福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

決議

2017年5月26日

少年法の適用対象年齢引下げに反対する決議

【決議の趣旨】

当会は,少年法の適用対象年齢を18歳未満に引き下げることに反対する。

2017年(平成29年)5月24日
福岡県弁護士会

【決議の理由】
1 はじめに

現在,法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会において,少年法の適用対象年齢を18歳未満とすることの是非が議論されている。当会は,すでに2015年6月25日,少年法の適用対象年齢を18歳未満に引き下げることに反対する会長声明を出しているところであるが,法制審議会において審議が開始されるに当たって,改めて本決議をする。

2 現行少年法の理念と少年のおかれている状況

少年法は,非行のある少年に対し,刑罰を科すのではなく,保護処分によって少年の立ち直りや再犯の防止を期すことを目的とする。1948年に制定された現行少年法は,それまで適用対象年齢を18歳未満としていたのを,20歳未満に引き上げたが,その審議過程において説明された理由は,「20歳ぐらいまでの者は,心身の発達が十分でなく,環境その他外部的条件の影響を受けやすいため,その犯罪も深い悪性に根差したものでないので,刑罰よりは保護処分によってその教化をはかるほうが適切である」というものであった。

実際,私たち弁護士が付添人として接する少年の多くは,現在においても,家庭で十分な愛情を享受しておらず,むしろ虐待を受けて育っている少年も珍しくない。

学校や社会においても,十分な指導,教育を受けることができないまま育っている少年も多く,例えば,家庭の事情で中学校卒業後に就労したり,高等学校に進学したとしても早期に退学するなどして社会から取り残された子どもたちが多数存在する。このような子どもたちは,就労関係が不安定な場合も多く,経済的にも恵まれていない。

他方で,大学や専門学校への進学率そのものは上がっている。大学や専門学校へ進学することを選択した子どもたちについては,長期間教育を受けられるようになっているが,その結果,以前と比較して,就労して社会に出る時期が遅くなっている。そのため,子どもたちの自立は,経済的にも,あるいは社会的・精神的にも,遅れていると評価されうる状況にある。

このように,現代の子どもたちは,現行少年法制定当時の子どもたちと比較して,精神的,経済的,社会的自立が進んでいるわけではなく,大人,社会からの支援の必要性はむしろ増している。

したがって,国は,少年法の理念に則り,子どもの成長発達を手助けする義務と責任を負っていることを,まずもって正しく認識する必要がある。

3 少年審判の機能と適用対象年齢引下げによる影響

(1) 刑事事件においては,行った犯罪そのものに着目し,犯行の動機や犯行態様,結果の重大性などのいわゆる『犯情』をベースにして刑の重さが決められるのに対して,少年審判においては,少年法が非行(犯罪)の処罰ではなく,少年の更生や立ち直りを目的とするため,非行そのものよりも,非行の原因となる少年の資質や家族関係や友人関係等を含む環境面の問題性に着目して,保護処分の有無やその種類が決められる。

このように,少年審判における保護処分の判断のベースとなる少年の資質や環境面の問題性のことを,「要保護性」と呼んでいるが,捜査機関による非行事実そのものの捜査では,要保護性について十分な調査ができないため,現行少年法の下では,20歳未満の非行を犯した少年は,すべて家庭裁判所に送致され,少年の要保護性に応じた処分を決めるため,家庭裁判所調査官が心理学,社会学,教育学などの専門的知見を活かして少年の資質や生活環境などを調査する。また,少年鑑別所において専門的知見に基づき心身鑑別を行う場合もある。さらに,弁護士も,付添人として,少年の権利を擁護しつつ,少年が再非行を行うことがないように,少年の反省を深めたり,親や学校などとの関係を調整したり,時には就職先をあっせんするなどの環境調整活動を行う。

そのうえで,裁判官は,少年の立ち直り,再非行の防止のために必要な保護処分を決定する。少年院に送致されたり,保護観察処分を受けた少年たちは,それぞれの機関で,更生に向けて,家庭裁判所における審理段階で明らかとなった少年の要保護性に応じた教育を受けることになる。

私たち弁護士は,このように,少年審判手続の中で関係機関が少年法の理念に基づいた努力をし,個々の少年の要保護性を判断した上で少年の立ち直りのために必要な処分が決められることにより,多くの少年が立ち直ることができていることや,その結果として,犯罪の少ない安全な社会を維持することに寄与していることを,その職務において最もよく知っているものである。

(2) 仮に少年法の適用対象年齢が18歳未満に引き下げられた場合,18歳,19歳の少年に対しては要保護性に沿った適切な再非行防止のための措置がなされないこととなる。具体的には,特に非行自体が軽微なものである場合,その背景にある少年の資質や能力,家庭環境等の問題が見落とされ,何ら問題点が解消されないまま起訴猶予や罰金で事件が終了してしまいかねない。こうした事態を,私たちは強く危惧する。

さらに,軽微とは言えない非行でも,相当数の事件においては執行猶予の判決となる可能性が高いが,そうなれば,こうした少年たちは更生のための教育を受けないままとなってしまう。事案によっては,最初から実刑判決により刑務所に収容される場合も想定されるが,その場合も,少年院で行なわれているような,きめ細かい,個々の少年の問題の解消に向けた指導・教育は行われることなく,場合によっては高齢者と同じ処遇を受けることになる。

こうした処遇が,当該18歳,19歳の少年の立ち直りに有益とは到底思われない。その結果,犯罪者を増加させ,社会の安全に危険を招来させることになりかねない。

4 若年者に対する処遇充実との関係

上記法制審議会では,少年法の適用対象年齢引下げにより,現在少年の改善更生のために機能している現行法制下における少年の処遇が受けられなくなることの懸念に対応するために,18歳,19歳の者を含む若年者などを対象として,有効なアセスメントを行い,教育的な配慮を重視した処遇の充実を図ることについて議論される見込みであるという。

しかしながら,更生可能性が高い若年成人に対する処遇を充実させることと少年法の適用対象年齢を引き下げることは別の問題として議論すべきである。つまり,少年法の適用対象年齢は現行法のまま20歳未満とし,20歳以上の若年成人に対しては必要があれば法を整備し,若年成人の立ち直りと再犯防止のための処遇を実施すればよいだけのことである(ただし,それが保安処分につながるものであってはならないことは当然である)。

また,若年者の処遇を充実させるといっても,現行少年法の下で有効に機能している調査官制度や鑑別制度を全面的に流用したり,類似の制度を整備することはおよそ考え難い。

したがって,若年者の処遇が充実されることを前提としても,それによって適用対象年齢を引き下げてよいことにはならない。

5 その他の適用対象年齢引下げの根拠について

(1) 世論調査などでは,少年法の適用対象年齢の引下げに賛成する回答が多い。しかし,この背景には,少年犯罪が増加・凶悪化しているという誤った認識があると考えられる。

まず,統計上,20歳未満の者の減少を考慮しても,少年が犯罪に及ぶ率は著しく減少しており,例えば,少年人口当たりの一般刑法犯の発生数は,1983年から2014年までの間に3分の1程度に減少している。また,少年人口当たりの殺人件数(未遂を含む)については,1961年から2014年までの間に約4分の1に減少している。

こうした実情に照らせば,「少年犯罪の増加や凶悪化」を理由として少年法の適用対象年齢を引き下げるべきであるとの見解は誤りであるというべきである。

(2) 「大人」として扱われることとなる年齢は各法律で一致するほうが国民にとってわかりやすいとして,適用対象年齢引下げに賛成する考えもある。

しかし,各法律において「大人」と「子ども」を区別して扱う目的は異なっているのであるから,何歳から「大人」として扱うのかは,法律ごとに,その立法趣旨や目的に照らして個別具体的に検討すべきであって,少年法の適用対象年齢を選挙権年齢や民法の成人年齢と連動させなければならないわけではない。

むしろ「分かりやすさ」のために,少年に対する立ち直りの機会を奪い,社会の安全を蔑ろにすることの方が社会にとってマイナスである。

次に,罪を犯した18歳,19歳の者につき,保護処分に付するなど他の成人と異なる取り扱いをすることについては,国民の寛容を期待できず,国民の健全な法意識に反するとの意見もある。

しかし,18歳以上の少年が重大事件を犯せば,現行制度の下でも死刑を含む重い刑に処せられる場合がある。また,前述のとおり,保護処分は少年の要保護性に基づいて決定されるため,例えば,成人であれば起訴猶予で終わったり,罰金で済むような事案であったとしても,少年の場合には,要保護性が高ければ,約1年に及ぶ身体拘束を伴う少年院送致決定がなされることも少なくはなく,少年法の適用を受けることで,むしろ身柄拘束を伴う処分を受けるという面では,少年に厳しいという側面もある。少年法が再犯予防のために有効に機能していることも合わせて考えれば,18歳,19歳の者を少年法の適用対象として維持することが国民の健全な法意識に反するとは言えない。

6 結語~理由のまとめと今後の当会の取り組み

以上のとおり,少年法の適用対象年齢を引き下げる合理的な理由はなく,むしろ,引下げにより,少年の更生の機会が奪われる結果として,非行や犯罪が増加することが懸念される。

当会は,2001年,全国に先駆け,観護措置決定を受けたすべての少年が弁護士付添人の援助を受けられる制度(全件付添人制度)を開始し,少年の更生のために力を注いできた。そして,現行の少年法の下で,18歳,19歳の少年であっても十分な可塑性を有しており,保護者を含め,関係者の働きかけにより十分更生できることを実践の中で経験している。

したがって,当会は,今後も18歳,19歳の少年を含む少年たちの立ち直りのための付添人活動に全力で取り組むとともに,18歳,19歳の少年の立ち直りの機会が奪われることがないように,シンポジウムを開催するなどして,少年犯罪の現状,少年法に基づく手続とその効果などを広く社会に知らせる活動を行い,断固として少年法適用対象年齢の引下げに反対し,これを阻止する活動に全力を尽くしていく所存である。

以上のとおり,決議する。

以 上

        

2016年5月25日

憲法違反の安保法制の廃止ならびに運用停止を求める決議

当会は,憲法違反の安保法制を国会において直ちに廃止し,それまで同法制の運用を行わないことを求める。

2016年(平成28年)5月25日

福岡県弁護士会

決議の理由

1 安保法制の施行

「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律」(平和安全法制整備法)及び「国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律」(国際平和支援法)(以下併せて「安保法制」という。)は,2015年7月16日に衆議院本会議で,また同年9月19日に参議院本会議でそれぞれ可決され,本年3月29日施行された。

当会は,安保法制が憲法違反であること,立憲主義に違背していることについて,これまでも繰り返し指摘してきたところである(「集団的自衛権の行使等を容認する閣議決定およびこれを具体化する法改正等に反対する決議」(2015年5月27日),「憲法違反の安保法制法案等の衆議院強行採決に抗議する会長声明」(同年7月16日),「憲法違反の安保法制法案の参議院における採決強行に抗議する会長声明」(同年9月19日)。)。

そして,当会のみならず,日本弁護士連合会,全国全ての単位弁護士会,九州弁護士会連合会ほか全国全てのブロック弁護士会連合会が同様に憲法違反の指摘をして安保法制の成立に反対してきた。

こうした反対の声は,国民の各界各層からも出され,とりわけ多数の憲法学者(2015年6月4日の衆議院憲法審査会では,与党推薦含む3名の憲法学者全員が安保法制につき憲法違反であると明言した。),歴代の内閣法制局長官,元長官を含む元最高裁判所判事らも憲法違反であるとの見解を表明してきた。

しかし,政府はこうした多くの国民世論や憲法専門家らの指摘を顧みることなく,安保法制を強行的に成立させ施行させたが,以下に述べるとおり,安保法制は憲法違反であり,立憲主義に違背することは明らかである。

