福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2019年5月29日
すべての人にとって平等な婚姻制度の実現を求める決議
決議
決議の趣旨
当会は,政府及び国会に対し,同性者間の婚姻を認める法制度の整備を求める。
即ち,戸籍上の性別が異なる者の間で認められている婚姻が,戸籍上の性別が同じ者の間で認められていないことは,憲法13条及び憲法24条1項から導かれる自己決定権の一つである「婚姻の自由」 ,及び,憲法14条に抵触する性的指向ない し性自認に基づく不合理な差別であるとの点から看過できない問題である。
実際にも,同性者間の婚姻が認められていないために,婚姻関係にあれば当然受けられるはずの法的保障が受けられず,また,相続や子どもの養育において不利益を強いられ,さらに,病院で立会ができなかったり,公営住宅への入居を拒否され たりするなどの問題も生じている。
国際的に見ても,先進国首脳会議参加国であるG7の中でみると,国レベルで同性婚ないしは,パートナーシップ制等婚姻に準じる法制化を行っていないのはもはや日本だけである。日本は,国連人権理事会におけるLGBT(レズビアン(女性の同性愛者),ゲイ(男性の同性愛者),バイセクシャル(男性・女性,両方を性愛の対象とする者) ,トランスジェンダー(戸籍上の性別と心の性別が一致しない者)を始めとするいわゆる性的少数者)の人々の権利に対する決議に賛成したにもかか わらず,同性婚についての法整備は全く行っていない。
近年,世論調査によれば,日本国内でも同性婚に対する理解は深まり同性婚の法制化について賛成が多数を占めており,自治体においても公に婚姻に準ずる関係として証明する「パートナーシップ制度」を導入するなど,同性カップルを社会的に承認するという流れができており,国民の間にも同性婚を認める素地はできている と言える。
同性者間の婚姻に関する問題は,人権という観点からは無視できない状況にあり, 早期の法制度整備を求めるものである。
2019年(令和元年)5月29日
福 岡 県 弁 護 士 会
決議の理由
1 「同性間の婚姻の自由」の保障
現在の日本において,同性者間の婚姻は,戸籍上の制度として認められていない。そのため,LGBTをはじめとする同性カップルは,自身が愛するパートナーと婚姻し,戸籍上の夫婦となりたくとも,当該パートナーが戸籍上同性であるがゆえに,それが叶わない。このような制度的不備は,憲法や条約に抵触する不合理な差別にあたる。
(1) 「婚姻の自由」が同性間でも保障されるべきこと
憲法13条は,幸福追求権を保障しており,その内容として,個々人の幸福追求のあり方を個々人の決定に委ねるという意味で,自己決定権を保障している。そもそも婚姻するかどうか,誰と婚姻するかという「婚姻の自由」もまた,この自己決定権という憲法により定められた権利として保障されている。婚姻というものが,人生をともに歩み,支え合うパートナーを選択した上で,そのパートナーと継続的に親密かつ人格的な関係を築いていくものであることからすれば,人格的生存に不可欠なものであって,婚姻の自由は異性であろうと同性であろうと同じく自己決定権として保障されるべきものである。
また,憲法24条1項について,最高裁は「婚姻をするかどうか,いつ誰と婚姻をするかについては,当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべきであるという趣旨を明らかにしたものと解される。」とし,憲法24条1項からも婚姻の自由が導かれるものと解している。
(2) 平等原則への抵触
憲法14条1項は,法の下の平等を保障している。そのため,正当な理由なく,本人の意思によって左右することができないような事由をもって,国が国民に対し,差別的取扱いを行うことを禁止している。
性自認(自身の性をどう認識しているか) ,性的指向(どの性別を恋愛・性愛の対象とするか)は本人の意思で変えられるものではない。そのため,自身と戸籍上の性が同じ者との間で継続的に親密かつ人格的な関係を築きたいと考えることも,本人の意思で変えられるものではない。
しかし,国は同性者間の婚姻を認めていないため,同性者との婚姻を希望する者に対する差別的な取扱いを行っている。
そしてこのような差別的な取扱いによって,後述するように異性間の婚姻であれば当然に得ることのできる利益を同性カップルは得られない状態にある。
このように,同性婚制度がないことは,同性カップルをその性的指向,性自認を理由に差別していることに他ならず,憲法14条1項に抵触している。
