弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
警察
2016年2月20日
頂上決戦
(霧山昴)
著者 濱 嘉之 、 出版 文春文庫
大学時代に過激派に所属していて、今では経済ヤクザをしているという人物が登場します。ありうる設定です。
ZⅡとは、元反社会的勢力の構成員を意味する符号。Zは反社会的勢力で、Ⅱがつくと「元」になる。
中国人がもっとも心配する中国国内の三大安全問題の第一が食品、第二が医療、第三が環境。
一般的な秘密文書はマル秘。角秘とは、秘密文書に押印される印の形が丸ではなく、正方形の中に「秘」の字が記されており、マル秘以上に秘密が求められる。
公安部にはキャリアとノンキャリアの二つの参事官がいる。公安部長は警視監、二人の参事官はその下の警視長。
警察庁のチヨダの研修とは、情報専科を意味する。1か月間の専科講習には、全国から30人が選抜され、全員が偽名で受講する。そのなかで行われる行動確認訓練(要するに尾行訓練)は、5人一組で1人のマル対(対象者)に対して行う。このマル対象は、警視庁公安部出身の警部が就くのが慣例。行確時間は6時間。
岡広組(山口組をさす?)は、世界のあらゆる犯罪組織のなかで最大の収益力を有する。麻薬密売や賭博などの非合法ビジネスだけでも、総収入は800億ドル9兆8000億円に達する。
Nシステム対策は進んでいる。レンタカーを一日契約で乗り回す。Nシステムは当日限りになってしまっている。そして、Nシステムのある道路と高速道路はなるべく使わないようにしている。
今や、警察もIT機器をかなり活用しているようです。当然のこととは思いますが、行き過ぎて、プライバシーの保護を侵害しないようにしてもらいたいものです。暴力団(たとえば山口組)が中国での市場開放策の実情を知って、そこに乗り出しているようです。それに反比例して、若者の海外留学が減っています。残念でなりません。山口組の分裂、中国人の爆買いの実態をも生々しく描いた警察小説でした。
(2016年1月刊。660円+税)
2015年11月15日
マルトク・特別協力者
(霧山昴)
著者 竹内 明 、 出版 講談社
久しぶりに警察小説を読みました。
警備公安警察が活躍する話なのですが、首相官邸の思惑とは違ったところで行動するハグレ警察官が登場したりして、読ませます。
ネタバラシになるようなことは紹介できませんので、専門用語の解説をとりあげてみます。
マルトクとは、特別協力者のこと。公安組織が獲得し、情報提供者として運用する、外国の諜報員や犯罪組織の構成員のこと。
リエゾンとは、外遊中の政治家の移動、買い物、食事までのロジステックを組む、いわば御用聞き。もてなす相手によって、大変な気苦労を強いられる。一方で、気の利いた立ち回りができれば、政治家とのパイプができる。若手外交官にとっては貴重な仕事だ。そうやって人脈がつくられていくのです・・・。
警視庁では、人事異動の直後に新しい上司が部下の自宅を訪れる「家庭訪問」という前近代的な制度がある。配偶者との不和はないか、子どもの非行はないか、怪しげな人物と同居していないか、そういった素行を確認する。
尾行するときの対象者を客と呼ぶ。客に気づかれないために、尾行班のうち一人だけを客の直近に置き、頻繁に入れて替えていく。これが先頭引きという尾行陣形だ。
秘匿尾行は狩猟に似ている。背後につける者は客の視線や息づかい、筋肉の緊張から目的地を読みながら追っていく。
訓練された諜報員は尾行者を切るための点検を行う。電車の「飛び降り」や「飛び乗り」逃げ場のない路地で180度方向転換をする「佇立反転」。中には尾行者を捕まえ、逆問(逆尋問)する猛者(もさ)もいる。