したがって,安保法制は国会において直ちに廃止されるべきであり,また,廃止される以前においても,その運用が行われてはならない。

2 憲法違反である

わが国憲法は,かつての侵略戦争によって国の内外におびただしい数の犠牲者と深刻な人権侵害をもたらしたことに対する痛切な反省の下,前文で「われらは,全世界の国民が,ひとしく恐怖と欠乏から免かれ,平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」として平和的生存権を規定し,第9条1項で「日本国民は,正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し,国権の発動たる戦争と,武力による威嚇又は武力の行使は,国際紛争を解決する手段としては,永久にこれを放棄する。」として戦争の放棄を規定し,同条2項で「前項の目的を達するため,陸海空軍その他の戦力は,これを保持しない。国の交戦権は,これを認めない。」として戦力の不保持と交戦権の否認をそれぞれ規定した。

また,前文では,日本国民は「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し」「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して,われらの安全と生存を保持しようと決意した」として,非軍事の徹底した恒久平和主義を基本原理として定めた。

一方,冷戦構造の下,1954年に発足した自衛隊は,歴代内閣において,「自衛のための必要最小限度の実力」であって,「戦力(第9条2項)」にはあたらないから憲法9条2項に違反するものではないとされてきた。

仮に,自衛隊について,歴代内閣と同じ解釈に立つとしても,歴代内閣がこれまでも表明してきたとおり,自衛隊は「自衛のための必要最小限度の実力」にすぎないから,①武力行使を目的として他国領土への派遣(海外派兵)はできず,②自衛隊が武力行使を目的としていなくとも,他国軍の武力行使と一体化した活動はできず,③当然,自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を,自国が直接攻撃されていないにもかかわらず,実力をもって阻止する権利である集団的自衛権の行使も許されない(1981年5月29日政府答弁書)。

しかしながら,安保法制は,かような制約を超えて,①現に戦闘が行われている地域でなければ,戦闘地域であっても自衛隊が当該地域に赴いて他国軍の後方支援を行うことができるとして,自衛隊派遣の地理的場所的制約を外し,②当該後方支援の内容も,他国軍に対する弾薬の提供や発進準備中の爆撃機の給油等,いわゆる兵站活動にまで及ぶことを想定している。③さらには,国連PKOはもとより,いわゆる多国籍軍が行う治安維持活動(ISAF等)などにも,武器を携行した自衛隊を派遣し,自己防衛でなく任務遂行のための武器使用も許されるとした。そして,④一定の要件の下に,歴代内閣が戦後一貫して禁じてきた集団的自衛権の行使にまで踏み込んで自衛隊の活動範囲を拡げたのである。

こうした自衛隊の活動は,もはや「戦力」にあたらない「自衛のための必要最小限度の実力」行使をはるかに超え,他国軍の武力行使と一体化する危険を伴う活動であることは明らかであって,憲法第9条に明白に違反するといわなければならない。

3 立憲主義違背である

立憲主義は,すべての国家権力の行使は,憲法に基づき,憲法に拘束されて,憲法の枠内で行われなければならないとする。

したがって,国家権力が勝手に憲法を変えたり,憲法を恣意的に解釈して憲法の本来もつ意味を変えることは許されず,憲法の変更は,憲法所定の改正手続き(憲法96条)によらなければならない。これは,憲法によって個人の自由・権利(個人の尊重)を確保するために,国家権力を制約することを目的とする,近代憲法の基本理念であり,日本国憲法の根本理念である。

すなわち,わが国憲法は,「すべて国民は,個人として尊重される」(13条)という最大の目標を実現するために,「最高法規」の章(第10章)で,憲法の最高法規性を定め(98条),その目的である基本的人権の永久・不可侵性を再確認するとともに(97条),その実現のために,国家権力の行使を担う公務員に国民の基本的人権を侵害しないよう,ことさら憲法尊重擁護義務を課した(99条)。

とりわけ,法律の制定・改廃や閣議決定の主体である国会議員ならびに国務大臣は,憲法を尊重擁護すべき義務を負っており,ましてや憲法の内容を,正規の改正手続に拠らず,法律の制定や,閣議決定による憲法解釈の変更によって改変するがごときは,かかる義務に正面から反するものであって許されないものである。

ところが,歴代内閣が戦後長きにわたって憲法上許されないとしてきた集団的自衛権の行使はもとより,他国の武力行使との一体化が避けられない戦闘地域における後方支援等,明らかに憲法違反の内容を含む安保法制を,憲法改正の手続もとらずに,強行的に成立させ,憲法第9条を実質的に改変するという暴挙に及ぶことは,立憲主義に真っ向から違背するものであって許されるものではない。

4 安保法制は廃止以前においても運用が行われてはならない

以上のとおり,憲法違反の安保法制は国会において直ちに廃止されなければならないものであるが,廃止以前においても運用が行われてはならないことは立憲主義の要請から当然のことである。

とりわけ,2011年11月以降,陸上自衛隊が南スーダンに派遣されているところ,政府は今後,安保法制に基づいて「駆け付け警護」任務を発令することを検討している。ところが2013年末以降,南スーダンは内戦状態に陥っているとされ,南スーダン政府軍と国連軍が紛争当事者となって戦闘行為が行われている状態にある。そうした中で,自衛隊に「駆け付け警護」任務が発令されれば,自衛隊が武力紛争に巻き込まれ,任務遂行を目的とした武器使用を行うことになれば,それ自体,他国軍の武力行使と一体化した活動に陥ることは必至である。

また,安保法制は自衛隊法95条の2を新設し,自衛隊の「防護」対象として,米軍を加えたが,これによって自衛隊が日常不断から米軍空母や戦闘機なども含めて防護することが任務とされた。このことは米軍に対する偶発的な攻撃を機に,自衛隊が戦闘行為に巻き込まれる危険性を高め,ひいては米軍の武力行使と一体化した活動に陥ることは必至であり,それがひいては集団的自衛権の発動に繋がる危険もあるといわなければならない。

このように,安保法制そのものの違憲性もさることながら,集団的自衛権の発動等の違憲状態が即座に引き起こされる切迫した状況にあることに鑑みれば,安保法制は直ちにその運用が停止されなければならないものである。

5 結論

以上のとおりであるから,当会は,憲法違反の安保法制について,国会に対し,同法制を直ちに廃止すること,内閣に対し,同法制の廃止に至るまで,その運用を行わないことを強く求める。

2014年5月29日

司法修習費用の給費制復活を強く求める決議

福岡県弁護士会は、政府、国会及び最高裁判所に対し、司法修習費用の貸与制を即時廃止し、給費制を復活させることと、新第65期、第66期、第67期の各司法修習生に対して遡及的に適切な救済措置をとることを強く求める。
当会は、日本弁護士連合会、全国の弁護士会並びに市民及び各種団体と連携し、今後とも給費制を復活させる活動を強力に推進していく。


                  2014年(平成26年)5月28日
                  福岡県弁護士会

提 案 理 由

1 貸与制の問題点
(1)司法修習生の経済的苦境
  2012年(平成24年)に日本弁護士連合会が第65期司法修習生(以下、司法修習生を「修習生」という。)を対象として実施したアンケートでは、28.2%の修習生が司法修習を辞退することを考えたと回答し、その理由に貸与制をあげた者が86.1%にも上った。翌年実施の第66期修習生に対する修習実態アンケートにおいても18.9%もの修習生が司法修習を辞退しようと考えたことがあると回答しており、その理由としては、貸与制に移行したことによる経済的な不安が最も多かった(68.9%)。
 (2)法科大学院志願者及び法学部進学者の激減
法科大学院で学ぶにも学費・生活費等の負担があり、司法試験を突破してからも、経済的な不安がつきまとうような状況では、もはや有為な人材は法曹を目指さないということになりかねず、また法曹を目指す者としても富裕層に偏るのではないかとも危惧される。
実際、2004年度(平成16年度)に7万人を超えていた法科大学院の志願者数は、2013年(平成25年)には13,924人にまで激減した(なお、同年度の法科大学院適性試験志願者数は、わずか5,377人に過ぎない)。入学定員を割った法科大学院は9割を超え、学生の法科大学院離れの傾向は顕著である。さらには、この数年、法学部への進学者自体も大幅に減少している実情がある。
2013年(平成25年)12月の一括登録時点における弁護士未登録者数は584人と過去最多を記録した。かかる深刻な就職難とあいまって、過重な経済的負担が実務法曹としての将来、そして進路を考える若者らに大きな影を落としている。
このままでは、有為な人材の確保を困難にし、将来の司法ひいては法の支配を著しく弱体化させることになりかねない。
(3)「国民の社会生活上の医師」としての法曹・弁護士
  終戦直後の国家財政が破たんした状況下で、昭和22年、統一修習制度・給費制がスタートし、今また国家の財政状況が逼迫する中、後述のように多くの市民が法曹養成を国の責務と考え給費の実現を求めている。それは、市民が法曹、なかんずく弁護士に「社会生活上の医師」としての役割を期待しているからに他ならない。
 当番弁護士制度の構築、市民相談の要となる法律相談センター事業の拡充、過疎地における公設事務所の開設など、弁護士・弁護士会による各種の公益活動は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士の公共性・公益性を具体的な形として結実させたものである。また、個々の弁護士は、使命感をもって、人権救済、虐待防止、消費者保護、犯罪被害者支援等の活動に無償で取り組んでいる。
法曹志望者の激減は、これら役割を担う人材の確保を困難にし、市民の権利擁護を弱体化させることにつながっていく。

2 法曹養成制度検討会議の取りまとめや閣僚会議決定の問題
  このような状況の中、2013年(平成25年)6月の法曹養成制度検討会議の取りまとめを受けた「法曹養成制度改革の推進について」(同年7月16日法曹養成制度関係閣僚会議決定)を踏まえ、同年9月17日、法曹養成制度の改革を担うため、法曹養成制度改革推進会議(以下「推進会議」という。)が設置され、新たな検討体制がスタートした。
  ところが、修習生に対する経済的支援のあり方に関する法曹養成制度検討会議の取りまとめや閣僚会議決定は、あくまでも貸与制を前提としており、かつ、「必要があれば」修習生の地位及びこれに関連する措置の在り方や兼業許可基準のさらなる緩和の要否について検討することが考えられるとするにとどまっている。
  法的知識のみならず、倫理観や高度の職業意識を1年間の修習期間で涵養するためには、修習に専念しなければならず、修習生には修習専念義務が課されている。しかしながら、「給費が出せないから休日等のアルバイトで補うように」との兼業許可の緩和は、修習の充実に逆行するものであり、本末転倒というべきである。
  なお、司法試験合格者の数を3,000人に到達するまで増やすとする閣議決定は撤廃され、今後合格者数は抑制される状況にあり、給費制を復活しても、修習生の手当予算は、合格者を3,000人とした場合に比して大幅に少ない額で済むことが容易に予測される。
給費制廃止の最大の根拠であった大幅な予算増大という立法事実も既に消滅に向かっている。

3 給費復活を求める市民の声
  貸与制の下での修習が3期目に入った現在、給費制廃止による弊害の深刻さが次第に明らかとなり、弊害を憂慮する声もあがるようになってきた。2013年(平成25年)4月から5月にかけて募集された、給費制の復活を含めた修習生に対する経済的支援の必要性に関するパブリックコメントでは、全3,119通のうち法曹養成課程における経済的支援に関するものが2,421通にのぼり、そのほとんどが給費制を復活させるべきというものであった。さらには、2014年(平成26年)2月28日時点で、日本医師会、日本公認会計士協会、日本青年会議所など1,442の各種団体から、修習生に対する給費の実現と充実した司法修習を求める旨の署名が寄せられた。このように、多くの市民が、国が責任をもって社会のインフラたる法曹を養成することを求めている。国はこの要請に真摯に応えなければならない。

