福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2023年8月 3日

入管法改正法の成立に強く抗議し、国際的な人権基準を満たす 入管行政・難民保護法制の構築を求める会長声明

声明

2023年6月9日、出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という)等の一部を改正する法律(以下「改正法」という)が参議院本会議で採決され成立した。当会は、同年3月2日付「入管法改正案の再提出に強く反対し、国際的な人権水準に沿った真の入管法改正を求める会長声明」において改正法の問題点を指摘したところであるが、改めて改正法の成立に対して強く抗議する。
 自由権規約の第7回日本政府報告書審査において出された勧告(2022年11月)では、①国際基準に則った包括的な難民保護法制を早急に採用すること、 ②十分な医療支援へのアクセスを含む収容施設での処遇を改善すること、 ③仮放免者に対して必要な支援を提供し、収入を得るための活動に従事する機会の確立を検討すること、④ノン・ルフールマン原則が実際に尊重され、国際的保護を申請する全ての人々に、(その申請への)否定的な決定について、執行停止効を有する、独立した司法機関に対する不服申立制度へのアクセスを確保すること、 ⑤行政機関による収容措置に対する代替措置を提供し、入管収容における上限期間を導入するための措置を講じ、収容が、必要最小限度の期間のみ、かつ行政機関による収容措置に対して存在する代替措置が十分に検討された場合にのみ、最後の手段として用いられるよう確保することなどが指摘されており、入管法に改正が必要であったことは間違いない。
 ところが、今回の改正法ではこれらの勧告を導入する改正は一切行われなかった。①の勧告のいう国際基準に則った包括的難民保護法制として必要な、入管から独立した難民審査機関の設置への方向性は示されず、②の医療制度について何ら改善策は導入されず、③についての手当もなされず、④については、むしろ、送還停止効に例外規定を設け、3回目以降の難民申請中に申請者を送還できるようにした結果、ノン・ルフールマン原則をさらに侵害する危険性を高め、⑤の求める収容期間の上限は設けられず、いまだに無期限の収容が可能な状態である。このように、今回の改正法は、国際人権水準からさらに後退する内容となった。
 実際、国連人権理事会の移民の権利に関する特別報告者などが本年4月18日に改正法案について提出した共同書簡でも、改正法案が国際的な人権基準を下回っている」と切り捨て、「国際人権法の下での義務に沿うために、徹底した内容の見直しを」と強い口調で求めていたところである。
 このように、今回の改正法の内容には問題が多いが、2023年6月8日の参議院の附帯決議が、改正法案の審議の中で顕在化した問題点を踏まえて、「難民該当性判断の手引」のみならず事実認定の手法も含めた包括的な研修の実施や同手引を定期的に見直し・更新すること、難民審査請求における口頭意見陳述の適正な活用や難民認定に関連する知識等を十分に考慮した上で難民審査参与員を任命すること、送還停止効の例外規定について入管法53条3項のノン・ルフールマン原則に違反する送還を行うことがないようにしその適用状況についてこの法律の施行後5年以内を目途として必要な見直しを検討しその結果に基づき必要な措置を講ずることなどを求めている点は必ず実現されなければならない。
 当会は、入管法が国際的な人権基準を満たしたものとなるよう、引き続き、その 抜本的な改革を求めるとともに、問題点の多い改正法のもとで、本来難民として認定されるべき者が迫害を受けるおそれのある国へ送還されたりすることのないよう、 外国人の人権保障に向けた取組に全力を尽くす所存である。

2023(令和5)年8月2日

福岡県弁護士会

会長 大 神 昌 憲

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