弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

社会

2016年8月15日

重火器の科学

(霧山昴)
著者  かの よしのり   出版  サイエンス・アイ新書

 著者は、国民が銃の使い方を知っていることは、民主主義の基礎だと主張します。
 徴兵制がなく、戦争放棄を定める平和憲法の下で育った私には、とても違和感のある主張です。
 軍事を理解するには、重火器を理解しなければならない。現代の陸戦では、死傷者の4分の3は砲爆弾によって生じており、重火器をつかった戦闘に勝利できれば、もう小火器をつかう戦闘をする前に勝敗は、ほぼ決している。
 軍事は、政治の重要な部分であり、民主主義国家の主権者たる国民は、軍事を理解しなければ主権者失格である。
 これは正論なのかもしれませんが、実際には、軍事のことが新聞・テレビで語られることはほとんどありませんので、軍事だなんてまったく別世界の話でしかありません。
 大砲はカノン(加農)砲、榴弾砲、臼砲に三分類される。カノン砲は、砲身の長さが口径の30倍以上あり、弾の速度が速いもの。水平に近い角度で発射し、弾速も早いので、弾道は低伸する。
 榴弾砲は、砲身の長さが口径の10倍以上、20倍未満で、射程の長さよりも、大きな弾を飛ばすことを重視している。弾道は、いかにも放物線という形をとる。
 臼砲は砲身の長さが口径の10倍未満で、文字どおり臼(うす)のように太く短い砲身から弾を発射する。極端に上向きの角度で発射されるので、敵にとっては真上から弾が落ちてくる感じになる。射程は極端に短い。
 榴弾(りゅうだん)は、内部に爆薬を仕込んだ砲弾のこと。徹甲弾は、ほとんど鉄の塊で、爆薬は少ししか入っていない。貫通力を強めるため。
 劣化ウラン弾は、爆発するのではなく、比重が大きいので貫通力がある。
 砲身命数は、大口径ほど、また弾の速度が速いものほど短くなる。
 重火器の初歩として、少しだけ知ることができました。
(2014年12月刊。1200円+税)

2016年8月14日

世界一のおそうじマイスター

(霧山昴)
著者  若月 としこ   出版  岩崎書店

 私も羽田空港の利用者の一人ですが、「世界一美しい空港」に選ばれているとのことです。たしかに、羽田空港にはチリひとつ落ちていませんし、トイレも清潔感にあふれ、安心、快適です。そこで、清掃のプロとして働いている新津春子さんの半生と清掃の極意が紹介されています。
 清掃の仕事は誰でも出来そうだし、「下等な仕事」と見下されそうですが、プロ意識をもって日夜を問わず働いている大勢の人がいることを知ると、決して生半可な仕事ではないことが理解できます。
主人公の新津春子さんは17歳のときに日本へやってきた(帰国した)在留孤児の一人です。中国でいじめにあったり、日本でも大変な苦労をされたようですが、素敵な笑顔で毎日がんばっています。頭の下がる思いです。
 新津春子さんは、ビルクリーニング技能競技会で、日本一になりました。見事な技です。
 羽田空港の利用者は毎日20万人。従業員は3万人。そして清掃チームが500人。
 職業訓練校には建築物衛生管理系ビル衛生管理科という部門があるそうです。新津春子さんは、そこに入って学びました。
新津春子さんは、1個5キロのダンベルを左右にひとつずつ持って、顔の前で、上下に動かす運動を毎朝20分間も続けているそうです。これで両腕だけでなく胸筋、腹筋、背筋をきたえているのです。そして毎日1万7千歩は歩いています。
 新津春子さんがつかっている洗剤は80種類以上もある。用途別に使い分ける。
 さすが清掃のプロです。
 小学校高学年から一般向けの本です。大人が読んでも、もちろんいいのですが、子どもたちが読むと、清掃することの意味を再認識させられ、とても意義深くなると思いました。
(2016年4月刊。1400円+税)

