福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2025年1月10日
福岡・東京高裁判決を受け、直ちに、すべての人にとって 平等な婚姻制度の実現を求める会長声明
声明
1 同性間の婚姻ができない現在の婚姻に関する民法及び戸籍法の諸規定(以下「本
件諸規定」という。)の違憲性を問う一連の訴訟において、2024年10月30
日に東京高等裁判所判決が、同年12月13日福岡高等裁判所判決が、それぞれ出
された。
一連の訴訟は、札幌・東京(一次・二次)・名古屋・大阪・福岡の各地裁の判決
が出され、いずれも原告側が控訴していたところ、上記2高裁判決は、同年3月1
4日の札幌高裁判決に続く、高裁における2件目、3件目の判断である。
2 東京高裁判決は、憲法24条及び14条1項に違反するとした札幌高裁判決に引
き続き、明確に、本件諸規定の違憲性を指摘した。
すなわち、同判決は、民法は、男女の夫婦とその間に生まれた子からなる家族を
一般的に想定しているものの、この一般的な想定の全体にあてはまる家族だけを社
会的に正当な家族のあり方と認めているわけではないとし、婚姻は、子の生殖より
も当事者間の永続的な関係を重視したものと理解されてきた旨指摘した。そのうえ
で、婚姻をすることで、自らの自由意思により人生の伴侶と定めた相手との永続的
な人的結合関係について配偶者としての法的身分関係の形成ができることは、安定
的で充実した社会生活を送る基盤をなすものであり、個人の人格的存在と結びつい
た重要な法的利益として十分に尊重されるべきものとした。
そして、同性に性的指向が向く者については、こうした個人の人格的存在と結び
ついた重要な法的利益やそれに伴う法的効果が、本人の意思で選択や変更すること
ができない性的指向という属性により与えられていないという区別が生じていると
ころ、こうした区別により生じる不利益は重大であり、区別に合理的根拠があると
はいえないとし、性的指向が同性に向く者について、現行法令が、民法739条に
相当する配偶者としての法的身分関係の形成にかかる規定を設けていないことは、
憲法14条1項及び24条2項のいずれにも違反すると判断した。
3 また、福岡高裁判決も、上記2判決に引き続き、本件諸規定の違憲性を正面から
認定した。
同判決で特徴的な点は、一連の訴訟の判決において初めて、本件諸規定について
憲法13条違反を指摘したことである。すなわち同判決は、婚姻をするかどうか、
誰を婚姻の相手として選ぶかについては、両当事者の自由かつ平等な意思決定に委
ねられており、その意味で、婚姻についての個人の尊厳が保障されているとした。
さらに、憲法は、婚姻について個人の自由を保障するだけにとどまらず、婚姻の成
立・維持について法制度による保護を受ける権利をも認めており、これは、憲法1
3条が認める幸福追求権の一つであるとしたうえ、幸福追求権としての婚姻につい
て法的な保護を受ける権利は、個人の人格的な生存に欠かすことのできない権利で
あり、裁判上の救済を受けることができる具体的な権利であるとした。そのうえ
で、こうした権利は、男女のカップルも異性のカップルも等しく有しているにもか
かわらず、両当事者が同性である場合には、婚姻にかかる法制度を設けず、法的保
護を与えないことは、同性を伴侶として選択する者が幸福を追求する途を閉ざすも
のであると批判し、同性カップルを婚姻制度の対象外とする本件諸規定は幸福追求
権の侵害であって憲法13条に反するものであると断じた。
また、同判決は、同性カップルを婚姻制度の対象外とすることについては、合理
的な根拠なく同性カップルを差別的に取り扱うものであって、憲法14条1項に違
反すると、本件諸規定のうち、同性のカップルを婚姻制度の対象外とする部分は、
個人の尊厳を定めた憲法13条に反するのだから、婚姻に関する法律は個人の尊厳
に立脚して制定されるべき旨を定める憲法24条2項に違反すると、それぞれ判断
した。
さらに同判決は、一連の訴訟の中でたびたび言及されてきた、婚姻ではない別制
度を設けるという選択肢に対し、「幸福追求権としての婚姻の成立及び維持につい
て法制度による保護を受ける権利は、男女のカップル、同性のカップルのいずれも
等しく有していると解されるから、同性カップルについて法的な婚姻制度の利用を
認めないことによる不平等は、パートナーシップ制度の拡充又はヨーロッパ諸国に
見られる登録パートナーシップ制度の導入によって解消されるものではなく・・・
同性のカップルに対し、端的に、異性婚と同じ法的な婚姻制度の利用を認めるので
なければ、憲法14条1項違反の状態は解消されるものではない」と、明確にこれ
を否定した。この点は、極めて画期的な判断である。
4 一連の訴訟では、地裁レベルとしては、大阪地裁を除く4地裁5判決において、
本件諸規定を違憲ないし違憲状態とする判断が出ていた。
高裁レベルにおいては、札幌高裁判決、そして今回の上記2判決のいずれもが、
明確に本件諸規定を違憲であると判断し、また、原告側が憲法違反であると主張
していた憲法13条、14条1項、24条1,2項のいずれについても、違憲性
が指摘されたことになる。
当会は、これまでの会長声明において、本件諸規定を違憲とする判決が相次い
でいることから、もはやこのような司法判断の流れは確定し、もはや動かしがた
い、と指摘してきた。それからさらに、高裁レベルで明確な違憲判決が続いてお
