福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2014年6月18日
改正少年法施行にあたっての会長声明
声明
1 本日、少年法の一部を改正する法律(平成26年4月18日法律第23号)(以下、「改正法」という。)が全面施行され、国選付添人選任の対象事件が死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁固に当たる事件(被疑者国選弁護事件と同じ)に拡大した。この結果、当会の試算では、観護措置を受けた少年の約80パーセントが国選付添人選任の対象事件となる。
2 これまで、成人の刑事事件では原則として国選弁護人による法的援助が受けられる一方、可塑性に富み、かつ、成人に比してさらに防御能力が劣る少年には弁護士の援助が権利として保障されてはおらず、正義・公正に反する状況が長く続いていた。
こうした状況の中で、当会は、少年に適正手続を保障するとともに、少年の立ち直りを支援する弁護士付添人の役割の重要性に鑑み、2001年(平成13年)2月、全国に先駆けて、観護措置決定を受け少年鑑別所に収容された全ての少年に弁護士付添人をつける「身柄事件全件付添人制度」を創設した。
この動きは、当会から全国に広がり、2011年(平成23年)には、全国の全ての単位弁護士会で同様の制度が創設されるに至り、全ての少年に弁護士付添人をつける人的体制は整った。そして、現実に当会では、ほぼ100パーセントの少年に弁護士付添人が選任されるに至ったのである。
今回の改正法は、我々が目指してきた全面的国選付添人制度実現に向けた大きな前進であると評価できる。
3 もっとも、今回の改正では、①共同危険行為(暴走行為)や「ぐ犯」事件など弁護士付添人の支援が必要と考えられる事件が対象外とされた点、②付添人の選任は家庭裁判所の裁量とされた点、③検察官関与対象事件が拡大された点、④少年の刑事裁判において科しうる有期刑の上限が引き上げられた点に未だ不十分さを残しているといわざるを得ない。
すなわち、まず「②」の結果、対象事件でも、国選付添人が選任されないというケースも考えられる。
つぎに、「③」の結果、少年審判に検察官が関与することは、少年審判に対立構造を持ち込み、「懇切を旨として、和やかに」行われるべき審判の審理構造と矛盾するものであるとともに、予断排除原則や伝聞法則の適用もない少年審判において、少年を成人以上に不利益な立場に置くことになる。
更に「④」の厳罰化により、少年を長期間社会から隔絶させることは、少年の社会復帰を困難にし、むしろ更生の妨げになりかねない。
4 当会は、改正法によって国選付添人の対象とされた事件については、全て国選付添人が選任されるように努めるとともに、対象事件の拡大のための運動を継続し、観護措置決定を受けた全ての少年に国選付添人が選任される制度の実現を目指していく所存である。
更に、弁護活動及び付添人活動を通じて、検察官関与や厳罰化が決して安易になされることがないように務めるとともに、これまでにも増して少年の権利を擁護し、少年の更生のために最大限の付添人活動を実践する所存である。
以上
2014年(平成26年)6月18日
福岡県弁護士会 会長 三 浦 邦 俊
2014年6月26日
会長声明
声明
1 本日、大阪拘置所において、死刑確定者に対する死刑が執行された。
死刑執行は、2013年(平成25年)12月以来半年ぶりとはいえ、昨年中には合計8名が執行されていることから、今後も新たな執行がなされることが懸念される。
2 本年(2014年(平成26年))3月に、1966年(昭和41年)にみそ製造会社の専務一家4名を殺害したとして強盗殺人罪などで死刑が確定した元プロボクサーの袴田巌氏(以下「袴田氏」と略。)に対する再審開始決定がなされ、刑事司法が無謬ではないという認識が世間一般に改めて広く共有されたところである。万一、袴田氏に対する死刑が執行されていたことを想像すると震撼させられるのを禁じ得ない。
そもそも、死刑という刑罰は、日本弁護士連合会の2011年(平成23年)10月7日の人権擁護大会の宣言でも触れられているとおり、①生命を奪う非人道的なものであり、②受刑者の更生し社会復帰する可能性を奪うものである点で根本的問題を内包している。そして、③人の生命を奪う点において、いかなる執行方法であっても、その残虐性は否定できない。
それ故、死刑の廃止は国際的な揺るぎない潮流となっているのである。
また、我が国では、死刑に直面している者に対して、被疑者・被告人段階あるいは再審請求の段階に至るまで十分な弁護権、防御権が保障されていない。執行の段階でも死刑確定者の人権保障の面で多くの問題を抱えている。
3 当会は政府に対し強く抗議の意思を表明するとともに、今後、死刑制度の存廃を含む抜本的な検討がなされ、それに基づいた施策が実施されるまで、一切の死刑執行を停止することを強く要請するものである。
以上
2014年(平成26年)6月26日
福岡県弁護士会会長 三浦邦俊
2014年6月11日
行政書士法の改正に反対する会長声明
声明
日本行政書士会連合会は、行政書士法を改正して、「行政書士が作成した官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立てについて代理すること」及び「ADR手続において代理すること」を行政書士の業務範囲とすることを求め、そのための運動を推進してきており、行政書士法改正案が議員立法として今通常国会に提出される可能性がある。
