福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2025年8月 7日
今秋の臨時国会での再審法改正の実現を求める会長声明
声明
いわゆる福井女子中学生殺害事件において、2025年(令和7年)7月18日、名古屋高裁金沢支部は、検察官の控訴を棄却する判決を言い渡し、1990年(平成2年)の一審無罪判決を支持した。2025年(令和7年)8月1日、名古屋高検が上訴権を放棄したことで、一審無罪判決が確定した。当会はいわゆる袴田事件の再審無罪判決に際して発した会長声明において、逮捕から無罪判決までに58年もの年月を要したことを指摘したが、本件についても逮捕から今般の控訴棄却判決の言い渡しまでに38年もの年月が費やされている。人生の多くを自己のえん罪を晴らすための闘いに費やさざるを得なかったその余りの残酷さは、袴田事件と同様、筆舌に尽くしがたいものがあるといわざるを得ない。
このように、えん罪被害者の救済が遅れる理由が現行の再審法の不備にあることは衆目の一致するところである。2025年(令和7年)6月18日、野党により衆議院に「刑事訴訟法の一部を改正する法律案」(以下、「本法案」という。)が提出され、その後、衆議院法務委員会に付託されて、閉会中審査となっている。本法案は、「再審制度によって冤(えん)罪の被害者を適正かつ迅速に救済し、その基本的人権の保障を全うする」という観点から、①再審請求審における検察官保管証拠等の開示命令、②再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止、③再審請求審等における裁判官の除斥及び忌避、④再審請求審における手続規定を定めることを内容とするものである。これは、当会が2023年(令和5年)9月の総会決議及びこれに続く累次の会長声明で繰り返し求めてきた再審法改正の内容と軌を一にするものであって、高く評価できる。
一方で、再審法改正に関しては、2025年(令和7年)4月21日以降、法制審議会刑事法(再審関係)部会(以下、「法制審部会」という。)において審議が行われており、本法案の定める4項目も審議対象となっている。
しかし、上記4項目の改正に関して、まず、検察官と密接な関係を有する法務省が事務局を務める法制審議会が主導的な役割を担うことについて、えん罪被害者の適正かつ迅速な救済を目指すという観点において強い懸念を表明せざるを得ない。
つぎに、再審法改正は、何よりもえん罪被害者の速やかな救済に資するものでなければならない。そして、上記4項目は、数多くある論点の中でも、えん罪被害者の速やかな救済を実現する上で根幹をなすものであるから、これらの点については、早急に法改正がなされるべきである。それにもかかわらず、法制審部会では、再審手続における証拠開示の範囲を新証拠及びそれに基づく主張に関連する限度にとどめようとする意見や、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを禁止することに消極的な意見が見受けられた。これらを受けて、事務局を務める法務省が原案をとりまとめる形で、上記4項目の改正に関する是非を含む全14項目にも及ぶ論点が提示された。法制審部会での早期のとりまとめを目指すとしても、その法案化までにはなおも相当な期間を要することは明らかで、再審法改正が速やかに進む目処は立っていないと言わざるを得ない。
このような状況に照らせば、えん罪被害者の早期救済のためには「国の唯一の立法機関」である国会こそ、速やかにあるべき再審法改正の方向性を示すことが重要である。多くの地方議会や首長、民間団体などからも広く支持が表明されていることは、その証左である。
よって、当会は、国会に対し、速やかに本法案の審議を進め、今秋に予定されている臨時国会において本法案を可決・成立させることを求めるものである。
2025年(令和7年)8月6日
福岡県弁護士会
会長 上 田 英 友