福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2024年5月27日

刑事身体拘束手続に関する裁判所の運用改善を求める決議

決議

(決議の趣旨)
  当会は、「人質司法」という言葉に代表される日本の刑事身体拘束を巡る問題を改革するために、以下のような裁判所及び裁判官の運用改善を求める。
(1)各裁判官に対して
  ア 勾留質問において勾留理由に関する具体的な質問をするなどして実質的な勾留質問を行い、これを適切に勾留質問調書に記載する運用とすること。
  イ 勾留質問への弁護人の立会いを認める運用とすること。
  ウ 勾留の判断にあたっては、防犯カメラの普及や科学技術・IT技術の進展、各人がスマートフォン等の電子機器によって容易に録画録音が可能となる等、勾留理由が認められにくくなった社会変化を前提に、身体不拘束の原則や比例原則も踏まえて勾留理由を厳格に判断する運用とすること。
(2)最高裁判所に対して
  ア 勾留質問調書の参考書式について罪証隠滅や逃亡のおそれなどの勾留理由に関する具体的な質問を促すものに変更すること。
  イ 勾留質問に際しては、被疑事実に関する陳述の聴取に留まらず、必要な範囲で勾留理由の有無を判断するのに必要な事情を聴取すべきであることを各裁判所に通達又は通知すること。

2024(令和6)年5月24日

福岡県弁護士会


(決議理由)
1 日本における刑事身体拘束手続の問題
(1)憲法34条は「何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。」と規定している。
   これを受けて刑事訴訟法では、逮捕要件や勾留要件を定めた上で、逮捕や勾留について裁判所による令状審査を要求した上で、特に勾留に当たっては、裁判官が直接被疑者・被告人に面談する勾留質問の手続を経なければならないと定めている。
   また、日本も批准する国際人権(自由権)規約9条3項は、逮捕・抑留された者は、司法機関の面前に速やかに引致され、引致後「妥当な期間内に裁判を受ける権利又は釈放される」権利を有することを保障し、「裁判に付される者を抑留することが原則であってはなら」ないと定め、身体不拘束の原則を明らかにしている。
(2)ところが、このような憲法や刑事訴訟法、そして国際人権(自由権)規約の定めがあるにも関わらず、実際には刑事訴訟法が歪曲された形で運用され、憲法が「正当な理由」を求め、刑事訴訟法が「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」を求める被疑者の勾留の要件について、実務においては、抽象的な「証拠隠滅のおそれ(=可能性)」として解釈し、安易に勾留が認められる傾向にある。
   そして、いったん勾留されれば、起訴前保釈制度がない中で最長23日間の長期にわたって身体拘束を余儀なくされ、起訴後も保釈が認められなければ判決まで身体拘束が続くことになる。
   特に、被疑者が否認するなど事実関係を争ったり、あるいは黙秘権を行使したりしている場合には、安易に「罪証隠滅のおそれ」を認めて勾留し、判決まで、あるいは証人の証拠調べ等が終わるまでは保釈も認められないことから、被疑者自身の身体の自由を人質として自白を強要する「人質司法」と呼ばれてきた。
   また、被疑者が罪を認めている事件で、罰金刑や執行猶予判決が見込まれ、実際には刑務所に収監されないようなケースでも、起訴前・起訴後の勾留が認められるケースは非常に多い。令和4年の司法統計年報を見ても、起訴後に勾留された人員総数(起訴後に保釈等で釈放された被告人も含む。)が32,308人であるのに対して、死刑及び実刑判決を受けた総数は14,184人に過ぎない。
   裁判で有罪になっても処罰としては身体拘束を受けないにも関わらず、捜査段階では身体拘束が認められるというのは、裁判を目的として捜査が行われるという制度上の関係から考えれば、明らかに異常なことである。
   しかし、検察官も裁判官も何ら疑問を持たずに安易に勾留が認められ、弁護人ですらその異常さに慣れてしまっている現状にある。
2 当会や日弁連の取り組み
(1)かかる日本の刑事身体拘束手続の問題に関しては、古くから当会も日本弁護士連合会も問題を指摘するともに、様々な宣言や決議をしたり、意見書をまとめたりしてきた。