4 福岡県弁護士会の取り組みと使命
  福岡県弁護士会(以下「当会」という。)は、司法修習における給費制の役割の重要性とその廃止に伴う弊害の大きさに鑑み、2010年(平成22年)5月25日付「司法修習生の修習資金給費制の維持を求める緊急決議」をはじめとして、給費制の維持・復活を強く求め続けてきた。
  また、当会では、給費制の維持・復活についてのシンポジウムや市民集会の開催、請願署名活動などを実施し、多くの市民の方々に給費制廃止のもたらす影響、弊害について考えていただくべく精力的な活動を行ってきた。特に2010年(平成22年)の請願署名は、当会集約分だけで8万筆を遙かに超え、給費制廃止一年延期の原動力となったと確信している。さらには、修習生との座談会やアンケートなどを通じて修習生の生の声を拾うとともに、議員要請等を通じてその声を伝えてきた。これらの甲斐あって、立法関係者の理解と支援の輪は確実に広がっている。
  給費制復活の声を、改めて政府、国会及び最高裁判所に届けることは、当会の使命である。
  よって、冒頭のとおり決議する。

集団的自衛権の行使を可能とする 内閣の憲法解釈変更に反対する決議

 福岡県弁護士会は、日本国憲法の拠って立つ恒久平和主義と立憲主義を堅持する立場から、内閣が従来積み重ねてきた集団的自衛権に関する憲法解釈を変更し、その行使を可能とすることに反対する。

                  2014年(平成26年)5月28日
                  福岡県弁護士会


【決議の理由】
第1 集団的自衛権を行使可能としようとする最近の動き
 近時、憲法解釈の変更によって集団的自衛権の行使を可能としようとする動きが強まっている。
 集団的自衛権とは、政府解釈によれば、「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利」である。
 安倍晋三内閣総理大臣は、2014年(平成26年)1月24日、国会での施政方針演説で「集団的自衛権や集団安全保障などについては、『安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会』の報告を踏まえ、対応を検討してまいります。」と述べ、集団的自衛権の行使を可能とすべく憲法解釈を変更する姿勢を打ち出した。
 また、安倍首相は、2月12日の衆議院予算委員会で、「最高の責任者は私です。政府の答弁に私が責任を持って、その上で選挙で国民から審判を受けるんです。」と答弁し、事後に国政選挙で審判を受けることから一内閣の責任で憲法解釈を変更することができるとの認識を示した。
 さらに、安倍首相は、2月20日の衆議院予算委員会で、「基本的には閣議決定していくことになる。」、「閣議決定した内容を国会に示し、議論してもらう。」と答弁し、この答弁後に論調を変えはしたが、国会での議論を待たずに閣議決定で憲法解釈変更を行う考えを示した。
 自由民主党の高村正彦副総裁は、1959年(昭和34年)12月16日の砂川事件最高裁大法廷判決を根拠に、「国の存立を全うするための必要最小限の集団的自衛権」に限定すれば、集団的自衛権の行使が憲法上許されるとの見解を示し、報道によれば、同党内でこの見解に対する支持が広がっている。
 そして、安倍首相は、本年5月15日、「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」の報告書提出を受けた記者会見で、「限定的に集団的自衛権を行使することは許されるとの考え方」につきさらに研究を進める旨、「与党協議の結果に基づき、憲法解釈の変更が必要と判断されれば、この点を含めて改正すべき法制の基本的方向を」「閣議決定」する旨を述べ、集団的自衛権を行使可能とすべく閣議決定により憲法解釈を変更しようとする方針を鮮明にした。
第2 日本国憲法第9条の規定
 日本国憲法は前文で「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」として平和的生存権を認め、第9条第1項で「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」と、同条第2項で「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」として戦力の不保持と交戦権の否認を定めている。
 これは、第2次世界大戦において国内外に甚大な人権侵害を惹き起こしたことから、「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにする」との「決意」(憲法前文)に基づき、非軍事の徹底した恒久平和主義を掲げたものである。 憲法第9条は、制定以来、内外の政治状況との緊張関係にさらされつつも、「平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」(憲法前文)我が国が平和な国際関係を築くべき指針を示す憲法規範として、有効に機能してきた。自衛隊の諸活動に対する制約となり、海外における武力行使を禁止してきたのは、その機能、あるいはこれによる具体的成果である。
 このような日本国憲法の平和主義は、世界平和のための先駆的意義を有するものとして、近時あらためて高く評価されており、例えば1999年(平成11年)のハーグ平和アピール世界市民会議で採択された「公正な世界秩序のための基本10原則」の第1には日本国憲法第9条が掲げられ、本年には第9条がノーベル平和賞の候補ともされている。
 自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、他国への武力攻撃を実力をもって阻止する集団的自衛権は、憲法第9条が禁ずる武力の行使にあたり、非軍事の徹底した恒久平和主義に反するものであって、許されない。
第3 集団的自衛権に関する政府解釈
 政府も、従来から一貫して、集団的自衛権の行使は憲法第9条により禁じられていると解釈している。
 すなわち、まず、憲法第9条の下で自衛権の発動が許容されるのは、次の要件に該当する場合に限定されると解釈している(1969年(昭和44年)3月10日参議院予算委員会・高辻正己内閣法制局長官答弁、1972年(昭和47年)10月14日参議院決算委員会提出資料、1985年(昭和60年)9月27日政府答弁書)。
 すなわち、①我が国に対する急迫不正の侵害(武力攻撃)が存在すること、②この攻撃を排除するため他の適当な手段がないこと、③自衛権行使の方法が必要最小限度の実力行使にとどまること、である。
 そして、これを前提として、政府は、1981年(昭和56年)5月29日の政府答弁書において、集団的自衛権を「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもつて阻止する権利」と定義したうえで、「我が国が、国際法上、このような集団的自衛権を有していることは、主権国家である以上当然であるが、憲法第9条の下において許容されている自衛権の行使は、我が国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものであると解しており、集団的自衛権を行使することはその範囲を超えるものであつて、憲法上許されない」旨の見解を表明した。同答弁書では併せて、「なお、我が国は、自衛権の行使に当たっては我が国を防衛するため必要最小限度の実力を行使することを旨としているのであるから、集団的自衛権の行使が憲法上許されないことによって不利益が生じるというようなものではない。」とも述べられている。
 したがって、外国が他国から武力攻撃を受けた場合に、自衛隊が集団的自衛権を行使してその武力攻撃を阻止することは、たとえ被攻撃国が日本と密接な関係にあっても、憲法に違反して許されない。これが政府の一貫した憲法解釈であり、これはその後長きにわたって維持されてきた。
 加えて政府は、憲法解釈の変更による集団的自衛権行使の可否について、「集団的自衛権の行使を憲法上認めたいという考え方があり、それを明確にしたいということであれば、憲法改正という手段を当然とらざるを得ない」(1983年(昭和58年)2月22日衆議院予算委員会・角田禮次郎内閣法制局長官答弁)、「(政府の憲法解釈は)それぞれ論理的な追求の結果として示されてきたもの」であり、そのうえで「政府がその政策のために従来の憲法解釈を基本的に変更するということは、政府の憲法解釈の権威を著しく失墜させますし、ひいては内閣自体に対する国民の信頼を著しく損なうおそれもある、憲法を頂点とする法秩序の維持という観点から見ましても問題がある」(1996年(平成8年)2月27日衆議院予算委員会・大森政輔内閣法制局長官答弁)、「憲法は我が国の法秩序の根幹であり、特に憲法第9条については過去50年余にわたる国会での議論の積み重ねがあるので、その解釈の変更については十分に慎重でなければならない」(2001年(平成13年)5月8日の政府答弁書)と答弁するなど、一貫して否定的な姿勢を保っている。
第4 憲法解釈を変更して集団的自衛権を行使可能とすることに反対する
 上記のとおり、集団的自衛権の行使は憲法第9条によって禁止されているのであり、政府解釈もそのとおりに堅持されてきた。
 この行使を可能とすることは、憲法第9条に違反する。
 それにもかかわらず集団的自衛権の行使を可能とすることは、政府解釈の変更によって実質的に憲法を改正したのと同様の効果を得ようとするものである。
 憲法は、多数の民意によって成立した政府であっても権力を濫用して人権を侵害する危険があるという歴史的教訓に鑑み、権力を縛るために立憲主義の原理を採用しており、かかる考慮から憲法改正にも厳格な手続を定めている(憲法第96条、第97条、第98条等)。時の政府が自らの都合のよいように解釈を変更して憲法の規範内容を変更することは、このような立憲主義に反するものであり、決して許されない。このように、解釈変更により実質的に憲法を改正したのと同様の効果を得るのが解釈改憲であるが、解釈改憲という手法自体が立憲主義に反し許されないのである。
 さらにまた、このような解釈の変更は、国務大臣の憲法尊重擁護義務(憲法99条)にも違反する。
 憲法前文と第9条が規定している恒久平和主義は、基本的人権の尊重、三権分立と並ぶ憲法の基本原理である。基本原理についての解釈変更によりその規範内容を変更しようとするのは、立憲主義を踏みにじる暴挙であり、断じて許されない。
 砂川事件最高裁大法廷判決についてみれば、同判決は、日米安保条約による駐留米軍の「戦力」(憲法第9条第2項)適合性と米軍駐留の司法審査適合性について判示したものであって集団的自衛権の許否が判断対象とされたものではなく、集団的自衛権を行使可能と解釈するために同判決を論拠となしうるとする見解には明らかに無理がある。「国の存立を全うするための必要最小限の集団的自衛権」に限定するとの論も、そもそも「国の存立を全うするために必要最小限」でなければ自衛権とは呼べないのであるから、何らの限定ともならない。集団的自衛権の行使は、従来の政府解釈のとおり、「我が国を防衛するため必要最小限度の範囲を超えるものであって、憲法上許されない」のであり、「必要最小限に限定」するのであれば、自ずと集団的自衛権の行使は許されないこととなるのである。
 よって、当会は、憲法の基本原理としての恒久平和主義を尊重し、立憲主義を堅持する立場から、憲法第9条によって禁じられている集団的自衛権の行使を内閣が従来の解釈を変更して可能とすることに断固として反対するものである。

                                  以上

2012年5月23日

観護措置決定を受けたすべての少年に対して国選付添人を選任することを求める決議


観護措置決定を受けたすべての少年に対して国選付添人を選任することを求める決議


 弁護士付添人は、少年審判手続において、非行事実の認定や保護処分の必要性の判断が適正に行われるよう、事案に応じて非行事実を争い、少年の反省を促し、さらには少年を取り巻く環境を調整するなどの活動を行う。こうした弁護士付添人の活動は、少年の更生を図るという少年法の理念を実現するうえで不可欠である。
 しかし、2010年(平成22年)における弁護士付添人の選任率は、観護措置決定を受け身体拘束されている全少年の約62%に止まっている。これは、身体拘束されている成人被告人のほぼ全員に弁護人が選任されていることと比較しても極めて低い選任率であり、少年に対する法的援助が不足していることは明らかである。
 このように弁護士付添人の選任率が低い背景には、2007年(平成19年)に導入された国選付添人制度の対象事件が一定の重大事件(故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪及び死刑又は無期若しくは短期2年以上の懲役もしくは禁錮に当たる罪)に限定されているうえ、家庭裁判所が必要と認めることが選任の条件とされているという事情がある。
 しかも、2009年(平成21年)5月以降、被疑者国選弁護制度の対象事件がいわゆる必要的弁護事件にまで拡大されたにも拘わらず、未だ国選付添人制度の対象事件が一定の重大犯罪に限定されているために、被疑者段階では国選弁護人が選任されていた少年に、家庭裁判所送致後は弁護士が選任されなくなるといった極めて理不尽な事態も生じている。かかる事態は法の不備以外の何物でもない。
 これまで日弁連は、少年に対する法的援助の不足を補うべく、弁護士自らが費用を出し合う付添援助制度によって、一人でも多くの少年に弁護士付添人が選任されるよう努力してきた。
 しかしながら、少年を含む全ての子どもが将来の社会の担い手である以上、その少年の冤罪を防ぎ、適正な手続のもと適正な保護処分に付すことによって少年の更生を支援することは、国の責務である。
 また、子どもの権利条約第37条(d)は、「自由を奪われたすべての児童は、弁護人その他適切な援助を行う者と速やかに接触する権利を有」するとし、同条約第40条2項(b)は「刑法を犯したと申し立てられたすべての児童」には、「防御の準備及び申立てにおいて弁護人その他適当な援助を行う者を持つこと」が保障されると謳っているところ、同条約を批准した国には、少年が弁護士付添人の援助を受ける権利を実質化する責務がある。
 そこで、当会は、少年が家庭裁判所に送致され、観護措置決定を受けて身体拘束を受けている事案については、すべて国選付添人が選任される制度、すなわち全面的国選付添人制度を早急に実現することを強く求めるものである。
 以上のとおり決議する。

