福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

決議

2010年5月27日

司法修習生の修習資金給費制の維持を求める緊急決議

 わが国の司法制度を担う法曹である裁判官、検察官及び弁護士になるには、司法試験に合格した後、司法修習を終えることが必要である。司法修習は、法律実務に関する汎用的な知識や技法のみならず、市民の権利に直接関係する法曹として求められる高い職業意識と倫理観の修得をも目的とするもので、裁判官、検察官、弁護士のいずれの道に進む者に対しても同じカリキュラムで行われ(統一修習制度)、国際的に見ても特徴があり、高い評価を受けている。
 そこで、司法修習生には、全力で修習に専念すべき義務(修習専念義務)が課されている。そして、この修習専念義務を担保するため、司法修習生には、1947(昭和22)年に司法修習制度が創設されて以来、一貫して、国庫から給与が支給されてきた(給費制)。この給費制があればこそ、司法修習生は経済的な不安を持たずに司法修習に専念することができ、また、貧富の差を問わず、国民のあらゆる階層から有為で多様な人材が法曹界に輩出されてきたのである。
 ところが、2010(平成22)年11月1日から、この給費制が廃止され、必要な者に生活資金を国が貸与する制度(貸与制)が実施されることとなった。給費制の見直しは、司法制度改革審議会の意見書等を受け、2004(同16)年11月に裁判所法が「改正」されて定められたものである。
 しかるに、裁判所法「改正」後、新たな法曹養成制度の出発点である法科大学院への志願者は年を追うごとに減少し、法学を学んでいない者(未修者)や社会人など他分野からの有為な人材の集まりにもかげりが見られる。この背景には、法科大学院(2ないし3年間)の費用が多額に上り、生活費の負担も大きく、また急激な法曹人口増により弁護士の就職が困難になるなどの経済的問題があることが指摘されている。
 このような現状のもとで給費制を廃止した場合、法科大学院時代の負債に加えて司法修習中にも更に負債を抱えることを余儀なくされ、経済的事情から法曹への道を断念する者が一層増大する事態が強く危惧されるとともに、統一・公平・平等という司法修習の理念が損なわれ、司法改革審議会意見書が目指した、貧富の差なく多様な人材を法曹に求めんとした新しい法曹養成制度の基本理念にも背理する結果となる。
 司法修習制度は、司法修習生が裁判官、検察官、弁護士のいずれになるかを問わず、わが国の司法制度を支える重要な社会的インフラ(基盤)であり、これを支える費用を負担することは国の当然の責務である。給費制を廃止することは、司法制度を支える法曹養成の責任を国が放棄することを意味し、これによって害を被るのは、優れた資質を備えた多様な人材からなる法曹、市民の目線にたった弁護士による援助の機会を奪われる市民である。
 よって、当福岡県弁護士会は、直ちに司法修習生に対する給費制を継続する法改正を行うよう、政府・国会・最高裁に強く求めるとともに、その実現のために全力を尽くす決意である。
 以上のとおり決議する。

                2010(平成22)年5月25日
                福岡県弁護士会定期総会

          提案理由        

1.貸与制の導入に関する裁判所法「改正」に至る経緯
(1)司法制度改革審議会意見書
   司法制度改革審議会は、2001(平成13)年6月12日、意見書において、給費制についての在り方を検討すべきであるとして「修習生に対する給与の支給(給費制)については、将来的には貸与制への切替えや廃止をすべきではないかとの指摘もあり、新たな法曹養成制度全体の中での司法修習の位置付けを考慮しつつ、その在り方を検討すべきである。」と述べた。
(2)裁判所法「改正」
   国会は、2004(平成16)年11月、給費制を廃止し修習資金の貸与制を実施することとして裁判所法を「改正」した(裁判所法67条の2 修習資金の貸与等)。ただし、実施時期は当初の法案では2006(同18)年11月1日からの実施予定であったが、貸与制について周知徹底するためとして実施が4年間延期され、附則で2010(同22)年11月1日が施行期日とされた。
(3)附帯決議
   その際、衆参両議院共通の附帯決議がなされ、1項で、改革趣旨・目的が、「法曹の使命の重要性や公共性にかんがみ、高度の専門的能力と職業倫理を備えた法曹を養成する」ものであること、3項で「給費制の廃止及び貸与制の導入によって、統一・公平・平等という司法修習の理念が損なわれることがないよう、また、経済的事情から法曹への道を断念する事態を招くことのないよう、法曹養成制度全体の財政支援の在り方も含め、関係機関と十分な協議を行うこと。」が明記された。

