弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
アメリカ
2019年3月 1日
「謎とき『風と共に去りぬ』」
(霧山昴)
著者 鴻素 友季子 、 出版 新潮選書
オビに中島京子が「うわー、そうだったのか!これを片手にもう一度読み直さなきゃ『風共』」と書いていますが、まさしくそのとおりです。ええっ、そうなの・・・と驚きの指摘が満載の、画期的に面白い本です。電車のなかで一心に読みふけってしまいました。
著者は10年の歳月をかけて、何度もリライトを繰り返しながら『風共(かぜとも)』を仕上げた。『風共』は、アメリカの南北戦争前夜から戦中、戦後を通してたくましく生き抜いたひとりの女性の物語である。主人公のスカーレットは、いわゆる美人ではないが、男性を虜にするすべを心得ていて、これと狙いを定めた相手は、すべて手に入れてきた。
『風共』の原作と映画の関係について、この本の著者は次のように指摘しています。はじめは、本当にそうなのかなあと半信半疑になりますが、この本を読みすすめると、たしかに、なるほどそうなんだろうと納得させられます。
歴史的大作である映画は、ある意味で非常に原作に忠実につくられている。しかし、その反面、まったくの別物でもある。忠実にして別物という二面性をここまで奇跡的に兼ね備えた映画は稀有だろう。
原作では、出だしのところで、「スカーレット・オハラは美人ではない」と明記されている。しかし、映画ではヴィヴィアン・リーという美人女優が演じている。
「タラ」の屋敷は、映画ではギリシャ復興様式の白亜の豪邸だが、原作では剛穀で野趣あふれる家、実用優先の質素な農家だった。
この本の著者は、映画と原作の本質的な違いは次の三つだとしています。
①原作は心理小説である。
②原作は、アンチ・ロマンス、アンチ・クライマックスの小説である。
③原作の主軸は、スカーレットとアシュリやレットとの関係だけでなく、スカーレットとメラニーの複雑な友情関係にもある。
原作(『風共』)は1936年6月にアメリカで出版されると、またたくまにベストセラーとなり、最初の年だけで170万部も売れた。原書で1037頁という分厚さにもかかわらず、世界各国ですばやく翻訳された。日本でも、2年後の1938年(昭和13年)には翻訳本が出版されている。
原作の『風共』は、白人富裕層の話ではない。むしろ、異分子、よそ者、少数者、はみ出し者、日陰者たちが真のヒーローであり、ヒロインでもある。もともと、「人種と階層のるつぼを描く」構想のもとに書かれた小説なのである。そこでは、昔ながらの虚構の南部神話を笑っている。
スカーレットにとって大事なのは、相手が自分に夢中になっているか否かだけ。ところが、スカーレットのサバイバル能力と危機管理能力は抜群で、徹底したプラグマチストでもある。
原作『風共』の著者であるミッチェルにとって、スカーレット・オハラは自分の分身であり、もっともやっかいな敵でもあった。原作『風共』は、壮大な矛盾のかたまりである。
この本の著者は、原作『風共』の真の主役は、メラニー・ハミルトンだと考えています。
そもそも、スカーレットという名前は、もとは「パンジー」であった。そして、メラニーは、黒い・暗いという言葉に由来している。これに対してスカーレットは、緋色からきている。つまり、「赤と黒」なのだ。
著者のミッチェルは、「本当のところ、わたしのヒロインは、スカーレットではなくメラニー」と書いているのだそうです。
この本の著者は、最後に次のように指摘しています。そうか、そうだったら、もう1回、原作を読んだあとに映画を見直してもいいなと思ったことでした。
原作『風共』は、過ぎ去った昔日を回顧する本ではない。我々の現在と未来を照射するものだ。過去を礼賛する後ろ向きで感傷的な物語でもない。今を生き抜こうとあがく人々のしたたかな物語なのだ。
いやはや恐れ入りましたの鬼子母神でございます。世の中は知らないことだらけ。だから面白いのですよね・・・。
(2018年12月刊。1300円+税)
2019年2月26日
アメリカの大都市弁護士、その社会構造
