弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

宇宙

2023年6月17日

ワンルームから宇宙をのぞく


(霧山昴)
著者 久保 勇貴 、 出版 太田出版

 著者は、どうやら独身のようで、ワンルームマンションで10年も一人暮らし。そして、そのワンルームでやってる仕事は、なんと、広大な宇宙に飛んでいく宇宙探査機をどうやって上手に制御するかを研究すること。ええっ、そんなこと、ワンルームの自分のパソコンで一人で出来るの...、驚いてしまいました。ところが、著者はできると断言しています。
 宇宙機を目的地まで正確に飛ばす方法を考える軌道制御の分野では、宇宙機の運動や制御入力を数学的に方程式化して、その方程式をパソコンで解いて、制御がうまくいくかどうかを確認する。
 自分のパソコンで計算した宇宙機の軌道を初めて見たら、自分の目で宇宙の真理をのぞいたような感覚になるだろう...。いやはや、そんなことが宇宙航学研究所ではなく、ワンルームにある自分のパソコンで可能な世の中なんですね...。
 宇宙機の制御というのは、高校の物理で習う方程式でも、そこそこ太刀打ちできてしまうものなんだそうです。ええっ、えっ、ホ、ホントなんですか...。ウソでしょう。
 著者の研究は、多くの場合、パソコンひとつで完結してしまう。ワンルームの白いデスクにA4サイズのノートパソコンを広げ、ひとり黙々と研究する。うひゃあ、なんだかイメージが狂ってきましたよ...。
 著者は福岡生まれの兵庫県育ち。東大の航空宇宙工学科に入った。宇宙飛行士になるのを夢見て...。ところが、現実には足切り不合格。試験も受けられなかった。いやはや、すごい試験なんですよね。
 宇宙工学は、人間を乗せた宇宙船を正確に月にたどり着かせたり、3億キロメートルも彼方(かなた)の小惑星に60センチメートルという精度で探査機を着陸させる。
 宇宙機の設計での絶対的なルールは、とにかく制限重量を守ること。決められた重量の中で各システムのバランスを絶妙に調整し、ちょうどうまいこと全体のシステムを成り立たせて初めて宇宙機はミッションを遂行できる。
 宇宙空間は熱や放射線で機器が壊れやすく、しかもいちど壊れたら基本的に修理に行けない。そんな厳しい世界で、いかに巧妙に重量リソースを配分して、ミッションの成功率を高めていく。実際には、現実的な安全策を優先したり、機能を切り捨てたりという決断の繰り返しだ。JAXAで働きながら、なんと週1回はボクシングジムに通っているというのです。
 著者の書いていたブログが本になったものだそうです。書くのが好きというのも、いいことですよね。まあ、私も書くのが命ですけど...。
(2023年3月刊。1800円+税)