2.裁判所法「改正」後の実情
(1)多様な入学者・志願者全体の減少傾向等
   新たな法曹養成制度の出発点である法科大学院について、司法制度改革審議会が望ましいとした法学部出身者以外の未修者や社会人入学者は、実情は、例えば2006(平成18)年度と2009(同21)年度を比較すると、法学未修者が3605名から2823名へと782名減少し、社会人が1925名から1298名へと627名減少しており、他分野からの有為な人材の集まりにかげりが見られる。
   そればかりか、法科大学院への志願者全体につき、初年度の2004年(同16)度では7万2800名、2005(同17)年でも4万1756名であったものが、2010(同22)年度では2万4014名(暫定値)と大幅に減少している。
(2)法曹志望者の減少の背景
   この背景には「法曹を目指すに当たり、投下する負担に比して危険が大きすぎる。」という心理が一般化し始めているとの指摘がある。
   すなわち、法科大学院の学費として、国立大学の場合、入学金が約28万円、年間授業料は約80万円となっており、私立大学の多くは、入学金が20万円から30万円程度、年間授業料は100万円から150万円程度になっている。このほかに教科書などの教材費がかかるほか、生活費も必要である。それに、社会人入学者は家族の生活を支えなければならない。現実には未修者が法科大学院で学ぶということは「1000万円もかかる大事業」となっている。
   日本弁護士連合会が2009(平成21)年11月19日、20日に実施した司法研修前研修(事前研修)の際、受講者である新第63期司法修習生候補者を対象に実施したアンケートによれば、回答者1528名中807名(52.81%)が法科大学院で奨学金を利用したと回答し、そのうち具体的な金額を回答した783名の利用者が貸与を受けた額は、最高で合計1200万円、平均で合計318万8000円にも上っていた。
   他方で、司法試験合格後の司法修習生時代においては、修習専念義務により兼職が禁止され、アルバイトを行うこともできない。
   更に、司法修習生には就職難が待っている。すなわち、急激な法曹人口増により弁護士事務所への就職が困難になっている上、公務員・社内弁護士など他分野への進出も現状では増員に見合うものにはなっていない。裁判官、検察官の増加もわずかである。
   その上に、現在の給費制が廃止されれば、兼職を許されない司法修習生は、相当の貯蓄がない限りは貸与制を利用せざるを得なくなる。仮に貸与制を利用した場合、基本額で月額23万円の貸与額は1年間の修習終了時点では合計276万円に上ることになり、上記アンケート結果を前提にすれば、新規弁護士の50%を超える者が、弁護士登録した時点で平均して600万円近くの借金を負っていることになる。給費制の廃止と貸与制の導入により、司法修習生を取り巻く経済環境は更に悪化するのである。
   近時、弁護士の就職難から、司法修習終了後直ちに独立する弁護士(いわゆるタク弁、ソクドク)や他の法律事務所の一角を借りて業務を行う弁護士(いわゆるノキ弁)が増加していることも指摘されており、これらの弁護士にとって、弁護士開業後の収入は極めて不安定で厳しいものがある。法科大学院や司法修習生時代の借金を返済することは容易ではないのである。
   このような現状では、多くの有為な人材が「法曹は、人生をかけて目指すべきものだろうか。」という疑問を持つのは当然の成り行きである。あるいはまた、高い志と能力を有しながら、経済的な理由だけで、法曹となることを断念せざるを得なくなる者が多数出てくることも容易に想像される。このままでは、法曹を目指す有為の人材が減少していくことに拍車がかかることは必至である。

3.司法修習生に対する給費制の廃止に伴う弊害
(1)有為な人材の確保
   わが国における従来の法曹の人材確保は、法曹資格の取得については貧富の差を問わず広く開かれた門戸であり、従来の法曹養成制度は、決して「金持ちにしか法曹になれない制度」ではなく、多様な人材が裁判官、検察官、弁護士として輩出されてきた。この点は非常に高く評価すべきであり、また、将来もそのようでなくてはならない。司法制度改革審議会も「資力のない人、資力が十分でない者」が法曹となる機会を求めている。
   貧富の差なく国民の各層から広く法曹が誕生することにより、真に市民のための開かれた司法が現実化し、市民の権利実現が果たされることになるのである。
   給費制が廃止されれば、21世紀の司法を支えるにふさわしい資質・能力を備えた人材が、経済的事情から法曹への道を断念する事態も想定され、その弊害は極めて大きい。
(2)司法修習生の修習専念義務
   最高裁判所は、従来から修習の実効性を挙げるために、司法修習生に対し兼業の原則禁止をはじめとする厳しい修習専念義務を課してきた。2004(平成16)年の裁判所法「改正」でも、その理念・方針には何ら変わりはない。司法修習期間が段階的に短縮され、近々1年に統一される状況において、司法修習生の質の低下を防ぐためにも、この義務は重要かつ不可欠である。
   この修習専念義務を担保するために、1947(昭和22)年に司法修習制度が創設されて以来、一貫して、司法修習生には国庫から給与が支給されてきたのであり、給費制があればこそ、司法修習生は経済的な不安を持たずに司法修習に専念することができたのである。
   この給費制を廃止しておきながら、他方で修習専念義務を課したままアルバイト等を禁止するというのでは、司法修習生に経済的に過大な負担を強いることになり、制度として無理がある。
(3)社会的責任(公共性)等公共心の醸成 ―弁護士の社会への貢献・還元―
   給費制は、現行司法修習制度の下で、法曹、とりわけ弁護士の公共性を制度的に担保する役割を歴史的に果たしてきた。
   すなわち、逮捕勾留された人に無料で接見に赴く当番弁護士制度、少年鑑別所に収容された少年に無料で面会に赴く当番付添人制度、市民相談の要となる法律相談センター事業の拡充、弁護士へのアクセスが難しい過疎地における公設事務所の開設など、弁護士・弁護士会による各種の公益活動は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士の公共性・公益性を具体的な形として結実したものである。また、弁護士の人権擁護のための諸活動(例えば、人権救済、子どもの虐待防止活動、消費者保護運動、犯罪被害者支援活動、民事介入暴力対策、法教育等々)をボランティアで支えてきたのは、個々の弁護士の強い使命感にほかならない。
   しかし、経済的に困窮する弁護士が増えれば、公共心、使命感を持って、このような公益活動を担う余裕が失われ、ビジネスを優先せざるを得なくなることが危惧される。給費制の廃止、貸与制の導入が、多くの弁護士の資質や仕事の在り方に深刻な影響を与え、恵まれない人々、虐げられた人々のために社会正義を実現するという市民が期待する弁護士像から遠ざかってしまうおそれもある。

