福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2024年6月19日
商業登記規則等の一部を改正する省令における代表取締役等住所非表示措置について、弁護士が代表取締役等の住所情報にアクセスできる制度の創設を求める意見書
意見
第1 意見の趣旨
当会は、国に対し、商業登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第28号)における代表取締役等の住所非表示措置について、弁護士が職務上必要な場合には、迅速に代表取締役等の住所情報にアクセスすること(オンラインにより住所情報を取得することを含む。)を可能とするための措置の創設を求める。
第2 意見の理由
1 省令の改正内容
2024年(令和6年)4月16日、「商業登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第28号)」(以下「本省令」という。)が公布された。
この省令は、一定の要件を満たした場合には、申出により、株式会社の代表取締役、代表執行役又は代表清算人(以下「代表取締役等」という。)の住所の一部について、登記事項証明書や登記事項要約書、登記情報提供サービスに表示しないこととする措置(以下「住所非表示措置」という。)を定めたものである。
住所非表示措置がとられると、代表取締役等の住所は最小行政区画までしか記載されないこととなる。
本省令は、2024年(令和6年)10月1日の施行が予定されている。
2 本省令施行後の対応
本省令施行後は、代表取締役等の住所非開示措置が講じられた場合で、代表取締役等の住所を把握する必要があるときには、管轄法務局に対し、代表取締役等の住所が記載された書面を閲覧することについて法律上の利害関係を有することを疎明した上で、管轄法務局の登記官の面前で閲覧をするか、または、不動産登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第32号)で導入されたウェブ会議システムを利用した非対面で閲覧する方法をとらなければならないことになる。
前者の方法では、利害関係を疎明する資料の作成に手間を要し、管轄法務局の窓口まで出向かなければならないことになる。また、後者の方法でも、請求者が、窓口または郵送で、所定の方式により登記申請書の閲覧請求を行った後、登記官が、これを相当と認め、かつ、正当な理由があると判断した場合に、請求人に連絡して日程調整を行い、実際の閲覧手続に進むというものであって、実際の閲覧に至るまでには相当の時間を要するものと見込まれる。
3 手当の必要性
本省令は、代表取締役等のプライバシーを保護するという趣旨によるものであるが、その趣旨には賛同する。
しかし、商業登記における代表取締役等の住所の公開は、①会社に事務所や営業所がない場合の普通裁判籍を決する基準となるものであり、本店所在地への送達が不能となった場合での送達場所ともなるものである。また、②会社を悪用した詐欺商法を含む消費者被害等の救済にあたっては、代表取締役等の住所地は大きな手がかりとなるものであるが、本省令では②の点について特段の手当てはない。
昨今、国際ロマンス詐欺やSNS型投資詐欺等の詐欺商法が多数発生し、社会問題化しているが、被害金の振込先等で会社名義の預金口座等が多数悪用されている。上記②の点について手当がないままであれば、今後も会社名義が悪用された詐欺商法が一層増加することが懸念される。
このような被害者の被害回復を図るためには、裁判手続における送達場所となったり、法的責任(会社法第429条1項等)を負ったりする代表取締役等の住所を迅速に特定することが必要であって、特に被害回復のために保全の手続が必要であったり、消滅時効の問題があったりする場合等は、即時に住所を把握しなければならない。代表取締役等の住所を迅速に特定できるか否かは、弁護士が相談を受けた際の初期段階における方針策定や依頼の可否・要否の判断に非常に重要である。代表取締役等の住所を特定する方法として附属書類等の閲覧しか手段が確保されないのであれば、現行制度では被害回復が可能なケースであっても、これが難しくなる場合が発生する事態を許容することとなり、十分とはいえない。
