弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
社会
2018年2月 9日
女子高生の裏社会
(霧山昴)
著者 仁藤 夢乃 、 出版 光文社新書
現代日本社会にこんな現実があるって知りませんでした。女子高生が路上で客引きをして売春まがいの行為をしているという現実があるんですね、驚きました。前川喜平氏ではありませんけれど、そんな場所に出かけていって、なぜそんなことをしているのか、その実際と原因をしっかり認識したいと思いました。本書は、そんな願いを代わって実行した成果です。
家庭や学校に居場所がなく、社会的なつながりを失った高校生を難民高校生と呼ぶ。
子どもの6人に1人が貧困状態にある。高校中退者は年間5万5千人。不登校は中学校で年間9万5千人、高校で年間5万5千人。未成年の自殺者は年に500人以上、10代の人工中絶は1日55件、年間2万件以上。
JR秋葉原駅をおりると、「JKお散歩」や「JKリフレ」の店が並んでいる。そして、女子高生が路上で客引きをしている。
都内のJKリフレ店は80店。JKお散歩店は秋葉原だけで96店。1店舗につき、20~40人が働いていて、年間60人が働いている。都内だけで5000人以上が「立ちんぼ」をしている。
JKお散歩やJKリフレのスカウトは、水商売や風俗店のスカウトマンがやっていることが多い。彼らは、少女たちに声をかけ、店に紹介し、紹介料をもらう。女子高生に声をかけ、巧みな話術で連絡先を聞き出す。
高校生はまだ子供だ。声をかけられるとすぐに信用したり、抵抗なく連絡先を教える。スカウトする大人は目が肥えていて、連絡先を教えてくれそうな少女を目利きできる。
高校生を一人つかまえたら、そのあとは簡単。友だちも一緒に働けるよというと、たいてい一人は不安だから誰か誘おうと思い、友人を連れてくる。その少女がまた友人を紹介して・・・、芋づる式に集まってくる。
大人たちが本当に少女を心配していたら、不特定多数の男性とお散歩なんかさせるはずがない。彼らは、少女を「商品」として気にかけているにすぎない。しかし、少女たちは、自分は心配されていると錯覚し、安心する。
「観光案内ツアーガイド募集」「がんばり次第で1日3万円以上稼げます」「お客様を案内する仕事です」「入店祝い金として1万円を差し上げます」「モデル事務所と提携しています」「風俗店ではありません。個室や接触、女の子が嫌がることは一切ありません」
たしかに、これに惹かれる女子高生は少なくないのでしょうね。
友達紹介制度は、最初の1ヶ月間、友人が稼いだ売上げの10%が紹介者の少女に入る仕組みだ。
JK産業で働く女子高生の平均月収は6万7千円。
働いていることを親に隠していると答えたものが31人のうち27人。友人には25人が内緒にしている。JKリフレやお散歩で働く少女の多くは家庭から排除されている。彼女らにとって自宅は安らげる場所ではない。
性被害にあったとき、誰にも頼れず苦しむ女性は多い。誰にも言えない経験から少女が家族や学校、社会から孤立していってしまうことは少なくない。取材に応じた31人のうち4人がレイプ被害にあっていた。
貴重なレポートです。考えさせられる現実を知りました。
(2014年9月刊。760円+税)
2018年2月 8日
夜の放浪記
(霧山昴)
著者 吉岡 逸夫 、 出版 こぶし書房
東京の夜をさまよって得た取材記です。
都内を夜に走るダンプカーが必要なのは分かります。午前2時半から5時まで、横浜と町田間の90キロを走るのです。積荷は建設用の砂。ダンプの運転手は、夜10時から午前1時半まで3時間半眠り、仕事が終わって、朝6時半から寝て9時半に起きる。あとは自由。
トラックはデコトラ。派手に装飾されている。映画「トラック野郎」(菅原文太主演)に協力・出演した。デコトラのクラブが全国に500もある。すごいですね。でも、前ほどは見かけない気がします。