(霧山昴)
著者 ジョン・P・ハインツ・ロバート・L・ネルソンほか 、 出版 現代人文社
今のアメリカの弁護士の状況が分かる本なのかな、と思って手にすると、実は、少し古くて、主として1995年までの状況が語られています。せいぜい2002年までです。したがって、20年ほども前の状況ということになりますが、最近出版されたということは、今日もあまり変わっていないということなのでしょう。
20世紀前半までは、アメリカの法律プロフェッションのエリートは、ユダヤ人弁護士を差別し、ロースクールと弁護士会は黒人と女性を締め出すための公式の防壁を打ち立てた。
1971年に、女性弁護士はわずか3%しかいなかった。しかし、1995年には女性弁護士は24%を占めていた。
2002年には、法律事務所のパートナーの女性は16%だった。有色人種はアソシエイトの14%と、パートナーの4%のみだった。
アメリカの弁護士会の内部では格差が拡大している。単独開業弁護士のもうけは1970年代はじめに始まった。シカゴの弁護士は、1975年から1995年の20年間で2倍になった。単独開業弁護士の収入は、10万ドルから5万5千に下がってしまった。
1995年に、最大規模の法律事務所の所有者は、前年の中位値が35万ドル(3500万円)だった。所得のギャップが著しく拡大した。
政府機関で働く弁護士の平均所得は、1975年の6万3000ドルから、1995年の5万ドルへ23%も減少した。
女性弁護士の所得は、男性よりも有意に低かった。1975年には27%低く、1995年には13%低かった。
シカゴの弁護士は、1975年には57%が民主党を支持し、1995年には55%となった。
シカゴの弁護士は、1975年には53%がビジネスに力を注いでいたが、1995年には3分の2が企業を顧客とする業務に従事している。
どの弁護士会にも所属していない弁護士の割合が1975年から1995年にかけて2倍となった。
日本とアメリカ、弁護士のあり方については、とんでもなく遠い存在のように思えますが、実は意外に共通点があることを思い出させてくれました。
(2019年1月刊。4800円+税)
2019年2月24日
熱狂のソムリエを追え!
(霧山昴)
著者 ビアンカ・ボスカー 、 出版 光文社
私は赤ワインを少々たしなみます。フランスを旅行するときは、カフェにすわって、コーヒーではなく、一杯のグラスワインの赤を道行く人を眺めながらちびりちびりと飲むのが楽しみです。夜のディナーのときは、大き目のグラスで2杯の赤ワインを飲みます。陶然とした気味を味わうのです。
この本は、ソムリエとは何かを究めようとしています。ソムリエとは、レストランでの食事のとき、ワインを選んですすめてくれる給仕役の人物です。ソムリエとは、フランス中部で駄馬を意味するソミエという語から来ていて、あっちからこっちへと物を運ぶ荷役動物的能力を発揮する仕事に就いた人物のこと。
高級レストランでは、一般に1杯のグラスワインに対して、そのボトル1本の卸値と同額を請求される。ボトルで頼むと卸価格の4倍を請求される。グラス4杯がボトル1本の値段になる。グラス売りのワインは誰にとってもおいしい商売だ。生産者と卸業者はグラス売りの場を欲しがる。というのも、商品の回転が速いし、安定して注文が入るから。
マスター・ソムリエのブラインド・テイスティングでは、25分で赤3本、白3本の計6本の評価をしなければならない。
第一段階でワインの外観を見る。グラスの脚をつまんで、手首を数回すばやく回す。ワインが回転し、グラスの内側に薄く付く。滴(しずく)の広がりとそのスピードを見守る。手をとめて、ころがり落ちる「涙」を観察する。濃くてゆっくりと落ちる涙は明らかに高アルコールであることを示し、いっぽう薄くてさっと落ちる涙は、またシート状になって落ちるときはアルコール度が低いことを意味する。
次は香り。グラスを持ち上げ、ほぼ床と平行になるまで傾けてワインの表面を空気にさらす。あらゆる角度からアロマを嗅ぐ。
