福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2025年7月18日

生活扶助基準引下げを違法とした最高裁判所判決を高く評価し、直ちに判決を踏まえた是正措置を実施するとともに生活保護基準を適正に見直すよう求める会長声明

声明

 2025年(令和7年)6月27日、最高裁判所は、大阪府内、愛知県内の生活保護利用者らが、2013年8月から3回に分けて行われた生活扶助基準引下げ(以下「本件引下げ」という。)に係る保護費減額処分の取消等を求めた訴訟の上告審において、厚生労働大臣による本引下げの違法性を認め、保護費の減額処分を取り消す判決(以下「本判決」という。)を言い渡した。
 本判決は、本件引下げの主な理由とされた「ゆがみ調整」(指数の適正化)及び「デフレ調整」(物価変動率=下落率の反映)のうち、「デフレ調整」について次のように指摘し、生活保護法3条、8条2項に違反して違法と判断した。
 すなわち、本判決は、まず、厚生労働大臣の裁量判断の適否の審理においては、本件引下げに至る判断の過程及び手続に過誤、欠落があるか否か等の観点から、統計等の客観的数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の有無等について審査されるべきであるという判断枠組を示し、その上で、「デフレ調整」に関し、生活保護法8条2項が最低限度の消費水準を保障するものであること、他方で、物価変動が直ちに同程度の消費水準の変動をもたらすものとはいえないことを指摘し、本件引下げにおいて国が物価変動率のみを直接の資料として基準生活費の改定率を定めたことについては、十分な説明もなされておらず、その合理性を基礎付けるに足りる専門的知見があるとは認められないことから、厚生労働大臣の判断の過程及び手続には過誤、欠落があったとした。
 全国29の地方裁判所に提起されていた本件と同種の訴訟では、最高裁判決前までの時点で、20地裁、7高裁において生活保護利用者側勝訴の判決が出されていた。本判決は、憲法25条が定める生存権保障の分野において、法の支配、法による正義を実現するという司法の役割が果たされたものとして高く評価することができる。
 本件引下げが実施された2013年8月当時、生活保護利用者は215万人を超えていたが、本判決によって補償措置を図られるべき対象はそのすべてに及ぶ。生活保護利用者に対する補償措置は、国及び各地方自治体の喫緊の責務である。
 また、当会は、これまでも繰り返し、生活保護基準の見直しを求める会長声明(直近では2025年2月19日付)を発出してきたが、本判決を受けて国が生活保護基準を見直すべきことは明確になったといえる。その見直しにあたっては、判断過程の適正の確保を求める本判決の趣旨を踏まえ、生活保護法3条及び8条2項の趣旨を十分に反映しつつ、生活保護利用者の実態を考慮できる適切な検討方法がとられなければならないといえよう。
よって、当会は、国及び各自治体に対し、本判決を重く受け止め、直ちに、訴訟の全面解決を図り、かつ、本件引下げによって減額された保護費の差額を支給するなど必要な補償措置の実施を求めるとともに、国の責任として判断過程の適正を確保しながら速やかに生活保護基準を適正な内容に見直すよう強く求める。

2025年(令和7年)7月16日

福岡県弁護士会        

会 長  上田 英友     

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