新宿の新大久保には24時間の青果店があり、客の9割は外国人。中国人、韓国人、ベトナム人、ネパール人などなど。タイ人もいれば、ミャンマー人も来る。深夜にも客が絶えないとのこと、どうなってるんでしょうか・・・。
渋谷区の恵比寿横町には、ギターを手に夜の酒場をめぐる「流し」の歌姫がいる。そう言えば、昔はギターを抱えてスナックやクラブを渡り歩く「流し」をよく見かけました。今は、私の身近には見かけません。そもそもスナックもクラブも人口減少のあおりもあって不景気で、それどころではないようです。
両国の国技館の売店で売られている焼鳥は夜中に全自動でつくられている。うひゃぁ、そうなんですか・・・。
眠らない職場といえば、私の身近にも多いのが介護施設です。介護の現場で働く人には、本当に頭が下がります。必要な仕事ですが、きつい割には低賃金のため、定着率が良くないですよね。残念です。役にも立たないイージス・アショアにまわすお金(2600億円以上もします。とんでもない大金です)があるんだったら、そんなのやめて介護・福祉予算にまわすべきです。
そして、24時間保育園もあります。夜の仕事をしている母親にとって、なくてはならない施設です。でも、ここでも保育士の確保に苦労しているようです。
私は24時間コンビニなんていらないという考えですが、それでも病院のように24時間オープンの施設が必要なことも現実です。その一端を改めて認識させられた本です。取材した記者(著者)も病気で倒れたとのこと。気をつけてがんばって下さい。
(2017年12月刊。1800円+税)
2018年1月30日
裸足で逃げる
著者 上間 陽子 、 出版 太田出版
沖縄の夜の街の少女たち。これが、この本のサブタイトルです。琉球大学の教授である著者が沖縄のキャバクラで働く若い女性たちに話を聞いたルポルタージュなのです。
子どものころから暴力にさらされて育った女性は、大人になってからも家や地元周辺を離れることはなかった。妊娠して結婚して、子どもが8ヶ月になったころに離婚して、その子どもを奪われた。その後も、兄や恋人からの暴力にさらされ続け、そして、もう一度ひとりで子どもを産んだ。今、24歳。
キャバ嬢の仕事は日本の女子中高生のなりたい職業にランク入りして久しい。若い女性が層として貧困に陥るなか、華やかなドレスを身にまとい、男性客とのトークでお金を得るキャバ嬢が若い女性たちの憧れ職業となっている。
スーパーやコンビニのレジの800円の時給より、2000円の時給のキャバクラで働くことによって、単身でも子どもを育てられる。つまり、沖縄のキャバ嬢たちは、子どもをひとりで抱えて、時間をやりくりして生活する気若い「母」でもある。
中学校の教師たちは、非行に走った少女たちを見捨てない。しかし、そう言いつつも殴っていた。自分を大切にしてくれるひとが、一方では自分に暴力をふるうひとにもなる。そのことは、女性が男性とパートナー関係をつくるにあたって、大きな問題を生み出す。
沖縄の非行少年たちには、先輩を絶対とみなす関係の文化がある。そのため、先輩から金銭を奪われ、ひどい暴行を受けても、後輩の多くは、それを大人に訴えることはしない。そして学年が変わり、自分が先輩になると、今度は自分たちより下の後輩たちに暴力をふるう。暴力が常態化かするなかに育つ子どもたちは、成長をすると、自分の恋人や家族に対しても暴力をふるうことを当然だと思うようになる。殴られるほうもまた、大切にされているから自分は暴力をふるわれていると思い込もうとし、逃げるのが遅れてしまう。
入籍していないカップルの暴行は保護の対象でないとして警察署は追い返す。
キャバ嬢のなかには、客のなかから結婚相手を探しているシングルマザーたちがいる。深夜から明け方までお酒を飲み続ける仕事は体力的にきつく、長期にわたって働き続けることは難しい。時給2000円といっても、送迎代やメイク代などを差し引くと日給は1万円ほどでしかない。