一流のテイスターたちは、ソムリエコンクールに挑戦するずっと以前から舌と鼻を調整している。グラスの前に座る数日前、数時間前、数分前まで自分の身体をどう整えているかが、テイスティングと嗅ぐ技の結果を左右する。
テイスティング前の飲食と歯磨きをやめる。空腹状態で、フレーヴァ―を嗅ぐのだ。マスター・ソムリエ試験の前、舌がやけどしないように、1年半ものあいだ微温以上の飲み物は一切口にしなかった。冷たい飲食物だけの人もいる。テイスティングの前日は、重たい食事は避ける。生のタマネギ、ニンニク、強いカクテルも遠慮する。
合法的にワインに入れることのできる添加物は60以上もある。1000ドルもする樽の代わりに1袋のオークチップをつかう。コクがなければ、アラビアゴムで口あたりを重くする。メガ・パープルを数滴たらせば、ワインをふくよかにし、フィニッシュを甘くし、色を濃くし、青臭さを覆い隠してくれる。20ドル以下のワインには、すべて入っている。
高級レストランの売上げの3分の1はワインからというのが現実。ソムリエが店の運命を担っている。
完璧なソムリエとは、帰宅した客の記憶に残らないような存在でなければならない。
楽しい会話、客の懐(ふところ)具合と要望を知り、1000種もの候補のなかから適切な数本を選ぶのがソムリエの任務であるとしても・・・。
ワイン選びのむずかしさ、そしてソムリエの存在について教えてくれる本です。
(2018年9月刊。2300円+税)
2019年1月31日
パール・ハーバー(下)
(霧山昴)
著者 クレイグ・ネルソン 、 出版 白水社
日本軍がハワイの真珠湾を攻撃したとき、まさしくアメリカ軍は予期していませんでした。完全な不意打ち攻撃だったのです。
12日前に、「太平洋艦隊」司令長官であるキンメル大将は海軍の戦争計画担当のチャールズ・マクモリス少将に日本軍が攻撃をしかけてくる見通しがあるかを尋ねた。マクモリスは断言した。
「ゼロです。100%ありえません」
日本軍の航空機から機銃掃射される直前まで、アメリカ兵は味方の訓練飛行と思っていたのでした。
アメリカの戦艦「アリゾナ」は、わずか9分で沈んだ。海軍と海兵隊の将兵1177人が亡くなった。
真珠湾で失った日本軍機は29機のみ。アメリカ軍機は、友軍の砲撃にもやられた。しかし、真珠湾にはアメリカの空母は1隻もいなかった。だから、これが大勝利とは、とうてい言えなかった。そして、真珠湾の石油タンク群、450万バレルが無傷で残った。
30分間で、アメリカ太平洋艦隊に所属する8隻の戦艦すべてが爆撃・雷撃され、当面の作戦行動が不可能となった。さらに20分間でハワイ駐留米軍の航空兵力の3分の2にあたる180機が残骸と化した。
そして、アメリカ市民の反応は・・・。
ニューヨーク・ヘラルド・トリビューン紙。
「いまや衝突は不可避となり、おかげで今回の事態は、ある種の安堵感をもたらした。まさに霧は晴れたのだ。これにより、アメリカ国民は、従来の論争を忘れ去り、やるべき仕事に邁進できるだろう」
シカゴ・デイリー・ニューズ。
「日本に感謝したい。わが国に不和と麻痺をもたらしてきた国民世論の深い亀裂は、以後、雲散霧消するだろう。もはや、やるしかないのだから」
そして、チャーチル首相は、こう言った。
「アメリカ合衆国をわが陣営にもつことは、私にとって最大の喜びだった。これでヒトラーの命運は尽きた。ムッソリーニの命運も尽きた。そして、日本は粉砕されるだろう」
アメリカ議会は、上院は満場一致で、下院は賛成388票、反対1票で可決。たった52分間で宣戦布告を決議した。
ハルゼー提督は言った。
「ジャップを殺せ、ジャップを殺せ、もっと多くのジャップを殺せ」
「日本語は、いずれ、地獄のみで語られる言語となるだろう」
真珠湾攻撃のあった日から4ヶ月ほど過ぎた1942年4月18日、日本本土はアメリカ軍機によって空襲された。アメリカ軍の反撃が始まり、日本軍は連戦連敗を重ねていくのでした。
この本は、陰謀説をまったく根拠のないものとしています。私もそう思います。
ルーズベルト大統領をはじめとするアメリカ当局は真珠湾攻撃があることを察知していながら、やらせたのだという「説」です。まったくありえない話です。
