福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
会長日記
2009年10月29日
会長日記
福岡県弁護士会会長日記 その5 <スポーツと色んな交流、そしてお盆> 7月14日~8月16日
平成21年度 会 長 池 永 満(29期)
可愛い優勝杯をこの手に 8月の月報で浅野秀樹会員が意気高く報告済のことですが、7月14日に開催された三庁対抗ボーリング大会では3度目の正直で当会チームが初の優勝杯を手にすることができました。練習ボールで2度もストライクをきめて出鼻をくじこうとする安倍高裁長官の戦術とプレッシャーに押しつぶされそうになりながら、多少の年の差に光明を見いだしての持久戦の結果、なんとか鼻の差での逆転を果たすという私闘(?)の後で飲み干したビールの味は格別で、その後に授与された団体優勝を飾る可愛い優勝杯(アルミ製?)もそれなりに重く感じられたから不思議なものです。 画期的優勝をもたらした当会の参加者の御奮闘に感謝! 今大会を準備いただいた検察庁の皆さんと、来年こそは(御自身はいないが)必ず雪辱を果たすと宣言された浜崎家裁所長の無権代理的宣誓が肩の荷に重くのしかかっているでしょう裁判所の皆さん、ご苦労様でした。 全国的課題になっている新人弁護士研修制度の新たな構築 7月31日、恒例の九弁連夏季司法合宿が福岡市で開催されましたが、テーマは、新人弁護士研修のあり方と裁判員裁判の検証でした。新人弁護士研修のテーマでは高裁の森野裁判官が講師として裁判官から見た弁護士像について忌憚のないご意見を披露されました。続いて私が新人研修制度の構築を県弁護士会として検討している問題意識と背景、10名前後の単位で部会毎に展開する新人研修システムのイメージ、既に指導担当弁護士制度を含む新人研修制度を発足させている京都弁護士会の会則等について紹介しました。 8月9日、札幌で開かれた三会(第二東京弁護士会、札幌弁護士会、当会)交流会でも、同様のテーマが取り上げられました。 とりわけ、この三年、毎年3~400名が登録したため、現在の会員数約3,600名の3分の1が3年以内の登録者となったという二弁における苦労は大変なものです。二弁では既に「新人サポートセンター」を設立して登録3年未満の会員を対象に事件処理や業務上の悩みをサポートするためのメーリングリストを運営していますが(現在の登録数は約210名程度)、これに加えてサポートメンバーにのみ公開される「個別相談用メールアドレス」も設定して、約10名の50期台のサポート弁護士グループによる個別相談も実施するとのことです。新規登録後直ちに若しくは短期間で独立開業する弁護士に対し「OJTにより基本的かつ最低限必要な弁護士業務の処理の仕方及び弁護士倫理のあり方等を習得させる方法」についての具体的な提言を各委員会に意見照会し、10月中に集約して新制度をたちあげることも予定しています。 その理由として、従来であれば経験を積んだ経営者弁護士又は先輩弁護士等から実務上必要な最低限度の知識やルールまた弁護士倫理を習得してきたが、近時これが困難になっており、これらを習得する機会のないままに弁護士業務に従事するものが増加する場合には、「依頼者とのつきあい方、事情聴取・情報収集の方法、事実関係の整理・分析の仕方、問題点の所在の見極め方、問題解決の手法、弁護士報酬の決定方法等につき、未熟さから間違った判断を行ってしまう者が出てしまうことが危惧され、依頼者へ迷惑をかけ新規登録弁護士本人が窮地に立たされるだけでなく、ひいては弁護士全体に対する社会からの信頼も保持できなくなる恐れもなしとしない」と述べられています。 昨年1年間で50名を超える新人が登録して500名を超える会員数になったという札幌弁護士会では、司法修習生就職問題対応プロジェクトチームの基本方針の中に「即時又は早期独立弁護士に対し、弁護士としての最低限の力量を身につけるための、法曹倫理を含めた研修、業務スキルの指導及び人的スタッフ・物的設備の提供等々についてのあり方を検討する」ことが位置づけられています。具体的な研修内容としては、従前のオリエンテーション的な新規登録弁護士研修の後で、一定の実務経験を経た者に対するフォローアップ研修を制度化しています。フォローアップ研修としては法律相談と刑事弁護があり、講師用のマニュアルも作成されており、その内容は極めて実践的で興味深いものです。 当会においては、研修委員会の中に設置された新人研修問題PT(座長・石渡一史会員)において、あるべき新人研修の内容やシステムについて火急の検討作業をしていただいており、9月には答申を得て全会的な議論を進め、可能であれば新62期登録者から実施していきたいと考えています。 解散~交流~納涼船~政治連盟~お盆 ボーリング優勝で始まったこの一か月は台風の前の静けさとも言うべき社会的・政治的状況の中で、弁護士会的には多様な行事が目白押しでした。7月21日、ようやく衆議院が解散された翌22日は台北駐福岡経済文化弁事所との交流会、29日は新62期司法修習生との交流会、30日は恒例の納涼船(私は、小学生の頃に同道したことがある娘と、その二人の子ども、つまり孫達を連れて久しぶりに楽しみました。茶話会の皆さんに感謝!)、31日は前述の九弁連合宿、8月1日は人権大会消費者問題プレシンポ(約150名の参加で大成功、消費者委員会等関係者の皆様ご苦労様でした!)、5日は福岡のマスコミ報道責任者卓話会、9~10日は前述の三会交流会、10日夜は司法記者との月例交流会、そして11日と12日は、日本弁護士政治連盟が推薦している衆議院選挙立候補予定者のうちアポイントが取れた5名の事務所回りをしました。(私は「弁政連九州支部理事」を拝命しております。) 弁護士会としては、総選挙の公示を目前に控えたこの機会を生かして、司法制度や市民の基本的人権と社会生活に関連して4月以降に出した総会の決議や宣言、会長声明等を整理して全政党とその候補者に対して政策化と実現方を要請する文書を作成し郵送を含めて配布することにしました。 そこで5月定期総会の宣言・決議と4月から8月6日の常議員会までに採択された会長声明で対外的にアピールすることに意味のあるものを並べてみたらなんと9本にもなっていました。 1、司法制度に関連するもの ・ 司法修習生の修習資金貸与制実施の延期に関する決議 ・ (裁判員制度開始・被疑者国選対象事件拡充に際しての)会長声明 ・ 死刑執行に関する会長声明 2、国民の基本的人権や社会生活に関係するもの ・ すべての人が尊厳をもって生きる権利の実現をめざす宣言 ・ 海賊対処法に反対する会長声明 ・ 消費者庁関連法成立に関する会長声明 ・ 生活保護「母子加算」制度の復活を求める会長声明 ・ 法令なしに警察の監視カメラを設置することに反対する声明 ・ 消費者庁長官及び消費者委員会委員人事に関する会長声明 会長声明等の多さは、委員会活動を基礎として弁護士会の活動が社会の各分野に広がっていることの反映でもありますが、それだけに弁護士会が行う社会的発言に伴う責任もまた重大さを増していることについて自覚せざるを得ません。そんなことを考えつつ、帰省してきた孫達とともに充実した(つまり休みのない)お盆をすごしたのでした。(8月16日記)