公安総務課機材班。公安部の秘撮・秘聴の機材には、世間に公開できない非合法のものも存在する。こうした特殊機材を一元管理し、開発、設置、運用まで手掛けるのが機材班だ。
著者はTBSに入社して海外特派員やテレビのキャスターなどで働き、公安警察への取材を続けているとのことです。
この本を読むと、警察っていったい、何をするところなのか、常識が反転することになると思います。ご一読ください。
(2015年10月刊。1500円+税)
2014年1月18日
狼の牙を折れ
著者 門田 隆将 、 出版 小学館
公安捜査の実態が紹介されています。
捜査対象とする事件は三菱重工爆破事件です。三菱重工は原発そして軍需産業のトップメーカーですから、そのことは厳しく批判されてよいと思いますが、爆弾テロの対象としてはいけません。あくまで言論による批判によって、そのあこぎな死の商人の姿勢をただすべきです。
事件が起きたのは1974年8月30日の昼のことです。私が弁護士になったのと同じ年です。
東京駅近くの丸の内仲通りにある三菱重工本社ビルが狙われたのでした。
死者8人、重傷者376人という史上最大の爆弾テロ。4000枚もの窓ガラスが破壊され、その窓ガラスの粒が通りを埋め尽くすダイヤモンドの海のように見えた。
警視庁公安部には総数2500人もの公安部員がいた。本庁に1500人、そして各署に公安係が合計1000人いた。公安一課の5人の管理官は中核・革マル・革労協・赤軍・共産同(ブント)といったようにセクトを担当した。警察がウォッチしていたセクトは5流22派、8派90などと言われていた。
セクトの情報をつかむうえでもっとも重要なのは「協力者情報」。要するに、警察のスパイをセクトに侵入させているわけです。
捜査官の腕とは、どんな「協力者」をもっているかにかかっている。協力者のことを「タマ」と呼ぶ。どれだけ重要なタマをもっているか、すなわちタマをどう「運営」していくかによって、捜査官の真価が問われる。誰がタマなのか、それは当事者である捜査官しか知らず、記録にもタマの「本名」は残さない。もし情報が洩れたら、いつタマが消されるかも分からないから。
1週間が10日に1度、接触し「捜査協力費」という名目での金銭を渡し、次の情報収集を頼む。活動家には生活に困っている者は多い。公安部から貴重な「捜査協力費」をもらっている活動家は少なからずいた。
警察内部では激しい派閥抗争が展開中だった。政治派と独立派。あるいは、名門組と平民組。三井脩(当時51歳)は、独立派、平民組のリーダーだった。対抗する政治派、名門組のリーダーは警視庁総務部長の下稲葉耕吉(48歳)。
公安一課は、当時、第一担当から第二、第三担当そして調査第一、調査第二という五つの担当に分けられていた。一担は庶務、二担は中核・革マル、三担はブントと日本赤軍。調一は黒ヘルと諸派、調二は事件担当という役割分担だった。
公安部は尾行と呼ばず、行確(こうかく)と呼ぶ.行動確認の略。
行確のターゲットが自宅や会社から出てくることを「吸い出し」といい、逆に会社や自宅など目的の場所に入っていくことを「追い込み」と呼ぶ。
爆弾を見分けるのに大事なのは、爆破装置と雷管。これに同一性があるかどうかを見る。
行確(尾行)をするときは靴底がゴム製のものを履く.音をなるべく出さないため。革靴のように見えても、そこだけはゴムのものを履く。
ゴミを捨てるのは、犯人グループにとって、もっとも注意しなければいけないこと。
犯人と目される男が置いたゴミ袋を回収し、似たようなゴミ袋を代わりに置いておく。そして、この回収したゴミ袋から証拠となるブツを得たのでした。