2022年11月24日

地球を掘りすすむと何があるか


(霧山昴)
著者 廣瀬 敬 、 出版 KAWADE夢新書

 地球の地下を実際に掘ったときの最深は12キロ。わずかとしか言いようがありません。だって地球の半径は6400キロもあるのですから、1%にもなりません。
 そして、地球の内部の核、マントルは赤くなければ、ドロドロでもない。
 地球を12キロ以上に掘りすすめないのは、高温になるため。1キロメートル堀りすすむごとに30度上がっていく。ドリルの先端に取りつけたダイヤモンドは、実は熱に弱い。ダイヤモンドを使わない別の方法を考える必要がある。
 ダイヤモンドは、深さ150キロよりも深いところでしか出来ない。ダイヤモンドが出来るには、それだけ高い圧力が必要になる。
 地球の表面は十数枚のプレートで覆われている。プレートとは、堅い板のこと。大陸プレートと海洋プレートの二つがあり、それぞれが別の方向に異なるスピードで動いている。大陸プレートの移動速度は、海洋プレートよりも遅く、年間数センチほど。たとえば大西洋は少しずつ拡大している。毎年2~3センチほど。ヨーロッパとアメリカは遠ざかっている。
 大陸が分裂したのが2億5000万年前。大西洋は、今も拡大中。
 プレートを動かしているのは、自らの重さで沈み込む力。この力でマントルからマグマを引き出している。海があるからプレートが冷やされ、重くなり、沈み込んでいくという循環が生まれる。
 マントルは岩石でできていて、コアは鉄を主体とする金属でできている。
 地球の表面の7割が海に覆われているが、海の深さは平均3キロほど。すると、表面にわずかに水がはりついている程度で、全質量の0.02%にすぎない。地球の1000分の1の隕石ひとつで、海の全水量と同じだけの水がもたらされる。現在の海の全水量を1海水とすると、太陽系の初期に降り注ぐ隕石によって100海水以上の水がもたらされたとしても、不思議ではない。
 コアは地球磁場をつくっている。磁場がなければ、地上にすんでいる生物は、有害な太陽風や宇宙線にさらされてしまう。
 地球に磁場がなければ、海がなかったかもしれない。海だけでなく、大気もなくなっていたかもしれない。
 火星には昔は海が存在した。火星の海がなくなったのは38億年前のこと。火星ができてから7億年後に海は焼失してしまった。磁場がなくなったからだと考えられている。
 磁場が消滅すると、太陽風の影響を受けて大気が剥ぎとられ、海が消滅した。
 この本では、火星はなぜ小さいのか、月はどうして生まれたのか、まだ完全に解明されていないことが示されています。そして、地球のマグネシウムが多い理由も説明が尽くされていないとのこと。世の中は、まだまだ謎だらけなのですね。そのことが分かっただけでも本書を読んだ甲斐があります。
(2022年7月刊。税込990円)

2022年10月 8日

空のみつけかた


(霧山昴)
著者 武田 康男 、 出版 山と渓谷社

 今から30年以上も前、40代初めに南フランスへの語学研修のツアーに参加しました。もちろん夏休みを利用してのことです。学者のサバティカル休暇を真似た法律事務所があると聞いて(北九州第一)、早速とり入れ、実践したのです。
 夏の南フランスは雨が降らず、夜10時まで明るく、そして食事は美味しく、人々はワインを飲みながらたっぷり2時間かけるのです。人生を味わい尽くすというフランス人の生き方を私も身につけたいと思いました。
 午前中のフランス語教室が終わると、学生食堂で安くて美味しい食事をとります。なんと、ワインつきです。そのあとはまったくの自由時間。広々とした大学構内で空を見上げると抜けるような青空が広がっています。これこそが生命(いのち)の洗濯だと思いました。25歳で弁護士になって20年近くになっていましたから、気分転換が絶対に必要でした。南フランスの青空のすごさは今もくっきり思い出すことができます。
 この本は、たくさんの空の現象を長く観察してきた著者による集大成の写真集です。その一は、年に数回はみられそうな空。その二は、年に1度くらいは見られそうな空。その三は、一生のうちに見られたらラッキー、というレアな空。この3つのステージで空が紹介されています。それにしても笠雲というのは、すごいですね。まるで、UFOです。こんな奇妙な形の曇って、見たことがありません。
 線状降水帯というコトバを最近知りました。そこでは、にゅうどう雲(「入道雲」とは書いていません)が次々に生まれ成長していきます。にゅうどう雲は、真夏そのものの雲ですね...。
 秋空に天高く見えるのは、うろこ雲。これは、空に小さな細胞上の対流がたくさん出来ていて、対流の中に、この雲が発生する。これは私も子どものころから見たことが何回もあります。
 この本では、真っ赤な夕日というのは、実はあまりない、としています。空気の澄んだ場所では、橙(だいだい)色の眩(まぶ)しい太陽が沈んでいく。ハワイの夕日は、眩しくて、とても見ていられない。そうなんですか...。
 日本は湿気が多く、空はかすみがちなので、赤い夕日を見やすい。
 そして、夕日の赤い太陽は、実は丸くない。上下にややつぶれている。これは、上空ほど大器の密度が小さいため。太陽の光が低空ほど浮き上がって見えるからだ。なーるほど。
 太陽の左右に、色づいた輝きが見られることがある。まるで、太陽が他にもあるかのようなのに、幻日(げんじつ)と言われた。
 虹の色は、アメリカでは6色、ドイツでは5色、イギリスは「ニュートン」以来7色。日本では、7色ですよね。こんなに国によって違うものなんですね。
 いくつもの空の写真があって、楽しく眺めることができました。
(2022年8月刊。税込1700円)