いずれにせよ、日本が無謀な世界大戦へ突入していったことは十分反省し、そのようなことが起きないよう、今日の私たちも気をつけるべきだと思います。
(2018年8月刊。3800円+税)
2018年12月28日
GAFA(ガーファ)
(霧山昴)
著者 スコット・ギャロウェイ 、 出版 東洋経済新報社
GAFAとは、グーグル(G)、アップル(A)、フェイスブック(F),アマゾン(A)の頭文字を並べたコトバです。
フェイスブックは従業員が1万7千人でしかないのに、従業員21万5千人のゼネラルモーターズ(GM)の1人あたり時価総額23万1千ドルに比べて、なんと2050万ドルもしている。
先進国1国規模の経済価値を生み出している。
グーグルは、20億人が毎日、自らの意思と選択で入力している。グーグルは、毎日35億の質問からデータをこつこつと集め、消費者の行動を分析している。
2013年4月から2017年4月までの4年間で、四騎士(GAFA)の時価総額は1兆3千億ドル増加した。これはロシアのGDP総額と同じだ。
四騎士は、今やビジネスや社会、そして地球にきわめて大きな影響を与えている。
グーグルは検索を武器に、もうブランドにこだわる必要はないとばかりにアップルを攻撃している。そのアップルもアマゾンに対抗している。アマゾンはグーグルにとって最大の顧客だが、検索については、グーグルにとっての脅威でもある。何かの商品を検索している人の55%が、まずアマゾンで調べている。
アメリカのネット業界における2016年の成長の半分、そして小売業の成長の21%はアマゾンによるものだった。2016年の小売業界は、アマゾンの独り勝ちで、他社にとっては大惨事だった。
2016年に、メディアはショッピングモールの終焉を嘆いた。ホリデーシーズン(2016年11月と12月)のネット販売の38%はアマゾンによるものだった。
アマゾンは、今や、あなたに必要なものすべてを、あなたが必要とする前に提供している。とくに世界でもっとも裕福な5億世帯には、商品を1時間以内に発送している。
最大の負け組は、ウォルマートだ。
グーグルもアマゾンに負けかけている。ネット通販もアマゾンのせいで斜陽になりつつある。
アップルは、製品の価格は高く、生産コストは低く、を実現した。
低コスト製品と高価格によって、アップルはデンマークのGDPやロシアの株式市場並みのキャッシュをため込んでいる。
フェイスブックは20億の人々と意義深い関係をもっている。人は毎日35分をFBに費やしている。インスタグラムとワッツアップ合わせると50分になる。
2017年現在、地球上の6人に1人が毎日フェイスブックを見ている。
フェイスブックの唯一のミッション(使命)は金もうけである。市場での立場が強すぎて、グーグルは常に国内外で独占禁止法違反の訴訟を起こされるリスクにさらされている。
消費者が何を好むかについてのデータを、どこよりも多く集めることができるのは、グーグルだ。グーグルは、あなたのこれまでの足取りだけでなく、これから向かおうとするところまで見通せる。
フェイスブックは、特定の活動と、特定の個人に結びついている。フェイスブックを毎日、積極的に利用している人は10億人いる。人びとはフェイスブックで大いに生活を語り、行動、欲望、友人、つながり、恐怖、買いたいものを記録する。
グーグルと違って、フェイスブックは特定の個人のデータを追跡できる。これは、ある特定のユーザーに商品を売り込むときに大きな力となる。
アマゾンは3億5千万人分のクレジットカードと客のプロフィールを保管している。地上のほかのどんな企業よりも、アマゾンはあなたが好きなものを知っている。
アップルは10億人分のクレジットカード情報をもち、あなたがどのメディアをよく使っているかを知っている。アップルもまた、購買データを個人に結びつけることができる。
かつては炭鉱のそばに発電所を建てていた。現在は、一流の工学、経営、教養の学位をもつ人材が集まる場所、すなわち大学の近くに企業をつくっている。
やりたいことをやるのではなく、才能をもっていることをやるのだ。自分は何が得意なのかを早いうちに見きわめ、その道のプロとなるよう力を尽くすのだ。