このときの逮捕はサンケイ新聞がスクープしています。サンケイ新聞は公安部に「協力者」がいたのです.そして、逮捕の瞬間をサンケイのカメラマンが撮影したのでした。なるほど、本当によく撮れています。
1975年5月19日に大道寺将司を逮捕した瞬間の写真が紹介されているのです。なんだか気の弱そうな青年が小雨のなか傘を差したまま屈強な刑事4人に取り囲まれた写真です。
いま、大道寺将司は65歳。死刑判決が確定して26年たった今も、東京拘置所に収監中です。共犯者の佐々木規夫と大道寺あや子が超法規的措置によって国外へ逃亡中のため裁判が終了していないことによります。
40年も前のことなので、当時の関係者が実名で登場しています。大変読みごたえのある本でした。それにしても、この二人は、今どこで何をしているのでしょうか。まだ、本当に生きているのでしょうか・・・。
(2013年10月刊。1700円+税)
2013年5月19日
警察崩壊
著者 原田 宏二 、 出版 旬報社
北海道警察の幹部だった著者が長年にわたった警察の裏金づくりを内部に告発したのは今から9年前の2004年2月のことでした。この9年間に、警察の体質は改善されたと言えるでしょうか・・・。
改善されたどころか、警察官の不祥事はこのところ目立っていますよね。どうなっているのかと思うほどです。現職警察官による殺人事件も最近起きています。
警察庁長官という警察トップが内閣官房副長官に就任するコースがあるのですね。いわば、警察官僚が権力中枢に位置するわけです。そして、「自民党に刑事事件が波及しない」なんていう見直しを記者に示したというのです。とんでもない元長官です。警察のおごりを示す発言ですよね。
公安委員会が中央に県にもありますが、有名無実化しています。著者は、せめて警察から独立した事務局をもてと提言していますが、当然です。
県の公安委員会には人事権がなく、同意権のみというのも改めるべきだ。まったくそのとおりです。あまりにも中央県権化しすぎています。
今や警察官の供給源は大学生。女性職員も10%となっている。
正義感の強い若者が警察にはいって実態を知ると、実際との落差に絶望することになる。裏金づりは本当になくなったのでしょうか・・・。
若い警察官のなりたくないのは、筆頭が留置場勤務で、その次が交通事故係だ。
最近、私は足しげく警察署に通っています。何ヶ月も行かないこともあるのですが、今はなぜか3人も留置場にいる人の弁護人になっています。留置場に若い警察官がいて、そうか、希望して配属されたのではないのかと、ついつい同情してしまいます。
警察の最近の実態を知ることのできる本です。
(2013年4月刊。1700円+税)
2013年4月13日
幸
著者 香納 諒一 、 出版 角川春樹事務所
現在(いま)を生きる意味を問う警察小説の誕生。これは本のオビにあるコピーです。
著者の警察小説を初めて読みました。警察内部の人事の葛藤が描かれているのはほかの警察小説と同じです。やはり、どろどろした人間模様がないと単なる犯人探しの推理小説になってしまいます。この本を読みながら高村薫の『マークスの山』そして佐々木譲の『警官の血』を思い出しました。
私と同世代の学生運動はなやかりしころの男女が登場してくるのです。私とは違って過激派のセクト活動家です。そこに、警察官が潜入捜査する話が登場します。要するにスパイです。これは本当にたくさんいたようです。それを体験した人の告白本もあります。ただ、所在をくらますため、地下に潜ったときハウスキーパーの女性の話まで出てきました。戦前の共産党員の地下活動にはあったようですが、戦後1960年代に本当にあったのでしょうか。私には信じられない話です。そんなことしなくても同棲自体は珍しくなかったわけですので・・・。
