福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2013年9月12日
死刑執行に関する会長声明
声明
死刑執行に関する会長声明
1 本日,東京拘置所において,1名の死刑確定者に対して死刑が執行された。
2 我が国では,過去において,4つの死刑確定事件(いわゆる免田事件,財田川事件,松山事件,島田事件)について再審無罪が確定している。また,2010年(平成22年)3月には足利事件について,2011年(平成23年)5月には布川事件について,いずれも無期懲役刑が確定した受刑者に対する再審無罪判決が言い渡されている。これらの過去の実例が示すとおり,死刑判決を含む重大事件において誤判の可能性が存在することは客観的な事実である。
3 しかも,我が国の死刑確定者は,国際人権(自由権)規約,国連決議に違反した状態におかれているというべきであり,特に,過酷な面会・通信の制限は,死刑確定者の再審請求,恩赦出願などの権利行使にとって大きな妨げとなっている。この間,2007年(平成19年),刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律が施行されたが,未だに死刑確定者と再審弁護人との接見に施設職員の立ち会いが付されるなど,死刑確定者の権利行使が十分に保障されているとは言い難く,このような状況の下で死刑が執行されることには大きな問題があるといわなければならない。
4 日本弁護士連合会は,本年(平成25年)2月12日,谷垣法務大臣に対し,「死刑制度の廃止について全社会的議論を開始し,死刑の執行を停止するとともに,死刑えん罪事件を未然に防ぐ措置を直ちに講じることを求める要望書」を提出して,死刑制度に関する当面の検討課題について国民的議論を行うための有識者会議を設置し,死刑制度とその運用に関する情報を広く公開し,死刑制度に関する世界の情勢について調査のうえ,調査結果と議論に基づき,今後の死刑制度の在り方について結論を出すこと,そのような議論が尽くされるまでの間,死刑の執行を停止することを改めて求めたところであった。
さらに、当会は、本年4月26日にも、死刑確定者に対する死刑執行について抗議し、死刑執行の停止を要請する会長声明を提出したのであり、この要請を無視した今回の執行は容認できない。
5 当会としては改めて政府に対し強く抗議の意思を表明するとともに,今後,死刑制度の存廃を含む抜本的な検討がなされ,それに基づいた施策が実施されるまで,一切の死刑執行を停止することを強く要請するものである。
2013年(平成25年)9月12日
福岡県弁護士会会長 橋 本 千 尋
2013年9月17日
新たな検討体制の発足に際して給費制の復活を求める会長声明
声明
1 本日、政府は内閣府に法曹養成制度の関係閣僚で構成する「法曹養成制度改革推進会議」を設置し、その下に置いた「法曹養成制度改革顧問会議」および「法曹養成制度改革推進室」ともども、先に公表した「法曹養成制度改革の推進について」(2013年(平成25年)7月16日付、法曹養成制度関係閣僚会議決定。以下「本決定」という。)による改革方針、改革課題についての検討を始めることとした。
2 これら課題のうち、本決定が、司法修習生に対する経済的支援策の在り方について、第67期の司法修習生(本年11月修習開始)から旅費法に準じて実務修習地への移転料の支給をすべきこと、集合修習期間中に司法研修所内の寮への入寮を保障すべきことを最高裁判所に求めたことは、法改正を必要としない範囲でさしあたり可能な一定の経済的配慮を示したものとして、その限りでは評価できる。しかし、これらの経済的支援は、あくまで現行法下での運用改善による応急措置的な、極めて限定的な方策に過ぎず、根本的には法改正による給費制の復活が不可欠である。
3 その理由として、現在の司法修習における貸与制は、実質的には司法修習生を何らの生活保障もないままに、1年間の実務修習に拘束するものとなっている。この多額の経済的負担は、法科大学院制度下での多大な時間的・経済的負担や、法曹人口の急激な増加による就職難がもたらす問題等と併せて、法曹志願者の激減をもたらす大きな要因となっている。そして、法曹志願者の激減は、プロセスとしての法曹養成を企図した新しい法曹養成制度の危機的状況を招いている。そのため、給費制の復活を含め、司法修習生に対する十分な経済的支援策を講じることは、質・量ともに豊かな法曹を養成するための絶対条件である。この点、本決定は兼業許可基準の緩和も述べるが、これは経済的支援策とは無関係であり、これを経済的支援策として位置づけるのは本末転倒である。また、この考え方は、フルタイムで修習に従事する司法修習生に対して安息の時間に労働を強いるものとなりかねず、極めて不合理である。さらに、司法修習の充実を目指すこの度の法曹養成制度改革の方向性にも逆行するものである。
4 そもそも、司法修習制度は、わが国の三権分立を支える司法を担い、基本的人権の擁護を使命とする法曹を育成するために不可欠、枢要なものであり、法曹の養成は国の責務であることを忘れてはならない。
