福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2013年2月21日
死刑執行に関する会長声明
声明
死刑執行に関する会長声明
1 本日,東京,名古屋及び大阪の各拘置所において,それぞれ1名の死刑確定者に対する死刑が執行された。
自民党政権の復活後初めて,かつ,3名もの死刑確定者に対する執行という極めて遺憾な事態である。
2 我が国では,過去,4つの死刑確定事件(いわゆる免田事件,財田川事件,松山事件,島田事件)について再審無罪が確定している。また,2010年(平成22年)3月には足利事件について,2011年(平成23年)5月には布川事件について,いずれも無期懲役刑が確定した受刑者に対する再審無罪判決が言い渡されている。これらの実例が示すとおり,死刑判決を含む重大事件にも誤判の可能性が存在することは客観的な事実である。
3 日本弁護士連合会は,本年2月12日,谷垣法務大臣に対し,「死刑制度の廃止について全社会的議論を開始し,死刑の執行を停止するとともに,死刑えん罪事件を未然に防ぐ措置を緊急に講じることを求める要望書」を提出して,死刑制度に関する当面の検討課題について国民的議論を行うための有識者会議を設置し,死刑制度とその運用に関する情報を広く公開し,死刑制度に関する世界の情勢について調査のうえ,調査結果と議論に基づき,今後の死刑制度の在り方について結論を出すこと,そのような議論が尽くされるまでの間,すべての死刑の執行を停止すること等を求めていた。その直後,この要請を無視してなされた死刑執行は,到底容認することができない。
4 死刑の廃止は国際的な趨勢であり,昨年12月20日には,国連総会において,全ての死刑存続国に対し,死刑廃止を視野に執行を停止するよう求める決議が,過去最多の111か国の賛成多数で採択された。こうした状況において,死刑制度を存置し,かつ死刑の執行を繰り返す日本の姿勢は際立っており,日本政府は,国連関係機関からも繰り返し,死刑の執行を停止し,死刑制度の廃止に向けた措置をとるよう勧告を受けてきた。昨年10月31日に実施された国連人権理事会作業部会による日本の人権状況に対する第2回目の普遍的定期審査(UPR)においても,24カ国もの国が,日本の死刑制度及びその運用の変更を求めて勧告を行っており,これは,日本が抱える最大の人権問題の一つが,死刑であることを顕著に示している。
しかも,今回執行された3名のうち,2名は,自ら控訴を取り下げたことにより死刑が確定しており,国連条約期間等から繰り返し求められている必要的上訴の要請を充たしていない。また,他の1名は,第一審の無期懲役刑判決が検察官の控訴によって覆されており,審理に携わった職業裁判官の間でも量刑判断が分かれた事案である。谷垣法務大臣は,死刑制度の運用に当たっては,「十分慎重に考える」旨表明してきたが,就任してから僅か2か月足らずで,はたして真に慎重な検討がなされたか否か,大いに疑問である。
5 当会は,改めて政府に対し強く抗議の意思を表明するとともに,今後,死刑制度の存廃を含む抜本的な検討がなされ,それに基づいた施策が実施されるまで,一切の死刑執行を停止することを強く要請するものである。
2013年(平成25年)2月21日
福岡県弁護士会会長 古 賀 和 孝