福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2018年6月 8日

最低賃金の大幅な引き上げを求める会長声明

声明

福岡地方最低賃金審議会は,本年8月頃,福岡労働局長に対し,本年度の地域別最低賃金額の改定に関する答申を行う見込みである。

昨年,同審議会は,福岡県最低賃金の改正決定について,前年度比24円増額の789円とする答申を行った。しかし,時給789円という水準は,未だあまりに低すぎるものと言わざるを得ない。すなわち,時給789円で,1日8時間,月22日間働いた場合の収入は,月収13万8864円,年収約167万円に止まる。この金額では,労働者がその賃金だけで自らの生活を維持していくことは容易ではなく,ましてや家族内において家計の主たる担い手となるのは困難である。労働者の生活を安定させ,労働力の質的向上を図るためにも,最低賃金の大幅な引き上げが不可欠である。

また,福岡県が,2016年(平成28年)3月に公表した「福岡県子どもの貧困対策推進計画」において,子どもの貧困の原因として,「現在の貧困の根底には、家庭(親)の収入が少ないことがあります。」との指摘をしているとおり,子どもの貧困対策の視点からも,労働者全体の賃金の底上げにもつながる最低賃金の引き上げは喫緊の重要課題である。

ここ数年,最低賃金の大幅な引き上げは,格差と貧困の解消の視点から諸外国において実現されてきており,時給1000円以上の国ないし地域も広がってきている。例えば、フランスの最低賃金は9.76ユーロ(約1259円)、イギリスの最低賃金は7.5ポンド(25歳以上。約1110円)、ドイツの最低賃金は8.84ユーロ(約1140円)であり、アメリカでも、15ドル(約1635円)への引上げを決めたニューヨーク州やカリフォルニア州をはじめ最低賃金を大幅に引き上げる動きが各地に広がっている(円換算は2018年5月上旬の為替レートで計算。)。この動きは,我が国においても参照されるべきである。

 ただし,最低賃金の引き上げに際して,地域の中小企業の経営に特別の不利益を与えないよう配慮することは必要である。最低賃金の大幅な引き上げを実施するに際しては,中小企業を対象とした補助金制度や減税措置等も併せ検討されるべきである。

 なお,最低賃金の審議に関し,福岡地方最低賃金審議会は,審議会の議事の傍聴を認め,傍聴者にも資料を配布するとともに,議事要旨の公表を行っており,この点は評価できる。ただし,議事のさらなる透明性と公正の確保の観点から,議事要旨にとどまらずより詳細な議事録の作成及び公表を求めたい。

 以上,当会は,福岡地方最低賃金審議会に対し,今年度の答申に当たっては,中央最低賃金審議会の答申に捉われることなく,労働者の健康で文化的な生活を確保するとともに,これにより地域経済の健全な発展を促すためにも,最低賃金を大幅に引き上げる答申を行うよう求める。

2018年(平成30年)6月8日
福岡県弁護士会会長  上田 英友

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