福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2023年2月14日
東京地裁判決を受け、改めて、早急にすべての人にとって平等な婚姻制度の実現を求める会長声明
声明
1 2022(令和4)年11月30日、同性間の婚姻ができない現在の婚姻に関する民法及び戸籍法の諸規定(以下「本件諸規定」という。)の違憲性を問う裁判において、東京地方裁判所は、現行法上、同性愛者についてパートナーと家族になるための法制度が存在しないことは、憲法24条2項に違反する旨の判決(以下「東京地裁判決」という。)を言い渡した。
2 東京地裁判決は、「婚姻により得ることができる、パートナーと家族となり、共同生活を送ることについて家族としての法的保護を受け、社会的公証を受けることができる利益は、個人の尊厳に関わる重要な人格的利益」であることを前提に、「同性愛者にとっても、パートナーと家族となり、共同生活を送ることについて家族としての法的保護を受け、社会的公証を受けることができる利益は、個人の尊厳に関わる重大な人格的利益に当たるということができる。」と認定する。
そして同判決は、「現在、同性愛者には、パートナーと家族になることを可能にする法制度がなく、同性愛者は、その生涯を通じて、家族を持ち、家庭を築くことが法律上極めて困難な状況に置かれている。家族を持たないという選択をすることも当該個人の自由であることは当然であるが、特定のパートナーと家族になるという希望を有していても同性愛者というだけでこれが生涯を通じて不可能になることは、その人格的生存に対する重要な脅威、障害であるということができる。」と述べ、同性カップルの置かれている苦境を的確に認定した上で、「現行法上、同性愛者についてパートナーと家族になるための法制度が存在しないことは、同性愛者の人格的生存に対する重大な脅威、障害であり、個人の尊厳に照らして合理的な理由があるとはいえず、憲法24条2項に違反する状態にある」と判断した。
3 2021(令和3)年3月17日、札幌地方裁判所は同種訴訟において、本件諸規定が憲法14条1項に違反すると判断しているところ、東京地裁判決はこれに引き続き、同性カップルについて家族となるための法制度が存在しないことを違憲とするものであり、その意義は極めて重大である。
同種訴訟における2022(令和4)年6月20日大阪地裁判決は、本件諸規定の違憲性を認めず、その点は不当であったが、同判決においても、婚姻をした当事者が享受し得る利益には、当該人的結合関係が公的承認を受け、公証されることにより、社会の中でカップルとして公に認知されて共同生活を営むことができる「公認の利益」があり、これは人格的尊厳に関わる重要な人格的利益であって、同性カップルにとっても同様にその人格的尊厳に関わる重要な利益として尊重されるべきものとしている。
以上からすると、同性カップルについても、異性カップルと同様、家族として法的に保護するための制度が必要であるとの司法判断の流れは、もはや確定したものというべきである。
4 当会は、2015(平成27)年より両性の平等に関する委員会の中にLGBT小委員会を発足させ(2018(平成30)年10月からはLGBT委員会)、行政と連携してLGBT無料電話法律相談を実施したり、毎年の「九州レインボープライド」への出展を行うなど、性的マイノリティの問題は人権擁護を使命とする弁護士・弁護士会が率先して取り組むべき問題であると位置付けて活動している。
そして、2019(令和元)年5月29日の「すべての人にとって平等な婚姻制度の実現を求める決議」において、憲法13条、14条、24条や国際人権自由権規約により、同性カップルには婚姻の自由が保障され、また性的少数者であることを理由に差別されないこととされているのだから、国は公権力やその他の権力から性的少数者が社会的存在として排除を受けるおそれなく、人生において重要な婚姻制度を利用できる社会を作る義務があること、しかし現状は同性間における婚姻は制度として認められておらず、平等原則に抵触する不合理な差別が継続していることを明らかにし、政府及び国家に対し、同性者間の婚姻を認める法制度の整備を求めた。また、前記札幌地裁判決、大阪地裁判決に際しても、それぞれ2021(令和3)年4月28日、2022(令和4)年8月10日に会長声明を発し、政府・国会に対し、同性間の婚姻制度を直ちに整備することを改めて求めた。
