福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2014年5月 2日
憲法記念日会長声明
声明
1 我が国憲法は、前文に平和的生存権を定め、第9条に武力による威嚇・武力の行使の放棄、戦力の不保持及び交戦権の否認を規定し、恒久平和主義を宣明している。
また、憲法を最高法規として公務員に憲法尊重擁護義務を課し、政府を憲法の制約の下におく立憲主義をとることにより、個人の尊重と人権保障を図っている。
これら恒久平和主義と立憲主義は、憲法の基本原理である。
2 これまで政府は、一貫して、憲法の下における自衛権の行使は、我が国に対する急迫不正の侵害(武力行使)があり、これを排除するために他の手段がない場合に、必要最小限度の範囲のものに限って許容されるものであって、直接武力攻撃を受けていない場合に問題になる集団的自衛権の行使は、その範囲を超えるものとして憲法上許されないとの見解をとってきた。
ところが、政府は、閣議決定で従来の政府見解を変更(解釈改憲)し、集団的自衛権の行使を容認しようとしている。
3 このような憲法の基本原理に関わる事項を閣議決定で変更することは、政府を憲法の制約の下におく立憲主義に反し、近代憲法の存在意義を根本から否定するものである。
4 憲法の恒久平和主義の下では、安全保障は、軍事力の行使によるのではなく、平和的・国際的な施策等により実現さるべきであり、この原理こそが、戦争を排した我が国憲法の先駆的意義である。
集団的自衛権の行使容認は、恒久平和主義にも抵触するものである。
5 福岡県弁護士会は、政府が閣議決定でその憲法解釈を変更することによって集団的自衛権の行使を容認することに対し、立憲主義及び恒久平和主義に反するものとして、強く反対する。
憲法記念日にあたり、憲法の立憲主義と恒久平和主義の意義を確認する観点から、特に、以上のとおり声明を発表する。
2014年(平成26年)5月2日
福岡県弁護士会
会長 三浦 邦俊
2014年5月27日
法律によらず顔認証装置を使用しないよう求める声明
声明
当会の調査によれば、2013年(平成25年)12月に福岡県警察(以下「福岡県警」という。)に顔認証装置が導入され、すでに使用例も存在する。
顔認証装置とは、撮影された画像から人の顔の部分を抽出し、目・耳・鼻などの位置関係等を瞬時に数値化し(この数値化されたデータを「顔認証データ」と呼ぶ)、あらかじめデータベースに登録されている特定人物の顔認証データとの同一性を自動的に照合するものである。
福岡県警は、具体的な組織犯罪が生じた場合に、県警が自ら設置する防犯カメラの画像の他、民間のカメラの画像もその捜査のために収集する予定であると説明している。また、顔認証装置で検索・照合する対象となるデータベースに登録される人物については、組織犯罪を対象とすることからの限定があるという。
しかし、組織犯罪対策運営規程には、顔認証装置の使用について、使用できる場合としての対象犯罪や、検索・照合の対象となるデータベースに登録される者の属性を限定する明文規定も存在しない。
そもそも、警察は、捜査目的であっても、罪のない市民の行動に関する情報を無制限に収集したり、検索・照合の対象とする権限があるわけではない。
顔認証データは、おびただしい数の顔画像の中から瞬時に人物の同一性判定が可能であり、指紋よりもいっそう簡便に収集が可能な、高度な生体認証データである。したがって、本来、対象者の同意なしに取得することが許されないセンシティブ情報と捉えるべきである。
対象者の同意なく使用する以上、あらかじめどのような条件の下に収集、利用、保存が許されるのか、またどのようにして目的外利用を防ぐのかを厳格に定める法律なくして顔認証データを収集・利用・保存するべきではない。
画像を収集する場面で、以下の問題がある。
①福岡県警が自ら設置している中洲・博多地区、天神地区など県内132台の監視カメラで収集される画像については、当会が再三にわたり意見を表明しているところであるが、警察が犯罪多発地帯でないのに直接公共の場所に監視カメラを設置して罪のない市民を無差別録画することは本来許されない。
②コンビニエンスストアなどから限定なく任意捜査で画像を収集すると、撮影される画像の対象は市街地中心部から郊外に至るまでの極めて広範に及ぶ。
また、顔認証装置を使用し、検索・照合する場面で、以下の問題がある。
③検索・照合する対象となるデータベースの登録者について、限定する内部規定すら存在しないというのでは、目的外利用がなされないための歯止めは期待できない。むしろ、8000万人を超える運転免許証データがデータベースとして用いられる可能性もある。
