福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2013年5月10日
「共通番号法」制定に反対する声明
声明
「共通番号法」制定に反対する声明
今国会において、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」案(いわゆる「共通番号法」案。以下、「本法案」という。)が提出され、昨日衆議院で可決された。
本法案は、全ての国民と外国人住民に対して、社会保障と税の分野で共通に利用する識別番号を付けて、これらの分野の個人データ(納税情報、健康保険情報、年金情報等)を、情報提供ネットワークシステムを通じて確実に名寄せ・統合(データマッチング)することを可能にする制度(社会保障・税共通番号制度)を創設しようとするものである。
共通番号が用いられる行政分野(年金、労働保険、健康保険、生活保護、介護保険、税務等)の情報は、私生活全般に及び、その中には、障害、病気、貧困、無資力などの極めてセンシティブな情報も含まれている。
共通番号制度により、これらの情報が名寄せ・統合されると、収集・蓄積された個人の情報が次々と番号で特定され、連結されていくことで、その人物の行動全般を把握し、分析することが可能となり、プライバシー権を侵害するもので、国家による国民監視の道具として利用されるおそれがある。
昨年廃案となった同名の旧法案に対し、2012年(平成24年)8月7日に当会は反対する会長声明を表明したが、上記問題点は、本法案にそのまま引き継がれている。
本法案は、旧法案における危険性をさらに増大させており、到底容認できない。
すなわち、「番号の利用に関する施策の推進」を基本理念として掲げ(3条2項ないし4項)、法律の施行後3年を目途として番号の利用拡大を検討する(附則6条1項)など、官民を通じて、社会保障や税にとどまらない番号の利用拡大を強く指向しており、プライバシー侵害の危険は著しく大きい。個人の収入・資産情報が漏えいしたり、アメリカで1年あたり1兆円以上といわれるなりすまし犯罪による財産的損害が我が国でも増大するおそれも大きい。
そもそも共通番号制度は、手段にすぎず、実体法である税法や社会福祉立法がない限り、公平な税制や充実した福祉が実現しないことは以前から政府も認めてきた。しかも、旧法案で採用するとされていた給付付き税額控除制度は、現政権は採用しない方針であり、共通番号の必要性はますます乏しくなっている。
本法案は、立法目的として、法1条で、行政効率化や利便性の向上を掲げながら、2000億円もの導入コストによって得られる効果について、何らの説明も行っていない。住基ネット導入に際しては、試算が示されたが実現せず、巨額な税金の無駄遣いに終わったばかりであるにもかかわらず、このまま導入を急ぐ必要性は全く示されていない。
従って、当会は、従前から表明しているとおり、国家による国民監視のシステムにつながる本法案に反対し、参議院において否決され、廃案とされることを求める。
2013年(平成25年)5月10日
福岡県弁護士会会長 橋 本 千 尋
2013年5月27日
会長日記
会長日記
会長事始め
平成25年度福岡県弁護士会 会 長 橋 本 千 尋(36期)
■就任のご挨拶のための訪問
福岡県弁護士会の会長以下の役員は、関係各所に訪問して就任のご挨拶をしています。任期は1年なので、毎年、このような活動を繰り返していることになります。
訪問先の数は、各年度の会長の方針やその時点における弁護士会の抱えている課題によって異なりますが、最低でも100カ所以上のところを訪れます。
訪問させていただく先は、裁判所・検察庁などの法曹関係機関はもとよりですが、国の行政機関、自治体とその関係機関、商工会議所などの日頃から連携している各種民間団体、報道機関、政党、領事館など様々です。
■訪問するにあたっての方針
弁護士会としては、単なる儀礼的な挨拶ということではなくて、一定の獲得目標のようなものを持って臨みます。
法曹関係機関については、これから1年間の任期中の様々な折衝や協働に備えての事前のご挨拶という面が大きいと考えていますが、当然ながら今年は当会の不祥事を踏まえたお詫びや対策の説明もさせていただき、それに対する厳しいご指摘等もいただきました。
