福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2023年8月 3日

「オンライン接見」の早期実現に向けた議論を求める会長声明

声明


 現在、法務省の「刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会」(以下、単に「検討会」という。)において、被疑者・被告人との「ビデオリンク方式」による接見(以下「オンライン接見」という。)を刑訴訟39条1項の接見として位置付けることが検討対象となっている。
 身体拘束されている被疑者・被告人の権利を保護するためには、一刻も早く接見を実施し、身体拘束の当初から弁護人の援助を受ける必要が高いことは言うまでもない。憲法は弁護人の援助を受ける権利を定め(34条)、これを受けて刑訴法39条1項は、弁護人が被疑者・被告人と立会人なく面会し、書類の授受ができるとする接見交通権を定めている。IT が進展している現代において、遠隔地にいる弁護人と被疑者・被告人とのビデオ会議システムを用いた対面、電子データ化された書類の授受を行うことなども、弁護人の援助をうける現実的な手法であって、オンライン接見も刑訴訟39条1項に含まれると解するべきである。したがって、オンライン接見は権利性を持つ制度として立法されるべきである。
 今日においても、身体拘束された被疑者が、弁護人による援助を受ける前に、自白を強要されるような事態が多く存在しており、逮捕直後における迅速な接見を行う必要性は特に高い。対面による接見を速やかに行うことが重要であることは当然であるが、オンライン接見が可能となれば、弁護人が、被疑者に対し、対面による接見以前にいち早く権利告知や法的助言を行うことができ、被疑者の権利保護に資することとなる。また、オンライン接見は、被疑者・被告人からの緊急の接見要請への対応、比較的遠方の留置施設に被疑者・被告人が留置されている際の早期対応なども可能となり、より一層、被疑者・被告人の権利保護に資する。
いち早く当番弁護士に取り組んだ当会でも対面による接見の重要性は十分に理解されている。しかし、より早期の接見が可能となるだけでなく、当会においても、筑豊地域の警察署で他の地域の弁護人が接見する場合(筑豊地域に所在する飯塚警察署は福岡市内から車で片道約1時間、田川警察署は福岡市内から車で片道約1時間20分)や弁護人が遠隔地の刑事施設での接見を余儀なくされる場合もあり、オンライン接見の必要性はいささかも減じられない。
 弁護活動は被疑者・被告人との信頼関係を前提とし、先に指摘したようにオンライン接見によって緊急の接見要請に対応することが可能となれば、一層被疑者・被告人との信頼関係の確立にも資する。
 したがって、オンライン接見を早期に実現する必要性は高い。
以上のとおりであるから、当会は、検討会に対し、オンライン接見が弁護活動に必要であって刑訴法39条1項の接見交通権の行使に含まれるものとして早期に実現するために議論を加速することを求める。
 なお、オンライン接見が導入されたとしても、対面による接見の重要性・必要性がなくなるわけではないから、オンライン接見の導入により拘置所・拘置支所の統廃合が進められるようなことがあってはならないことを付言する。

以上

2023(令和5)年8月2日

福岡県弁護士会     

会長 大 神 昌 憲

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「大崎事件」の再審請求即時抗告棄却決定に強く抗議する会長声明