                         2012(平成24)年5月23日
     
                           福 岡 県 弁 護 士 会
                             会長  古 賀 和 孝
 


 決議の理由

1 当会は、2010年(平成22年)5月25日の定期総会において、「国選付添人選任の対象を観護措置決定を受けた少年すべてに拡大することを求める決議」を行った。
  本年、あらためて決議を行うものであるが、以下で、決議の趣旨についての理由と共に、この時期に再度決議する理由を述べる。

2 弁護士は、非行をおこした少年に対する少年審判手続において、非行事実の認定や保護処分の必要性の判断が適正に行われるため、少年の立場から手続に関与し、少年の権利を守り、かつ、少年の更生を支援する付添人活動を行ってきた。
  具体的には、少年を冤罪から守るべく非行事実を争ったり、被害者と面談するなどして、被害回復のための措置を講じたり、被害実態を少年に伝える等して少年の反省を促したり、さらには家庭や学校、職場等に働きかけて少年を取り巻く環境を調整するなどの付添人活動を行ってきた。
少年審判を受ける少年の多くは、成育歴や家庭環境に大きな問題を抱え、居場所がなく、信頼できる大人に出会えないまま非行に至っている。そうした背景事情に目を向けながら少年を受容し、理解した上で、少年との間に信頼関係を築きつつ、どこまでも少年のパートナーという立場で、少年の更生を支援するという活動は、弁護士付添人にしか出来ない活動である。

3 そうした付添人活動を通じて、弁護士は、実際に多くの少年が成長し、更生していく姿を目にしてきた。そして、この活動は、地域から非行を減らし、確実に地域・社会の安全につながっていくものである。
そして、少年事件の背景事情に目を向ければ、重大事件に限らず、窃盗事件や傷害事件、さらにはぐ犯事件を含む全ての事件について、少なくとも観護措置決定を受け、身体拘束を受けている少年に対しては、弁護士付添人の支援が不可欠であることを実感してきた。
  そうであるからこそ、当会は、2001年(平成13年)2月に、少年が希望する限り、対象事件を問わず、観護措置決定を受け、少年鑑別所に送致されたすべての少年に弁護士付添人を選任するという「全件付添人制度」を発足させ、今日までその制度を発展・存続させてきた。
  そして、この全件付添人制度は、全国に広がり、すべての弁護士会において「当番弁護士制度」として定着してきた。

4 こうした弁護士の活動もあって、2007年(平成19年)には、国選付添人制度が発足した。
  しかしながら、この国選付添人制度は、対象事件が一定の重大事件(故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪及び死刑又は無期若しくは短期2年以上の懲役もしくは禁錮に当たる罪)に限定されているうえ、家庭裁判所が必要と認めた場合にしか付されないという制度に止まっている。
  前述のように、弁護士付添人が少年の権利を守り、少年の更生を図るうえで不可欠であることは、重大事件に限ってのことではない。とりわけ観護措置決定を受け、重大な処分が予想される事件においては、弁護士付添人の支援が不可欠である。
そうであるにも拘わらず、国選付添人制度における対象事件が限定されているため、2010年(平成22年)における国選付添人の選任率は、観護措置決定を受けた全少年のわずか4.7%に止まり、国選付添人以外の付添人を含めた弁護士付添人選任率も、観護措置決定を受けた全少年の約62%に止まっている。
これは、身体拘束されている成人被告人のほぼ全員に弁護人が選任されていることと比較しても極めて低い選任率であり、少年に対する法的援助が不足していることは明らかである。

5 一方、2009年(平成21年)5月21日以降、被疑者国選弁護制度の対象事件がいわゆる必要的弁護事件にまで拡大されたため、窃盗や傷害等を犯した少年も、被疑者段階では国選弁護人を選任することができるようになった。
しかし、国選付添人制度の対象事件が一定の重大犯罪に限定されているために、家庭裁判所に送致されると同時に、その少年には弁護士が関与しなくなるといった事態が生じている。
そもそも、被疑者段階での弁護活動は、起訴されるべきでない被疑者を起訴させないための活動のみならず、起訴後の将来の裁判(審判)を見据えた活動をも含むものであって、起訴(家庭裁判所送致)後の活動と不可分である。
特に、少年事件の場合には、家庭裁判所送致後、原則4週間以内に審判が行われるため、弁護士は、成人の刑事事件に比してより短期間のうちに、将来の審判を見据えて、少年の反省を促したり、被害者と示談に向けた話し合いをしたり、環境調整に取り組む等の活動を行う。
そうであるにも拘わらず、被疑者段階にのみ国選弁護人が選任され、家庭裁判所送致後は弁護士が関与しなくなるという現在の法制度は、あまりにも不合理である。
こうした不合理な事態は早急に解消されるべきである以上、国選付添人制度の対象の拡大は必然である。
この点、日本弁護士連合会(日弁連)は、こうした不合理な事態を回避するため、被疑者段階で国選弁護人が選任されていたケースについては、家裁送致後も、付添援助制度を利用することによって弁護士付添人が選任されるよう尽力してきた。しかし、こうした付添援助制度は、公的資金によって運用されているものではなく、弁護士自らが拠出した資金によって運用されているというのが実情である。
  そもそも少年を含む全ての子どもは将来の社会の担い手である以上、その少年の冤罪を防ぎ、適正な手続のもと適正な保護処分に付すべく、弁護士付添人を選任することは、国の責務のはずである。

6 さらに言えば、被疑者国選弁護制度を拡大した趣旨からしても、国選付添人制度の拡大は必然である。
  すなわち、被疑者国選弁護制度も、当初は、その対象が短期1年以上の重大な事件に限定されていたが、冤罪を防止し被疑者の権利を守る必要性は、重大事件に限らず、窃盗や傷害等のいわゆる必要的弁護事件においても同様であることから、最終的には必要的弁護事件すべてが被疑者国選弁護制度の対象になった。
  こうした趣旨は少年事件においても妥当する以上、国選付添人制度の対象の拡大は必然である。

7 加えて、国際法的観点からみても、国選付添人制度の拡大は当然である。
すなわち、日本が批准した子どもの権利条約は、その第37条(d)において、「自由を奪われたすべての児童は、弁護人その他適切な援助を行う者と速やかに接触する権利を有」するとし、同条約第40条2項(b)において「刑法を犯したと申し立てられたすべての児童」には、「防御の準備及び申立てにおいて弁護人その他適当な援助を行う者を持つこと」が保障されると謳っている。
そうであるとすれば、同条約を批准した国には、少年が弁護士付添人の援助を受ける権利を実質化する責務がある。

8 以上のとおり、非行事実の認定や保護処分の必要性の判断を適正に行い、少年の更生を期すためには、国選付添人制度の対象を、少なくとも観護措置決定を受けたすべての少年とすべきである。

9 このような考えに基づき、冒頭述べたとおり、当会は、2010年(平成22年)5月25日の定期総会において、「国選付添人選任の対象を観護措置決定を受けた少年すべてに拡大することを求める決議」を行った。同様の決議は、ほとんどの弁護士会でも行われている。しかし、未だ、国選付添人制度拡充の実現には至っていない。
  そこで、当会は、決議後も、引き続き国選付添人選任対象の拡大に向けて活動を行ってきた。
すなわち、日弁連は、この2年間に、全国各地でキャラバンやシンポジウムを開催し、国選付添人制度の必要性を市民に訴え続け、その理解は急速に広がっている。当会でも、2010年(平成22年)9月、2012年(平成24年)2月及び3月と広く市民を参加対象としたシンポジウムを開催し、その場に参加された国会議員から賛同の発言を頂いたほか、多数の賛同のメッセージを頂いた。また、全国の弁護士も、国会議員に対する要請行動を行い、2011年(平成23年)10月、2012年(平成24年)3月には院内集会を実施する等してきたところ、その甲斐もあって、国選付添人制度の拡充の必要性は国会議員にも広く認識されるところとなった。
そして、新聞報道等によれば、現在、法務省も、国選付添人制度の対象事件拡大の方向で検討を始めているとのことである。
こうして、当会が2001年(平成13年)2月から取り組んできた全件付添人制度が、ようやく全面的国選付添人制度として実を結ぶ可能性が出てきた。
しかしながら、情勢は決して予断を許す状況でもない。非行に対する社会の目は厳しく、非行少年に弁護士の援助を行うことへの批判的な見方も根深く存在する。今後も、弁護士が少年の権利を守り、少年の更生に寄与する活動をさらに発展・深化させ、そうした実践の成果を広く市民に伝え続けなければ、制度の実現には結びつかない。そして、その活動によって、遅くとも本年度中には国会において国選付添人制度の対象を観護措置決定を受けた少年全員とする少年法改正案を成立させる必要がある。
弁護士は、これまで主として付添援助制度を利用して付添人活動を行ってきた。しかし、この付添援助制度については、将来的な財源確保の見通しが立っていないため、今、国選付添人制度を拡充できなければ、現在の付添人選任率を維持することすら危ういという現状がある。
そこで、当会は、改めて、政府、国会、最高裁判所、及び、法務省に対し、速やかに、全面的国選付添人制度実現のための法改正を行うことを求めるものである。
                                     以上

2011年5月26日

東日本大震災による被災者の救済と復興支援に関する決議

 当会は、2011年(平成23年)3月11日東北地方を襲った東日本大震災(以下「本件震災」という)に関して、以下のとおり決議する。
1 当会は、本件震災に関して、当会会員に災害対策に関する研修等を行う ことで災害関連法及び今後なされるであろう法整備等の情報を会員に提供 しつつ、当地への被災移住者及び本件震災を契機として発生する取引被害 等の間接被害者らに対し、無料法律相談を継続して行く。
2 当会は、被災地弁護士会及び被災地住民に対して、義捐金支援を行うと ともに当該被災地弁護士会や日本弁護士連合会からその支援要請を受けた 際には、被災地内での法律相談等の法的支援に協力可能な弁護士の派遣を 行う。
3 当会は、国に対して、新たな立法や法改正などの立法措置、財政出動や 人的支援など被災者の救済と被災地の復興のために、全力を尽くすことを 求める。
4 当会は、国および東京電力株式会社に対して、住民の健康安全を確保す るため福島第一原子力発電所に関する情報を正確、迅速に公表すること、 また放射線量管理を行い、住民に対して適切な避難措置を講じること、さ らに放射性物質の影響により避難措置を受けた住民の被る損害、放射性物 質による農業被害、漁業被害等に対し、速やかな賠償及び補償を行うこと を求める。

以上のとおり決議する。

                2011年(平成23年)5月25日
                 福岡県弁護士会

 