4.「国民の社会生活上の医師」としての法曹・弁護士
  司法制度改革審議会は、法曹の質を求め、法曹教育の在り方及び弁護士の役割について「国民の社会生活上の医師」であることを求め、弁護士に社会的責任(公益性)の自覚を求めている。司法制度改革審議会は、いわば弁護士を医師とパラレルに考えて制度設計をなすことを求めているとも言える。
  そこで、医師の養成制度と対比してみると、2004(平成16)年度から国家試験に合格した医師には2年間研修を義務づけられているところ、研修中はアルバイトなしで専念して研修することができる制度が設けられた。その後、医師の養成のためには、2008(同20)年度まで教育指導経費・導入円滑化加算費として毎年約160億円から171億円の予算措置がなされている。この医師は公務員だけではなく、もちろん民間医師も含まれている。2009(同21)年度からは臨床研修に国家予算が導入されており定着化している。
  このように、医師は民間人であっても市民の生命と健康を守る社会的インフラであるから、研修医の給与には国費が投入されている。「国民の社会生活上の医師」である弁護士をはじめ、市民の権利の実現ないし擁護者である裁判官、検察官を含む法曹養成のためにかけがえのない司法修習制度を医師の研修と並行して考えれば、現在の給費制を維持すべきは明らかである。

5.給費制を維持した場合の国家予算
  司法修習生の手当予算は、2007(平成19)年度において2376名の100億3000万円、2008(同20)年度において2408名の104億9900万円、2009(同21)年度において2327名の108億9400万円である。
  司法試験合格者は、当初2010(同22)年度には年間3000人となることが目指されたものの、現実には過去3年間は2100名から2200名程度で推移しており、その背景には、日本弁護士連合会の2008(同20)年7月の法曹人口問題に関する緊急提言のとおり、司法改革全体の統一的かつ調和のとれた実現をするためには、数値目標にとらわれず、法曹の質に十分配慮すべき状況にあることが指摘される。
  また、今後、旧司法試験制度が終息し、修習期間が全面的に1年間となることも併せ考えれば、司法修習生の手当予算は現状の100億円程度から大幅に増加することはないと考えられる。
  このように、今後の法曹人口問題も流動的であり、裁判所法改正時に予想された2010(同22)年度における年間3000名合格者による支出の増大予想は、その前提事実に大きな変動が認められる。

6.結論
  司法修習制度は、司法修習生が裁判官、検察官、弁護士のいずれになるかを問わず、わが国の司法制度を支える重要な社会的インフラ(基盤)であり、これを支える費用を負担することは国の当然の責務である。給費制を廃止することは、司法制度を支える法曹養成の責任を国が放棄することを意味する。また、弁護士は民間人ではあるが、そうであるからこそ、強い法曹倫理を背景に、国や地方公共団体と市民が対立する場合にも、市民の権利を擁護することができるのである。給費制を廃止することは「法の支配」を社会の隅々まで行き渡らせるという司法制度改革の目的にも背馳し、これによって害を被るのは、優れた資質を備えた多様な人材からなる法曹、市民の目線にたった弁護士による援助の機会を奪われる市民である。
  当福岡県弁護士会は、法曹養成を担う責任ある立場から、次世代の法曹を育成するため、2009(平成21)年5月25日に、「司法修習生に対し給与を支給する制度(給費制)に代えて2010(同22)年11月1日から実施される修習資金を国が貸与する制度(貸与制)の実施時期を相当期間延期し、給費制の復活を含めどのような援助措置が適切か制度全体の再検討に着手すべきである。」ことを政府・国会・最高裁に求める決議をなした。
  しかし、大変遺憾ながら、政府・国会・最高裁は、給費制廃止を何ら見直そうとはせず、他方で、法科大学院受験者の減少傾向は強まるばかりであり、状況は改善されることなくむしろ悪化している。
  また、法務省及び文部科学省は、法曹養成制度に関する制度ワーキングチームを設置し、2010(同22)年3月1日に第1回会議が開催されたが、貸与制を見直す方向での議論は見受けられない。
  以上の状況を踏まえ、日本弁護士連合会は、2010(同22)年4月15日に司法修習費用給費制維持緊急対策本部を設置し、各弁護士会と連携しつつ給費制維持のための運動を展開することを表明した。これを受けて、当福岡県弁護士会も、2010(同22)年5月14日に緊急対策本部を設置して、この問題に会を挙げて全力で取り組む方針を確認した。
  当福岡県弁護士会は、直ちに司法修習生に対する給費制廃止を撤回し、給費制を継続する法改正を行うよう、改めて政府・国会・最高裁に強く求めるとともに、その実現のために全力を尽くす決意である。
 以上