警察署長はキャリア組。キャリアが「責任を持ちます」という類の言葉を口にしても、それを決して信じられない。このことはノンキャリアの警察官ならばだれでも知っている。
キャリア組は自分の成績を上げるためなら何でもするし、責任回避もすごくうまいということですね。
警察内部で非行を見たとき、バカ正直にそれを問題とすると、必ず報復があり左遷される。カラ領収書づくりが問題になったとき、そのことは明らかとなりましたね。
政治家が登場し、地元の土建業者が利権をあさっているなかで、古い白骨死体が工事現場で発見されます。そこに居合わせたのが認知症の老婆。はたして両者に関連性があるのか・・・。
筋書きはあちらこちらに飛んでいき、やがて一つに収束していきます。
(2013年1月刊。1800円+税)
2012年12月23日
64
著者 横山 秀夫 、 出版 文芸春秋
64(ロクヨン)とは、昭和64年に起きた少女誘拐殺人事件。迷宮入りとなり、D県警史上最悪と記録されている事件のこと。
さすが、この著者の警察小説は読ませます。圧倒的な迫力ですので、一日で一気に読みあげました。それこそ、寝食忘れて、と言いたいところですが、ホテルに泊まったとき、食事はルームサービスでとって、食べながら読みふけりました。
あり得ないよな、こんなストーリー・・・。と思いつつ、刑事部と警務部が全面的に対決し、ついには刑事部の全員が籠城する騒ぎに発展するのです。それも、刑事部長が叩き上げから、キャリア警察官の指定されたポストに「格上げ」、つまり召し上げようという動きの中で事態は進行していきます。警察内部のいかにもどろどろした人間模様のなかで、新しい誘拐事件が発生するのです。
たくさんの伏線が巧みに張られていますので、最後まで話がどう展開していくのか読めずに、目を離せません。
舞台は県警広報室。広報室は不幸な生い立ちを背負わされた。情報を一元化するための窓口でありながら、入ってくる情報の量と速度は「離島」に近い。協力的なのは、交通安全施策をPRしたがる交通部くらいのもの。警務部は記者を飼い馴らせと無理難題を言ってくる。記者たちは広報室をなめきっている。刑事部と記者室のあいだにはさまって広報室は翻弄され、消耗する。そして、広報室は被疑者の実名を報道せずに、記者室の猛反発を買う。ボイコット寸前の状況だ。
県警本部長はキャリアの警察官僚。地方警察は、そうした「雲上人」をせっせと育成してきた。耳障りのいい情報だけをご注進し、そうでない情報はすべて遮断する。在任中の本部長に機嫌良くいてもらうことのみに汲々としている。
常に本部長室を無菌状態に保ち、地方警察の実情も悩みも知らせることなく、サロン的な日々を過ごさせる。そして、企業団体からかき集めた高額のお金を本部長の懐に押し込んで東京に送り返す。
被疑者の留置管理は、警務部の所管だが、実際には刑事部のテリトリーだ。組織図の上では刑事部と切り離されているが、生粋の警務畑の人間だけで留置場を運営している警察など、D県警に一つもない。
肩書きは警務課員であっても、刑事の経験者や刑事見習いの看守が相当数で、日中の取調を終えて房に戻った留置人の言動に目を光らせ、逐一刑事課に報告をあげている。ようするに、留置場内の情報は刑事部があまさず握っていながら、ひとたび留置管理に問題が生じたときには、「外面」である警務部が責任を負わされるということ。
久留米の富永孝太朗弁護士より、まだ読んでいないのならすぐに読むよう強くすすめられた本です。期待にしっかりこたえてくれた本でした。
(2012年10月刊。1900円+税)
2012年12月21日
となりの闇社会
著者 一橋 文哉 、 出版 PHP新書
なげ福岡県だけ、こんなに暴力団による事件が頻発するのでしょうか?