り、この流れはさらに加速していることは明らかである。
また、福岡高裁判決は、現時点での立法不作為による国家賠償責任は否定しつ
つも、「本件立法不作為すなわち本件諸規定を改廃等しないことは、国家賠償法
上の責任を生じさせ得るものである」としており、国による立法行為を強く促し
ている。
もはや、これ以上の立法・施策の懈怠は、一切許されない状況というべきであ
る。
本問題に関する政府・与党(自由民主党)の姿勢は、従前、極めて後ろ向きで
あり、政府は、同性間の婚姻制度の導入について、「極めて慎重な検討を要す
る」との紋切り型の答弁を繰り返すばかりであった。この点、石破茂首相は、
2024年12月5日の衆議院予算委員会において、従前の答弁を踏襲しつつ
も、「それ(※同性婚が認められないこと)によっていろいろな負担を持ってお
られる方々、そういう方々のお声を等閑視することはいたしません」と答弁した。
また、同月17日の参議院予算委員会においては、同性婚が実現されれば、日本
全体の幸福度にとってプラスの影響を与えるとも答弁している。これらは、従来
の形式的答弁から一歩踏み込んだものと評価できるが、そうであるならば、この
答弁を空手形とせず、速やかに同性婚を認める立法を行わなければならない。
5 当会は、2019年5月29日の「すべての人にとって平等な婚姻制度の実現
を求める決議」において、憲法13条、14条、24条や国際人権自由権規約に
より、同性カップルには婚姻の自由が保障され、また性的少数者であることを理
由に差別されないこととされているのだから、国は公権力やその他の権力から性
的少数者が社会的存在として排除を受けるおそれなく、人生において重要な婚姻
制度を利用できる社会を作る義務があること、しかし現状は同性間における婚姻
は制度として認められておらず、平等原則に抵触する不合理な差別が継続してい
ることを明らかにし、政府及び国家に対し、同性者間の婚姻を認める法制度の整
備を求めた。また、一連の訴訟の札幌地裁判決、大阪地裁判決、東京地裁(一次)
判決、名古屋・福岡地裁判決、東京地裁(二次)・札幌高裁判決に際しても、そ
れぞれ2021年4月28日、2022年8月10日、2023年1月18日、
同年6月15日、2024年4月9日に会長声明を発し、政府・国会に対し、同
性間の婚姻制度を早急に整備することを改めて求めてきた。
当会は今後も、性的少数者を含めたすべての人にとって平等な婚姻制度の実現
に向け、努力していく所存である。
以 上
2025年(令和7年)1月10日
福岡県弁護士会
会 長 德 永 響
2025年1月30日
「日本の死刑制度について考える懇話会」報告書の公表を受けての会長声明
声明
日本弁護士連合会の提唱により2024年(令和6年)2月に国内各界及び各層の有識者を委員とする「日本の死刑制度について考える懇話会」(以下「懇話会」という。)が立ち上げられた。その後、熱心に議論を重ねられ、全員一致で採択された報告書(以下「本報告書」という。)が同年11月13日に公表された。
本報告書では「早急に、国会及び内閣の下に死刑制度に関する根本的な検討を任務とする公的な会議体を設置すること」とし、その会議体においては、特に「国際社会の中の日本」という視点、死刑と無期拘禁刑の分水嶺に関わる事件における特別な手続的保障の制度化の要否、被害者遺族の置かれた実情と支援の在り方、死刑を廃止した上で代替刑の創設等により国民の危険や不安を取り除けるのかどうか及び国民の死刑制度に関する意見を的確に集約する方法について等、慎重かつ具体的な検討を行うべきことを提言している。
当会は、死刑制度の廃止が実現するまでの間、死刑の執行を停止することなどを求めた「死刑制度の廃止を求める決議」を採択し(2020年(令和2年)9月18日)、また、死刑確定者の人権救済申立を受けて福岡拘置所内処遇に警告を発し(2021年(令和3年)10月26日)、死刑制度の非人道性が浮き彫りされた飯塚事件の再審事件を受けて、死刑廃止及び再審請求事件における証拠開示の制度化を含む再審法改正等、えん罪を防止・救済するための制度改革の実現を目指して全力を尽くす決意をしたところであり(2024年(令和6年)7月10日)、本報告書が直ちに死刑制度の廃止を求めるものではないことには賛意を表しがたいが、「誤判のおそれは、裁判に不可避的に伴うもの。死刑の場合は取り返しがつかない。」との指摘には賛同するとともに、国会、内閣、そして国民全体で死刑制度について真剣に考えるべきことを提言されたことには大いに意義あることとして受け止めたい。
他方、日本政府は、本報告書が公表された翌日の官房長官記者会見によれば、死刑廃止に否定的な立場を崩しておらず、本報告書が提唱する死刑制度の在り方を検討する会議体の設置も考えていない。このような頑なな姿勢は、過去4件の死刑確定再審無罪事件に袴田事件が加わり、それ以外にも再審開始決定が相次いでいる人権侵害を軽視するものであって、甚だ遺憾である。
当会は、日本政府に対し、死刑は、人の生命を奪う不可逆的な刑罰であって、死刑判決がえん罪であった場合、これが執行されてしまうと取り返しがつかない人権侵害であることを訴え、死刑制度の廃止に向けて、本報告書の提言に沿って、早急に、国会及び内閣の下に死刑制度に関する根本的な検討を任務とする公的な会議体を設置すること、その結論が明らかにされるまでは死刑の執行を停止することを強く求めるものである。
2025年(令和7年)1月29日
福岡県弁護士会
会 長 德 永 響