福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2023年6月15日

名古屋地裁・福岡地裁判決を受け、直ちに、すべての人にとって平等な婚姻制度の実現を求める会長声明

声明

1 同性間の婚姻ができない現在の婚姻に関する民法及び戸籍法の諸規定(以下「本件諸規定」という。)の違憲性を問う裁判において、2023(令和5)年5月30日に名古屋地方裁判所は、本件諸規定が憲法14条1項及び24条2項に違反する旨の判決(以下「名古屋地裁判決」という。)を、これに続く同年6月8日、福岡地方裁判所は、本件諸規定が憲法24条2項に違反する状態である旨の判決(以下「福岡地裁判決」という。)を、それぞれ言い渡した。

2 名古屋地裁判決は、 婚姻制度が、両当事者の関係性を保護するための法律上の効果を付与するだけでなく、その関係性を公証し、正当な関係として社会的承認を与えるための極めて有力な手段となっていることを指摘した。そして、両当事者の関係が国の制度により公証され、その関係を保護するのにふさわしい効果を付与されるための枠組みが与えられるということ自体が重要な人格的利益であると述べ、このような重要な人格的利益を享受できないことにより同性カップルが被る不利益は重大であり、その規模も期間も相当なものであって、その影響は深刻と指摘した。
  その上で、同性カップルは法律婚制度に付与されている重大な人格的利益を享受することから一切排除されているのに対し、その状態を正当化するだけの具体的な反対利益は十分に観念しがたく、もはや個人の尊厳の要請に照らして合理性を欠くに至っており、国会の立法裁量の範囲を超えているとして、本件諸規定は、同性カップルに対して、その関係を国の制度によって公証し、その関係を保護するのにふさわしい効果を付与するための枠組みすら与えていないという点で、憲法24条2項に違反すると結論付けた。
  さらに、本判決は、同性愛者にとって同性との婚姻が認められていないということは、性的指向により別異取扱いがなされていることに他ならないと指摘し、憲法14条1項にも違反するとした。

3 福岡地裁判決は、永続的な精神的及び肉体的結合の相手を選び、家族として公証する制度は、現行法上婚姻制度しか存在せず、我が国では、公的な権利関係に留まらず、私的な関係においても家族であることが公証されることで種々の便益を得られる仕組みが多数存在するところ、そのような事実上の利益も、公証の効果として一律に発生するものであり、これを発生させる基本的な単位であるはずの婚姻ができず、その効果を自らの意思で発生させられないことは看過しがたい不利益であると指摘する。このことと、国民の意識における婚姻の重要性を併せ鑑みれば、婚姻をするかしないか及び誰とするかを自己の意思で決定することは同性愛者にとっても尊重されるべき人格的利益であると認めた。
  そして、本件諸規定の下で同性カップルは婚姻制度を利用することによって得られる利益を一切享受できず法的に家族と承認されないという重大な不利益を被っているとし、婚姻制度の実態や婚姻に対する社会通念が変遷し、同性婚に対する国民の理解が相当程度浸透していることもふまえると、同性カップルに婚姻制度によって得られる利益を一切認めず、自らの選んだ相手と法的に家族になる手段を与えていない本件諸規定は、もはや個人の尊厳に立脚すべきものとする憲法24条2項に違反する状態であると言わざるを得ない、と断じた。

4 同種の訴訟は、札幌、東京、大阪、名古屋、福岡の全国5地裁に係属していたところ、上記両判決をもって、5地裁の判決が出されたことになる。
  本件諸規定を憲法14条1項違反とした2021(令和3)年3月の札幌地裁判決、同性間の人的結合関係についてパートナーと家族になるための法制度が存在しないことについて憲法24条2項に違反する状態にあるとした2022(令和4)年11月の東京地裁判決と合わせ、5件中4件の判決において現状が憲法に反する旨が判断されたことになる。結論として合憲と判断した同年6月の大阪地裁判決も将来的に違憲となる可能性を指摘しており、同性カップルについて、異性カップルと同様、家族として法的に保護するための制度が必要であるとの司法判断の流れは確定し、もはや動かしがたいものとなったというべきである。

5 当会は、2019(令和元)年5月29日の「すべての人にとって平等な婚姻制度の実現を求める決議」において、憲法13条、14条、24条や国際人権自由権規約により、同性カップルには婚姻の自由が保障され、また性的少数者であることを理由に差別されないこととされているのだから、国は公権力やその他の権力から性的少数者が社会的存在として排除を受けるおそれなく、人生において重要な婚姻制度を利用できる社会を作る義務があること、しかし現状は同性間における婚姻は制度として認められておらず、平等原則に抵触する不合理な差別が継続していることを明らかにし、政府及び国家に対し、同性者間の婚姻を認める法制度の整備を求めた。また、前記札幌地裁判決、大阪地裁判決、東京地裁判決に際しても、それぞれ2021(令和3)年4月28日、2022(令和4)年8月10日、2023(令和5)年1月18日に会長声明を発し、政府・国会に対し、同性間の婚姻制度を早急に整備することを改めて求めた。
  しかしこの間、本問題に関し、上記法制度の整備に向けた具体的な動きは、政府・国会において無いに等しい状況である。政府は、従前から、同性間の婚姻制度の導入について、「極めて慎重な検討を要する」との答弁を繰り返すばかりであったところ、2023(令和5)年2月の衆議院予算委員会でも、政府から、社会が変わってしまう課題だという趣旨の発言があり、後ろ向きの姿勢が浮き彫りになっている。
  一連の判決が厳しく指摘するとおり、現在の状況は、同性カップルの人格的生存に対する重大な脅威、障害であり、足踏みをしている暇はない。名古屋地裁判決・福岡地裁判決を受け、今度こそ、政府・国会は、直ちに、同性間の婚姻制度を整備し、すべての人にとって平等な婚姻制度の実現を図るべきである。
  なお、名古屋地裁判決・福岡地裁判決のいずれも、同性カップルが家族となるための法制度として、諸外国における登録パートナーシップ制度のような婚姻類似の制度に言及しているが、当会が従前指摘してきたとおり、このような異性カップルにおける婚姻と異なる制度を別に設けることは、同性カップルに対する新たな差別を惹起しかねない。制度構築にあたっては、同性カップルに対して婚姻の門戸を開くものとすべきであることを改めて述べておく。


2023年(令和5年)6月15日

福岡県弁護士会

会長 大神昌憲

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