福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
宣言
九弁連あさかぜ基金法律事務所を成功させ、九州内の弁護士過疎・偏在を解消しよう
九州弁護士会連合会は、九州内の弁護士過疎・偏在を解消するために弁護士法人あさかぜ基金法律事務所を開設し、その充実・発展を本年度の最重点課題としている。当会は、このあさかぜ基金法律事務所に対して技術的支援を尽くすことにより、その維持・運営に責任を負うものである。
当会は、これまで福岡県内における市民に対する司法サービスの充実のために法律相談センターの積極的展開を図り、会員に対しても普段の働きかけを行ってきた。その成果として目下20箇所に及ぶ法律相談センターを開設し、その利用者は年々増大し、弁護士にとっても若手会員の生活基盤の確立に大きく寄与しているところとなっている。
ところが、県外の九州内に目を転じるならば、まだまだ弁護士の少ない地域が目につく。たとえば、日弁連ひまわり基金法律事務所については、これまで東京などから若手弁護士が派遣されてきたが、九州内の弁護士過疎・偏在の解消のためには、やはり地元である九州・沖縄の弁護士会が起ちあがる必要がある。
当会は、これまでも日弁連や九弁連とともに司法過疎の解消に取り組んできたところであるが、法曹人口が増大するという条件のなかで、さらに取り組みを強化することが求められている。
あさかぜ基金法律事務所は当会が日常的に支えることになっており、毎年4人の弁護士を受け入れ、指導担当弁護士のもとで弁護士として必要な専門的技量および弁護士倫理を実践的に体得し、原則として1年6ヶ月後には九州各地の弁護士過疎・偏在地域へ送り出すことを目ざしている。
当会は、全力をあげてその成功に責任をもち、取り組むものである。
2008年(平成20年)5月22日
福岡県弁護士会 会長 田邉 宜克
2007年7月24日
監視社会を招かないためのルール確立を求める宣言
1 今、全国各地で、治安悪化対策を理由に生活安全条例が制定され、監視カメラの設置がすすめられている。
しかし、犯罪防止は、貧困や差別など犯罪の根本原因を取り除くための福祉施策の充実も含め、総合的な防止策を多角的に検討すべきであり、市民に対する監視の強化が有効な手段であるかは甚だ疑問である。
かえって、警察等による市民監視や不透明な個人情報の収集・利用は、個人のプライバシー権を侵害するばかりか、民主主義社会を支える言論・表現の自由に対する重大な萎縮効果をもたらす危険がある。
そもそも、犯罪検挙のための警察権の行使であれば、対象者の人権を制約するものであるから、犯罪の発生を待って、具体的犯罪の嫌疑に比例した限度でしか許されないというのが原則であり、基本的人権を制圧する捜査手段は、法令の根拠を必要とし、令状がなければ原則として行えないというのが憲法以下の法令の考え方である。
犯罪防止のための監視が一定の場合に許されるとしても、具体的にその場所で起こり得る犯罪の軽重や蓋然性を度外視し、抽象的な「安全」や、単なる主観にすぎない「安心感」のために人権を制約することまで許されているのではない。
従って、警察や自治体は、防犯対策を図るうえで、必要最小限度を超えて個人の自由を侵害することのないよう万全を期すべき義務があり、警察や行政機関が、適正な手続に基づかず個人情報の収集・利用をしないための措置をとる必要がある。
2 福岡市の場合、本年度中に中洲地区に設置されようとしている監視カメラの設置・運用は極めて不透明である。
監視カメラの設置を承認した中洲地区安全安心まちづくり協議会には、博多警察署長が副会長、県警の担当者3名が会員として参加し、福岡市は、同協議会の事務局を務め、自ら600万円を支出する予定であるのに、福岡県弁護士会人権擁護委員会の聴き取りに対しては「中洲地区における犯罪率等のデータは持っていない。監視カメラの詳細は設置主体である商店街に聞いてほしい。」等と回答しており、公金を支出する自治体としての説明責任を果たしていない。
