弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
社会
2016年11月25日
テロリストは日本の何を見ているのか
(霧山昴)
著者 伊勢﨑 賢治 、 出版 幻冬舎新書
北朝鮮や中国が日本に攻めてきたらどうするんだ。日本の軍備増強は当然だ。
そんなキャンペーンが右側から、しきりに叫ばれています。でも、日本には50以上の「原発」があるのですよ。そこを狙われたら、日本は終わりです。それは、3.11で福島第一原発事故が証明したではありませんか。
日本には、54基もの「原発」が、平べったい弧の形にそってずらりと並んでいる。この状況は、日本の国防を考えたとき、薄氷の上に国を置いているのに等しい、とてつもなく深刻な事態である。
ボクシングにたとえると、大きなアメリカをセコンドに持つも、憲法9条で終了手を縛られたまま、敵に対してノーガードで腹をさらけ出しているようなもの。しかも、この腹からは、3.11の衝撃で臓物が一部とび出している有様だ。この腹が狙われたら、真っ先に逃げ出すのは、セコンド役のアメリカだろう。現に3.11のとき、横須賀にいたアメリカ軍の空母ジョージ・ワシントンは真っ先に逃げ出した。
中国が日本を侵略するなんていうことは考えられない。尖閣諸島を中国にとられたら、日本の本土もチベットのように「侵略」されるというのは、非常にたちの悪い扇動でしかない。
ドローンがテロの手段として使われるようになるのは、もう時間の問題だ。
「フクイチ」(福島第一原発)の現場に身元のわからない人間が立ち入っているのが現実である。日本の原子力産業の現場は、下請け、孫請け、ひ孫請けが引き受けているという旧態依然として世界である。セキュリティが万全などとは、とても言えない。そこにテロリスト集団のメンバーが入らないという保障は、どこにもない。
2008年から2014年までにヨーロッパ諸国がアルカイダに払った身代金は判明しているだけでも146億円にのぼる。そしてイスラム国が得た身代金は、1年間で50億円前後である。
日本はテロのターゲットになりやすい。安倍首相はエジプトのカイロで、ISとたたかうという趣旨の演説をしたが、危ない。イスラム恐怖症がテロリストを先鋭化させる。
現在、日本からの輸出品でテロリストを利しているのは、トヨタの悪路でも走れるトラックやSUVなどの自動車である。
テロリストを攻撃すればするほど「敵」が増えていく。悪循環が止まらない。
著者は、核セキュリティにもっと真剣にとりくむこと、日米地位協定を改定して日本をアメリカと対等な立場に立つものとし、日本「軍」は海外に出ていかないことを提言しています。
豊富な実践にもとづくものだけに、真剣に受けとめて速やかに議論する必要があると思いました。
(2016年10月刊。800円+税)
2016年11月23日
ストーリー311
(霧山昴)
著者 ひうら さとる 他 、 出版 講談社
2011年3月11日、あの日、何が起きたのか、その後、福島で何が起きているのかを11人の漫画家が描いています。
いま、安倍政権は日本の原発を海外へ輸出しようと躍起になっています。先日はインド首相と話しましたし、トルコにも話をもちかけています。幸いベトナムのほうはベトナム側が断念したようです。戦場に近いトルコへ原発を輸出するなんて信じられません。
テロリズムの危険を一体どう考えているのでしょうか。ドローンを使ったテロ攻撃がなされたら、もう防ぎようがありません。そして、いったん「爆発事態」になれば、もう福島第一原発事故以上の大惨事になるでしょう。なにしろ誰も立ち入ることが出来ないのですから・・・。
「原発」輸出の話をマスコミがその危険性を明確にしないまま、まるで大型タンカーでも輸出するかのように気楽な調子で報道しているのに、私は驚きと怒りを禁じえません。それほど日本人は全体として健忘症にかかっているのでしょうか・・・。
この本は、マンガで描かれているだけに、かえってリアリティーがあります。
津波から走って逃げていて、うしろを振り返ってみると、うしろの人の姿が見えなくなっていた。津波にのみこまれた。
