福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2020年7月 3日
外国人学校の幼児教育・保育施設を幼保無償化の対象とすること等を求める会長声明
声明
1 子ども・子育て支援法の一部を改正する法律が2019年10月1日より施行され、同日より幼児教育・保育の無償化(以下「幼保無償化制度」という。)が開始された。
しかし政府は、朝鮮学校や、ブラジル人学校、インターナショナルスクールをはじめとする、各種学校の認可を受けた外国人学校の幼児教育・保育施設(以下「外国人学校幼保施設」という。)に関しては、幼保無償化制度の対象外とした。
政府はその理由を「各種学校については、幼児教育を含む個別の教育に関する基準はなく、多種多様な教育を行っており、また、児童福祉法上、認可外保育施設にも該当しないため」と説明している(2018年12月28日関係閣僚合意)。また、「法律により幼児教育の質が制度的に担保されているとは言えないこと」も挙げている(幼児教育・保育の無償化に関する自治体向けFAQ【2020年3月5日版】)。
しかし、外国人学校幼保施設は、学校教育法第134条に基づき各種学校としての認可を受け、各都道府県知事の監督に服しながら、幼稚園に相当する幼児教育を行っており、学校教育法により、教育の質を制度的に担保されている。
しかも、現行の幼保無償化制度の対象には、幼稚園の預かり保育や、ベビーシッター等を含む認可外保育施設等、まさに多種多様な形態の施設及び事業が含まれていることからすれば、外国人学校幼保施設だけを、「多種多様な教育」を理由として同制度の対象外とすることには、なんの合理的理由も見出せない。
また、実態として、認可外保育施設に相当する保育を提供している外国人幼保施設も当然存在している。しかし現状、外国人学校幼保施設が認可外保育施設として幼保無償化制度の対象となるためには、各種学校の認可を返上し、同認可によって受けている利益を放棄せざるを得ない。外国人学校幼保施設のみが、このような法的不利益を制度適用の実質的要件とされることに合理的な理由はない。
「全ての子どもが健やかに成長するように支援する」という子ども・子育て支援法第2条2項の基本理念に照らせば、外国人学校幼保施設が制度の対象外とされることに合理的理由はなく、憲法第14条、国際人権規約の社会権規約第2条2項、自由権規約第2条1項、子どもの権利条約第2条1項及び人種差別撤廃条約第2条1項(a)、(c)、第5条(e)(ⅴ)等が禁止する差別的取り扱いに該当する。
政府は、子ども・子育て支援法を速やかに改正し、あるいはその運用を改め、外国人学校幼保施設をただちに幼保無償化制度の対象とすべきである。
2 現在、現行の幼保無償化制度の対象となっていないいわゆる幼児教育類似施設について、こうした施設についても支援を行うべきではないかという問題意識の下、政府と自治体による支援の在り方を検討するべく、「地域における小学校就学前の子供を対象とした多様な集団活動等への支援の在り方に関する調査事業」が実施されている。
しかしながら、当該調査事業においても、調査対象として外国人学校幼保施設を含めるか否かは、自治体の判断にゆだねられ、また、調査対象の要件として、自治体が支援を行っていることが原則とされた。
そのため、支援を受けられていない数多くの外国人学校幼保施設が調査対象になることができなかった。特に朝鮮学校の幼保施設については、文部科学省が2016年3月29日、各自治体に対し、補助金の「適正かつ透明性ある執行」を求める通達を発し、これに呼応して多くの自治体が朝鮮学校に対する補助金を停止ないし廃止した経緯もある。
多くの外国人学校幼保施設が当該調査事業の対象外とされた結果、調査事業後の政府と自治体による支援からも置き去りにされてしまう恐れを強く懸念する。そうすることもまた、上記の幼保無償化制度からの除外と同じく、憲法や各種国際人権条約に反することはいうまでもない。
外国人学校幼保施設は、外国にルーツを持つ子どもに対して、幼児教育や保育を提供するとともに、他施設との交流など地域の多文化共生実現にとって不可欠な役割を果たしている。上記の子ども子育て支援法の理念にも照らせば、政府や自治体による積極的な支援がなされるべきことは当然である。
政府及び各自治体においては、外国人学校幼保施設に対し、今後積極的な財政的支援をしていくことを求める。
2020年(令和2年)7月2日
福岡県弁護士会 会長 多 川 一 成