   その後の刑事司法改革の中で、被疑者国選弁護制度の導入や拡大、裁判員裁判制度の誕生、公判前整理手続の導入、一部事件についての取調べの録画録音の義務付けといった法改正を伴う制度改革は行われてきた。
   しかし、刑事身体拘束に関する制度改革は特になされず、逆に2023(令和5)年には公判期日等への出頭及び裁判の執行の確保を目的とした刑事訴訟法改正がなされるような状況にある。
(2)このような状況の中で、埼玉弁護士会が全国に先駆けて2010(平成22)年から「被疑者の不必要な身体拘束に対する全件不服申立運動」を実施し、これが全国に広がっていった。
   九州弁護士会連合会においても各地でこの運動を開始し、当会では2017(平成29)年に北九州部会で先行して運動を始め、全県的にも当会の刑事弁護等委員会が呼びかける形で2018(平成30)年以降、本年に至るまで運動を実施してきており、勾留請求や勾留決定そのものを阻止したり、不服申立によって勾留決定が取り消されたりするなど、個々の弁護実践の中でも一定の成果を上げてきた。そして、2020(令和2)年9月には、当会の臨時総会において「刑事身体拘束手続に関する法改正と運用改善を求める決議」がなされ、勾留質問時の弁護人立会権の保障や勾留判断における比例原則適用を明記する刑事訴訟法の改正、勾留質問・勾留理由開示手続・勾留判断における運用改善を求めた。
   このうち、勾留質問の運用改善に関しては、勾留質問において罪証隠滅や逃亡のおそれなどの勾留理由に関する具体的な質問をするなどして実質的な勾留質問を行う運用や、勾留質問への弁護人の立会いを認める運用改善を求めた。
   そして、決議後には個々の事件において勾留質問の実質化や弁護人立会いを求める申入書を裁判官に提出するよう会員に呼びかけ、実際に少なくない事件で勾留質問の実質化や弁護人立会いを求める申入書が提出されてきている。
(3)このような取り組みの影響もあってか、2009(平成21)年までは1%を切っていた勾留請求却下率が急激に増加し、2014(平成26)年には2%を超え、2019(令和元)年には5%を上回るに至った。
   このような勾留請求却下率の動きは、一見すると裁判官が勾留判断を厳格に行うようになったようにも受け止められる。
   しかし、勾留請求却下率はその後減少に転じ、2022(令和4)年には4%を割り込んでいる。
   一方で、検察統計年報における在宅・身柄付を問わずに送検された被疑者(検察官逮捕を含み、自動車による過失致死傷等や道路交通法違反被疑事件は除く)に対して勾留が許可された件数の割合を見ると、1980(昭和55)年は約16%だったのに対して、年々割合が増えて行って2000(平成12)年から2003(平成15)年に30%を超えて倍近くになり、その後若干減ったものの、2011年(平成23)に再び増加に転じ、2012年(平成24)から2022(令和4)年まではずっと30%を超える状況が維持されている。
  送検された事件数全体に対する勾留許可件数の割合が倍近く増えているというのは、全く同じ基準で判断しているとすれば起こり得ない異常な増え方であって、勾留を許可するハードルが下がり、1980年頃であれば勾留が認められなかったようなケースでも勾留が認められるようになってしまっていると考えざるを得ない。
  この間、勾留の要件に関する法改正はないのであり、そうである以上、勾留判断に関する裁判官の運用が変わってきたとしか評価できない。
  そして、上述したとおり2014年(平成26)以降は勾留請求却下率が増えているものの、送検された事件数全体に対する勾留許可件数の割合は30%以上のままであることからすれば、検察官が以前よりも広く勾留請求するようになったため勾留請求却下率が増えていたとも捉えられ、勾留判断に関する裁判官の運用改悪の状況に変わりはないといえる。
