福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2022年7月14日
力強い司法を実現するため、司法を支える、いわゆる谷間世代への一律給付実現を求める会長声明
声明
1 司法は、三権の一翼として、法の支配を実現し国民の権利を守るための枢要な社会インフラであり、法曹はこの司法の担い手として公共的使命を負っている。そこで国は、高度な技術と倫理感が備わった法曹を国の責任で養成するために、現行の司法修習制度を、1947年(昭和22年)、日本国憲法施行と同時に発足させ運営している。この制度の中で、司法修習生は、修習専念義務(兼職の禁止)、守秘義務等の職務上の義務を負いながら、裁判官・検察官・弁護士になる法律家の卵として、将来の進路如何にかかわらず、全ての分野の法曹実務を現場で実習し、法曹三者全ての倫理と技術を習得してきた。
このように、司法修習制度が修習専念義務等を課したうえで国の責任で法曹を養成する制度である以上、修習に専念できるに足る生活保障を行うのは当然である。そのために戦後60余年にわたり維持されてきた司法修習生への給費制が2011年(平成23年)に廃止されたことにつき、日弁連や当会をはじめとする全国の弁護士会はその復活運動に取り組み、その結果、これを見直して、2017年(平成29年)に裁判所法改正により新たに修習給付金制度が創設された。当会は、これに理解、尽力を頂いた国会議員、政党、最高裁判所、法務省、そして何より多くの国民、諸団体の皆様等々全ての方に、改めて深く感謝を申し上げる次第である。
2 もっとも、修習給付金は、司法修習に専念するには不十分な金額に留まる等、従前の給費制には及ばない内容となっている。そのうえ、給費制が廃止されていた2011年(平成23年)度から2016(平成28年)度までの6カ年間に、無給制(希望者には貸与金あり)のもとで、従前どおりの修習専念義務、守秘義務を負って同じ内容の修習を遂行した新65期から70期の司法修習生(いわゆる「谷間世代」)が何らの生活保障を受けられないまま修習を強いられたという不条理のままに取り残され、かつ、旧65期以前及び71期以降の修習修了者に比して著しく不公平・不平等な立場におかれるという事態が発生している。この谷間世代の法曹は約1万1000人に達し、全法曹(約4万8000人)の約4分の1を占めるもので、その規模や枢要性に鑑み、もはや司法制度(これを支えるソフトインフラである法曹全体)に内在する制度的不備ともいうべきである。
国の責任で司法修習という制度を設置・運営している以上、このような不条理かつ不公平・不平等な事態を放置することは容認できない。2019年(令和元年)5月30日に名古屋高等裁判所が言い渡した給費制廃止違憲訴訟判決においても「例えば谷間世代の者に対しても一律に何らかの給付をするなどの事後的救済措置を行うことは、立法政策として十分考慮に値するのではないか」と言及されている。立法政策の誤りは立法政策をもってこそ是正されるべきである。
3 当会では、2017年(平成29年)8月、谷間世代の声を聴く会を開き、また同年11月には「修習給付金の創設に感謝し、谷間世代1万人の置き去りについて考える福岡集会」を開催するなど、谷間世代の会員の切実な声に耳を傾けた。2018年(平成30年)1月には、「給費を受けられなかった6年間の司法修習生(「谷間世代」) が被っている不公平・不平等の是正措置を求める会長声明」を発するとともに、是正施策の一環として、日本弁護士連合会が創設した谷間世代弁護士に対する一律の給付金(20万円)制度に加えて、当会独自策として、5年間で総額上限30万円の給付金を支給する制度を実施している。また、昨今のコロナ禍による経済的困窮に対応するため、2020年(令和2年)6月には、「緊急声明 ~修習資金の貸与を受けた元司法修習生に対する貸与金返還の一律猶予を求める~」会長声明を発出するなどの活動を行ってきた。