2016年8月12日

キリンビール高知支店の奇跡

(霧山昴)
著者  田村 潤 、 出版  講談社α新書

 売れているビジネス書なので、どこか参考になるところがあるだろうと思って羽田空港の書店で買い求め、読んでみました。
私はビールを飲むのを5年前に止めましたし、飲んでいたときもキリンとアサヒ、サッポロの味の違いは分かりませんでした。エビスだけは味がなんだか違うなとは思いましたが・・・。
だから、キリンのラガービールがキレのいい味だったと言われても、そうなのかなと、思うだけです。そして、アサヒのスーパードライの味も違いが分かりません。ちなみに私はビールを飲むのを止めてからはノンアルコールのビールも一切飲みません。
海外で日本企業がたたかうにしても、日本の地方のあるエリアで勝ち方をきわめていることが非常に大事なこと。そのエリアをよく見て、エリアの特性や住んでいる人、国土とかチャンネル全部をひっくるめて、もっとも適切な正しい手を打って実績をあげることが出来た人間こそ、海外にいっても通用する。
 ふむふむ、なるほど、恐らくそういうことなのでしょうね・・・。
価格営業とは、安売りのこと。価格を下げたり、リベートを厚くしたりすると、一時的にはそれで売上伸びるかもしれないか、長続きはせず、自分の首を締めるだけ・・・。
 それまでのキリンのラガービールは、喉にガツンとくるコクと苦味が特徴だった。それをスーパードライと同じように若者や女性層に受けようと、飲みやすいタイプに変えた。これが大失敗だった。
上に立つリーダーは、自分が考えて確証の持てることしか部下に言ってはいけない。
また、総花的な営業もダメ。多くの施策を適当にこなしているだけで、競争に勝てるはずもない。大切なことは、約束した目標を達成すること。
結果が出なくても、ガマンして4ヵ月も営業の外まわりを続けていると、みな身体が慣れてきた。すると、いい反応がすこしずつ返ってくるようになった。
ほとんどの客は、ビールの味にはそれほど差がないと思っている。ビールは情報で飲まれている。
高知の人は、なんでも「いちばん」が大好き。離婚率が全国第1位から2位に下がっても悔しがるというのが高知の県民性。
 ええっ、本当でしょうか・・・。
 営業マンの行動スタイルを変えることができるかどうかは、簡単にいうと、視点や心の置き方を変えてみられるかどうか。人によっては身を捨てられるかどうかということなのだ。
1997年に37%に落ち込んでいたシェアは1998年に反転し、2001年に44%となり、高知県では、トップの座を奪回した。ところが、同じ2001年に、キリンビール全体では、40数年ぶりに2位に転落した。
高知支店のがんばりを紹介する本なのですが、あっと驚くような奇抜な策がとられたわけでは決してありません。
著者は高知から名古屋へ転勤し、名古屋でしたのは、会議廃止。
 会議を廃止したため、内勤の人数を減らし、現場の営業を増やすことが出来た。
 日本企業の勝ちパターンは、ひとりひとり、個人では勝てなくても、チームでならば勝てるということ。部分最適の考えを捨てて、全体最適を達成する。そこに成長がある。
 さすがです。売れる本には、なるほど学ぶべきところがたくさんあると感心しました。
(2016年4月刊。780円+税)

2016年8月11日

戦車の戦う技術

(霧山昴)
著者 木元 寛明 、 出版 サイエンス・アイ新書 

著者は防衛大学校を出て、自衛隊に入り、戦車一筋の人生を過ごしています。
戦車小隊長、戦車中隊長、そして戦車大隊長、戦車連隊長をつとめました。
乗った戦車は、アメリカ軍供与のM4A3E8戦車、国産の61式、74式、90式戦車です。最新の10式戦車は引退したあとなので、乗らなかったようです。
国産の61式戦車は100%マニュアル。74式戦車はオートマチック操縦。90式戦車は完全オートマチック操縦。コンピュータ制御による射撃統制システム。10式戦車となると、ほとんどロボットに近い戦車。
戦車の世界は人車一体。火力、機動力、防護力と乗員がコラボしなければ、戦車は単なる鋼鉄のかたまりに過ぎない。
戦車のもっとも強力な敵は戦車。現代の戦車は120ミリ級の長大な戦車砲を搭載し、最新式の徹甲弾を発射する。徹甲弾は、マッハ5(秒速1600メートル)という猛スピードで飛翔する。
90式戦車の暗視能力は3000メートルで敵戦車を発見し、射撃できる。これに対してロシア軍の主力戦車T-72とT-80の夜間暗視能力は1000メートルしかない。
90式戦車のサーマル・センサは、目標(戦車)が発する熱と周囲の温度差により映像を形成するパッシブ型暗視装置。
劣化ウラン弾は、安価で貫徹力が大きいので、徹甲弾の弾芯として使われている。装甲板に命中すると、高熱で貫通し、酸化ウランの金属微粒子(放射性物質)を周辺に飛散させる。
90式戦車は砲塔上部まで水没させることができる。
ロシア軍の戦車は、水深5~6メートルでも潜水渡渉できる。これは、ヨーロッパの大河を想定しているため。
戦車というものの初歩を学びました。
(2016年6月刊。1100円+税)