2022年8月29日

ブラックホール


(霧山昴)
著者 二間瀬 敏史 、 出版 中公新書

 ブラックホールの姿が見えた、だなんて、不思議ですよね。だって、光が吸い込まれていくんでしょ。その姿が見えるはずありません。なので、ブラックホールの周囲が見えたので、その真ん中の黒いものがブラックホールというわけです。なるほど、なーるほど・・・。でも本当なんんでしょうか。ブラックホールって、いったい何でしょうか・・・。
そこにある物質が詰まっているわけではない。物質のかたまりではなく、時間と空間のかたまり、のようなもの。ええっ、いったい何のことでしょう・・・。ともかく、わけが分からないまま、読みすすめました。この世の中、わけが分からないけれど存在するものというのは、いくつもいくつもあります。コロナ禍が爆発的に増えているのに、行動制限なし。旅行するのも自己責任で自由。ロシアのウクライナ侵略戦争が終わる目途が立たないなか、日本も核をもてという声が強まる不思議さ。日本が核をもったら攻められないなんてノーテンキな幻想でしょう。いったい日本に原発(原子力発電所)がいくつあるのか知っているのでしょうか。休眠を入れたら50ヶ所以上になります。その一つでも攻撃されたら、日本はおしまいなんですけど・・・。
 ブラックホールの中に物質はない。どこにも物質はない。重たい割にはすごく小さい天体。そして重力がとても強い天体、それがブラックホール。
 えぇ、物質がないのにすごく重く、重力がとても強いって、どういうことなんでしょうか・・・。
 ブラックホールの表面は、時間が凍りつくところ。時間の流れが止まるところ。
それではブラックホールをつくった物質、その後にブラックホールに落ち込んだ物質は、いったいどこに行く、行ったのか・・・。これは、今なお答えが見つかっていない現代物理学の宿題だ。
 ブラックホールの正反対のものとしてホワイトホールと呼ぶものがある。このことも知りませんでした。外向きに一方通行の面に囲まれた時空の領域です。
 この宇宙には、大小無数のブラックホールが存在している。これらのブラックホールは、太陽質量の10倍以上重い大質量星の重力崩壊で形成されたものと考えられている。
 かの有名なホーキング博士は、タイムマシンができないことを意味する「時間順序保護仮説」を主張した。ホーキングはいまだかつて未来からの旅行者がいないことがその証拠だとした。そうですよね。映画や小説だとタイムマシンで時空を行ったり来たりしますし、できますけど、いったい父親が母親と巡りあわずに私が存在できるものでしょうか・・・。どう考えてもおかしいです。
 光さえも逃げ出せない時空の領域、それがブラックホール。では、それは何なのか・・・。こんな日常生活とはまったく無縁な思考の遊びのような世界に、しばし浸っているのも心地良いものなんですよね・・・。
(2022年2月刊。税込946円)