2019年(令和元年)と2021年(同3年)に、当会を含む各地の弁護士会で行われた谷間世代に対するアンケートでは、当会会員からも、貸与金返済のための生活への影響や不安から志した弁護士としての活動が十全には果たし得ていないとの声をはじめ、無給制(貸与制)そのものへの不条理感をぬぐい切れていないとの声や、給費制が不十分ながらも給付金制度として事実上復活したことへの不公平感を訴える声など多数みられた。
4 経済的・精神的な足かせを余儀なくされている谷間世代ではあるが、もはや法曹の中核的存在として司法を支えている。近年、各地で繰り返される大規模自然災害やコロナ禍等により困難を抱えた人々のために献身的に活動している者も多い。また、日弁連が創設した「若手チャレンジ基金」制度では先進的ないし公益的取り組みとして多数の谷間世代の会員が表彰されるなど、基本的人権の擁護と社会正義の実現にかける意欲は全く他の世代と同様である。日弁連の上記2019年アンケートによれば、その多くが、経済的困難が解消されれば、法曹を志した当初の志に即して活動範囲を広げたいと考えていることが明らかになっている。全法曹の約4分の1を占める谷間世代には、これからの司法の中心的な担い手として、より一層、社会の不公正や権利侵害に立ち向って法の支配を実現し、国民のための力強い司法を体現することが強く期待されている。谷間世代が抱える経済的・精神的足かせを国による一律給付の実現により是正することは、谷間世代の法曹の活躍の幅や量を広げることにつながり、司法機能の強化に役立ち、これが国民的利益に結び付くものであることは明らかである。
当会は、これらの点について、地元選出国会議員をはじめさらに広く理解を得るべく、本年8月20日に「谷間世代への一律給付実現全国リレー集会in福岡」を開催する予定である。
5 以上の次第であるので、当会は、政府・法務省、最高裁判所、国会に対して、谷間世代が不条理に経済的負担を強いられたままであり、かつ、これが旧65期以前及び71期以降の司法修習修了者に比して不公平・不平等な事態となって続いている問題の解決のために、谷間世代への一律給付を実現するよう強く求めるものである。
2022年(令和4年)7月13日
福岡県弁護士会
会 長 野 田 部 哲 也
2022年7月26日
死刑執行に抗議する会長声明
声明
たしかに、突然に不条理な犯罪の被害に遭い、大切な人を奪われた状況において、被害者の遺族が厳罰を望むことはごく自然な心情である。しかも、日本においては、犯罪被害者及び被害者遺族に対する精神的・経済的・社会的支援がまだまだ不十分であり、十分な支援を行うことは社会全体の責務である。
しかし、そもそも、死刑は、生命を剥奪するという重大かつ深刻な人権侵害行為であること、誤判・えん罪により死刑を執行した場合には取り返しがつかないことなど様々な問題を内包している。
人権意識の国際的高まりとともに、世界で死刑を廃止または停止する国はこの数十年の間に飛躍的に増加し、法律上及び事実上の死刑廃止国は、2020年12月31日時点で、国連加盟国193か国のうち144か国にのぼる。2020年12月には、国連総会本会議において、史上最多の支持(123か国)を得て死刑廃止を視野に入れた死刑執行の停止を求める決議案が可決され、2021年7月1日には、米国連邦政府において、司法長官が連邦レベルでの死刑執行の一時停止を司法省職員に指示する通知を公表した。このように死刑廃止は世界的な潮流という状況にある。
当会においても、1996年以降、死刑執行に対し、都度これに抗議する会長声明を発出してきたほか、2020年9月18日に「死刑制度の廃止を求める決議」を採択し、2021年8月25日には「米国における連邦レベルでの死刑の執行停止を受け、日本における死刑制度の廃止に向けて、死刑執行の停止を求める会長声明」を発出している。
そこで、当会は、国に対し、今回の死刑執行について強く抗議の意思を表明するとともに、日本が、基本的人権の尊重、特に生命権の不可侵性の価値観を共有できる社会を目指そうとしている国際社会と協調し、国連加盟国の責務を果たせるよう、あらためて死刑の執行を停止することを強く要請するものである。
2022年(令和4年)7月26日
福岡県弁護士会会長 野 田 部 哲 也