楽しいやつという仲間からの評価が実はかなり大きい。分かったふりするのが、もっとも危ない。宇宙では生死にかかわる。宇宙に行く前に徹底的に失敗させる。
宇宙飛行士にも恐がりが多い。逆に、怖さを知らない人は危ない。恐怖感があるからこそ、どうすればいいか対策を考える、最後の一瞬まで、宇宙飛行士は、あきらめずに、助ける方策を追い求める。
コミュニケーションの肝は、タイミングを外さず、マメであること。ここぞというときに、労を惜しまずに話す。
いやはやすごい訓練が課されるのですね。閉じこめられて一週間の集団生活なんて、私にはとても耐えられそうにありません。でも、宇宙に行ってみたら、さぞかし爽快、気持ちのいいことでしょうね。
(2010年10月刊。1600円+税)

 あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
 大晦日の夜、近くの山寺へ恒例の除夜の鐘つきに出かけました。30年来、一度も欠かしたことがありません。我が家から歩いて15分、小高い山の中腹にあります。眼下に町の明かりが良く見えます。珍しく雪が降ってきました。年末年始は豪雪に見舞われるという天気予報の通りです。イヤホンでシャンソンを聞きながらじっと立って始まるのを待ちます。ひところよりは鐘をつく人が減りました。最盛期の半分くらいでしょうか。このところ、いつも最前列のグループに入っています。若いお坊さんが今年一年はどうでしたか、新年がみなさんにとっていい年でありますようにと挨拶して鐘をつき始めます。一家の安全を願って鐘をついたあと、紅白の小さな餅をいただいて帰路につきます。
 翌朝、正月の朝は銀世界になっていました。10年ぶりでしょうか。今年がどうぞ平和で穏やかな一年になることを心から願っています。

2010年9月 5日

物質のすべては光

著者:フランク・ウィルチェック、出版社:早川書房

 究極の感覚強化装置は、考える精神である。考える精神は、世界にはもっといろいろなことがあって、多くの点で目に映るものとは異なるということに気づかせてくれる。
 世界についての重要な事実の多くは、わたしたちの感覚に直接とび込んでは来ない。
 今や、物質と光は、まったく別のものという古い考え方は捨て去られた。
 たとえば、質量保存の法則は成り立たない。電子と陽電子が光速に近い速度で衝突すると、出てくるものは、入ってきたものより3万倍も重いことになる。
 すなわち、質量は実際に保存されない。質量は存在の根底ではない。
 E=mc2は、実際には静止している孤立した物体にしか当てはまらない。
光の粒子、つまり光子は、質量がゼロである。それなのに、光は重力によって曲がってしまう。光子のエネルギーはゼロではなく、重力はエネルギーに作用する。
 光子は電気的に中性である。光子は、互いに大々的に反応しあうことはまったくない。 超伝導体の内部では、光子は質量を持っている。超伝導体のなかで速度を落とした光子は、本当の質量を持っている粒子と同じ運動方程式に従う。
 宇宙の質量の大半(95%)は、電子、光子、クォーク、グルーオンから出来ているのではない。二つの種類がある。ダーク・マターとダーク・エネルギーと呼ばれている。これらの物質は、検出されるレベルで光を吸収することはなく、光を放出するところも観察されていない。
 ダーク・エネルギーは、よく分からない存在だ。まるで時空の本質的な属性であるかのように、完璧に均一に広がっていて、いたるところで、また過去から未来にわたって、同じ密度のようだ。
 ダーク・エネルギーは、負の圧力を及ぼす。さいわい、ダーク・エネルギーは、宇宙全体の70%を提供していた。ただ、その密度は水の密度の7×10-30倍しかなく、また、その負の圧力が相殺するのは、普通の大気圧の1兆分の1でしかない。
 分かった気にはさせてくれますが、とても難しい内容の宇宙に関する本です。それでも、宇宙の広大さに思いをはせて、楽しく、分からないなりに読みとおしました。
(2010年4月刊。2300円+税)