加えて,国際人権自由権規約は,日本政府が批准し,国内法的効力を有するが,同26条もまた憲法14条と同じく,法の前の平等を保障し,あらゆる差別を禁止している。しかし,同性カップルは同性と婚姻できないことによって差別を受けているのだから,現行の日本の婚姻制度は上記条約にも抵触している。
(3) 小括
以上のとおり,憲法や条約といった上位規範により,同性カップルには婚姻の自由が保障され,また性的少数者であることを理由に差別されないこととされているのだから,国は公権力やその他の権力から性的少数者が社会的存在として排除を受けるおそれなく,人生において重要な婚姻制度を利用できる社会を作る義務がある。しかしながら,現状は同性間における婚姻は制度として認められておらず,平等原則に抵触する不合理な差別が継続しているのである。
2 同性カップルが直面する不利益
同性間に婚姻が認められていないことにより,同性カップルは,様々な分野において,法律上・事実上の不利益を受けている。また,このような人々の中には幼少期にその性的指向などを理由に親から虐待を受けた経験を持つ者や差別的対応を恐れて親や親族に公言できない者も多くいるため,親や親族の協力を得る ことができず,不利益はより深刻なものとなっている。
(1) 同性パートナーの死に伴う問題
まず,民法上,同性パートナーは相続人になれない。そのため,共同生活で築いた財産があっても,同性パートナーは遺言がなければ財産を承継することができない。仮に,遺言があったとしても,親族から遺留分減殺請求を受けるおそれがあり,同性パートナーの存在を知らない親族とトラブルになる可能性も高い。上記以外にも,相続税の配偶者税額軽減措置が適用されない,遺族基礎年金・遺族厚生年金が受給できない,生命保険の受取人になれない,慶弔休暇を取得できない,同性パートナーの建墓にあたり墓園の申込みを拒否されることがあるなど同性カップルは同性パートナーの死に伴い 様々な法律上・事実上の不利益を受けている。
(2) 子の養育についての問題
現在,自らもうけた未成年の子を同性パートナーとともに養育しているケースは多く存在する。この場合,異性間であれば,婚姻して養子縁組をすることにより法律上の親子関係を築くことができるが,同性間では,同性パートナーがその子と養子縁組をすると,民法818条2項により実親であるパートナーの親権が失われてしまうため,同性パートナーは事実上養子縁組を結ぶことができない。結果,同性パートナーは,親としてその子を養育しようと思っても活動が制約される。また,実親が先に死亡したときには,養育する者がいるにもかかわらず,未成年後見人が選任されることとなる。これらは同性パートナーが不利益を受けるにとどまらず,子の養育にも影響を与えかねないものである。
(3) 一方が外国人である場合の問題
同性カップルの一方が外国人の場合にも問題は顕在化する。日本人と婚姻した外国人には,「日本人の配偶者等」として在留資格が与えられるが,同性パートナーは,「配偶者等」に該当しないため,その他の長期在留資格を得られなければ,短期滞在の在留資格で日本に滞在するほかなく,オーバーステイのリスクと隣り合わせの生活を余儀なくされる。そして,在留特別許可の審査においても,同性パートナーの存在は特に考慮する要素となっていない。
(4) その他の不利益
上記以外にも,公営住宅への入居が認められない,民間住宅であってもルームシェアが可能な住宅にしか入居できないなどの住居に関する問題,病院でパートナーの病状について説明を受けたり,意識不明状態にあるパートナーの治療方針の決定に関与することが認められないことがあるなどの医療現場での問題の他,パートナーが逮捕された際に留置場所を教えてもらえない,自動車保険の運転者家族限定特約の申込みを拒否されることがあるなど,同性カップルが直面する法律上・事実上の不利益は極めて広範な分野に及ん でいる。
(5) 小括
これらの不利益は,事実上の不利益にとどまるものもあるが,その制度の多くは,法律上の婚姻という強固なつながりを基礎として運用されているものであり,個々の制度の運用を変更することで容易に解消できるものではない。現在においても,厳然として性的少数者に対する社会的差別は存在し,それゆえに当事者は様々な不利益を被っており,同性婚を認めない法制度がこのような差別を温存し助長している面も否定できない。このような同性カップルが直面する不利益を解消するために,同性カップルに婚姻を認める法 制度を構築することが求められる。
3 国際的な状況
同性婚の保障を含む性的少数者の権利保護は,世界的にも共通意識として醸成 されている。
