弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
社会
2014年7月18日
いま、ほんとうの教育を求めて
著者 三上 満 、 出版 新日本出版社
東京の下町で熱血・中学校教師として活躍した著者の体験にもとづく教育論ですから、読んでいるだけで心打たれるものがあります。さすが、です。
教育とは、希望をはぐくむ営みにほかならない。この座標軸から離れて、他の何かを別のことを軸にするようになると、教育は必ず歪む。
希望とは、三つのものへの信頼から生まれる。一つは、人間に対する信頼。人間って、いいものだ。ああいう人に、私もなりたい。そう思わせる人が、子どもの周りにいなくてはいけない。教師こそ、そんな魅力ある人でなければならない。
その二は、自分に対する信頼。子どもが自分のいいところをたくさん見つけ、それが回りから認められ、自分を好きになっていく共同体。それが学校だ。
その三は、明日に対する信頼。平和や人権が輝く、明日への信頼が育まれる心に、希望は生まれる。
教育とは、希望の糧となる、この三つのものへの信頼を、子ども、教職員、父母、地域一体となってはぐくむ営みなのだ。
学力世界一のフィンランドでは、基礎教育(7~16歳の9年間)では、いっさいの競争そしてランク付けがない。
日本では、教育の政治支配をすすめようとするものには、もはや教育委員会さえ邪魔者になっている。
子どもたちが、「ヤッター」という声をあげるのは、自分を乗りこえられたとき、新しい自分と出会えたとき。それは、人の上に立てたときとか、人を出し抜いたときなんかではない。
人間は弱さを支えあい、辛さを分かちあって生きるもの。だから、互いに優しさを必要とする。教室とは、間違えることによって、いっそう賢くなるという不思議なことが起こるところ。
ある中学校の修学旅行に向けての話し合いのとき。みんなで、ガイドさんを泣かせようという目標を立てた。困らせて泣かせようというのではない。それなら簡単だけど、楽しいことでもない。そうではなくて、別れのときに別れを惜しんでガイドさんを泣かせようというもの。
いやあ、これはすごい目標です。ガイドさんの説明をよく聞き、親しみ、楽しい旅にしなければいけない。そのうえで、もうひとつ何かが必要です。
この目標をやり切ったクラスは、とてつもない達成感があったことでしょう。すばらしいことですね。なによりの修学旅行の思い出となったことでしょう。
しばし、学生のころに戻った気分に浸ることができました。みんなに読んでほしい、いい本です。
(2014年4月刊。1600円+税)
2014年7月16日
風がおしえる未来予想図
著者 原発なくそう・風船プロジェクト実行委員会 、 出版 花伝社
海外へ原発を輸出しようとしている安倍首相は、それだからこそ一刻も早く原発を再稼働させようとしています。とんでもないことです。
だって、いまでも福島第一原発の周囲に人が住むことは出来ず、15万人もの人々が狭くて不自由きわまりない仮設住宅に住まされているのです。
使用済み核燃料がどうなっているのか、3年たった今も皆目わからず、放射能に汚染された水や空気が拡散し続けているのです。
東京電力の無神経さは今に始まったことではありませんが、九州電力だってまったく同じです。いずれも経済団体を牛耳ってきました。そして、彼らは教育に注文をつけ、教科書を思うように書き替えてきました。要するに、疑うことを知らない子ども、そして大人になることを求めています。そうなったら、まるで会社いいなりのロボット人間ではありませんか・・・。
九州にある玄海と川内(せんだい)の二つの原発を絶対に再稼働させてはなりません。
原発はクリーンなエネルギーだと言っていましたが、3.11のあとは、とんでもない大嘘だということが誰の目にも明らかになりました。
この風船プロジェクトは、玄海原発の近くから風船を飛ばしたら、いつ、どこへ落ちるだろうか、それを調べようというものです。もちろん、前例があります。2012年3月に福井県にある美浜原発から1000個の風船を飛ばしたのでした。100個が発見され、うち83個が岐阜県内で発見されたのでした。
