福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

会長日記

2012年7月30日

会長日記

平成24年度福岡県弁護士会 会長 古 賀 和 孝(38期)


 原稿締め切りにまだ間に合うということで、最初に記させていただきます。本年6月7日、当会春田久美子会員の法教育懸賞論文受賞を祝う会が多数の参加者を集めて催されました。この賞は法教育推進協議会、日本司法支援センター、社団法人商事法務研究会の共催で、法教育普及のための方策を研究した論文に対して与えられるものですが、春田会員は2年連続の受賞であり、しかも今回は法教育推進協議会賞という最高ランクの受賞です。ここのところ当会を取り巻く停滞した雰囲気を払拭し、元気づけるお祝い事といって良く、久しぶりに心躍りました。今後なお一層のご活躍を祈念し、また、当会の対外的評価の向上に寄与していただけるものと期待しております。
 さて、樹木の枝一杯に茂っている濃淡それぞれの葉が美しいこの季節、当会緒方研一会員が受傷されたとの第一報が入ったのは5月22日午前のことです。直ぐに、安否を確認するため種々情報収集に努めるものの、なかなか正確な情報に接することができません。当日、ご本人の安否確認ができたことからまずは安堵しましたが、会長声明を発するには事実関係がはっきりしないので当初は会長談話を発表することとし、なお情報収集に努めることとしました。被疑者は事件相手方として自ら代理人を選任した上で和解解決となった事件の相手方であり、刃物を持って殺傷行為に及んでいるとの情報を確認できたことから、5月29日法治国家にあっては紛争の解決のため暴力を持ってする一切の行為に断固反対するとの会長声明を発しました。
 過年度横浜弁護士会で発生した事件相手方による殺人事件はもとより、当会においても過去会員等に対する暴力行為が発生しています。弁護士業務を行う上では、否応なく相手方が存在することがあります。弁護士、弁護士会は断固このような卑劣な暴力に対しては一切屈服することなく戦って行かなければなりません。不穏な動きがあるときには是非とも所管委員会若しくは執行部に一報いただき、万全を期すよう心がけてください。会員各位におかれましても日常の警備にぬかりなきよう、既に配布済のマニュアルを再読していただければと存じます。
 翌5月23日は定期総会が開催され、その後の懇親会では当会の直面する課題、活動方針につきご挨拶させていただきました。福岡高裁長官から、裁判員裁判を例にとり、市民参加、市民目線を意識した司法制度の在り方について、また、九州経済産業局長からは、ダイナミックに変動する社会、経済情勢の中にあって活躍を期待される弁護士、弁護士会の目指すべき方向性のお話をいただきました。基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命としつつ、時代の流れに無関心であってはならず、過去の成功体験に安住せず、国民、社会から求められるところを誠実に受け止め、前向きに進んでいく必要があると再確認した次第です。5月10日、元会員が詐欺容疑で逮捕されるという前代未聞の事件が発生しましたが、毀損された信用を回復する処方箋も、ここにあると確信しています。

2012年6月29日

会長日記

平成24年度福岡県弁護士会 会 長 古 賀 和 孝(38期)


 
 弁護士会活動のアピールを兼ねる役員就任の挨拶回りが終わりに近づく頃から、各部会集会が始まり、役員はこれに出席することになります。本年度は4月18日の筑豊部会(27名)に始まり、20日の筑後部会(81名)、25日の福岡部会(722名)、そしてトリが北九州部会(157名)となりました(なお人数は平成24年5月10日時点のものです)。福岡部会を除く各部会集会は、高い参加率でしかも近時の新規登録者の増加を反映して、大変な盛り上がりです。筑豊部会は27名の会員の内、20数名の参加を得て開催されましたが、さながら若手の決起集会の様子で、法律相談センターの自立化、評議員会の復活など大いに議論されました。筑後部会でも多くの若手会員が参加し、先輩弁護士からこれまでの部会の活動経過が説明されるなどどこか新旧バトンタッチを意識したやり取りがあり、部会の統一性維持のための腐心されている様子が理解できました。北九州部会では、法律相談センターの活動、部会評議員会の持ち方などについて会員間で熱心な討議と共に、北九州部会独立の運動経緯、今後の方針が先達会員から詳細に説明されました。いずれの部会においても、集会後に懇親会が企画され、弁護士会職員を含め部会集会参加者以外の会員も加わり、大変な賑わいです。各部会のことは各部会で議論の上決定し、実践するという、部会制度の長所が良く理解できました。福岡部会はと言うと、正直なところ部会集会参加者も少なく、出席率は低調で一抹の寂しさを感じざるを得ません。1000名に到達しようとしている県弁会員の内、福岡市周辺偏在が如実に現れ、若手と先達との絆の希薄化を痛感したものです。部会制度の長所、利点を生かす部会運営について考えさせられる部会訪問でした。

 今年のゴールデンウィークの初日である4月28日は「秘密保全法に反対するシンポジウム」が、新緑まぶしく、大勢の行楽客でにぎわう福岡市のど真ん中にある天神ビル11階会議室で開催されました。こんな陽気の中で、何故に、連休初日に開催されるのか、と訝しく思われる会員もおられましょう。しかし、シンポジウムの詳細はこの月報にて報告がありますので、そちらに譲りますが、やはり開催しなければならない理由があるのです。一昨年9月の尖閣諸島沖での中国船と海上保安庁の巡視船衝突を契機として、突然、与野党相乗りで提案が予定された同法案は、規制の対象となる秘密の意義、指定方法、対象者、罰則いずれを見ても問題があります。幸い、法案提出は見送られたようですが安心はできません。パネリストとして出席いただいた外務省秘密漏洩事件の当事者である西山太吉氏の発言は強烈です。曰わく、秘密、秘密と言うが都合の良い秘密は当局が意識して漏洩することもある、しかし、秘密の根幹、本質は違法な隠蔽を要する秘密にあるのであって、法案の最終目標はこれに尽きると。そういえば尖閣事件報道の際、思い出すのは政府がそもそも情報収集を含め無策状態で、右往左往する姿を国内外に露見させたところにあります。自らの失策を露見させることを防止することが秘密保全法制定の発端とも言えます。旧ソ連のジョークで、政府中枢が馬鹿であると呼ばわるのは国家の存亡を危うくする極めて重要な国家機密の漏洩に当たる、よって厳しく処罰される、というものがあったように記憶しています。全く笑えない話です。

 5月1日、2日に開催される日弁理事会に出席するため、4月30日から上京しました。物見遊山で完成したばかりの東京スカイツリーをほんの近くから見物してきました。高いわ高いわ天をも突き通さんばかりで偉容を誇っています。是非とも上って関東一円を望んでみたいと思います。さて、日弁理事会では先に実施された2回目の会長選挙の結果を受けて、宇都宮前会長、山岸会長予定者の挨拶がありました。もともと旧知の仲ということで選挙戦を振り返っての話しは殆ど出ませんでした。選挙管理委員会による確定前であったため、今回の理事会までは宇都宮前会長が議長を務め、山岸会長予定者はオブザーバーとして傍聴されておりました。中途半端なキャスティングで、議論は東京スカイツリーには到底及ばない、見通しの良くないものに感じました。詳細は秋月副会長のご報告を。