2007年6月12日

多重債務者救済体制整備に関する決議


 2006(平成18)年の改正により,貸金業法や出資法の上限金利を利息制限法の制限利息とするなど高金利問題は将来に向けては解決に向けて前進した。しかしながら,この改正によって将来貸金業者を利用する債務者は保護されることになるが,現在の多重債務者は救済されず、その支援が急務である。
 政府が設置した多重債務者対策本部作成による「多重債務問題の解決に向けた方策について(有識者会議による意見とりまとめ)」では,現在200万人を超えるともいわれている多重債務者の中で相談窓口やカウンセリングなどにアクセスできているのは2割程度に過ぎないとして,相談窓口の整備・強化の必要性が指摘されている
 当会は4月1日から福岡,飯塚地区において法律相談センターにおける多重債務者無料相談を実施し,さらに6月1日からは全県をあげて多重債務者無料相談を実施することにしている。
 当会が社会問題化した多重債務問題について市民の期待に応えるためには,相談窓口の設置にとどまることなく,多重債務問題を解決するための体制をさらに整備・強化し,会をあげて取り組む必要がある。また,多重債務問題の解決のために, 国や地方自治体その他関係団体と連携していく必要がある。
当会は,すべての多重債務者が平穏に生活できるようにするために,相談センターの無料相談をはじめとして体制を整備・強化し,多重債務問題の解決に向けて全力を傾注することを誓うとともに,国や地方自治体その他関係団体が当会と連携をして多重債務者救済及び発生防止のための諸施策を至急実施することを求める。

 以上決議する。

       2007(平成19)年5月23日
       福岡県弁護士会

2006年5月25日

弁護士から警察等への依頼者密告制度(ゲートキーパー制度)の立法化を阻止する決議

2006年(平成18年)5月24日

福岡県弁護士会

 政府の「国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部」は、2004年(平成16年)12月10日、「テロの未然防止に関する行動計画」を策定し、その中で弁護士にも不動産の売買、資産の管理等一定の取引について、依頼者の行う「疑わしい取引」を政府の金融情報機関に通報する義務と、通報の事実を依頼者に秘匿する義務を課す立法をすることとした。
 政府は、2005年(平成17年)11月17日に、金融情報機関を金融庁から警察庁に移管することとした。それに伴い、弁護士に依頼者の「疑わしい取引」を警察庁に通報することを義務づける立法をするべく、現在、2007年(平成19年)の通常国会への上程を目指し、作業を進めている。
 弁護士は、法律専門家として依頼者の基本的人権と正当な法的利益を擁護することを職務の本質としている。この弁護士の職責を全うするためには、依頼者の全面的な信頼の下に、秘密事項を含め全ての事実の開示を受けたうえで、依頼者にとって最善の方策を立案し遂行しなければならない。弁護士の守秘義務は、依頼者が、有利不利を問わずあらゆる事実を安心して弁護士に打ち明けられることを保障する制度であり、弁護士の職務の適正な遂行のために不可欠である。また、弁護士は、人権擁護のために、国家権力の過ちも臆することなく正すことが出来なければならない。そのために、弁護士は政府機関から独立し、その監督を受けない職業として位置づけられており、同時に弁護士会にも高度の自治が認められている。
 しかしながら、このたびの政府の決定により、このような密告義務が弁護士に課されることになれば、弁護士制度の根幹である弁護士の絶対の守秘義務と政府機関からの独立の原則がゆるがされ、もはや市民の弁護士への全面的な信頼は成立しない。
 市民が、安心して秘密を打ち明け、適切な法的助言を求めることができる法律専門家を失えば、市民の司法へのアクセスは阻害され、市民の守られるべき法的利益も損なわれる。
 そして、市民が、弁護士の助言に従って法を遵守することができなくなれば、市民の自由は奪われ、民主的な司法制度の根幹が揺らぐこととなる。
 当弁護士会は、弁護士が依頼者を警察はもとより他のいかなる政府機関に対しても密告する制度を決して容認することはできず、日本弁護士連合会とともに、全会員が一丸となってこのような立法を阻止する運動を更に強力に押し進めることを決意する。
 以上のとおり決議する。