声明

1 福岡高等裁判所宮崎支部(矢数昌雄裁判長)は、2023年(令和5年)6月5日、いわゆる大崎事件第4次再審請求事件につき、請求人の即時抗告を棄却し、鹿児島地方裁判所の再審請求棄却決定(以下「原決定」という。)を維持する決定(以下「本決定」という。)を行った。
2 「大崎事件」は、1979年(昭和54年)10月、原口アヤ子氏(以下「アヤ子氏」という。)、同人の元夫(長男)及び義弟(二男)の3名が共謀して、被害者(義弟・四男)の頚部に西洋タオルを巻き、そのまま絞め付けて窒息死に至らしめて殺害し、その遺体を義弟(二男)の息子も加えた4名で被害者方牛小屋の堆肥内に埋めて遺棄したとされる事件である。
アヤ子氏は、逮捕時から一貫して無実を主張し続けたものの、別に起訴されていた元夫(長男)、義弟(二男)並びに義弟の息子の3名の「自白」、その「自白」で述べられた上記犯行態様と矛盾しないとする法医学鑑定(「旧鑑定」という。)、義弟(二男)の妻の目撃供述等を主な証拠として、1980年(昭和55年)3月31日、懲役10年の有罪判決を受けた。その後、アヤ子氏は、控訴・上告したが容れられず、一審判決が確定したことにより、服役した。また、元夫(長男)は義弟(二男)とその息子とともに、各自白に基づいて有罪判決を受け、それが確定した。
3 アヤ子氏は、服役・出所後の現在に至るまで一貫して無実を訴え続け、第1次再審請求の再審請求審で再審開始決定を得たほか、第3次再審請求の再審請求審及び即時抗告審においても再審開始の判断を得た。
にもかかわらず、検察官が特別抗告をしたところ、最高裁第一小法廷は、2019年(令和元年)6月25日、刑訴法433条(同法405条)の理由がないとしながらも、第3次再審請求の再審開始決定及び即時抗告棄却決定のいずれについても「取り消さなければ著しく正義に反する」として、自ら再審請求を棄却するという異例かつ不当な決定を行った。
当会は、最高裁のこの暴挙を看過することができず、同年8月8日付会長声明を発出し、誤判えん罪の被害者を救済するための制度であるはずの再審制度の制度趣旨を没却し、また、刑訴法435条6号の新証拠の明白性に関する判断基準のハードルを著しく引き上げるもので、「疑わしきは被告人の利益に」という刑事司法制度全体の基本理念をも揺るがしかねない危険な判断であるとして、強く批判した。
4 今般の第4次再審請求は、アヤ子氏の親族により同氏と元夫(長男)のために2020年(令和2年)3月30日に申し立てられた。同請求審においては、新証拠として、確定判決が認定した殺害行為時よりも早い時点で既に被害者が死亡していたことを明らかにする救急救命医の鑑定書などが提出され、5名の専門家の証人尋問が実施された。
とりわけ救急救命医の鑑定は、確定判決が被害者の生存を前提としていた被害者が自宅に運び込まれた時点で、被害者が既に死亡していたことを確実であるというものであった。
そして、原決定も、上記救急救命医の鑑定が前提とする被害者の転落事故の態様が道路脇の溝に顔面から突っ込むようにして転落した可能性があることを認め、条件付きではあるが、その後自宅に運び込まれるまでの間に呼吸停止を来した可能性があるという限度では上記救急救命医の鑑定の証明力を認めた。
にもかかわらず、原決定は、結論として上記救急救命医の鑑定の新証拠としての価値を否定した。被害者が自宅に搬送されたときには既に死亡していたとなると、2名の救護者(近隣住民)が被害者の死体を遺棄したということにもなりかねないが、そのような可能性はおよそ考え難いというのである。
しかし、原決定がいうのは、あくまで一つの可能性にすぎないから、「そのような可能性はおよそ考え難い」からといって、「被害者が自宅に搬送されたときには既に死亡していた」ことを否定する論拠にはならない。
大崎事件の再審請求の核心は、2名の救護者(近隣住民)が被害者を同人方に搬送したときには、被害者が既に死亡していたということであって、被害者の死体を遺棄したのは誰であるかを詮索することではない。この点において、原決定は重大な誤りを犯していると言わざるを得ない。
当会は、このような原決定に対して、2022年(令和4年)8月24日付「「大崎事件」の再審請求棄却決定に抗議する会長声明」を発出し、厳しく批判したところである。
5 本決定も、救急救命医の鑑定は、旧鑑定の信用性を減殺するものであることを認めながら、確定判決の事実認定において旧鑑定が重要な位置を占めるものではなく、救急救命医の鑑定により旧鑑定の証明力が減殺されても、確定判決の事実認定に合理的な疑いを差し挟むものとはいえないと結論づけて、即時抗告を棄却した。
  しかし、救急救命医の鑑定は、旧鑑定の信用性を減殺するにとどまるものではない。上記4で見たとおり、被害者が生存していたことを前提とする元夫(長男)や義弟(二男)の自白の根底をも覆すものである。
  そして、本決定は、上記の最高裁決定に倣って、救急救命医の鑑定自体について、直接被害者の遺体を検分しておらず、当時の遺体解剖時の限定された写真等から鑑定したものであって、十分な所見に基づくものとは言えず、証明力は高くなく、被害者の死因や死亡時期を高い蓋然性をもって推論するような決定的なものとはいえないと断じているが、このような評価は孤立評価そのものともいうべきものであり、再審事件で事後的に行われる鑑定に対して、およそ新証拠としての証明力を否定することに繋がるものである。ひいては再審制度を否定することにつながるものであり、到底是認できるものではない。
本決定は、「原決定は、論理則、経験則等に照らしておおむね不合理なところはないから、当裁判所としても是認できる。」と原決定を追認するものであるが、原決定と同様に、新旧全証拠の総合評価を適切に行っておらず、「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則の適用を求めた白鳥・財田川決定に反するとともに、無辜の救済という再審制度の趣旨を没却する不当なものであるとの非難を免れない。したがって、当会としては、本決定に対して改めて強く抗議する。
6 「大崎事件」においては、上記のとおり既に三度も再審開始を認める判断がなされているにもかかわらず、検察官の即時抗告や特別抗告により未だ再審公判に至っていない。
当会としては、アヤ子氏が96歳の高齢に達していることからして、同氏の生あるうちに汚された名誉の回復を図るべく、アヤ子氏が無罪になるための支援を続けるとともに、あわせて、本年6月16日の日弁連の「えん罪被害者の迅速な救済を可能とするため、再審法の速やかな改正を求める決議」のとおり、再審における証拠開示の制度化や、再審開始決定に対する検察官の不服申し立ての禁止をはじめとする再審法改正など、えん罪救済のための刑事司法改革の実現を求める次第である。


