福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2018年6月 7日

「特定複合観光施設区域整備法案」(いわゆる「カジノ解禁実施法案」)に反対し,廃案を求める会長声明

声明

2018年(平成30年)4月27日に,「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(平成28年法律第115号)を実施するための法案(「特定複合観光施設区域整備法案」,いわゆる「カジノ解禁実施法案」)が閣議決定され,国会に上程されている。


当会は,2014年(平成26年)10月15日及び2016年(平成28年)12月13日の会長声明において,暴力団員その他カジノ施設に対する関与が不適当な者の関与,犯罪の発生,風俗環境の悪化,青少年の健全育成への悪影響,ギャンブル依存症の拡大,多重債務問題再燃の危険性等,様々な問題があることを理由に,カジノ解禁に強く反対してきた。


カジノ解禁には,地域経済の振興への寄与などが目的として掲げられているが,例えば,唯一内国人が入場可能なカジノが誘致された韓国の広原(カンウォン)ランドでは,地元への経済効果が見込めないばかりか,ギャンブル依存症患者が増えて,カジノ導入時点で25,000人だった人口が,その後12,000人まで減少するなど,かえって悪影響を及ぼしている(九弁連第69回定期大会シンポジウム「ギャンブル依存症のない社会をめざして」報告書(増補版)184頁)。


今回提出されたカジノ解禁実施法案では,ギャンブル依存症の対策のための措置がとられてはいるものの,極めて不十分である。例えば,ギャンブル依存症対策として,入場回数制限を「7日間で3回,28日間で10回まで」とし,入場料を「6,000円」と定めている。しかし,7日間で3回も入場していれば,既にカジノに依存しているともいえるし,入場料を支払えばカジノに入場できるのであるから,これらの制限によりカジノ依存が抑止されるとは言えない。


さらに,カジノ解禁実施法案では,「特定資金貸付業務」として,顧客に金銭を貸し付ける業務が認められているところ,そこでは,一定の金額を預け入れた顧客に対しては,カジノ事業者が直接カジノ資金を貸し付けることが予定されている。しかも,年収の3分の1を超える貸付を禁止する貸金業法の総量規制が適用されることもないのであって,顧客をギャンブル依存に陥らせる危険性は極めて高いと言わざるを得ない。


さらに,2018年(平成30年)5月25日には,ギャンブル等依存症対策基本法案が衆議院で可決されたところ,同法案の提案理由として,「ギャンブル等依存症がこれを有する者等及びその家族の日常生活及び社会生活に様々な問題を生じさせるおそれのある疾患」であるために,「ギャンブル等依存症対策を総合的かつ計画的に推進する必要がある」ことが掲げられている。このように,ギャンブル依存症の予防及びギャンブル依存症を有する者の回復を,社会的な取組みとして図ろうとしている時期に,カジノを解禁して,依存症発生のリスクを高めることは妥当ではない。


そして,昨年8月に実施された意見募集(パブリックコメント)でも,提出された1,234件のうち,829件がカジノに反対するという意見であって,カジノ解禁に対して国民の理解が得られたという状況にはない。


よって,当会は,カジノ解禁実施法案に反対し,その廃案を求めるものである。


2018年(平成30年)6月7日
福岡県弁護士会
会長 上 田 英 友

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