沖縄のキャバ嬢たちの置かれている実情がよく分かりました。それにしても暴力の連鎖はどこかで断ち切ってほしいものですね。広く読まれるべき本だと思いました。
(2017年12月刊。1700円+税)
2018年1月27日
トラクターの世界史
(霧山昴)
著者 藤原辰史 、 出版 中公新書
トラクターと戦車は、二つの顔を持った一つの機械である。
トラクターとは何か・・・。トラクターとは、物を牽引する車である。もっと詳しく言うと、トラクターは、車輪が履帯のついた、内燃機関の力で物を牽引したり、別の農作業の動力源になったりする。乗車型、歩行型、または無人型の機械といえる。
アメリカのフォード社は、第一次世界大戦を4度戦ったイギリスの農村での労働者不足を補うべく、トラクターを輸出した。
トラクターの登場は、馬の糞尿を肥料に使う習慣を徐々になくし、化学肥料の増産と多投をもたらした。
ソ連は、国家主導でフォードのトラクターを導入し、フォードの大口の顧客となった。
ソ連の農業集団化政策は、アメリカのトラクターの量産体制の成立のただなかで遂行された。トラクターは共産主義のシンボルでもあった。
ソ連では、トラクター運転手の半分以上が女性だった。
レーニンは、アメリカの農業機械化に強い関心を抱いていたし、農民こそ革命の主体になりうると考えた。
第二次世界大戦が始まると、ほとんどのトラクター企業が戦車開発を担うようになった。
スターリングラードにはトラクター工場があったが、トラクターだけでなく、ソ連軍を代表する中戦車T-34の約半分を生産していた。
アメリカの歌手・エルヴィスプレスリーの趣味の一つは、トラクターに乗ることだった。
日本は、20世紀の前半はトラクター後進国だったが、後半には先進国へと変貌をとげた。農地面積あたりの台数も世界一位となった。
トラクターを取り巻く社会環境の移り変わりを興味深く読みました。
(2017年9月刊。860円+税)
2018年1月19日
人口減少時代の土地問題
著者 吉原 祥子 、 出版 中公新書
空家等対策特別措置法が2015年に反面施行されてから、2017年3月付で、行政による空き家の強制撤去(代執行)は全国で11件。所得者不明のときの略式代執行は34件。これって、まだまだ少なすぎますよね。
所得者の所在把握の難しい土地は、私有地の2割にのぼり、今後も増加するだろう。鹿児島で2015年に調査したところ、相続登記がきちんとなされていない農地が21%あった。全国的にも、相続未登記の農地が2割ある。
福島第一原発の除染廃棄物を保管するための中間貯蔵施設予定地の地権者2400人のうちの半分1200人分が「所得者不明」の状態にある。
なぜ相続登記がなされないのか。土地売却や住宅ローンを組むためには相続登記する必要がある。しかし、自己資金でマイホームを建てるのなら、相続登記の必要はない。そして、相続登記手続には一定の費用がかかるが、対象土地の資産価値が高くなければ、お金をかけてまでする意味はない。
土地の資産価値は下落する一方にある。人口減少にともない土地需要が減り、地価の下落傾向が続けば、人々にとって土地は資産というより、管理コストのかかる「負の資産」になっていく。もらっても困る田舎の土地をわざわざ手間と費用をかけてまで相続登記を行わないのは、短期的な経済合理性から当然と言える。
家庭裁判所への相続放棄の中立件数は年々増加する傾向にある。2000年に10万4500件だったのが、2015年には1,8倍の18万9400件になっている。
地方自治体は、土地の寄付を受けとろうとはしない。受けとるのは「公的利用が見込める場合」だけだ。
国土調査の進捗率は52%。残りの48%については、完了までにあと120年を要する。この国土調査費用について、市町村の実質負担は5%でしかない。しかし、職員の人件費は補助対策とはなっていないので、市町村の負担減は小さくない。そして、国土調査で「筆界未定」がたくさん生まれている。