2009年9月25日
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その4 <凛として鎮座する「天賦人権」> 6月12日〜7月13日
平成21年度 会 長 池 永 満(29期)
友、遠方より来たり
6月12日、九州大学で開催された家族法学会に参加した機会にということで、韓国の李点任弁護士が私の事務所に立ち寄りました。李さんと知りあったのは今から15年前に遡ります。
私が副会長だった1994年度の定期交流として福岡を訪問していた釜山地方弁護士会一同の歓迎会が稚加榮で開催されました。そのとき私と妻が対席に座って言葉を交わしたのが若き李弁護士と奥さんでした。以来、定期交流の機会を利用して相互に自宅を訪問するなど、家族ぐるみの交流と文通が始まったのです。その仲を取り持ってくれているのが弁護士会の定期交流における専任通訳とも言うべき本村さんで、今回の李さんの来訪も本村さんを通じて連絡をいただきました。
その後の経過は本年度の釜山地方弁護士会との定期交流のところで述べることにいたします。
熱烈歓迎の中で市民モニター制度が発足
ところで5月21日に裁判員制度がスタートして今日までに1ヶ月半が経過し、既に福岡本庁では10件の裁判員裁判対象事件が起訴されていますが、何故か小倉支部には1件も起訴されていません。福岡本庁では7月中旬以降次々に公判前整理手続の期日が入っていますので、9月上旬頃には第1号事件の公判審理が開催されることになりそうです。
当会としては、そうした日程をにらみながら、裁判所や検察庁との協議も含め、裁判員裁判の検証を如何に進めるかという検討と準備作業を5月に新しく発足させた「裁判員本部」を中心に進めてきました。
一言で裁判員裁判を「検証する」と言っても、そう簡単ではありません。そもそも法曹三者のすべてにとって未知の制度であるために想定外の事態が発生することも不可避であり、問題が発生する都度、現場での運用改善努力が求められることは言うまでもありません。しかし全て出たとこ勝負というわけにもいきません。事件を担当した弁護人から得られる情報とつきあわせることにより、裁判員裁判における弁護人の活動改善にも役立ち、かつ、新しい制度の問題状況を把握しつつ運用改善や制度改革を促進する契機になるような検証の方策はないのだろうか? そうした熱い議論の中で「市民モニター制度」が考案されました。
市民が参加する裁判員裁判の審理では、いわゆる「調書裁判」を排して公判中心の直接証拠主義に基づく運営がなされる必要があることには異論がないところでしょう。検察側の主張が公判廷に提出された直接証拠等により合理的な疑いを残さない程度に立証されているか否かが裁判員に判断できなければなりません。とすれば傍聴席に座った市民により裁判員裁判の審理の実情をモニターしてもらい、現実の検察の主張立証や弁護人の主張反証が市民に理解できるものになっているか否か等をつぶさにチェックしてもらう意義は決して小さくありません。
この構想は西日本新聞により1面トップで報道され(5月20日)、6月15日には説明会開催の記者レクが行われました。その翌日から市民の問い合わせが殺到し、6月29日の説明会には140名を超える市民が詰めかけました。説明会の様子は、<「第7の裁判員」制度点検/福岡で全国初「市民モニター」/弁護士会公募 120人登録/立証や量刑 傍聴し意見>という大見出しが躍る7段記事でも紹介されました。(日経新聞7月4日夕刊)
長期にわたり裁判員裁判を巡る国民的な議論が継続してきたなかで、裁判員候補者に選ばれなかった人を含め、自分の目で裁判の実情を見つめてみたいという多くの市民から熱烈に歓迎されて市民モニター制度が発足することは、弁護士会における検証作業に一つの基軸を据えることになったと思います。
熱烈歓迎をいただいた釜山地方弁護士会の皆さんありがとう
1990年3月に当会と釜山地方弁護士会との姉妹提携協定がなされて以来、今日まで20年に及ぶ国際交流が継続しています。今年度執行部においては、これからの20年を見据え成熟した交流方式に発展させるために事前に釜山側との協議を行いました。その結果、釜山会の役員任期は2年なので不都合はないけれども当会の役員が1年任期であることが考慮されて毎年の相互訪問をしてきた方式を改め、今後は隔年の相互訪問として企画の充実化を図ること、但し韓国の習慣により20周年となる来年については双方で記念行事を行うこと等、新しい交流方式について合意しました。
新たな方式の第1回目となる今年度の定期交流として7月10〜12日の3日間19名の訪問団で釜山を訪ねましたが、釜山地方弁護士会の慎鏞道会長、金泰佑国際委員長を始め釜山会の皆さんからいただいた心のこもった熱烈歓迎にはただただ感動するだけでした。こうした歓迎をいただく背景には、これも姉妹提携以来20年という長期にわたる国際交流を継続するなかで、大塚先生や安武先生を始めとする当会国際委員会の諸先生方が中心となり地道な努力を続けてこられ、釜山会との間で人間的にも厚い信頼関係が構築されてきた賜物であり、この場を借りて感謝の意を表したいと思います。
定期交流の模様は別途報告がありますので、私は李さんとの再会について書いておきます。李弁護士は、私がエセックスに遊学したのと入れ替わりにアメリカに留学され、帰国後は釜山にある東亜大学で民事法の教授に就任していますが、兼業禁止のため弁護士は休業しており、釜山地方弁護士会との交流会にも出られないとのことでした。そこで、自由行動日の7月11日、私たち夫婦がそろって本村さんとともに李弁護士の新居(2〜3年前に豪華マンションに移転)を訪問することにし、奥さんや外交官をめざすという娘さんにも10数年ぶりに再会し旧交を温めることができました。これもまた感謝です。
大韓民国「国家人権委員会」の活動に触れて
ところで、5月の定期総会が採択した『福岡県弁護士会における人権救済機能の抜本的拡充に向けた決議』にもとづく調査活動の一環として、釜山地方弁護士会のお世話により、韓国の「国家人権委員会/釜山地域人権事務所」を訪問することができました。訪問日の7月12日は日曜日であったにもかかわらず、李所長を含む3名の所員が予定の時間を超えて対応してくれました。プレゼンテーションに使われた日本語のパワーポイントとそこに盛り込まれたデータも、私たちのために独自に準備されたものでした。
その内容も極めて興味深いことばかりでした。国家人権委員会についてはホームページ(www.humanrights.go.kr)で組織と活動の概要を知ることもできますし、釜山地域人権事務所への訪問記録の詳細は、別途当会国際委員会から調査報告として出されると思いますので、ここでは簡単に触れておきます。
国家人権委員会は、国連総会が1993年に確認した「パリ原則」に基づいて、いわゆる政府から独立した人権機構として2001年法律により制定されたもので、独立機構(立法・行政・司法のどこにも属しない)、人権に関する総合的機構(人権の保護・向上に関するすべての分野を担当する)、準司法機構(人権侵害・差別行為に対する調査および救済)、準国際機構(国内における国際人権規範の実行)という4つの性格を有しています。