(提案理由)
1 本年3月11日午後2時46分に発生した東日本大震災(以下「本件震 災」という)は,マグニチュード9.0、最大震度7という国内観測史上 最大の地震であった。地震にともなって発生した大津波は、東北地方の太 平洋沿岸地域に家屋の全壊8万8873戸、半壊3万5495戸をはじ  め、農地の流失、海水による塩害、漁港の消失、車や船の損壊など、壊滅 的な被害を与え、死者1万5019名,行方不明9506名(警察庁まと め、5月13日現在)という未曾有の災害となった。いまなお11万人を 超える多数の被災者が不自由な避難生活を余儀なくされている。
2 また、本件震災に伴って発生した、福島第一原子力発電所の事故は、国 際原子力・放射線事象評価尺度の暫定評価レベル7という最悪の事態であ り、大量の放射性物質が大気や海へ放出されている。このため、近隣住民 は避難を余儀なくされたばかりか、原子炉の冷却機能不全の状況の下、避 難生活は長期化が予想されている。また、農作物に対する出荷制限、海洋 汚染の広がりによる漁業への影響等、放射性物質による被害の複合被害が 深刻なものとなっている。さらに,目に見えない放射線に対する風評被害 による地域経済への影響も甚大である。
3 本件震災により、多くの被災者は、住居を奪われ、職を失い、明日の生 活の見通しも立て難い状態にある。住宅ローンや事業資金等の借入金の返 済がどうなるのか、仕事に戻れるのか、原子力災害のもと、いつ、自宅に 戻れるか、学校に戻れるか等不安な日々を過ごしている。また不安定生活 の継続による被災者の心のケアの問題も重要な懸念として認識されてい  る。
4 日本弁護士連合会は、震災当日に災害対策本部を立ち上げ、義捐金の募 集、無料法律相談活動を開始した。また、全国の弁護士会も同様の活動を はじめている。特に、被災地である東北、関東の弁護士会は、地震直後か ら電話やや避難所に出向いての無料法律相談を行うなど、困難な中で献身 的な活動を行ってきている。
5 当会も、4月2日に東日本大震災復興支援対策本部を立ち上げ、義捐金 の募集や無料法律相談などの活動を始めた。現在の法律においては到底対 応できないと思われる状況が相応期間継続するものと思料される中、当会 においては災害対策に関する研修会を実施するなどし、現行法秩序内にお ける対応可能領域を認識するとともに、今後の国からの新たな立法過程や 政治対応などにつき情報整理を行うことで的確な法律相談を継続的に行っ ていくことが重要であると認識している。
  確かに、今回のような決して法整備が充足しているとは言えない事態の 中での法律相談には一定の限界があることも承知しているし、一対一の個 別的な相談対応が、即座に相談者の抱える問題を解消するものとは考える ことはできない。
  しかし、法的問題の専門家たる弁護士が直接被災者の方と対話すること はたとえ解決に直結するものではないにせよ、必ずや被災者を苦しめる無 限定な不安感や焦燥感を幾ばくかでも解消することになると思われ、相談 業務の重要性は、決して軽視することはできないものと信じる。
  既に当地に被災移住してきた方々がおられ、原発問題の収束も不確実な 中で今後も多数の被災移住者が当地に来られる可能性がある。また直接被 害者でなくとも被災地における企業等の事業活動の停止ないし停滞によ  り、当該企業等と関連する当地の事業者の方々も相当の被害を受けている ものと思われる。以上の点に留意しつつ、当会は、本件震災における直  接、間接の被害者の方々に対して、無料法律相談を継続して行く。
6 また、直接対話を伴う法律相談の要請は、被災地における住民の方々ら にこそ特に必要なものであり、当会は日弁連との連携のもと、被災地弁護 士会からの要請に応え、現地への当会会員の派遣に積極的に取り組む決意 である。
  我が国において地震災害はどこにでも起こりうるものである。今回被災 地となった地域における法的ニーズ等を当会からの派遣弁護士が実地に見 聞することは、被害状況に関する情報を当会内部で共有することにもな  り、さらには当会のみならず全国的な支援活動や今後の災害対策にも結び ついて行くものである。
7 今回の震災で家を失ったり、避難を余儀なくされたり、職を失ったり、 農地や漁場を失ったりなどの直接被害、また交通途絶による商品の流通阻 害による取引の支障などの間接被害などの財産的損害、さらには災害遭遇 それ体はもちろん、近親者の死亡や行方不明などによる喪失感や長引く避 難生活における精神的な疲弊など、今回の震災による被害は枚挙に暇がな い。
  こうした大規模かつ多種多様な被害を救済し、被災者の被害回復や被災 地の復興をある程度包括的に実現するには、国における早急かつ実効性の ある立法作業や政策決定が強く求められるところである。
 具体的な施策については随時表明されつつあるが、当会は、国に対して、  新たな立法や法改正などの立法措置、財政出動や人的支援など被災者の 救済と被災地の復興のために、全力を尽くすことを求める。
8 今回震災による福島第一原子力発電所の炉心溶融を含む大事故による被 害は国を超えた世界的な関心事となる大規模なものであり、国や関係自治 体、東京電力は、被災者の救済と復興支援のために全力を傾けるべき責務 があるのは当然のことである。
  この点につき当会は、国及び東京電力に対して、福島第一原発事故の現 状及び今後想定される事態や各地の放射能汚染の実情と被曝による長期的 なリスクに関する情報、被曝防護に関する情報を正確かつ迅速に国民に提 供すること、また適切な範囲の住民を速やかに避難させることを求める。
  さらに放射性物質により避難措置を余儀なくされた住民の受ける被害や 失われた農地や漁場に対する農・漁業被害、また風評被害等に対し、速や かな賠償及び補償を行うことを求める。
9 当会は、本件震災によって亡くなられた方々に謹んで哀悼の意を表し、 ご冥福をお祈りするとともに、本件震災や原子力発電所の事故で被災され たすべての方々に対して心からお見舞い申し上げる。
  また今回事態に対し、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする 弁護士や弁護士会の果たすべき役割の大きさを正面から受け止め、その役 割を果たすべく全力で活動する決意である。

2011年3月10日

今、改めて取調べの可視化(取調べの全過程の録画)を求める決議

 当会は、平成15年5月27日に取調べの全過程の録画・録音による取調べの可視化を求める決議をし、その後も取調べの可視化に関しては会長声明や宣言を繰り返すとともに、取調べの録画制度に関する海外視察やシンポジウムの開催、署名活動など可視化実現に向けた取り組みを続けてきた。
 そして、平成21年に取調べの可視化をマニフェストに掲げた民主党が与党となり、さらには平成22年には足利事件と元厚労省雇用均等・児童家庭局長事件という2つの大きなえん罪事件の判決によって取調べの可視化が不可欠であることが明白となった。
 しかし、現在に至るも、取調べの全過程の録画制度は実現せず、検察や警察も取調べの一部を録画するに留まっている。しかも、現在行われている取調べの一部録画のほとんどは、実質的な取調べが終わった後に、取調べに問題がなかったかどうかや供述内容の確認などをする「レビュー方式」や、それに供述調書の読み聞かせや署名押印部分を加えたものに過ぎない。
 これでは、読み聞かせや署名押印部分の状況が客観的に分かるだけであり、実質的な取調べの際の状況そのものの客観的な証拠にはならない。いわゆる「レビュー」は、取調べに問題がなかったかどうかを確認する被告人質問を前倒しして実施し、それを録画しているというだけで、そもそも取調べそのもの一部録画ですらないのである。
 今般、最高検は特捜部が被疑者を逮捕した事件においても取調べの可視化を試行すると発表したが、これも検察官の裁量で取調べの一部を録画するに留まるものであり、問題は全く解決していない。
 あくまで、取調べの全過程が録画されなければ、違法な取調べを防止することも、取調べの状況を客観的に証拠化することもできないのであり、取調べの一部だけが録画されることは、かえって裁判官や裁判員の判断を誤せる結果となりかねない。
 そこで、取調べの可視化(取調べの全過程の録画)を具体的に実現していくために、当会は

1 国に対し、すみやかに全ての被疑者の取調べの全過程を録画する制度の導入に向けて早急に法律を整備すること、仮に段階的実施をとらざるを得ない場合には、対象事件を絞ることはあっても、対象事件については全ての取調べの全過程を録画するようにし、取調べの一部だけを録画することを許容するような制度には絶対にしないこと
2 検事総長及び警察庁長官に対し、上記1の法制化がなされるまでの間、裁判員裁判対象事件及び特捜部が被疑者を逮捕する事件に関しては、取調べの一部録画・録音にとどまることなく、即時に取調べの可視化(取調べの全過程の録画)を実施するとともに、取調べの可視化の対象事件を被疑者・弁護人が取調べの可視化を求めた事件にも拡大すること
3 各裁判官に対し、供述調書の任意性に争いがある場合は、取調べの可視化(取調べの全過程の録画)によって取調べの状況が客観的に立証されない限り、供述調書に任意性がないという判断をすること
を求めるとともに、取調べの可視化(取調べの全過程の録画)の1日も早い実現のため、当会として全力を挙げて取り組んでいくことを決議する。