2012年6月 1日

会長日記


平成24年度福岡県弁護士会 会 長 古 賀 和 孝(38期)


例年行っている県弁役員交代に伴う挨拶回りを、今年は3月26日から4月半ばまでの予定で始めました。件数にして約160カ所、裁判所、検察庁の他、県内地方公共団体、国の出先機関、マスコミ、商工団体、財界、労働団体、NPOなど市民の生活に関わる団体、在福領事館を回ります。会長の私と、訪問計画に沿って数名の副会長、事務局長が挨拶回りグッズを持参して行きます。これだけの訪問先となると、訪問地域を考慮しながら挨拶回り先との日時の調整を同時並行的に行わなければなりませんので、担当の安原総務事務局長は複雑なパズルを解くに等しく、大変なご苦労をお掛けしております。しかしながら、訪問先との短い時間ではありますが、有意義な意見交換ができたときには爽やかな達成感もあり、ご苦労の賜としてなお一層感謝する次第です。

訪問先では、役員全員の交代を案内するのですが、弁護士会が1年の役員交代であることにつき2年乃至3年としても良いのではないかとのご意見を頂戴することがあります。1年の任期では協働した事業の実施状況や今後の展望を語るのに継続性が薄くなるとの懸念を述べられているものと思われます。このご意見に対しては、尤もなことではあるけれども、事務所を構える役員の本業に与える影響があることを笑顔をもってご説明し、続けて、1年という短い期間を認識して役員が全力で対応を取る決意であること、弁護士会活動は多数の委員会の継続的な活動に支えられているので、決して、継続性は損なわれないことをご説明しております。弁護士会への期待の大きさと言っても良いと思います。
挨拶回りに当たっては、弁護士会役員紹介書、弁護士会で行っている各種法律相談センターパンフレットの他、法教育案内、中小企業向け初回無料相談を記載したひまわりホットダイヤルのパンフレット、「福岡県弁護士会人権擁護活動2011」を持参します。相手先に合わせて、適宜使い分けています。今回の説明で、特に訪問先の強い関心が窺えるのは、「人権活動2011」です。弁護士は敷居が高い、弁護士、弁護士会はどのような具体的な活動をしているのか分からないとの意見を多く耳にしますが、弁護士会の人権擁護活動の説明をすると身を乗り出して聞いてくれるのです。私が冊子の1ページ目を開き、生存権を守る活動、子どもの権利を守る活動、両性の平等に関する活動、高齢者・障害者の権利を守る活動等々を行っており、これらの活動がほとんど福岡県弁護士会会員が負担する月額6万円超の会費に支えられていること、熱意ある会員が日常業務と併行してこれらを担当する委員会に所属して活動を行っており、公益活動は弁護士、弁護士会の使命であると説きます。子どもの権利に関わってきた橋山副会長や法教育に関わってきた甲木事務局長が同行してくれているときには、それぞれ二の矢、三の矢を速攻のごとく詳細に説明してくれます。
弁護士は敷居が高いとの認識を解消する方法の1つは、正に、この公益活動の充実・広報ではないかと一層想いを強くしているところです。感心しておられる訪問先に、つい弁護士は奥ゆかしく公益活動を行っているところをひけらかすことが苦手ですと言葉を添えますと、財源の確保・媒体の選択に苦慮するところは共通するのか、広報の難しさに会話は進みます。ひとえに委員会活動を行っていただいている会員の方々の弛まぬ活動に頭が下がる思いで一杯です。

本稿を作成している段階では予定している訪問先の6割ほどを回っています。ところで、去る4月12、13日の両日、第1回日弁連理事会が開催されましたが、理事会2日目の朝は九弁連管内の理事(会長兼務)が参集し、意見交換を行うことが慣例となっております。その席で、弁護士業務の周知、拡大に関し意見を求められ、前記したところをご説明しました。多数に上り、多方面に渡る訪問先、長期に及ぶ訪問期間つき、他会の理事から関心とともにそこまでやるかと言った驚嘆の声が上がりました。同席されていた当会選出市丸信敏日弁連副会長より、福岡県弁護士会会長は、トップセールスを行う重要な役割・責務がありますとの極めつけの補足がありました。この声に押されて、今一度、心を引き締めて、今後も予定されているところを精力的に訪問し、意見交換を行って参ります。また、就任挨拶終了後も、弁護士会活動に関わり、連携することにより市民の権利擁護の前進に繋がる関係団体については意見交換を重ねて行きたいと考えております。

2012年4月 1日

会長日記

平成23年度 福岡県弁護士会 会長 吉 村 敏 幸(27期)

1.今年度最後の日記になります。ちょうど3月下旬のこの時期は、会館東口の沈丁花が甘い香りを放って陽春をたたえています。

執行部に入ると、たくさんの会員の方々が献身的に弁護士会のために粉骨砕身努力しておられることに驚きます。皆様に感謝申し上げます。

また、今年度実現できなかった各委員会の課題は、次年度の課題と引き継いでいかざるを得なかったことをお詫び申し上げます。

2.好きな本のこと

3月に入り、弁護士会の全県職員と現・新執行部との懇親会が開かれ、その折に女性職員から会長日記の本の話を読んでいること、とりわけ上橋奈緒子の「守り人」シリーズが好きで嬉しかったとのお話を伺うことができました。プライベートと会務メッセージとの調整に若干気を遣いながら日記を書いています。

子どもの絵本で気づくのは、大人が求めるのは人生に役立ちそうな、教育的・教養的なものになりがちですが、子どもが好きになるのは単純にかわいらしい、楽しい、面白い(驚きのあるもの)、絵がきれいなものです。

自分は子どものころ、動物ものがすきで、椋鳩十やシートンの動物記を好んで読んだ記憶がありました。ときどき読み返してみたいなと思っていたのですが、本の文庫棚には見当たらないので忘れていました。ところが、娘が小3になり、いろいろな本を漁っているうちに、児童書コーナーにはたくさんの椋鳩十とシートンシリーズがあることに気づきました。狼王ロボ、キザ耳坊や(うさぎ)、熊野犬、愛犬カヤなどの短編です。自分で読み返すつもりでも、心は親子の会話を求めているので、動物ものを好きになってほしくて読んであげます。動物ものは生きるために他の生きている動物を襲い、食らう行為の連続ですから残酷です。ここに人間の行為(狩り)が関わりあいます。生き延びるためには動物の生存本能、智恵が発揮され、相手の裏をかき、九死に一生を得ます。ギザ耳坊や(うさぎ)は前進した足跡をそのまま後進して戻り、途中で横道にステップして枯れ木の上に飛び乗り、あるいはイバラの茂みに隠れて逃げます。熊野犬の物語は、戦時中の食糧難を理由としてすべての飼い犬を殺した話で、犬は頭部を棒で殴打されて頭から血を流しながらも自宅にたどり着いて息絶えたという、涙なくしては読めない物語でした。

このような話を読むと、子どもはやはりギザ耳坊やのようなかわいらしい話は好きなようですが、凄惨・残酷な殺戮場面は苦手です。しかし、共通の話題ができて、一時の幸せを得ました。