それ以外の訪問先の場合は多種多様ですが、そのうちの幾つかについて報告させていただき、それによって当会の活動の一端のご紹介とさせていただきます。
■「行政連携のお品書き」
自治体につきましては、福岡県はもとより、福岡市、北九州市をはじめとした県内の主要な市のほとんどを訪問させていただきました。そして、日程調整のつかなかったわずかな例外を除いては、首長ご本人との面談の時間をとっていただきました。
その際に所謂トップセールスという形で、行政機関と弁護士会の活動の連携の強化について協議させていただきました。「行政連携のお品書き」というリーフレットを説明に使いましたが、これは弁護士会が行っている法教育、中小企業支援、DV問題、高齢者・障がい者問題、児童虐待などなど、既に行政機関と連携して活動している分野について、連携実績のある自治体名を挙げながら分野別に分類し、且つ、網羅したものです。自治体の方々からは、どのようなことを弁護士会に依頼できるのかとか実績や連絡先などの情報もまとめられていて大変わかりやすいと好評でした。
実は、このようなスタイルのリーフレットを発案したのは大阪弁護士会であり、当会でこれを作成したのは前年度の古賀和孝会長です。大阪弁護士会の先見の明と古賀前会長のご配慮に敬意を表する次第です。
■任期付き公務員
今年の自治体に対するトップセールスはもう一つありまして、任期付き公務員についての説明もさせていただきました。任期付き公務員というのは、現役の弁護士が弁護士資格を持ったまま、一定の期間、自治体の公務員になるという制度です。既に、福岡市と古賀市で福岡県弁護士会の会員が自治体職員として働いています。仕事の内容は自治体によって様々で、福岡市の場合は児童虐待などに対応する「こども緊急支援課」に所属し弁護士としての知識や経験を生かして救済活動にあたっています。
今年の2月に任期付き公務員の普及について、日本弁護士連合会主催のシンポジウムが福岡市で開催されましたが、福岡県内はもとより九州各県から25にも及ぶ自治体が参加され、この問題に対する関心の高さがうかがわれました。
そこで、就任挨拶の際にあらためて制度の説明やシンポジウムで語られた実際の任期付き公務員である弁護士の活動ぶりなどをお伝えした次第です。
■法曹養成問題
適切な司法サービスを国民に提供するために、法曹になるための教育のあり方はどのようなものが適切かとか、法曹全体の人数を念頭にして資格を得るための司法試験合格者はどのくらいの人数が適切かといった事柄を扱うのが法曹養成問題です。
政府の法曹養成制度検討会議がこの問題を協議しており、その提言のとりまとめに向けての作業が進められています。
マスコミでも報道されていますが、2002年に閣議決定された政府の法曹養成問題に関する計画は、現在までの実施過程でいろいろと問題が発生しました。例えば、司法修習を終了して法曹資格を得た段階でそれまでの学費や生活費のため多額の借金を負う人が多いこと。裁判官、検察官が増えず弁護士だけが急増したために弁護士の就職難が生じていること。こうした現状から、法曹教育を担う法科大学院の志望者、ひいては大学の法学部の志望者が減っていること、などです。
少しでも現状を知っていただくために、問題点や実情などのご説明をしたのですが、多くの訪問先の方々が関心を持っておられました。弁護士会の役員が尋ねてきたからということもあるのでしょうが、報道機関や政党の方々はもとより、自治体の方々、民間団体の方々でもこの話題を先方から切り出されることがかなりありました。
これから制度設計の本格的見直しが始められると思われますので、この紙面でもまた取り上げたいと思っています。
■「会長」になっていく場
このようにして県内の東西南北の100箇所以上を訪問し、各機関や団体のトップの方々と面談し、幾つかのテーマで弁護士会の活動をご説明したり、意見交換させていただきましたが、これが会長となっての最初の大仕事でした。
かなり体力もいりますし、神経も使いますが、得るところは絶大です。県内各所を自分の足で回り福岡県全体の広さや各地の地域性を肌で感じることができます。各界のトップの方々とお話しすることにより、違った角度からの様々な考え方を拝聴し鋭い視点を感受して大いに啓発されます。
就任時の挨拶のための訪問がいつの時代から始まった作法なのかはわかりませんが、会長としての通過儀礼、一介の弁護士が「会長」になっていく場なのだと痛感した次第です。