2010年5月30日

月のかぐや

著者:JAXA、出版社:新潮社

 いやはや、すごい月の素顔です。これらの写真を見ないと損をしますよ。
 2009年6月、使命を果たして落下した月周回衛星「かぐや」。そこに搭載されていた各種のカメラが撮影した月の写真集です。
直径84キロメーターのクレーター(ティコ)の写真があります。すごいのは、上から見た写真だけでなく、横から見た写真まであることです。このクレーターは、今から1億年前に隕石が月面に衝突して出来たものです。ところが、表面はまるで新しいのです。地球のような大気がないからなのでした。
 「かぐや」は、1000万点以上のデータによる月の詳細地図をつくった。「かぐや」と地球をつなぐためリレー衛星「おきな」も活躍した。
 月世界は、昼と夜が2週間ずつ続く。赤道付近で昼はプラス120度。夜はマイナス  200度。苛酷な温度環境である。
 「かぐや」は月を周回しているため、少しでも重力(物質の引力)が異なる月面上空を通ると、高さが変動する。逆に、ふらつくと、その地点の重力が平均値よりも強いのか弱いのかが、はっきりしてくる。この場所ごとの重力の違いを「重力異常」と呼ぶ。
 月世界についてのたくさんの貴重な写真があって、ちっとばかり月を知った気になりました。やっぱりウサギが住むのは無理なのかな・・・。
(2009年12月刊。1300円+税)

2010年4月22日

宇宙で過ごした137日

著者 若田 光一、 出版 朝日新聞出版

 九大出身の若田光一さん(46歳)は、2009年3月15日から7月31日までの137日間、国際宇宙ステーションに滞在しました。そのときの日記が公開された本です。
 宇宙には空気がなく、陽が当たるところは120度、陰に入ると零下150度。大変な温度差がある。
 日本人初の宇宙飛行に成功したのは、1990年にTBSの記者だった秋山豊寛さん。その後、毛利衛さんなど、計6人の日本人宇宙飛行士が宇宙に飛び立っている。
 宇宙ステーションには、今回初めて日本実験棟「きぼう」が付属し、若田さんはそこで実験を始めた。今回の宇宙滞在には、宇宙ラーメンも持ち込まれた。かなりとろみのあるスープで、濃いめの味付けだ。スプーンですくって食べるといいますから、私たちの食べる普通のラーメンとは違うようです。
 電話ボックスくらいの個室に入って寝る。無重力では身体に無理な力が働かないので、寝がえりや寝違えもなく、快適に眠れる。宇宙酔いに悩まされることもなく運動し、食事もしっかり取ることができた。宇宙では体液が上半身に偏るため、とくに滞在初期には鼻詰まりが起きやすい。
 宇宙ステーションに滞在中の飛行中が一日に使える水は3.5リットル。衣類は洗濯できない。宇宙普段着は蛍光灯でも反応する光触媒をつかって消臭力を高める仕掛けだ。
 おしっこ(尿)を飲み水に変える水リサイクル装置が実用化された。出てくる水は、無色透明で蒸留水と言う感じ。これはNASAが150億円もかけて開発した。トイレから出る尿を集めて、加熱したり、ぐるぐる高速で回して遠心力で分離したりして、飲料水に再生する。
 3カ月に一度だけ、プログレス補給船によって新鮮な食べ物が運ばれてくる。若田さんは、新鮮なリンゴを食べることができた。
 日本の「きぼう」は、開発と製造に7600億円かかった。
 長期滞在する飛行士は、1日2時間の運動が作業予定表に組み込まれている。これを毎日欠かさなくても、一ケ月のうちに下半身は最大2.5%も骨密度が下がる。骨折しやすくなるだけでなく、体内のカルシウムの摂取と輩出のバランスが崩れ、骨から溶けだしたカルシウムが尿に混ざって、尿路結石を引き起こすリスクも高まる。
 宇宙ステーション内の写真がふんだんにあって、ビジュアルに宇宙飛行士の活動の分かる楽しい本です。といっても、高所恐怖症に近い私は、宇宙に飛び出す勇気はありません。本を読むだけでガマンしておきます。
 