決議案の提案理由

1 ゲートキーパー立法とは
 ゲートキーパー立法とは、弁護士など法律専門家に不動産の売買、資産の管理等一定の取引について、依頼者の行う「疑わしい取引」を政府の金融情報機関(現在は金融庁に置かれているが、警察庁に移管されることになっている)に通報する義務と、通報の事実を依頼者に秘匿する義務を課す制度を意味する。
 このように、この制度は、弁護士に対して、違法の疑いのある活動を通報することを義務づける一方で、依頼者に通報した事実を告げることを許さないものであるため、我々はこの制度を「弁護士から警察への依頼者密告制度(ゲートキーパー制度)」と呼ぶ。

2 制度化の国際的背景
 OECD加盟国を中心とする31か国・地域及び2国際機関が参加する政府間機関であるFATF(金融活動作業部会)は、2003年(平成15年)6月20日、弁護士、公認会計士などの専門職に対して、顧客の本人確認義務及び記録の保存義務と、マネーロンダリングやテロ資金の移動として疑わしい不動産売買、資産管理等の取引について、これを各国に設置される金融情報機関(FIU)に報告する義務を課すことを定め、これを勧告した。今回の政府の立法の動きは、この勧告を受けたものである。
 この制度は、弁護士を含む専門職をいわば金融取引におけるゲートキーパー(門番)として、違法な資金移動を監視・規制しようとするものである。

3 政府の立法に関する計画
 日本政府の「国際組織犯罪等・国際テロ対策本部」は、2004年(平成16年)12月10日「テロの未然防止に関する行動計画」を策定し、その中で専門職に対してのFATF勧告の完全実施を決定した。
 そして、2005年(平成17年)11月17日には、FATF勧告実施のための法律の整備に関する骨子を定めた。
 同骨子は、
・法律の目的は、資金洗浄及びテロ資金対策とし、警察庁、法務省、金融庁、経済産業省、国土交通省、財務省、厚生労働省、農林水産省、及び、総務省の所管とし、法律案の作成は警察庁が行う。
・本人確認及び組織犯罪処罰法第5章を参考として法律案を作成すること。
・FIU(金融情報機関)は警察庁に移管することとし、FIUが十分な機能を果たすため必要な体制を確保する。
・警察庁は平成18年(2006年)中に法律案の作成を終え、これを平成19年(2007年)の通常国会に提出する。
というものである。

4 弁護士・弁護士会の独立を侵害し、市民の信頼を損ね市民の自由を奪うもの
 しかし、「弁護士から警察への依頼者密告制度」は、弁護士・弁護士会の存立基盤である国家権力からの独立性を危うくし、弁護士・弁護士会に対する市民の信頼を損ねるものであり、弁護士制度の根幹をゆるがすものである。
 そもそも弁護士は、法律専門家として依頼者の人権と正当な法的利益を擁護することを職務の本質としている。この弁護士の職責を全うするためには、依頼者の全面的な信頼の下に、秘密事項を含め全ての事実の開示を受けたうえで、依頼者にとって最善の方策を立案し遂行しなければならない。弁護士の守秘義務は、依頼者が、有利不利を問わずあらゆる事実を安心して弁護士に打ち明けられることを保障する制度であり、弁護士の職務の適正な遂行のために不可欠なものである。
 また、弁護士は、依頼者の人権の擁護のためには、国家権力の過ちも臆することなく正すことができなければならないから、弁護士は政府機関から独立し、その監督を受けない職業として認められており、弁護士会にも高度の自治が認められている。
 他方、警察庁は、犯罪捜査を基本とする国家機関であり、刑事弁護などを通じて弁護士・弁護士会とは制度的に対抗関係にある。弁護士会は、政府機関の中でもとりわけ警察庁に対しては、その独立性を保たなければならないことはいうまでもない。
 ところで、弁護士が依頼者の相談等を通じて得た情報を、それも単に「疑わしい」というレヴェルでの情報について、警察庁に通報することにより、直接の捜査協力関係にあること、あるいはまた、これにより警察庁の統制下に置かれているような外観が作り出されることは、我々の依頼者である市民からどのように受けとめられるであろうか。この制度は市民にとっては、弁護士による警察への密告制度と認識されることは必至である。その結果、市民は弁護士へ依頼者として真実を語って安心して弁護士に相談を受けることを躊躇することになり、そのため法律を遵守して行動するよう適切な法的助言を受けることができなくなり萎縮効果により市民の自由が奪われ、また、かえって違法行為を招いてしまうという事態が発生しかねない。このような規制を強行することは、むしろ立法目的に背反する結果を生ずるおそれが大きいと言わなければならない。
 当弁護士会は、マネーロンダリング、テロ資金の移動を防止するため、人権保障原則に反しない範囲で世界各国が協力し、国内的法制を整備することの必要性を否定するものではないが、弁護士による依頼者を密告する制度によって達せられる法執行の利益に比し、これによって失われる利益、即ち、弁護士制度ひいては民主的司法制度の根幹を揺るがす弊害、リスクの方が格段に大きいとみる。
 よって、当弁護士会はたとえ対象分野を限定したものであっても、弁護士が依頼者を警察に密告する制度を断じて容認することはできない。