  こうした状況の中、2020(令和2)年3月11日に、そもそも犯罪が成立しない事案について、会社の代表者らが逮捕・勾留され、検察官による公訴提起が行われ、約11か月もの間身体拘束された後、公訴提起から約1年4か月経過し第1回公判の直前であった2021(令和3)年7月30日に検察官が公訴取消しをするという、えん罪事件が発生した(大川原化工機事件)。勾留中に被告人のうち1名に重篤な病気が判明するも、保釈が認められず、後に勾留執行停止になるが、死亡するなどの重大な結果も生じており、2023(令和5)年12月27日、東京地裁は、警視庁公安部の警察官による逮捕および取調べ、ならびに検察官による勾留請求および公訴提起が違法であると認定し、被告国と東京都に対して約1億6200万円の支払いを命じる判決を出した。
   人質司法の問題が現在も続いていることを示している事案であって、人質司法が人の命まで奪うような重大な問題であることを表している。
3 勾留判断や勾留質問に関する運用改善の必要性
(1)以上述べてきたとおりであって、刑事身体拘束の問題の本質は改善されておらず、法改正による抜本的な改革が必要であって、当会としても刑事身体拘束に関する法改正を求めていくことに変わりはない。
  しかしながら、法改正には相当の時間がかかる一方で、被疑者・被告人の身体拘束による不利益は日々刻々と生み出されており、上記大川原化工機事件のような悲劇を繰り返さないためにも、このような事態は運用面において直ちに解消されなければならない。
   そこで、法改正を目指した粘り強い運動については継続していきつつも、勾留判断や勾留判断に直結する勾留質問に関しては、運用の改善を求めていくことが早急に必要であることから、下記のような運用改善を求めることとした。
(2)必要な運用の改善
  ア 勾留質問の実質化
    刑事訴訟法61条は、勾留の判断にあたって勾留質問することを裁判官に義務付けている。
    そして、勾留判断の前提としてなされる以上、勾留質問においては、単に犯罪事実に関する意見、陳述を聞くだけではなく勾留理由(勾留要件)に関する意見、陳述も聞くことが当然の前提となっている(最高裁判所判例解説刑事篇昭和41年度193頁(最高裁判所昭和41年10月19日第三小法廷決定)、注解刑事訴訟法上巻[全訂新版]214頁以下)。
    したがって、本来勾留質問においては、勾留理由に関する陳述を聞くために、罪証隠滅を疑うに足りる相当な理由の判断要素(被害者、目撃者、共犯者との関係性や逮捕までの接触の有無)や逃亡を疑うに足りる相当な理由の判断要素(家族、仕事、住居関係や任意聴取の求めが事前にあったか否か)などについての具体的質問が必要なはずである。
    ところが、現在の勾留質問は、もっぱら被疑事実そのものに関する弁解について質問されているだけで、罪証隠滅や逃亡のおそれに関する具体的な質問はほとんどなされておらず、勾留の判断のための手続として刑事訴訟法が予定している勾留質問手続が単なる形式的な手続となり、形骸化してしまっている。
    このような形骸化した勾留質問が行われている背景事情として考えられるのは、刑事訴訟法61条が「被告人の勾留は、被告人に対し被告事件を告げこれに関する陳述を聴いた後でなければ、これをすることができない。」と規定し、勾留理由に関する質問について明記されてないことに加え、最高裁判所が作成して各裁判所に配布している勾留質問調書の参考書式が、もっぱら被疑事実そのものに関する弁解についての回答だけを記載すれば足りるかのような書式になっていることも大きな影響を与えていると考えられる。
    すなわち、勾留質問調書の参考書式では、調書作成の効率化のためか、裁判官からの説明部分や質問部分は最初から印字されており、空欄となって回答が予定されているのは、①被疑者の氏名・年齢・生年月日・住居・本籍・職業、②被疑事実そのものに対する弁解内容、③勾留通知先だけとなっている。
したがって、この参考書式のとおりに説明や質問を行えば、罪証隠滅や逃亡のおそれに関する質問をすることはないし、あえてこれらの事情について質問をして回答を得た場合、この書式自体にはその内容を記載するスペースはなく、わざわざ別紙を用意して別紙の方に自由記載の形で勾留理由に関する質問や回答内容を記載しなければならない。
このような参考書式が準備され、これを用いた勾留質問が一般化してしまえば、勾留質問においてもっぱら被疑事実そのものに関する弁解しか質問されず、逃亡や罪証隠滅のおそれに関する具体的な質問はほとんどなされない運用が定着してしまうのも無理からぬところがあると言える。