法曹養成制度検討会議(以下「検討会議」という。)は、本決定のもととなった検討会議の取りまとめ(以下「取りまとめ」という。)に先立ち、本年4月から5月にかけて「中間的取りまとめ」に対するパブリック・コメントを募集した。その結果、全3119通の意見のうち、法曹養成課程における経済的支援に関する意見が2421通にものぼり、そのほとんどが給費制を復活させるべきという内容であった。これにより、この問題が法曹志願者を含む国民にとって重要な関心事であり、給費制が広く支持されていることが改めて明らかとなった。
そこで、検討会議では、この点に加え、かねて委員からも給費制を支持する意見や貸与制がもたらしている問題状況を懸念する意見が少なくなかったこと等を踏まえ、取りまとめでの経済的支援策はとりあえずの最低限のものにとどまり、法改正を伴う更なる経済的支援策は今後の検討体制において引き続き検討されるべきとの共通認識に到達していたものである。
5 よって、当会は、政府の新たな「法曹養成制度改革推進会議」では、以上の点を十分に踏まえ、司法修習の充実方策の一環として、給費制の復活を含む司法修習生に対する更なる経済的支援策を充実させるべく、所要の措置を早急に講ずるよう強く要望する。
2013年(平成25年) 9月 17日
福岡県弁護士会 会長 橋 本 千 尋
2013年9月20日
東京電力福島第一原子力発電所事故による損害賠償請求権の時効期間を延長する特別措置法の制定を求める会長声明
声明
1.原子力発電所事故とその被害者及び被害の状況
2011年(平成23年)3月11日に発生した東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故(以下「本件事故」という。)から2年6ヶ月が経過した。
本件事故は、その原因究明はもとより汚染水の流出など事故そのものの収束にも見通しが立っていない状況である。被害者についても、その人数やそれぞれの被害についてその全容は明らかでなく、その深刻化や長期化の虞れが濃厚な事態となっている。
2.損害賠償請求権と消滅時効
このような状況にあるにもかかわらず、本件事故に関する損害賠償請求権は、民法第724条前段の定める「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間」の消滅時効の主張により、その実効性を喪失する虞れが大である。
信義則の観点から消滅時効の主張は許されないとの法的見解も見受けられるが、現状では現行民法の適用を排除できる明確な根拠は見出しがたく、仮に、信義則上、時効の利益を享受する援用権の行使が制限されるとしても、訴訟の場での争点となるものであり、立証責任も被害者に負担させられる可能性が高く、法的紛争解決の手法上は、信義則を中心とした法理論は実際の被害者救済の実効性に乏しい。
3.特例法の内容と被害者救済の実効性の欠如
この点に関し、本年6月、「東日本大震災に係る原子力損害賠償紛争についての原子力紛争審査会による和解仲介手続の利用に係る時効の中断に関する法律」(以下「特例法」という。)が成立した。
この特例法の趣旨は、紛争解決センターへの和解仲介手続が打切りとなった場合に手続打切りの通知を受けた日から1ヵ月以内に裁判所に訴訟を提起すれば、和解仲介申立時に訴えを提起したものとみなすことで時効中断を認めるものに過ぎない。
そして、文部科学省によると、和解仲介手続申立は、本年8月16日現在、約7400件(成立件数約4900件)だけで、想定される被害者の数に比してごく一部にとどまっている。しかも、時効中断は、和解仲介申立をした損害項目に限られているため、申立てていなかった損害項目には時効中断の効力は及ばない。また、手続きの打切りの通知を受けた日から1ヵ月以内に訴えを提起しなければならないという点も、被害者に対して被害回復に困難を強いることになる。
したがって、特例法は被害者救済の観点からは極めて不十分なものと言わざるを得ない。
4.日本弁護士連合会の意見書
以上の点を踏まえ、日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)は、本年7月18日、「東京電力福島第一原子力発電所事故による損害賠償請求権の時効期間を延長する特別措置法の制定を求める意見書」を公表した。
本件事故による損害賠償請求権への現行民法の消滅時効の適用は不当として、特別措置法の制定を求めるものであり、具体的には「権利行使が可能となったときから10年間」の時効期間とすることを基本とし、5年以内の時効期間の更なる延長を含めた見直しをおこなうことや、事故から一定期間が経過した後に顕在化する損害についてはその損害が明らかになった時を時効期間の起算点とするという点を付加するものである。
5.当会の意見
当会としても、本件事故に関する損害賠償請求権が3年間の消滅時効に服するとされることは、被害者の救済を放擲するものであって正義に反し絶対に容認できない。
被害者の現状を考えると、日弁連の意見書のように時効期間を率先して定める意見を述べることにも躊躇を覚えるが、単に時効制度の適用を排除することのみを求めたり、内容を示さずに救済立法の制定を求める主張をすることは、法律家団体としての責任を全うしているとは思われない。
日弁連の意見書もこのような苦渋の選択として具体的な法制度を示しているものと考えられるので、当会としては、現時点では、日弁連の意見書に添った特別立法を求めることに賛同し、その旨、声明するものである。
2013年(平成25年)9月19日
福岡県弁護士会 会長 橋 本 千 尋