3.この月報が出るころには、私たち執行部はすでに退任し、古賀和孝新会長の執行部がスタートしています。平成23年1月から3月、市丸前会長と引き継ぎ作業で併走しながらの助走期間を経て、早1年間が過ぎました。怒涛のような1年間でした。

記憶に残るのは、日弁連レベルでは給費制存続および少年事件全件国選付添人実現のための国会議員あての要請行動、法曹人口政策会議の取りまとめにあたっての議論の経過、死刑廃止についての意見書の採択、ひまわりホットダイヤル無料期間延長の可否の議論、裁判員裁判3年目検証の意見書採択、脱原発へ向けた意見書、などです。このように書いてくると、そのほかにも布川事件の弁護人の活動についての批判意見書や、公訴時効廃止に関しての捜査終結宣言なども含めて、たくさん思い出されてきます。

県弁レベルとしては、新会館建設へ向けての土地取得の総会議決と、北九州部会所属の会員の刑事事件と福岡部会所属会員に対する会立件を行なったことです。しかし、非違行為を疑わせる事例はほかにもあり、私たちとしては重大な関心をもって一般市民、依頼者の信頼を損ねたり、損害を与えたりすることのないように会員を監督し、指導していかなければなりません。しかしながら、弁護士会は強制捜査権を有していませんので、現実に非違行為の存否確定は困難です。弁護士会および日弁連に対する信頼と信用は、個々の弁護士に対する一般市民の信頼と信用を源泉としているものと理解しています。したがって、会員は依頼者の信頼を損ねることのないように、一層、密な経過報告と連絡、および(方針策定にあたっての)相談(打ち合わせ)を励行していただくようお願いします。/

4.3月19日の朝刊に、民主党は秘密保全法の今通常国会への提出を断念したとの記事が掲載されていました。

「新聞等マスコミ、日弁連などの反対が強く、党内にも反対論が強いため、消費税乗り切り策としての決断」との報道です。当会は既に平成24年1月の常議員会において、もしも秘密保全法案が国会に上呈された場合に備えて反対決議の承認をいただいていましたが、平成24年3月8日の常議員会に於いては、法案上呈前に反対決議をなすべきとの判断に基づいて承認をいただき、直ちに会長声明を出していました。この法案の問題点は、秘密の内容そのものが不明確であり、構成要件が特定できないことであり、共謀・共犯として一般市民も犯罪主体となりうる恐れがあることです。新聞報道によると、今通常国会への提出は断念されたとのことであっても、その以後に提出される恐れがあることから、当会としても反対運動は継続する必要があると思います。当会は、平成24年4月28日に秘密保全法反対の市民集会を開催する予定ですので、多くの会員のご参集をお願いします。

5.破産事件の減少

金融法務事情(1941号2012.3.10号91頁)によると、福岡地方裁判所における破産事件の運用状況が紹介されています。「新受事件数は平成17年から減少を続け、平成21年、22年とわずかに増加したが、平成23年は大幅に減少した。法人の件数は、この間大きな変動はないが、自然人の減少が大きい。平成23年自然人件数は平成22年の84%」とのことです。

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この意味は、結局、貸金業法の総量規制の効果が表れて来たものと前向きに評価することができると思います。現在、法人破産には大きな変動はないということですが、これは中小企業金融円滑化法(モラトリアム法)のもとで、元金支払の繰り延べ猶予がなされている状況もあり、あと1年後にソフトランディングの政策がとられない場合は、一挙に事業者の支払困難事例が表面化してくる恐れもあり、貸し渋りや貸しはがし等、重大な懸念を抱いています。

6.タスキをつないで

私たち執行部の活動は駅伝がタスキをつないでいくのと同じような継続的運動です。

今年度の重点課題であった取調べの全過程可視化と少年の全件国選付添人制度は、いずれも実現には至りませんでした。しかし、まさにタスキをつないで次年度に託します。取調べ可視化の検察事案については、たとえば特捜事件、障害者事件等については、全過程の可視化へ向けた取組みが相当に進んでおり、すべての事件、全過程可視化へ向けての活動がさらに必要とされます。

これに対して、少年事件のほうは、年間約10億円の予算規模にて実現との国会議員の理解も相当に進んでおり、2~3年後には実現しそうな勢いであるとの感触です。給費制は一層運動を盛り上げる必要があります。

これらについてもさらに全会員のご支援をお願いします。

2012年3月21日

会長日記

平成23年度 福岡県弁護士会 会長 吉 村 敏 幸(27期)


1.冠雪の富士山と人口政策会議の議論の応酬
福岡では、2月中旬からずっと雨天続きでした。2月15日の夜から上京したところ、東京でも曇天が続いたのですが、やっと18日の土曜日から快晴になりました。
いよいよ、土曜日は法曹人口政策会議の第8回全体会議(今年度最終日)が四谷の主婦会館で開催されました。日弁連の正副会長、各地単位会会長や委員ら、110名ほどの人員の会議です。
冒頭、議長代行が「窓の外には富士山が見えますので、カーテンを開けました。議論疲れの折は富士山をご覧ください」と発言されました。昼食の後、冠雪の富士山をくっきりとみることができました。なぜかしら、心が浮き立ちます。
ところが、その後の会議は激しい議論のやりとりが続きます。当会は司法試験合格者数について「段階的1500人説」を採択していましたので、日弁連案の「まず1500人説」に大筋賛成であり、34会は日弁連案に賛成でした。しかし、12ないし16会は「1000人説」の意見を提言していましたので、これをどのように日弁連案に取り入れてまとめるのかが議論になりました。しかし、現状2000人合格者に対して1500人へと減員することすら困難が予想されるのに、一挙に1000人へと減員を提言することは到底現実的な対応とは考えられず、私は「1000人説は単なる量的減員ではなく、質が異なる。よって1000人説は提言の趣旨の中に入れるべきではない。せめて、入れるならば理由中である」と述べました。この見解は、静岡、和歌山、京都、沖縄、一弁等の会長も同旨であり、激しい議論の応酬があり、結局最終的には多数決をとって、日弁連の原案賛成多数(賛成76・反対28・棄権5)により採択されました。これが、人口政策会議の最終とりまとめとして3月の日弁理事会に正式提案されることになりました。

2.未成年後見人の責任軽減の提言
2月16日の日弁理事会において、子どもの権利委員会から「未成年後見人の業務は身上監護と財産管理があるが、身上監護については被後見人の不法行為に基づく損害賠償責任が過大であるために、受け皿となる弁護士人員が準備できないでいる。よって、未成年後見制度を改正して、この責任の軽減を求める」という趣旨の意見書の提案が出され、採択されました。
昨年の東日本大震災により、両親のうちどちらか一方の親を亡くした子ども(ただし18歳未満)は、岩手、宮城、福島の被災三県で1,295人(2011年7月29日現在)、両親を亡くした子ども、あるいは一人親を亡くした子ども(いわゆる震災孤児)は229人(同日現在)といわれているところ、弁護士も未成年後見人になっているとのことでした。
岩手県弁護士会の会長は「自分も未成年後見人になっている。子どもは施設に入っているが、ときどき会って身上監護をしている」との発言をされました。