    かかる勾留質問手続の形骸化は、勾留要件に関して具体的な事情に踏み込んで判断する姿勢を失わせ、抽象的な理由でしか判断できず、安易に勾留を認めるという結果に結びついてしまいかねない。
    勾留理由に関する具体的な質問なしに、勾留理由について適切な判断をすることができるはずがないのだから、本来の憲法及び刑事訴訟法の趣旨に則って、裁判官が勾留理由に関する具体的質問をするなどして実質的な勾留質問をするよう運用が改善されるべきである。
    そして、それを促すためにも、最高裁判所は、現在作成・送付している勾留質問調書の参考書式について、「同居者の有無やその扶養の状況」「住居の所有・賃貸の別や居住年数」「勤続歴や就労状況、職場での立場」「被害者との面識の有無、住所や連絡先についての認識」「目撃者等の関係者との面識の有無、住所や連絡先についての認識」などの項目を列挙するなどして改訂し、罪証隠滅や逃亡のおそれに関する具体的な質問が必要であることを示すとともに、質問に漏れが生じにくいような工夫を行うべきである。
    そして、最高裁判所は各裁判所に対して、勾留質問に際しては、被疑事実に関する陳述の聴取に留まらず、必要な範囲で勾留理由の有無を判断するのに必要な事情を聴取すべきであることを通達し、あるいは通知するべきである。
  イ 勾留質問への弁護人の立会いの許可
    現在の刑事訴訟法では、勾留質問への弁護人の立会いに関する規定は存在せず、勾留質問への弁護人の立会いを申し入れても、立会いが認められないケースがほとんどである。
    しかし、憲法34条が被疑者の勾留に関して、「要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。」としていることからすれば、非公開の場とはいえ、勾留質問の段階で勾留の理由を説明することは憲法34条の趣旨に適う制度・運用であると言えるし、これに対する被疑者や弁護人の意見をその場で聴取することができれば、より慎重に勾留の判断をすることができ、無用な被疑者の身体拘束を避けることができる。
    この点、当番弁護士制度や被疑者国選弁護制度が普及するまでは、被疑者段階で弁護人が選任されること自体が少なく、まして勾留質問段階で弁護人が選任されていることは期待できない面があった。しかし、当番弁護士制度が普及した上に、被疑者国選弁護の対象が勾留された全事件に拡大され、逮捕段階から弁護人が関与するケースが大幅に増加した現在、勾留質問に弁護人が立ち会うことが可能なケースは大幅に増えている。
    このような弁護人を巡る状況の変化に加え、勾留質問手続の形骸化を防ぎ、憲法34条の趣旨に沿って無用な被疑者の身体拘束を避けるためには、本来、勾留質問時の弁護人の立会権を保障するよう刑事訴訟法を改正すべきであるが、現行の刑事訴訟法においても弁護人の勾留質問への立会いを禁止する規定はなく、改正を待たずとも、裁判官において弁護人の勾留質問への立会いを認めることは可能である。
    実際に、過去には勾留質問への弁護人の立ち会いを認めた例もある。
    一方で、弁護人は、勾留質問の時点ですでに被疑者のみならず家族や関係者から一定の事情を聞いており、勾留要件に関する事情も把握しており、勾留質問への弁護人の立会いが認められれば、裁判官による勾留質問に付随して勾留要件に関する事情を補足したり、勾留理由開示や準抗告を待たずに勾留理由に関する弁護人の意見を述べたりすることができ、裁判官はそれらの補足事情や弁護人意見も踏まえて、より適正に勾留の判断を行うことが可能となる。
    したがって、勾留質問への弁護人立会いを許可するよう裁判官における運用が改善されるべきである。
ウ 社会変化を前提とした比例原則等を踏まえた勾留に関する厳格な判断
上述したとおり、送検された事件総数に対する勾留許可件数の割合は、1980年頃に比べて倍近くとなっている。
この間の社会変化が犯罪捜査や刑事裁判に与えた影響は大きく、防犯カメラが普及して様々な場所に設置され、また防犯カメラそのものやデータ保存方法や保存媒体が発展したこともあり、防犯カメラ映像は犯人検挙や公判立証に欠かせないものとなっている。