また、福岡市の上川端商店街(調査当時)に設置された監視カメラにおいては、警察が要請して頻繁に監視カメラのビデオ画像を取得していたという経過がある。
警察自身による監視カメラの設置の場合は、京都府学連事件判決(最判昭44.12.24)、山谷ビデオカメラ判決(東京高判昭63.4.1)、西成ビデオカメラ判決(大阪地判平6.4.27)など、令状主義を重視する判決があり、これらの判決によれば、?犯罪の現在性または犯罪発生の相当高度の蓋然性、?証拠保全の必要性・緊急性、?手段の相当性がある場合を除いて、警察が自ら公道に監視カメラを設置することは認められない。
警察自身の設置ではない場合でも、市民の自由が確保されるべき公道に設置する監視カメラは、真にその場所における犯罪を防止する必要性が認められ、かつこれにより侵害される通行人の人権よりも上回る利益が得られる場合に限られるべきである。
従って、そのような監視カメラの設置に関する基準をはじめ、捜査機関に自由に情報が提供されないよう、適正な手続きを定めてプライバシー権を保障する条例の制定が必要不可欠である。
3 以上の観点から、当会は、警察や自治体等に対し、防犯対策等の策定にあたり、以下の事項に留意するよう提言する。
(1) 防犯対策等の策定にあたっては、制圧される人権の侵害を必要最小限度にするため万全の対策を行うべきである。
(2) 警察や自治体が、直接・間接に市民情報を網羅的に取得したり、取得した情報を統合するなどして、市民生活を監視することを防止するため、条例により、警察や自治体から独立した個人情報保護機関を設置し、同機関に警察や自治体の個人情報の収集・利用のあり方をチェックする権限を付与すべきである。
(3) 公道への監視カメラの設置・運用には、警察が関与すべきではない。
警察が、監視カメラを設置している団体に対して任意に情報提供を求めうる範囲は、少なくともそこで起こった犯罪に限定し、その他の場所で起こった犯罪のための情報は、令状に基づいて取得されるべきである。
(4) 福岡市は、監視カメラの設置・運用等に関し、適正手続やプライバシー権に十分配慮した条例を定めることなく、街頭への防犯カメラの設置・運用を自ら行ったり公金を支出すべきではない。
以上、宣言する。
2007年7月21日
福岡県弁護士会
九州弁護士会連合会
2007年6月12日
被疑者国選弁護制度の対応態勢確立に向けての宣言
1 昨年10月から被疑者国選弁護制度が始まった。
当会は1990(平成2)年12月全国に先駆けて当番弁護士制度(待機制)を創設し,その後,当番弁護士制度は燎原の火の如く全国に広がった。被疑者国選弁護制度の法制化は,当番弁護士制度(待機制)を創設した私達の悲願であり,長年にわたる運動の成果が実ったものである。当番弁護士の運動は地方から発した司法改革運動であると評価できる。
2 そして,2009(平成21)年には被疑者国選弁護制度の対象事件は必要的弁護事件にまで拡大されて第2段階を迎え,全国的には現在の10倍以上の10万件近くに達することになる。当会においても来るべき2009(平成21)年には被疑者国選弁護事件の対象事件は4000件を超えることが確実視されており,2009(平成21)年に向けての国選弁護の対応態勢作りが急務である。
弁護士の役割に関する原則[1990(平成2)年国連第45回総会決議]は「すべての人は自己の権利を保護,確立し,刑事手続のあらゆる段階で自己を防禦するために,自ら選任した弁護士の援助を受ける権利を有する」としており,被疑者,被告人の弁護人の援助を受ける権利を担保することは弁護士の責務である。
被疑者国選弁護制度の対応態勢を確立し,充実した制度にすることは我々弁護士の責務の履行であることを銘記する必要がある。
3 昨年9月に福岡で開催された第9回国選弁護シンポジウムにおいても,2009(平成21)年に向け,対応態勢の整備に精力的に取り組み,刑事弁護の現場での実践的で全国的な運動を展開していかなければならないことが確認された。
4 当会はあらためて,被疑者国選弁護制度の重要性を確認し,2009(平成21)年の被疑者国選弁護制度の第2段階の実施に向けて,全力を傾注して対応態勢を確立し,充実した刑事弁護を提供できるよう,あらゆる努力をすることを誓うものである。