福島は放射能で危険だと思い、子どもも自分も逃げたい。しかし、周囲の人は、そんなの考えすぎだという・・・。そんな葛藤もマンガで再現されています。
津波にさらわれて亡くなっていった人、福島第一原発事故のため故郷に戻れない人々・・・。私たちは絶対にそのような現実を忘れてはいけません。
3.11をまざまざとよみがえらせ、思い出させてくれる貴重なマンガ本でした。
書店で注文したら品切れだったので、ネット注文して、ようやく手に入れて読みました。
(2013年3月刊。838円+税)
日曜日に、フランス語検定試験(準一級)を受けました。やはり試験ですから落ちたくありません。この1ヶ月間は朝だけでなく、夜ねる前も書きとりしたり、10年分の過去問を復習しました。本番では、相変わらず不出来なのですが、自己採点では76点(120点満点)でした。なんとかギリギリ合格だと思います。1月に口頭試問を受けます。これがまた難しいのです。でもボケ防止のためにも精一杯がんばるつもりです。最近、フランスへ旅行していないのが残念でなりません。
2016年11月19日
マタギ奇談
(霧山昴)
著者 工藤 隆雄 、 出版 山と渓谷社
私も一度だけ秋田の白神山地に行ったことがあります。ブナの林がありました。といっても車で行ったのです。本当は、自分の足で歩いて登るのでしょうか・・・。
明治35年(1902年)の八甲田山の雪中行軍にマタギが案内人にたったのです。青森連隊のほうではなくて、弘前連隊のほうです。
青森連隊は210人のうち、199人が凍死してしまいました。弘前連隊のほうは、同じころ、同じ場所を行軍していて、マタギのおかげで一人の死傷者も出していません。にもかかわらず、連隊の将校は世話になったマタギを途中で放り出してしまうのです。恩知らずもいいところです。日露戦争(1904年)の直前で、ロシアとの冬場の戦争に備えた雪中行動でした。
青森連隊のほうは、案内人を雇わなかったのです。
「お前ら案内人ごときより優秀な地図とコンパスがある。案内人を雇えというのは、お金が欲しいからだろう。案内人などいらぬ」と豪語し、結局は山の雪中で道に迷い全滅に近い状況に陥ってしまったのでした。その後の日本軍の行方を暗示しているような事件です。
新田次郎の『八甲田山死の彷徨』は、もとの報告書を参照しながらマタギの苦労に何ら触れていない。事実を追及した書物は歴史に埋もれてしまった・・・。
新田次郎の本は私も読みました。こんなエピソードがあったのですね。
マタギは、ただ獲物を獲るだけでなく、山の隅々までを知って大切にしている人のことを言う。もし好き勝手に獲物だけを獲っていたら、いまごろ白神山地には生きものが一匹もいなくなっていただろう。マタギは、ただのハンターと違って、白神山地の番人なのだ。
白神山地は世界遺産に指定され、さらに鳥獣保護区に指定された。そのため、白神山地では一切の猟ができない。マタギという文化は、当然に終わりを告げた。
マタギが何をしていたのかを知るうえで貴重な本になっています。
(2016年10月刊。1100円+税)
2016年11月12日
プルートピア
(霧山昴)
著者 ケイト・ブラウン 、 出版 講談社
アメリカは西のワシントン州東部のリッチランド。ロシアはウラン山脈南部のオジョルスクに、プルトニウムのまち、原子力村をつくった。特異なユートピアが、そこにある。
核兵器製造ラインの全行程のなかで、プルトニウムの製造がもっとも汚い。最終的な製品1キログラムにつき、何百何千ガロンもの放射線廃棄物が生じる。
リッチランドの設計について、デュポン社と陸軍工兵隊が合意すると、まちはわずか18ヶ月でつくりあげられた。
放射能の危険についての知識は、その階級的な差に応じて分け与えられた。放射性溶液にもっとも近いところで働く者は、もっとも訓練を受けておらず、もっとも情報を与えられていない者が多かった。黒人やメキシコ系アメリカ人は雇われず、全住人が白人だった。多数派はプロテスタントで、15%がカトリック、10人がユダヤ人だった。