3.「養育費・婚姻費用の簡易算定方式・簡易算定表」に対する意見書(案)について
2003年3月、東京・大阪養育費等研究会が、判例タイムズ1111号で発表した「簡易迅速な養育費の算定をめざして―養育費・婚姻費用の算定方式と算定表の提案」(以下「研究会提案」といいます)は、弁護士ならば皆様ご存知のことでしょう。
この算定表は、その目標どおりに迅速な算定という結果をもたらし、実務に定着しました。しかし、その表の根拠となった計算方法は多々問題点が指摘されていました。つまり、算定される養育費額が、最低生活水準にすら満たない事案を多数生み出し、母子家庭の貧困を固定又は押し進め、特に子どもの教育環境を両親家庭に比して著しく低い水準に固定化し、事案によっては離婚を契機に就学を断念するなど教育の機会を失わせる酷な結果をもたらす一因となっていたのです。この意見書(案)が提案され、3月理事会で審議されることになりました。以下、意見書(案)を抜粋します。
「1年間の間に両親の離婚を経験する未成年子は、252,617人(2010年人口動態統計)であり、この10年、この数字は横ばいの状況にある。2011年の年間出産数は、約106万人であり減少の一途をたどっているから、すべての子の4分の1近くが両親の離婚にさらされる傾向にあるといっても過言ではない。成人化に20年を要することから、単純に20年を乗ずると、両親が離婚している未成年子が約500万人存在することとなる。
一方、その約8割は母が親権者となっており、この点もここ10年変化がない(同人口動態統計)。しかし、その母子家庭の平均就労収入は、171万円であり、全世帯の平均年収564万円の3割にすぎない(2006年度全国母子世帯調査)。未成年子を監護する母子世帯の2010年の貧困率は48%にも及んでおり(国立社会保障・人口問題研究所)、養育費額の公正な算定は、多くの子の成長発達の保障、子の福祉の増進に不可欠であるだけでなく、教育力は国の力の基本となるものであることを考慮すると日本の将来を決するほど重要なものといえる。そこで、当連合会は、次のとおり提言する。
1 当連合会を含め、裁判所及び厚生労働省等の養育費実務関係機関は、子どもの成長発達を保障する視点を盛り込んだ、研究会提案に変わる新たな算定方式・算定表を作成すること。
2 養育費等に関わる実務関係者は、研究会提案の簡易算定方式・簡易算定表の仕組みと問題点を認識し、新たな算定方式・算定表が作成されるまでの間、研究会提案の簡易算定表を慎重に使用するものとし、同簡易算定方式の考え方(双方の総収入について、標準化した公租公課・職業費・特別経費を控除して、各基礎収入を算出しその合計額について、指数化した生活費指数を用いて按分する考え方)を流用する場合には、子どもの福祉の視点を踏まえ、少なくとも公租公課を可能な限り実額認定し、特別経費を控除しないなどの修正を加えて算定すること。
3 新たな算定方式・算定表が作成されるまでの間、研究会提案の簡易算定方式・簡易算定表の問題点について、裁判所及び養育費相談支援センター等厚生労働省の事業等での周知を図ること。」
私も上記提言の趣旨は実感として抱いていたために、早急に当会の両性の平等委員会において算定表の修正点についての検討をお願いし、会員に使い勝手のよい提案をしていただきたいと願っています。

4.帰途の日本アルプス
2月19日日曜日の午後から、県弁会館で新旧執行部の引継会があるため、早朝、帰福しました。飛行機から見る富士山は頭を雲の上に出し、あたりを睥睨しています。
意外にも中央アルプスの峻険な稜線にはわずかな雪しか残っておらず、太陽の光に照らされて美しいです。ところが、中国地方、九州は厚い雲に覆われていました。前日まで大雪が降ったとのことでした。
あと1か月余で会長職も終わりとなります。

2012年2月20日

会長日記

平成23年度 福岡県弁護士会 会長 吉 村 敏 幸(27期)

1.日比谷公園点描・心字池のカワセミ
今日も日弁会館まで日比谷公園の中を歩いています。
空は快晴、大勢の通勤者たちと足早に歩いていると、ふと、心字池にカワセミがいるという記事が数日前に写真付きで掲載されていたことを思い出し、しばらく目を凝らしますが、探しきれません。望遠レンズを構えた写真家も一人いました。
木立ちの中を歩くと、テニスコートでは早朝からすべての面が埋まっていて、練習やら試合やらをしています。一見してかなりの高齢者のダブルス試合を見ていると、ワンバウンドではなくてツーバウンドで返球していてゲームを続行しています。「なるほど。これはいい」。
樹々の下はカラスや鳥の糞がたくさん落ちているので、少し避けて歩きます。修習生のころの春に、噴水の横のベンチで眠ってしまったことを憶い出し、あれから40年にもなるかと思って、一気に老けてしまいました。

2.義捐金と絆の感動
昨年の漢字はきずな「絆」。(誰がこんなことを始めたのかしらん、と思います)
遅々として進まない復旧復興支援策を見るにつけ、絆が色あせて見えます。
我が福岡県弁護士会は昨年12月に、東弁の学資金募金に共催の形で当時の震災義捐金の残額422万円余を全額送金していました。口座はゼロになっていました。その後、新1年生は卒業まで学資募金が続かないために募金の継続をお願いしたところ、なんと今年に入り、1月中旬までに85万円余の義捐金が大勢の会員から入金されていました。
これはまさに、絆の感動です。これで高校1年生の学資期間の延長が可能となります。福岡の会員は凄いです。また、私たちのチラシや月報の記事にきちんと目を通していただいていることに感謝いたします。

3.新執行部の立候補
平成24年度の新執行部の方々の立候補が出揃ったようです。
今の会務は相当にハードであって、質・量ともに私が副会長をしていた平成7年とは、今昔の感があります。
日弁連は国の各行政分野の事案ごとに対応委員会が課題を検討する体制づくりをしていると聞いたことがあります。したがって、日弁連の本部と各種委員会は大変に大きな組織となっています。そこから各地の単位会や関連委員会あて意見照会がなされます。ですから、いわゆる人権族、業務族、消費者族等の○○族という専門家がいなければ充分対応できないことが多いのです(ただし逆に専門家は専門家であり過ぎるための弱点を抱える場合もあります)。
したがって、県弁会長、副会長、事務局長はこれら○○族がバランスよく構成されていれば申し分ありません。とはいっても、執行部は全くのボランティアであり、負担が重いので、なかなかなり手がいませんから、ぜいたくも言えません。不得手な分野や知識不足の部分は色々と勉強し、教えをいただきながら協力し合って乗り越えていかざるを得ません。しかし、同時に執行部が慣れ合いで重要なテーマについてあまり議論を尽くさないままに常議員会に議題を上程すると、疑問や意見が百出し、恥を露呈することになります。ですから、執行部会議の中で厳しい意見のやり取りは本来大いに歓迎されるところです。私たちは当初そのように臨んだのですが、毎回の執行部会議は議題が大変多くて充分ディスカッションの時間が取れなかったことが残念でした。次年度の会長、副会長、事務局長ら名前が挙がっている方々はいずれも熱心に会務をこなしてきておられた方たちばかりで、しかも論客揃いです。困難な議題が山積している中で、多くの会員の意見を取りまとめ、当会丸の誤りなき舵取りがなされることが期待されます。昨年、私の不徳の致すところで、副会長や事務局長のなり手がないために、いろいろと苦労したことを思い出しました。執行部の先生方には大変感謝しています。