                        2011(平成23)年3月9日
                                福岡県弁護士会

決議理由

1 日本の刑事裁判は「自白調書」に過度に偏重し、取調べを行う警察官や検察官は自白獲得に躍起となって、取調室という「密室」の中で強引な取調べが行われてきた。そして、捜査官の考えるストーリーを押し付け、捜査官の作文した「自白調書」に署名押印を無理強いし、そのために暴行や脅迫などを用いるなどの違法な取調べによる人権侵害が起こり、さらに虚偽の自白調書が作成され、えん罪という最大の人権侵害が生じてきた。これらは昔の話ではなく、足利事件や氷見事件などの再審無罪判決に見られるように、現在も生じている問題である。
 これらの再審無罪事件では、検察官に押し付けられた虚偽の「自白調書」について、裁判官がその任意性や信用性の判断を誤ったことが、無実の人々に多大なる人権侵害をもたらした原因の1つである。そして、その背景には、密室の取調べの状況を後から客観的に検証することが不可能な一方、「無実の人が虚偽の自白をするはずがない」「虚偽の自白調書に署名したりするはずがない」という安易な考えから、多くの裁判官が、公判での被告人の訴えよりも、警察や検察が作成した調書を重視するという傾向を持っているという問題があると考えられる。
2 我々弁護士も、密室の取調室で真実何が起こっているのかを知る立場にはない。
  しかし、当会が全国に先駆けて始めた当番弁護士制度により、被疑者段階に多くの弁護士が関わっていく中で、供述調書の作成と同じ時期に被疑者と接見を繰り返していく中で、上述したような問題のある取調べが頻繁に行われ、虚偽の供述を強いられたり、あるいは被疑者が供述してもいない内容の供述調書が作成されたりしていることを、少なくない弁護士が実感を持って確信するに至っている。
  そして、ここ数年大々的に取り組みを始めた被疑者ノートに被疑者が書き込む内容からも、その実感を強めてきている。
 違法な取調べによる虚偽の自白調書の問題は、ごくわずかな例外的な問題ではなく、頻繁に生じている問題であり、現在の捜査機関の取調べや供述調書についての考え方そのものに根ざした問題なのである。
3 一方で、裁判官の中にも、これまでにも自白調書の任意性や信用性を慎重に判断する裁判官もおり、志布志事件では自白調書の信用性を否定して12名の被告人全員に無罪判決を出し、さらには厚労省局長事件では関係者の自白調書について証拠能力がないとして証拠から排除した上で、無罪判決を出し、いずれも検察は控訴を断念し、1審判決が確定した。
  そして、そのような裁判官の供述調書に関する厳しい姿勢が、検察官による証拠隠滅という検察の信頼を揺るがす問題を炙り出す大きな要因となったといえる。
4 しかし、裁判官にとっても、現在のような密室での取調べが続く状態であれば、取調べの際に何があったのかを正確に把握・判断することは難しく、特に裁判員裁判において裁判員にその判断を強いるのは酷である。
  かかる問題を解決する唯一の手段は、取調べの可視化であり、取調べの全過程を録画するか、あるいは取調べに弁護人の立会いを認めることで、違法な取調べを防ぐとともに、取調べで何があったのかを裁判官や裁判員が正確に把握・判断することができ、正しい結論を導くとともに、えん罪という最大の人権侵害を避けることができるのである。
  そのため、当会では、平成15年5月27日に取調べの可視化を求める決議を行ったのを始め、会長声明や宣言を繰り返すとともに、取調べの録画制度に関する海外視察やシンポジウムの開催、署名活動など可視化実現に向けた取り組みを続けてきた。
5 これに対して警察や検察は、裁判員対象事件については取調べの一部を録画し、その録画物をもって取調べの任意性を立証しようとしている。
  しかし、そもそも検察官が現在行っている一部録画は、そのほとんどが実質的な取調べが終わった後に、取調べに問題がなかったかどうかや供述内容の確認などをする「レビュー方式」や、それに供述調書の読み聞かせや署名押印部分を加えたものに過ぎない。これでは、読み聞かせや署名押印部分の状況が客観的に分かるだけであり、実質的な取調べの際の状況そのものの客観的な証拠にはならない。いわゆる「レビュー」は、取調べに問題がなかったかどうかを確認する被告人質問を前倒しして実施し、それを録画しているというだけで、そもそも取調べそのもの一部録画ですらないのである。
  このような録画では、結局、取調べの状況についての客観的な証拠にすらならず、違法な取調べを防ぐこともできなければ、裁判官や裁判員が正しい結論を導くためには役に立たず、かえって取調べの実体を隠す結果となりかねず、判断を誤らせる結果になりかねない。
  最も重要なのは、実質的な取調べそのものを録画することであり、当該事件についての全ての取調べについて、最初から最後まで全過程が録画されることである。これによって初めて、違法な取調べを防ぐことができるし、取調べの客観的な状況を正確に把握・判断することが可能になるのである。
6 このことは、取調べの一部が録音された事件でも、たびたびえん罪事件が起こってきたことや、足利事件においても検察官取調べの一部が録音されていたことからも明らかであり、昨年、足利事件と元厚労省雇用均等・児童家庭局長事件という大きな2つの判決により、取調べの可視化が不可欠であることは明白となったはずである。
  しかし、現在に至るも、取調べの可視化は実現しておらず、最高検は録画対象事件として特捜部が被疑者を逮捕した事件についても広げる方針は発表したものの、結局取調べの一部録画に留まるようであり、法務省内のワーキンググループの検討状況の発表などからは、取調べの可視化についての実現困難性や弊害などが指摘され、取調べの可視化実現に向けた明確な道筋が見えない状況が続いている。
  そこで、当会として取調べの可視化(取調べの全過程の録画)の1日も早い実現に向けて全力を挙げて取り組むことを決議するとともに、下記の内容を国・捜査機関・裁判官に求めることを決議する。
7 まず国に対しては、取調べの可視化実現のための早急な法整備を求める。
  これに対して、法務省内のワーキンググループからは、検察官送致事件の事件数などを理由に、実現不可能などという反論が出ているところ、たしかに一斉に全ての事件について取調べの全過程の録画を義務付けることが困難を伴うことは理解できるが、そのために取調べの可視化に向けて一歩も踏み出すことができないという障害とすべきではない。
  かかる観点からは、段階的な取調べの録画制度の導入は容認できるとしても、上述したように取調べの一部だけが録画されても意味はなく、逆に弊害を生み出しかねないことから、対象事件を絞ることはあっても、取調べの一部だけを録画することを許容するような制度には絶対にしないことを求める。
8 次に、捜査機関を統率する検事総長及び警察庁長官に対し、取調べの可視化が法制化がなされるまでの間も、裁判員裁判対象事件に関しては、現在の取調べの一部録画・録音ではなく、取調べの全過程の録画を実施することを求めるとともに、その対象事件を、取調べの可視化の必要性が高い事件であって、録画による弊害が少ないはずである被疑者・弁護人が取調べの可視化を求めた事件に拡大することを求める。
9 最後に、各裁判官に対して、任意性の立証のハードルを高くすることを求める。
検察や警察が取調べの一部録画で任意性の立証を済ませてしまおうと考えているのは、そのような立証であっても裁判官は任意性を認めてくれると考えているからに他ならない。
逆に言えば、供述調書の任意性が争われた際の、これまでの多くの裁判官の姿勢こそが、取調べの可視化の実現の障害となっているとさえ言えるのである。
韓国において、取調べの録画制度が導入されたのは、2004年に大法院(日本での最高裁)判決において、供述調書の証拠能力について大胆な判例変更がなされたからである。
  そして、ここ数年、立て続けに起こったえん罪事件の判決や大阪特捜部による証拠隠滅事件などは、供述調書の任意性を判断に影響を与えてしかるべきである。
そこで、各裁判官に対して、供述調書の任意性が争われた場合には、任意性を認めるのに慎重な姿勢をとり、取調べの可視化(取調べの全過程の録画)によって取調べの状況が客観的に立証されない限り、供述調書に任意性がないという判断をすることを求める。

                                      以 上

2010年12月10日

個人通報制度の導入及び国内人権機関の設置を求める総会決議


当会は,政府及び国会に対し,国際人権(自由権)規約,女性差別撤廃条約,拷問等禁止条約,人種差別撤廃条約などにおける個人通報制度をわが国に速やかに導入すること及び政府から独立した国内人権機関を速やかに設置することを求めるとともに,当会もその実現に向けた運動を展開することを表明する。

以上決議する。

2010(平成22)年12月8日   福岡県弁護士会

(決議理由)

第1 個人通報制度について
 1 個人通報制度とは,人権条約に保障された人権が侵害され,国内での救済手段(裁判)を尽くしてもなお救済されない場合,被害者個人などがその人権条約上の委員会に通報しその委員会の意(Views)を得て,締約国政府や国会がこれを受けて国内での立法,行政措置などを実施することにより,個人の権利の救済を図ろうとする制度である。 
国際人権(自由権)規約などの各人権条約では,締約国における国際人権基準実施のため,条約機関による締約国政府報告書審査制度とともに個人通報制度を採用している。
   国際人権(自由権)規約,女性差別撤廃条約は,本体の条約に附帯する選択議定書に個人通報制度を定め,人種差別撤廃条約及び拷問等禁止条約は,本体条約の中に個人通報制度を備えている。したがって,個人通報制度を導入するためには,選択議定書の批准あるいは本体条約の当該条項の受諾宣言をすることによって実現することができる。
   しかし,わが国は,国際人権(自由権)規約,女性差別撤廃条約,拷問等禁止条約,人種差別撤廃条約などの人権条約を批准しているが,これらが有する個人通報制度をこれまで導入して来なかった。
 2 2010年9月現在,自由権規約を批准している国は164か国, うち選択議定書を批准している国は111か国にのぼり,自由権規約を批准した国のうち67%を超える国が選択議定書を批准している。
   OECD加盟30か国のうち,選択議定書を批准していない国は, 日本,アメリカ,英国及びスイスであるが,アメリカに関しては,米州憲章に基づき設置された米州人権委員会に対して,米州人権宣言違反についての救済の請願(すなわち個人通報制度)を利用することができる。また,英国をはじめとするヨーロッパの国々には欧州人権裁判所があり,同裁判所に対する申立てが可能となっている。すなわち,OECD加盟国の中で,いずれの個人通報制度も利用できない国は日本だけとなっている。
このような事態を踏まえ,2008年の国際人権(自由権)規約委員会による第5回日本政府報告書審査に基づく総括所見をはじめとして,各条約機関から,わが国は個人通報制度の導入について度重なる勧告を受けてきたが,未だに実現にはいたっていない。
 わが国は,人権理事会において初代人権理事国となり,さらに岩沢
雄司東京大学教授が国際人権(自由権)規約委員会委員長を務めているなど,人権の分野でも大きな役割が期待され,またそれを果たそうとしている。これら状況に鑑みても,わが国の管轄内にいる個人が国際的な人権保障制度である個人通報制度を利用できないことは,その国際的地位からしてもまことにふさわしくないと言わざるを得ない。
 3 個人通報制度が導入された場合,第一に,国内の裁判で救済されなかったケースについて,個別の救済が可能となる。わが国の裁判所は,人権条約の適用について消極的であるため,個別事件に関する救済の意義は大きくなる。救済は,条約上の委員会の意見を経たのち,行政的な措置あるいは新たな立法などでなされることが予想されるため,当該ケースのみならずその後の同種事例においても国内での救済が前進することとなる。
   第二に,裁判所は国内での裁判の後に条約機関での意見があり得ることを前提として判決を下すこととなるため,条約機関の見解を念頭において裁判せざるを得ないこととなる。このことは,国内の裁判において,結果的にわが国の人権水準を国際標準に近づけることとなる。
 4 日弁連は,かねてから個人通報制度導入を強く求め,2007年5月,自由権規約個人通報制度等実現委員会を立ち上げ,その実現に努力してきた。
  2010年5月の定期総会においては,取調べの可視化,国内人権機関の設置等とともに個人通報制度の実現をするための決議を採択した。
民主党は,2009年の衆議院総選挙において個人通報制度の導入をマニフェストに掲げ,政権与党となった。その後,法務大臣は幾度となくその実現に意欲を示す発言を繰り返しているが,現時点においても実現に至っていない。公明党,社民党,共産党もその実現を目指しているが,与野党が現時点で実現のための具体的な道筋について合意し,推し進めるまでには至っていない。
 そこで,当会は,政府及び国会に対し個人通報制度を速やかに導入するよう強く求めるとともに,その実現に向けた運動を展開することを表明するものである。

第2 国内人権機関について
 1 国連決議及び人権諸条約機関により,国際人権条約及び憲法などで保障される人権が侵害され,その回復が求められる場合に,司法手続よりも簡便で迅速な救済を図ることができるよう国内人権機関を設置することが求められており,世界では多数の国が既にこれを設けている。
 2 国内人権機関は,1993年12月の国連総会決議「国内人権機関の地位に関する原則」(いわゆる「パリ原則」)に沿ったものである必要がある。具体的には,法律に基づいて設置され,権限行使の独立性のみならず,委員及び職員の人事及び財政等においても独立性を保障する仕組みを有し,調査権限及び政策提言機能を持つものでなくてはならない。
 人権諸条約機関からも,特に日本に対して,早期にパリ原則に合致した国内人権機関を設置すべきとの勧告がなされており,国内の人権NGOからも国内人権機関設置の要望が強まっているところである。
 3 現在,わが国には法務省人権擁護局の人権擁護委員制度があるが,同制度が,パリ原則の求める国内人権機関の要件を充たさないことは明白となっている。
 このような状況の下,日弁連は,2008年11月18日,パリ原
則を基準とした「日弁連の提案する国内人権機関の制度要綱」を発表した。
 さらに,2010年6月22日には,法務省政務三役が「新たな人権救済機関の設置に関する中間報告」において,パリ原則に則った国内人権機関の設置に向けた検討を公表するなど,国内人権機関設立への機は熟している。
 4 そこで,当会は,政府及び国会に対し国内人権機関の速やかな設置
を求めると共に,その実現に向けた運動を展開することを表明するものである。
                       