はじめ、デュポン社は女性の雇用は考えていなかった。妊娠可能な年齢の女性に対する遺伝学的な悪影響を恐れたから。ところが、女性は賃金が安いので、女性を雇うほうが安上がりだったことから、女性が雇われるようになった。
1940年代までに、科学者たちは、放射能が不妊症や腫瘍、内膜障、癌、遺伝学的変異、早老といった病状と早期の死をもたらすことを知っていた。
ソ連では、原子力計画の指導者たちは、放射線の危険に対して無頓着な態度をとった。自らを放射能汚染にさらすことは、工場の書かれざる規約の一つだった。
労働者は、100~400レムを被曝した。400レムは初期の放射線による老化を生じるのに十分な量で、これは、慢性的な疲労、関節痛、骨の粉砕を招き、最終的には癌や心臓病、肝臓病をひきおこす。
ソ連初の核実験は秘密主義で行われたが、核爆発を隠すのは難しかった。
アメリカのリッチランドには自由企業はなく、自由な出版権もなかった。
組合活動をする者は、左翼で、裏切り者で、不忠な者として嫌われた。組合攻撃は便利なものだった。
ソ連では、チョコレート、赤肉、そしてウオッカが工場の労働者に与えられた。これらが放射性同位体を浄化するのに役立つと考えられた。
若い女性が突然老けてしまった。半分以上が50歳になる前に癌になった。
そして、新しい病気、病気の若者、工場労働者の死因は、国家機密とされた。
アメリカでは、全年齢の癌発病率が1950年から2001年までに85%も上がった。かつては医療的に稀だった幼少期の癌がアメリカの子どものもっとも多い病気になった。
ロシアの子どもの3分の1しか、健康な状態で生まれない。
放射性汚染物質の恐ろしさがひしひしと伝わってくる本です。この目に見えない敵に人類が勝てるはずはありません。ノー原発、ノー核兵器と叫びましょう。ところが、アベ政権は核兵器廃絶の取り組みに、国際社会で公然と「ノー」と宣言したのです。信じられない暴挙です。やめてください。なんでもアメリカ頼みでは世界と日本の平和は守れません。
(2016年7月刊。3000円+税)
2016年11月 9日
戦争のリアルと安保法制のウソ
(霧山昴)
著者 西谷 文和 、 出版 日本機関誌出版センター
中東の現地に何度も足を運んで取材しているフリージャーナリストが中東の現実を紹介した貴重な小冊子です。
かつてイラクは、「中東の日本」と呼ばれた。人々は勤勉で技術力が高く、大学まで教育費は無償だったので、学力レベルも中東トップクラスだった。そして、首都のバグダットは「平和の都」と呼ばれていた。
イラクと日本は、戦後にアメリカから占領されたという点で共通している。しかし、日本では戦前の支配層が戦後も基本的に温存されたのに対して、イラクでは、40万人のイラク軍を解雇しただけでなく、フセイン政権の幹部そして官僚を追放してしまった。その結果、イラクは無政府状態になった。
イラクが無政府状態になったので、欧米のゼネコンがイラク復興費に群がった。
バグダットには、シーア派とスンニー派が混在していた地区も多かった。ところが内戦が始まると、人々は逃げ出した。大規模なアメリカによる空爆で逃げ出さなかった人々が、内戦が始まると家を捨て、故郷を捨てて逃げ出した。その結果、バグダットは、チグリス川の西側がスンニー派、東側はシーア派しか住めない分断都市になってしまった。
シリアという国は、東側には広大な砂漠が広がっていて、人口は雨の降る西側に集中している。ISの支配する油田からの収入は、1日2億円にのぼる。ISは3万人から5万人もの兵士を有し、700万人の「国民」に税金をかけている。
指導者のバグダディーやザルカウィは「飾り」なので、いくらでも取り替えが効く。
だから、アメリカが無人機でいくらISの幹部を暗殺してもISを弱体化させることはなく、逆効果でしかない。
アメリカがイラク侵略戦争を始めたのは、フセイン退治というより、石油利権を狙ってのこと。アメリカが効果のない「空爆」にこだわるのは、戦争がもうかるから。トマホークミサイルは1発数千万円、劣化ウラン弾は50~100万円。オスプレイは1機56億円。
安倍政権は恐怖をあおることで、軍事費をどんどん増大させている。社会保障や教育予算を削って、防衛費だけを伸ばしている。
