福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2020年3月27日

検察官の定年後に勤務を延長する旨の閣議決定の撤回を求める会長声明

声明

 2020年(令和2年)1月31日、内閣は、2月7日限りで検察庁法22条が定める定年(63歳)を迎え、退官する予定だった黒川弘務東京高等検察庁検事長(以下、「黒川氏」という。)について、国家公務員の定年後もその勤務を延長させ得ると定める国家公務員法(以下、「国公法」という。)81条の3を適用して、勤務を6か月延長すると閣議決定した(以下、「1.31閣議決定」といい、同条の適用による定年後の勤務延長を「定年後勤務延長」という)。
 これは従来の政府解釈(検察官には国公法の定年制の規定は適用されないという1981年(昭和56年)の国会答弁)に反するが、2020年(令和2年)2月13日以降、内閣は、国公法81条の3が検察官にも適用され、定年後勤務延長が可能であると解釈することとしたという説明を始めた。
 しかし、一般職の国家公務員の定年退職について定める国公法81条の2第1項は、「法律に別段の定めのある場合を除き」と規定している。検察官も一般職の国家公務員ではあるが、その定年については検察庁法22条が定めている。従って、検察官の場合、検察庁法22条が国公法81条の2第1項の「別段の定め」にあたるので、国公法81条の2第1項ではなく、検察庁法22条が適用されるのである。
そして、一般職の国家公務員の定年延長を認める国公法81条の3は「前条第1項の規定により退職すべきこととなる場合において」との限定を付している。
つまり、同条によって認められる定年後勤務延長は、「国公法81条の2第1項の規定により退職すべきこととなる場合」に限定されているから、同条項によることなく検察庁法22条によって定年退官する検察官については、国公法81条の3の適用による定年後勤務延長はないと解釈すべきことになる。
条文の文言を素直に解釈する限り、国公法81条の3を検察官に適用してその定年後勤務延長をすることはできない。別途、検察庁法に検察官の定年後勤務延長を可能とする規定がない以上、検察官の定年後勤務延長は不可能であると解釈するのが道理である。
 検察官の定年制が、定年後勤務延長規定の適用がない等、他の一般職と異なるものとされた立法趣旨は、検察官の職務と責任に特殊性があることによる。この点は、国公法が制定された際の同法附則13条、及び、同法制定に併せて検察庁法改正により追加された同法32条の2により、検察庁法22条は検察官の職務と責任の特殊性に基づく国公法の特例であることが、条文上、明確にされ、それら条文が現在も不変であることからも明白である。
 検察官の職務と責任の特殊性とは、刑事訴訟において公訴提起の権限を独占し(刑事訴訟法247条)、捜査においても、警察官等に対し指示・指揮をなし得る(同法193条)等、強大な権限を有することによって、行政官でありつつ実質的に刑事司法の一翼を担うことを指す。
 そのような権限を検察官が行使するに際しては、不偏不党を旨とすべきである。つまり、特定の党派にくみすることなく、公平・中立の立場を保つべきである。これが損なわれ、検察官の権限が政治的に利用されれば、行政権が司法権の公平な作用を害し、三権分立を損なうともに、司法に対する国民の信頼を確保し得なくなる。従って、検察官の人事権は検察庁法の規定上は内閣又は法務大臣にあるが、その行使に際しては政治的影響を介入させぬよう、極めて慎重な配慮がなされなければならない。
よって、検察庁法の立法趣旨からも、同法が検察官の定年後勤務延長を認める規定を置いていないのは、政治的思惑が介入しかねない定年後勤務延長を許さない趣旨であると解すべきである。
 以上のとおり、検察庁法上、検察官の定年後勤務延長は認められない。検察官に国公法81条の3を適用し、定年後勤務延長を可能とすることは、解釈の限界を超え、違法である。しかも、法律による行政(法治主義)に反し、検察官の不偏不党を害しかねないものであって、その影響は深刻である。
 よって、当会は、違法な法解釈に基づく1.31閣議決定に断固として抗議しその撤回を求めるものである。

2020年(令和2年)3月27日

福岡県弁護士会

会長 山口雅司

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