以上宣言する。
2007(平成19)年5月23日
福 岡 県 弁 護 士 会
2003年6月12日
「住基カードの導入見送り等に関する要請」
福岡県の各市町村長・福岡県の各市町村議会議長殿へ陳情書
2003年6月12日 福岡県弁護士会 会長 前田 豊
陳情の趣旨
住民のプライバシー権・自己情報コントロール権を保障するための十分に実効性のある「所要の措置」(住民基本台帳法附則1条2項)が採られるまでの間、また少なくとも住基ネット管理の安全性が確認されるまでの間、住基ネットの稼働を一時停止し、併せて住基カードの導入を見送られるよう陳情いたします。\n 仮に、やむを得ず住基カードを導入される場合にも、住民基本情報以外の個人情報を盛り込まれないよう陳情いたします。
陳情の理由
1 個人情報保護法制度の成立は、「所要の措置」とは言えず、住基ネット管理の安全性は確認されていない 2002年8月5日に、住民基本台帳ネットワークシステムが稼働しました。その結果、全国民の個人情報が、全市町村、都道府県及び地方自治情報センターのコンピューターの下に管理され、国の行政機関が全国民の個人情報にアクセスすることが可能になりました。\n しかしながら、このような情報の集約及びネットワークによる結合は、技術的あるいは人為的な情報漏えい、情報の乱用の危険性を飛躍的に増大させ、個人の尊厳を大きく傷つけるおそれがあります。そのため、住基ネットの施行の前提として、技術的な情報漏えいを防ぐための万全なセキュリティー体制の確保とともに、人為的な情報漏えい、情報の乱用を防ぐための万全な法整備が不可欠です。それによって初めて国民のプライバシー権・自己情報コントロール権が保障されます。
住民基本台帳法附則1条2項にも、「この法の施行にあたっては、政府は、個人情報の保護に万全を期するため、速やかに所要の措置を講ずるものとする」と規定されています。
このような観点から、当会は、住基ネット稼動に伴うセキュリティー基本法の制定を求めるとともに、国民のプライバシー権・自己情報コントロール権を保障する個人情報保護法制の整備、各市町村における個人情報保護条例の整備を求めてきました。
しかるに、本年5月23日に成立した行政機関個人情報保護法及び個人情報保護法については、以下の通りの根本的な欠陥が存在し、国民のプライバシー権・自己情報コントロール権を保障する法律とはとうてい評価できません。
行政機関個人情報保護法には、(1)思想、信条等の差別につながるセンシティブ情報に関する収集禁止規定が存在せず、(2)行政機関の判断による利用目的の変更(3条3項)、目的外利用、外部提供(8条2項)を広く認めており、行政機関が「相当な理由」があると判断すれば、個人情報の目的外利用や他の機関への提供ができるなど、個人情報の流用を広く認めており、「保護」法というよりも個人情報「利用」法とでも呼ぶべき内容となっています。
昨年、個人の身元・思想信条等を含む個人情報リストを違法に作成し利用した防衛庁が、先般、住基情報ばかりか、親族情報や健康情報まで網羅的に収集し、それを管理していたことが報道されましたが、これらの法律は、このような個人情報の名寄せを正当化する根拠となりかねません。
また、個人情報保護法は、名簿業者や、信用情報取扱業者に対する規制が不十分であり、国民の個人情報のデータベース化や商業利用を十\分に防止できません。現に、本年2月15日には、全国銀行協会に加盟する一部の金融機関が、住民基本台帳法で禁止されているにもかかわらず、住基コードを本人確認に利用していたことが判明しています。