委員会は、大統領推薦4名、大法院長推薦4名(全員弁護士)、立法院(与野党)推薦3名の計11名から構成されており、そのもとに常任委員会、侵害救済委員会や差別是正委員会等の委員会と事務所が設けられ、事務所には政策教育局や調査局等があり、総員164名で構成されています(昨年までは210名いたが新政権の構造改革のために減員させられたそうです)。
国家人権委員会の活動概況は、2001年11月26日から2009年6月30日までの7年7ヶ月分で、陳情、相談、案内、民願を含む総計で246,552件(1年平均約32,000件)の多数に及んでおり、そのうち調査を行った案件(陳情)は15.5%の38,306件です。調査案件は90日で結論を出すことが原則であり、その内訳は、「人権侵害」の訴えが30,275件(79%)、「差別」の訴えが6,229件(16%)、その他が1,798件(4.7%)となっています。
人権侵害の訴えの対象は、拘禁施設42.8%、警察・検察26.8%、多数人保護施設7.7%、地方自治体4.9%であり、刑事拘禁施設や捜査機関で約7割を占めています。これに対して「差別」の訴えについては、株式会社17.8%、教育機関13.5%、地方自治体12.4%、公共機関7.1%の順であり、民間における差別事象(セクハラを含む)が上位を占めており、陳情の中でも差別の訴えが増加傾向にあるとのことです。
調査事件中、人権委員会が勧告を行うに至った事件の割合は7〜9%ですが、勧告の前に事実上解決する事案もあり、また勧告したケースの95%は相手方から受入れられているとのことです。人権委員会の勧告には強制力はありませんし、調査においても強制調査はできませんが、陳情等がなくても拘禁施設等にも自由に立ち入って調査を行ったり、関係者を事務所に呼び出して調査する権限があり(地域事務所内にも取調室がありました)、調査に応じなかった者には過料の制裁があります。
李所長は、政権との関係での困難な局面に関する私の質問に対して明快に答えました。「国家人権委員会が三権に属さず、国家権力による人権侵害を監視・是正させる役割を持っていることからしても、政権との緊張関係は必然であり、仲良く済ませるわけにはいかないこと。人員の削減がなされても、自分たちは同じ課題を同じ方法で活動することができていること。政権との緊張関係が報道されることにより、逆に国民の国家人権委員会に対する理解が深まっているという側面もあり、人権委員会に対する相談や陳情の内容も多様な人権分野に広がりつつある」と。
ミーティングが終わった後、広い事務所の中を案内してもらいましたが、人権を啓発するユニークなポスターが多数展示されているなかで、部屋中央の壁沿いに、ひときわ大きな額縁の中で「天賦人権」の文字が凛として鎮座しているのが目にとまりました。
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その3 <峠越えから稜線歩きへ> 5月10日〜6月11日
平成21年度 会 長 池 永 満(29期)
はじめに
5月13日常議員会で定期総会議案が承認され、5月21日裁判員裁判と被疑者国選拡大のスタートと25日定期総会における宣言・決議を含む全議案の採択と役員就任披露宴の開催という、本年度執行部にとって最初の峠をなんとか無事に通過しました。
お力添えをいただいた全ての会員の皆様に深く感謝いたします!
全会一致の会長声明
この数年、当会はもとより日弁連を始めとする全国の弁護士会執行部と裁判員実施本部や被疑者国選対応本部、刑事弁護等委員会など関連委員会と多くの会員が、「裁判革命?その歴史的大改革を乗り切るために〜」(『月刊大阪弁護士会』の表紙見出し)という意気込みで「その日のために」準備がすすめられてきました。
巡り合わせとはいえ、そうした作業に何の寄与もしてこなかった私が、歴史的な刑事司法改革が全面実施される日に弁護士会の代表者として立ち会うことになりました。
裁判員制度については、消極的賛成論から粉砕論まで含め、会の内外で多様な意見が闘わされてきたことは百も承知ですが、弁護士会としては、法制度として実施される以上は、多くの会員が全力でこれに取り組むことを支援しながら、裁判員裁判における審理の長所を発展させるとともに、問題点の改善や制度改革を求めていく以外にありません。
できれば様々な意見の相違を乗り越えて共通認識をつくり、弁護士会として主体的なスタートを切りたい。そんな希望を胸に秘め、4月当初から数度の関連委員会での検討をお願いした後、2回の常議員会における激しい議論をへて会長声明案が練り上げられ(と言うより切りきざまれというべきか)、遂に出席常議員全員一致の賛成により採択された会長声明を、5月21日の裁判所長・検事正・弁護士会長の三者による共同記者会見において発表することができました。今期執行部としても第1号となる会長声明において弁護士会としての裁判員裁判に臨む統一した姿勢を明確にアピールすることが出来たことは本当にうれしいことでした。
なお2番目の会長声明は、消費者庁関連法の成立を歓迎するもので、こちらの方は日弁連としても20年来の悲願を実現したものであるために、6月4日の常議員会で何らの異論もなく満場一致採択されました。
動き出した2つの重点課題
今年度の重点課題に関連して、5月25日の定期総会において『すべての人が尊厳をもって生きる権利の実現を目指す宣言』が採択され、弁護士会における推進部隊として「生存権の擁護と支援のための緊急対策本部」が立ち上がり活動を開始しました。これは、日弁連定期総会(5月29日)が採択した『人間らしい労働と生活を保障するセーフティネットの構築をめざす宣言』と連動するもので、野田部副会長は、役員就任披露パーティでプレゼンテーションを行ったのにひきつづき日弁連定期総会でも当会の取り組みを紹介しつつ積極的に宣言案に賛成する発言をされました。
また総会は『福岡県弁護士会における人権救済機能の抜本的拡充に向けた決議』を採択しました。これを受けて人権擁護委員会は、未処理案件に対する特別調査体制を確立するとともに、国際委員会の協力も得て、多様な分野における人権侵害申立に的確に対応しうる機能を持った「人権救済センター」(仮称)の創設を視野に入れた調査検討作業に着手しています。
日弁連は今秋の人権大会で採択予定の『新しい人権のための行動宣言2009』のとりまとめ作業に入っていますが、当会の動きは「行動宣言」を担うにふさわしい実践的なシステムを創造していく上でも貢献になると思います。
前執行部からの宿題にも着手します
前執行部からの引き継ぎ事項の中に「福岡地域司法計画(第2次)」の取り扱いがあります。当会は2002年11月に第1次計画を公表していますが、第2次計画案は2008年2月に提出されたもので(当会ホームページの会員ページにアップされていますので、是非ダウンロードしてお読みください)、第1次計画から5年間の取り組みを総括するとともに、司法改革の現状と課題を点検しつつ、これからの取り組み方を提起したものです。