しかしながら、行政庁に対する不服申立やADR手続(以下「行政不服申立等」という。)における代理権を行政書士の業務範囲に加えることは、以下に述べるとおり、国民の権利利益の擁護を危うくする恐れがある。
よって、当会は、行政書士法を改正して行政書士に行政不服申立等の代理権を付与することに反対する。
1 行政不服申立等の代理業務は行政書士業務と相容れないこと
そもそも、行政書士の主な職務は、行政に関する諸手続の円滑な実施に寄与して国民の利便に資することを目的としており、その主な内容は、官公署に提出する書類等の作成及びその作成や提出を代理人として行うことであって、その性質から紛争性の存しない職務を内容としていたものである。
しかるに、行政不服申立制度は、行政庁の違法または不当な行政処分を是正して国民の権利利益を擁護するための制度であり、紛争解決制度であるADR手続と共に、本来的に紛争性を内在していて、行政書士の主な職務とは、その内容を本質的に異にしている。特に、行政不服申立制度においては国民と行政庁が鋭く対立することが予想されるところ、行政手続の円滑な実施に寄与することを主目的とする行政書士が、行政庁の行った処分についての是正を求めることは、その職務の性質と本質的に相容れないものである。行政官庁の職員であった経歴を持つ行政書士が相当数に上るという事実も、行政書士に対しては、行政庁の違法又は不当処分の是正を期待出来ず、逆に、国民の権利擁護に欠ける事態の発生が懸念される理由である。
たとえ代理権の範囲を行政書士が作成した官公署に提出する書類に係る許認可等に関する不服申立に限定したとしても、行政書士の職務の内容と不服申立手続とが相容れない点についは、何ら変わりはないというべきである。
2 行政不服申立等の代理権を行政書士に付与することは国民の利益を損なうこと
国民と行政庁が鋭く対立する行政不服申立等の代理人は、行政庁と鋭く対立することを求めざるを得ないが、都道府県知事による監督を受ける行政書士にそのような対立をすることは全く期待できず、その結果、行政書士が国民のために適正に業務を遂行することができるのかという点に関しては、根本的な疑問が残るものであって、寧ろ、国民の権利及び法的利益の実現を危うくする恐れが極めて大である。
また、行政不服申立等の代理行為は、その後の行政訴訟の提起や同訴訟での結論も充分に視野に入れての判断が必要となるところ、行政書士は、行政不服審査法が行政書士試験において必須科目とされてはいるものの、行政訴訟における高度な専門性と判断に関する能力が担保された状態にはなく、訴訟実務にも精通していない。司法制度改革において行政書士以外の各士業に与えられた行政不服申立代理権は、各分野における高度な専門性に、訴訟実務に関する一定の研修を受けることを前提にして付与されたものであるところ、行政書士には、そもそも他士業のような専門的な分野は存しないのであるから、他の士業と同列に訴訟代理権を認めるべき前提を欠くものである。
このような行政書士に行政不服申立等の代理権を付与することは、行政庁の違法または不当な行政処分を是正して国民の権利利益を擁護するはずの行政不服申立制度において、国民の側に立ってその権利や法的利益の擁護のために最善を尽くすことのできない代理人の存在が許容されることになるところ、国民の権利や法的利益の保護が全うされない事態の発生は、厳に避けなければならない。
3 行政書士には紛争性の存する職務を取扱い得る職業倫理が確立していないこと
紛争性を内在している行政不服申立等の代理行為を行うには、当事者の利益が鋭く対立する場面における職業倫理が確立されていることが必要不可欠である。常に紛争性が高い事件の取扱いを主な職務とする弁護士には、これを前提とした弁護士職務基本規程が定められている。
しかるに、行政書士について定められている倫理綱領は、その内容において抽象的に国民の権利擁護を掲げるのみであり、行政書士においては、紛争性の存する職務を取扱うだけの職業倫理が確立しているとはいえない。
4 行政書士法の改正が必要となる立法事実がないこと
国民による行政不服申立等を代理する資格者が充分に確保できていないという事実は実証されておらず、従って、行政書士に行政不服申立等の代理権を付与する前提として立法事実を欠いている。
これまでも、弁護士は、生活保護法、出入国管理及び難民認定法、精神保健及び精神障害者福祉法等に基づく行政手続等の様々な分野で、行政による不当な処分から社会的弱者を救済する実績を上げている。そして、今後も、弁護士人口の増加等により、行政不服申立の分野にも弁護士が一層関与していくことが確実に予想される状況にあるから、行政書士法を改正して行政書士の業務範囲を拡大する必要性はない。
また、当事者の権利義務の存否が問題となる民事紛争解決手続の一つとしてのADRについては、この面での専門性を全く欠いている行政書士に代理権を付与する余地はない。
よって、当会は、行政書士法を改正して行政書士に行政不服申立及びADR手続に関する代理権を付与することに、断固として反対する。
2014年(平成26年)6月11日
福岡県弁護士会 会長 三 浦 邦 俊