福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2018年3月 1日
死刑執行に抗議する会長声明
声明
2017年(平成29年)12月19日,東京拘置所において2名の死刑が執行された。2名ともに弁護人による再審請求が裁判所に係属している中であり,うち一人は犯行時19歳と未成年であった。この度の死刑執行は,政府において弁護人を付した再審請求中であっても,また,犯行時未成年であっても,死刑を執行するとの強い意志を示したものと言える。
しかし,再審は,刑事裁判手続の誤謬を是正し,無実の者を誤判冤罪から救済するための最後の砦というべき制度であるところ,いったん死刑が執行されれば,失われた生命を取り戻すすべはない。再審請求に理由があるか否かは司法府(裁判所)が判断すべきことであり行政府(法務大臣)が判断できるものではないことからすれば,再審請求中に死刑を執行することは,行政府の判断によって生命を奪い去ることとなる結果を発生させるものであって,問題が大きい。
また,犯行時未成年であった者に対して死刑を執行することは極めて慎重であるべきである。未成年者は,生育環境の影響を受けやすく,完成された人格とは言いがたい。その一方で,大きな可塑性を有し,将来の更生が期待できる存在である。そのような犯行時未成年者であった者に対し,死刑を執行することは,刑罰のあり方として公正・適正と言えるのかという点から疑問である。
さらに,国連は,死刑は人の生命を剥奪する非人道的行為であるとの観点から,1966年に人権自由権規約(B規約)において,「生命に対する権利」を保障し,次いで1989年には,「死刑の廃止が人間の尊厳の向上と人権の漸進的発展に寄与する」とする第二選択議定書(死刑廃止条約)を採択している。国連は,国連総会決議及び国連人権自由権規約委員会の勧告を通じて,日本を含むすべての死刑存置国に対し,死刑廃止に向けての行動と死刑の執行停止を求め続けている。この国連の要請を受け,EUを中心とする世界の約3分の2の国々が死刑を廃止又は停止し,死刑存置国とされているアメリカ合衆国においても2017年6月の時点で19州が死刑廃止を,4州が死刑モラトリアム(執行停止)を宣言するなど,多くの国連加盟国(アメリカは州)は国連の理念に協調しようとしている。
ところが,政府は,国際社会からの死刑廃止に向けた勧告に対し,「死刑制度については,国民の多数が極めて悪質,凶悪な犯罪について死刑はやむを得ないと考えており,特別に議論する場所を設けることは現在のところ考えていない。」との政府見解を表明し,国連からの勧告に背を向け,日本における死刑の存置と執行を正当化している(UPR第2回日本政府審査・勧告に対する日本政府の対応)。
政府は,かかる態度をとる理由は国民世論にあると説明する。しかし,2014年(平成26年)の内閣府世論調査結果を子細にみると,死刑もやむを得ない(80.3%)と回答した者の中の40.5%は状況が変われば将来は死刑を廃止して良いとする考えに賛成であり,「死刑存置」の意見に賛成する者と「死刑廃止または廃止の可能性を認める」の意見に賛成する者は,おおよそ10:9の割合で拮抗しているのであって,国民世論の圧倒的多数が積極的に死刑に賛成している訳ではない。
誤判,冤罪によって理不尽に生命・自由が奪われるということへの危惧は,机上のものではない。そのことは,4件の死刑再審無罪判決(免田・財田川・松山・島田各事件),再審開始決定が出された袴田事件,そして,死刑求刑事件ではないものの,比較的近年の事件である東住吉事件,東電OL事件,氷見事件などから明らかである。冤罪による無辜の処罰は,過去の例外的事例として葬り去ることはできない。我々は,死刑制度が無実の者の生命を奪う危険性のある制度であることを十分に踏まえ,その上で,死刑を存置させるのか廃止させるのかを議論を尽くす必要がある。
政府は,国連の死刑廃止に向けた要請を真摯に受け止め,積極的・能動的に,日本国民に対し,自由と平等と平和を維持するために採択した人権自由権規約(B規約)の中核にある人間の尊厳・生存権を奪うことのできない権利とする価値観・理念の普遍化に努めるべきである。
日本弁護士連合会は,2016年(平成28年)10月7日の第59回人権擁護大会において「死刑廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択し,日本において国連犯罪防止刑事司法会議が開催される2020年までに死刑廃止を含む刑罰制度改革を目指すべきことを政府に求めた。
当会は,日本弁護士連合会の前記宣言の趣旨を踏まえ,2016年11月11日当会会長声明を発出して,死刑執行に抗議を行っている。当会は,改めて,本件死刑執行について,ここに強く抗議の意思を表明するとともに,死刑制度についての全社会的議論を求め,死刑廃止に向けた議論が尽くされるまでの間,すべての死刑の執行を停止することを強く要請する。
