福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2022年8月10日

大阪地裁判決を受けて、改めてすべての人にとって平等な婚姻制度の実現を求める会長声明

声明

1 2022(令和4)年6月20日、同性間の婚姻ができない現在の婚姻に関する民法及び戸籍法の諸規定(以下「本件諸規定」という。)の違憲性を問う裁判において、大阪地方裁判所は、本件諸規定は憲法13条、14条、24条のいずれにも抵触せず、合憲である旨の判決(以下「大阪地裁判決」という。)を言い渡した。


2 当会は、2019(令和元)年5月29日の「すべての人にとって平等な婚姻制度の実現を求める決議」において、憲法13条、14条、24条や国際人権自由権規約により、同性カップルには婚姻の自由が保障され、また性的少数者であることを理由に差別されないこととされているのだから、国は公権力やその他の権力から性的少数者が社会的存在として排除を受けるおそれなく、人生において重要な婚姻制度を利用できる社会を作る義務があること、しかし現状は同性間における婚姻は制度として認められておらず、平等原則に抵触する不合理な差別が継続していることを明らかにし、政府及び国家に対し、同性者間の婚姻を認める法制度の整備を求めた。


  大阪地裁判決は、同性カップルにとっても婚姻は憲法上保障された権利であることを示した、上記当会の決議の趣旨に反するものであり、賛同できない。特に、憲法14条についても違憲性を認めなかった点は、同種訴訟において、札幌地裁が2021(令和3)年3月17日に言い渡した、本件諸規定は憲法14条1項に反し違憲である旨の判決とも相反し、婚姻の自由・平等という基本的人権の保障について、後退を余儀なくさせるものであって、不当なものと言わざるを得ない。


3 もっとも、違憲性を認めなかったとの結論は不当であるというべきものの、大阪地裁判決は、同性間の婚姻について決して否定的な判断を示したものではないことには留意が必要である。むしろ、その内容においては、大阪地裁判決は、以下のとおり、同性間の婚姻を認める法制度の整備に親和的かつ重要な判断を示しているところである。


  まず、憲法24条1項は、異性間の婚姻について定めたものとしつつも、「同項が同性間の婚姻を積極的に禁止する意味を含むものであると解すべきとまではいえない。かえって、婚姻の本質は、永続的な精神的及び肉体的結合を目的として公的承認を得て共同生活を営むことにあり、誰と婚姻をするかの選択は正に個人の自己実現そのものであることからすると、...(中略)...同性愛者にも異性愛者と同様の婚姻又はこれに準ずる制度を認めることは、憲法の普遍的価値である個人の尊厳や多様な人々の共生の理念に沿うものでこそあれ、これに抵触するものでない」とした。これは、憲法24条の「両性」との文言を盾に、憲法は同性婚を禁止しており、同性婚を定めるためには憲法改正が必要であるとする、一部に流布している誤った言説を明確に否定するものである。


  また、憲法14条1項の審査について、本件諸規定のもとでは、異性愛者であっても同性愛者であっても、異性とは婚姻でき、他方同性とは婚姻できないのだから、本件諸規定は性的指向に基づく別異取扱いはしていない、という言説に対し、「婚姻の本質は、自分の望む相手と永続的に人的結合関係を結び共同生活を営むことにある以上、同性愛者にとっては、異性との婚姻制度を形式的には利用することができたとしても、それはもはや婚姻の本質を伴ったものではないのであるから、実質的には婚姻をすることができないのと同じであり、本件諸規定はなお、同性愛者か異性愛者かによって、婚姻の可否について区別取扱いをしているというべきであって、これを単なる事実上の結果ということはできない。」としてこれを否定した。


  さらには、「婚姻をした当事者が享受し得る利益には、相続や財産分与等の経済的利益等のみならず、当該人的結合関係が公的承認を受け、公証されることにより、社会の中でカップルとして公に認知されて共同生活を営むことができることについての利益(以下「公認に係る利益」という。)なども含まれる。特に、公認に係る利益は、婚姻した当事者が将来にわたり安心して安定した共同生活を営むことに繋がるものであり、我が国において法律婚を尊重する意識が浸透していることや、近年、婚姻に関する価値観が多様化していること等をも踏まえれば、自己肯定感や幸福感の源泉といった人格的尊厳に関わる重要な人格的利益ということができる。このような人格的利益の有する価値は、異性愛者であるか同性愛者であるかによって異なるものではない。そうすると、同性愛者に対して同性間で婚姻をするについての自由が憲法上保障されているとまではいえないものの、当該人的結合関係についての公認に係る利益は、その人格的尊厳に関わる重要な利益として尊重されるべきもの」であるとし、同性カップルにおいても公認に係る利益という、人格的尊厳に関わる重要な利益が存することを明らかにした。


  このように、大阪地裁判決は、憲法24条1項、14条に関する誤った言説を明確に否定し、また、同性カップルにおいても公認に係る利益という重要な利益が存することを明確に示したものである。だとすれば、大阪地裁は、上記札幌地裁判決と同様に、安易に立法裁量を持ち出すことなく、本件諸規定を違憲と断じ、現に存する不合理な差別を除去し、差別に苦しむ人々を救済すべき責務を負っていたと言うべきところである。この点については、控訴審や、東京、名古屋、福岡の各地裁に係属している同種訴訟の判決において是正されるものと考えるが、少なくとも、大阪地裁判決は、同性間の婚姻を認める法制度の整備について積極的な評価を示し、重要な示唆を提供するものである。


4 当会が、前記「すべての人にとって平等な婚姻制度の実現を求める決議」を採択してから、既に3年以上が経過した。その間、札幌地裁における違憲判決が出され、パートナーシップ制度を導入する自治体がいっそう増えるなど、社会の理解は進んだと言えるが、他方、政府・国会においては、未だ、公式には同性間の婚姻制度の整備に向けた議論の着手すらなされていない状態が続いている。その結果として、同性カップルに対する差別は、放置されたままとなっている。


  本件諸規定を違憲と判断した先の札幌地裁判決、また、合憲とはしたものの、同性カップルにも公認の利益という人格的尊厳に関わる重要な利益が存在し、これを実現する必要があるとした大阪地裁判決に照らせば、同性間の婚姻を認める法制度を整備することに、もはや一刻の猶予もないというべきである。当会は、政府及び国会に対し、本判決の内容を真摯に受け止め、同性間の婚姻制度を直ちに整備することを、改めて求める。


2022年(令和4年)8月10日
福岡県弁護士会       
会 長  野 田 部 哲 也

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