玄海原発の周辺から風船を飛ばしたのは4回です。2012年12月8日が第1回目で4回目は2013年10月27日でした。
ヘリウムガスを風船につめて飛ばしました。ゴム風船ですが、環境負荷(影響)の少ないものに工夫しています。
風船と放射性微粒子の動きは、水平方向では似たような飛行軌跡を示した。
風船は捨てられたら環境から除外する。放射性物質は違う。地上に降り積もった放射性微粒子は、自然環境や生活環境中にとどまり続け、晴れて乾燥した日や、風が強い日などには、再び大気中に浮遊し、風などに乗って拡散する。この半減期は長く、30年であり、何十年も生き続ける。
風船プロジェクトは楽しい企画でした。一杯100円の豚汁、コーヒー1杯100円だなんて、まさしく困ったときの神頼みですよね。
100頁あまりの手頃なブックレットです。ぜひ、あなたもお読み下さい。読みやすく、ためになる面白い本です。
(2014年6月刊。1000円+税)
2014年7月12日
アトミックス・ボックス
著者 池澤 夏樹 、 出版 毎日新聞社
推理小説なので、ネタバレをするわけにはいきませんが、日本の「核開発」をめぐる怖い話です。
原子力発電といい、核開発といい、アメリカの強力な統制下ですすめられてきたことは間違いありません。
そして、そのなかで原発については「安全神話」が形成されてきました。他方、「核開発」のほうは、依然としてヤブの中にあって、不明なままです。
瀬戸内海の小島に逃げてきて、漁師になり切った科学者。その死後、娘が動き出し、島内で監視していた男が島を脱出した娘のあとを追います。その東京で追跡劇が見事に描写されています。
しかし、ハラハラドキドキの逃亡手法と追跡者のからみあいに目を奪われていると、話の本筋を見失ってしまいます。
要するに、アメリカの支配からの脱却を目ざした「核開発」をアメリカが探知し、その圧力によって頓挫させられ、研究者は四散させられるのです。
なるほど、そうなるだろうなと思わせるだけの確かな筆力によってぐいぐいと本のなかに引きずりこまれていきます。
戦後日本の「核開発」が、どこまで実際にすすんでいたのか知りたくなります。
それにしても、いまの安倍首相のような無定見で、口先だけの男に、日本の運命をゆだねたくはないと思ったことでした。
(2014年2月刊。1900円+税)
2014年7月11日
自爆営業
著者 樫田 秀樹 、 出版 ポプラ新書
カローシするまで働かせるブラック企業は許せませんが、ノルマ達成のため自腹を切らせる企業も許すわけにはいきません。
ところが、ここでまず登場するのは、なんと、あの郵便局なのです。ええーっ、郵便局員が「自爆営業」しているのか・・・。
郵政公社になってから、年賀状のノルマが厳しくなった。正社員なら1万枚、非正規社員でも1000~3000枚。売上げの少ない「恥ずかしい社員」は、数百人の社員のそろう朝礼のとき、「お立ち台」に立たされ、「申し訳ありません」と謝罪させられる。
ノルマを達成しない社員は昇進できない。そこで、金券ショップに駆け込んで買ってもらう。管理職だと自腹を切る金額は数十万円になる。
郵政公社がスタートした2003年に、精神疾患による休職者は400人だったのか、4年後の2007年度には800人近くへ倍増した。自殺者も、毎年30~50人出ている。
ひえーっ、これって怖い数字ですよね。小泉「郵政改革」の結末の一つがこれなんですね。ひどいものです。
日本郵便の社員は正社員が10万人で、非正規社員が15万人。非正規社員が6割を占めている。そして、非正規社員の6割以上が年収200万円以下。
日本郵便は、20011年、2012年と赤字を出していたが、2013年の決算では黒字となった。それは、非正規社員の大量解雇によって500億円もの人件費を削減したことによる。
現場には、正社員がほとんどいない。非正規社員の時給は720円で、手取りは付き11万円台。
