福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2014年6月11日
行政書士法の改正に反対する会長声明
声明
日本行政書士会連合会は、行政書士法を改正して、「行政書士が作成した官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立てについて代理すること」及び「ADR手続において代理すること」を行政書士の業務範囲とすることを求め、そのための運動を推進してきており、行政書士法改正案が議員立法として今通常国会に提出される可能性がある。
しかしながら、行政庁に対する不服申立やADR手続(以下「行政不服申立等」という。)における代理権を行政書士の業務範囲に加えることは、以下に述べるとおり、国民の権利利益の擁護を危うくする恐れがある。
よって、当会は、行政書士法を改正して行政書士に行政不服申立等の代理権を付与することに反対する。
1 行政不服申立等の代理業務は行政書士業務と相容れないこと
そもそも、行政書士の主な職務は、行政に関する諸手続の円滑な実施に寄与して国民の利便に資することを目的としており、その主な内容は、官公署に提出する書類等の作成及びその作成や提出を代理人として行うことであって、その性質から紛争性の存しない職務を内容としていたものである。
しかるに、行政不服申立制度は、行政庁の違法または不当な行政処分を是正して国民の権利利益を擁護するための制度であり、紛争解決制度であるADR手続と共に、本来的に紛争性を内在していて、行政書士の主な職務とは、その内容を本質的に異にしている。特に、行政不服申立制度においては国民と行政庁が鋭く対立することが予想されるところ、行政手続の円滑な実施に寄与することを主目的とする行政書士が、行政庁の行った処分についての是正を求めることは、その職務の性質と本質的に相容れないものである。行政官庁の職員であった経歴を持つ行政書士が相当数に上るという事実も、行政書士に対しては、行政庁の違法又は不当処分の是正を期待出来ず、逆に、国民の権利擁護に欠ける事態の発生が懸念される理由である。
たとえ代理権の範囲を行政書士が作成した官公署に提出する書類に係る許認可等に関する不服申立に限定したとしても、行政書士の職務の内容と不服申立手続とが相容れない点についは、何ら変わりはないというべきである。
2 行政不服申立等の代理権を行政書士に付与することは国民の利益を損なうこと
国民と行政庁が鋭く対立する行政不服申立等の代理人は、行政庁と鋭く対立することを求めざるを得ないが、都道府県知事による監督を受ける行政書士にそのような対立をすることは全く期待できず、その結果、行政書士が国民のために適正に業務を遂行することができるのかという点に関しては、根本的な疑問が残るものであって、寧ろ、国民の権利及び法的利益の実現を危うくする恐れが極めて大である。
また、行政不服申立等の代理行為は、その後の行政訴訟の提起や同訴訟での結論も充分に視野に入れての判断が必要となるところ、行政書士は、行政不服審査法が行政書士試験において必須科目とされてはいるものの、行政訴訟における高度な専門性と判断に関する能力が担保された状態にはなく、訴訟実務にも精通していない。司法制度改革において行政書士以外の各士業に与えられた行政不服申立代理権は、各分野における高度な専門性に、訴訟実務に関する一定の研修を受けることを前提にして付与されたものであるところ、行政書士には、そもそも他士業のような専門的な分野は存しないのであるから、他の士業と同列に訴訟代理権を認めるべき前提を欠くものである。
このような行政書士に行政不服申立等の代理権を付与することは、行政庁の違法または不当な行政処分を是正して国民の権利利益を擁護するはずの行政不服申立制度において、国民の側に立ってその権利や法的利益の擁護のために最善を尽くすことのできない代理人の存在が許容されることになるところ、国民の権利や法的利益の保護が全うされない事態の発生は、厳に避けなければならない。
3 行政書士には紛争性の存する職務を取扱い得る職業倫理が確立していないこと
紛争性を内在している行政不服申立等の代理行為を行うには、当事者の利益が鋭く対立する場面における職業倫理が確立されていることが必要不可欠である。常に紛争性が高い事件の取扱いを主な職務とする弁護士には、これを前提とした弁護士職務基本規程が定められている。
しかるに、行政書士について定められている倫理綱領は、その内容において抽象的に国民の権利擁護を掲げるのみであり、行政書士においては、紛争性の存する職務を取扱うだけの職業倫理が確立しているとはいえない。
4 行政書士法の改正が必要となる立法事実がないこと
国民による行政不服申立等を代理する資格者が充分に確保できていないという事実は実証されておらず、従って、行政書士に行政不服申立等の代理権を付与する前提として立法事実を欠いている。
これまでも、弁護士は、生活保護法、出入国管理及び難民認定法、精神保健及び精神障害者福祉法等に基づく行政手続等の様々な分野で、行政による不当な処分から社会的弱者を救済する実績を上げている。そして、今後も、弁護士人口の増加等により、行政不服申立の分野にも弁護士が一層関与していくことが確実に予想される状況にあるから、行政書士法を改正して行政書士の業務範囲を拡大する必要性はない。
また、当事者の権利義務の存否が問題となる民事紛争解決手続の一つとしてのADRについては、この面での専門性を全く欠いている行政書士に代理権を付与する余地はない。
よって、当会は、行政書士法を改正して行政書士に行政不服申立及びADR手続に関する代理権を付与することに、断固として反対する。
2014年(平成26年)6月11日
福岡県弁護士会 会長 三 浦 邦 俊