(2009年11月刊。1300円+税)

2010年4月19日

時間はなぜ取り戻せないのか

著者 橋元 淳一郎、 出版 PHPサイエンスワールド新書

 実は大変難しい内容で、私なんかとてもとても理解したとは言えません。でも、難解なことに挑戦するのも刺激があって、迫りくるボケの防止に役にいくらかは立つのではないかしらん。そう思って読みなおしてみました。
著者は私と同じ団塊世代です。京大の理学部物理学科の卒業ですから、話が難しいのも当然です。まあ読んでみてくださいな。
重力は感じる力ではなく、見える力なのである。私たちの生身の身体は、決して重力を感じることはできない。
 万有引力とて遠隔力ではなく、光速で伝わる場の振動が重力や電磁気力の正体である。
 色は物理的実在ではない。物理的に存在するのは、さまざまな波長の電磁波だけである。可視領域にある電磁波が網膜細胞に電位を生じさせそれが脳を処理する結果、私たちは色を認識する。赤外線や紫外線など可視領域以外の電磁波は私たちの網膜細胞に電位を生じさせない。その結果、赤外線や紫外線が目に入っても私たちは色を見ない。
 わたしたちは物体に色がついているものと見ていますが、実は、その色は実体がないのですね。ホント、不思議なことですよね。モノに色がないなんて……。
 モンシロチョウの網膜は、可視領域より少し波長の短い紫外線に対して反応する。それゆえ、モンシロチョウのオスはメスの羽に紫外線の色を見る。
 電磁波は、空間を伝播する波動であり、原子は狭い一点に存在する粒子である。本当にそういうものが実在するかと言うと、現在物理学はノーと見ている。唯一、確実に言えることは、観測装置との相互作用の結果、電磁波や原子のようにみえる「何か」が存在するだけである。
 光合成は1万近い化学反応の組み合わせであり、それらの化学反応のすべてが解明されたら、人工的な光合成システムが作られるかもしれない。生命が進化の過程で生み出した驚くべき能力の一つである。
相対論では、物体が速く動けば動くほど、空間はますます縮まり、時間はますます遅れる。もし物体が光と同じ秒速30万メートルで動くと、ありそうにないことが起こる。そのような物体に乗った人から見た空間は、完全にぺしゃんこであり、宇宙の果てまでの距離がゼロとなる。また、時間もまったく止まってしまう。このとき物体の質量は無限大となる。質量無限大の物体などありえないから、物体は光速と同じ秒速30万キロメートルにまで加速することは原理的に不可能なわけである。
 光は物質と違い、秒速30万キロメートルで飛ぶにもかかわらず、質量はない。これは光の特異な性質である。光の立場からみる宇宙はぺしゃんこ、時間は止まったまま、そんな奇妙な世界、時空が縮退した状態である。
 私たちは現在見ている外界の光景を現在の光景だと思っているが、それはすべて過去の光景である。1メートル眼前の恋人の姿は10億分の1秒前の恋人の姿であり、大空を飛ぶ飛行機は10万分の1秒前の飛行機であり、眩しい太陽は8分前の太陽であり、望遠鏡にかすかに浮かぶアンドロメダ銀河の姿は230万年昔の姿である。それらが1本の光の世界線として現在の「私」に届いている。現在の「私」が目にしている光景は、このように、すべて過去である。
 生命は空間的にはシステムであり、時間的には主体的意思である。時間は内観であり、空間として姿を現さない。
生命は秩序であるが、それは無秩序と常に戦う、もろい秩序である。このもろさが主体的意思を生む。なぜなら、もろいがゆえにもろさを補って、秩序を確実なものにするために、生きる意思が必要になるからである。
 みなさん、理解できましたでしょうか?私は理解できないながらも分かった気になったというより、大事なことが解明されつつあるんだなという気になりました。いかがでしょうか……?
 