4 結語
そこで、弁護士がその職務として行う場合には、迅速に代表取締役等の住所情報にアクセスできる仕組みを設けることで、プライバシー保護との調整を図るべきである。
商業登記よりもプライバシー情報の量が多い戸籍や住民票について、弁護士による職務上請求が認められていることに鑑みても(戸籍法第10条の2及び住民基本台帳法第12条の3参照)、代表取締役等の住所についての弁護士による職務上請求制度の創設がなされることに問題はない。
また、デジタル化推進の中においては、戸籍や住民票の職務上請求と同様の要件を満たす場合には、オンラインによる請求でも代表取締役等の住所の情報を迅速に弁護士が入手できる仕組みも必要である。
以上のとおりであるから、当会は、国に対し、本省令における代表取締役等の住所非表示措置について、弁護士が職務上必要な場合には、迅速に代表取締役等の住所情報にアクセスすること(オンラインにより住所情報を取得することを含む。)を可能とするための措置の創設を求める。
2024年(令和6年)6月19日
福岡県弁護士会 会長 德永響
2024年6月20日
最低賃金額の大幅な引上げ及び地域間格差の解消を求める会長声明
声明
福岡県においては、昨年度、福岡県最低賃金を前年度比41円増額の時間額941円とする改正が行われた。しかし、時給941円は、1か月の平均所定労働時間の上限173.8時間で計算しても月額16万3500円程度と、未だ、いわゆるワーキングプアと呼ばれる水準にとどまっている。
原材料価格の高騰や近年の極端な円安の進行、食料品・日用品や光熱費など生活関連品の価格が昨年に引き続き上昇傾向にあることをふまえると、労働者の生活を守り、経済を活性化させるためには、全ての労働者の実質賃金の上昇を実現する必要があり、そのためには最低賃金額を大きく引き上げて賃金全体の底上げを図ることが不可欠である。
同時に、最低賃金法第9条以下の地域別最低賃金制度を抜本的に見直し、地域間格差の解消に向けて全国一律最低賃金制度の導入についても検討されるべきである。
中央最低賃金審議会は、昨年度、地域別のランク制度を4段階から3段階に改定し地域間格差の解消を図ったが、その効果は限定的である。2023年度(令和5年度)の最低賃金は、最も高い東京都で時給1113円であるのに対し、福岡県では時給941円、12県では時給890円台にとどまり、時給格差はなおも縮まる傾向を示していない。
地域の最低賃金の高低と人口の増減には強い相関関係があり、最低賃金の格差は、最低賃金が低い地域の人口減ひいては経済停滞の要因ともなっている。地域間格差の解消は、地域経済にとってもプラスの影響をもたらしうるものである。また、地域別の労働者の生計費の差についていえば、最近の調査によれば、都市部と地方の間でほとんど差がないという分析がなされている。この点からも、地方の最低賃金を都市部の水準にまで引き上げることが検討されるべきである。
一方で、地域経済を支える中小企業への支援策も不可欠である。最低賃金の引き上げと同時に、中小企業が最低賃金を引き上げても円滑に企業運営を行うことができるよう十分な支援策を講じることが必要である。例えば、社会保険料の事業主負担部分を免除・軽減することや、賃上げを実施したすべての中小企業が対象となる利用しやすい助成金制度の創設、原材料費等の価格上昇を取引に正しく反映させることを可能にするような公正取引規制の徹底などの支援策が考えられる。
ここ数年、全国の地方公共団体において、最低賃金の引き上げと中小企業支援の拡充を求める意見書を採択する動きが相次いでおり、福岡県内でも福岡県及び60市町村のうち22市町村において同様の意見書が採択されている(全国一律を求める意見書の採択は17市町村)。
当会は、各地域との連携も図りつつ、引き続き、国に対し、中小企業への十分な支援策を求めるとともに、本年度、中央最低賃金審議会が、厚生労働大臣に対し、地域間格差を縮小しながら全国すべての地域において最低賃金の引上げを答申すべきこと、福岡地方最低賃金審議会が、福岡労働局長に対し最低賃金の大幅な引上げを答申すべきことを強く求める。
2024年(令和6年)6月19日
福岡県弁護士会
会 長 德 永 響