日本郵便の社員の起こす交通事故の割合は、一般社会の4~5倍と高い。叱責と罵倒の毎日は、労働者を確実に委縮させ、気持ちを急がせ、作業から安全性と確実性を奪う。
定時の前に出勤し、昼休みに昼食を食べず、午後と夕方の休憩時も働く。
残念なことに、こんなひどい自爆営業は、ひとり「郵便局」だけではありません。他の業種にも、今では広く認められます。そこには、労働基準法も労働組合も存在しないかのようです。でも、権利はたたかわなければ、自分のものになりません。ぜひぜひ、みんなで、少しずつ声をあげていきたいものです。
ひどいことは許さないという声をあげるのは、自分のためであり、世の中のためなのですから・・・。
(2014年5月刊。780円+税)
2014年7月 6日
作家の決断
著者 阿刀田 高 、 出版 文春新書
いずれも名の売れた、ベテラン作家19人が大学生たちのインタビューにこたえたものが本になっています。モノカキを自称する私には、とても参考になり、かつ刺激的な内容が満載でした。
作家を名乗るものはとにかく書き続けなければレースから外される。駄作でも何でも、書き続けていけば、充電される。そして駄作がどうかを決めるのは、本人ではなく読者なのだ。森村誠一。
たくさん読んで、たくさん書く。とにかく書くこと。佐木隆三。
やっぱり書くこと。いろいろ表現しているうちに、自分の内側の一番辛いことが、コンプレックスみたいなことが、そういうものがあれば、それをテーマに書き始めると、大勢の人に訴える。 結局、過去をふり返ったときの自分の胸の痛み。これが小説だ。津本陽。
なんでも、とにかく思いついたことは、短くしていいから書いておく。断片があれば、思い出すことができる。断片がないと、何を思いついたのか、あとでたどるのはほとんど不可能。思い出せないと、いいことを思いついたのにと、すごく悔しい気がする。阿刀田高。
ミステリー、推理小説は、モチーフ、つまり小説を通して読者に訴えたいメッセージを必要としないもの。阿刀田高。
いろんな人の書いたものを読んでそこから外していく。そして、自分の世界がないものは、まったくダメ。読み直す。何度も読み直す。そして、たくさん読むこと。読んだことによって、他人が書いていないもので自分が書けるものが何かあるって気がつくはずだから、それを書くこと。そして、読み直すこと。最低でも3回は読み直す。大沢在昌。
モノを書く人が、「知りたい」っていう気持ちをなくしたらダメ、田辺聖子。
新人は、とくに読者なんか意識してはダメ。小池真理子。
若いころは、自意識過剰だ。その自意識がないとダメなんだけど、自意識だけでもダメ。小説家は、計算ができて、ナンボだ。藤田宣永。
小説化には、二つの才能が必要。一つは、文章をつくる才能。もう一つは、ストーリーをつくる才能。面白いストーリーをつくるというのは、努力では、いかんともしがたい。文章については、数を読み、数を書けば誰でもうまくなる。しかし、ストーリーを造る才能のほうは、嘘つきの才能だし、想像力がどれだけ豊かなのかということなので、天賦の才だ。そして、小説化するのに必要なのは、体力。浅田次郎。
高名な作家のうち、少なくない人が原稿を手書きしているのを知って、同じく手書き派の私は大いに安心しました。漢字変換の、あの一瞬が思考を中断させてしまうのです。
モノ書き志向の私にとって、大いに役立つ実践的な本でした。
(2014年3月刊。850円+税)
2014年6月28日
有次と庖丁
著者 江 弘毅 、 出版 新潮社
私は料理ができませんし、しませんので、庖丁のありがたみがさっぱり分からないのですが、プロの料理人は、それこそ庖丁一本というように庖丁を大切にするようです。
この本は、その庖丁を扱う京都の老舗の周辺を丹念に取材しています。なるほど、そうだったのかと思わずうなずいてしまいました。「有次」は、ありつぐと読みます。創業は元禄3年、1560年という超老舗です。禁裏(きんり)御用鍛治にさかのぼる店で、現在の当主は、なんと18代目。
