福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2015年3月 9日
接見室内での写真撮影に関する国家賠償請求訴訟判決についての会長声明
声明
2015(平成27)年2月26日、福岡地方裁判所小倉支部第3民事部は、拘置所内において、弁護人が接見室内でした写真撮影に関する国家賠償請求事件につき、極めて不当な判決を言い渡した。弁護団は、本日、同判決に対して控訴を申し立てた。
本件は、当時弁護人であった原告が、小倉拘置支所の接見室内で被告人と面会した際、被告人から、「拘置支所職員から暴行を受け、顔面を負傷したので、怪我を証拠に残してほしい」との訴えを受け、負傷状況を証拠化する目的で、携帯電話のカメラ機能を用いて写真撮影したところ、撮影した写真データを消去することを拘置支所職員らに強制された事案である。
判決には、多くの問題が存するが、なにより接見を弁護人等と身体を拘束された被疑者・被告人(以下「被疑者等」という。)との意思疎通に限定し、写真撮影は接見交通権に含まれないと断じた点に重大な問題がある。
いうまでもなく、憲法及び刑事訴訟法39条1項の保障する接見交通権は、被疑者等が弁護人から助言を受け、有効な防御権を行使するために不可欠な権利である。
この接見交通権の意義に照らせば、接見の際に得られた情報を記録化することも接見の一環であり、接見時における写真撮影は、接見時の被疑者等に関する情報の取得・記録行為にほかならず、その意味で接見時にメモを作成することと本質的な差異はない。接見で得た情報の記録化を否定することは、情報の取得行為を否定することに等しく、被疑者等の弁護人依頼権という憲法上の権利を危うくしかねないものである。実務上も被疑者等との接見の際に写真撮影や録音・録画が行えなければ、接見における情報収集及び記録化を前提とする公判廷等への顕出が極めて制限される結果となり、被疑者等や弁護人の防御権は大きく制約されることとなる。ましてや、接見室への通信・撮影機器の持ち込みを一律に禁止することには何ら合理性はないと言うべきである。
判決は、弁護人等が情報を記録することを弁護活動のひとつとして重要なものとしつつも、刑事施設の規律・秩序を根拠として制約が認められるとした。しかしながら、被疑者等が、弁護人の実質的な援助を受けて初めて、当事者が対等であるという前提が整い、刑事手続は公正なものといえるのである。
ところが、判決は、弁護人等が情報を記録することが、規律・秩序の維持にどのような問題を生じるのかについて、何ら検討を加えていないばかりか、刑事訴訟の基本構造を踏まえたものとは到底言いがたく、弁護活動の重要性を軽視する姿勢は顕著と言わざるを得ない。
当会は、被疑者等の実質的な弁護を受ける権利の保障を実現するため、写真撮影が、接見交通権に含まれるものであることを改めて表明するものである。
2015年(平成27年)3月9日
福岡県弁護士会 会長 三 浦 邦 俊
2015年3月19日
少年に関する実名報道へ抗議する会長声明
声明
1 週刊新潮による実名報道
「週刊新潮」は、平成27年3月5日号において、神奈川県川崎市で発生した事件について、主犯格と見られる18歳の少年被疑者の実名と顔写真を掲載している。同誌は、2月5日号、2月12日号においても、本年1月27日に愛知県名古屋市で発生した事件に関して、少年被疑者の実名を挙げたうえ、顔写真を掲載しており、同誌による実名報道は常態化している。
このような報道は、少年について「氏名、年齢、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真」の掲載を禁じている少年法第61条に明白に違反するものである。
2 推知報道禁止の趣旨
(1) 少年法第61条が、少年について個人を特定する犯罪報道を規制した趣旨は、少年の名誉・プライバシーを保護するだけにとどまらず、少年が可塑性に富む存在であることに鑑み、少年の更生を妨げることになる社会の偏見を助長することを防ぐことを目的とするものである。