④目的外利用がなされないための独自の物理的、技術的対策、内部及び第三者によるチェック体制も存在しない。
以上によれば、ひとたびある市民が福岡県警の対象とされた場合には、その行動が丸裸となり、そのプライバシー権を侵害するばかりか、街頭での署名活動、集会やデモ行進など、民主主義社会の基礎となる市民の表現の自由を萎縮させる危険が大きい。
どのような条件の下に収集、利用、保存が許されるのか、またどのようにして目的外利用を防ぐのかをまずもって厳格に定めるべきである。さらに、対象者の同意がなくとも顔認証装置の使用を認める法律が存在しない。このような現状においては、福岡県警は顔認証データを収集、利用、保存すべきではなく、顔認証装置を使用すべきではない。
2014年(平成26年)年5月27日
福岡県弁護士会会長 三 浦 邦 俊
2014年5月29日
集団的自衛権の行使を可能とする 内閣の憲法解釈変更に反対する決議
決議
福岡県弁護士会は、日本国憲法の拠って立つ恒久平和主義と立憲主義を堅持する立場から、内閣が従来積み重ねてきた集団的自衛権に関する憲法解釈を変更し、その行使を可能とすることに反対する。
2014年(平成26年)5月28日
福岡県弁護士会
【決議の理由】
第1 集団的自衛権を行使可能としようとする最近の動き
近時、憲法解釈の変更によって集団的自衛権の行使を可能としようとする動きが強まっている。
集団的自衛権とは、政府解釈によれば、「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利」である。
安倍晋三内閣総理大臣は、2014年(平成26年)1月24日、国会での施政方針演説で「集団的自衛権や集団安全保障などについては、『安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会』の報告を踏まえ、対応を検討してまいります。」と述べ、集団的自衛権の行使を可能とすべく憲法解釈を変更する姿勢を打ち出した。
また、安倍首相は、2月12日の衆議院予算委員会で、「最高の責任者は私です。政府の答弁に私が責任を持って、その上で選挙で国民から審判を受けるんです。」と答弁し、事後に国政選挙で審判を受けることから一内閣の責任で憲法解釈を変更することができるとの認識を示した。
さらに、安倍首相は、2月20日の衆議院予算委員会で、「基本的には閣議決定していくことになる。」、「閣議決定した内容を国会に示し、議論してもらう。」と答弁し、この答弁後に論調を変えはしたが、国会での議論を待たずに閣議決定で憲法解釈変更を行う考えを示した。
自由民主党の高村正彦副総裁は、1959年(昭和34年)12月16日の砂川事件最高裁大法廷判決を根拠に、「国の存立を全うするための必要最小限の集団的自衛権」に限定すれば、集団的自衛権の行使が憲法上許されるとの見解を示し、報道によれば、同党内でこの見解に対する支持が広がっている。
そして、安倍首相は、本年5月15日、「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」の報告書提出を受けた記者会見で、「限定的に集団的自衛権を行使することは許されるとの考え方」につきさらに研究を進める旨、「与党協議の結果に基づき、憲法解釈の変更が必要と判断されれば、この点を含めて改正すべき法制の基本的方向を」「閣議決定」する旨を述べ、集団的自衛権を行使可能とすべく閣議決定により憲法解釈を変更しようとする方針を鮮明にした。
第2 日本国憲法第9条の規定
日本国憲法は前文で「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」として平和的生存権を認め、第9条第1項で「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」と、同条第2項で「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」として戦力の不保持と交戦権の否認を定めている。