2016年8月10日

靴下バカ一代

(霧山昴)
著者 越智 直正 、 出版 日経BP社 

今どき、こんな経営者もいるのですね。見上げたものです。とても勉強になりました。やはり、ビジネスの極意は、自分だけがもうかればいいというのではありませんよね。
我以上に、相手よし。そして、我が社を支える社員を大切にするということです。そうやってこそ、企業は社会に貢献できるのです。下請企業の単価をいかに切り下げるか、それしか考えない大企業がいかに多いことでしょうか・・・。
「奇天烈(きてれつ)経営者」の人生訓というサブ・タイトルがついています。なるほど、常識の枠からは相当はみ出しているようです。でも、本人がやりたいことを精一杯やっていて、それで客も社員も、取引先もみんな喜んでいるのだったら、何も言うことありませんね・・・。
靴下専門店の店「靴下屋」をあちこちで見かけます。全国チェーン店なんですね。著者はその会社(タビオ)の創業者(会長)です。
この会社は、すべて国産の靴下をつくっていて、今や海外にまで店を構えて売っているそうです。原料となる綿までつくり出したというのですから偉いものです。
靴下の弾力を確かめるためには、嚙むのが一番。いい靴下は、嚙んだあとに歯形が残らず、自然と原状に戻る。品質の落ちる靴下は噛み跡が残ってしまう。ただ、噛み方にはコツがあって、数分間、一定の力で噛み続ける必要がある。そのため、水を張った洗面器に顔をつけて息を止める練習までした。
靴下なんて、どれも同じ。どれを履いても、そんなに変わらない。そう思うかもしれないが、少しの違いでも、こだわり続けたら、商品に差が出てくる。その差を生むのが、靴下屋の心なのだ。
うむむ、これはスゴイ言葉ですね・・・。
著者が丁稚奉公をしていたときの経営者の言葉。
「万事、まず頭を使え。次に体を使え。銭は切り札だ。銭を使ってやるんなら、バカでも出来るんじゃ」
「一生一事一貫」。一生を通じて、一つのことを貫き通すということ。著者は靴下で、これを実践してきた。私の場合は、それは弁護士ですね。40年以上も弁護士をやっていますが、これほど自分にあった仕事はありません。
経営に奇策なし。経営者に必要なのは、原理原則を身に付けること。本を読んで、もし難解で分からないところがあれば、今の段階で、その部分は不要だということ。
「おまえに起こってくる問題は、人の生き死に以外は全部、おまえが解決できるから起こった人や。だから、おまえが本気になったら、解決できる。おまえが逃げ腰になっとるから、解決できないんや」。なーるほど、そういうものなんでしょうね・・・。
借金したときには、必ず約束した返済期限を守る。よそから借りてでも必ず返す。
この二つが借金の大原則。他人から借金するときには、初めは、その人がもっていると思う額の半分を借りるのが借金の極意。
得意先になってくれた店は、とことん面倒をみる。価格競争はしない。デザインで競うこともしない。「3足1000円の靴下」なんかで勝負はしない。あくまで、より良い品質の靴下を適正な価格で提供する。仕入れを値切ることはしたことがないし、支払日も守り通した。
品質にこだわった商品をつくっていくには、工場との信頼関係を築くのが一番大切。
いい本でした。今度、この店で靴下を買って、はいてみたいと思いました。
(2016年5月刊。1800円+税)