「おい、日本人。おまえは何をしに来たのか。日本はアメリカの手先だ。日本人は、この国から出ていけ」
ついにイラクの人々から私たち日本人は、このように嫌われるようになったのです。悲しいです。残念です。
大勢の子どもたちが家を失い、故郷を失ってさまよい歩いています。そして傷つき、殺されています。そんな映像があります。
著者の撮った写真、ドローンによるアレッポ市街の動画もみましたが、戦争の悲惨さのほんの一端を実感しました。アベ政権は、そんな戦争に加担しようというのです。怖いです。止めさせたいです。黙っていないで、声をあげましょう。貴重な小冊子(88頁)です。ぜひ、手にとってみてください。
(2015年11月刊。800円+税)
2016年11月 5日
きばれ長崎ブラバンガールズ
(霧山昴)
著者 藤重 佳久・オザワ部長 、 出版 学研
福岡の精華女子高校の吹奏楽は私も一度だけ見聞したことがあります。そのマーチングしながらの吹奏楽には、つい見とれてしまいました。その精華女子高の吹奏学部を全国屈指の名門校に押し上げた指導者が定年退職し、長崎の活水高校に移り、そこでも吹奏学部を指導して、またたく間に九州大会を勝ち抜いて全国大会へ出場したというのです。すごいです。
この本には、そこに至る苦労が女子高校生たちの思いとともに明かされています。読み物としても、本当によく出来ています。幕明け前の心理状況そして、演奏が始まってからの音楽の推移が豊かに再現されていきます。その筆力にも圧倒されます。
その指導者の名前は、藤重佳久。実は初心者が大切。演奏は半年がんばったら、どうにか一人前まで成長できる。先輩が初心者の面倒をみることで、バンド全体の力が上がってくる。人間関係も良くなる。初心者でもやれるという可能性を生徒にも周囲の人々も見せてやりたい。
活水には、精華からの転校生もいたし、東京からやってきた生徒もいた。そして、人数が足りないのを中学生が補った。
マーチングは体を動かすので、非常に健康的。そして動きを視覚的にとらえられる。これは重要なこと。座奏は基本的に音だけで、聴覚の世界。目には見えない。形もなければ、言葉も、具体的なものもない。ところが、マーチングでは、音楽と連動した動きによって、視覚と体で具体的に取り組むことができる。生徒の姿勢も表情も良くなる。それに、お客さんも喜んでくれる。やはり動きがあったほうが目で見え楽しめるし、分かりやすい。
つくろうとしているのは、うねるような、しなやかな音楽。
音楽はデジタルではない。一定でないところに音楽の面白さ、人間らしさがある。
コンサートでは、まず演奏者が楽しんで演奏すること。そして、作品を完成させ、その感動を観客に伝え、楽しんでもらう。これが何より大切。
コンクールも、コンサートのように人を楽しませ、自分たちも楽しむ。これが基本。
笑い顔がいい。それは、口のまわりの筋肉をもっともうまく使える形だから。演奏が非常にフレキシブルで楽になり、ハイトーンも低い音も出るようになる。
演奏が上手な生徒は、生活態度もきちんとしていて、真面目。上手な人のやり方を真似ること、観察して盗んで自分のものにすることが必要。
コンクールで良い成績を収めるより、人柄の良い人間として育ってほしい。そのためには、たくさんの人間のなかでもまれる必要がある。社会に出てからでは遅い。
相手が喜ぶ演奏をする。相手に伝わる音楽をすることが大切。思いやりがあるから、良い演奏ができる。
女子高生に接するときには、決して嫌われないこと、必ず平等に接すること。まんべんなく全員に目配りし、差をつけず、一人ひとりに声をかけるのが大切。
良い音楽を奏でる生徒は共通している。性格が明朗活発で、元気がいい。声も大きい。それだけ日常においても表現力が豊かだ。日常の表現力と音楽の表現力はリンクしている。
ここまで読んでくれば、いちどぜひ活水のブラスバンドとマーチングを見て聞きたいですよね。読んで元気の出る、いい本でした。
(2016年5月刊。1300円+税)
2016年11月 1日
安保法制を語る!自衛隊員・NGOからの発言
(霧山昴)