2018年(平成30年)3月 1日
福岡県弁護士会会長 作 間 功
2018年3月 9日
生活保護基準のさらなる引下げを行わないよう求める会長声明
声明
政府は,2017年12月22日,生活保護基準を引き下げ,年間160億円を削減することを含む次年度予算案を閣議決定した。今回の基準改定では,毎日の生活費に相当する生活扶助基準が最大5%,母子加算が約20%削減される予定となっている。基準改定によって基準額が上がる世帯も存在するものの,全体では約70%の世帯が基準引き下げの対象となり,特に都市部の子どものいる世帯や高齢世帯において大幅な引き下げになることが見込まれている。
生活保護基準については,すでに2013年から3年間かけて生活扶助基準の引下げ(平均6.5%,最大10%)が実施されており,2015年からは住宅扶助基準や冬季加算の削減も行われてきたところである。これらに続くさらなる生活保護基準の引下げは,我が国全体の貧困化を促すことになりかねないと危惧される。
今回の引下げは,生活保護基準を第1・十分位層(所得階層を10に分けた最も下位10%の階層)の消費水準に合わせるという考え方の基づくものである。しかし,そもそも我が国における生活保護の捕捉率(生活保護基準未満の世帯のうち実際に生活保護を利用している世帯が占める割合)は,厚生労働省が公表した資料(2010年4月9日付厚生労働省「生活保護基準未満の低所得世帯数の推計について」)によっても15%から32%程度と推測されているところであり,第1・十分位層の中には生活保護の利用が可能であるもののこれを利用することなく,生活保護基準未満の所得のみでの苦しい生活を余儀なくされている人たちが多数含まれている。この層の消費水準を比較対象とすれば,必然的に生活保護基準を最も貧困な水準に至るまで引下げ続けることにならざるを得ず,合理性がないことは明らかである。
生活保護基準は,憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の基準であるのみならず,住民税の非課税基準,国民健康保険料の減免基準,介護保険の保険料・利用料や障害者総合支援法による利用料の減免基準,就学援助の給付対象基準,最低賃金等の多様な施策にも直接,間接の影響を及ぼすものである。すなわち,生活保護基準の引下げは,生活保護利用世帯の生存権を直接脅かすとともに,生活保護を利用していない市民生活全般にも多大な影響を及ぼすのである。
今回の生活保護基準のさらなる引下げは,すでに度重なる引下げを実施されている生活保護利用者をさらに追い詰めるだけでなく,市民生活全般の地盤沈下をもたらすものであり,容認できないものである。
よって,当会は,政府に対し,生活保護基準のさらなる引下げを行わないよう強く求めるものである。
2018年(平成30年)3月9日
福岡県弁護士会
会長 作間 功
2018年3月23日
「消費者契約法の一部を改正する法律案」にかかる会長声明
声明
2018年(平成30年)3月2日,「消費者契約法の一部を改正する法律案」が閣議決定され,消費者契約法改正案(以下,「本改正案」という。)が国会に提出された。本改正案は,内閣府消費者委員会答申(以下,「委員会答申」という。)を受けたものであり,多発する消費者被害の防止及び救済を図るため,国会における速やかな審議及び可決に向けた取り組みがされることを望むものであるが,必ずしも委員会答申の趣旨を十分に踏まえたものではない。
当会は,2017年(平成29年)9月13日,「消費者契約法の改正に係る意見」(以下,「当会意見書」という)を公表しているところ,今後の本改正案の審議にあたって,以下のとおり,委員会答申及び当会の意見の趣旨を十分に踏まえた所要の修正がなされることを求める。
1 困惑類型の追加
本改正案においては,いわゆる「つけ込み型」勧誘行為における消費者の取消権が設けられていない。
委員会答申は,「合理的な判断をすることができない事情を利用して契約を締結させるいわゆる『つけ込み型』勧誘の類型につき,特に,高齢者・若年成人・障害者等の知識・経験・判断力の不足を不当に利用し過大な不利益をもたらす契約の勧誘が行われた場合における消費者の取消権」について,早急に検討し明らかにすべき喫緊の課題としていた。当会意見書も,「合理的な判断をすることができない事情の利用にかかる困惑類型(法第4条第3項)につき,年齢又は障害などによる消費者の判断力の不足に乗じた勧誘行為を追加すべきである。」ことを提言していた。
したがって,「つけ込み型」勧誘行為に対する消費者の取消権を追加するべきである。
2 「社会生活上の経験が乏しいこと」という要件の修正