しかしこの間、本問題に関する政府・国会の動きは無いに等しく、上記法制度の整備に向けた具体的な準備は、全くなされていない状況である。現在の同性カップルについて法制度がない状態を「同性愛者の人格的生存に対する重大な脅威、障害である」とまで厳しく断じた今般の東京地裁判決を受け、今度こそ、政府・国会は、速やかに、同性間の婚姻制度を整備すべきである。
なお、東京地裁判決は、同性カップルが家族となるための法制度として、諸外国における登録パートナーシップ制度のような婚姻類似の制度に言及しているが、このような異性カップルにおける婚姻と異なる制度を別に設けることは、同性カップルに対する新たな差別を惹起しかねない。制度構築にあたっては、同性カップルに対して婚姻の門戸を開くものとすべきである。
2023年(令和5年)1月18日
福岡県弁護士会
会 長 野田部 哲也
2023年2月27日
日野町事件第2次再審請求事件即時抗告棄却決定に対し、検察官に特別抗告をしないよう求める会長声明
声明
1 大阪高等裁判所(石川恭司裁判長)は、2023年(令和5年)2月27日、いわゆる「日野町事件」の第2次再審請求事件の即時抗告審において、検察官の即時抗告を棄却する旨の決定(以下「本決定」という。)をした。
2 「日野町事件」は、確定判決によれば、1984年(昭和59年)12月、故阪原弘氏(以下「阪原氏」という。)が滋賀県蒲生郡日野町において酒店を営んでいた当時69歳の被害女性の店舗兼住宅ないしその周辺で被害女性の頚部を手で締め付けて殺害し、店舗兼住宅にあった手提げ金庫を奪ったとされた強盗殺人事件である。1988年(昭和63年)3月になって、酒店の常連客であった阪原氏が、任意同行の名のもとに連日、長時間の取調べを受けることになり、当初はアリバイを主張するなどして事件への関与を否認していたものの、結局、被害者を殺害して金庫を奪ったことを認める供述をするに至り、捜査官に対してはこの自白を維持した。こうして阪原氏は、強盗殺人罪で起訴されたが、第1回公判期日においては、否認に転じ、以降一貫して犯行への関与を否認した。
ところが、一審の大津地方裁判所は、1995年(平成7年)6月、阪原氏の自白について任意性は認められるものの、信用性が高いとは言えないとしつつ、阪原氏が犯行時刻ころ店舗兼住宅付近にいたことが認められること、阪原氏の指紋が被害者宅の小机にあった丸型両面鏡に残されていたこと、阪原氏が破壊されて棄てられていた手提げ金庫の発見場所等を知っていたことなどの間接事実を認定した上で、阪原氏の犯人性を肯定し、無期懲役の有罪判決をした。その後、阪原氏の控訴・上告がいずれも棄却され、2000年(平成12年)9月、一審判決が確定した。阪原氏は、2001年(平成13年)11月、再審請求をしたものの、2006年(平成18年)3月、大津地方裁判所が再審請求を棄却したことから、即時抗告していたところ、その係属中に亡くなった。今般、阪原氏の遺族が、阪原氏の雪冤のため、2012年(平成24年)3月に再審請求を申し立てていたところ、大津地方裁判所が2018年(平成30年)7月に再審開始を決定したのに対し、検察官が即時抗告をしていたものである。
3 そもそも「日野町事件」は、阪原氏が犯人であることを示す直接の物的証拠がなく、いわゆる状況証拠も阪原氏と犯人を結びつけるものではなく、任意性と信用性に疑問がある自白調書によってかろうじて阪原氏の犯人性が支えられていた。阪原氏が自ら申し立てた第1次再審請求や今般の再審請求において、多数の新証拠が提出され、自白の重要部分が客観的な証拠と矛盾していることが明らかとなっていた。原決定も、そして、本決定も、再審請求における新旧全証拠の総合評価と「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則の適用を求めた白鳥・財田川決定に即した実に当然の判断である。
4 当会は本決定を高く評価するものであり、本決定について検察官が特別抗告をすることなく、早期に再審公判を開始し、阪原氏の無罪を確定させることを強く求める。同時に、2022年(令和4年)8月24日付け「大崎事件」の再審請求棄却決定に抗議する会長声明で述べているとおり、再審開始決定に対する検察官の不服申立の禁止をはじめとする、えん罪被害救済に向けた再審法改正の早急な実現を求める。
2023年(令和5年)2月27日
福岡県弁護士会
会 長 野 田 部 哲 也