相続人不存在によって、亡くなった人の資産が国庫に帰属した金額は、2006年度に224億円だったのが、2015年度には420億円へ増加した。
日本全国で空き家問題、相続登記未完了の土地が大量に存在している問題について、その原因と対策が論じられています。まさしくタイムリーな新書です。
(2017年7月刊。760円+税)
2018年1月18日
沖縄フェイクの見破り方
(霧山昴)
著者 琉球新報社編集局 、 出版 高文研
アメリカのトランプ大統領が平然と嘘を言うことから、どれが本当なのか世間をごまかす言論が目立ちます。
そのターゲットにされている一つが沖縄です。沖縄経済は基地でもっているとか、沖縄にアメリカ軍の海兵隊がいるから日本の平和は守られているといった言説です。沖縄の地元新聞社が総力をあげて、いずれも事実でないことを実証しています。
沖縄からアメリカ軍の基地がなくなったら、それこそ沖縄経済は見違えるように発展すると思います。私も沖縄の新都心のにぎわいぶりを見ていますので、実感できます。
アメリカ軍の基地が返還された跡地は、どこも例外なく市街地として大きく発展している。いずれも雇用は数十倍から数万倍に増え、域内総生産は数十倍になった。
那覇新都心地区では、返還前の雇用者はわずか168人、それが返還後はなんと1万5560人と、93倍になった。経済効果も、返還前は年間52億円だったのが、返還後は年間1634億円になった。31倍だ。
沖縄の経済が基地に依存していた時代は確かにあったが、それは、1950年代、1960年代の話だ。今から50年も前のこと。今では基地関連収入は県民総所得の5%ほどでしかない。
政府の「沖縄振興予算」なるものは、特別の予算でもなんでもない。その総額は日本全体の予算の0.4%にすぎず、沖縄の人口が全国の1%をこえることを考えたら、極端に少ない。
東京MXテレビで沖縄に関して事実に反する番組が放映されたが、これは化粧品会社DHC系列の会社が制作したもの。このDHCという会社は超右翼に偏向していると指摘されていますが、テレビで「嘘」をされ流すなんて許せません。先日、川端和治弁護士を委員長とする放送倫理機構(BPO)が、その偏向をたしなめましたが、東京MXテレビはまったく反省していないようです。
日本にいるアメリカ軍は沖縄をふくめて日本を守るために駐留しているのではない。それは日本の責任だ。アメリカ軍は、韓国、台湾およびト東南アジアの戦略的防衛のために駐留している。沖縄を拠点とするアメリカ軍海兵隊の主力戦闘部隊は、年間の半分以上は沖縄にはいない。太平洋地域を巡回展開している。
やはり、なんといってもマスコミは真実をあくまで報道すべきですよね。その点、沖縄の地元紙は偉いと思います。広く読まれるべき本です。
(2017年10月刊。1500円+税)
2018年1月17日
ビッグデータの支配とプライバシー危機
(霧山昴)
著者 宮下 紘 、 出版 集英社新書
完全なネット社会になった現在、私たちのプライバシーは丸裸も同然という気がしてなりません。
2010年10月、警視庁公安部の日本に居住するイスラム教徒に関するデータが外部に流出しました。ターゲットにされたイスラム教徒は1万2677人。その氏名・生年月日、住所、電話番号、身長、体重、ひげ、メガネ着用の有無、交友関係のデータでした。
2013年5月から12月にかけて大阪府警は令状なしに容疑者の車両19台にGPSを取り付け、3ヶ月で1200回以上も検索した。
丸善ジュンク堂書店では、店舗における万引き対策として、顔認証カメラが導入されている。