四騎士は、合計41万8千人の社員を雇用している。これはミネアポリスの人口と同じだ。四騎士の公開株式の価値は合計で2兆3千億ドル。つまり、この第二のミネアポリスは、人口6700万人の先進国であるフランスの国内総生産に匹敵する富を所有している。
GAFAのもつ恐るべき力を再認識させられました。
GAFAがいつまでもトップであるとは限りません。では、次に登場するのは、いったいどんな企業なのでしょうか・・・。
スマホを持たず、ガラケーはいつもカバンの中に置いている私は、いつもニコニコ現金主義(ホテルの支払いのみカード)です。私の行動を誰にも事前に予測してほしくないからです。世の中を再認識させてくれる本でした。
(2018年8月刊。1800円+税)
2018年12月26日
記者、ラストベルトに住む
(霧山昴)
著者 金成 隆一 、 出版 朝日新聞出版
アメリカのトランプ大統領って、ホントにひどい、とんでもない大統領だと思います。でも、あれだけハレンチな言動をしながらも支持率40%そこそこを維持しているようです。不思議でなりません。
この本は、その不思議さをつくり出している地域の一つであるラストベルトのアパートに入居して、トランプに投票したという人々を取材して歩いたというレポートです。
トランプに票を入れたことを後悔しているという人も出てきますが、それはむしろ少数派で、多くの人が依然としてトランプ大統領を支持している気配です。貧しい生活に追いやられている現状を、既成の政治家ではないトランプが打破してくれる、そのように期待している、というか幻想をもっているようです。
なんで、そうなるのか・・・。
何らかの活動に参加した人の7割はトランプ不支持。逆に、何の活動にも参加しなかった人の間では、トランプへの支持は43%に増えた。
オバマケアが成立したあと、重たい医療費負担のための自己破産申立は半減した。2010年の自己破産申立は153万件だったのが、2016年には77万件に減った。
アメリカで怖いのは、病気になったときです。日本のような国民健康保険がないものですから、高額の医療費のためにたちまち破産状態におち込んでしまいます。
ラストベルトのトランプ支持者は、その7割から8割の支持は揺らいでいない。今でもトランプ支持率は40%ほどある。むしろ、トランプ大統領になってから、「思った以上に評価できる。見直した」と高い評価を与えている層がかなり厚い。
今のアメリカでは、「政治家」という言葉は評判が悪い。おしゃべりだけの政治家たちに実行力あるビジネスマンが立ち向かっているというイメージをトランプはつくり上げ、それが大成功した。
トランプはデマ宣伝を得意とします。オバマ大統領の出生地は、あくまでアメリカではないと繰り返したのです。
トランプ大統領は、オバマ大統領のゴルフの回数が多過ぎると言いつのりましたが、実は大統領になって自分はその何倍もゴルフをしています。
アメリカの現実の一端を知ることのできる本です。
日本がアメリカのような国になってはいけないと思います。病気になったら破産するなんて、とんでもありません。
ラストベルトにあるアパートに3ヶ月間も暮らしたという著者の勇気に拍手を送ります。
(2018年10月刊。1400円+税)
2018年10月29日
ある世捨て人の物語
(霧山昴)
著者 マイケル・フィンケル 、 出版 河出書房新社
狭い日本では、およそ考えられない話です。さすがに広大な国土と森林を有するアメリカならではのことです。
カナダに近い北部のメイン州の森の中、キャンプ場からそれほど離れていないところに隠れ家をつくり、20歳から47歳までの27年間、ひとりで生活していた男性がいたというのです。ええっ、そ、そんな、ありえないでしょ・・・。これが本当の話なのか、疑っている人は今でもアメリカにいるようですが、この本の著者は現場の森の中に入って、真実の話だと確信しています。
結局、この男性は警察に捕まり、刑事裁判が始まり、有罪になっているのですから、その意味でも真実の話だと考えるしかありません。