著者 飯島 滋明・佐伯奈津子ほか、 出版 現代人文社
アフリカ(南スーダン)にいる日本の自衛隊員がついに戦争に巻き込まれようとしています。「平和な国・ニッポン」という貴重なブランドが今はがされようとしているのです。残念です。
安保法制が日本国憲法9条を踏みにじるものであることは、最高裁の元長官や内閣法制局の元長官、憲法学者のほとんどが声を大にして叫んでいます。
この本では、「戦地」へ行かされる自衛隊員や危険な紛争地帯で活動しているNGOの活動家が切々と訴えています。
自衛隊内では思想教育がなされていて、共産党や自衛隊を敵視するものは敵だと教え込まれる。選挙が間近になると、「自民党に入れろ」と言われる。
自衛隊は、海外で軍隊として扱われない。ジュネーブ条約やハーグ条約の捕虜規定が適用されない武装集団である。だから、どんな殺され方をしても、そのひどさを国際刑事裁判所に訴え出ることはできない。
そして、戦死しても生命保険の対象外になる。イラク特措法では最高9000万円だったが、今は6000万円が最高額。そして、どんな場合が最高額になるのか、明確な基準はない。
予備自衛官は、1年間に5日間、訓練に参加する。1日8100円が支給され、別に月4000円の手当が出る。
防衛大学では、1ヶ月に11万円近い学生手当とボーナスが年に33万円9千円をもらえる。
アフリカで日本人が殺し、殺されることが、なぜ「日本を守る」ことになるのか、とても理解しがたい。むしろ、テロを日本国内に誘引してしまう危険のほうが現実化するだろう。
現役の自衛隊員は、なかなか声を上げられないので、退職者が代弁している本です。この視点も欠かせないと思いました。
(2016年5月刊。1500円+税)
2016年10月29日
悪夢の超特急・リニア中央新幹線
(霧山昴)
著者 樫田 秀樹 、 出版 旬報社
リニア中央新幹線って、日本にとって百害あって一利なし、ですよね。そんなこと、詳しく知るまでもなく、一見明白だと思います。だって、東京と大阪を2時間ちょっとで行けるというのに、それを1時間に短縮して何が変わるというのですか。
ところが、この本を読むと、莫大な国家経済の損失というだけでなく、放射能汚染をまき散らしたり、電磁波被害を拡散させたり、自然環境を破壊したり、とんでもない巨悪の計画だということが如実に示されています。
こんな計画は直ちにストップさせるべきです。
なぜ、時速500キロでなければいけないのでしょうか。運転士はおらず、事故にあったとき、乗客が仮に無事だったとしても、何キロも歩いて脱出口を目ざさなくてはなりません。
岐阜県では、日本最大のウラン鉱床地帯にトンネルを開ける可能性がある。
新幹線の3倍以上の電力を消費するので、それこそ原子力発電所を必要としてしまう。
強力な電磁石を使用することから電磁波が発生する。それによる人体への悪影響が心配される。
すでに2兆2千億円もの借金がある会社が、さらに9兆円もの事業に乗り出すことには大きな疑問がある。
ところが、一般のマスコミはリニア新幹線のかかえる問題を報道しようとしない。
いやはや、とんだ税金のムダづかいであり、国民の安全と健康無視の計画です。ゼネコンと一部政治家・暴力団のために日本という国が動いていることを実感させられます。こんなムダづかいを止めたら、もっと福祉や教育、人材育成にお金をつかえます。日本という国の流れを早く変える必要があります。
(2016年8月刊。1600円+税)
2016年10月25日
ルポ・ニッポン絶望工場
(霧山昴)
著者 出井 康博 、 出版 講談社α新書
日本に暮らす外国人は223万人。昨年より11万人が増えた。この外国人の半分以上が実習生と留学生。実習生は19万3千人(15%増)、留学生は24万7千人(15%増)。
日本語学校は、日本語のできない留学生も大歓迎。初年度の学費が70万円。半年分の寮費18万円(月3万円)も前払い。月3万円の寮は、風呂もトイレ、台所もない6畳間に3人が詰め込まれる。
ベトナム人留学生は、2010年に5000人だったのが、2015年には5万人。