本当に恥ずかしいことです。公共工事の談合・調整役を暴力団がつとめていて、それを主な資金源としています。つまるところ、大型公共工事も私たちの税金でまかなわれているわけですから、市民が間接的に暴力団を養っているようなものです。これでは、いくら暴力追放の市民集会をやっても暴力団は根絶できませんよね。
公共構造をもっとガラス張りにして、暴力団が談合・調整役にならないようにしなくてはいけません。そのためには、旧来の自民党型政治家の口利きもふくめて、介入を許さないように必要があります。なにしろ、昔から公共工事の総工事費の3%が政治家と暴力団に流れていくというのですから・・・。
暴力団はかつて自分たちに協力したり取引関係にあった企業や人物をターゲットにして襲っている。なるほど、そうなのでしょう。根は深いのです。
大手証券会社と暴力団の癒着も昔からありました。総会屋も、その一つの手法です。第一勧銀は、暴力団(大物総会屋)に208億円もの融資をしています。86回にわたった合計額です。それで、結局、第一勧銀の元会長の方が自宅で首吊り自殺をしていました。
野村證券もまがまがしいダークサイドがあると指摘されています。金融庁は2012年8月、インサイダー取引について業務改善命令を出している。証券業界のガリバーと言われる野村證券の体質は20年前から変わっていない。
政治・土建・興行が「ヤクザの三大産業」と呼ばれてきた。
これは昔も今も変わりませんね。政治と闇社会は文字どおり世の中の表と裏である。
代議士秘書をパイプ役にして、公共事業の根回しや談合、選挙前の各業界への票のとりまとめ活動や対抗勢力への妨害、自らのスキャンダルつぶしなどを依頼している。
大型公共事業の受注をめぐっては、いまだに暴力団や政治団体など、闇社会が仕切っているケースが多く見られる。ゆすり、たかり、そして株主総会ともめごと処理の用心棒だ。モンスタークレーマー、とくに闇社会と連携した知能犯罪者たちの大量攻撃は熾烈で、各企業は頭を悩ませている。
「架空請求屋」は、「名簿屋」から出会い系サイトの利用者リストを1人20円程度で購入し、あとは電話をかけるだけ。とくに調査や戦略を練るわけでもなく、何一つ苦労も努力もせずに、きわめて低いリスクで多額の利益を得ることができる。
架空請求屋は、毎日午前8時すぎに出勤し、夜10時過ぎに退社するまで、「名簿屋」から購入した出会い系サイトの利用者リストをもとに電話をかけまくる。一日の架電ノルマは300~400件。一人につき月1000万円以下の利益目標が揚げられ、怠けたくても怠けるわけにはいかない。自分の上げた利益の1割が報酬としてもらえる。
あるグループは月の利益は平均5000万。メンバー一人あたりの平均月収は70万円。全体の80%ほどの4000万円前後を暴力団幹部に上納していた。ある振り込め詐欺グループのボスは37歳、地方の国立大学を卒業している。
社長は、経営戦略と人材育成を担当している。メンバーは総勢50人、5人の営業部長がいる。部員は一日じゅうマンションの部屋にこもって電話をかける。食事も出前をとるか、コンビニ弁当やパン。他人の視線を避け、3ヵ月以内に転居する.