(2010年1月刊。800円+税)

2009年11月 1日

ALMA電波望遠鏡

著者 石黒 正人、 出版 ちくまプリマー新書

 波というのは、振動を伝える水そのものが移動していくのではなくて、媒体の上に乗っかっている振動だけが移動していく現象である。
 電磁波の場合は、空気のような媒体がなくてもそれが伝わる。電場と磁場の振動、つまり電場が振動すると磁場を誘導し、磁場が振動すると電場を誘導し、ということを交互にくりかえすことによって、宇宙の何もないほとんど真空の状態でも、電磁波が遠くまで伝わる。
 可視光線も電磁波の一種である。可視光線は、波長のうんと短い電磁波である。
 サブミリ波、ミリ波の宇宙からの電波は、大気中の水蒸気に吸収されてしまう。だから、空気の薄い標高5000メートルの高地、しかも高地でありながら平らで、10キロメートル四方以上の広さにパラボラアンテナが展開できるアタカマ高地(チリ)を選んだ。
 温度のあるものは、すべてから電波(電磁波)が出ている。人間の身体からも、36度あるので、それに相当する電波が出ている。
 新書版ではありますが、カラー写真によって宇宙のさまざまな姿が紹介されています。なかでも有名な馬頭星雲の形には驚かされます。まさしく、そこに馬の頭の恰好の星のかたまりがあるのです。
 私たちの生活する銀河系が2億5000万年で1回転するなんていうことを知ると、気が遠くなってしまいます。人間は、たかだか100歳までしか生きられないのです。万年はおろか、2億5千万年前だなんて、さっぱりイメージすることもできません。
 そうはいっても、たまにこんな本に出会い、紹介される宇宙の写真を眺めていると、時の経つのを忘れてしまいます。といっても、確実に年齢(とし)はとっていて、身体の老化現象は隠せないのですが……。
 
(2009年7月刊。950円+税)

2009年10月25日

ハッブル望遠鏡で見る宇宙の驚異

著者 ビバマンボ・小野夏子、 出版 講談社ブルーバックス新書

 毎年、夏の終わりには、寝る前、2階のベランダに出て望遠鏡で月面を観察することにしています。ところが、今年は例年になく、月面を観察することができませんでした。
 天候不順だったとしか言いようがありません。それでも、望遠鏡から覗く月世界は、いつものように「平和の海」をゆくりなく、さらけ出して見せてくれました。寝る前に心の落ち着くひとときです。
 ハッブル望遠鏡で宇宙をのぞいたら、どんな世界が見えるのか楽しみですよね。この本は、見事なカラー写真で、宇宙の果てまでの素晴らしさを味わわせてくれます。
 ハッブル望遠鏡は地上にはない。それは、スペースシャトル・ディスカバリー号で宇宙に打ち上げられた、口径2.4メートルの望遠鏡である。
 地上から天体観測すると、大気の揺らぎの影響が避けられない。それは、川底から空を眺めるようなもの。ところが宇宙へ飛び出したハッブル宇宙望遠鏡は、大気の揺らぎから解放された、初めての望遠鏡である。
 ともかく素晴らしいのです。カラー写真で、この宇宙のさまざまな銀河、星団そして大小さまざまな星がとらえられています。ちっぽけな自分という存在を、しばし忘れさせてくれるのがこの宇宙の星々です。すごいですよね。だって、120~130億光年のかなたの光をとらえたとか言うんです。これって、宇宙の創世記のころの話です。
宇宙に始まりはあるのか、また、終末はあるのか……。考えさせられます。無から有が生じたのか。それとも、ふくらんだりしぼんだりして際限のない世界のなかで生命は翻弄されているのか。いやあ、知りたいものです。
 人間の一生はせいぜい100年。ところが、万年単位ではなく、億年単位で物事を考えようとする人がいるのです。いやはや、無限の宇宙には脱帽です。