これは、第2次世界大戦において国内外に甚大な人権侵害を惹き起こしたことから、「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにする」との「決意」(憲法前文)に基づき、非軍事の徹底した恒久平和主義を掲げたものである。 憲法第9条は、制定以来、内外の政治状況との緊張関係にさらされつつも、「平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」(憲法前文)我が国が平和な国際関係を築くべき指針を示す憲法規範として、有効に機能してきた。自衛隊の諸活動に対する制約となり、海外における武力行使を禁止してきたのは、その機能、あるいはこれによる具体的成果である。
このような日本国憲法の平和主義は、世界平和のための先駆的意義を有するものとして、近時あらためて高く評価されており、例えば1999年(平成11年)のハーグ平和アピール世界市民会議で採択された「公正な世界秩序のための基本10原則」の第1には日本国憲法第9条が掲げられ、本年には第9条がノーベル平和賞の候補ともされている。
自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、他国への武力攻撃を実力をもって阻止する集団的自衛権は、憲法第9条が禁ずる武力の行使にあたり、非軍事の徹底した恒久平和主義に反するものであって、許されない。
第3 集団的自衛権に関する政府解釈
政府も、従来から一貫して、集団的自衛権の行使は憲法第9条により禁じられていると解釈している。
すなわち、まず、憲法第9条の下で自衛権の発動が許容されるのは、次の要件に該当する場合に限定されると解釈している(1969年(昭和44年)3月10日参議院予算委員会・高辻正己内閣法制局長官答弁、1972年(昭和47年)10月14日参議院決算委員会提出資料、1985年(昭和60年)9月27日政府答弁書)。
すなわち、①我が国に対する急迫不正の侵害(武力攻撃)が存在すること、②この攻撃を排除するため他の適当な手段がないこと、③自衛権行使の方法が必要最小限度の実力行使にとどまること、である。
そして、これを前提として、政府は、1981年(昭和56年)5月29日の政府答弁書において、集団的自衛権を「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもつて阻止する権利」と定義したうえで、「我が国が、国際法上、このような集団的自衛権を有していることは、主権国家である以上当然であるが、憲法第9条の下において許容されている自衛権の行使は、我が国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものであると解しており、集団的自衛権を行使することはその範囲を超えるものであつて、憲法上許されない」旨の見解を表明した。同答弁書では併せて、「なお、我が国は、自衛権の行使に当たっては我が国を防衛するため必要最小限度の実力を行使することを旨としているのであるから、集団的自衛権の行使が憲法上許されないことによって不利益が生じるというようなものではない。」とも述べられている。
したがって、外国が他国から武力攻撃を受けた場合に、自衛隊が集団的自衛権を行使してその武力攻撃を阻止することは、たとえ被攻撃国が日本と密接な関係にあっても、憲法に違反して許されない。これが政府の一貫した憲法解釈であり、これはその後長きにわたって維持されてきた。
加えて政府は、憲法解釈の変更による集団的自衛権行使の可否について、「集団的自衛権の行使を憲法上認めたいという考え方があり、それを明確にしたいということであれば、憲法改正という手段を当然とらざるを得ない」(1983年(昭和58年)2月22日衆議院予算委員会・角田禮次郎内閣法制局長官答弁)、「(政府の憲法解釈は)それぞれ論理的な追求の結果として示されてきたもの」であり、そのうえで「政府がその政策のために従来の憲法解釈を基本的に変更するということは、政府の憲法解釈の権威を著しく失墜させますし、ひいては内閣自体に対する国民の信頼を著しく損なうおそれもある、憲法を頂点とする法秩序の維持という観点から見ましても問題がある」(1996年(平成8年)2月27日衆議院予算委員会・大森政輔内閣法制局長官答弁)、「憲法は我が国の法秩序の根幹であり、特に憲法第9条については過去50年余にわたる国会での議論の積み重ねがあるので、その解釈の変更については十分に慎重でなければならない」(2001年(平成13年)5月8日の政府答弁書)と答弁するなど、一貫して否定的な姿勢を保っている。
第4 憲法解釈を変更して集団的自衛権を行使可能とすることに反対する
上記のとおり、集団的自衛権の行使は憲法第9条によって禁止されているのであり、政府解釈もそのとおりに堅持されてきた。
この行使を可能とすることは、憲法第9条に違反する。