本改正案は,契約締結過程に関する規律における困惑類型として,消費者が抱いている不安(本改正案第4条第3項第3号)又は勧誘者に対する恋愛感情等(同項第4号)につけ込んだ勧誘を理由とする取消権を設けたが,その取消しの要件として,「社会生活上の経験が乏しいこと」という要件を加えている。
この要件が付け加えられた結果,霊感商法など高齢者に対する勧誘がこの取消権の対象から除外されるおそれがある。
今回の消費者契約法改正は,若年者だけではなく高齢者など社会的経験・知識・判断力の不十分な者にかかる消費者被害の防止及び救済を図ることにその目的の一つがあるのであって,かかる困惑類型の対象から高齢者など判断力の不十分な者を除外すべきではない。
本改正案については,「社会生活上の経験が乏しいこと」との文言は削除すべきであり,あるいは少なくとも「社会生活上の経験又は判断力が乏しいこと」との文言に修正されるべきである。
3 「平均的な損害の額」の立証について
本改正案は,消費者契約法第9条第1号の「平均的な損害の額」に関して,消費者の立証責任軽減のための推定規定を導入していない。
判例(最判平成18年11月27日民集60巻9号3437頁)の立場によれば,「平均的な損害の額」の主張立証責任は消費者にあるとされているところ,この算定に必要な資料が事業者の元にあることから,消費者にとって,その主張立証はきわめて困難なものである。
そこで,委員会答申は,消費者の立証困難性を緩和し,消費者が「事業の内容が類似する同種の事業者に生ずべき平均的な損害の額」を立証した場合において,その額が「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」と推定される旨の規定を設けるべきことを提言していた。当会意見書では,かかる推定規定にとどまらず,さらに進んで,「平均的な損害の額」にかかる立証責任を事業者に転換する旨を法律上規定すべきことを提言した。法9条の1号の規定を実効化するためには必要不可欠なものであるから,かかる推定規定を設けないのは,委員会答申の趣旨を大きく損なうものである。
本改正案においては,推定規定を導入すべきである。
2018年(平成30年)3月23日
福岡県弁護士会 会長 作間 功
2018年3月27日
罹災証明書の申請期限の延長についての意見書
意見
平成30年3月27日
朝倉市
朝倉市市長 森田俊介 殿
福岡県弁護士会
会長 作間 功
1 意見の趣旨
罹災証明書(二次調査及び再調査を含む。)の申請について、申請期限を6か月程度延長することが相当である。
2 意見の理由
平成29年7月の九州北部豪雨災害では、豪雨に伴う河川の氾濫により大量の土砂や流木が住宅に流入する等の被害により、多くの住民が、未だに仮設住宅暮らしを余儀なくされています。被災地の復旧・復興は、着実に進んできているとはいえ、未だ途上の段階であります。
住家の被害認定は、災害により被災した住家の「被害の程度(全壊、半壊等)」を認定されるものであり、この認定結果に基づき、被災者の方々に「罹災証明書」が交付されます(災害対策基本法第90条の2)。この証明書の被害認定区分は、被災者生活再建支援金の支給、住宅の応急修理など様々な被災者支援策を受ける際の重要な基準となります。
しかしながら、従来の災害に係る住家の被害認定基準運用指針(以下「旧運用指針」といいます。)は、昨年の九州北部豪雨水害のような大量の土砂や流木が流入するといった水害を、必ずしも想定せずに策定されていたと思われ、住家被害認定の手法として不適当であると指摘されてきました。そのため、九州北部豪雨災害では、被災者の被害実態にそぐわない被害認定がなされていたと思われる事例が数多く散見されており、被災者の生活再建及び被災地の復旧復興が十分に行われていないように思われます。
そうした中、内閣府において、昨年11月から本年3月までの間、九州北部豪雨水害等における経験や知見等を踏まえて旧運用指針を見直すべく、四回にわたって検討会が開催され、この検討結果を受けて、今月23日、旧運用指針が改定されました(改定後の運用指針を「本運用指針」といいます。)。
本運用指針が、九州北部豪雨災害における経験や知見をも踏まえて改定されたという経緯からすれば、平成29年7月九州北部豪雨の被災者の中には、本運用指針を基準とした場合、被害認定の程度が重く認定される被災者がおられることが十分に予測されます。しかしながら、貴市は、罹災証明(二次調査及び再調査を含む。)の申請期限を平成30年3月30日(金)までと区切っておられます。運用指針が改定された以上、貴市は、本運用指針を改定された趣旨を踏まえて、住家被害の認定を行う必要が新たに生じておられます。
そこで、当会は、罹災証明書(二次調査及び再調査を含む)の申請について、申請期限を、本年3月30日ではなく、さらに少なくとも6カ月程度延長することが相当であると考えます。
以上