福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2024年12月 5日

選択的夫婦別姓の早期実現を求める会長声明

声明

国際連合の女性差別撤廃委員会(以下「委員会」という。)は、2024年10月29日、女性差別撤廃条約の実施状況に関する第9回日本政府報告書に対して、総括所見を発表した。
委員会は、一部の積極的側面を評価しつつも、多くの懸念と勧告を示し、その中でも過去3回にわたり勧告してきた「結婚後も女性が旧姓を保持できるように、夫婦の姓の選択に関する法律を改正すること」(選択的夫婦別姓制度の導入)が実現されてないことについて、4回目の勧告を行った。
第8回報告までの審査では、民法の規定のうち、女性の婚姻適齢を男性と同じ18歳に引き上げること、女性が婚姻前の姓を保持できるよう夫婦の氏の選択に関する法規定を改正すること、及び女性に対する離婚後の再婚禁止期間を全て廃止することが勧告されていたが、今回唯一改正されていない選択的夫婦別姓の導入について、2年後までに書面で報告を求めるというフォローアップ規定付きで、改善を求められたものである。

民法第750条は、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と定め、婚姻後の夫婦同姓を義務付けているが、現実には法律婚をする夫婦の約95%の割合で、女性が姓を変えており、実際には、女性に夫の姓を採用することを強いていることも多い。この点については2022年11月の国際人権自由権規約委員会の総括所見でも懸念を表明されているところである。
氏名は個人の識別機能を有するだけではなく個人の人格の象徴であり、氏名の変更を強制されない自由も憲法第13条の人格権として保障される。婚姻に際して一方当事者に姓の変更を強制することは、憲法第13条に反する。
また、民法第750条は、事実上、多くの女性に改姓を強制し、その姓の選択の機会を奪うものであり、両性の平等を定める憲法第14条に反し、婚姻における人格的自律権の尊重を定める憲法第24条にも反する。
最高裁判所は、2015年12月16日判決及び2021年6月23日決定で民法第750条を合憲としたが、これらの判断は、同制度の導入を否定したものではなく、夫婦の姓に関する制度の在り方は「国会で論ぜられ、判断されるべき事柄にほかならない」として、国会での議論を促したものである。しかし、未だに国会での審議は行われていない。

近時の官民の各種調査においては、選択的夫婦別姓制度の導入に賛成する意見が多数を占めているし、経済団体等からも、現状が女性活躍、ビジネスの阻害要因になっていることなどを理由に、同様の要望が出されている。
通称姓については、戸籍姓との使い分けによる混乱を招くことも多く、金融機関や公的機関では使用が困難な状態が続いている。この点、民法第750条を改正せずとも、通称姓使用を制度として確立し拡大すればよいとの意見もある。しかし、仮に、通称姓の使用が広く認められるようになったとしても、婚姻に際し夫婦の一方が改姓を強いられるという人格権侵害や両性の本質的な平等違反は残るのであり、憲法に反する人権侵害の解消にはならない。
今回は、委員会から4回目の勧告をうけたと同時に、10月の衆議院選挙でも大きな争点となり、制度導入に対する国民の期待が高まっていることが明らかとなった。

当会は、これまで民法第750条が憲法に違反することを繰り返し指摘して改正を求めてきたところであるが(2010年4月22日会長声明、2015年5月27日総会決議、2015年12月17日会長声明、2021年7月7日会長声明)、改めて、国に対し、速やかに民法第750条を改正し、選択的夫婦別姓を実現するよう強く求める。

2024年(令和6年)12月5日
福岡県弁護士会
会 長  德 永   響

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