2022年3月 5日

さばの缶づめ、宇宙へ行く


(霧山昴)
著者 小坂 康之、林 公代 、 出版 イースト・プレス

福井の高校生がつくったさばの缶詰が宇宙食として採用され、日本人飛行士が愛好しているという、うれしい話です。テレビでもやったようですが、私は知りませんでした。
2020年11月27日、野口聡一郎宇宙飛行士がISS(国際宇宙ステーション)で、「さば缶」をおいしい、おいしいと言いながら食べました。「福井県の若狭(わかさ)高校の皆さんがつくってくれた『さば缶』です」と紹介したのです。
この「さば缶」は、缶を開けても、プシュッと汁が出てきて困るということはありません。
「大変美味しいです。美味しーい!!」
「お魚はジューシーで、しょうゆの味がしっかりしみてます」
いやあ、感激しますよね。高校生が作った「さば缶」が宇宙ステーションで美味しい、美味しいと言って宇宙飛行士から映像で紹介されるなんて、超すごいことです。
「さば缶」を宇宙食にという願いで、14年かけ、のべ300人もの高校生が関わったプロジェクトでした。本当に高校生がつくったの...、という疑問をもつ人がいるかもしれませんが、ちゃんと宇宙食の安全基準を満たした製品なんです。もちろん、しっかりした教師の指導の下ではありますが...。
無重力状態の宇宙船内で汁が飛び散らないよう、「さば缶」の汁をどのくらいの粘度にするか、とろみをどうやってつけるのか、工夫した。結局、くず粉を使って味もしみて、とろみが出ることを突きとめた。
「鯖(さば)街道をISSへ!」
これが高校生チームの合言葉だった。
当初は、小浜水産高校、そして今は若狭高校に吸収され、その海洋学科の高校生たちが担っている。小浜水産高校でつくっていた「さば缶」は、「蒸煮」をする手間をかけるので、生臭さがなくなり、汁も濁りがなく、澄んでいる。地元民に大好評で、いつもたちまち売り切れになっていた。
NASAが有人月面着陸をめざすアポロ計画のために衛星管理手法として「HACCP」をあみ出した。今では、日本でも2021年6月から、すべての食品事業者にこのHACCPによる衛生管理が義務づけられている。これは工程管理を徹底し、記録を残すことに尽きる。
1億円かかるといわれた費用を、30分の1の300万円で小浜水産高校は実現した。そして次は宇宙食への挑戦。
宇宙では味覚が鈍くなるから、味は濃いめにする必要がある。
ISSには冷蔵庫がないので、賞味期限は常温で1年以上が必要。
若狭高校海洋学科に入ると、1年生のときにHACCP基本技術検定の資格試験に挑む。そして、3年生になったら宇宙食「さば缶」をレシピどおりに缶づめを製造する。
読んでいるうちにワクワクしてくる楽しい本でした。高校生の皆さん、ぜひひき続き、いろんな味の宇宙食「さば缶」を開発してくださいね。
(2022年1月刊。税込1650円)

2021年12月13日

宇宙の終わりに何が起こるのか


(霧山昴)
著者 ケイティ・マック 、 出版 講談社

世界は、どのように終わるのか...、火で終わる。今後50億年ほどのうちに、太陽は膨張して赤色巨星となり、水星も金星も軌道全体が呑み込まれ、地球はマグマで覆われ、生物など皆無の、ただの黒焦げの岩になってしまうだろう。菌すらいない、くすぶった燃え殻さえ、やがて太陽の外層に落下し、死にゆく恒星の激しく渦巻く大気の中に、自らを原子としてまき散らしていくだろう。
私たちの暮らす宇宙が、安定した居心地のいいところで、安全に年をとっていける場所だ。そう思いたいが、こんな宇宙観はもはや成りたたない。私たちの宇宙は変化している。
宇宙論においては、明確に定義された「いま」という概念は存在しない。
運動する速度が速いほど、その運動しているものにとっての時間はゆっくり進む。また、非常に重い物体に近づくと、時間はゆっくり進むようになる。
初期宇宙は、一つの巨大な炎だった。この仮説は、完全に確かめられた。
プランク時代とは、宇宙時間ゼロから10秒のマイナス43乗まで。そのあとに大統一(GUT)時代がやってくる。これは10秒のマイナス35乗だけ持続する。宇宙時間の10秒マイナス6乗あたりで、最初の陽子と中性子が形成され、そこに電子も寄り添って、通常の物質の構成要素が出そろった。宇宙時間2分になるころ、宇宙は快適な摂氏10億度にまで冷えた。まだ、太陽の中心よりは熱いが、できたばかりの陽子と中性子が強い力で結合できるほどには低温だ。
宇宙に存在する水素のほぼすべてが最初の2~3分のあいだに生み出された。つまり、私たちをつくっているものの大部分が、宇宙が存在してきたのとほぼ同じ長さの期間、なんらかの形態で宇宙の中に存在してきたということ。
私たちの身体は星屑(ほしくず)で出来ている。つまり、ビッグバンの副産物から成り立っているのだ。
今から40億年もすると、私たちの天の川銀河は、アンドロメダ銀河と衝突し、華々しい光のショーが起こるだろう。
重力とは、物体と物体のとのあいだにはたらく力というより、質量をもつ任意の物体とのあいだにははたらく力というより、質量をもつ任意の物体の周囲に生じる空間の湾曲と考えたらよい。これがアインシュタインの天才的洞察の一つ。
ビッグリップが起きるのは、早くて2000億年後。ふー、やれやれ...。ビッグバンは一度限りの出来事だったのか。それとも、一つの激しい転換点なのか...。
2015年9月14日の午前9時50分45秒。ほんの一瞬、少しだけ背が高かった。そのとき重力波が通常したのだ。重力波の進路内にいたら、少し背が伸び、次に背がちぢんで、横幅が広がる。この変形は陽子の直径の100万部の1程度のものでしかない。つまり、ないに等しいというレベルの話だ。
いやあ、たまには、こんな気宇壮大な話を頭の中にとりこんで、あれこれ空想をたくましくしたいものですよね。自分が死んだあと、いったい世界はどうなるのか、地球はどうなるのか、いつまで人類は地球上に存在しうるのか...。興味は尽きません。
(2021年9月刊。税込1980円)

