福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2022年4月28日
外国人留学生や朝鮮大学校に通う困窮学生に対する学生支援給付金の平等な給付を再度求める会長声明
声明
1 2020年(令和2年)5月19日、政府は新型コロナウイルス感染症拡大の影響で世帯収入、アルバイト収入等が激減し、経済的困窮に陥った学生に対し、「『学びの継続』のための学生支援緊急給付金」(以下「本給付金」という。)を創設した。
ところが、同制度は、①外国人留学生に対してのみ「学業成績優秀者」の要件を課し、支給要件を加重していること、②本給付金の対象学校から朝鮮大学校を除外していることから、憲法第14条の平等原則,人種差別撤廃条約5条(e)(v),社会権規約第2条第2項,第13条第1項,第2項(c)に違反する合理的理由のない差別を内容とする、看過できない問題を有するものであった。
そこで、当会は、2020年(令和2年)12月9日、「学生支援緊急給付金に関し困窮学生への平等な給付を求める会長声明」を発出し、政府に対し、以上の差別を直ちに是正すべく、外国人留学生や朝鮮大学校に通う困窮学生に対しても、他の学生と平等に給付する制度を設けた上で、速やかに給付するよう求めた。
また、同制度が差別的な内容を有しているという問題については、当会だけでなく東京弁護士会、第二東京弁護士会等全国の複数の弁護士会及び関東弁護士会連合会が、憲法の平等原則等に反するとして声明を発出し、政府に是正を求めた。
2 2021年(令和3年)11月26日、政府は、いまだ流行する新型コロナウイルス感染症による対応のため、改めて「『学びの継続』のための学生支援緊急給付金」として1人10万円を支給することを閣議決定した。
しかし、今般決定された上記制度においても、前回の制度に対して当会を含む複数の弁護士会等が是正を求めた点について、以下のとおりほとんど改善されていない。
⑴ 外国人留学生に対する支給要件がそうでない学生と比べて厳しいこと
本給付金は、①「高等教育の修学支援新制度(給付型奨学金)」の利用者であるか、②一定の困窮状況を前提として、「第一種奨学金(無利子奨学金)等の既存の制度を利用していること又は利用を予定していること」を、支給の対象の学生の要件としている。
しかし、外国人留学生はそもそも高等教育の修学支援新制度の対象になることはないため、①を満たすことはできない。
また、②についても、「学生等の学びを継続するための緊急給付金に関するQ&A(2021年(令和3年)12月20日版)」問2-6-1によれば、「既存の制度」とは、高等教育の修学支援新制度、第一種奨学金(無利子奨学金)、民間等による支援制度、大学等独自の奨学金制度、外国人留学生学習奨励費とされ、民間等による支援制度、大学等独自の奨学金制度を利用あるいは利用を予定している外国人留学生も対象になりうるとされたことは前進ではあるものの、それ以外の方法となると、外国人留学生が高等教育の修学支援新制度、第一種奨学金(無利子奨学金)を利用することはできない以上、支給の対象となるためには、外国人留学生学習奨励費を利用することしか残されていない。
そして、この外国人留学生学習奨励費の利用要件として、「前年度の成績評価係数が、大学院レベル、学部レベル、日本語教育機関とも2.30以上であり、給付期間中においてもそれを維持する見込みのある者であること。」が必要とされている。
そうすると、本給付金も構造としては、外国人留学生に対してそうでない学生と比べて厳しい学業成績要件を課しているという点では、前回の制度とほとんど変わっていない。
改めて述べるが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により経済的困窮に陥った学生に対して「学びの継続」を支援し、教育を受ける権利を保障すべき必要性は、外国人留学生であっても何ら変わることはない。
そして、「学びの継続」を支援するという本給付金の趣旨からすれば、外国人留学生に対してのみ、実質的に過重な要件を設定する合理性はない。
⑵ 給付金の対象学校から朝鮮大学校を除外していること
本給付金は、国公私立大学(大学院含む)・短大・高専・専修学校専門課程・法務省告示に指定された日本語教育機関、文科省が指定している外国大学日本校に在学する学生のみを給付金の対象としたため、各種学校である朝鮮大学校は、対象外とされた。
しかし、前回の声明でも指摘した通り、朝鮮大学校は、1998年(平成10年)に京都大学が朝鮮大学校卒業生の大学院受験を認め合格したことを契機に、1999年(平成11年)8月、文部科学省が学校教育法施行規則を改正して大学院入学資格を拡充し、外国大学日本校とともにその卒業生に大学院入学資格が認められている(学校教育法第102条第1項・同施行規則第155条第1項第8号・学校教育法施行規則の一部を改正する省令の施行等について(1999年(平成11)年8月31日文高大第320号)第一の二)。また、2012年(平成24年)には社会福祉士及び介護福祉士法施行規則が改正され、朝鮮大学校卒業生にも受験資格が認められている(社会福祉士及び介護福祉士法第7条第3号・同施行規則第1条の3第3項第3号)。
このように、他の外国大学日本校と同様に、朝鮮大学校を日本の高等教育機関として認める法制度が存在している。
そして、朝鮮大学校の学生も他の高等教育機関に在籍する学生と同様、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により経済的に困窮しているという事情は何ら変わることはない。
それにもかかわらず、各種学校の認可を受けていない外国大学日本校は本制度の対象とするのに、朝鮮大学校のみを本制度から除外する合理的理由はない。
これまでも政府は、各種学校に属する朝鮮学校に対し、高校無償化制度(2010年~)でも、幼児教育・保育無償化制度(2019年~)でも除外する方針をとってきた。
この方針の問題性については、当会の会長声明(平等な高校無償化制度の実施を求める会長声明(2010年(平成22年)3月29日)、外国人学校の幼児教育・保育施設を幼保無償化の対象とすること等を求める会長声明(2020年(令和2年)7月3日)等)のみならず、国連による勧告(子どもの権利委員会勧告(2019年(平成31年)2月7日)等)等、多くの機関から再三にわたり指摘、批判がなされている。
それにもかかわらず、政府が、改善をするどころか、同様の除外、差別政策を繰り返していることについては、当会としても、改めて強く批判せざるを得ない。
3 前述のように外国人留学生に対する支給要件の加重や朝鮮大学校の排除は、憲法第14条の平等原則、人種差別撤廃条約第5条(e)(v)、社会権規約第2条第2項、第13条第1項、第2項(c)に違反する、合理的理由のない差別である。
よって、当会は、政府に対し、以上の差別を直ちに是正すべく、外国人留学生や朝鮮大学校に通う困窮学生に対しても、他の学生と平等に給付する制度を設けたうえ、速やかに給付することを、繰り返し求める。
2022年(令和4年)4月27日
福岡県弁護士会
会 長 野 田 部 哲 也