 
(2009年7月刊。1429円+税)

2009年5月 6日

すごい空の見つけかた

著者 武田 康男、 出版 草思社
 年齢(とし)をとったせいでしょうか、空に雲がながれていくのを飽きることなく見ていることがあります。とりわけ、近くの小山にのぼって、頂上で上半身裸になって汗をふき、下着をとりかえたあと、ひなたぼっこしながら、はるか上空を漂い、流れていく雲をじっと眺めていると、地球と一体になった気がして、心に安らぎを覚えます。
 この本は、空と雲を取り続けてきたプロ写真家の解説つきの写真集です。空のこと、そして、写真のとりかたの双方を深く知ることができます。
 わたしのカメラは、まだ基本的にフィルム・カメラです。ブログ用にデジカメもつかいますが、長年愛着のあるフィルム・カメラをポイ捨てする気にはなれません。でも、そのうち、フィルム・カメラはきっと使わなくなるでしょうね。だって、フィルムがいつまで売られていることでしょうか……。カセットテープがなくなり、8ミリビデオがなくなったので、全部、CDやDVDに変換してしまいました。
 日の出を見るなら、50分ほど前から空を見ること。空の色は、虹と同じような色の変化が、上から下に連なる。低い空ほど、太陽光があたる大気が濃くなり、赤っぽい色の光しか通り抜けられなくなるからだ。
 空が青いのは、空気分子による散乱のため。青っぽい光は散乱されやすいので、空に散らばり、とくに太陽から90度の方向からは、散乱された光のうち、青い光ばかりが目に飛び込んでくるので、濃い青色になる。
 夕陽が赤いのは、厚い大気を通り抜けるあいだに青っぽい光が散らばってなくなってしまい、赤っぽい光だけになってしまうから。太陽だけでなく、まわりの空も赤いのは、空気の中の雲やチリなどに赤い光が当たるため。
 夕陽が消える瞬間に緑色の光点が印象的に残ることがある。これをグリーンフラッシュという。ふむふむ、そういうものがあるのですね。でも、私は、残念ながらまだ見たことがありません。
 雲が美しく虹色に染まる現象を、彩雲という。すごく綺麗な雲の色です。ええーーっ、こんな雲って見たことないよー…、と叫んでしまいました。
 大気は、朝方より夕方のほうが温度が高く、水蒸気量や浮遊物質も多い傾向にある。だから、朝日は橙色でまぶしく、夕日は赤みが強くて輝きが弱い。
 朝焼け雲は澄んだ色合いで雲の輝きが強く、夕焼け雲は赤みが強くて雲がやや暗い。青い空に美しく色づいた朝焼け雲は、空気の澄んだ朝ならではの光景だ。
 いやあ、空をもう一度よく見てみましょう。そして、その色の移りかわりを体感することにします。澄み切った青空に高くのぼりつめた白い雲を見ると、学生時代、奥那須の山奥で見た入道雲を思い出します。セツルメント活動に夢中だったころのことです。夏合宿の思い出は今なお強烈です。夜にはきゃん分ファイヤーをしました。火を囲んで肩を組んでうたう歌声が心を揺さぶりました。恋い焦がれる思いで異性と話し込み、夜を徹して語り明かしたものです。青空を見るたびに40年前に戻りたい衝動に駆られます。
 
(2009年4月刊。1600円+税)