実名や顔写真を掲載することにより、少年に否定的な烙印を押すことは、少年の社会的断絶をもたらし、本来、少年が有している更生への可能性を奪ってしまうことにもなりかねない。
(2) このような少年事件に関する報道規制は、国際的な流れであり、少年へのラベリングを防ぐために報道に一定の規制をかける必要があることは共通認識となっている(児童の権利条約第16条及び40条2項(ⅶ)、少年司法運営に関する国連最低基準規則(北京ルールズ)8条)。
3 実名報道の弊害
少年被疑者の顔写真を掲載し、実名を挙げることは、単に一般大衆の興味本位の関心を満足させるだけの商業主義的な行為である。
このような報道は、事案の真相究明にまったく役に立たなばかりか、偏見を助長し、法律が予定しない私的制裁に類するものであり、少年の更生を大きく妨げるものといえる。
4 まとめ
当会としては、新潮社を対し、少年法61条及び児童の権利条約等に違反し、少年の人権を侵害するこのような報道を繰り返さないことを強く求める。
2015年(平成27年)3月19日
福岡県弁護士会
会 長 三浦 邦俊
2015年3月11日
司法予算の拡大を求める会長声明
声明
1 我が国の司法予算(裁判所関係予算)は、長年にわたって低い水準にあり、国の一般会計予算比でわずか0.3%台で推移している。諸外国と比較しても、国家予算に占める割合が著しく低いと言わざるを得ない。平成26年度の司法予算額は約3111億円(うち人件費2599億円、物件費512億円)、平成27年度のそれは約3131億円(うち人件費2628億円、物件費503億円)である。
裁判所は国の三権の一翼を担い、様々な紛争を公平かつ適正に解決する機能とともに、正義を実現し、少数者・弱者の権利擁護の最後の砦としての役割を果たす大切な組織である。紛争を解決する、権利の侵害から救済する、違法な行為から身体や財産を守るという司法の役割を十分に発揮するためには司法予算の拡大が不可欠である。
今後、刑事・少年、民事のいずれの分野でも法的扶助の抜本的拡充が必要であり、裁判官の大幅増員や裁判所支部の充実などの司法基盤整備を進めるには、司法予算を現状よりも大幅に拡大する必要がある。
2 この点は、2001年(平成13年)6月の司法制度改革審議会最終意見書においても、「本改革の実現には、これに必要とされる人員・予算の確保が不可欠であり、厳しい財政事情の中にあって相当程度の負担を伴うものであるが、政府におかれては、・・・・・・大胆かつ積極的な措置を講じられるよう、強く要望」するとされており、さらに衆議院や参議院法務委員会も同年11月、「政府は、司法制度改革を実効あるものとするために、......特段(ないし万全)の予算措置を行うように努めること」との附帯決議をしているが、これが実行されているとは、到底、評価出来ない状態にある。
3 福岡県においては、福岡高等・地方・簡易裁判所(福岡市中央区城内)や福岡家庭裁判所(同区大手門)、福岡簡裁石城町分室(同市博多区石城町)を統合し、福岡市中央区六本松に移転集約化しようとしているところ、当会は、家庭裁判所については、高等裁判所及び地方裁判所と家庭裁判所とを同一の庁舎内に併設することには重大な問題があると指摘してきた。
つまり、基本的に公開を原則とする高等裁判所及び地方裁判所で取り扱われる民事事件や成人の刑事事件と、プライバシー保護の観点からの配慮が強く必要とされる少年事件や家事事件、なかんずくプライバシー保護に加えて少年の更生の観点が必要な少年事件は、別の施設であるのが原則であり、実際、これまで家庭裁判所は、高等裁判所及び地方裁判所とは別施設とされてきたのであり、裁判所自らがそのような原則を放擲されることは問題だと指摘してきた。