5 守秘義務の範囲外としても市民の信頼を失うもの
 報告義務が課せられる事項は弁護士の守秘義務の範囲外とする除外規定が設けられさえすれば許容できるというものでは決してない。
 FATF勧告では、「守秘義務の対象となる・・・・状況に関する情報」については、報告義務を負わないとされている。
 しかしながら、守秘義務の範囲の内か外かは一義的に定まるものではなく、法務当局の解釈と日弁連の解釈に差異があったことはこれまでしばしば経験してきたところである。ましてや、法的アドバイスを受けようとする市民が弁護士の守秘義務に属するか否かなど判断して、相談の対象を選別することなど殆ど不可能であるし、市民にとって弁護士を全面的に信頼することができないことに変わりはない。
 また、今後、警察庁が守秘義務の範囲について、これを狭めるような解釈を採用しようとする可能性は否定できない。
 よって、当弁護士会はたとえ守秘義務の対象となる情報を除外した制度であっても、依頼者を警察に密告する制度を断じて容認することはできない。

6 世界の趨勢は消極的
 諸外国の動向について、注目すべきは米国の対応である。米国法曹協会(ABA)は、ゲートキーパー規制に反対の姿勢を崩しておらず、政府からの具体的立法化の提案はこれまでにない。
 カナダでは、弁護士による通報義務を定めた法律が制定されたが、すべての州でゲートキーパー制度の弁護士への適用について違憲とする判断が出され、執行が停止されている。その後も弁護士による通報義務を定めた法律は制定されていない。
 イギリスでは、既に1994年から、ソリシターをマネーロンダリング規制対象とし、報告義務懈怠に5年以下の拘禁刑を科すとしている。このためソリシターは、些細な事実についても報告を行うようになり、2004年は1万数千件に及ぶ報告がなされ、市民の弁護士に対する信頼を揺るがす事態となっている。
 また、ベルギーやポーランドでは、弁護士がゲートキーパー制度の違憲性を指摘して、行政・憲法裁判所に提訴しており、今年度中にも判断が示される見込みである。
 このように、世界中の多くの弁護士が今もなお、この制度に強く反対しており、世界の趨勢は、この制度に消極的なものと評価することができる。

7 結論
 日本弁護士連合会は、2005年12月16日の理事会において、ゲートキーパー立法阻止のための運動方針を決議し、これまで市民、国会議員、政党、マスコミにこの制度の問題点、危険性を訴え続けてきており、理解と支持は拡がりを得てきているものと確信する。
 2006年度(平成18年度)福岡県弁護士会定期総会にあたり、日本弁護士連合会とともに、全会員が一丸となって「弁護士から警察への依頼者密告制度」を定める立法を阻止するための運動を更に強固に押し進めることを決意し、ここに決議する。

2004年5月26日

「北九州矯正センター構想に反対し、少年鑑別所の適地への移転を求める決議」

平成16年5月26日  福岡県弁護士会  会長 松? 隆

 平成7年2月に発表された北九州矯正センター構\想は、小倉刑務所敷地内に医療刑務所、小倉拘置所及び少年鑑別所を移転する計画であった。当弁護士会は、この構想に対し会を上げて反対運動を展開したところであり、一旦は、小倉刑務所と医療刑務所のみが統合されて「北九州医療刑務所」となるにとどまった。
 しかるに、今般、少年鑑別所を北九州医療刑務所と同一敷地内若しくは隣接地(以下「同一敷地内等」という)に移転する計画の調査費用が予算化され、再び、上記構\想が実行されようとしている。
 ところで、少年の健全な育成を理念とする少年法の趣旨に鑑みれば、少年鑑別所などの少年に関する施設と刑務所などの成人に関する施設とは、別個独立のものでなければならない。また、少年鑑別所は、少年に対する処遇決定のためにその資質等を調査鑑別する施設である。教育的な更正を目的とする少年院とも明らかにその性格を異にするものであり、ましてや、刑に処せられた者を拘禁する施設である刑務所とは画然と区別すべきものである。
 我々は、少年鑑別所を刑務所と同一敷地内等に設置することにより、少年鑑別所に収容される少年に多大な悪影響を及ぼし、少年の健全な育成が阻害される事態や、少年鑑別所が刑務所と類似した矯正施設であるかのような誤解を世間に与え、あるいはそのような偏見を助長する事態が生じることを恐れるものである。
 当弁護士会は、このような理由から、少年鑑別所を刑務所と同一敷地内等に移転させる構想に断固として反対するものである。\n 他方において、現在の少年鑑別所が老朽化しており、かつ、近隣高層住宅から俯瞰されるなど少年の人権上問題があるために、移転建替えの必要があることは理解できるところである。しかし、その必要性の故をもって刑務所と同一敷地内等に移転することは、上記の理由から決して容認しえない。
 よって、当弁護士会は、少年鑑別所を北九州医療刑務所と同一敷地内等に移転しようとする北九州矯正センター構想に反対するとともに、少年の更正と健全な育成にかなった適地への移転を求めるものである。
 以上決議する。