4.君が代、日の丸訴訟事件の停職・減給処分について−自由な風を−
最高裁判所(第1小法廷・金築誠志裁判長)は平成24年1月16日、国歌の起立斉唱命令に従わず、東京都教育委員会から懲戒処分を受けた公立校の教員らが都に処分取消と損害賠償を求めた事件の上告審判決で、戒告処分は妥当とする一方、過去数回の不起立のみで停職・減給とするのは処分による不利益の大きさを考慮すると重すぎて違法との判断を初めて示し、停職1か月(61歳女性)、減給1か月・10分の1(61歳女性)の処分を取り消しました。
これについて弁護士出身の宮川光治裁判官は「不起立は不作為に過ぎず戒告でも重すぎる」との意見を述べ、行政官出身の桜井龍子裁判官は「都による加重処分の機械的適用は問題」との補足意見を述べたとの報道です。
昨年相次いだ君が代、日の丸訴訟事件においては、起立斉唱命令が「特定の思想を強要するものではない」として最判は合憲判断を示しており、その流れの中で大阪府議会は分限免職規定を含む条例案を準備しているとの報道があるだけに、私としては今後の流れに重大な関心を寄せていました。東京都では管理職が教員の口元に耳を寄せて、君が代斉唱の際にどの程度の声量を出しているのか、あるいは「口パク」だけではないか、などのけん責までしているとの報道を見るにつけ、思想統制の「いつか来た道」に危惧を抱いていました。ですから、やっとスタート台に立つことができたという思いと同時に、今後の司法に幾ばくかの期待を抱くことができて、嬉しく思いました。

5.当面の課題
1)インターネット上の情報流出について−再チェックを要請します。
  東弁の北千住パブリック法律事務所が作った弁護団情報がインターネットを通じて第三者に流出していた件について、日弁連から各会員あて再チェックおよび流出しないよう対策を講じていただきたい旨の要請がなされました。各会員および事務局の方々は点検をお願いします。
2)新年早々、福岡県選出の全国会議員あて、弁政連を通じて、①給費制実現の運動、②少年身柄事件全件国選付添人実現に向けての取り組みとして、平成24年2月4日福岡シンポ、平成24年3月10日北九州シンポへの参加および支援の要請、③東日本大震災等被災者に対する法的支援活動のため、法テラスの資力要件撤廃を求める特別措置法制定の取組みの要請、をお願いしました。そのほか、旧スパイ防止法と実質的に同視されるものとして秘密保全法も国会へ上程される恐れがあり、反対の運動に取り組む必要が出てきます。
  これらについても、皆様のご支援とご理解をお願いします。

2012年1月13日

会長日記

平成23年度福岡県弁護士会 会 長 吉 村 敏 幸(27期)

1.新年あけましておめでとうございます。
昨年の私たち執行部活動の中心課題は、何といっても、給費制実現の運動と、発足直前に発生した3.11東日本大震災と原発事故の復興支援対策です。この二つが一番大きく心にのしかかっていました。震災問題は、被災者復興支援対策本部において何度も法律問題の研修を繰り返し、相談と応援の体制づくりを行ない、また義捐金を募集しました。金額は早い期間で1,000万円を超えました。このうち東北三県(岩手、宮城、福島)の各単位会に各200万円ずつ送金し、残422万円余を震災で父親や母親を亡くした高校生140名の学資として一人当たり毎月15,000円を送ることにしました。これは、東京弁護士会が当初40名程度を考えて高校生の選定にあたったものの140名もの応募があったため、全員を救済することとし、改めて会員に追加の募金をお願いしていたものです。当会は東弁の企画に共催の形で支援することになりました。これにより、高校1年生、2年生の学資金の支給期間が当初予定されていた平成24年8月から大幅に延長可能となったとのことでした。子ども達のお礼の言葉を次に記します。
☆(ご本人からの手紙)
私は今回の特別義援金支給決定をうけ本当に感謝しています。これから高校生活を始めるにあたり一生懸命に勉強、部活に打ち込み、高校生活を有意義なものにしていきたいと思っています。今回の義援金支給の決定ありがとうございました。
☆(ご本人からの手紙)
この度は義援金を支給していただくことになり、誠にありがとうございます。今はとても大変な時ですが、日々勉強に励んでいきたいと思います。本当にありがとうございます。
☆(ご本人からの手紙)
特別義援金の支給、ありがとうございます。今回の震災で家族4人が津波に流され亡くなりました。父、姉、祖父、祖母です。家族が一度にいなくなり、悲しい、寂しい毎日ですが、母と妹と3人で仲よく暮らしています。将来、看護師を目指して勉強中です。家計の不安もあり、少しでも母の助けになればとアルバイトを始めました。今回、義援金を給付いただけることになり、うれしく思っています。本当にありがとうございました。
☆(ご本人からの手紙)
この度は義援金を支給いただきまして、ありがとうございました。私は母親と二人暮らしで生活していました。この震災で母親が亡くなり、一人になってしまいました。でも今は、祖父母の家で叔母と一緒に暮らしています。叔母は会社から解雇になってしまい、生活面で困っていました。このような支援をして頂きまして、すごく助かり感謝しています。本当にありがとうございました。
☆(ご本人の叔母様からの手紙)
このたびは色々とご配慮いただき、大変ありがとうございました。○○(本人・姪)になり代わりまして、お礼申し上げます。震災後は体調を崩すこともありましたが、現在は毎日、部活動の吹奏楽にいっしょけんめい取り組んでおります。家庭環境も変わり心理的にも困難な状況の中でも、前向きに努力する姿に、私どもも微力ながら協力していこうと考えております。
東弁でも引き続き募金を継続して、できるだけ期間の延長をはかろうとしています。福岡県弁としてもこれを機会に改めて募金のお願いをし、親を亡くした東北の子ども達を支援していきたいと考えています。皆様の募金をよろしくお願いします。
被災者を中心とする法律相談については、会内の相談センターでの体制づくりをしてきましたが、平成23年4月以降、12月18日の集中相談研修までに22件となっています。他方、被災地への応援については現地からの要請はありませんが、東京三会が中心となって行なっている原発問題支援機構が福島県等における訪問相談チームを編成して被災地に出向いています。しかしながら到底弁護士の人手が足りないことから、西日本地区からの応援を求めているとのことでした。現在、対策本部に検討をお願いしているところです。