2021年9月20日

スペース・コロニー、宇宙で暮らす方法


(霧山昴)
著者 向井 千秋 、 出版 講談社ブルーバックス新書

臆病者を自認する私にとって、宇宙で暮らすなんて、考えられもしません。実のところ飛行機だって乗るのが本当は怖いのですから...。
人間が初めて宇宙空間に飛び出したのは1961年4月12日。ソ連のガガーリン少佐だ。人口衛星スプートニク1号が打ち上げられたのは、それより3年半前の1957年10月4日だった。いやあ、これって超々スピードですね。なんだかんだ言っても、宇宙ではアメリカよりもソ連、今のロシアのほうがすすんでいますよね、なぜなんでしょうか...。
まあ、それでもアメリカのスペースシャトルは、地上と宇宙とを39回も往来したとのこと。これはすばらしい。ただ、このスペースシャトルは2011年7月に運用を終了しています。
いま、国際宇宙ステーション(ISS)は、1998年の組み立て開始から、すでに23年間も地球の上空を周回しているとのこと。これまた、すごいです。
宇宙空間に人間が生存するためのもっとも重要な基盤技術は、メンテナンスフリーで長時間使える電力供給システムをつくること。そこでは、宇宙線にさらされる宇宙空間でも耐久性をもつ放射線耐久性に優れた材料による高効率かつ高出力の太陽電池などが考えられている。
人間が宇宙に行くと、骨にふくまれるカルシウム量が減少する。宇宙放射線による人体への影響は無視できない。
宇宙に滞在する宇宙飛行士は、顔と頭に膨満感を感じる。無重力では、血液が下半身に集まらなくなり、反対に上半身の血流が増加する。放っておくと心臓のサイズが小さくなり、機能も低下する。なので、宇宙飛行士について、適切な栄養管理(食事指導)と最適化された運動方法を組みあわせる。
宇宙ステーション内では、意外にも細菌や真菌などの微生物が地上より活発に増殖する。
宇宙飛行士が宇宙空間で船外活動をするとき、宇宙服は通常0.4気圧に減圧する。
ISSの中で、食糧も水も、そしてエネルギーまでもが再生できるというのは驚くばかりです。でも、私は、こんな密閉空間に閉じ込められるなんて、想像すらできません、嫌です。逃げ出したいです。ですから、宇宙空間に出るのが好きで、かつタフな人にまかせて、話を聞くことにします。
(2021年5月刊。税込1100円)