2016年8月 6日

潜水艦の戦う技術

(霧山昴)
著者  山内 敏秀 、 出版  サイエンス・アイ新書

 日本が国産の潜水艦をつくっているのは私も知っていましたが、アベ政権になってから、日本がつくった潜水艦を海外へ輸出しようとしたのには驚いてしまいました。
アベ政権は、世界の戦場へ日本人の若者を送り出し、そこで殺し、殺されを企図していますが、同時に戦争で金もうけをしようと企んでいるのです。アベ首相こそ、まさしく「死の商人」と言うべき存在です。昔の帝国陸軍のときと同じように、軍需産業から大金(政治献金)をせしめるつもりなのですよね。許せません・・・。
潜水艦の内殻づくりのときには、部材のなかに応力が残らないように、ゆっくり時間をかけて慎重に曲げていく。
潜水中の潜水艦は、受ける浮力と重量が釣りあっていないと安定して海中を行動することができない。潜水艦のなかでは、日々、燃料や食料を消費する。魚雷の発射もありうる。だから、潜水艦の重量は日々刻々と変化する。
そして、海水の状態も一定ではない。冷水塊に入ったり、暖流に入ったり、また深度を変えると、浮力にも影響が出る。こまめに調整するために調整タンクがある。
潜水艦に風呂はない。シャワーがあるのみ。汚水はタンクにいったん溜めて、一杯になると艦外に排出する。このサニタリー・タンクは、トイレ、シャワー室そして調理室の近くに装備されている。
全長84メートルほどの潜水艦に70人が乗り組んでいる。艦内には、70人の男臭さだけでなく、ディーゼル・エンジンの油のにおいもあり、調理のにおいもある。
潜水艦が海中を走行しているときには、進路と速力から現在の位置を知る。進路は、ジャイロ・コンパスから、速力はログ鑑底管という速力をはかる装置から得る。
潜水艦は、ホバリングできるが、これは潜航指揮官の腕の見せどころ。
潜水艦は、海水の比重の変化を、音の速さの変化で見ている。電波は水中ですぐに減衰してしまうので、レーダーでは水中の潜水艦を探知できない。水中では音が核心的な地位を占めている。ソナーは、音を媒体とするセンサーである。潜水艦では、低周波帯域の音が活用されている。
個別の潜水艦が出す音が「音紋」として記録されている。潜水艦内では、無用の音を出さないように工夫されている。たとえば、靴は音の出にくいスニーカー。ドアは突然の開閉で「バタン」と音がないように固定しておく。冷蔵庫なども停止させる。「動いているものは必ず音を出す」ので、冷蔵庫や冷凍庫も停止させる。
潜水艦は、自ら音を出すのを嫌うのと同じく、電波を出すのも嫌う。通信は、放送によって一方的に流され、潜水艦は受信するだけというのが原則。
電波は、ある程度の深さまで届く超長波(VLF)を使っている。日本では、宮崎県えびの市にVLF送信所があり、潜水艦向けに送信している。
魚雷は長さ6メートル、直径は533ミリ。水圧発射の魚雷と、自走発射の魚雷の二つがある。また、直進魚雷と誘導魚雷がある。また、現在は、対艦ミサイルも積んでいる。
70人の乗組員が階級差別のある狭くて閉ざされた社会をつくって何ヶ月も過ごすのですから、パワハラの温床にもなるのですね。いくつかの裁判記録を読みましたが、おぞましいばかりのパワハラがあっていました(自死案件)。
潜水艦についての基礎知識を身につけることができました。
(2016年3月刊。1100円+税)