2015年にベトナム人の検挙件数は3315件で、前年比3割増。在日外国人の7%でしかないベトナム人が4分の1の犯罪を占め、中国人より多い。窃盗は34%、万引きは57%がベトナム人の犯行。
ベトナムでは、日本留学ブームの真只中にある。日本への留学は、欧米にない特徴がある。それは留学生でも、簡単にアルバイトが見つかること。
3.11福島第一原発事故のあと、中国と韓国からの留学生は減少したまま。いま増えているのは、ベトナムとネパール出身者。ベトナム人5万人、ネパール人2万人。
ベトナムからの出稼ぎを受け入れているのは、台湾、韓国そして日本くらい。ベトナムから日本にやってくるとき150万円ほどの費用がかかり、それを借金してやってくる。借金を返さないと、担保に入れた畑や家を没収されるから、日本で奴隷労働を続けるしかない。
ベトナム人留学生の多いのは九州に本部をもつN大学(日本経済大学のことでしょうか・・・)。このN大学は、出稼ぎ目的の偽装留学生で成り立つ大学なのだ。
フィリピン人の介護士、看護師の受け入れはうまくすすんでいない。日本語の国家試験を受けて合格しなければいけないのだが、その合格率が低い。
これまで来日した介護士は2000人をこえるが、国家試験に合格した介護士は400人ほどでしかない。2009年、インドネシア人看護師82人が受験したが、合格者はゼロ。2010年に、やっと3人が合格した。日本語のハードルは高い。
ブラジルからの日系人は、32万人いたが、今では17万人ほど。フィリピン人のほうが23万人で、上回っている。その多くは、「日系ビザ」で来日する日系フィリピン人。
著者は、「留学生30万人計画」は即刻中止すべきだと主張しています。出稼ぎ目的の留学生が歓迎される国は世界のなかで日本だけ。
日本人がやりたがらない仕事(きつい、やすい仕事)を留学生にさせるなんておかしいですよね、たしかに。いろいろ考えさせられる本でした。
(2016年7月刊。840円+税)
2016年10月23日
ルポ・保健室
(霧山昴)
著者 秋山 千佳 、 出版 朝日新書
いまほど学校に保健室が必要なときはない。この本を読んで痛感させられました。
子どもたちが、もっと家庭で、学校で大切にしてもらっていれば、保健室の必要性はそれほどでもないのでしょう。でも、働く若者が使い捨てされる社会の仕組みが強固なものになっていて、生存競争を勝ち抜いた強者のみがのさばる世の中ですから、弱者の代表たる子どもたちにひずみがいくのは必至でしょう・・・。
生徒に学校で好きな場所アンケートをとると、保健室とトイレの人気が突出している。それだけ、子どもにとって自分の教室は緊張を強いられる場所なのだ。保健室は、子どもにとって大人から成績で評価されない、否定されることのない貴重な場所になっている。
子どもたちは苦しいことがあると、安らぎを求めて保健室へ吸い寄せられる。とはいえ、はじめから自分の悩みを差し出すわけではなく、お腹が痛い、熱っぽいとか体調不良を訴え、あるいはただ雑談する。
養護教諭は、そんな子どもたちの発するSOSの小さなサインに目を光らせる。そして他愛もない話から、子どもたちの抱え込んでいる悩みを探り、引き出していく。
一年中、マスクを手放せない「マスク依存」の子が少なからずいる。それは、自信のなさの表れ。顔をさらすのを怖がっている。貧しくなくても、いろんな理由からマスクで顔を覆う子がいる。
保健室に来るのは、先生たちからあまり良く思われていない生徒が多い。
LINEでのいじめ、スマホの使い方は、保護者より子どものほうが詳しく、ルール決めが不十分な家庭が多い。その対応に自信がなくても心配無用。相談を受けるときの根幹は、その教師が信用できるかというアナログなものだから・・・。
私は、今もガラケーひとつですし、いつもカバンの底に入れています。スマホなんて使う気もありません。それでも今のところは十分生きていけます。
保健室は社会の鏡。というより、実際には、子どもが社会の鏡で、その子どもの様子がよく見えるのが保健室だということ。
子どもたちを取り巻く社会と学校の深刻な状況の一端がよく分かる本でした。
(2016年8月刊。780円+税)