1人で森の中で生活するといって、いったい食料などはどうしたんだと思いますよね。ですから、彼は無人の別荘やキャンプ場の施設にしのびこみ窃盗を繰り返していたのです。その回数は1000回をこえます。
そのとき、食べかけのようなものには絶対に手を出しませんでした。毒が盛られているかもしれないからです。缶詰めや未開封の袋に入ったものを持ち去ります。立ち去ったあとは、きちんと戸閉まりをして、足跡を残さず、追跡されないよう大変注意深く行動していました。
でも、森の中の孤独によく耐えられましたね・・・。彼にとっては、ラジオが友だちでした。テレビも途中までは見ていたようですが、バッテリー確保の大変さから、テレビはあきらめてラジオを聴いていました。そして本も読みました。別荘内に置いてある雑誌や本を持って帰って読むのです。
27年間、ケガも病気もしなかったのか・・・。しなかったのです。20歳で森の中の生活をスタートさせていますので、若さから病気を寄せつけなかったようです。
それでも、27年間のうちには森の中で人間と遭遇することはあったのでは・・・。たしかに、2度ほどあったようですが、そのたびに何とか切り抜けています。
メイン州の冬は長くて猛烈に寒い。最高気温が氷点下の日も珍しくない。そんな厳しい冬を27回も森のなかで過ごしたというのだから、途方もない偉業だ。しかも、1000回以上も別荘などに忍び込み窃盗を働いていながら、ずっと捕まらなかったばかりか、痕跡をほとんど残さない鮮やかな手口のため、地元の住人から伝説的存在とみられていた。赤外線その他の探視装置にもひっかからなかった。
27年間、1度も温かいシャワーを浴びたことはない。バケツに入った冷水を頭からかぶっていた。シャンプーとかみそりは使っていた。歯磨きは欠かさなかった。
上空からの捜索で発見されないよう、日光を照り返すようなものには覆いをかけていた。
厳寒の季節には、夜7時半に眠って、午前2時、いちばん寒いさなかに目を覚ます。気温が低すぎるときには、長寝すると、体が放出した水分の結露で寝袋が凍ってしまい、体の深部温度が急降下し、身体がやられてしまう。
午前2時に起床して、まずやることは、ガスコンロに点火して雪を解かしはじめること。ガスボンベは生命維持にかかれる必需品だ。ひたすら雪を解かして、飲み水をつくるためだ。ひと冬に10本のガスボンベを必要とした。
清潔な靴下があればいい。温かさより、乾いていることが重要なのだ。
彼は決して退屈しなかった。黙想を好んだ。
いやはや、こういう人生もあるのですね、たまげてしまいました・・・。
(2018年7月刊。1850円+税)
2018年10月11日
ウィスコンシン渾身日記
(霧山昴)
著者 白井 青子 、 出版 幻冬舎
31歳の若き(!)日本人女性がアメリカで語学学校に入って勉強し、苦闘する日々のブログが一冊の本にまとまったものです。著者の師は、かの高名な内田樹・神戸女学院大学教授です。
内田教授の次のコトバは、モノカキを自称する私にはぴったりでした。
モノを書くときの一番強い動機は、「それを自分が書いておかないと、誰も書かないから」だ。だから、モノを書くときの最初の想定読者は、それを読みたがっている自分自身なのだ。自分が読みたいことがあるのだけれど、誰も、それについて書いてくれない。
私は、九州から東京に出て大学生になったとき、学生セツルメント活動に出会いました。高校の先輩に誘われてのことでしたが、この誘いが私の人生の最大の幸運をもたらしました。
この学生セツルメント活動について、誰も書かないので、私が書きました。『星よ、おまえは知っているね』(花伝社)です。そして、大学2年生のときから東大闘争の渦中に没入しました。世間的には東大全共闘がもてはやされましたが、私は、クラス討論を通じて全共闘の代議員を次々に落選させる運動に挺身しました。そして、全共闘の暴力に抗し、クラスとして行動隊を結成して無事に大学解体ではなく、授業再開にこぎつけました。再開された授業には全共闘メンバーも参加しましたし、私たちは彼らを排斥しませんでした。この1年間を、私は『清冽の炎』(花伝社)1巻から5巻にまとめました。そして、全共闘に加わった学生とそれに抗して大学民主化のために身を挺した学生たちが、その後どのように生きたのか、第6、7巻にまとめました。