「地域司法計画」は言うまでもなく、地域の隅々まで公正かつ透明な法的ルールに基づく紛争解決の仕組みを整備していくうえでの、当会としての社会に対する提案であり、かつ、その一端を担おうとする弁護士・弁護士会としての決意の表明でもあります。
しかしプランを提示するだけでは画餅に終わりますし、かえって弁護士会の社会的評価を損ねる結果にもなりかねません。第2次案自体も「第1次の反省にたち、計画倒れに終わらせることのないよう、これから毎年の当会の活動における羅針盤にしながら、より具体的な年次計画を立て、実行に移すものと位置づけられなければならない」「(そのためには)執行部直属の恒常的な組織を設け、計画の進捗状況を確認し、当会内外の意見を集めてこれを整理し、新たな実行課題を発信し続けていく必要がある」と記しています。
第2次案が示している課題は全面的であり、すべてに着手するのは今期執行部の力に余りますが、その中には既に今年度の重点課題として取り組んでいる事項も少なくありません。
また、今期の執行部は発足直後から、県下20カ所に展開している法律相談所の拡充強化策の検討を進めていますし、さらに被疑者国選対応体制の整備に止まらず民事法律扶助のアクセスポイントの拡充や生存権支援活動における共同など、新たな視点からの日本司法センター(法テラス)との連携強化やスタッフ弁護士の位置づけの見直し等に関して、法テラス福岡事務所との協議を継続していますが、これらの問題も地域司法計画の重要な柱を構成しています。
こうした問題への取り組みを強化することを含めて、この機会に1年以上前に提起されている第2次計画案をたなざらしにすることなく推進していく体制づくりに関して、執行部としての提案を行い、会内における検討を開始したいと思います。
力まずに中盤戦に入ります
5月25日の定期総会を終えた週末の5月30日、31日の両日、NPO法人患者の権利オンブズマンの10周年記念事業<ボランティア全国交流集会、国際シンポ、記念レセプション等>が開催されました。患者の権利オンブズマン理事長として自らが主導的に企画し、1年半くらい前から取り組みを始め、海外から三名のゲストを招くという超ビックな企画に、まるでお客さんのような気分で臨むことになるとは夢にも思いませんでした。
大成功のうちに終わったことについても、うれしいというよりも複雑な気持ちなのです。これだけは自分がいなければと考えてきていたのに、いなければいないで、ちゃんと他のボランティアの方達が力を出してくれるということです。弁護士会だって同じことかも知れません。
いずれにしても総会を終えて、ほっと一息つき気分的にゆとりがでてきた感じです。会館での毎日の文書決済も苦になりません。単に慣れてきただけなのかも知れませんが。また、執行部の面々はもとよりですが、着々と作業を進めておられる職員の横顔や会館に出入りする弁護士の活動ぶりを身近にすると、今更ながら頼もしい限りです。6月に入ってから事務所でも時々事件の打合せに同席して、お客さんと言葉を交わす時間的余裕がでてきました。平常心で中盤戦に歩を進めたいと思うこのごろです。
2009年8月 4日
会長日記
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その2 疾風怒濤(?)の1ヶ月4月10日〜5月9日
平成21年度 会 長
池 永 満(29期)
はじめに
4月の前半は朝から夕刻まで就任挨拶回りに出かけ、夕刻からは60に及ぶ県弁委員会の第1回委員会に出席して挨拶や重点課題に関する説明やお願いをする日々が続きました。後半の半月も夕刻以降の時間は第1回委員会出席を続けましたが、その余は5月の定期総会提出予定議案の事前承認を求める5月常議員会にむけて議案の頭出しを行う必要があった4月22日常議員会、21日から28日にかけて開催された各部会集会、30日の午前・午後に開催した第1回委員長会議や夜小倉で開催した北九州部会執行部との協議会等への出席や準備が続きました。
歴代執行部経験者が語る「一番忙しい仕込みの時期」を過ごしたことになりますが、ピンチヒッター的な気分が残っていた私にとって、この1ヶ月は会長として過ごす向う1年間の心構えや立ち位置を確立せざるを得ない日々ともなりました。
とりわけ飯塚、北九州、筑後と続いた各部会集会では夜の部も含め多くの会員から心温まる歓待を受けました。また今年度執行部の初めての試みだと思いますが会全体の重点課題のうちテーマを絞って意見交換を行う場として年度当初に設定された委員長会議や北九州部会執行部との協議会でも、従前の実践をふまえて極めて具体的で建設的な意見をいただきました。
個人的にもどうせ貴重な時間を費やすのであれば、せっかくの機会でもあり、多くの会員の協力をいただきながら、当面の課題に対応するに止まらず、弁護士会の懸案事項の一つか二つくらいは解決の目途をつけておきたい〜そんな思いも強まったのです。
画期を刻む刑事弁護体制の強化を
この日記が掲載される頃には既に裁判員裁判対象事件の起訴も始まっています。対象事件数は福岡で年間120件前後、北九州で年間4〜50件くらいと推計されていますから、既にそれぞれ数件程度が公判前整理手続に入っているかも知れません。弁護士会としては審理が始まる8月頃までには新たに発足した「裁判員本部」を中心として検証の体制を整える予定です。検証作業により得られるデータは、運用改善や3年後の制度見直しに役立てるだけでなく、全ての会員にとって初めての経験となる裁判員裁判の弁護人活動を改善するためにも役立てる必要があります。そのために当該弁護人から得られるデータのみならず、傍聴席の視点からもデータを得るために、モニター・システムを創設する準備を進めていますので、ご協力をお願いします。
同時に被疑者国選弁護人制度の抜本的拡大も始まっています。先日の法曹合同歓迎会での挨拶で、対象事件数が福岡県全体では4,000件を超える見通しであり相当の力仕事だと話したところ、裁判官や弁護士から数字が大きすぎるのではないかと問われました。私の言い方はむしろ控えめであり2006年と2007年のデータをもとにした日弁連推計では、福岡本庁2,047、小倉・行橋小計1,289、筑後小計532、筑豊小計507、県合計4,375件とされています。選任率も被疑者援助の時より相当高まることが予測されます。これを福岡1名、北九州2名の法テラス・スタッフ弁護士の助勢があるとしても基本的には4月1日現在県弁合計で516名の被疑者国選登録弁護士が対応することになります。限られた期間において集中的な活動が要請される被疑者段階の弁護人活動の質が、その後の事件の行方を左右することを考えれば、複数弁護人がついて集中審理を行う裁判員裁判が全開状態になる今秋以降においても、365日、逮捕勾留直後から被疑者の国選弁護人選任権の保障に万遺漏なく対応できる体制を確立するために、あらゆる方策を尽くすことが弁護士会の責務であり、当番弁護士制度を発足させて今日の被疑者国選制度確立を主導した当会の矜持でもあると思います。
「貧困は国家の大病」
未曾有の社会・経済情勢の中で、生存権を擁護し支援する緊急対策を実行することが、当会はもとより日弁連全体の課題となっています。