2004年5月25日

公的付添人制度の実現を求める決議

 2004年5月25日   福岡県弁護士会 会長 前田 豊

 現在司法制度改革推進本部において、公的刑事弁護制度の導入及び整備について検討がなされ、同時に、少年審判手続における国費による少年の付添人制度(公的付添人制度)の導入についても検討がなされている。

 福岡県弁護士会は、当番弁護士制度発足以来、逮捕された少年にはできるだけ当番弁護士を派遣し援助を行ってきたが、さらに、2001年2月1日、日弁連及び法律扶助協会からの資金援助に加えて、会員から特別会費を徴収するなどの自助努力により、付添人の選任を希望する少年全員に対して付添人を選任するという「全件付添人制度」を発足させ、今日まで実施してきた。
 そして、福岡家庭裁判所の理解と協力を得て、2002年には、観護措置を受けた少年の54%(家裁送致時に弁護人がいたケースを含む)の少年に付添人が選任された。この割合は、福岡家庭裁判所本庁に限れば84%に及ぶ。
 付添人に選任された弁護士は、非行事実の存否に争いがある場合には非行事実が存在しないことを証明するための活動を行い、非行事実の存在に争いがない場合においては少年の立ち直りのために必要な様々な活動をしてきた。
 後者の場合、付添人は、少年に被害者の気持ちや被害者の現状を知らせ、少年が行った非行による重大な結果を認識させ、被害弁償を試み、親子の関係の修復を試み、少年が学校や職場に復帰できる環境を整えるなどして、少年が自らの力により立ち直るためのあらゆる援助、努力をしてきた。そして、多くの事件において、付添人がいたからこそ少年が更生できたり、あるいは
被害弁償ができて被害者の感情も宥和されるなどの実績をあげてきた。
 福岡県弁護士会は、これまでの実績を踏まえて、今後もこの全件付添人制度を継続して実施し、さらに充実させる所存である。

 しかし、全国のすべての少年に対し、付添人の選任を希望すれば付添人を選任することができるという制度を実施するためには、公的付添人制度が不可欠である。
 非行を犯した少年が一人でも多く立ち直ることは、当該少年にとって必要であるだけでなく、非行及び犯罪をこの国から減少させ、国民の安全を図るうえでも極めて有益であり、ここに国費を投入することは、われわれ大人の責務であると考える。
 よって、早急に公的付添人制度を発足させ、充実させることを求める。

法科大学院における経済支援に関する決議

 2004年5月25日   福岡県弁護士会 会長 前田 豊

 「法科大学院の教育と司法試験法との連携等に関する法律」は、質・量ともに豊かな法曹があらゆる場所で活躍し、社会の隅々にまで法の支配を行きわたらせるため、法科大学院を法曹の養成のための中核的な教育機関と位置付け、そのための施策実施に必要な財政的措置を取るべきことを国の責務として明記した。
 ところで、日弁連が本年1月10日から24日に行った法曹志望者に対するアンケートの結果、奨学金等の貸与制度がない場合には、法科大学院の授業料が年間100万円を超えると志望者の5割が法科大学院進学を断念すること、そのような制度があっても年間授業料が200万円とした場合には、奨学金貸与額が年間200万円であったとしても3分の1の志望者が進学を断念することがわかった。
 法科大学院進学希望者が経済的な理由で進学を断念することがないようにするために、また法科大学院に様々なバックグランドを持った学生が入学して法科大学院ひいては法曹の多様性を保持するために、法科大学院に関する財政支援が不可欠である。
 よって、政府ならびに文科省、法務省及び各政党に対し以下の事項を要望する。

 法科大学院に対し、その年間授業料を100万円以下にできるように運営 助成金・交付金を充実すること。

 公的奨学金制度の充実、及び政府保証ローン創設などによる民間金融機関 による教育ローンの充実を図ること。

在監者の人権保障のために刑務所・拘置所の抜本的改革を求める決議

 2004年5月25日   福岡県弁護士会 会長 前田 豊

 名古屋刑務所において発生した複数の刑務官による在監者に対する特別公務員暴行陵虐致死傷事件を契機に、同種の事件が他の複数の刑務所・拘置所に及んでいることが明らかになってきた。日本弁護士連合会が本年3月に実施した「刑務所・拘置所110番」によっても、革手錠・保護房を使用した在監者に対する人権侵害が全国的に広がっていることが明らかになった。

