福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2020年12月10日

法制審議会答申(諮問第103号)に反対し,改めて少年法適用年齢引下げに反対する会長声明

声明

1 はじめに                                
2020年(令和2年)10月29日,法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会は,少年法の適用年齢を18歳未満とすることの是非等について調査審議の結論を取りまとめ,法務大臣に答申した(以下「答申」という。)。
しかし,答申は,次のとおり,多くの問題をもつものであるから,当会は,答申に反対する。


2 答申の概要
答申は,次のような骨子に従い,罪を犯した18歳及び19歳の者に対する処分に関する法整備を行うべきであるとする。
すなわち,18歳及び19歳の者について,犯罪の嫌疑のある事件は全て家庭裁判所に送致する。しかし,いわゆる原則逆送事件の範囲を,現行のもの(故意の犯罪行為によって被害者を死亡させた事件)から「死刑又は無期若しくは短期1年以上の刑に当たる罪の事件」まで拡大する。また,公判請求された18歳及び19歳の者については,推知報道の制限をしない。
なお,これらに加え,答申は,罪を犯した18歳及び19歳の者について,現行法上認められている資格制限の排除を明言していない。


3 答申に反対する理由                           
⑴ 18歳及び19歳の者を現行少年法の適用対象と明示するべきである
現行少年法は,有効に機能しており,少年の検挙人員は,2003年(平成15年)以降,絶対数のみならず,人口比でも減少を続けている。この傾向は,18歳及び19歳の少年についても同様であって,2003年(平成15年)から2018年(平成30年)の検挙人員でいえば,2万9190人から7287人にまで減少している。
現行法は,少年の健全育成を理念として掲げ,少年の資質や家庭環境に対する家庭裁判所調査官の調査や少年鑑別所での心身鑑別を通じて少年の問題点を明らかにし,個別の少年の抱える問題点に対応するための保護処分によって立ち直りを図っている。その運用についても,家庭裁判所,少年鑑別所,保護観察所,付添人など,少年を取り巻く関係者の不断の努力によって適切になされている。
先に述べた少年の検挙人員の減少は,まさにこれが有効に機能していることを示しているのであって,18歳及び19歳の者を現行少年法の適用対象に含めることを明示するべきである。
⑵ 原則逆送事件の対象を拡大すべきではない
答申に従い,短期1年以上の刑にあたる罪を逆送事件とすれば,逆送される事件の種類が大幅に増える。そして,これらの事件には,強制性交等罪や強盗罪にまで含まれている。しかも,そもそも短期1年以上の刑にあたる罪は多様であり,上述した強制性交等罪や強盗罪に限っても,犯罪の内容や経緯は様々である。
そのため,それらを一律に原則逆送とすることは,個別処遇を重視する現行少年法の理念を大幅に後退させる。
また,逆送が「原則」の文字通り運用されることとなれば,「原則」との趣旨に従った形式的,簡易的な判断や調査がなされ,18歳及び19歳の者に対する処遇が形骸化するおそれもある。このような結果となれば,新たな制度がかえって再犯防止に逆効果となる可能性すらある。
答申が嫌疑のある事件をすべて家庭裁判所に送致する手続を採用しているのは,現行少年法の全件送致主義が有効に機能していることを前提としていると思われる。
したがって,原則逆送事件の対象を拡大してはならない。
⑶ 推知報道を制限すべきである
公判請求された18歳及び19歳の者であっても,家庭裁判所に移送される可能性は残されている。にもかかわらず,公判請求がなされたことを機に実名報道等がなされれば,情報がSNS等により無制限に拡散されるうえ,拡散された情報の削除は事実上不可能である。一旦犯罪報道された者が社会復帰を図ることは極めて困難であり,推知報道の制限緩和は,取り返しのつかない結果をもたらしかねない。
また,逆送事件の範囲拡大に伴い,強盗罪や強制性交等罪に関する実名報道等の増加が予想される。この種の事件は,被害者が情報の拡大を望まない場合も多くあり,そのような情報等が拡散されるおそれもある。
したがって,公判請求された18歳及び19歳の者についても,推知報  道の禁止は貫徹されなければならない。
⑷ 資格制限の排除を明言すべきである
現行少年法は,罪を犯した少年が再び社会生活を送るための環境を整えるため,数多くの法令で定められている種々の資格制限を排除している。
このような現行少年法の趣旨は,答申が,「成熟しておらず,成長発達途上にあ」ることを認める18歳及び19歳の者にも当然に妥当する。したがって,立ち直りの弊害となる資格制限を排除することを明言しないことは,現行法の趣旨に反する。
よって,18歳及び19歳の者の立ち直りの機会を奪うことになる資格制限の排除を明言すべきである。


4 最後に                                 
当会は,2015年(平成27年)6月25日に少年法適用対象年齢を18歳未満に引き下げることに反対する会長声明を発出し,2017年(平成29年)5月24日には対象年齢を引き下げることに反対する総会決議もした。2019年(平成31年)3月11日には,法制審議会での議論状況を踏まえ,改めて少年法適用年齢引下げに反対する会長声明も発出した。
今回の答申は,18歳及び19歳の者について,現行少年法の健全育成及び公正の理念を大幅に後退させるものであり,大きな問題がある。
当会は,今回の答申に反対するとともに,あらためて少年法適用年齢引下げに反対するものである。

2020年(令和2年)12月9日

福岡県弁護士会   
会長 多 川 一 成

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