河上肇は『貧乏物語』において、「貧困は国家の大病」と喝破していますが、衝撃的なのは20世紀当初における英米独仏における貧富の格差に関するデータです。人口の65%を占める最貧民層が保有する冨の分量は全体の2%前後にすぎず、人口の2%にすぎない最富者が保有する冨は国全体の6〜70%に及んでいたのです。なんと言う格差でしょうか。
そうした中で英国では学校児童に対する食事供給条例を制定し(1906年)、貧乏な老人の保護のために養老年金条例が制定される(1908年)など、大きな政策転換も始まっていますが、養老年金の財源として富者に重い増税案を提案した時の大蔵大臣ロイドジョージ氏は4時間半におよぶ議会演説をこう結んだと紹介されています。「諸君、これは一つの戦争予算である。貧乏というものに対して許しておくべからざる戦いを起こすに必要な資金を調達せんがための予算である。私はわれわれが生きているうちに、社会が一大進歩を遂げて、貧乏と不幸、及び、これを伴うて生ずるところの人間の堕落ということが、かって森に住んでいた狼のごとく、全くかの国の人民から追い去られてしまうというがごとき、喜ばしき時節を迎うるに至らんことを、望みかつ信ぜざらんとするもあたわざるものである。」
貧困は国家の病気であり、貧困との闘いを「国家の戦争」としてとらえる思想は最近の日本ではほとんどかき消されてきたように思います。ところで現実はどうなのでしょうか。OECD(2004年レポート)が、21世紀に入ったOECD諸国における「貧困率」を発表しています。ここでは国民の可処分所得の中位数の50%以下の所得しか稼いでいない人を貧困者としてその人口比率を出していますが、先進国中貧困率の第1位はアメリカ(17.1%)で、第2位が日本(15.3%)とされています。OECD諸国の貧困率の平均は10.3%ですが、貧富の格差のない経済大国と言われてきた日本がいつの間にか「貧困大国」になっていたというのも驚きです。(以上のデータは橘木・浦川『日本の貧困研究』東京大学出版会)
私たちは日本国憲法の保障する基本的人権の思想にたって、現在の社会構造を抜本的に立て直すための取り組みを始める必要があると思います。もとより弁護士・弁護士会にやれることには限りがありますし、社会福祉的な対応に関する第一義的な責任を有しているのは行政であることはいうまでもありません。また弁護士が業務的に対応できる範囲は一層限られています。
しかしリーガルサービスに対するアクセス障害を取り除きながら、行政に対する給付請求権の行使を支援することを始めとして、様々な支援活動を組織し、セーフティネットの再構築を促進するコーディネーターの役割を果たすことはできると思います。この点では司法制度改革の柱の一つであった民事法律扶助の抜本的拡充をになう組織として誕生した日本司法支援センター(法テラス)やスタッフ弁護士の活動と、弁護士会における緊急対策本部等の活動との連携を抜本的に強化することも必要になっていると思います。今年度執行部は以上のような問題意識にもとづき、法テラス福岡事務所との協議を始めています。
陣地を整えて2ヶ月目に歩を進めます。
この1ヶ月、会務に関する書類に目を通し決済する作業にもだいぶ慣れてきましたが、率直に言ってその量の多さには辟易します。日弁連理事会等のために数日会館に出ないと私の机上は書類の山になります。ですから福岡にいる日は毎日弁護士会館に足を運びます。そのため弁護士会から離れている私の法律事務所との車での往復が煩わしくなりましたので、裁判所裏手にあるマンションの一室を確保しました。この原稿も赤坂オフィスで夜を徹して(?)書いてます。明後日(5月11日)には司法記者クラブの皆さんとの定例懇親会(月1回)も開きます。
ところで5月の連休に、昨年末以来できなかった登山を妻とともに決行しました。好天気に恵まれ清々しい気持ちになりました。これから向かう5月21日裁判員裁判と被疑者国選拡大の開始、25日定期総会という山行でもアクシデントに見舞われないで登頂し、皆さんと一緒に清々しく新たなスタートを切れれば良いがと願っています。 (5月9日記)
2009年6月19日
福岡県弁護士会会長日記
福岡県弁護士会会長日記
その1 予定者から会長就任10日間まで
平成21年度 会 長
池 永 満(29期)
はじめに
月報原稿〆切の関係上、「会長就任挨拶」を掲載していただいているはずの4月号月報も未だ手にしていないのに、早くも5月号掲載予定の原稿を提出しなければならないということで、何を、どのように書くべきものか、いささか戸惑いがあります。(ちなみに、この原稿の締切日は4月10日)
しかし、せっかく貴重な紙面を使わせていただけるのですから、会員の皆さんがこの記事を読まれる段階では事態が進行し時期遅れになっているかも知れませんが、これから1年、皆さんの協力をいただきながら円滑な会務運営をすすめていくためにも、会長としての日々の行動や思いを率直に語らせていただく形で「会長日記」を綴っていきたいと思います。
重点課題の設定作業と役員就任挨拶回り日程の調整
私が会長立候補を決断した直後に田邉前会長から聞いたことは、3月下旬から4月中旬にかけて行われる役員就任挨拶回りが大変過重であり、5月の県弁総会にむけて弁護士会としての基本方針の策定や予算組み等に十分な時間と力を割くことが出来なかったということでした。
そこで私たちは無投票当選確定直後の2月9日(月曜日)から毎週1回正副会長予定者による定例会議(4月からは執行部会議に移行)を行うこととし、前執行部からの引継を受けての合宿(2月28日)や各委員会委員長や次期予定者からの重点課題等に関する意見聴取等の集約を進めて、4月4日の第1回常議員会には重点課題に関する執行部の「所信表明」を提出することができました。
また、重点課題の具体化を検討していただくための関連委員会協議会や担当委員会の対応体制強化等について協議する日程を確保するために、就任挨拶回り日程を大胆に調整し、法科大学院や北九州司法記者クラブなど今年度新たに追加した6団体を加えても前年度から半減(約180を90に)させることにしました。削減の基準としては、・県レベルのものを基本とし、市区レベルのものについては拠点に限り、それ以外は各部会での挨拶回りをお願いする。・就任挨拶目的に限定し、提携業務等の依頼については担当副会長において別途そのための訪問等を行うことにする、というものです。
ゆとりを持った訪問日程にしたため、相手方にあわせて当方で検討中の重点課題について紹介することが出来、相手方からも弁護士会活動に対する多様な意見をお聞きできて良かったと思います。まだ後1日分の日程が残っていますが、それほど疲労感もなく就任挨拶回りを終えることが出来そうです。但し、就任挨拶では失礼した相手方に対する今後のフォローについては忘れないようにしたいと思います。
なお、就任挨拶回りに併行して、弁護士会館や地域における弁護士会の顔である相談センター職員との懇親会を設定し、また各地の相談センターも全て訪問することにしました。そこで浮かび上がった設備上の課題等の改善に関して相談センター運営委員会や各部会での検討依頼を行いました。