京都市中庸区錦小路通御幸町西入ル。錦天満宮の鳥居がある寺町通りから錦小路を西筋一本の御幸(ごこ)町通りをこえて三軒目。鍛治町219番地だ。
京都の老舗の、あらゆる業態の店では、必ず「有次」印の道具が使われている。ウナギ専用の京サキ庖丁、フグ専門店の出刃包丁、鶏肉店の相出刃庖丁、漬けもの店で大きな赤かぶらを切る両刃庖丁、スシ店の柳刃刺身包丁、カマボコ屋の練り物や天ぷらのすり身をつくる付庖丁。
「有次」の多種多様な料理道具は、料理人たちの技とこだわりに応えた本物のプロ仕様だ。
創業が永禄3年(1560年)というと、戦国時代のまっただ中、桶狭間の合戦があった年。関ヶ原の戦いはもっと後の1600年だ。
さすがによく切れる。だから、おしゃべりしながらつかう庖丁ではない。そんなことをしていたら、自分の手をスパッと切ってしまう・・・。
良い庖丁というのは、よく切れるうえに、切れ味が長く持つのが一番。切れ味を決定するのは研ぎ。その前に、毎日のお世話が大切だ。「有次」の扱う庖丁は鉄。だから、さびないように、毎日、使い終わったらクレンザーをつかって磨く。
庖丁をまな板の上にきっちり置いて、刃の方向へ汚れを落としてやる。そして、乾いたタオルで、しっかり拭いてあげる。食器乾燥機を使うと、刃が傷む。自然乾燥で片付けること。
使い終わって片付けるときには、「ありがとう」と言って、庖丁をみがく。
「有次」で庖丁が主力商品になるのは、明治から大正にかけてのこと。それまでは、庖丁ではなく、小刀をつくっていた。
「有次」の店員は、毎日のように、ユーザーの店をまわり、料理人から要望を直接きき、注文をとって修理やメンテナンスをする。これこそ、すぐれた庖丁を京料理界に普及させ、さらによりすぐれたものに昇華させる原動力だ。
「有次」の和庖丁は、メイドイン堺だ。料亭などのプロは、9割が堺でつくられた刃物・庖丁を使っている。
毎日、つかった庖丁をきちんと手入れするというのは、信じられませんが、それほど、使い勝手のいい庖丁なんだと思いました。日本のプロ職人は健在なんですね。
(2014年3月刊。1600円+税)
2014年6月27日
食品の裏側2
著者 安部 司 、 出版 東洋経済新報社
私の法律事務所の隣にもコンビニがあります。もとはガソリンスタンドでしたが、倒産して久しく空き地になっていたところ、その周囲の家屋も追い出して広大な駐車場付きのコンビニになってしまいました。
私は滅多に利用しませんが、所員は昼食の弁当買いなど、頻繁に利用しています。
そのコンビニで売られているハンバーグ弁当のハンバーグが、実は、牛肉ではないというのです。衝撃的な内容です。
見た目には、デミグラスソースのかかったハンバーグ。しかし、本物のデミグラスソースはおろか、ふつうのソースもケチャップも使われていない。肉も牛肉ではなく、鶏肉と豚肉に牛脂を加えたもの。牛脂を加えるのは、柔らかさを出すためと、牛肉らしい風味を出すため。
ハンバーグの赤茶色の美味しそうな色をつけるのは、ベニコウジカビから抽出された赤色の天然着色料。カラメル色素とあわせて使われている。
ナポリタンにも、ケチャップではなく、トマトパウダーと酸味料などの添加物で色と味をつけている。ポテトサラダのマヨネーズは本物ではなく、添加物でつくったマヨネーズ風ドレッシング。
ハンバーグに添えられているキャベツは、千切りにカットしたあと、次亜塩素酸ソーダで、何度も洗浄し、殺菌している。風味はなくなり、ビタミンCも壊れてしまうが、黒ずんだり、しなびたりするのを防ぐ。
白ご飯にも添加物が使われている。古米が使われているときは、さすが「新米シール」は貼られていない。古米はぱさぱさして、美味しくないので油や添加物によって味やつやを補っている。ご飯につやを与えるために植物油を入れる。この油には乳化剤が配合されていて、炊飯油とも呼ぶ。
さらにショッキングな事例が紹介されています。
福岡県内の養豚農家で、コンビニの廃棄弁当をエサとして与えるようになったところ、死産が続いた。結局、250頭もの子豚を亡くしてしまった。養豚農家はあわてて元通りのエサにしたところ、お産は以前と同じに戻った。
