福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2019年1月 7日
死刑執行に関する会長声明
声明
2018年(平成30年)12月27日,大阪拘置所で2人の死刑が執行された。うち1人は再審請求中であった。
本年において死刑が執行された人は計15人となり,法務省が執行の事実や人数の公表を始めた1998年11月以降では,2008年と並んで最多となった。2012年12月の第2次安倍政権発足後,死刑執行は15回目で,計36人が執行されたことになる。
当会は,本年7月6日及び同月26日の死刑執行に対し,それぞれに抗議する声明を発表し,すべての死刑の執行を停止することを強く要請した。それにもかかわらず,今回の死刑が執行されたことは,まことに遺憾であり,当会は,今回の死刑執行に対し,強く抗議するものである。
たしかに,突然に不条理な犯罪の被害にあい,大切な人を奪われた状況において,被害者の遺族が厳罰を望むことはごく自然な心情である。しかも,わが国においては,犯罪被害者及び被害者遺族に対する精神的・経済的・社会的支援がまだまだ不十分であり,十分な支援を行うことは社会全体の責務である。
しかし,そもそも,死刑は,生命を剥奪するという重大かつ深刻な人権侵害行為であること,誤判・えん罪により死刑を執行した場合には取り返しがつかないことなど様々な問題を内包している。
我が国では,死刑事件について,すでに4件もの再審無罪判決が確定しており(免田・財田川・松山・島田各事件),えん罪によって死刑が執行される可能性が現実のものであることが明らかにされた。また,死刑判決を受けた袴田巌氏の再審開始決定は,本年6月11日,東京高等裁判所によって取り消されたが,袴田巌氏は最高裁判所に特別抗告しており,現在でもなお死刑えん罪が存在する可能性は否定できない。死刑事件ではないものの,本年10月に再審開始が最高裁で確定した松橋事件において,本年12月20日の熊本地裁での再審手続に関する協議で,検察が新たな有罪主張をせず,求刑もしない方針を明らかにしたことからも,えん罪の生じ得る危険性は明らかである。
世界的な視野で見ると,欧州連合(EU)加盟国を中心とする世界の約3分の2の国々が死刑を廃止又は停止している。経済協力開発機構(OECD)加盟国35か国のうち死刑を存置しているのは,日本・米国・韓国であるが,米国は50州のうち19州が死刑を廃止し,4州で知事が執行停止を宣言し,昨年執行した州は8州である。韓国では,20年以上,死刑の執行が停止されている。したがって,OECD加盟国のうち,国家として統一的に死刑を執行しているのは日本だけである。
国連総会は過去6度に亘り「死刑廃止を視野に入れた死刑執行の停止」を求める決議を採択し,国連人権理事会で実施された過去3回のUPR(普遍的定期的審査)では,日本に対し,死刑廃止に向けた行動の勧告を出している。
当会は,本件死刑執行について強く抗議の意思を表明するとともに,死刑制度についての全社会的議論を求め,この議論が尽くされるまでの間,すべての死刑の執行を停止することを強く要請するものである。
2018年(平成30年)12月28日
福岡県弁護士会 会長 上 田 英 友