委員委嘱を巡る苦行の遂行
私は立候補にあたり、多重会務を解消し「全員野球の弁護士会」をつくりたいと所信を表明しました。
その所信を実行するために、委員委嘱に関しては本人希望と委員長推薦を基本とするが多重会務になる場合には本人希望を優先して調整すること、仮に希望を出さない場合でも1つ以上の委嘱はおこなうこと、従って多くの会員の皆さんに希望調査票を提出していただくために前執行部に無理なお願いをして第2次希望調査表の配布を行ってもらい、その際には希望調査の対象委員会も可能な限り拡大いたしました。
そうした方針に関しては、前執行部が招集して2月16日に開催された委員長会議においても表明し、委員会が必要な人材については是非本人から希望調査票が提出されるよう手配いただきたいとお願いしました。
委員長会議においては、委員会の必要な人材については委嘱してほしいと言う委員長としては当然の意見も多く出されましたが、会員数が急速に拡大している今こそ多重会務を解消するチャンスだとか、それが実現すれば画期的なことだと思うとして、私の方針の成否を見守ろうとする意見も出されました。私はこの声に勇気百倍の思いでした。多重会務をなくす努力は過去の執行部においても何度か試みられましたが、年々委員会の縦割りが進行し執行部自身が新たに発生した課題に対応するために新委員会やPTを立ち上げざるを得ないということから多重会務者をみずから生み出していくという悪循環から脱出する試みは、挫折の歴史でもありました。
予定者会議でも数度にわたり議論を重ね、今年度においては新たな課題が発生しても安易に新委員会やPTは立ち上げず、既存の委員会や関連委員会の協議により対応すること、むしろ委員会の統廃合を進めて力の結集をはかること等を組織的な重点課題の一つとして取り組むことを確認した上で、前述の委嘱方針にもとづいて相島業務事務局長の大変な作業に依拠しながら委員委嘱作業を進めました。
変化をもたらそうとする以上は色んなリアクションが予想される中で、会長として最終責任を取るためにも私自身がこの作業に全面的に関わることにしました。その副産物と言っては何ですが、それぞれの委員会活動を支えている構造とその特徴や力持ちの配置状況などが会務から遠ざかっていた私の頭にもよく入り、また多重会務の会員とも直接話をすることが出来ました。各部会による県弁委員会に対するスタンスの違いもわかりました。この作業も明日あさっての週末で基本的に完了します。この作業を通じて得たデータや執行部としての認識、出された色んなご意見等を含めて委員長会議や機構財務委員会等にも資料提供し、数年後には1,000名規模になろうとしている公法人としての弁護士会活動における継続性の担保の仕方や委員会活動における世代交替や活性化、委員会の統廃合などをテーマにした会内議論を本格的に進めていきたいと思います。
2009年5月15日
福岡県弁護士会会長日記
福岡県弁護士会会長日記
平成20年度 会長 田 邉 宜 克(31期)
【はじめに】 本年度1年間、何とか大過なく執行部としての責務を果たすことができました。 退任のご挨拶は次号で申し述べますが、若手会員からベテラン会員まで、広くしっかりと当会の活動を支えていただいていることを改めて実感した1年でした。皆さん本当に有難うございました。 【法曹人口と隣接士業】 今年初めの司法書士議員連盟総会では、司法書士業務の法律相談権の確立を目指すことが確認されたとのことです。司法書士は140万円を超える法律相談はできませんが、市民の紛争予防の為には法律相談が重要であり、裁判を前提とした金額制限をなくすべきだという主張です。司法書士は全国の市町村にいる市民に身近な存在であるが、弁護士は、全国の市町村にいるわけではない、市民の司法アクセスを確保する観点から、弁護士に法律業務を独占させることは問題だとの司法書士会の意見に賛同する有力な国会議員も少なくないと聞いています。 この関係で、法曹人口、特に弁護士人口の増加に反対する意見の中には、弁護士は従来通りの弁護士業務をやっていれば良く、現実の司法ニーズとの隙間は、既に十数万人いる隣接士業の取扱い業務・権限の拡大によって埋めて行けば良いとする考えがあることに注意を払う必要があります。この論に乗るならば、その流れは、やがて弁護士の法律業務独占の廃止に行き着く危険性をも秘めています。 弁護士人口、法曹人口を考える場合に、司法書士等の隣接士業をどう考えるかは悩ましいところですが、法曹とは、公益性、専門性を兼ね備えたプロフェッションであると意義づけて隣接士業数は法曹にカウントしないとの立場に立ち、この法曹が十分な数存在して、司法ニーズを満たすことが司法改革の目的であると考えれば、プロフェッションたる弁護士こそが法律業務を担当することに理があります。司法改革が目指すのは、この意味での法曹の増加であり、隣接士業の権限拡大は法曹が十分な数に達するまでの過渡的な措置と解し、将来的にはその見直しを求めることにも繋がります。 法曹人口5万人は到達点か通過点か、どこまで行くべきか、議論が分かれるところですが、少なくとも隣接士業の権限拡大の主張、強力に展開される運動に説得力をもって対処するには、「法曹の質を維持しつつ、市民が必要とする法曹の数を確保する」ことを目指す司法改革の旗を堅持し、弁護士過疎偏在の解消に一層積極的に対応し、弁護士が社会の社会の隅々まで司法サービスを及ぼしているという「立法事実」を実際に積み上げる必要があることだけは間違いがないと思います。 【セクシャルハラスメントの防止に関する規則施行】 4月1日以降、当会会員から当会の活動または会員の職務に関連してセクシュアルハラスメントを受けた者(事務所職員・修習生・依頼者等)は、当会のセクハラ相談員に相談または苦情の申立ができることになります。この相談を受けて必要な場合には、調査委員会を設置し、事情聴取などの調査を行ったうえで、会長から当該会員に対して、助言・指導・勧告などの適切な措置をすることができるとされています。 この規定に基づき具体的な防止に関する指針も定められています。詳細は、この指針をお読みいただく必要がありますが、例えば、セクハラになり得る言動で職場外で起きやすい例として「カラオケでデュエットを強要すること」が上げられています。あのとき、銀恋(古い!)を一緒に歌ってもらったけど、内心は嫌なのに仕方ないと思われていたら、セクハラ相談の対象になったかもと思うとドキッとしてしまいます。 男女共同参画社会の実現が求められ、弁護士会もその取り組みを強め、私達も依頼者のセクハラの相談に乗り、顧問会社で講演したりしていますが、いざ、自分達の言動となるとその認識の甘さ、自覚不足に忸怩たる思いを抱く方も少なくないと思います。この規則施行は、会員の皆さんが、普段の生活レベルからこの問題を見直してみる良い機会です。まずは隗から始めよです。
2009年4月 7日
福岡県弁護士会会長日記
会 長 田 邉 宜 克(31期)
【被疑者国選弁護5月21日問題について】