欠勤、遅刻、早退は、その日の取り分がゼロになる。報酬の分配率は、リーダーが20%、各営業部が45%。
人材育成のため、6人の「生徒」が3週間にわたって合宿生活を送る。ベテラン詐欺師やマルチ商法主帝者、犯罪心理学者、弁護士と言った各界の専門家を講師に迎え、詐欺の理論と実践、歴史、心理業などを学ぶ。続いて演技指導や模擬試験を受け、最後は実施訓練となる。この訓練を通じて、「電話一本でカネになる」魅力を知り、カモになるのは相手を見きわめたり、標的の心をコントロールできるテクニックを磨き、喜びを知る。
契約締結のコツは値引きと緊迫感。
これはリフォーム詐欺集団のベテラン営業マンの言葉です。これだけ欺す方が訓練を受けているのですから、被害回復も容易でないのも当然ですね。といっても、心寂しい人間の集団なんでしょうね、詐欺師って。無駄な人生を送っているのに気がつかないのが哀れです。
実務上も、とても参考になる本でした。
(2012年10月刊。760円+税)
11月に受けたフランス語検定試験(準1級)の結果を知らせるハガキが届きました。恐る恐る開いてみると、まずは合格の文字が目に飛び込んできて、ほっとしました。得点は81点(合格基準は74点)ですから、まだ7割はとれていません。受験直後の自己採点も81点でした。ぴったりだったのに、我ながら驚きました。
ところで、今の選挙制度はひどいですよね。4割の得票で8割の議席を占めるなんて、小選挙区制度は本当におかしいと思います。自民党は得票を大きく減らしているのに「大勝」だなんて、とんでもありません。国民の意思がきちんと反映されないシステムです。
2012年9月17日
特高警察
著者 荻野 富士夫 、 出版 岩波新書
なく子も黙るトッコーケーサツ。今では知らない若者も増えていますね。その恐るべき特高警察について要領よくまとめた新書です。
戦前の日本で拷問による虐殺80人、拷問による獄中死114人、病気による獄中死1503人。ところが、特高警察は、表向きは拷問死を否定した。しかし、その一方で、その後の取り調べにあたって、「お前も小林多喜二のようにしてやるぞ、覚悟しろ」と恫喝するのを常とした。
昭和天皇即位の「大礼」(1928年)や各地への行幸時には、警察による全国一斉の、関係地方の「戸口調査」が実施された。この「戸口調査」は、「巡回連絡」として、現在も実施されている。「戸口調査」や「巡回連絡」は、一般警察官が担当するが、それらの情報は戦前なら特高警察、現代では警備公安警察が集約している。
特高警察の存続した期間は、1911年(明治44年)から1945年(昭和20年)までの35年間だった。
1928年2月の衆議院議員の初めての普通選挙で、日本共産党は党員の立候補やビラの配布など、公然と姿をあらわにした。これに危機感を強めた田中義一内閣は警察と検察を動員して、3月15日未明、1道3府27県で、共産党員の関係者を一斉検挙した。検挙された者は1600人。うち起訴されたのは488人。国内における治安維持法の本格的発動となった。田中内閣は4月10日に事件を公表し「赤化」の恐怖を振りまいた。
特高警察は、官僚制のなかでも、もっとも強固な中央集権制を特質とする、その中枢・頭脳であり、指揮センターの役割を果たしていたのは、一貫して内務省警保局保安課だった。
日米開戦直前の広義の特高警察の人員は1万人をこえただろう。二層構造からなる特高警察が、その機能を発揮するうえで不可欠だったのは、一般警察官の特高知識と情報の探査・報告だった。
特高警察にあっては、事件が起きるのは、むしろ失態であった。ことが起きる前に未然防止することが重視された。特高警察にとっての生命線は情報だった。
共産党員と同調する人々が拷問を受けるのは、天皇に歯向かう「悪逆不逞」の壁をこえていく人だから、「悪逆不逞の輩」なので、国体護持のためには、どのような取調手法も許容されるはずだという暗黙の意識があった。
特高警察とは何だったのか?