2009年3月24日

国際宇宙ステーションとはなにか

著者 若田 光一、 出版 講談社ブルーブックス

 国際宇宙ステーションに初めての日本人宇宙飛行士として搭乗した著者の体験をまじえた解説書です。宇宙ステーションというので、地球からはるか彼方にあるのかと思っていましたが、なんていうことはありません。地球のすぐ近くをぐるぐる回っているのですね。
 近すぎて丸い地球の全貌もみることはできないそうです。なーんだ、と思わずつぶやいてしまいましたが、それでも、この本を読むと、宇宙飛行士って大変な仕事なんだなと思いました。なにしろ、狭い狭いスペースで、下手をすると何か月も生活するのですからね。
 トイレも大変です。そして、運動不足解消のために身体を動かしても、好きにシャワーを浴びるなんてことはできません。水は宇宙ではとても貴重品なのです。
 国際宇宙ステーション(ISS)は、1998年11月に建設が始まり、2000年10月末から宇宙飛行士が2~3人ずつ交代で数ヶ月ずつ暮らしている。
 ISSは、地球の周りを90分で一周し、日の出と日の入りが45分ごとに訪れる。
 ISSの中では、毎日、レントゲン写真を数回取られるほどの放射線を被曝する。
 ロシアは、ソ連時代から抜本的なコンセプトの変更はせず、職人芸的な地道な細かい改良を加えていくことで、信頼性の高い確立された宇宙往還システムを作り上げた。
 ロシアの宇宙船ソユーズは3人乗りである。その利点は、システムがシンプルで、信頼性が高く、6か月以上もISSに係留することが可能なため、緊急帰還にも対応できることにある。これに対して、アメリカのスペースシャトルは7人乗りだし、20人の貨物も運べる。
ソユーズ宇宙船は、1回1回が使い捨て。スペースシャトルは再利用される部分が多い。ところが、使い捨ての方がロスが大きいかというと、必ずしもそうとは言えない。事業として長く続くためには、製品を新しく作り替えながら量産していくという形が望ましいのと同じである。
 ソユーズは、宇宙飛行士の立場から言うと、運用性に関して、非常に洗練されている。自働が多く、何より、安全第一となっている。それもあって、ロシア語の習得は宇宙飛行士には必須となっている。宇宙飛行士の基礎訓練1500時間のうち、英語とロシア語に200時間ずつ割いている。4分の1が語学訓練である。語学は、宇宙飛行士にとってそれほど重要視されている。
 宇宙にいると、地上の骨粗しょう症の10倍の速さで骨量が血中に溶け出す。宇宙では毎日、2時間の運動をしていても、2割は筋肉が衰えてしまう。
 ISSのなかの酸素は、水を電気分解して作りだす。水素の方は機外に出してしまう。
 ISSに必要な水の大半は、地上からプログレス補給船で運んでいる。年間6800キログラムになる。運搬費に換算すると、コップ1杯の水が30~40万円になる。うへーっ、こりゃあ高い水ですね。
 そこで、尿を蒸留して水に変え、空気中の湿度を除湿した水や使用済みの水と一緒にろ過・浄化処理して飲料水として再使用するシステムがすすめられている。うむむ、気にしなければいいのですかね……。昔はやった健康法に、朝一番の自分の尿をコップ一杯飲むというのがありました。さすがに私にはできませんでした。
 ISSのトイレはロシア製。アメリカは1900万ドル出して、ロシア製トイレシステムを購入した。コストや信頼性を運用実績に照らして検討した結果のこと。
 宇宙飛行士は、アメリカ100人、ロシア40人、日本8人、ヨーロッパ10人、カナダ6人となっている。
 宇宙飛行士は、こわがりのほうが良い。怖さを知らない人は逆に危険だ。
 宇宙飛行の訓練は、その多くが不具合対策である。
 操縦・航法・交信という作業の優先度を常に意識し、全体像を把握しながら先を読み、的確に運用作業をこなす。これがすべての基本だ。
 宇宙飛行士って、大変な仕事だとつくづく思いました。
 庭にシャガの白い花が咲いています。緑にフリルのついた、すがすがしさを感じさせる純白の花です。日比谷公園にもたくさん見かけます。どんどんはびこっていく生命力旺盛な花です。
 ハナズオウの花も咲いています。赤味の濃いピンクの米粒が枝にびっしりまとわりついたような可愛らしい花です。チューリップは200本になりました。4割ほどが咲いています。
(2009年2月刊。940円+税)

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