2.残り3か月の課題
私たちに残された課題はたくさんありますが、とりあえず次の諸事項を掲げます。人権、司法制度、会内問題、業務問題です。
①給費制実現へ向けた運動の拡大
②法曹人口問題についての当会の方針の策定
③少年身柄事件全件国選化へ向けた運動の展開
④被疑者国選拡大(全件化)の運動
⑤原発賠償問題へのバックアップ出張体制の実現
⑥自死問題についてのネットワークの構築
⑦共済制度の具体化
⑧リーガルサービス基金の期間延長
⑨県弁会計システムの変更
⑩消費者事件のアクセスルート構築
⑪国際取引PTの今年度のまとめ
⑫福岡・釜山フォーラムの日韓海峡圏における取引障害事例の研究着手
⑬福岡市医師会とのパートナーシップ活動の具体化
⑭法律相談センターの充実のために(チケット制等の一層の拡大へ向けて)
もちろん、上記以外にもたくさんの課題があることは承知していますが、各委員会の皆様とともに網羅的に取り組みたいと思っています。

3.矛盾のなかの合意
日弁連の法曹人口政策会議は先鋭な意見の対立する場です。私たち各単位会の会長は当然委員になっており、各単位会の意見を反映できるような建付けになっています。現状は約2000人の司法試験合格者のところ、裁判官、検事の任官者採用者数は全く伸びておらず、当初の司法制度改革審議会意見書は前提事項(司法基盤の整備、法的需要など)が達成されないまま、弁護士数のみが増加する最悪の事態となっています。そのような中で、司法試験受験者の質の低下、弁護士登録しても就職できない新人の激増、法科大学院を目指す若者の激減などから、新人弁護士の逼迫感も高まっています。ここで、日弁連の法曹人口政策会議では、司法試験合格者の数を1500人や1000人へと減少させるべきとする意見が表明され、また、これまでに各単位会や日弁連の決議・声明が相次いで出されました。私は、現状の2000人合格者を段階的に1500人減員とする案を「已む無し」論として、個人的に意見表明しました。しかし、合格者1000人説の人たちの強い反発もあり、今後の行方は予断を許しません。私としては、現状2000人合格者を1000人あるいは1500人のいずれかとして打ち出すのは、数の面において両立し得ない質的相違であると考えます。しかし、減少する方向は一致しているのですから、このような矛盾的見解においてこれを許容する論理を承認したうえで、まずは1500人説を採用して、ここからの運動を創造することが大事だと思いました。しかし、1000人説の方々の舌鋒は鋭く、困難を極める状況です。それでも、3月末までにはきちんと日弁連の意見集約、すなわち矛盾のなかの合意をはかることができるように努力したいと思います。

4.大いなる夢と希望を抱いて
今年一年、辰歳がスタートしました。
弁護士の将来には魅力を感じないとする声もあります。しかし、弁護士とは本来、職人的なものであると思います。労を惜しまず、現場に出て活動すると、必ず何かが見つかります。そして、自分を必要とする人たちの力になることができますし、引いてはその活動の延長で制度や法律を変えることができます。弁護士の公益性・公共性です。
これらの信念を固く信じ、大いなる夢と希望を抱いて、この一年も努力していきたいと思います。

2011年12月 6日

会長日記

福岡県弁護士会会長日記 

平成23年度 会 長
吉 村 敏 幸(27期)

1.ポカ、当会弁護士作家
宮本輝という作家がいます。私とほぼ同時代人であるために、登場する人物の個性や家庭、時代状況が懐かしく憶い出され、好きな作家のひとりです。
泥の河(太宰賞)、蛍川(芥川賞)、優駿(吉川英治賞)と、連続受賞しました。
その後、流転の海という連作物が文庫として出版され、これも文庫化されるのを待って、出版のたびに購入しますが、概ね3年間隔であるため、続刊が出るころには前作を詳しくは憶えておらず、困ります。今回、続刊が出版されたとの新聞広告を見て、高松人権擁護大会への車中の読み物として楽しみに購入しました。博多駅構内の書店には文庫の帯に「新刊」と記してありました。数頁読み進み、前作(第5巻目)のような疑いを抱き、後で確認したところ、続刊は6巻目とのこと、ポカでした。
これだから連続物はやめようと思っていたのに、と悔しい思いを抱きましたが、主人公一家の波乱万丈、清冽な生き方が面白くて、結局また買う破目になります。
小説といえば、当会会員「法坂一広」氏(ペンネーム)作の「懲戒弁護士」が宝島社の「このミステリーがすごい」の今年第1位を受賞しました。「このミス」シリーズというのは、たくさんの読者層を持っているもので、その中の1位は大変に価値あるものです。たとえば、チーム・バチスタの海堂尊も「このミス1位」からです。筑後部会の「剣持鷹士」氏(ペンネーム)も第1回創元推理短編賞を獲得されています。「あきらめのよい相談者」です。

2.タイムチャージ制
今年10月1日から刑事訴訟法廷における「公判時間等連絡メモ」が導入されました。
これは、法テラス対象の国選事件について、裁判の開始時刻、終了時刻を記述し、法テラスに報告するものです。裁判所は、弁護士とは別途、法テラスあて各時刻を報告します。
既に法テラスからお知らせ文書が届いていましたので、ご存知かと思いますが、刑事裁判の費用がタイムチャージ制になったものと理解して、できるだけ正確に記述していただきたいと思います。従来、国選事件は、金銭に関係なく、安い費用でも被告人の権利擁護に尽力すべきと考えられたものでしたが、安い費用はそのままなのに、余計な確認作業だけは増えてメンドウだ、などの愚痴が聞こえてきそうです。

3.弁護士業務とTPP、EPA
TPPとは、Trans-Pacific Partnership(環太平洋戦略的経済連携協定)です。
加盟国間の経済制度(サービス、人の移動、基準認定など)における整合性を図り、貿易関税については例外品目を認めない形の関税撤廃を目指しています。例外がないとすると、この中に弁護士業務等のサービスも入ってくることになりそうです。
10月18日の日弁理事会の冒頭、宇都宮会長報告があり、オーストラリアの関係者からEPAの申し出があり、意見を聞かれたとのことでした。EPA(経済連携協定)とは、物流のみならず、人の移動、知財の保護、投資、競争政策など、様々な協力や幅広い分野での連携と、両国または地域間での親密な関係強化を目指す条約です。具体的な申し入れの内容は、例えばオーストラリア弁護士が日本国内のホテルに90日間滞在して、同所を事業所として弁護士業務を行なうことの認可や、テンポラリーライセンスの取得を認めることなどです。
宇都宮会長の回答は当然「No」(ノー)でした。TPPを受け入れると、あらゆる障壁を撤廃することになるといわれますが、司法制度は国家の基本をなすものですので、弁護士業務がサービス業とはいえ、種々の制度が障壁として撤廃されるなどの事態に至ることは、到底了解できるものではありません。