大学の授業が正常化したとき、1年半ほどのブランクがあったので、学生は、みな必死で勉強しました。私も、その一人として司法試験に挑戦し、在学生合格者90人の1人にもぐり込みました。それが最新刊の『司法試験』(花伝社)です。
そして、次は司法修習生です。宮本康昭裁判官(青法協)の再任拒否、坂口徳雄修習生(23期)の罷免に直面して、青法協の修習生は意気高く活動しました。その状況を『司法修習生』(花伝社)にまとめました。
弁護士になって、日弁連理事になって日弁連会長の発言を身近に接して書いたのが『がんばれ弁護士会』(花伝社)であり、日弁連副会長の1人として日弁連の運営に関与した日々を報告したのが『日弁連副会長メルマガ』(花伝社)でした。
どれもこれも売れませんでしたが、私としては誰も書いてくれないのだから、自分がお金を出して記録のためにも本にしようと思ったのです。今でも、本にして本当に良かったと思います。
旅先で遭遇した出来事をことこまかに記録するという習慣をもっていると、旅先でのトラブルを回避できる可能性が高まるという経験則が知られている。
アメリカで英語を学ぼうとしている学生たちの、いろいろなお国柄がよくあらわれています。そして、私が心を打たれたのは、何といってもメキシコ人の若い女性とコロンビア人の若い男性が、どちらも「世界平和」を、「私の夢」だと真剣な表情で書いたということでした。
いま、安倍首相は日本の平和憲法を無視して戦争する国へつくり変えようとしていますが、世界の若者は、そんな危ない国にしてはいけないと腹の底から訴えているのです。
私も、こうやってフランス語が楽々話せたらいいなと思いました。50年もやっていて、それが出来ないのですから哀れなものです。それでも、なんとか、こりずにNHKラジオ講座を欠かさず聴いて、フランス語のCDによる書き取りを毎日続けています。
(2018年6月刊。1500円+税)
2018年10月 9日
ノモレ
(霧山昴)
著者 国分 拓 、 出版 新潮社
前の『ヤノマミ』も、すごい本でしたが、アマゾン奥地には、まだ知られざる人々がいるようですね。そして、それらの人々が下手に「文明人」と接触してしまうと、免疫力がないので、たちまち病気で死に絶えると言います。
そうでなくても、アマゾン奥地を開発しようとする人々に追い立てられ、殺されて絶滅の危機にあるのです。そして、それに拍車をかけている「悪者」のなかに日本企業がどっかと大きな顔をしているのです。恥ずかしい限りです。
アマゾンの流域には、イゾラドと呼ばれる先住民がいる。単一の部族を指すのではなく、文明社会と未接触の先住民を言いあらわす総称だ。文明社会と接触したことかないか、あっても偶発的なものに限る先住民のこと。
イゾラドが生きる森は、ブラジル国内に58ケ所。すべてアマゾンの深い森の中で、推定人口は300人から5000人。
ペルーでは、正確な調査は一度も行われていない。
集落には道路がなく、「道」とは川のこと。川は、いくつもの支流や小川に枝分かれしている。船さえあれば、川をつたってどこにだって行くことができる。アスファルトの道とちがって、魚や水などの恵みも授けてくれる。川に勝る「道」はない。
アマゾンのほとんどに先住民は、ハンモックではなく、テントを使う。
話しかけられたら、ただ、「ノモレ」とだけ答える。「ノモレ」とだけ言えば、大きな問題は絶対に起きない。「ノモレ」とは友だち、という意味だ。とても大切な言葉なのだ。
落ち着いて行動する。急な動作は慎む。大声で話さない。笑みを絶やさない。相手が触ってきたら、抵抗せずに、気がすむまで触れさせる。
先住民の社会では、弓矢をもっていないということは、敵ではないと認識している証(あかし)だ。先住民は、信頼できない相手と会うとき、けっして女や子どもを連れてこない。
先住民たちが欲しがったのは、バナナと紐。不思議なことにマチェーテ(刀)も欲しがらなかった。
