福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2019年3月12日

改めて少年法適用対象年齢引下げに反対する会長声明

声明

1 はじめに

現在,法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会においては,少年法の適用対象年齢を18歳未満とすることの是非等についての議論がなされており,第14回まで進んでいる。

この会議における議論には様々な問題があるが,当会は,特に下記の理由により,改めて少年法の適用対象年齢の引き下げに断固として反対する。

2 少年法適用対象年齢引き下げ論の理由

上記法制審議会の会議においては,少年法の適用対象年齢を18歳未満に引き下げるべき理由として,下記の3点が指摘されている。

① 選挙権年齢や民法上の成人年齢が18歳となることから,少年法の適用対象年齢も18歳未満に統一することが国民にわかりやすいこと

② 民法上の成人に対して,国家が後見的に介入し少年法上の保護処分の対象とするのは過剰な介入であること

③ 年齢を引き下げたとしても,少年法の対象から外れる18歳・19歳の者が起訴猶予となった場合には,家庭裁判所に送致して少年法と同様の処分を実施するという「若年者に対する新たな処分」で対応すれば問題ないこと

しかしながら,上記の理由は,いずれも少年法の適用対象年齢を引き下げる理由にはなりえない。

3 少年法適用対象年齢引き下げに断固として反対する理由

(1) 現行少年法制度が有効に機能していること

現行少年法は,成長途中の未熟な少年に対して教育によって非行からの立ち直りを目指す健全育成を法の目的・理念として掲げている。非行のある少年に対して,刑罰を科すのではなく,少年の資質や家庭環境に対する家庭裁判所調査官の調査や少年鑑別所での心身鑑別を通じて少年の問題点を明らかにし,個別の少年の抱える問題点に対応するための保護処分によって立ち直りを図っている。

このような趣旨に基づく現行少年法は有効に機能しており,少年の検挙人員は,2003年(平成15年)以降,絶対数だけでなく,人口比でも減少を続けている。

したがって,現状,18歳・19歳の少年をあえて現行少年法の適用対象から外す必要性は全くない。

(2) 民法上の成人年齢と少年法の適用対象年齢を一致させる必要はないこと

法律の適用対象年齢は,個別の法律の趣旨ごとに決められるべきである。実際,飲酒・喫煙・公営競技(ギャンブル)等については,健康被害の防止や青少年保護の観点から適用対象年齢が定められており,民法上の成人年齢の変更に合わせることなく,20歳が維持されている。少年法についても,上記の健全育成の理念によって適用対象年齢が定められているのであるから,選挙権年齢や民法上の成人年齢と一致させなければならない理由はない。

(3) 民法上の成人に対して少年法を適用することに問題はないこと

民法は,私法上の行為を規律する法律であり,成人が親の監護に服さないことは,私法上の取引を自由に行うことができる点で重要な意味をもつ。これに対し,少年法は,民法と全く異なる健全育成という目的・理念を掲げているのであり,民法上親の監護権に服さなくなることが,少年法の適用対象から外すべきであるという理由にはならない。

(4) 現在検討されている新たな処分は現行少年法制度の代替制度とはなり得ないこと

加えて,法制審議会では,少年法適用対象年齢引下げによって少年法上の処遇が受けられなくなる18歳・19歳の若年者に対しては,代替手段として,起訴猶予となった者を家庭裁判所へ送致し,家庭裁判所調査官の調査や,少年鑑別所での鑑別を経て,保護観察処分等の新たな処分の要否を判断することが検討されている。

しかし,かかる新たな処分は,現行少年法と類似の処分といえども,少年法と同様に健全育成という理念に基づいて,少年の資質面・環境面の問題点を明らかにするものではない。すなわち,新たな処分を前提とする調査や鑑別は,上記のように重くとも保護観察処分にとどまる事案に対する調査・鑑別に過ぎないのであるから,現行少年法の健全育成理念に基づく調査・鑑別のように実効性のあるものになるはずもない。そうすると,犯罪に対する非難と再犯防止のための調査・鑑別に過ぎず,教育として個別の処遇をしている現行少年法制度の代替制度には到底なりえない。

そもそも,若年者に対する新たな処分という現行少年法の代替手段が検討されていることは,民法上の成人となった若年者に対して現行少年法で行われている国家の後見的な教育的処分を実施する必要性を認めているに等しく,少年法の対象年齢を引き下げる必要のないことの表れである。

上述の通り,健全育成理念に基づく現行少年法は有効に機能しており,その理念から離れたいかなる制度も代替制度とはなり得ない。

4 最後に

以上のとおり,少年法適用対象年齢を18歳未満に引き下げる理由は全くない。

当会は,2015年(平成27年)6月25日に少年法適用対象年齢を18歳未満に引き下げることに反対する会長声明を出し,2017年(平成29年)5月24日の定期総会においては,少年法の適用対象年齢引下げに反対する決議をしたが,改めて,少年法適用対象年齢引下げに断固として反対するものである。

以上

2019年(平成31年)3月11日
福岡県弁護士会会長 上田英友

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