ビッグデータは、単なる個人データの集合体としての統計データではなく、その統計から導き出された、パーソナライズされ、カスタマイズされた情報。監視の対象は人ではなく、データであって、特定のターゲットではなく、あらゆるデータをかき集める。そして、事後的な検証ではなく、事前の分析予測によってビッグデータは成り立っている。
ビックデータの典型例は、アマゾンの「おすすめの本」があげられる。
同窓会の名簿買取価格は1冊7000円から3万円。展示会入場者データは1件あたり50円。ベネッセの流出リストは、5万から16万円の値段で800万件の個人情報の売り込みがなされた。
単純な個人情報の漏えい事案における賠償金額は1人5000円から1万円というのが相場。
防犯カメラの設置と犯罪の増減の動向には相関関係はない。
人は忘れる。しかし、インターネットは忘れない。忘れられる権利は、EUが主導している。
この本を読むと、マイナンバー登録なんて、プライバシー丸裸を手助けするものでしかないと痛感させられます。タイムリーな新書です。
(2017年3月刊。760円+税)
2018年1月12日
「主権なき平和国家」
(霧山昴)
著者 伊勢崎賢治・布施祐仁 出版 集英社
東チモールやアフガニスタンで国連代表として武装解除の仕事をしてきた伊勢崎氏は日本が真の主権国家であるなら、憲法を改定するかどうかの議論の前に日米地位協定を改定すべきだと主張しています。
これには私もまったく同感です。沖縄でアメリカがどんなにひどいことをしても、日本政府(アベ政権)は文句の一つも言わず、ただただ大金を差し出して臣下のように尽くすばかりです。これで「愛国心」教育を言いたてるのですから、あまりに情けなくて涙が出てきます。
現在の日本は、形式的には「独立国」でも、日米地位協定によって主権が大きく損なわれている。主権とは、国家が他国からの干渉を受けずに独自の意思決定を行う権利のこと。それは当然に、アメリカ人が日本国内で犯罪をおかしたら、直ちに逮捕して裁判にかけることができるはずです。
しかし、現実には、アメリカ軍の関係者はほとんど逮捕されず、訴追されることもなく、アメリカ本土へまんまと逃げ帰っています。これって、悔しくないですか・・・。まるで、日本は植民地、治外法権じゃありませんか。
強姦容疑で摘発されたアメリカ兵35人のうち、8割の30人は逮捕されていない。殺人などの凶悪犯として摘発されたアメリカ兵118人のうち半数の58人は拘束されないまま終わっている。
8年間で、アメリカ軍関係者の起訴率は17.5%でしかない。これは、日本全体の起訴率48・6%の半分以下。
しかも日本はドイツなどと違って、アメリカ軍に雇傭されているわけではない、単にアメリカ軍が契約しているだけの民間業者とその従業員(コントラクター)についてまで特別扱いをしている。
アメリカ軍は、日本全国どこにでも好きなところに基地を設定することができる(全土基地方式)。これは、アメリカが実力支配してきたアフガニスタンにもないもの。
日本が負担しているアメリカ軍の関係経費は2016年度に7642億円。このうち、いわゆる思いやり予算は、1920億円。1978年度に62億円でスタートしたものが、15年間で30倍にもふくれあがった。
たとえば、アメリカ軍の家族住宅の建設費は2900万円。これに対して自衛隊の家族用官舎は1000万円でしかない。日本が負担する在日アメリカ軍(軍人・軍属あわせて4万人)の光熱水費は247億円。これに対して、自衛隊(自衛官だけで5倍以上の22万5千人)の光熱水費は329億円。アメリカ軍はまさしく王侯貴族のように湯水のごとく使っていて、私たち日本人は税金で負担しているわけです。
そもそも、アメリカ軍は日本を防衛するために日本に駐留しているのではありません。あくまでアメリカの防衛戦略の一環として日本全国に基地を置いているだけなのに、あたかも支配者のように好き勝手に行動しているのです。
私は何もアメリカと国交断絶しろ、なんて叫ぶつもりはありません。そうではなくて、この本の著者たちが主張しているように、アメリカと対等の立場で交渉すべきだと言いたいのです。
