福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2025年1月30日
「日本の死刑制度について考える懇話会」報告書の公表を受けての会長声明
声明
日本弁護士連合会の提唱により2024年(令和6年)2月に国内各界及び各層の有識者を委員とする「日本の死刑制度について考える懇話会」(以下「懇話会」という。)が立ち上げられた。その後、熱心に議論を重ねられ、全員一致で採択された報告書(以下「本報告書」という。)が同年11月13日に公表された。
本報告書では「早急に、国会及び内閣の下に死刑制度に関する根本的な検討を任務とする公的な会議体を設置すること」とし、その会議体においては、特に「国際社会の中の日本」という視点、死刑と無期拘禁刑の分水嶺に関わる事件における特別な手続的保障の制度化の要否、被害者遺族の置かれた実情と支援の在り方、死刑を廃止した上で代替刑の創設等により国民の危険や不安を取り除けるのかどうか及び国民の死刑制度に関する意見を的確に集約する方法について等、慎重かつ具体的な検討を行うべきことを提言している。
当会は、死刑制度の廃止が実現するまでの間、死刑の執行を停止することなどを求めた「死刑制度の廃止を求める決議」を採択し(2020年(令和2年)9月18日)、また、死刑確定者の人権救済申立を受けて福岡拘置所内処遇に警告を発し(2021年(令和3年)10月26日)、死刑制度の非人道性が浮き彫りされた飯塚事件の再審事件を受けて、死刑廃止及び再審請求事件における証拠開示の制度化を含む再審法改正等、えん罪を防止・救済するための制度改革の実現を目指して全力を尽くす決意をしたところであり(2024年(令和6年)7月10日)、本報告書が直ちに死刑制度の廃止を求めるものではないことには賛意を表しがたいが、「誤判のおそれは、裁判に不可避的に伴うもの。死刑の場合は取り返しがつかない。」との指摘には賛同するとともに、国会、内閣、そして国民全体で死刑制度について真剣に考えるべきことを提言されたことには大いに意義あることとして受け止めたい。
他方、日本政府は、本報告書が公表された翌日の官房長官記者会見によれば、死刑廃止に否定的な立場を崩しておらず、本報告書が提唱する死刑制度の在り方を検討する会議体の設置も考えていない。このような頑なな姿勢は、過去4件の死刑確定再審無罪事件に袴田事件が加わり、それ以外にも再審開始決定が相次いでいる人権侵害を軽視するものであって、甚だ遺憾である。
当会は、日本政府に対し、死刑は、人の生命を奪う不可逆的な刑罰であって、死刑判決がえん罪であった場合、これが執行されてしまうと取り返しがつかない人権侵害であることを訴え、死刑制度の廃止に向けて、本報告書の提言に沿って、早急に、国会及び内閣の下に死刑制度に関する根本的な検討を任務とする公的な会議体を設置すること、その結論が明らかにされるまでは死刑の執行を停止することを強く求めるものである。
2025年(令和7年)1月29日
福岡県弁護士会
会 長 德 永 響