2021年8月 1日

宇宙飛行士選抜試験


(霧山昴)
著者 内山 崇 、 出版 SB新書

「こうのとり」の宇宙飛行に関わりながら、自らも宇宙飛行士として、子どものころからの夢を実現しようとした人による過酷な宇宙飛行士選抜試験の実情が生々しく紹介されています。著者は最後の10人の1人にまでは到達したのですが、残念ながら、最終合格できませんでした。このとき、油井飛行士が選ばれています。
どんなにハードな試験なのか...。
たとえば、エアーカロリック検査。これは、めまいを誘発させる検査。耳に温風(44度)、冷風(30度)を交互に1分間ずつ吹きかけるというもの。かつては、温風冷風の替わりに温水冷水を耳に注入したという。すると、突然、めまいが襲いかかる。ぐるぐるぐると、目が回り、止まらない。そして、深呼吸する。冷や汗をかいていることが自分でも分かる。このあと、回転イスに座らされる。回転イスの速度は1分間に4回転から始まり、5分ごとに速度が上がる。そして、指示に従って頭を倒す。めまいが起きる。瀕死の状態になる...。
うひゃあ、こ、これだけで、もう私は耐えられません。
そして、閉鎖環境試験。いやです、絶対に嫌。こんな試験は私は受けたくありません...。
隔離されたエリアに10人が1週間のあいだ寝泊まりし、ずっとずっとカメラによって監視され、いかも、いろんなタスク(注文というか指示)が課せられます。腕にはアクチグラフという腕時計のようなものをつけさせられ、24時間、活動状況が記録される。部屋には複数のカメラが常時、記録している。すべての発言と行動が監視され、記録される。いやはや...。
シャワーは1人10分。消灯は12時、起床は6時。課題は、たとえば、1日に1時間、4日間で、ひとり100羽の鶴を折る。むむむ、これは、簡単そうで、実は難しい...。
そして、質問を受ける。10人のなかで、選ばれたチームは3人だとして、一緒に組みたい2人は誰。組みたくない2人は誰。その理由は...。
いやはや、これも答えるのが難しいですよね。
宇宙飛行士の選抜試験は、日本(JAXA)は、応募者963人で合格者は3人。
カナダは、応募者は5350人で、合格者2人。日本より10倍もヨーロッパは応募者
8413人、合格者6人。日本は宇宙飛行士になりやすい国かも...。
宇宙飛行士になる試験とは、どんなに苦しい局面でも決してあきらめず、他人を思いやり、その言葉と行動で人を動かす力があるか。その「人間力」を徹底的に調べあげる試験。著者は、最終合格こそしなかったものの、これは、宇宙飛行士として生きる「覚悟」と、ミッションを共にする仲間と築く「信頼」こそが宇宙飛行士として求められている、としています。
今では30億円も出せば、宇宙観光に行けるようです(宇宙に出るだけなら2800万円ですむとのこと)が、宇宙飛行士になるには、そんな巨額のお金ではない、お金に替えられないものが求められるということがよく分かる本でした。若い人には、日本人に限らず、ぜひぜひ挑戦してほしいですよね...。
(2020年12月刊。税込990円)

2021年7月26日

交響曲第6番「炭素物語」


(霧山昴)
著者 ロバート・M・ヘイゼン 、 出版 化学同人

炭素は、私たちの身の回り、どこにでもある。人間の身体も同じ。皮膚や毛髪、血液、骨、筋肉、腱は炭素原子からできる。どの細胞も、細胞内の成分も、炭素原子の強い骨格があるので働く。乳児の心臓は、母乳の炭素からできる。
炭素と炭素化合物こそが、かけがえのない物質世界と宇宙の進化を促す。しかし、この平凡な元素には謎が多い。地球に炭素がどれくらいあるかも、深部の炭素がどんな化学形かも、よく分かっていない。人間の体をつくっている炭素原子には、恒星が生んだもののほか、ビッグバンが生んだものも少しある。カール・セーガンは「人体は星の産物」と言ったが、「ビッグバンの産物」でもある。
太陽をふくめ、星はほぼ水素の集まりだ。太陽は水素を「燃やす」核融合でヘリウムに変え、過去45億年、輝度をわずかに変えてきた。水素の大半がヘリウムになったときにヘリウムも燃えはじめ、やがて炭素ができていく。炭素は宇宙で4番目に多い元素だ。
130億年以上も前、宇宙の誕生から数百万年たったころ、岩の惑星も生命も気配すらない宇宙空間で、最初の恒星が輝き始める。今の宇宙には、1000個の水素原子あたり1個の炭素原子がある。宇宙空間に向けた炭素の盛大な「種まき」は、巨星が寿命を終えるときに起こる。並サイズ恒星の太陽で、中心部で生まれる元素の最終産物は炭素になる。
炭素鉱物の種類は多い。400種をこす。しかも炭素鉱物は多彩きわまりない。多種多彩な炭素鉱物と合成品がなければ、今の社会は成り立たない。高圧の深部で生じる炭素鉱物のうち、その筆頭はダイヤモンドだろう。30億歳より古い炭に埋まっていたダイヤモンドもある。ダイヤモンドは、数十億年のうちに地球内部で進んだ変化を語る。ダイヤモンドの内包物は、地球が150億歳のころにプレート運動を始めたことを教えてくれる。
地球の炭素は、みな宇宙空間から飛来してきた。その主な源は3つ。その一は、太陽風に混じった炭素系の気体。二つ目は、炭素質の隕石(いんせき)。3つ目は、一酸化炭素や二酸化炭素に富む彗星(すいせい)。地球の地殻には2兆トンの1万倍の炭素がある。炭素という元素が地球を守ってくれている。
地球上の元素は、みな循環している。炭素も例外ではない。炭素は大気から地球深部へ向かい、また大気に戻る。このサイクルが続く。
炭素と地球、そして私たちの身体とのかかわりを全面的に考えさせてくれる新書でした。
(2020年5月刊。税込2640円)