(2017年11月刊。1500円+税)
2018年1月11日
新・貧乏物語
(霧山昴)
著者 中日新聞社会部 、 出版 明石書店
アベ首相のもとですすめられたアベノミクスは大企業と大金持ちをますます富み栄させた一方で、貧しい人々は、より一層貧しくなり、しかも絶望感、政治への不信感が増大して、投票所へ足を運ぶ人が5割という状況をもたらしてしまいました。
この本は、日本全国いたるところで貧困があふれていることを鋭く告発すると同時に、そのことへの異議申立の可能性をも語っています。日本社会の真実を知ることのできる貴重な本だと思いました。
慶応大学2年の女子学生が派遣型の風俗店で働いていることが紹介されています。週3回、1日7時間働いて月収50万円、うち30万円を実家に仕送りし、残りはアパートの家賃5万5千円と生活費に充てる。学費は4年間で450万円。貸与される奨学金は月6万4千円。卒業までに307万円を借りる。卒業時に一括返済するため、風俗店で働くことを選んだ。
彼女のように風俗店で働く女子大生が増えているという。なんということでしょうか・・・。奨学金は貸与制ではなく、支給性にすべきですし、学費は無料にすべきではありませんか。私が大学生だったころは、月1000円でした。
アベ内閣はイージス・アショアに出す2000億円はあっても、人材育成にまわすお金はないというのです。まったく間違っています。
養護老人ホームは、入所困難のため順番待ちしているとばかり思っていると、なんとなんと、定員割れになっているのが実情だというのです。千葉県では、2015年10月時点で、全22ヶ所の養護老人ホームのうち20ヶ所が定員割れで、176人の「空き」がある。なぜか・・・。2005年にホームの運営費が市町村の全額負担とされたことが大きい。
立命館大学を卒業してファミリーレストランをチェーン展開する企業に入った37歳の男性は、3年たっても給料は手取り14万円で、上がらない。入社時30人いた同期は6年たったら3人しか残っていなかった。
一日中テレコールをさせられるブラック企業に入ると、1日で500件の電話かけがノルマ。一度切ったら3分間もおかずに次の電話をかけなくてはいけない。タバコ休憩は認められない。職場に監視カメラがあり、すべてを監視される。これは辛いですよね。
2014年の非正規な雇用労働者は1962万人。不本意非正規が18%を占める。社会の中核を占める30代から40代まで非正規が増えている。
人間や労働の価値のすべてを市場原理で測るようなことは、もうやめるべき。この指摘に、私はまったく同感です。国破れて山河あり、ではありません。人々が大切にされてこそ、政治です。力のある者は、政治が放っておいても自分の力だけで生きていけるのです。弱者にもっと光をあてた政治が望まれてなりません。
中日新聞そして東京新聞は、国民目線のいい記事をたくさん報道しています。ぜひ、これからもがんばって下さい。
(2017年6月刊。1600円+税)
2017年12月27日
空洞化と属国家
(霧山昴)
著者 坂本 雅子 、 出版 新日本出版社
いまの日本社会に少しでも疑問を感じている人には必読の本だと思いました。なにしろ776頁もの大著ですし、5600円(税別)もしますので、誰でも気軽に読める本ではありません。そのことを承知のうえで、それでも一人でも多くの人に読んでほしい本だと思いました。
一基1000億円もする地上型イージス装備を2基もアメリカから購入するというのに、それが日本国民を守るのに何の役にも立たないばかりか、有害でしかないことを承知していながら、今のマスコミはまったく批判もしません。北朝鮮の「ミサイル攻撃の恐怖」というアベ政権の世論操作に乗っているだけです。そのため、生活保護をはじめ福祉・教育予算は削られる一方です。今のアベ政権は「国を守る」ことに熱心ではあっても、日本国民の生活を守ることには知らん顔。そして、日本国民の半分は、投票所にも足を運ばず、アベ政権まかせで日々を考えずに過ごしています。本当に、そんなことでいいのでしょうか・・・。