2011年6月,国連人権理事会はLGBTの人々の権利に対する決議を採択し,性的指向や性同一性を理由とする差別や暴力行為等への懸念を表明した。記憶に新しい2014年ソチオリンピックの開幕式では,ロシアが反同性愛を内容とする法案を成立させたことに対して,その批判の意味でアメリカ,フランス,ドイツなど,欧米の首脳が開幕式を欠席する事態となった。そしてこれを受けて,2015年に,オリンピック憲章に性的指向による差別の禁止が明文化された。
2018年12月21日時点において,同性婚を保障する制度を持つ国・地域は人権意識の高い欧米諸国を中心に,中南米や南アフリカ等世界の25か国・地域に及んでおり,同性婚が認められている国・地域は,世界の国・地域の20パーセントを占めることとなった。G7で見ると国レベルで同性婚ないしは,パートナーシップ制等婚姻に準じる法制化を行っていないのはもはや日本だけで ある。
アジアにおいては,台湾で今年5月までに同性婚を認める法が施行される見通 しである。
このように,世界では同性婚の法的保障が次々に進んでおり,今後も同性婚の国レベルでの導入の潮流は続くと予測される中,日本はこのような潮流から立ち 遅れている。
4 国内の状況
2018年10月下旬に,インターネットを通じ,全国の20~59歳の6万人を対象として実施された株式会社電通の調査によると,欧米を中心に広がる同性婚の法制化について,78.4パーセントが「賛成」または「どちらかというと賛成」と答えている。
2015年の国立社会保障・人口問題研究所による調査において「賛成」,「やや賛成」の割合が51.1パーセントであったことや,2017年のNHKによる世論調査において「男性同士,女性同士が結婚することを認めるべき」との問いに「そう思う」と答えた人の割合が51パーセントであったことと比べて,現在は同性婚の法制化への理解が大幅に進んでいることが分かる。
このような世論を背景として,2019年4月17日現在,パートナーシップ制度を導入している自治体は20にのぼり,今後導入を予定・検討している自治体も多数存在する。
更に,2019年2月14日には,各地で13組の同性カップルが,同性間の法律婚の不備という問題点を問うため,同性同士の婚姻届不受理が憲法13条1項,同14条,同24条1項に反することを理由とする損害賠償請求という形で, 国に対して訴訟を提起している。
この訴訟は各種報道機関によって大々的に報道されており,同性婚について国民が改めて考える機会を得たことで,今後更に同性婚の法制化を支持する流れが 加速することも考えられる。
このように,現在同性婚の法制化に対しては,世論の後押しがある。
5 当会の取り組み
当会では,2015年より両性の平等委員会の中にLGBT小委員会が発足(2018年19月より委員会化)し,2016年5月25日には「男女平等及び性の多様性の尊重を実現する宣言」を出し,その中で「LGBTは性の多様性の一部であって,『人権』の問題であり,人権擁護を使命とする弁護士・弁護士会が率先して取り組むべき問題である。」と宣言したうえ,その宣言に基づき,2017年3月22日に「男女共同参画基本計画」において,LGBTの現状と 課題を分析し,具体的施策を行っていくことを決議したものである。
そして,当会はその基本計画も踏まえ,同小委員会が中心となり,当事者団体の集まりであるアライアンス会議への出席,九州レインボープライドへの毎年の出展などを行っており,2017年9月14日には,支援策の一つとしてLGBT無料電話相談を開始した。
その後,当会は,2018年4月,パートナーシップ宣誓制度の開始を始めとして性的少数者の支援策を進めている福岡市と「性的マイノリティに関する支援事業に関する協定」を結び,前述LGBT無料電話法律相談を福岡市との共同事業とし,2018年の九州レインボープライドへの共同出展なども行ってきて おり,今後も福岡市と提携しての当事者支援を行っていく予定である。
当会は,2016年の宣言を踏まえ,各自治体や関係団体と連携しながら,性自認・性的指向にかかわらず,そしてマイノリティ・マジョリティの区別を超えて,誰もが自分らしく生きられる社会の実現を目指した活動を継続していく所存 である。
6 結論
戸籍上の性別が異なる者の間で認められている婚姻が,同性カップルの間で認められていないことは,憲法13条及び憲法24条1項から導かれる自己決定権の一つである「婚姻の自由」の侵害に該当する上,性的指向ないし性自認に基づく不合理な差別として憲法14条に抵触する。
したがって,同性者間においても,戸籍上の性別が異なる者と同様の平等な婚 姻制度を早急に整備する必要がある。
またそれは,現実に様々な困難に直面している同性カップルの権利保護のため にも不可欠なことである。
よって当会は,上記のとおり決議する。
以 上