本年度、国選弁護対応態勢確立推進本部を設置し、被疑者被告人国選弁護人の契約者の拡大に取り組みました。未契約会員に切々たる登録依頼の手紙をお送りし、本部委員に担当を割り付けて、「しつこい!」と言われてもめげずに繰り返し面談・電話で国選契約をお願いし、国選弁護の意義や重要性を再認識していただくため、登録会員の生の声を載せた「国選弁護拡大ニュース」を発行して行きました(読めば、ぐっと来るような「声」ばかりです。HPにアップしていますので、未読の方は是非お読み下さい)。その結果、相当数の会員に国選契約を締結していただくことができましたし、新規登録者への勧誘もあって、2月6日現在で福岡部会の被疑者国選弁護人契約者数も350人に達しました。
会員間の負担の平等化の為には、なお一層、契約者の増加を目指して活動を続けて行く必要があると感じています。
さて、本題の「5月21日問題」とは、ご存じの会員も多いとは思いますが、被疑者国選弁護人選任の告知は、5月21日以降に勾留された対象犯罪の被疑者だけではなく、この日以前から勾留されている対象犯罪の全被疑者、即ち、5月21日時点で勾留満期まで後1日2日しかない被疑者(5月初めに勾留のついた者)から、5月21日に勾留された者まで全てにしなければいけないと規定されていることを指します。
仮に、5月21日一日で一挙に「告知」がなされ、対象の被勾留者が被疑者国選弁護人の選任を求めたときには、速やかに被疑者国選弁護人を推薦することは困難と言わざるを得ないため、どのような対応をとるべきかが問題となっているのです。この混乱を回避するための方策は、4月末頃からの当番弁護士出動に当たり、被疑者国選弁護対象事件については、会員各位が、5月21日問題を意識して、被疑者にもこのことを丁寧に説明し、弁護士会の刑事被疑者援助制度を利用して、被疑者弁護人を積極的に受任していただくことに尽きます。途中で国選に切り替わることがあっても手続の問題で「人捜し」は不要になります。幸い当会の被疑者援助事件受任率は他会に比べ高いので、会員各位が意識を一段と高めることで、十分に対応が可能だと考えています。是非ともご協力下さい。
【国選付添人契約の拡大について】
これまでも、任意の国選付添人制度があり、被疑者援助事件として弁護人となった会員が、付添人援助の登録はしていても国選付添の契約をしていないと、家裁から国選付添人の選任を求められても当然には推薦できませんでした。同一の弁護士が、弁護人から引き続き付添人となることが、望ましいことに異論はないので、国選未登録の会員には、その都度、国選付添人への登録をお願いしたうえで国選付添人として推薦することが少なくなく、やむを得ない場合に、別の登録会員に国選付添人をお願いする対応でしたが、速やかな対応のために、事務局には、大変ご苦労をかけることにもなっていました。
昨年12月から犯罪被害者の審判傍聴制度が導入され、これが認められると必要的に国選付添人を選任すべきとなりましたので、この問題が一層顕在化することになります。被疑者援助を経て、家裁送致後、付添人援助となり、さらに同事件が被害者傍聴事件と決定されると途中から国選付添事件となるので、継続性の要請はより大きくなるのです。
当会では、国選付添人制度に対応する名簿搭載者の数は未だ十分とは言えず、法テラスが管理運営する付添人援助事業における付添人援助名簿と前記国選付添人名簿の登載者が一致していませんが(法テラス名簿には登載していても国選名簿には登載していない)、上記の問題を解決するには、これを一致させることが求められています。多くの会員の皆さんが付添人の国選名簿に登録していただければ、会員間の負担も平等になり、国選名簿登録者だけに「重い事件」が回ることもなくなるのですから、従前の負担感と大差はないはずです。国選付添人契約に是非ともご協力下さい。
2009年3月 6日
福岡県弁護士会会長日記
会 長 田 邉 宜 克(31期)
【会員数会820名へ】
新61期の新入会員54名を迎え、当会の会員数は、820名を超えました。
当会では、会員数が増える中で、委員会の諸活動、月報やオール・エフベン、HP等での会内広報、若手会員の刑事弁護や付添人研究会の実践等で、今何が問題で、誰がどんな活動をしているのか、どれほど頑張っているのか、の情報を会員に提供し、認識を共通にすることで、公平・平等に会員に公益活動を担っていただくことに繋げたいと考えて対応策を講じてきました。
今後、会員数が更に増えて行けば、会員間に「公益活動は、自分がやらなくても誰かがやってくれる」という意識が広がっていくことも十分考えられるところですが(東京や大阪の弁護士会では、既に会員の公益活動の義務を規定化しています)、ここ福岡では、会員の皆さんが、弁護士としての矜持を胸に、刑事被疑者弁護を始めとする公益活動を実践する中で、一丸となって取り組むという伝統は、今も息づいているはずです。
今年は、被疑者国選弁護の拡大、そして裁判員制度の実施を迎え、これを担いきれるか否かで、弁護士・弁護士会の鼎の軽重を問われることになります。
正に、弁護士会として踏ん張りどころですが、特に、この5年間で会員数の30%を占めるに至った新入会員の皆さんには、自分達こそが弁護士会を支えているという心意気をもって、刑事被疑者弁護を始めとする公益活動の実践に、積極的に取り組んでいただくようお願いいたします。
【民法(債権法)改正の動きについて】
現在、「民法(債権法)改正検討委員会」において、民法の債権編の抜本改正についての検討が進められています。先般来の日弁連のFAXニュースでも広報されましたが、この検討委員会では、本年1月から3月まで毎週全体会を開催し、3月末に議論を取り纏め、4月下旬にシンポジウムを開催し、4月下旬以降、速やかに法制審での審議が始まる可能性もあるとのことです(試案を発表し、各界の意見を聞くとしても、法制審を開始するまで1年を置くというのは現実的ではない、との関係委員の発言があります)。
この検討委員会は、学者主導の私的なものとの位置づけですが、法務省が実質的に関与し民法改正作業を視野にサポートして来たことは否定し難いところであり、重大な民法改正作業に、実務家たる弁護士がしっかりと反映させる、その為に弁護士会の意見を積極的に発信することが重要であり、次年度の重要な課題になっていくものと思います。
これまでの判例理論を民法の条文に取り入れるほか、私たちがこれまで学び理解してきた規定が大きく変わる可能性がありますので、是非とも、この動きを注視していただくようお願いしたいと思っています。
【ロースクールの定数削減】
中教審は、法科大学院教育の質の向上のための改善方策の中間まとめを発表しました。日弁連は、法科大学院の定数削減を打ち出した姿勢を評価するものの、単に、定数削減を求めるだけで具体的な数値を出さなければ、文科省の強い指導力が及ぶ地方の公立の小規模校の削減に止まり、全国の法科大学院全体の改革が実現できないままに終わることを危惧し、全国定員数を4000人程度に削減すべしとの意見書を採択しました。また、教員態勢や合格率にのみに準拠して、この改革を押し進めるならば、地方の小規模校のみが統廃合・定員縮小を求められることにもなり、地域に根ざす法曹を要請し、日本の隅々に法の支配を行き渡らせるとの司法改革の理想に逆行することになるので、地域的な適正配置に留意し、「大規模校の定員を100人程度削減すること」も合わせて求めることにしました。特に、7校の法科大学院を抱える九州沖縄地区では、この問題は深刻であり、重大な危機に瀕しているといっても過言ではありません。地域の弁護士会には、今こそ法科大学院を支えていくことが求められており、会員の皆さんにも強い関心を持っていただきたいと思います。