4.刑務所の老人施設化
人権大会が高松市で開催され、第1分科会「死刑廃止について国民的議論を」の中で、刑罰をどのような視点で捉えるかが議論されました。この点は、応報なのか、更生・教育なのかが、古くから常に議論されています。
この中の浜井浩一龍谷大学教授の話をご紹介します。同氏は法務省出身、矯正施設、保護観察所勤務、法務総合研究所研究官、国連犯罪司法研究所研究員などを歴任。同氏によると「犯罪は従来、若年・壮年世代層が最も多いが、我国は少子高齢化に伴い高齢者層の犯罪者が増加している。本来は社会福祉の面からケアされれば犯罪にしないでもよい事柄が犯罪として立件され、刑務所でメンドウを見なければならなくなってくる。刑務所は福祉施設のようにノーとは言えないところであって、老人施設となっている。刑事政策は社会政策であり、社会福祉と係る事柄である」とのお話です。
これから寒い季節を迎えると、軽微犯罪を起こして刑務所を目指すお年寄りが増えてくるでしょう。地域生活定着支援センターが各地に設置されていますので、高齢者の生活支援を求めていく必要があると思います。
また、エリスキルスセン教授は、ノルウェー刑務所の解放処遇政策の成功をお話しされ、憎しみよりも融和を目指そうということを強調されていました。

5.福岡−釜山フォーラム
9月2日〜3日と2日に亘って、第6回福岡−釜山フォーラムが開催されました。
福岡県弁護士会と釜山地方弁護士会が今回から新たにメンバーとして加わり、福岡で開催されたものです。これは、日韓海峡圏の将来像を模索する、として成長戦略を語るものです。今回は、東日本大震災・原発事故が日韓に与えた影響を中心に意見交換がなされました。詳しくは、松井副会長の報告に譲ります。

6.給費制の闘いと全件国選付添の要請
給費制の闘いが昨年と同じような展開を辿っています。国会議員には、与野党ともに理解と支援をいただいていますが、お役所の抵抗が強いようです。
しかし、10月18日〜19日と2日間に亘り私たち(市丸信敏、_橋直人、吉村)は、熊本の高島会長、野口九弁連理事長らと粘り強く議員要請活動を続けています。
10月18日は当会の大谷、尾_大会員らとともに議員会館へ、少年身柄事件の全件国選付添人化の要請も行ないました。この問題についても、衆参議員から今後かなりの支援を得られるものとの感触を得ました。

2011年10月20日

会長日記

平成23年度福岡県弁護士会会長日記会 長吉 村 敏 幸(27期)

今月も月報原稿締切に遅れ、日弁理事会の後、東京のホテルで会長日記を書いています。いつの間にか、会長就任後、半年が経とうとしています。
1.原発問題日弁連では震災・原発関係の議論、決議が多く、また現実の東京行動は給費制運動に時間を多く割いています。当会の原発問題としては、弁護士・弁護士会のエネルギー問題として問題提起がなされています。弁護士・弁護士会は、人権、公害、環境等につき、かねてより先駆的活動や少数者の人権擁護活動に取り組み、時代を切り開いてきました。在野にあり、旺盛な批判的精神を発揮してきました。他方、内なる弁護士個々人の人権、環境意識についてはやや弱かった点も認めざるを得ません。皆様は、身近な環境問題について、どのように考えてこられましたか。今、新会館建設にあたって、公害・環境委員会から「脱原発を目指し、環境に配慮した新会館を作っていただきたい」との意見書があげられています。既に日弁連は脱原発へ向けた決議を出していますが、当会としても日弁連と同様に脱原発に向けた環境エネルギー政策への転換を求める以上、自らの環境意識を変えるべきであるということです。そのためには、六本松への移転、新会館建設にあたっては、再生可能エネルギー(自然エネルギー)の利用を可能な限り促進すべきであるとの立場です。九弁連大会決議案として、当初は太陽光発電の設置を求めるとの具体的内容が盛り込まれていましたが、高層の裁判所ビルが南側、法務検察ビルが東側に位置する状態で、低層の当会弁護士会館としては、太陽光発電は効率および費用負担からも現実的ではない、との批判もあり、現時点では具体的内容には入らず、今後、可能な範囲内で環境エネルギーに配慮していくとの努力目標となったものです。内なる環境意識といっても、現実に生活様式を変更することは容易ではありません。私の若いころの理想とする環境・生き方は、脱エネそのものでした。「野原ノ松ノ林ノ蔭ノ小サナ萱ブキノ小屋ニヰテ」(宮沢賢二「雨ニモ負ケズ風ニモ負ケズ」)、「煙たなびく苫屋こそ我がなつかしき住家なれ」(「われは海の子」文部省唱歌)です。しかし、このような苫屋は田舎の一人暮らしであれば可能であっても、お年寄り、子どもを含めた家族の生活は到底成り立たないのが現実です。都会暮らしの人間にとっては、精々電気をこまめに消すとか、紙を節約するとかの実践しかないのかなと思います。当会の公害・環境委員はKES(環境エネルギー)システムを事務所として取り入れているとの報告もありました。初期費用はかかるとしても、省エネルギー効果が果たせるのであれば、一考に値すると思われます。因みに私は、今年の夏もエアコンなしで就寝しました。エアコンなしの夏の夜は3年目になりました。人間の力では制御不可能な現実を実態として目の前で確認できた今回の福島第一原発事故のこの恐怖感を大事にしていきたいです。
2.新会館の規模、機能、概要について-大阪会館の教訓新会館建設問題については、現在の会費以上の負担は新たに求めないという強い決意で臨むつもりです。大阪弁護士会、広島弁護士会と当会の三会交流会が広島の会館で行なわれました。広島は既に会館を所有していますが、手狭になったために近所の角地を購入して新会館を建設予定とのことでした。大阪弁護士会は平成18年に新会館を建設しました。この時も、賛成派と反対派に分かれて激論が交わされたそうです。反対派は、新会館の規模が大きすぎることを理由としていたということでした。当会の月報6月号23頁、7月号27頁に会員アンケートの結果の記載があり「大阪弁護士会館では現状空き室が多い」との記述があります。この点について福岡から大阪の会長にお尋ねしたところ、中本会長は驚いて「新会館を作るときは、当然反対はあったけれど、今は全員喜んでくれており、さらにこの会館でさえも既に手狭になっているため(研修が年に300回ないし400回)、もう少し大きな会館を作っておくべきだったと言われているくらいです。部屋が余っているとか批判が多いなどの話は全くありませんよ」ということを強く話されました。大阪は平成18年7月に新会館建設、新会館は地下2階、地上14階建て、建築面積2,276.90・、延床面積17,005.29・、建設費約55億5,000万円ということでした。太陽光発電も設置しているとのことです。
3.給費制8月31日に政府の法曹養成フォーラムは給費制を廃して、貸与制移行を打ち出しました。しかしそれ以前の8月23日、民主党の法曹養成に関するPTは、給費制のみを先行して結論付ける点には反対であって、法曹養成に関する全体議論が終了するまでは、給費制を暫定的に存続させる方針を打ち出していました。その後、野田新内閣が発足し、財務、法務、文科の新大臣も新たに決まって、今後の行方も予断を許しません。しかし、当会は引き続き日弁連と一体となって、給費制を勝ち取るまで闘い続ける覚悟でいます。今後は、国会での戦いになります。また法曹養成問題としては、いよいよロースクール問題へと議論が及びつつあります。今後、弁護士会はつらい決断をしなければならないでしょうが、ロースクール生は既にこれまでに、もっとつらい立場におかれ続けてきたということも言えるような気がします。
4.人権プレシンポ・死刑シンポ人権大会プレシンポとして、 9月 5日 死刑シンポ 9月 10日 患者の権利シンポ 9月 17日 生存権シンポが開かれました。いずれのシンポも100名前後の一般市民や会員の参加があり、熱心な討論がなされました。私は九弁連や日弁理事会と重なったため、残念ながら死刑シンポしか出席できませんでした。死刑については、日弁連は平成14年11月に死刑執行停止の理事会決議をしていますが、今回は「死刑廃止について国民的議論を」をテーマに高松市で開催されます。死刑制度は弁護士としても思想、信条にかかわる事柄であって、容易に結論が出せる課題ではありません。諸外国でも死刑廃止決議や死刑執行を事実上停止した時代的背景としては、ほとんどすべての国で死刑賛成派が60%~80%の国民世論でした。それを時の政治家がリーダーシップによって、死刑廃止なり死刑執行停止を断行したということです。国民世論は自然的感情や素朴な正義感から死刑賛成派が多数を形成します。それにも拘わらず国会議員として死刑制度に異を唱えることは、選挙にとってはマイナスにしか働きません。諸外国はそれにも拘らず、なぜ死刑廃止・執行停止を断行できたのか。それにはまず、議論を巻き起こし、次に政治家のリーダーシップにより断行するという諸外国の例にならうことが必要だといわれています。千葉景子元法務大臣は、死刑を執行して議論を巻き起こすという誤ったリーダーシップをとりました。今後の平岡秀夫法務大臣(弁護士/山口県弁護士会所属)は死刑制度について「執行するかしないかだけでなく、制度を国民と一緒に考えたい。国民的な問題提起をどう受け止めるかも考えたい」と述べています。今後の新大臣の言動が注目されます。