以上

2010年5月28日

国選付添人選任の対象を観護措置決定を受けた少年すべてに拡大することを求める決議

国選付添人選任の対象を観護措置決定を受けた少年すべてに拡大することを求める決議

2007年の少年法改正により,一定の重大事件(故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪及び死刑又は無期若しくは短期2年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪)については,家庭裁判所が弁護士である付添人の関与が必要であると認めるときという条件があるものの,国選付添人が選任されることになった。
こうして,国選付添人制度が発足したことは,大きな前進とはいえるものの,その他の事件により観護措置決定を受けている多くの少年は,付添人が選任されないまま少年院送致などの重大な審判を受けるという事態が続いている。
とりわけ,被疑者国選対象事件が拡大され,いわゆる必要的弁護事件については,すべて被疑者の段階で国選弁護人を選任することができるようになった。そのため,少年についても,被疑者段階では国選弁護人が選任されていたにもかかわらず,家庭裁判所に送致されると同時に当該少年には弁護士が選任されなくなるという事態を生じさせている。これは,法の不備といわざるを得ない。
少年事件に弁護士付添人を選任することは,冤罪を防ぐという観点から不可欠であるだけでなく,適正な手続きの下で,適正な保護処分に付するという観点からも,そして,何よりも少年の更生を図るという少年法の理念を実現するうえでも不可欠である。
これまで,日弁連は,弁護士自らが費用を出し合い,法律援助という方法で多くの少年が弁護士付添人を選任できるように努力してきた。しかしながら,冤罪を防止し,適正な手続きの中で適正な保護処分に付すること,そして,少年の更生を期すことは,すべて国の責務である。
そこで,福岡県弁護士会は,少年が家庭裁判所に送致され,観護措置決定を受けて身体拘束されている事案については,すべて国選付添人が選任される制度,すなわち全面的国選付添人制度を早急に実現することを求めるものである。
以上のとおり決議する。

2010(平成22)年5月25日           
福岡県弁護士会定期総会

提 案 理 由

1 福岡県弁護士会は,2001年2月,全国に先駆け「全件付添人制度」を発足させた。この制度は,観護措置を受けた少年については,その少年が弁護士付添人の選任を希望する限り,すべて弁護士会の責任において,弁護士付添人を選任するという制度である。
  少年事件においても,検察官送致(少年法20条)や少年院送致,児童自立支援施設等への送致など長期間に渡る身体拘束を伴う重大な処分がなされる可能性がある。特に,観護措置決定を受けた少年については,その期間中身体拘束を受けるだけでなく,上記の重大な処分を受ける可能性が高くなる。
しかしながら,それまで多くの少年が,弁護士の関与のないまま,少年院送致等の重大な処分を受けていた。
そのため,福岡県弁護士会は,少年を冤罪から守り,適正手続きと適正な処分を保障し,少年の更生の援助をするため,上記全件付添人制度を発足させたのである。

2 我々弁護士は,家庭裁判所の理解と協力を得て,多くの観護措置を受けた少年の付添人に選任されてきた。
そして,少年の人権を守り,少年の更生を期すための付添人活動を実践してきた。その活動の中で,多くの少年が自立・更生する姿を見ることができた。そうした付添人活動によって,少なくとも観護措置決定を受け,身体拘束されている少年については,重大事件だけではなく,窃盗事件や傷害事件,さらには少年法特有のぐ犯事件などすべての事件について弁護士付添人が不可欠であることを実感している。

3 確かに,少年法は,「少年の健全な育成を期す」という保護処分を課すものである。しかし,「保護処分」といっても,相当期間少年院に収容するなどして,少年の自由を大きく制限する処分も含まれており,その処分は適正な手続きの下での,適正なものでなければならない。
また,家庭裁判所には調査官がいて,調査官が少年の資質,生育歴,家庭環境などを調査し,適正な処分を図るシステムがある。しかしながら,弁護士付添人は,少年の立場に立って,真相を解明するとともに,時には被害者と直接接触し,被害回復のための措置を講じたり,その被害実態を少年や保護者に説明して少年やその保護者に反省を促し,さらに,社会環境の調整を試みるなどして少年の早期更生を図る活動を実践している。こうした活動は,弁護士付添人にしかできないものであり,かつ,少年の更生にも極めて有益である。

4 そして,こうした地道な活動が一つの契機となって,2007年には,ようやく国選付添人制度が発足した。
 しかしながら,この国選付添人制度は,その対象が① 故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪,② 死刑又は無期若しくは短期2年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪,という重大事件に限定されており,しかも,「家庭裁判所が弁護士である付添人の関与が必要であると認めるとき」という条件が付されている。
弁護士付添人が少年事件において不可欠であることは,先に述べたとおりである。つまり,少年の人権を守り,少年の早期更生を図る必要は,重大事件に限られるものではないし,少年法特有のぐ犯事件においても,とりわけ観護措置が必要なほどぐ犯性が進んでいる少年については弁護士付添人の存在が不可欠である。

5 また,2009年5月21日から,いわゆる必要的弁護事件については,被疑者段階から国選弁護人を選任できる制度に改められた。そのため,少年も,窃盗,傷害などの必要的弁護事件について,被疑者段階においては,国選弁護人を選任することができるようになった。
成人であれば,起訴されると同時に,被告人国選弁護人が選任されることになる。しかし,少年の場合は,上記のとおり国選付添人制度の対象が極めて重大な事件に限定されているため,多くの少年については,家庭裁判所に送致されると同時に弁護士の関与がなくなるという結果になる。
  日弁連は,こうした状況を回避するため,被疑者段階で国選弁護人が選任されていたケースについては,少年が家庭裁判所に送致されてからも,法律援助を利用して,できる限り弁護士が付添人に選任されるように努力している。
もっとも,この法律援助は,我々弁護士の拠出した資金によって運用されている。したがって,国選付添人制度が拡大されない限り,我々弁護士の拠出は永遠に継続されることになる。しかし,上記のとおり,観護措置決定を受けた少年には,弁護士付添人は不可欠であり,弁護士付添人を選任することは国の責務である。

6 被疑者国選弁護制度を拡大した趣旨からしても,国選付添人制度の拡大は必然である。
被疑者国選弁護制度も,当初はその対象が短期1年以上の重大な事件に限定されていた。
しかし,冤罪を防止するために被疑者国選弁護人が不可欠であることは,こうした重大事件に限られるものではなく,窃盗事件や傷害事件など他の多くのいわゆる必要的弁護事件においても同じである。弁護士の対応能力などの問題から,当初は重大事件に限定されていたが,最終的には必要的弁護事件すべてを被疑者国選弁護制度の対象に拡大した。同様に,少年事件についても,国選付添人制度の対象を拡大しなければならないことは当然である。
そもそも,被疑者段階での弁護活動は,起訴されるべきでない被疑者を起訴させないための活動は当然のこととして,起訴されたのちを想定して活動する。すなわち,無実の被疑者が将来有罪判決を受けることがないように,被疑者に虚偽の自白をさせないように,また,被疑者に有利な証拠を収集する活動を行なう。被疑者が当該犯罪を実行している場合であっても,必要以上に重い刑が言渡されることがないように,適正な判決がなされるように活動する。特に,少年事件の場合は,家庭裁判所に送致されてから原則4週間以内に審判が行なわれるため,被疑者段階から,少年や保護者と信頼関係を築き,反省を深めたり,被害弁償をしたり,環境調整に取り組む。
つまり,被疑者弁護は,それ自体が目的ではなく,将来の裁判(審判)を見据えて,最終的に当該被疑者の権利が侵されることがないように活動をするのであって,起訴(家庭裁判所送致)後の活動と不可分一体のものである。ましてや,少年事件の場合には,家庭裁判所送致後時間的猶予がないため,被疑者段階から,少年の更生を目指した活動を実践しているのである。
そうであるにもかかわらず,被疑者段階にのみ国選弁護人が選任され,家庭裁判所に送致されると同時に弁護士の関与がなくなるという現在の法制度はあまりにも不合理で,早急に是正されなければならない。

7 以上のとおり,非行を犯していない少年を冤罪から守り,非行を犯した少年であっても,適正な処分が課せられるべきであり,かつ,その更生のために可能な限りの援助がなされるべきである。そのためには,国選付添人選任の対象を,少なくとも観護措置決定を受けたすべての少年とすべきである。
福岡県弁護士会は,この間,全国に先駆けて全件付添人制度を立ち上げ、この制度を全国に広げるために先頭に立って努力してきたが、国選付添人制度の対象が拡大されたのちは,マンパワーを一層充実させて,その対象となるすべての少年の権利を守り,その更生を期すために最大限の努力を惜しまないことをここに誓うものである。
よって,政府,国会,最高裁判所及び法務省に対し,すみやかに全面的国選付添人制度の実現のための法改正を行なうことを求めるものである。
以上

2010年5月27日

司法修習生の修習資金給費制の維持を求める緊急決議

 わが国の司法制度を担う法曹である裁判官、検察官及び弁護士になるには、司法試験に合格した後、司法修習を終えることが必要である。司法修習は、法律実務に関する汎用的な知識や技法のみならず、市民の権利に直接関係する法曹として求められる高い職業意識と倫理観の修得をも目的とするもので、裁判官、検察官、弁護士のいずれの道に進む者に対しても同じカリキュラムで行われ(統一修習制度)、国際的に見ても特徴があり、高い評価を受けている。
 そこで、司法修習生には、全力で修習に専念すべき義務(修習専念義務)が課されている。そして、この修習専念義務を担保するため、司法修習生には、1947(昭和22)年に司法修習制度が創設されて以来、一貫して、国庫から給与が支給されてきた(給費制)。この給費制があればこそ、司法修習生は経済的な不安を持たずに司法修習に専念することができ、また、貧富の差を問わず、国民のあらゆる階層から有為で多様な人材が法曹界に輩出されてきたのである。
 ところが、2010(平成22)年11月1日から、この給費制が廃止され、必要な者に生活資金を国が貸与する制度(貸与制)が実施されることとなった。給費制の見直しは、司法制度改革審議会の意見書等を受け、2004(同16)年11月に裁判所法が「改正」されて定められたものである。
 しかるに、裁判所法「改正」後、新たな法曹養成制度の出発点である法科大学院への志願者は年を追うごとに減少し、法学を学んでいない者(未修者)や社会人など他分野からの有為な人材の集まりにもかげりが見られる。この背景には、法科大学院(2ないし3年間)の費用が多額に上り、生活費の負担も大きく、また急激な法曹人口増により弁護士の就職が困難になるなどの経済的問題があることが指摘されている。
 このような現状のもとで給費制を廃止した場合、法科大学院時代の負債に加えて司法修習中にも更に負債を抱えることを余儀なくされ、経済的事情から法曹への道を断念する者が一層増大する事態が強く危惧されるとともに、統一・公平・平等という司法修習の理念が損なわれ、司法改革審議会意見書が目指した、貧富の差なく多様な人材を法曹に求めんとした新しい法曹養成制度の基本理念にも背理する結果となる。
 司法修習制度は、司法修習生が裁判官、検察官、弁護士のいずれになるかを問わず、わが国の司法制度を支える重要な社会的インフラ(基盤)であり、これを支える費用を負担することは国の当然の責務である。給費制を廃止することは、司法制度を支える法曹養成の責任を国が放棄することを意味し、これによって害を被るのは、優れた資質を備えた多様な人材からなる法曹、市民の目線にたった弁護士による援助の機会を奪われる市民である。
 よって、当福岡県弁護士会は、直ちに司法修習生に対する給費制を継続する法改正を行うよう、政府・国会・最高裁に強く求めるとともに、その実現のために全力を尽くす決意である。
 以上のとおり決議する。

                2010(平成22)年5月25日
                福岡県弁護士会定期総会

          提案理由        

1.貸与制の導入に関する裁判所法「改正」に至る経緯
(1)司法制度改革審議会意見書
   司法制度改革審議会は、2001(平成13)年6月12日、意見書において、給費制についての在り方を検討すべきであるとして「修習生に対する給与の支給(給費制)については、将来的には貸与制への切替えや廃止をすべきではないかとの指摘もあり、新たな法曹養成制度全体の中での司法修習の位置付けを考慮しつつ、その在り方を検討すべきである。」と述べた。
(2)裁判所法「改正」
   国会は、2004(平成16)年11月、給費制を廃止し修習資金の貸与制を実施することとして裁判所法を「改正」した(裁判所法67条の2 修習資金の貸与等)。ただし、実施時期は当初の法案では2006(同18)年11月1日からの実施予定であったが、貸与制について周知徹底するためとして実施が4年間延期され、附則で2010(同22)年11月1日が施行期日とされた。
(3)附帯決議
   その際、衆参両議院共通の附帯決議がなされ、1項で、改革趣旨・目的が、「法曹の使命の重要性や公共性にかんがみ、高度の専門的能力と職業倫理を備えた法曹を養成する」ものであること、3項で「給費制の廃止及び貸与制の導入によって、統一・公平・平等という司法修習の理念が損なわれることがないよう、また、経済的事情から法曹への道を断念する事態を招くことのないよう、法曹養成制度全体の財政支援の在り方も含め、関係機関と十分な協議を行うこと。」が明記された。

