福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2023年2月27日
日野町事件第2次再審請求事件即時抗告棄却決定に対し、検察官に特別抗告をしないよう求める会長声明
声明
1 大阪高等裁判所(石川恭司裁判長)は、2023年(令和5年)2月27日、いわゆる「日野町事件」の第2次再審請求事件の即時抗告審において、検察官の即時抗告を棄却する旨の決定(以下「本決定」という。)をした。
2 「日野町事件」は、確定判決によれば、1984年(昭和59年)12月、故阪原弘氏(以下「阪原氏」という。)が滋賀県蒲生郡日野町において酒店を営んでいた当時69歳の被害女性の店舗兼住宅ないしその周辺で被害女性の頚部を手で締め付けて殺害し、店舗兼住宅にあった手提げ金庫を奪ったとされた強盗殺人事件である。1988年(昭和63年)3月になって、酒店の常連客であった阪原氏が、任意同行の名のもとに連日、長時間の取調べを受けることになり、当初はアリバイを主張するなどして事件への関与を否認していたものの、結局、被害者を殺害して金庫を奪ったことを認める供述をするに至り、捜査官に対してはこの自白を維持した。こうして阪原氏は、強盗殺人罪で起訴されたが、第1回公判期日においては、否認に転じ、以降一貫して犯行への関与を否認した。
ところが、一審の大津地方裁判所は、1995年(平成7年)6月、阪原氏の自白について任意性は認められるものの、信用性が高いとは言えないとしつつ、阪原氏が犯行時刻ころ店舗兼住宅付近にいたことが認められること、阪原氏の指紋が被害者宅の小机にあった丸型両面鏡に残されていたこと、阪原氏が破壊されて棄てられていた手提げ金庫の発見場所等を知っていたことなどの間接事実を認定した上で、阪原氏の犯人性を肯定し、無期懲役の有罪判決をした。その後、阪原氏の控訴・上告がいずれも棄却され、2000年(平成12年)9月、一審判決が確定した。阪原氏は、2001年(平成13年)11月、再審請求をしたものの、2006年(平成18年)3月、大津地方裁判所が再審請求を棄却したことから、即時抗告していたところ、その係属中に亡くなった。今般、阪原氏の遺族が、阪原氏の雪冤のため、2012年(平成24年)3月に再審請求を申し立てていたところ、大津地方裁判所が2018年(平成30年)7月に再審開始を決定したのに対し、検察官が即時抗告をしていたものである。
3 そもそも「日野町事件」は、阪原氏が犯人であることを示す直接の物的証拠がなく、いわゆる状況証拠も阪原氏と犯人を結びつけるものではなく、任意性と信用性に疑問がある自白調書によってかろうじて阪原氏の犯人性が支えられていた。阪原氏が自ら申し立てた第1次再審請求や今般の再審請求において、多数の新証拠が提出され、自白の重要部分が客観的な証拠と矛盾していることが明らかとなっていた。原決定も、そして、本決定も、再審請求における新旧全証拠の総合評価と「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則の適用を求めた白鳥・財田川決定に即した実に当然の判断である。
4 当会は本決定を高く評価するものであり、本決定について検察官が特別抗告をすることなく、早期に再審公判を開始し、阪原氏の無罪を確定させることを強く求める。同時に、2022年(令和4年)8月24日付け「大崎事件」の再審請求棄却決定に抗議する会長声明で述べているとおり、再審開始決定に対する検察官の不服申立の禁止をはじめとする、えん罪被害救済に向けた再審法改正の早急な実現を求める。
2023年(令和5年)2月27日
福岡県弁護士会
会 長 野 田 部 哲 也