 大牟田市民を長く苦しめてきた暴力団事務所が解体されました。7月20日にその前を通ったら、大きな重機が2台動いていて、3階建の建物はすでになく、敷地に残骸が残って片付け中でした。
 この3階建の建物には、ひところは「村上一家」という大きな代紋がかかっていたように思いますが、ともかく、公然たる暴力団の事務所が町中(まちなか)の目立つところにあるなんて許せないことだと前から思っていました。「悪」の拠点がなくなったのはいいことだと思いますが、いったい今は、どこで総会などはやっているのでしょうか...。

2021年7月19日

連星からみた宇宙


(霧山昴)
著者 鳴沢 真也 、 出版 講談社ブルーバックス新書

事件のことや事務所運営で悩みをかかえているときには、宇宙の話に没入するのが一番です。そこには、何十年とかいう単位はありません。はじめから何万光年の世界です。もちろん個々の私たちがそんなに長く生きられるはずもありません。すべては脳内の、いわば妄想に等しい世界です。
さてさて、連星って何...。宇宙に存在する星々の、およそ半数は連星。連星は、ありふれた存在。星の質量が分かるのは連星のおかげ。連星になっていると、2つの星の質量を知る方法がある。また、ブラックホールの存在も連星によって確認できた。
連星とは、重心のまわりを公転しあう星。連星とは、あくまで2つの恒星が回りあっているもの。
シリウスのような1等星は、全天に21ある。このうち6つが連星。春の1等星である、おとめ座の「スピカ」、夏の夜空の、さそり座の「アンタレス」が連星。北極星は、三重連星。冬の代表的な星座であるオリオン座の1等星「リゲル」は4重連星。現時点で判明している最多の多重連星は7重連星。さそり座とカシオペア座にある。
星は、人間よりも、双子で生まれる確率が圧倒的に高い。連星は分裂してできたわけではない。生まれたときから連星だった。
太陽にしても、かつて兄弟の星がいたかも...。太陽から110光年先にある7等星は、年齢、質量、半径、表面温度、そして科学組成が太陽とほぼ同じ。だったら、地球に似た惑星があって、生命体がいたりして...。
太陽系は銀河の中心を2億年かけて1周する公転をしていて、太陽はすでに20回以上も公転している。
全天の肉眼で見える星の11%が二重星か、3つ以上の星が近寄っている。
太陽の寿命は100億年。現在、46億歳なので、一生の半分を終えたところ...。なんと、なんと、人間の100年の寿命とかいうのは、これに比べると、あっというま...でもありませんよね。
連星は、謎のX線源をつくり、通常ならけっして姿を見せないブラックホールの姿を暴き出す役割を果たした。連星がなかったら、人間は存在していない可能性がある。たとえば、硫黄、カルシウム、鉄などは、超新星爆発のときに合成される。
著者は断言する。もしも宇宙に連星がなかったら...、宇宙はかなりつまらない。
なーるほど、そうかも、いや、そうだろうと私も思いました。
(2020年12月刊。税込1100円)

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