それにもかかわらず集団的自衛権の行使を可能とすることは、政府解釈の変更によって実質的に憲法を改正したのと同様の効果を得ようとするものである。
憲法は、多数の民意によって成立した政府であっても権力を濫用して人権を侵害する危険があるという歴史的教訓に鑑み、権力を縛るために立憲主義の原理を採用しており、かかる考慮から憲法改正にも厳格な手続を定めている(憲法第96条、第97条、第98条等)。時の政府が自らの都合のよいように解釈を変更して憲法の規範内容を変更することは、このような立憲主義に反するものであり、決して許されない。このように、解釈変更により実質的に憲法を改正したのと同様の効果を得るのが解釈改憲であるが、解釈改憲という手法自体が立憲主義に反し許されないのである。
さらにまた、このような解釈の変更は、国務大臣の憲法尊重擁護義務(憲法99条)にも違反する。
憲法前文と第9条が規定している恒久平和主義は、基本的人権の尊重、三権分立と並ぶ憲法の基本原理である。基本原理についての解釈変更によりその規範内容を変更しようとするのは、立憲主義を踏みにじる暴挙であり、断じて許されない。
砂川事件最高裁大法廷判決についてみれば、同判決は、日米安保条約による駐留米軍の「戦力」(憲法第9条第2項)適合性と米軍駐留の司法審査適合性について判示したものであって集団的自衛権の許否が判断対象とされたものではなく、集団的自衛権を行使可能と解釈するために同判決を論拠となしうるとする見解には明らかに無理がある。「国の存立を全うするための必要最小限の集団的自衛権」に限定するとの論も、そもそも「国の存立を全うするために必要最小限」でなければ自衛権とは呼べないのであるから、何らの限定ともならない。集団的自衛権の行使は、従来の政府解釈のとおり、「我が国を防衛するため必要最小限度の範囲を超えるものであって、憲法上許されない」のであり、「必要最小限に限定」するのであれば、自ずと集団的自衛権の行使は許されないこととなるのである。
よって、当会は、憲法の基本原理としての恒久平和主義を尊重し、立憲主義を堅持する立場から、憲法第9条によって禁じられている集団的自衛権の行使を内閣が従来の解釈を変更して可能とすることに断固として反対するものである。
以上
司法修習費用の給費制復活を強く求める決議
決議
福岡県弁護士会は、政府、国会及び最高裁判所に対し、司法修習費用の貸与制を即時廃止し、給費制を復活させることと、新第65期、第66期、第67期の各司法修習生に対して遡及的に適切な救済措置をとることを強く求める。
当会は、日本弁護士連合会、全国の弁護士会並びに市民及び各種団体と連携し、今後とも給費制を復活させる活動を強力に推進していく。
2014年(平成26年)5月28日
福岡県弁護士会
提 案 理 由
1 貸与制の問題点
(1)司法修習生の経済的苦境
2012年(平成24年)に日本弁護士連合会が第65期司法修習生(以下、司法修習生を「修習生」という。)を対象として実施したアンケートでは、28.2%の修習生が司法修習を辞退することを考えたと回答し、その理由に貸与制をあげた者が86.1%にも上った。翌年実施の第66期修習生に対する修習実態アンケートにおいても18.9%もの修習生が司法修習を辞退しようと考えたことがあると回答しており、その理由としては、貸与制に移行したことによる経済的な不安が最も多かった(68.9%)。
(2)法科大学院志願者及び法学部進学者の激減
法科大学院で学ぶにも学費・生活費等の負担があり、司法試験を突破してからも、経済的な不安がつきまとうような状況では、もはや有為な人材は法曹を目指さないということになりかねず、また法曹を目指す者としても富裕層に偏るのではないかとも危惧される。
実際、2004年度(平成16年度)に7万人を超えていた法科大学院の志願者数は、2013年(平成25年)には13,924人にまで激減した(なお、同年度の法科大学院適性試験志願者数は、わずか5,377人に過ぎない)。入学定員を割った法科大学院は9割を超え、学生の法科大学院離れの傾向は顕著である。さらには、この数年、法学部への進学者自体も大幅に減少している実情がある。
2013年(平成25年)12月の一括登録時点における弁護士未登録者数は584人と過去最多を記録した。かかる深刻な就職難とあいまって、過重な経済的負担が実務法曹としての将来、そして進路を考える若者らに大きな影を落としている。
このままでは、有為な人材の確保を困難にし、将来の司法ひいては法の支配を著しく弱体化させることになりかねない。
