福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2016年1月20日
司法修習生に対する給費の実現を求める会長声明
声明
司法修習生は、1年間の修習を終えた後には、三権の一翼である司法の担い手として国民の権利を擁護し、司法制度を支えるという公共的な役割を担うべく、職務としての司法修習に専念する者である。このような公共的役割を持つ存在であることに鑑み、司法修習生に対しては、戦後約65年間にわたり、国家公務員に準じた取扱いがなされ、給与が支給されていた(給費制)。しかし,2011(平成23年)年11月から,この給費制が廃止され,代わって修習期間中に費用が必要な修習生に対しては,修習資金を貸与する制度(貸与制)に変更された。
当会は、貸与制による経済的負担の増加が、有為な人材が法曹を目指さなくなり、ひいては日本の司法制度の弱体化につながるおそれがあるとして、貸与制の導入以前から、給費制の存続ないし復活も含めた司法修習生に対する経済的支援の必要性を訴えてきた。
司法修習生に対する経済的支援の具体案である司法修習生への給費の実現(修習手当の創設)については,この間,日本弁護士連合会・各弁護士会に対して,多くの国会議員から賛同のメッセージが寄せられており,先日,同賛同メッセージの総数が,衆参両院の合計議員数717名の過半数である359名を超えた。
当会としては,まずはメッセージをお寄せいただいた国会議員の皆様に対し感謝の意と敬意を表するものである。
メッセージを寄せられた国会議員は,与野党を問わず広がりを見せており,司法修習生への経済的支援の必要性についての理解が得られつつあるものと考えられる。このような状況は,これまで司法修習生に対する給費の実現に向けて、市民集会の開催、街頭署名など種々の活動を実施してきた当会としても喜ばしい限りである。
そもそも,司法制度は,社会に法の支配を行き渡らせ,市民の権利を実現するための根幹的な社会的インフラであり,国はかかる公共的価値を実現する司法制度を担う法曹になる司法修習生を,公費をもって養成するべきである。このような理念のもとに,我が国では,終戦直後から司法修習生に対し給与が支払われてきた。しかしながら、貸与制の導入により修習資金の負担が生じることに加え,大学や法科大学院における奨学金の債務を負っている司法修習生も多く,その合計額が極めて多額に上る者も少なくない。法曹を目指す者は,年々減少の一途をたどっているが,こうした重い経済的負担が法曹志望者の激減の一因となっていることが改めて指摘されているところである。
こうした事態を重く受け止め,法曹に広く有為の人材を募り,法曹志望者が経済的理由によって法曹への道を断念する事態が生ずることのないよう,また,司法修習生が安心して修習に専念できる環境を整えるため,司法修習生に対する給費の実現(修習手当の創設)が早急に実施されるべきである。
昨年6月30日,政府の法曹養成制度改革推進会議が決定した「法曹養成制度改革の更なる推進について」において,「法務省は,最高裁判所等との連携・協力の下,司法修習の実態,司法修習終了後相当期間を経た法曹の収入等の経済状況,司法制度全体に対する合理的な財政負担の在り方等を踏まえ,司法修習生に対する経済的支援の在り方を検討するものとする。」との一節が盛り込まれた。
これは,司法修習生に対する経済的支援に向けた大きな一歩と評価することができる。法務省,最高裁判所等の関係各機関は,有為の人材が安心して法曹を目指せるような希望の持てる制度とするという観点から,司法修習生に対する経済的支援について,直ちに前向きかつ具体的な検討を開始すべきである。
当会は,司法修習生への給費の実現(修習手当の創設)に対し,国会議員の過半数が賛同のメッセージを寄せていること,及び,政府においても上記のような決定がなされたことを踏まえて,国会に対して,給費の実現(修習手当の創設)を内容とする裁判所法の早急なる改正を求めるものである。
2016年(平成28年)1月20日
福岡県弁護士会
会長 斎 藤 芳 朗