うひゃあ、こ、これって怖いことですよね。
私たちの生活を与える食品化学物質のうち、もっとも「わかりやすく、防ぎやすい」もの、それが食品添加物だ。食品添加物こそは自分の努力次第で自分たちに入ってくる前の段階のもの、だから玄関で食い止めることができる。そこが、他の原発やPM2.5・・・、のように容易に逃げられないものとは違う。
この本を読んで、食品添加物の怖さを久しぶりに自覚しました。
(2014年5月刊。1400円+税)
2014年6月26日
震える・・・許さない!カジノ賭博の合法化
著者 全国カジノ賭博反対連絡会 、 出版 全国カジノ賭博反対連絡会
自民党がカジノ解禁推進法案の成立を目ざしています。そのため、安倍首相はわざわざシンガポールのカジノを視察して、その実現に向けて世論を誘導しようとしています。
推進派は規制緩和と経済成長のためと言いますが、要するに、そのホンネは金もうけです。ギャンブルで金もうけしようというのは、戦争のための兵器を売って金もうけしようというのと同じことです。どちらも、弱者を踏み台にして、金持ちがますます金持ちになろうという仕掛けです。
そんな弱者切り捨て、金持ち礼讃の安倍政権が、片や道徳教育の推進に本腰を入れているのですから、世の中は間違っています。弱者の切り捨ての道徳教育というのは、あきらめを押しつけ、反抗心を奪って従順な羊になれということでしょう。とんでもない「教育」です。これは教育ではなく「訓育」でしょう。
厚労省によれば、日本の成人男性の1割近く、成人女性の2%近くがギャンブル依存症。ということは、500万人もの日本人がギャンブル依存症の患者だということになる。
これは諸外国に比べても異常な現象だ。というのも、日本にはパチンコ店が1万軒以上あり、そこに1000万人以上もの人々が出入りしている現実があることによる。
既に日本は、世界に冠たるギャンブル大国なのだ。そして、そのギャンブル依存症の人々による深刻な事件や犯罪が日々、全国で生起している。
ギャンブル依存症患者の周囲の人々は、本人の依存行動によって、大変な被害を受けている。家族は、本人の借金の尻拭いをしたりして経済的負担も大きい。家族が良かれと思ってした返済が、本人にとっては、ギャンブル再開の環境が整ったことを意味し、結果として本人の依存行動を助長する。
この冊子には、ギャンブル依存症の本人と家族、30人の手記が載っています。その始まりがビギナーズ・ラックだったという人が何人もいます。ある日、大勝ちをし、十数万円もの大金を手にして、有頂天になったのです。そして、喧騒の中、たまに大当たりが出ると、その快感を思い出し、忘れることが出来ない。
そして、もうしないと誓っても、ついつい再開してしまう。これをスリップという。
GA(ギャンブラーズ・アノニマス)に参加して、脱ギャンブル1年を無事に迎えると、バスデーを仲間から祝ってもらう。
ギャンブル依存症は、慢性、進行性の疾患であり、完治することは難しい。
カジノ賭博場の設置は、窃盗、強盗、殺人、放火などの犯罪の多発をもたらす。
日本でカジノの合法化を決して許してはいけない。このように痛感させられるタイムリーな小冊子(70頁)です。
(2014年4月刊。1000円+税)
2014年6月24日
NHKが危ない
著者 池田 恵理子・戸崎 賢二ほか 、 出版 あけび書房
近ごろのNHKは、本当になんだかおかしいですよね。
集団的自衛権について、その反対運動の全国的な盛り上がりをNHKがきちんと報道したとはとても思えません。政府公報をたれ流しているのではありませんか・・・。
原発問題や特定秘密保護法についても同じです。あれだけ国会周辺で反対の集会やデモ行進がしきりに盛り上がっていても、その大半をNHKは無視していました。
この本に籾井会長の記者会見の詳細が紹介されています。本当に腹立たしい暴言の限りです。この会長は商社出身のようですが、営業は出来ても日本史や日本社会について、まともな常識を持っているのか疑うばかりです。