また、スマートフォンの普及により、GPS機能や基地局情報などから特定日時にどの場所にいたかの特定が容易になり、スマートフォン自体の機能を用いて誰でもいつでも容易に録画録音が可能になり、これらの情報や映像・音声も犯人検挙や公判立証に役立っている。
その他、従来の指紋や足跡痕等に頼った科学的な犯人特定方法についても、DNA鑑定や顔貌を含む画像鑑定等の発展により、様々な形での情報取得ができるようになっている。
それに加えて情報化社会の進展により、銀行取引を含む様々な取引が電子化・オンライン化される一方、口座開設や携帯電話の契約など様々な場面で本人確認が必要となり、身分を隠したまま生活を送ることの困難さはより増しているといえる。
このような現代社会では、逃亡を試みたとしても防犯カメラやスマートフォン、銀行取引その他の取引情報などから、居場所は特定され、仮に逃亡自体に成功したとしても長期間の逃亡生活を送ることは極めて困難で、それまでの利便性の高い生活の多くを犠牲にせざるを得ない。
    かかる社会変化を踏まえれば、普通の社会生活を送っている人であれば、パニック状態となって一時的に逃げ出すことはあっても、逃亡して訴追を逃れ続けようとする可能性が1980年頃と比べて大きく低下していることは明らかである。
    また、罪証隠滅のおそれという観点から考えても、被害者や目撃者等の関係者への働きかけをしようとしても、誰もが常にスマートフォンを保有している現代では、その働きかけの行為自体が相手や周囲に録画録音され、かえって罪を重くする結果となるリスクが高いのであり、そのようなリスクを負って証拠隠滅を図るとは考え難く、少なくとも1980年頃と比較すれば罪証隠滅のおそれは相対的に低くなっているはずである。
    つまり、この間の社会変化を前提とすれば、1980年頃と比べて勾留理由は認められにくく、勾留されにくくなってきているはずである。
    にもかかわらず、実際には送検事件総数に対する勾留許可の割合が逆に倍近く増加しているというのは、上記のような社会変化を考慮せず、逆に勾留判断のハードルを下げてしまっているからとしか考えられない。
    いずれにせよ、勾留理由を判断するに当たっては、上記のような社会変化を踏まえて具体的に判断する必要がある。
    また、日本も批准する国際人権(自由権)規約9条3項は、身体不拘束の原則を明らかにしているが、日本での起訴時点での身体拘束率は7割を超えているのであって、身体不拘束の原則から外れてしまっていると言わざるを得ない。
    この点、1990(平成2)年の「犯罪防止と犯罪者処遇に関する第8回国際連合会議」での「未決拘禁に関する決議」では、「未決拘禁は、自由の剥奪が、容疑犯罪及び予想される刑罰に比して不均衡となる場合には、命じられないものとする。」として、未決拘禁において比例原則が適用されることを明らかにしている。
    比例原則自体は、日本の行政法や刑事訴訟法でも認められている基準であり、憲法において勾留に「正当な理由」が要求されていることからしても、日本における勾留の判断においても比例原則が適用されるはずである。
    しかし、上述したとおり、比例原則の観点からすれば原則として勾留が許されないはずである罰金刑や執行猶予刑が見込まれるような被疑者や被告人について勾留が認められるケースが多いのが実情であり、現在の裁判実務では勾留判断において比例原則を極めて軽視した判断がなされていると言わざるを得ない。
    したがって、勾留の判断において、社会変化によって逃亡や罪証隠滅のおそれが相対的に低くなっているという現状認識を前提として、身体不拘束の原則や比例原則が適用されることを踏まえて、勾留理由について厳格に判断するよう裁判官における運用が改善されるべきである。
4 結語
  そこで、当会としては、上述したような運用改善を、各裁判官と最高裁判所に求める。
  また、当会としては、今後もシンポジウム等を通じて刑事身体拘束に関する法制度の改革や運用改善の必要性を広く市民と共有していくとともに、個別の弁護活動における勾留質問の実質化や勾留質問への弁護人の立会い、準抗告等の勾留に対する不服申立を積極的に行っていく運動や取り組みを通じて、法改正や運用改善を引き続き目指していく所存である。


以上

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