2.裁判所法「改正」後の実情
(1)多様な入学者・志願者全体の減少傾向等
   新たな法曹養成制度の出発点である法科大学院について、司法制度改革審議会が望ましいとした法学部出身者以外の未修者や社会人入学者は、実情は、例えば2006(平成18)年度と2009(同21)年度を比較すると、法学未修者が3605名から2823名へと782名減少し、社会人が1925名から1298名へと627名減少しており、他分野からの有為な人材の集まりにかげりが見られる。
   そればかりか、法科大学院への志願者全体につき、初年度の2004年(同16)度では7万2800名、2005(同17)年でも4万1756名であったものが、2010(同22)年度では2万4014名(暫定値)と大幅に減少している。
(2)法曹志望者の減少の背景
   この背景には「法曹を目指すに当たり、投下する負担に比して危険が大きすぎる。」という心理が一般化し始めているとの指摘がある。
   すなわち、法科大学院の学費として、国立大学の場合、入学金が約28万円、年間授業料は約80万円となっており、私立大学の多くは、入学金が20万円から30万円程度、年間授業料は100万円から150万円程度になっている。このほかに教科書などの教材費がかかるほか、生活費も必要である。それに、社会人入学者は家族の生活を支えなければならない。現実には未修者が法科大学院で学ぶということは「1000万円もかかる大事業」となっている。
   日本弁護士連合会が2009(平成21)年11月19日、20日に実施した司法研修前研修(事前研修)の際、受講者である新第63期司法修習生候補者を対象に実施したアンケートによれば、回答者1528名中807名(52.81%)が法科大学院で奨学金を利用したと回答し、そのうち具体的な金額を回答した783名の利用者が貸与を受けた額は、最高で合計1200万円、平均で合計318万8000円にも上っていた。
   他方で、司法試験合格後の司法修習生時代においては、修習専念義務により兼職が禁止され、アルバイトを行うこともできない。
   更に、司法修習生には就職難が待っている。すなわち、急激な法曹人口増により弁護士事務所への就職が困難になっている上、公務員・社内弁護士など他分野への進出も現状では増員に見合うものにはなっていない。裁判官、検察官の増加もわずかである。
   その上に、現在の給費制が廃止されれば、兼職を許されない司法修習生は、相当の貯蓄がない限りは貸与制を利用せざるを得なくなる。仮に貸与制を利用した場合、基本額で月額23万円の貸与額は1年間の修習終了時点では合計276万円に上ることになり、上記アンケート結果を前提にすれば、新規弁護士の50%を超える者が、弁護士登録した時点で平均して600万円近くの借金を負っていることになる。給費制の廃止と貸与制の導入により、司法修習生を取り巻く経済環境は更に悪化するのである。
   近時、弁護士の就職難から、司法修習終了後直ちに独立する弁護士(いわゆるタク弁、ソクドク)や他の法律事務所の一角を借りて業務を行う弁護士(いわゆるノキ弁)が増加していることも指摘されており、これらの弁護士にとって、弁護士開業後の収入は極めて不安定で厳しいものがある。法科大学院や司法修習生時代の借金を返済することは容易ではないのである。
   このような現状では、多くの有為な人材が「法曹は、人生をかけて目指すべきものだろうか。」という疑問を持つのは当然の成り行きである。あるいはまた、高い志と能力を有しながら、経済的な理由だけで、法曹となることを断念せざるを得なくなる者が多数出てくることも容易に想像される。このままでは、法曹を目指す有為の人材が減少していくことに拍車がかかることは必至である。

3.司法修習生に対する給費制の廃止に伴う弊害
(1)有為な人材の確保
   わが国における従来の法曹の人材確保は、法曹資格の取得については貧富の差を問わず広く開かれた門戸であり、従来の法曹養成制度は、決して「金持ちにしか法曹になれない制度」ではなく、多様な人材が裁判官、検察官、弁護士として輩出されてきた。この点は非常に高く評価すべきであり、また、将来もそのようでなくてはならない。司法制度改革審議会も「資力のない人、資力が十分でない者」が法曹となる機会を求めている。
   貧富の差なく国民の各層から広く法曹が誕生することにより、真に市民のための開かれた司法が現実化し、市民の権利実現が果たされることになるのである。
   給費制が廃止されれば、21世紀の司法を支えるにふさわしい資質・能力を備えた人材が、経済的事情から法曹への道を断念する事態も想定され、その弊害は極めて大きい。
(2)司法修習生の修習専念義務
   最高裁判所は、従来から修習の実効性を挙げるために、司法修習生に対し兼業の原則禁止をはじめとする厳しい修習専念義務を課してきた。2004(平成16)年の裁判所法「改正」でも、その理念・方針には何ら変わりはない。司法修習期間が段階的に短縮され、近々1年に統一される状況において、司法修習生の質の低下を防ぐためにも、この義務は重要かつ不可欠である。
   この修習専念義務を担保するために、1947(昭和22)年に司法修習制度が創設されて以来、一貫して、司法修習生には国庫から給与が支給されてきたのであり、給費制があればこそ、司法修習生は経済的な不安を持たずに司法修習に専念することができたのである。
   この給費制を廃止しておきながら、他方で修習専念義務を課したままアルバイト等を禁止するというのでは、司法修習生に経済的に過大な負担を強いることになり、制度として無理がある。
(3)社会的責任(公共性)等公共心の醸成 ―弁護士の社会への貢献・還元―
   給費制は、現行司法修習制度の下で、法曹、とりわけ弁護士の公共性を制度的に担保する役割を歴史的に果たしてきた。
   すなわち、逮捕勾留された人に無料で接見に赴く当番弁護士制度、少年鑑別所に収容された少年に無料で面会に赴く当番付添人制度、市民相談の要となる法律相談センター事業の拡充、弁護士へのアクセスが難しい過疎地における公設事務所の開設など、弁護士・弁護士会による各種の公益活動は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士の公共性・公益性を具体的な形として結実したものである。また、弁護士の人権擁護のための諸活動(例えば、人権救済、子どもの虐待防止活動、消費者保護運動、犯罪被害者支援活動、民事介入暴力対策、法教育等々)をボランティアで支えてきたのは、個々の弁護士の強い使命感にほかならない。
   しかし、経済的に困窮する弁護士が増えれば、公共心、使命感を持って、このような公益活動を担う余裕が失われ、ビジネスを優先せざるを得なくなることが危惧される。給費制の廃止、貸与制の導入が、多くの弁護士の資質や仕事の在り方に深刻な影響を与え、恵まれない人々、虐げられた人々のために社会正義を実現するという市民が期待する弁護士像から遠ざかってしまうおそれもある。

4.「国民の社会生活上の医師」としての法曹・弁護士
  司法制度改革審議会は、法曹の質を求め、法曹教育の在り方及び弁護士の役割について「国民の社会生活上の医師」であることを求め、弁護士に社会的責任(公益性)の自覚を求めている。司法制度改革審議会は、いわば弁護士を医師とパラレルに考えて制度設計をなすことを求めているとも言える。
  そこで、医師の養成制度と対比してみると、2004(平成16)年度から国家試験に合格した医師には2年間研修を義務づけられているところ、研修中はアルバイトなしで専念して研修することができる制度が設けられた。その後、医師の養成のためには、2008(同20)年度まで教育指導経費・導入円滑化加算費として毎年約160億円から171億円の予算措置がなされている。この医師は公務員だけではなく、もちろん民間医師も含まれている。2009(同21)年度からは臨床研修に国家予算が導入されており定着化している。
  このように、医師は民間人であっても市民の生命と健康を守る社会的インフラであるから、研修医の給与には国費が投入されている。「国民の社会生活上の医師」である弁護士をはじめ、市民の権利の実現ないし擁護者である裁判官、検察官を含む法曹養成のためにかけがえのない司法修習制度を医師の研修と並行して考えれば、現在の給費制を維持すべきは明らかである。

5.給費制を維持した場合の国家予算
  司法修習生の手当予算は、2007(平成19)年度において2376名の100億3000万円、2008(同20)年度において2408名の104億9900万円、2009(同21)年度において2327名の108億9400万円である。
  司法試験合格者は、当初2010(同22)年度には年間3000人となることが目指されたものの、現実には過去3年間は2100名から2200名程度で推移しており、その背景には、日本弁護士連合会の2008(同20)年7月の法曹人口問題に関する緊急提言のとおり、司法改革全体の統一的かつ調和のとれた実現をするためには、数値目標にとらわれず、法曹の質に十分配慮すべき状況にあることが指摘される。
  また、今後、旧司法試験制度が終息し、修習期間が全面的に1年間となることも併せ考えれば、司法修習生の手当予算は現状の100億円程度から大幅に増加することはないと考えられる。
  このように、今後の法曹人口問題も流動的であり、裁判所法改正時に予想された2010(同22)年度における年間3000名合格者による支出の増大予想は、その前提事実に大きな変動が認められる。

6.結論
  司法修習制度は、司法修習生が裁判官、検察官、弁護士のいずれになるかを問わず、わが国の司法制度を支える重要な社会的インフラ(基盤)であり、これを支える費用を負担することは国の当然の責務である。給費制を廃止することは、司法制度を支える法曹養成の責任を国が放棄することを意味する。また、弁護士は民間人ではあるが、そうであるからこそ、強い法曹倫理を背景に、国や地方公共団体と市民が対立する場合にも、市民の権利を擁護することができるのである。給費制を廃止することは「法の支配」を社会の隅々まで行き渡らせるという司法制度改革の目的にも背馳し、これによって害を被るのは、優れた資質を備えた多様な人材からなる法曹、市民の目線にたった弁護士による援助の機会を奪われる市民である。
  当福岡県弁護士会は、法曹養成を担う責任ある立場から、次世代の法曹を育成するため、2009(平成21)年5月25日に、「司法修習生に対し給与を支給する制度(給費制)に代えて2010(同22)年11月1日から実施される修習資金を国が貸与する制度(貸与制)の実施時期を相当期間延期し、給費制の復活を含めどのような援助措置が適切か制度全体の再検討に着手すべきである。」ことを政府・国会・最高裁に求める決議をなした。
  しかし、大変遺憾ながら、政府・国会・最高裁は、給費制廃止を何ら見直そうとはせず、他方で、法科大学院受験者の減少傾向は強まるばかりであり、状況は改善されることなくむしろ悪化している。
  また、法務省及び文部科学省は、法曹養成制度に関する制度ワーキングチームを設置し、2010(同22)年3月1日に第1回会議が開催されたが、貸与制を見直す方向での議論は見受けられない。
  以上の状況を踏まえ、日本弁護士連合会は、2010(同22)年4月15日に司法修習費用給費制維持緊急対策本部を設置し、各弁護士会と連携しつつ給費制維持のための運動を展開することを表明した。これを受けて、当福岡県弁護士会も、2010(同22)年5月14日に緊急対策本部を設置して、この問題に会を挙げて全力で取り組む方針を確認した。
  当福岡県弁護士会は、直ちに司法修習生に対する給費制廃止を撤回し、給費制を継続する法改正を行うよう、改めて政府・国会・最高裁に強く求めるとともに、その実現のために全力を尽くす決意である。
 以上

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