しかも、セキュリティー基本法が存在しないために、個々の地方自治体がセキュリティーに努めても、住民の個人情報が他の自治体や国の行政機関等予期せぬ機関から漏えいしたり、き損される危険が今なお存在しています。\n 総務省は、本年5月12日に「住民基本台帳ネットワークシステム及びそれに接続している既設ネットワークに関する調査票(全国の市町村を対象に本年1,2月実施)による点検結果」を公表しましたが、セキュリティ対策の体制・規定の整備や必要な管理について、「1割程度の市町村においては、必ずしも十\分な対応がなされていない」としています。また、長野県本人確認情報保護審議会は、本年5月28日、第1次報告をとりまとめていますが、長野県下120自治体の調査結果として、27自治体で住基ネットとインターネットが物理的に接続されており、長野県下の自治体に内外からインターネット経由でアクセスが殺到し、情報が流出する恐れがある、と報告しています。さらに、「長野県の実情は、決して長野県に特異なものではない」とも指摘していますが、この点は総務省の前記調査結果からも推認できるところです。コンピュータネットワークで繋がっている全ての自治体において、万全のセキュリティ対策を講じなければ、住民の個人情報は容易に流出することになりますが、現状は住基ネット管理の安全性に深刻な危惧が存在していると言わざるを得ません。
国民のプライバシー権・自己情報コントロール権を十分保障しないまま、また住基ネット管理の安全性が確認されないまま、住基ネットを稼働させることは、憲法13条が保障するこれらの基本的人権を侵害する不測の事態を生じさせる虞れがあります。\n 住民基本台帳法36条の2第1項には、「市町村長は、…住民票又は戸籍の附票に記載されている事項の漏えい、滅失及びき損の防止その他…適切な管理のために必要な措置を講じなければならない」と規定されています。
住民の個人情報を保護すべき責務を負う市町村にあっては、このような不測の事態が生ずることを避けるためにも、「適切な管理のために必要な措置」、「所要の措置」としてのセキュリティー基本法の制定、セキュリティー対策の整備及び個人情報保護法制の見直しまで、また少なくとも住基ネット管理の安全性が確認されるまで、住基ネットの稼働を一時停止されるよう陳情いたします。
2 住基カードの問題点
本年8月からは、住基カードの交付による住基ネットの2次稼働が予定されています。\n 住基カードは、住民票の広域交付等の前提となるものであり、その交付は、全市町村から県を通して国の行政機関に住民情報が集約されるという縦の情報集約から、各市町村相互の住民情報の融通という横の情報流通をさせる機能を有しており、住基ネットを完成させ技術的あるいは人為的な情報漏えい、情報の乱用の危険性を飛躍的に高めるものです。\n 総務省は、住基カードの利便性を高めるため、その中に図書館の利用情報や、商店街での購買情報等の生活情報等を例示して各自治体に情報の集積を勧めています。しかしながら、例えば、その導入時には使用目的が限定されていたアメリカの社会保障番号が、今や買い物の際にもそれが記載されたカードの提示が不可欠となるなど、事実上携行を余儀なくされる事態となっているように、住基カードも、無限定に使途を拡大すれば、将来、希望しないものもその利用を余儀なくされる危険があります。
しかも、総務省及び経済産業省は、住基カードに集積された個人情報が第三者によって不正に読みとられないようにする防護策の検討を、本年5月25日に始めたばかりであり、現時点における住基カードのセキュリティー対策はまだ不十分なものといわざるを得ません。\n また、行政機関における個人情報の不当な収集や名寄せが行われ、それを防止するための「所要の措置」が存在しない現状において、住基カードの交付が行われることは、住基ネットに対し、国民総背番号制の機能を与える危険性が極めて高いものです。\n 従って、国民のプライバシー権・自己情報コントロール権を保障するため十分に実効性のあると住民基本台帳法附則1条2項の「所要の措置」が採られるまでの間、住民基本台帳法36条の2第1項の「適切な管理のために必要な措置」として住基カードの導入を見送られるよう陳情いたします。また、仮にやむを得ずこれを導入される場合にも、市町村の管理する個人情報が不当な収集や名寄せ、あるいは情報漏えいにあうことのないよう、住民基本情報以外の個人情報を集積されないよう陳情いたします。\n