特定秘密保護法について、「まあ通っちゃったんで、言ってもしょうがないのではと思いますが。決まったことに対して、ああだこうだ言ってもしょうがない」
「民主主義に対するイメージで放送していけば、政府と逆になるということはありえないのではないかと。議会制民主主義からいっても、そう言うことはあり得ないと思います」
「尖閣諸島、竹島という領土問題については、明確に日本の立場を主張するのは当然のこと。時には政府の言うこと、そういうこともありますよ。政府が右と言うことを左というわけにはいかない」
これでは、NHKはまるで安倍内閣の一宣伝機関だと宣伝しているようなものではありませんか。表現の自由を駆使する言論人の自覚など、そのカケラもない人物です。従軍慰安婦についても、橋本市長と同じようなことを言って、「どこの国にもあったこと」と言い切ります。そして、同じようなものとしてオランダの飾り窓を持ち出すのです。とんでもありません。
この人が、「どこの国」というとき、アメリカ軍もあてはまるのでしょうか。さらに、「日韓条約で全部解決している」などと事実に反することを述べています。
放送の仕事は、その基底に弱い立場の人たち、虐げられた人たち、声を上げられない人たちに寄り添い、その声を代弁する志が求められる。
籾井会長の居
2014年6月18日
約束の海
著者 山崎 豊子 、 出版 新潮社
海上自衛隊、そして潜水艦の乗員が主人公の話です。
東京湾内で潜水艦が釣り船と衝突し、多くの死者を出してしまうのです。さあ、どうなるでしょうか・・・。
潜水艦乗りの仕事は、6時間毎の三交代制。深い海の中で、長いときには1ヵ月以上も潜ったまま作戦行動に従事するには、タフな神経の持ち主でなければつとまらない。身体面はもちろん、心理適性検査をくぐり抜けた者だけが選択される。
潜水艦の乗員は、水雷科、船務科、航海科、機関科、補給科、衛生科のいずれかに属している。そして潜水艦の運航とは関わりのない補給科の庶務員や経理員もふくめて全員が三つの哨戒直(ちょく)グループのどれかに属し、幹部のつとめる哨戒長のもと、任務につく。潜水艦の食事は6時間の哨戒直のローテーションにあわせて、1日4回で回ってくる。朝の6時、夜の6時は重めの食事、正午と零時は軽めのメニューが基本だ。アルコール禁止の船内では、食べることだけが楽しみだ。
「ようそろ」という掛け声を感じにすると、宜候。「テー」は撃て、のこと。
潜水艦では、真水は海水を蒸留してつくる。その熱源である電池の減りを少しでも防ぐため、シャワーの回数は3日に一度あれば良しとしなければならない生活が続く。
乗員はスニーカーで、リノリウム張りの床を音もなく歩く。潜水艦は、いわば海の忍者だ。だから、自ら音を発するのは厳禁。
静かに深く潜航して、不審な音を数十キロ以上離れたところから拾い、そこに忍び寄って音源を確認する。この警戒監視が、平時における潜水艦の最大の任務である。
海上自衛隊は16隻の潜水艦を有しているが、その三分の一は修理に、また三分の一は、基本トレーニングにあたっており、出動するのは、残る三分の一でしかない。これでは、足りなさすぎる。
長く潜水艦に乗っていた乗員には、ディーゼル・スメルがする。ディーゼル・オイルと艦内の生活臭が混ざった臭いだ。
潜水艦乗員の給与は高い。航海手当のほか、俸給の4割もの潜水艦手当という、いわば危険手当が上乗せされる。だから、手取りは月26万円ほど。
潜水艦乗りの身辺調査は厳しい。機密保持にシビアなだけ、徹底的に調べられる。本人、親兄弟はもとより、親密に交際している友人にも調査が及ぶ。外国人と抜き差しならぬ関係にある場合には潜水艦乗りから、外される。
自衛隊の訓練は、基本的には人を殺しことを目的としている。潜水艦乗りは、不測の事態に備え、全員、遺書が要求される。
山崎豊子が亡くなったことにより「約束の海」は第一部だけで終了してしまったのは残念です。第二部、第三部と続く計画だったようです。丹念な取材による貴重な本だと思います。
(2014年2月刊。1700円+税)