福岡県弁護士会会長日記
福岡県弁護士会会長日記
会 長
田 邉 宜 克(31期)
新年明けましておめでとうございます。
私ども執行部も、会員の皆様のご協力を得て、無事新年を迎えることができ、残すところ3か月となりました。
最後まで職責を全うすべく、全力を傾注いたしますので、今後とも会員の皆様のご支援ご協力をお願いいたします。
さて、弁護士会の取り組むべき課題は、多岐にわたりますが、私ども執行部が年度内にと考えている課題を幾つかご紹介したいと思います。
【裁判員制度・被疑者国選の対応態勢】
北九州部会・筑後部会では、1人14、15件にもなろうかという負担を部会員が公平に分担する態勢をとられています。
福岡部会では50%の方々に被疑者国選登録をしていただきましたが、筑豊地区のバックアップ問題や裁判員制度のバックアップ問題もあり、なお、一部の会員に重い負担をお願いせざるを得ない状況にありますので、更なる国選登録を是非ともお願いいたします。
裁判員制度対象事件は、被疑者国選担当者に引き続きお願いすることになります。弁護士会の裁判員対応態勢も詰めの段階にあります。裁判員対応を含む刑事弁護の研修会等に積極的にご参加下さい。
【少年刑事援助事件の特別負担金】
昨年12月の日弁連臨時総会で、これまでの当番弁護士基金(月額4,200円)を平成21年6月以降、少年刑事事件基金に衣替えし、当番弁護士(付添人)・国選対象外の刑事被疑者援助事件・少年付添援助事件のために月額3,100円の負担を会員にお願いすることが決まりました。
当会は、これまで当会独自のリーガル基金負担金(月額5,000円)を主たる財源として、日弁連の基礎金額(刑事7万円、少年8万円)に刑事1万円、少年2万円を上積みしてお支払いしています。
今回の新基金で日弁連からは、被疑者援助8万円、少年付添援助10万円、即ち、従前の上積み額加算後と同額が支給されることになりますが、未だその支給額は低額であること、被疑者援助・少年付添援助事件を一層拡充すべきこと等を勘案し、平成21年6月以降も当会の上記上積支給を継続すべきではないか(刑事9万円、少年12万円)と考えています。具体的には、平成21年3月で期限の来るリーガル基金の継続という形で、会員の皆様にお諮りすることになります。
【対外広報・TV等CM】
本年度は、2,400万円余をTV・ラジオのCM(主として多重債務、今後、交通事故相談のCMも予定)に充て、各センターの手数料収入は、大幅増の昨年度を更に上回る見込みです。CMと相談数の相関関係も確認できており、次年度以降もTV・ラジオのCMを積極的に実施すべきだろうと考えています。本年度その方向性についてご検討いただき、次年度の予算審議という形で会員の皆様にお諮りすることになります。
【会館移転問題】
いよいよ九大六本松跡地への移転問題が具体的に動き出します。土地取得費、会館建設費、新会館の維持管理費等の負担を会員の皆様にお願いすることになりますが、会員の皆様のご理解を得るためにも、今後、可能な範囲で会館移転問題に関する具体的情報を提供して参りたいと思います。
2008年11月10日
福岡県弁護士会会長日記
会長 田邉 宜克(31期)
【9月度新入会員】
9月に入会された会員の皆さんを心から歓迎いたします。
さて、この新入会員の中に今次の司法改革の申し子的な三人の会員がおられます。
佐藤哲也さんは、東京での養成期間を経て法テラス北九州にスタッフ弁護士として赴任されました。登録会員1人当たり年間14、5件といわれる北九州部会の拡大後の被疑者国選の一翼を担っていただくことになります。
上加世田嘉隆さん(現行61期)も法テラスに雇用されたスタッフ弁護士ですが、所謂新スキームでの養成事務所であるあおぞら法律事務所で、登録初年度から1年間活動された後、独り立ちしたスタッフ弁護士として他所へ赴任されます。
井口夏貴さん(現行61期)は、あさかぜ基金法律事務所で、登録初年度から1年半ほど弁護士としての経験を積まれた後に、九弁連管内の過疎地の法律事務所(ひまわり公設・法テラス4号・独立開業等)に赴任されます。
三人ともに、しっかりとした、そして、過疎地での弁護活動や刑事弁護に強い意欲を持った方ですが、弁護士経験零ないし1年の若い会員であることに変わりはありません。無論、法テラス、養成事務所、運営委員会・指導担当者がサポートしますが、会員の皆さんには更に進んで、当会の仲間として、委員会活動や事件処理を通じ、また、種々の機会に相談に乗り助言するなど、会員全体の力で育成していく積極的な意識を持っていただきたいと思います。
【新司法試験合格者発表】
9月11日に新司法試験合格者2065名が発表されました。例年、設定目標の下限付近の合格者数でしたが、これを下回ったことはなく(今年の司法試験管理委員会の設定目標下限は2100名)、かつ、受験者の蓄積もあって、合格率が33%と昨年より7%下がった点が、注目されました。また、法科大学院別の合格者数において首都圏集中、地方と首都圏の格差の問題も指摘されているところです。当然、法曹人口の問題にもリンクしますが、やはり、法科大学院の統廃合や定員整理の問題に要注意です。特に、福岡県内4校、九弁連管内7校の法科大学院については、私達に続く後輩達の養成問題として、真剣に考えていく必要があります。私は個人的には、全国的に、統廃合、少なくとも法科大学院の定員の削減は避けられないのではと思っています。合格者数上位を残して下位校を切り捨てるのか、そうなると九州はその影響を避け得ません。一律に一定率で減員するのか、地方を重視し中央の大規模校の定員整理を求めるべきではないか、今後、この問題が、どのような流れになるのか、弁護会としての意見を出すべき時期が来るものと思います。
【新検察審査会法の施行】
検察官が独占していた公訴権行使のあり方に民意をより直截に反映させるために、検察審査会法が改正され、裁判員制度と同様、平成21年5月21日に施行されます。この改正法では、弁護士の関与が制度的に予定されています。
審査会が起訴相当を議決した事案を検察官が再び不起訴処分にした場合に、審査会が再び起訴相当を議決したときは、起訴すべき法的拘束力が発生します。その起訴と公判維持は、「指定弁護士」が行います。また、審査会は、その審査を行うにあたって法律に関する専門的な知見を補うため「審査補助員」を委嘱することができるとされ、弁護士がその任にあたることになります。指定弁護士はさほどの件数はないでしょうが、補助審査員は、一定数の委嘱要請があると考えられ、弁護士会としては、適切な弁護士を推薦するため、研修や推薦名簿の要否等の検討が必要になります。犯罪被害者問題を含め、刑事司法のあらゆる面に弁護士の関与が求められる時代だということもできるでしょう。