2023(令和5)年8月2日

福岡県弁護士会     

会長 大 神 昌 憲

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入管法改正法の成立に強く抗議し、国際的な人権基準を満たす 入管行政・難民保護法制の構築を求める会長声明

声明

2023年6月9日、出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という)等の一部を改正する法律(以下「改正法」という)が参議院本会議で採決され成立した。当会は、同年3月2日付「入管法改正案の再提出に強く反対し、国際的な人権水準に沿った真の入管法改正を求める会長声明」において改正法の問題点を指摘したところであるが、改めて改正法の成立に対して強く抗議する。
 自由権規約の第7回日本政府報告書審査において出された勧告(2022年11月)では、①国際基準に則った包括的な難民保護法制を早急に採用すること、 ②十分な医療支援へのアクセスを含む収容施設での処遇を改善すること、 ③仮放免者に対して必要な支援を提供し、収入を得るための活動に従事する機会の確立を検討すること、④ノン・ルフールマン原則が実際に尊重され、国際的保護を申請する全ての人々に、(その申請への)否定的な決定について、執行停止効を有する、独立した司法機関に対する不服申立制度へのアクセスを確保すること、 ⑤行政機関による収容措置に対する代替措置を提供し、入管収容における上限期間を導入するための措置を講じ、収容が、必要最小限度の期間のみ、かつ行政機関による収容措置に対して存在する代替措置が十分に検討された場合にのみ、最後の手段として用いられるよう確保することなどが指摘されており、入管法に改正が必要であったことは間違いない。
 ところが、今回の改正法ではこれらの勧告を導入する改正は一切行われなかった。①の勧告のいう国際基準に則った包括的難民保護法制として必要な、入管から独立した難民審査機関の設置への方向性は示されず、②の医療制度について何ら改善策は導入されず、③についての手当もなされず、④については、むしろ、送還停止効に例外規定を設け、3回目以降の難民申請中に申請者を送還できるようにした結果、ノン・ルフールマン原則をさらに侵害する危険性を高め、⑤の求める収容期間の上限は設けられず、いまだに無期限の収容が可能な状態である。このように、今回の改正法は、国際人権水準からさらに後退する内容となった。
 実際、国連人権理事会の移民の権利に関する特別報告者などが本年4月18日に改正法案について提出した共同書簡でも、改正法案が国際的な人権基準を下回っている」と切り捨て、「国際人権法の下での義務に沿うために、徹底した内容の見直しを」と強い口調で求めていたところである。
 このように、今回の改正法の内容には問題が多いが、2023年6月8日の参議院の附帯決議が、改正法案の審議の中で顕在化した問題点を踏まえて、「難民該当性判断の手引」のみならず事実認定の手法も含めた包括的な研修の実施や同手引を定期的に見直し・更新すること、難民審査請求における口頭意見陳述の適正な活用や難民認定に関連する知識等を十分に考慮した上で難民審査参与員を任命すること、送還停止効の例外規定について入管法53条3項のノン・ルフールマン原則に違反する送還を行うことがないようにしその適用状況についてこの法律の施行後5年以内を目途として必要な見直しを検討しその結果に基づき必要な措置を講ずることなどを求めている点は必ず実現されなければならない。
 当会は、入管法が国際的な人権基準を満たしたものとなるよう、引き続き、その 抜本的な改革を求めるとともに、問題点の多い改正法のもとで、本来難民として認定されるべき者が迫害を受けるおそれのある国へ送還されたりすることのないよう、 外国人の人権保障に向けた取組に全力を尽くす所存である。

2023(令和5)年8月2日

福岡県弁護士会

会長 大 神 昌 憲

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