しかし、裁判所は、家庭裁判所について別の庁舎とすることは困難であるとするのみならず、同一庁舎とした場合の家庭裁判所エリアの独立性の確保ということについてさえ、独立した出入口やエレベーターを設けるなどして構造的に分離独立させることをせず、来訪者のプライバシーの保護や家庭裁判所としての平穏な雰囲気を作り出せる構造を採用しようとしない。このため、本年1月から高等裁判所庁舎で実施されているような来場者に対する手荷物検査が、家庭裁判所の来場者にも一律に実施されることになりかねないとの懸念を払しょくできない。
4 その原因の一つは、総事業費約180億円といわれる裁判所移転関係費につき、現在の大手門の家庭裁判所の敷地を売却することで費用を捻出するという財政上の制約にあると思われるが、仮に財政的な理由から、少年の心理的な安定の要請や家族間の紛争を解決する機関として平穏な雰囲気が求められている家庭裁判所を統合して移転するというのであれば、それは司法の不当な矮小化である。今後、各地において、このような経済的意味での施設の統廃合が進行することを強く懸念する。
そもそも司法の人的、物的基盤の脆弱さは、圧倒的に少ない司法関係予算に問題があると言わざるを得ず、この点が、国民の裁判を受ける権利に少なくない悪影響を及ぼしていることは、明らかである。よって、最高裁判所は、司法制度基盤の人的、物的基盤整備のために、財務省に対し、相応な予算を組むように強く求めるべきであって、政府、財務省は、最高裁判所の要求に応じ必要な予算措置をとるべきである。
5 国民の裁判を受ける権利を実質的に保障するためには、司法の役割を十分に発揮させるための人的、物的基盤の整備が必要であることは明らかである。当会は、家庭裁判所の統合問題に端を発して、国民の目線からは、司法予算の拡大をおこなうことが必要不可欠であることを訴えるために本声明を発するものである。
2015年(平成27年)3月11日
福岡県弁護士会
会 長 三 浦 邦 俊
2015年3月26日
商品先物取引法における不招請勧誘禁止緩和に抗議する会長声明
声明
経済産業省及び農林水産省は、2015年(平成27年)1月23日、商品先物取引法施行規則の一部を改正する省令(以下「本省令」という。)を定め、商品先物取引について不招請勧誘の禁止規定を緩和することを公表した。
本省令は、当初の公表案を若干修正し、同規則第102条の2を改正して、ハイリスク取引の経験者に対する勧誘以外に、顧客が65歳未満で、年収800万円以上又は金融資産2000万円以上を有する者について、顧客の理解度を確認し、投資上限額を設定するなどの要件を満たした場合に、訪問や電話勧誘を許容する例外規定を盛り込んでいる。
この内容は、一定の年齢や一定の年収又は金融資産を要件としているものの、その要件を満たすかどうかの確認が電話または訪問によって行われることから、結果として、電話や訪問による勧誘を無制約に許容することになる。これでは法律が禁止した不招請勧誘を解禁するに等しく、このような内容を省令で定めることは法律の委任の範囲を超えて違法なものといわざるを得ない。
また、本省令は、要件確認の方法として、顧客に対し、年収や金融資産の申告書面を差し入れさせたり、書面による問題に回答させて理解度確認を行う等の手法を示しているが、いずれも業者が顧客を誘導して事実と異なる申告をさせたり、答えを誘導するなどの行為が蔓延してきたところであって、これらの手法が委託者保護のために十分機能するとは到底いえない。
当会は、2013年(平成25年)11月20日付けで、消費者保護の観点から商品先物取引における不招請勧誘禁止の撤廃には強く反対するとの会長声明を出していた。その後、全国のすべての単位会が不招請勧誘禁止の撤廃に反対する会長声明などを表明した。このような異例ともいえる事態のなかで、本省令は、法律を改正しないままに、不招請勧誘の禁止規定の原則と例外を逆転させるものであって、消費者保護の観点から許容することができず、また、法律の委任の範囲を超えて違法であるから、直ちに改廃し、このまま施行することのないよう強く求めるものである。
2015年(平成27年)3月26日
福岡県弁護士会 会長 三浦邦俊