2016年7月26日

あたらしい憲法草案のはなし

(霧山昴)
著者  自民党の改憲草案をひろめる有志連合 、 出版  太郎次郎社エディタス

 著者のフルネームは、自民党の憲法改正草案を爆発的にひろめる有志連合です。
 1947年に文部省が中学生向けにつくった教科書『あたらしい憲法のはなし』と同じ体裁で自民党の改憲草案の時代錯誤であり、危険な内容をとても分かりやすく解説しています。 
ウソでしょ、まさか、今どきそんなこと言わないでしょ・・・、と突っ込みを入れたくなる場面ばかりなのですが、アベ首相もイナダ政調会長も、頭の中には、ここに書かれていることを本気で信じ込んでいて、実現しようとしているのです。
先日の参院選のとき、この本が国民に、とりわけ若い人に爆発的に読まれていたら、投票率が10ポイントも上がり、野党統一候補が圧勝して、自・公政権を覆すことができたと思います。
 本文60頁、800円ほど、一気に読めます。本書がとりわけ若い人に読まれることを願っています。
自民党の改憲草案の三原則は、
 一、国民主権の縮小
 一、戦争放棄の放棄
 一、基本的人権の制限
自民党の改憲草案の前文では、主語が「日本国民」から「日本国」に変わっている。これは、国民を必要以上につけあがらせてはいけないという考え方による。主語を変えて、国の中心が「国民」ではなく、「国」そのものであることをはっきりさせている。国があってこその国民なのである。国民主権という名のもとで、国民が調子に乗りすぎるのを防ぐために、国民主権を縮小する。
 憲法9条を変えて、日本は正々堂々と、自衛のための戦争ができるようになる。しかも「自衛権の発動」には、制限がもうけられていないので、自分の国を守るためなら、どんな戦争でもしてよいことになる。これを「積極的平和主義」と呼ぶ。国防軍が守るのは、あくまでも「国」であって、「国民」ではない。国の安定のためならば、軍隊は国民にも銃を向ける。どこの国でも、今も昔も、軍隊というのは、そういう組織なのだ。
 しかし、みなさん、心配は無用。国防軍に殺されたくないなら、政府に反抗したり、騒いだりしなければよい。
これまでの憲法では、たくさんの権利が国民に与えられている。これでは国民がつけあがって、権利、権利と騒ぐのもあたりまえ。だから自民党は国民が勘違いしないようにする工夫をこらした。国をつかさどる大きな仕事に比べたら、個人の権利などは小さな問題でしかない。
民主主義は平和なときはいいかもしれないが、非常時には邪魔なだけで、ひとつもいいことはない。憲法草案の三原則は「日ごろのそなえ」で、緊急事態条項は「いざというときの切り札」。この両面からのまもりで、日本はますます強い国になる。
民のくせに国のリーダーに命令するなんて、おこがましい。
まだまだあります。たとえば、基本的人権は日本の国土にあわない、個人より家族を大切にする、などです。こんなことを主張している自民党の改憲草案をぜひ一度、手にとって読んでみてください。あなたは、それでも自民党を支持しますか・・・。改めておたずねしたいです。
もっと早く刊行されて、参院選の前に爆発的に読まれてほしかった小冊子です。いえ、今からでも決して遅くはありません。
(2016年6月刊。741円+税)

2016年7月20日

福島第一原発・廃炉図鑑

(霧山昴)
著者  開沼 博 、 出版  太田出版

 これだけ地震の多い国なのに、まだ原発を再稼働させようとするなんて、電力会社は正気の沙汰ではありません。自分の金もうけのためなら、日本人がどうなろうと、日本列島に人が住めなくなろうと、そんなの知ったことじゃないという姿勢です。許せません。
3.11から早くも5年が経ちました。福島第一原発の廃炉作業の現状を知りたい人には打ってつけの本です。写真がたくさんあって、状況がわかります。そして「いちえふ」というマンガで、作業員の状況を紹介した著者のマンガもあるので、さらに理解を助けてくれます。
1号機から4号機について、図解して、その現況が紹介されています。
放射能汚染水対策も、それなりに動いているようです。問題は、燃料デブリの処理です。あまりにも高濃度の放射能を発しているため、今でもその存在状況は把握できていません。
 4号機から燃料取り出しは、幸いなことに無事完了しました。30人の作業者チームが一日最大6班、1班あたり2時間交替で作業したとのことです。
 いま、福島第一原発で作業している人は、1日あたり7000人にもなります。そして、1500社もの事業者が関与しているのです。
昨年(2015年)9月には大型休憩所に食堂がオープンし、温かい食事が食べられるようになった。それまでは、コンビニ弁当に頼っていた。そして、ローソンが出店した。
勤務開始時間の午前8時に間に合うよう、バスはいわき市内を6時20分にスタートする。だから、5時過ぎには起きてバス停に向かう。終業時は、16時40分、残業する人に向けて6時と7時に2便が出ている。
作業員の平均年齢は46歳。このほか除染のために働いている人が、1万9千人いる。
原発の廃炉に向けた作業が真剣に取り組まれていることを知って、少しだけ安心しました。それでも、やっぱり原発って怖いですよね。東電の社長や会長(取締役は全員)が、家族ともども「福一」の近くに居住すること義務づけてほしいと思います。そうすると、もっと真剣に東電という会社は安全確保を考えるのではありませんか・・・。

(2016年7月刊。2300円+税)