2011年9月28日

会長日記

平成23年度福岡県弁護士会 会 長吉 村 敏 幸(27期)

1. 今日は、仙台で日記を書いています。8月19日金曜日に日弁理事会が終わった足で、夜、仙台に赴き、8月20日土曜日、仙台からJR仙石線(センセキ線)と石巻線に乗り継いで、被災地石巻市と女川町に行ってきました。今年5月の県弁総会で報告をいただいた石巻市の前田拓馬弁護士が3月11日の講演時、被災した施設(健康センター)はかろうじて残っていましたが、他はすべて瓦礫と化し、女川町の中心部はまさに無人の土地でした。グーグルでも状況を見ることが可能です。JRも寸断され、途中、代行バスに2回乗り換えて、仙台から女川町の避難所(高台の総合体育館。ここには今でも体育館の中で約160人の町民が避難生活をしておられました。他に約15か所の避難所あり)まで片道4時間要します。線路は赤さびて途中のバス道路から見える建物も壁が壊れ、朽ちています。女川町の避難所にはボランティアの医師やNPOの若者たちが数人残っており、運動場で4~5人の若者がトランペットやサックス等で演奏の練習をし、その横で7~8人の若者がダンスのドール踊りなど練習をしています。お年寄りは数人が体育館の玄関に出て、この練習風景を眺めているだけで、多くは施設の中のようです。施設の中は小さくパーテーションされ、たくさんの衣服やタオル等が無造作に掛けられています。町の中心部の廃墟、重機だけが動いている様子とは、対照的でした。思い立ったのは、7月の生存権委員会の合宿のときに井上英夫金沢大学教授から「絶対に被災地に行きなさい」と強く言われたことが心に残っており、やって来ました。もともとは、当会の震災復興本部としても、東北三県の弁護士会と提携して法律相談活動の支援をする必要があるだろうと考えて、震災対応の研修を行なってきたものの、東北三県からは自前の対応のみで手一杯であり、他の多くの単位会の支援要望に応える体制が作れないために、すべて謝絶され、結局、当会は現地の支援に赴く必要性がなくなってしまいました。もっとも、福岡県における被災移住者の集いや交流会には委員会から積極的に出かけて行って、自治体やNPOと連携しての相談活動を始めています。東京を出るときに、福島で震度5弱の地震があり、仙台に来てからも日に数回の地震が続いています。このような中で、石巻線沿線や女川町の瓦礫を取り除いた後、町はどのように再興がなされていくのでしょうか。今までと同じ仕事と安心できる住居の確保がなされることを願っています。仙台駅にはカメラを抱えた若者が多く、ボランティア受付のブースもあります。途中の矢本町はちょうど夏祭りのため若者が多く、浴衣姿の女性たちがたくさん談笑しています。子どもや若者たちの屈託のない笑顔と元気にホッとしました。

2. さて、給費制の問題がまたもや国会の中で活発になっています。政府の「法曹養成に関するフォーラム」は、当初から貸与制の問題についてのみ議論し、8月末までに結論を出すことになっていましたが、8月4日の第4回フォーラムでは貸与制を前提とした佐々木座長の取りまとめがなされました。これについては、直ちに地元の国会議員要請活動を福岡および東京の議員会館でも行ないました。ビギナーズネットは連日国会周辺で給費制存続を求めた朝のビラ配りを行なっています。全国的に国会議員の給費制に対する理解も進んでおり、8月2日、18日と、相次ぐ私たちの訪問についても快く応じていただき、また、院内集会への参加者も多く、積極的な発言がなされています。昨年と同じような時間切れにならないよう、また、仮に時間切れになったとしても、給費制が存続されるまで戦い続けるとの強い覚悟でいることをお伝えします。

3. 法曹人口問題政府のフォーラムは給費制だけではなく、法曹養成にかかる問題全体について議論する場です。この期間としては概ね2~3年くらいではないかと予想されています(ただし正確な情報ではありません)。したがって、日弁連としても、それ以前に一定の方向性を打ち出す必要があります。当会としてもこの問題について広く会員の意見を取りまとめる必要から、11月上旬に法曹人口問題シンポジウムを開催予定です。現在、シンポ準備会の中で連続勉強会を開いています。最終的に重要な事柄は「市民にとって適正な法曹人口」は如何にあるべきか、その判断要素は何か、ということだと思います。これが大変に難物です。かつて司法改革審議会において法曹人口5万人、毎年3000人合格説が主張された根拠は、フランス並みにということだったと聞いています。しかし、この根拠は、・法律関連の隣接職種を加算していないことの誤り、・法曹需要-事件数比較がなされていないことの誤り、があります。隣接関連職種は、司法書士(2万人)、行政書士(4万人)、税理士(7万人)があります。対象の諸外国には、これらの隣接関連職はありません。米英独仏日弁護士人口(2010年)110万人12万人15万人5万人2.8万人関連職司法書士2万人行政書士4万人税理士7万人事件数比較(2009年)1837万件194万件163万件155万件90万件人口10万人あたりの事件数5,8383,1601,9932,500708日本を1とした場合8.24倍4.46倍2.81倍3.53倍1以上から明らかなように、我国では事件数から見て諸外国のように法曹需要は存在しないということがいえます。また、我国の隣接法律関連職業人口を加算すると、司法書士を加えて、フランス並みのおよそ5万人となります。

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