 当会にも、近年、刑務所・拘置所を人権侵害者とする在監者からの人権救済申立が急増している。ちなみに、2002年度(2002年4月1日〜2003年3月31日)の当会に対する人権救済申立件数は46件であったが、そのうち31件(67%)が刑務所・拘置所を侵害者とする申\立であった。
 当会に対する申立の内容は、医療、懲罰、信書発信、昼夜間独居拘禁、刑務官による暴\行・拷問に関するものなど多岐にわたっている。なかには、必要性がないにもかかわらず在監者を革手錠で緊縛し保護房に23時間以上拘禁したという事案もあった。
 刑務所・拘置所における人権侵害は、いわば密室で行われ、客観性のある目撃証人なども得難いため、人権救済申立事件の調査は事実認定で困難を極めることがほとんどである。このような困難な条件の中で、当会はこれまで問題のある事案について、刑務所・拘置所に警告・勧告・要望を発してきた。\n ちなみに、その数は2000年はじめから今日まで7件になっている。
 しかし、残念ながら、当会のそうした処置に対し、刑務所・拘置所側からの改善されたとの報告を受けたことはなく、相変わらず同種の人権侵害を受けたとの申立が当会になされている。\n
 こうした状況は、根本的には、在監者の人権を保障するための法や制度が確立されていないことに加え、全国の拘禁施設が不十分な施設と人員で過剰な在監者への対応を強いられていることによって起きていると思われる。\n また、拘置所に医師が常駐せず、医療刑務所における医療費の額が極めて貧弱であることも、在監者の生命と健康を危うくする原因となっている。

 日本弁護士連合会は、1982年、「刑事被拘禁者のための処遇に関する法律案」を示し、国際人権基準に合致した監獄法の全面改正を求めてきた。又、当会は、かねてより、警告・勧告等を通して行刑の改善を申し入れてきた。\n
 以上をふまえて当会は、政府が在監者の人権を守るための法と制度を確立する施策に積極的に取り組むとともに、必要かつ十分な予\算的措置をとって、拘禁施設における施設の充実と刑務官の抜本的増員を図って現場で働く刑務官の負担を軽減すること、拘置所・刑務所・医療刑務所における医療体制の充実並びに医療部門の所管を法務省から厚生労働省に移管することが必要不可欠と考え、政府に対し、一刻も早くそのような積極的措置をとるよう求める。
 また当会は、各拘禁施設が、在監者の外部交通権を保障し、懲罰対象者の権利行使を保障し、革手錠の廃止と保護房の濫用抑制、在監者の裁判を受ける権利の保障、在監者の不服申立に関する相談・調査に来た面会者との面会においては立会いをせず、また両者のやりとりに関する信書の検閲をしないことなどの改善を求める。\n

2003年5月27日

取調の全過程の録画・録音による取調の可視化を求める決議

 2003年5月27日   福岡県弁護士会 会長 前田 豊


 日本国憲法及び刑事訴訟法は、被疑者・被告人に黙秘権を保障し、自白の強要を禁止している。しかし、実際の取調べは、密室で行われ、暴力、脅迫、利益誘導等によって被疑者・被告人の権利が侵害・形骸化され、様々な冤罪事件や誤判事件の温床となってきたことは周知の事実である。また、現行の刑事訴訟法が、伝聞法則を徹底していないために、密室での取調べによって作成された自白調書の任意性・信用性をめぐって、刑事裁判の長期化が生じている。\n
 このような弊害を排除するためには、伝聞証拠の排除を徹底する必要があり、また自白偏重・自白強要を排し捜査を適正化するためには、その過程を容易に検証できるように、取調べの全過程を録画・録音する、いわゆる取調べの可視化が必要不可欠である。
 イギリスでは、17年前から取調べ状況を録音する取調べの可視化が法制化されている。また、国連の規約人権委員会(自由権)は日本政府に対し、代用監獄における被疑者取調について「電気的手段により記録されるべきことを勧告」している。
 現在ではCD、DVD等の記録媒体の急速な進歩により、大量の情報を記録して保存することが可能となっており、そのためのコストも安価なものとなっている。この意味でも取調べ過程の可視化はより実現性の高い制度である。これが実現すれば、取調べ等の適正化、裁判の充実・迅速化に大きく寄与することは明らかである。\n
 また、今国会では「裁判迅速化に関する法律案」が提出されている。さらに、司法制度改革審議会では、市民が刑事裁判に参加する裁判員制度が議論されている。裁判の迅速化の促進は当然であるが、審理の充実が損なわれてはならないこともまた当然である。市民にわかりやすい裁判を迅速かつ充実して行うためには、争点に応じた集中的な審理が求められ、事件の実体判断にこそ、より集中した審理が尽くされるべきであるが、そのためにも、取調べ過程の可視化は不可欠の要請である。

 以上のように、憲法・刑事訴訟法の基本理念である人権の擁護と迅速かつ充実した裁判の実現のためにも、警察官・検察官による取調べの全過程を録画・録音することが制度化されるべきであり、当会はその実現を強く求めるものである。

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