戦前の日本における自由・平等・平和への志向を抑圧・統制し、総力戦体制の遂行を保障した警察機構・機能と言えよう。それは、日本国内にとどまらず、植民地、傀儡国家におよび、法を逸脱した暴力の行使により多くの犠牲を生みだした。「国体」護持を揚げて、人権の蹂躙と抑圧に猛威を振るった組織なのである。
2011年は、大逆事件を直接の契機として警視庁に特高警察課が創設されてから100年目だった。
現代日本に、こんなひどい警察組織をよみがえらせてはいけないと痛感しました。
(2012年5月刊。800円+税)
2012年1月19日
国家と情勢
著者 青木理・梓澤和幸ほか 、 出版 現代書館
この本を読むと、警察って罪なき人々を無用に関しして、「犯罪」をつくりあげるところなんだなという感想と同時に、こんなマル秘のデータが外部に流出するなんて、日本の警察もたいしたことない役所だね、そんな哀れみすら覚えます。
後者のきわめつけは、国際テロリズム緊急展開班の班員名簿として13人の現職警察官の個人情報が詳細に記載されたものが外部に公表されていることです。なにしろ、公安機動捜査隊第三公安捜査班所属で警部補とか、自宅の住所、家族全員の氏名・年齢、職業、同居の有無、健康状態まで記載されています(2008年9月12日現在)。この本では黒塗りしてありますが、どうやら顔写真もついているようです。先日のアメリカ映画『フェア・ゲーム』じゃありませんけど、当局がCIA捜査官を自ら暴露したのとまるで同じです。
今回流出した警察資料の大半は日本のイスラム教徒関係の監視状況をまとめたレポートです。何も犯罪とは関係ないのに、イスラム教徒だからというだけで監視対象として尾行・監視していたというのは許せませんし、まったく税金の無駄づかいの典型です。400頁もある分厚い本ですが、その半分以上は流出した資料です。黒塗りしてありますので、「面白さ」は半減しますが、これが自分のことだったらぞっとしますよね。ですから黒塗りするのは当然です。ところが、黒塗りしないまま公刊しようとした出版社があるというのですから驚きました。さすがに裁判所は出版差止を命じたようです。
情報が流出したのは、2010年10月30日のこと。流出した資料は114点、1000頁ほど。警察は、流出した情報が警察由来のものだとなかなか認めず、2ヶ月後にようやく認めた。この差によって、被害拡大を防止する措置が遅れた。
警視庁では、1995年当時、刑事部の捜査第1課に300人の捜査員がいた。ところが、公安部公安第1課は、それより多い350人もいた。刑事より公安が多いだなんて・・・。
ながく警察官僚のエリートコース、出世コースは警備・公安部内とされてきた。警察庁長官は、ずっと警備・公安部門の要職を歴任した人物で独占されてきた。
ところが、今や公安警察はジリ貧状態にある。公安部公安第1課も230人になっている。そして、2002年、警視庁公安部に新設された外事第3課は、34年ぶりに新しくもうけられた課である。公安警察がじり貧状態から抜け出し、反転させられるかもしれない期待の課が新設された。この外事第3課は当初70人から今では150人もの捜査員をかかえる大世帯となった。
警視庁は都内に16あるモスクの全部について、人の出入状況、出入車両その他をことこまかく情報を収集している。そして、イスラム周辺支援組織として39団体が情報収集の対象となっている。そのなかには、国境なき医師団や、ユネスコ・アジア文化センター、はてはJICAまで監視対象団体とされている。JICAって、準政府機関ですよね。ここまで監視する警視庁って、一体何なのでしょうね・・・?