(3)「国民の社会生活上の医師」としての法曹・弁護士
終戦直後の国家財政が破たんした状況下で、昭和22年、統一修習制度・給費制がスタートし、今また国家の財政状況が逼迫する中、後述のように多くの市民が法曹養成を国の責務と考え給費の実現を求めている。それは、市民が法曹、なかんずく弁護士に「社会生活上の医師」としての役割を期待しているからに他ならない。
当番弁護士制度の構築、市民相談の要となる法律相談センター事業の拡充、過疎地における公設事務所の開設など、弁護士・弁護士会による各種の公益活動は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士の公共性・公益性を具体的な形として結実させたものである。また、個々の弁護士は、使命感をもって、人権救済、虐待防止、消費者保護、犯罪被害者支援等の活動に無償で取り組んでいる。
法曹志望者の激減は、これら役割を担う人材の確保を困難にし、市民の権利擁護を弱体化させることにつながっていく。
2 法曹養成制度検討会議の取りまとめや閣僚会議決定の問題
このような状況の中、2013年(平成25年)6月の法曹養成制度検討会議の取りまとめを受けた「法曹養成制度改革の推進について」(同年7月16日法曹養成制度関係閣僚会議決定)を踏まえ、同年9月17日、法曹養成制度の改革を担うため、法曹養成制度改革推進会議(以下「推進会議」という。)が設置され、新たな検討体制がスタートした。
ところが、修習生に対する経済的支援のあり方に関する法曹養成制度検討会議の取りまとめや閣僚会議決定は、あくまでも貸与制を前提としており、かつ、「必要があれば」修習生の地位及びこれに関連する措置の在り方や兼業許可基準のさらなる緩和の要否について検討することが考えられるとするにとどまっている。
法的知識のみならず、倫理観や高度の職業意識を1年間の修習期間で涵養するためには、修習に専念しなければならず、修習生には修習専念義務が課されている。しかしながら、「給費が出せないから休日等のアルバイトで補うように」との兼業許可の緩和は、修習の充実に逆行するものであり、本末転倒というべきである。
なお、司法試験合格者の数を3,000人に到達するまで増やすとする閣議決定は撤廃され、今後合格者数は抑制される状況にあり、給費制を復活しても、修習生の手当予算は、合格者を3,000人とした場合に比して大幅に少ない額で済むことが容易に予測される。
給費制廃止の最大の根拠であった大幅な予算増大という立法事実も既に消滅に向かっている。
3 給費復活を求める市民の声
貸与制の下での修習が3期目に入った現在、給費制廃止による弊害の深刻さが次第に明らかとなり、弊害を憂慮する声もあがるようになってきた。2013年(平成25年)4月から5月にかけて募集された、給費制の復活を含めた修習生に対する経済的支援の必要性に関するパブリックコメントでは、全3,119通のうち法曹養成課程における経済的支援に関するものが2,421通にのぼり、そのほとんどが給費制を復活させるべきというものであった。さらには、2014年(平成26年)2月28日時点で、日本医師会、日本公認会計士協会、日本青年会議所など1,442の各種団体から、修習生に対する給費の実現と充実した司法修習を求める旨の署名が寄せられた。このように、多くの市民が、国が責任をもって社会のインフラたる法曹を養成することを求めている。国はこの要請に真摯に応えなければならない。
4 福岡県弁護士会の取り組みと使命
福岡県弁護士会(以下「当会」という。)は、司法修習における給費制の役割の重要性とその廃止に伴う弊害の大きさに鑑み、2010年(平成22年)5月25日付「司法修習生の修習資金給費制の維持を求める緊急決議」をはじめとして、給費制の維持・復活を強く求め続けてきた。
また、当会では、給費制の維持・復活についてのシンポジウムや市民集会の開催、請願署名活動などを実施し、多くの市民の方々に給費制廃止のもたらす影響、弊害について考えていただくべく精力的な活動を行ってきた。特に2010年(平成22年)の請願署名は、当会集約分だけで8万筆を遙かに超え、給費制廃止一年延期の原動力となったと確信している。さらには、修習生との座談会やアンケートなどを通じて修習生の生の声を拾うとともに、議員要請等を通じてその声を伝えてきた。これらの甲斐あって、立法関係者の理解と支援の輪は確実に広がっている。
給費制復活の声を、改めて政府、国会及び最高裁判所に届けることは、当会の使命である。
よって、冒頭のとおり決議する。