森の入口に一匹の蛙が木の上から吊るされていた。これは、多くの先住民社会に共通する隠語だ。ここから先は入ってくるな、という警告だ。
先住民たちは本名を名乗ることはない。本名を教えると、精霊の力によって呪いをかけられると信じているからだ。
かつて日本でも、江戸時代には名前をもっていても、そう簡単には本名を他人には明かしませんでした。それで、江戸時代の庶民は名前をもっていないと誤解されていました。同じことがアマゾンの先住民の習慣でもあったことに驚かされます。
この本を読むと、アマゾンの先住民の人々の生存を脅かしているのは、「文明人」の私たちだということがよく分かります。生き方の多様性を認めないのはまずいと思います。そして、アマゾンを乱開発してはいけないとつくづく思います。
アマゾンの密林を切り拓いて牧場にして、牛肉を増産してマックの原材料にするなんて、とんでもない暴挙です。「文明人」がどうあるべきか、原発をかかえてその後始末をきちんと考えない人の多い日本人に大きな反省を迫る本でもあると私は思いました。
NHKスペシャル(2016年8月7日放送)を本にしたもののようです。残念ながら私はテレビ番組は見ていません。ただ、先日、ドローンの映像がユーチューブで流れていました。そっとしておきたいものです。
(2018年6月刊。1600円+税)
2018年10月 3日
超監視社会で身をまもる方法
(霧山昴)
著者 ケビン・ミトニック 、 出版 日経BP社
伝説のハッカーと呼ばれるケビン・ミトニックは現代社会では誰もが監視されていることに気づくべきだと強調しています。
いま、私たちが手にしているプライバシーは幻だ。おそらく、数十年前に幻になった。
家のなかにいようが、通りを歩いたり、カフェでくつろいだり、ハイウェーで車を走らせたりしていようが関係ない。コンピューターも、スマートフォンも、冷蔵庫でさえも、すべてが私生活ののぞき穴になり得るのだ。
生体認証、指紋やら顔をつかうものも、ハッキングには弱い。
政府と企業は、あなたのメールを読んでいる。
安全にやりとりしなければいけない相手が現れたときに大切なことは、相手の身元を確かめること。確認するときには、共通の知人を通じて連絡をとり、自分はその友人とだけ接触して、なりすましにひっかからないよう注意すべきだ。
プリペイドの携帯電話を使い捨てにしてしまうといい。
ケータイの発信者が世界のどこにいても居場所を特定できる。その会話も聞きとれる。暗号化された通話やテキストメッセージを記録して、あとで解読することもできる。
デジタル通話が主流になるにつれて、監視は難しくなるのではなく、簡単になっている。
あらゆるSNSのなかで、一番しつこいのがフェイスブックだ。フェイスブックも、グーグルのように、あなたに関するデータを欲しがっている。フェイスブックには、16億5000万人の利用者がいる。
アメリカにあるハイスクールで、高校生全員に新しいマックブックが与えられた。このマックブックには、紛失した場合に備えてインストールしたデータ復元ソフトを使うと、2300人の生徒全員の行動を内蔵するウェブカメラに映る範囲ですべて監視できた。
誘拐犯は身代金をビットコインで支払うよう要求することが多い。そこで、多くの人が支払いに苦労する。
一般論として、共有パソコンを絶対に信用してはいけない。ファイルを削除するだけでは、不十分だ。そのあと、ゴミ箱を空に抜く必要がある。それでも、ファイルはコンピューターから完全には消えない。
SNSにはSNS用のプロフィールの書き方がある。嘘をつくのではなく、わざと曖昧にするのだ。生年月日には、本当の誕生日とは違う、『安全な』日付をつかって、個人情報をうまく隠す。FBで「友だち」申請を承認するときには、慎重にしたほうがよい。
空港の手荷物検査を受けるときには、いつもノートパソコンや電子機器は最後にベルトコンベアに乗せるようにしよう。
一般論として、機密情報を保存した電子機器は絶対に必要な場合以外には持っていかないこと。もし持っていくなら、データを最小限に減らすべきだ。
本当に怖い世の中になってしまいましたね。トホホ、です。
(2018年2月刊。2000円+税)