ジャーナリストは、外事第3課がなぜできたのかという理由を、それは公安がヒマだからだと断言しています。これは、公安調査庁と同じですよね。日本共産党を監視するということで存在価値があるかのように見せてきた公安調査庁は共産党が国会でそれなりに定着して、一定の支持を得てしまうと無用の長物視され、あやうく廃止寸前にまで追い込まれてしまいました。それを救ったのが、かのオウム真理教でした。でも、オウム真理教の監視って、なにも捜査能力もない公安調査庁がやらなくたっていいのですよね。それなのに、まだ居座ったままです。公務員減らしをやるとすれば、まっ先に公安調査庁を対象とすべきだと私は思います。
同じジャーナリストは、150人の捜査員のいる外事第3課の生き残り策として、イスラム教関係者の監視をするという「仕事」をつくり出したのだと断言しています。
あーあ、やんなっちゃいますね。無用の仕事、まったくの税金のムダづかい、そして、罪なき人を危うく「犯罪」者に仕立てあげ、世間の誤解をかきたてる。自分の子どもに、お父ちゃんの仕事は何をしているんだと胸をはって言えるものではありませんよね。これって・・・。哀れです。そして、こうやって情報が流出していき、個人情報が広く流出してしまうと、それが一人歩きして、あたかもテロリストと関係あるかのように世間から誤解されてしまうのですから、たまったものではありません。
アメリカでも似たようなことが起きていると聞きましたが、日本でもこんなことが起きているのですね。恐ろしい世の中です。
(2011年10月刊。2200円+税)
2011年12月14日
恥さらし
著者 稲葉 圭昭 、 出版 講談社
北海道警の有名な「悪徳刑事」の告白です。懲役9年の実刑に服して出所してきて、自分が何をしたのか、北海道警がどう関わったのかを実名で明らかにしています。恐るべき警察告発本です。
佐々木譲の警察小説の多くは、この本の著者の挙動をネタ元にしています。しかし、本人が書いていますので、小説とはまた一味ちがった迫真力があります。それにしても、オビに大書されていますが、覚せい剤130キロ、大麻2トン、拳銃100丁が北海道警の関与のもとで日本に密輸されて、その所在が分からないままとなっているなんて、とても信じられません。日本の警察というのは想像以上に腐敗しているようです。そう言えば、警察の裏金問題も、いつのまにかウヤムヤになってしまいましたね・・・・。著者は、2003年4月21日、懲役9年、罰金160万円に処するという判決を受けました。
26年間にわたる人生の警察官人生のなかで、数多くの違法行為に手を染めてきた。捜索差押許可状(ガサ状)なく強制捜査、犯意誘発型のおとり捜査、所有者の分からないクビなし拳銃の押収、覚せい剤と大麻の密輸、密売、そして使用。組織ぐるみで行われる違法捜査によって感覚は完全に麻痺し、正と邪の区別がつかなくなってしまっていた。
著者がスパイ(エス)として使っていた人物は拘置所内で自殺し、元上司も公園内で首吊り自殺した。
ヤクザのシノギを警察官が斡旋する。しかも、警察庁キャリアOBが関与して行われていた。そのとき、1000万円もの現金が動いた。
ガサ状を取るための調書は刑事が適当に作文し、ほかの警察官に調書のサインと指印をしてもらう。しかし、この虚偽内容の公文書作成が問題になることはない。公判に出てくることはないからだ。
所持者不明の拳銃。いわゆるクビなし拳銃の押収は、銃器対策が本格化した平成5年以降、警察庁のお墨つきを得た。それまでは所有者不明のクビなし拳銃を押収するのは恥ずべき捜査だったが、むしろ奨励されるようになった。クビなし拳銃の押収は、拳銃の所有者を逮捕しないために手軽に見える反面、捜査員が暴力団に「借り」を作ってしまう危険がある。
しかし、自首減免規定が銃刀法改正でもうけられたあと、著者はこの規定をよりどころとして、暴力団関係者を自首させた。
拳銃密輸入を検挙するため著者は東京で潜入捜査し、危うく発覚してしまいそうになりました。柔道による耳の形を取引相手の暴力団が気がついて、怪しんだためです。そのときは、とっさに相棒がレスリングをやっていたからだとごまかしてくれて、窮地を抜け出せました。
著者は覚せい剤の密売に手を染め、アジトとしたマンションには、数百万円から数千万円の札束がぎっしりという状態にまでなった。そして、拳銃の保管庫にしていた車庫には、多いときで100丁近い拳銃を保管していた。
これって、信じられない金額と数字ですよね。そして、覚せい剤中毒患者になっていくなかで、著者のつかっていたエス(スパイ)が逮捕されたとき、裁判官にぶっつけ告白したのでした。
ここに書かれている警察の体質が改まったと本当に言えるのでしょうか・・・・。心配でなりません。事実は小説より奇なりとは、よく言ったものです。下手な警察小説には見られない真相が語られて、ド迫力があります。ぜひ、ご一読ください。
(2011年6月刊。760円+税)