会長日記
2016年7月1日
会 長 原 田 直 子(34期)
福岡県弁護士会のHPにおいでいただき ありがとうございます。
連日土砂降りの雨ですね。土砂災害発生地の皆様には、改めてお見舞い申し上げます。
取り調べの「見える化」〜被疑者取り調べの録音・録画
最近「見える化」という言葉をよく聞きます。「見える化」とは、見えていないものを可視化〜見えるようにするという意味で、問題点を明確化し、何かが起こった時にもすぐ対応できるようにしておくという、組織改革の手法と言われています。
刑事司法の分野で「見えていない」ところの一つに、被疑者の取り調べがあります。逮捕された人(被疑者といいます)は、警察の留置場に入れられ、そこから取調室に連れて行かれて、厳しい取り調べを受けるのです。そこは、被疑者と取調官(主に警察官)だけで、弁護人が立ち会うこともできず、被疑者は孤立無援の状態です。そのため、やってもいないのに、虚偽の自白を強要され、死刑判決が下された事件でのちに無罪が確定した事件が4件もあるのです。
弁護士会は、ブラックホールとも言える取り調べの過程を録音・録画して、「見える化」するよう求めてきましたが、5月24日、刑事訴訟法(刑事手続きに関する法律)が一部改正され、被疑者取り調べの全過程の録音・録画が義務付けられました。しかし、その対象事件は、重大事件(法定刑が重い事件)に限られ、全体の3%程度にしかなりません。多くの事件は、これまでと同じように、密室での取り調べが続くのです。
また、対象事件の全過程の録音・録画といっても、たとえば殺人の疑いがある人を、窃盗容疑で逮捕し、事実上殺人の取り調べを行うといういわゆる別件逮捕事件では、窃盗で逮捕・拘留されている間は録音・録画しないという可能性が有り、この制度が骨抜きになる可能性があります。
また、この度の法改正では、捜査のために通信を傍受する範囲の拡大や司法取引(例えば捜査に協力することにより起訴を免れる可能性がでてくる)など、運用によっては新たな冤罪を生む可能性がある制度も導入されています。一部前進したとは言っても、問題のある改正も行われているのです。
弁護士会としては、冤罪を防止し、適正な刑事手続きを守る立場を堅持して、各会員の刑事弁護の質を上げるべく努めるとともに、引き続き、全事件における取り調べの完全な可視化を求めて参ります。
研修の日々
弁護士会では、若手の研修、新しい制度の研修、事件ごとに市民の皆様へ推薦する弁護士の研修など、様々な研修を行っています。日々変わる法律への対応、市民の皆様への幅広いニーズにお応えするためにも、会として力を入れて行っております。
6月の研修を見てみますと
- 交通事故訴訟について
- 不動産という財産の遺産承継及び財産管理業務
- 自然災害による被災者の債務整理に関するガイドラインについて
- 民事信託について
- 債権法改正について
- 決算書の見方
などの研修の他、付添人研究会、労働法ゼミ、判例研究会、法律英語セミナー、新人弁護士を対象にした刑事弁護研究会、新人ゼミなど、様々な研修を行っています。市民の皆様にご迷惑をかけないように、倫理研修も毎年行っており、5年に一度は受講を義務付けています。
私は,従来自分の興味のある研修のみ受けていましたが、会長となり、なるべく多くの研修に参加するよう努めています。その結果、弁護士の業務の奥深さや、責任の重大さを改めて自覚させられているところです。
7月も目白押しの研修に汗をかきます。