2016年7月16日

平成28年・熊本地震

(霧山昴)
著者  熊本日日新聞社 、 出版  熊日出版

 震度7の前震(4月14日)と本震(4月16日)は、本当に恐ろしいものでした。前震を本震と考え、あとは余震があるだけだろう・・・なんて「常識」を見事に覆した地震は、まさしく大災害です。
 そして、その日以来、今日まで震度1以上の地震が1800回をこえています。つい先日(6月29日)にも震度4の地震がありました。震度4でも怖いものですが、今では、妙になれたところがあり、それがかえって不気味です。
 この写真集は、その熊本地震による被害状況をくっきりうつし出しています。ドローンを使った空撮もありますので、被害のすさまじさが手にとるように伝わってきます。
 なんといっても、阿蘇大橋が完全に消失してしまった状況をとらえた写真には息を呑みます。私も何度も通ったことのある大橋がまったく姿を消してしまったのです。近くの山肌には巨大な土石流のあとを認めることができます。
 そして熊本城です。天守閣の屋根に瓦がほとんどありません。痛々しいまでの丸裸です。そして、櫓は今にも崩れ落ちてしまいそうです。市内中心部に堂々とそびえていたお城に威厳を感じられません。残念です。
 益城(ましき)町は、民家がボロボロです。これでは住めません。
 大自然の脅威のなか、住民がボランティアの力も借りながらお互いを支えあって生活している様子の写真で少し救われます。自衛隊の災害救助活動は必要だと思いますが、地震にかこつけて憲法を停止させる緊急事態条項が必要だなんて主張する与党の政治家には腹が立ちます。
 子どもたちの笑顔も紹介されています。本当は、みんな怖いんだよね。でも、みんなで支えあって乗り切るしかないんだよね。
熊本で被災した皆さんが、無理なく、がんばってほしいと願わずにはおれません。
(2016年6月刊。926円+税)

2016年7月14日

フジテレビは、なぜ凋落したのか

(霧山昴)
著者  吉野 嘉高 、 出版  新潮新書

 私はテレビを見ません。時間がもったいないからです。ニュース番組だって、NHKのアベやモミイにおもねる視点での解説なんて聞きたくもありません。そして、殺人事件など三面記事に出てくる殺伐とした画像で自分の目を曇らせたくはありません。ですから、フジテレビがどんな番組を放映しているのか、前と比べて今はどうなのかというのは、まったく実感のない世界です。でも、この本に紹介されている状況は分かるし、納得できますので、紹介します。
かつての王者だったころのフジテレビは、チャレンジ精神が旺盛だったようです。
1980年代にブレイクしたフジテレビは長らく放送業界のリーディング・カンパニーとして時代を先導してきた。
 ところが、今や、フジテレビは見る影もない。視聴率も営業成績も、ともに、かつてないほどの惨敗を喫し、社内の雰囲気もギスギスしている。かつてのフジテレビは、仲間意識は強いけれど、同調圧力が強いわけではなく、異才や鬼才がのびのびと能力を発揮できる雰囲気があった。ところが、「70年改革」によって、編成というテレビ局の「頭脳」と、制作という「身体」が分断され、その間に深い溝ができ、社内はギクシャクとして暗い雰囲気になった。仲間意識が希薄になり、現場の意欲が大きく減退していった。
 社長が労組を敵対視していたことから、会社全体のコミュニケーション不全が問題化していった。そして、番組制作が守りに入った。経済合理性に主眼を置いた組織改革は失敗した。視聴者に楽しんでもらうためには、制作者が自ら楽しまなければならない。つくる側が楽しんで入れば、自然にその楽しさが視聴者にも伝わっていく。
フジテレビは1997年、お台場に社屋を移転した。旧社屋にあって、新社屋にないもの。その一つが「大部屋」。熱エネルギーの発生源であり、関係者に一体感をもたらしていた「大部屋」がなくなった。
そして、成果主義の社員評価がとりいれられると、同僚が助けあう「仲間」から、争って負けるわけにはいかない「敵」に変わってしまう。社員が「勝ち組」と「負け組」にはっきり色分けされてしまった。番組制作上の上司の裁量が大きくなるのに反比例して、若手の自由度は低下していった。
このように分析されると、なんとなく分かりますよね。成果主義によって、目の前の視聴率で競争させられたりしたら、バカバカしくなってしまいます。自由にのびのびと、たまに経営者ともケンカできる。そんな雰囲気の職場こそ、良い番組がつくれるんだろうと門外漢の私も思ったことでした。
(2016年4月刊。740円+税)

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