福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2022年6月22日

中小企業への支援策の拡充と最低賃金額引上げを求める会長声明

声明

 福岡地方最低賃金審議会は、今後(例年どおりであれば8月頃)、福岡労働局長に対し、2022年度福岡県最低賃金の改正の答申を行う見込みである。昨年度、同審議会は前年度比28円増額の時間額870円とする答申を行い、当該答申どおりの改正が行われた。
 しかし、時給870円は、未だ、年収200万円以下のいわゆるワーキングプアと呼ばれる水準にとどまっており、この水準では、労働者の生活を安定させつつ労働力の質的向上を図ることは実際上困難である。また、原油価格の高騰やロシアのウクライナ侵攻等の影響により、食料品や光熱費など生活関連品の価格が急上昇している。労働者の生活を守り、新型コロナウイルス感染症に向き合いながら経済を活性化させるためにも、最低賃金額を大きく引き上げることが必要である。
 最低賃金額について、フランスでは、2021年1月に10.25ユーロ(約1473円※本日時点の為替レートによる。以下同じ)に引き上げられ、さらに同年10月から10.48ユーロ(約1507円)に引き上げられた。ドイツでは、2021年7月に9.60ユーロ(約1380円)、2022年1月に9.82ユーロ(約1411円)と引き上げられ、同年7月には10.45ユーロ(約1503円)へと引き上げられる。さらに同年10月から12ユーロ(約1725円)に引き上げることについて国会で審議中である。イギリスでは、2021年4月から23歳以上の労働者の最低賃金が8.91ポンド(約1493円)に引き上げられ、さらに2022年4月から9.5ポンド(約1592円)に引き上げられた。韓国では、2021年1月に8720ウォン(約922円)に引き上げられ、2022年1月から9160ウォン(約968円)に引き上げられた。
 このように多くの国で、コロナ禍で経済が停滞する状況下においても最低賃金の大幅引上げが実現しており、我が国においても、コロナ禍であることが、最低賃金の大幅引上げを不可能ならしめるものとはいえない。
 また、最低賃金の地域間格差が依然として大きく、格差が是正していないことは重大な問題である。2021年の最低賃金は、最も高い東京都で時給1041円であるのに対し、最も低い高知県と沖縄県は時給820円(福岡は870円)であり、221円(福岡県とは171円)の開きがある。最低賃金の高低と人口の転入出には強い相関関係があり、最低賃金の低い地方の経済が停滞し、地域間の格差が縮まるどころか、むしろ拡大している。都市部への労働力の集中を緩和し、地方に労働力を確保することは、地域経済の活性化のみならず、都市部での一極集中から来る様々なリスクを分散する上でも極めて有効である。
 地域別最低賃金を決定する際の考慮要素とされる労働者の最低生計費は、研究者らによる最近の調査により、都市部か地方かによって、ほとんど差がないことが明らかとなっている。これは、地方では、都市部に比べて住居費が低廉であるものの、公共交通機関の利用が制限されるため、通勤その他の社会生活を営むために自動車の保有を余儀なくされることが背景にある。そもそも、最低賃金は、「健康で文化的な最低限度の生活」を営むために必要な最低生計費を下回ることは許されない。労働者の最低生計費に地域間格差がほとんど存在しない以上、最低賃金の地域間格差を維持することは適切ではなく、地方の最低賃金を都市部の水準まで引き上げることが求められる。
 最低賃金の大幅な引上げの実現のためには、十分な中小企業への支援が必要である。現在、国は「業務改善助成金」制度により、影響を受ける中小企業に対する支援を実施しており、従前、その利用件数は低調であったが、令和3年度中央最低賃金審議会の「業務改善助成金について、特例的な要件緩和・拡充を早急に行うことを政府に対し強く要望する」との答申を受け、2021年8月以降、その利用要件の緩和や支援対象の拡充が行われた。政府が、答申に応じ、業務改善助成金の拡充等を行ったことは高く評価すべきであるが、今後も、最低賃金を引き上げても円滑に企業運営を行えるよう、中小企業へのさらなる支援策を講じることが求められる。この点、昨年度の福岡地方最低賃金審議会の答申においても、国及び地方自治体所管の各種支援策の拡充・強化、特に「コロナ禍において直接間接を問わず影響を受けている中小・小規模事業者に対しては、特例措置として賃金引上げ幅に見合った新たな直接的給付金等支援策の創設を早急に検討すること」を求める極めて適切な付帯決議がなされており、国はこの付帯決議の趣旨を尊重し、早急な対応を行う必要がある。最低賃金の引上げには地域経済を活性化させる効果もある。当会は、引き続き国に対し中小企業への充分な支援策を求めるとともに、労働者の健康で文化的な生活を確保し、地域経済の健全な発展を促すため、福岡地方最低賃金審議会が、本年度、最低賃金の大幅な引上げを答申すべきことを求めるものである。


2022年(令和4年)6月22日
福岡県弁護士会       
会 長  野 田 部 哲 也

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