いま、テレビでは、日本の技術力の素晴らしさを強調し、日本の伝統の深さ、豊かさ、日本人のすぐれた感性といった、「日本の優位性」を強調する番組が増えている。しかし、日本経済は長期に停滞している。現実には、日本は、生産面でも輸出面でも、中国をはじめとするアジア諸国に劣後し、後退してしまっている。
神戸製鋼所、日産、日立、東芝、日本を代表する超大企業が長く不正行為をしてきたことが最近になって次々に明るみに出ました。大手ゼネコンのリニア新幹線の談合事件も本質的に同じことです。品質本位、お客様第一をモットーとして伸びてきたはずの日本の大企業が、品質ごまかし、金もうけ本位で、客は二の次、安全性は無視、金もうけのためには兵器産業優先という醜い本質を日本経団連は率先しているのです。本当に残念です。
東芝やシャープを先頭として、日本の電機産業は、日本から消滅してしまう危機にある。日本の自動車産業にしても、電機産業と同じ道をたどろうとしている。すべてはアメリカの巨大企業の言うなりに日本の政治が動いていること、それを日本の政官財界が受け入れていることによる。
今の日本は、世界の中で「ひとり負け」の様相を呈している。日本が大きく経済成長したのは1990年代に入るまでで、この20年ほどのあいだに、日本のGDPは40兆円から50兆円も減少している。
日本の企業は、この20年間に、日本国民の雇用を海外、とくにアジア人に置き換えてきた。
日本の貿易収支は、かつては黒字が続いていたが、2011年以降は赤字になっていて、2014年には、10兆円をこえる巨額の赤字となった。今や日本は貿易赤字大国だ。
日本の輸入品は、原油などの鉱物性燃料と電気機器が最大項目。これは海外進出した日系工場からの逆輸入品や、アジア企業への生産委託品が多い。
日銀がいくら市中銀行に紙幣を振り込んでも、その資金は金融機関から先の法人や個人に流れていかなかった。大企業には金が余っていて、銀行からお金を借りている必要がなくなっている。
日本の製造業全体の設備投資が、ものすごい勢いで国外に流れ出している、恐ろしい現象が続いている。
日本の自動車メーカーによる中国工場からの対日自動車輸出が本格化すれば、そのときこそ、とてつもない産業空洞化が日本を襲うことになる。
半導体は、重機産業、そして日本のものづくり全体を支えてきた分野だった。しかし。1990年代から、日本企業は半導体生産から次々に撤退しはじめた。DRAM生産で日本企業に代わって圧勝したのは韓国企業だった。日本企業が韓国の半導体企業を「育成」した。2010年以降、日本企業の半導体生産は崩壊した。
ノートブックパソコンの世界生産に占める日本国内の生産は世界の4分の1から、今では0.2%になった。日本企業は液晶テレビでも液晶パネルでも敗北してしまった。日本の重機産業は、ものづくりでの全面敗退となった。
日本が海外の水道事業を運営しようとすると、他国の水道事業に日本の公的資金を投入するという理不尽なことをしなければならなくなる。水道事業は、まともに運営したらもうけることなど、そもそも不可能。
日本経団連の役員企業の3分の1が外資によって占められていて、外国の資産管理信託会社や日本の代理会社が大株主を占めている。だから、日本の財界が日本国民の生活を守ろうとしないのも必然なのですね。日本の産業構造の破綻というか、日本国民のためにならない政策がますます進行していく必然性を見事に解き明かした貴重な本です。著者に対しては、この本文776頁を国民一般に向けて100頁以下のブックレットにまとめることを強くお願いしたいと思います。
(2017年9月刊。5600円+税)